No.124526

身も心も狼に 第14話:再会

MiTiさん

試験の内一つが終わった!
てことで、投稿するゼイ!

今回とうとう…

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2010-02-15 01:34:32 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:3424   閲覧ユーザー数:3175

誰もいない木々に囲まれた場所、

 

日が昇っているときならば、時々子供達が遊んだり、

掛けにより適度な涼しさを感じさせる、

少々人目につかない空間。

夜である今は人の気配が殆ど感じられない空間。

 

そこに風が吹く。

 

一つの方向に流れるように吹くのではなく、

その場を中心に広がるように、不自然に吹く風。

始めは緩やかだった風は、やがて強風へと変わる。

 

そして…血飛沫と共に何かを噴き出して、途端治まった。

 

噴き出された何かは、血の赤で身体を染め、

血の付いていない箇所は、月光を受け白銀に輝いている。

 

噴き出されたのは一匹の巨体の狼。

失敗作との戦闘で負傷し、不安定になった魔界の門に引きずり込まれて消えたルビナスだ。

 

 

「さてと…楓が心配する前に、早く帰らないとな」

 

独り言を呟きながら、コンビニの袋を下げた青年が小走りで駆ける。

 

街灯の光を浴びながら道路を駆ける彼は、

やがて公園の前を通ろうとし、ふと足を止める。

 

そこは、青年の住む家の近所にある、二つある公園の内の大きな方。

中央には噴水があり、その周囲を芝と木で囲んでいる。

 

「…今頃どうしてるかな」

 

少し昔、再会を約束して分かれた家族に想いを馳せる。

 

入り口から暫く公園を眺め、再び走り出そうとしたその時、

突風が吹き付けた。

 

「ぅお!…なんだ、今の風?」

 

突風は一瞬だったが、それと共に運ばれたものを青年は感じる。

 

「この匂い…まさか…」

 

それは、ある意味嗅ぎ慣れてしまった匂い。

それを、血の匂いを感じた青年は公園に足を進める。

 

 

緩やかに吹く風がルビナスの身体を撫でる。

風の音を、草木の香りを、傷口に当たる空気によってもたらされる痛みから、

ルビナスは意識を取り戻す。

 

重たい瞼を持ち上げ、ぼんやりと霞む景色から自分の状況を分析する。

視界に映るのは草・木・葉・そして木々の隙間から見える夜空。

 

力が入らず首を動かせなかったので、横たわる状態で視線を動かしたことで、

これだけのことが分った。

 

自分は門に引き込まれ、無事とはいえないが、死なずに出られた。

人間界の門ではなかったが、どこかの森に出ることが出来た。

 

では、自分は何処に出たのか?

少なくとも魔界で住んでいた村の近くの森でも、

研究所の近くの森で無いことは確かだ。

夜空が見えることを考えると、周囲の木々は、森の半分以下の背丈だろう。

 

だが…なんとなくではあるが、自分はこの場所を知っている。

 

それ程遠くない昔一度来たことがあるような…

 

そこまで考えたとき、ルビナスは自分に近付く何者かの気配を感じ取った。

 

 

「ますます強くなる…やっぱり何かあったのか?」

 

血の匂いを乗せた突風が吹いてきた方向に走ると、

だんだんと、その匂いは濃くなっていく。

 

風が止んでいるにも拘らず、むしろその匂いが濃くなっているのは、

青年が近付く場所で軽いとは言えない傷を負った何かがいると言うこと。

 

公園を駆け抜け、噴水の脇を通り過ぎ、

木が密集する場所に差し掛かり、青年は木々を掻き分けながら進む。

 

そして、少し開けた場所にたどり着き、そこにいたのは、

全身を血の赤で染めた、人が乗せられそうなほどの巨体の狼だった。

 

自分の知識には無い、と言うより信じられないほどの巨体に、

一瞬驚くも不思議と恐怖感は沸かなかった。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

恐れることなく近付き、相手が動物では通じないかもしれないが、それでも問いかける。

 

 

自分に近付いてきたのは、恐らく一人の男。

 

未だ意識が朦朧としているので、何かを喋っているようだが、

何を言っているのか分らない。

 

力を失っている所為か、表層意識を読む魔法も働いていない。

 

目の前にいるのが誰かを知ろうとするが、

男は身体のあちこちを触って来、傷口に触れるたびに痛みが走り、集中できない。

 

やがて身体の一部、傷を負っていない箇所を探り当て、

そこを持ち上げられた。

 

そして、抱えようとしているのか、身体を近づけてくる。

 

目の前の男は、少なくともハリーやおじ様ではない。

二人とも治癒魔法は使えるので、身内が怪我をしていたら、

直ぐに駆けつけ治癒魔法をかけてる。

 

治癒魔法を賭けることも無く、傷つく身体を探り、

そしてどこかに連れ去ろうとする。

 

考えられるのは…研究員。

 

「(…アンタ達に…捕まるなんて…ない!)」

 

男を敵と認識し、力を振り絞って近付いた身体に、

男の腕に噛み付く。

 

「っ!?がぁあぁああ!!」

 

出せる力の全てを顎に込める。

一度ここまで来たら簡単に抜けることは無い。

このまま腕を喰いちぎらんばかりの力で噛み続ける。

 

男は身体を話そうと押したり、口を開かせようとしたりしたが、

やがてその抵抗も弱くなってくる。

 

「(アンタ達の…好きには…させ………え?)」

 

やがて、抵抗がなくなったかと思うと、

ルビナスは、頭から背にかけて撫でられ、何かを囁かれていた。

 

 

「っ!?がぁあぁああ!!」

 

傷を見、このままではまずいので獣医に連れて行こうとし、

身体の傷の無い箇所を探り、そこを重点に抱えようとしたところで、

狼が動いたかと思ったら、腕を噛まれた。

 

敵と認識されたらしく、他の部位がだらりとしている所を見るに、

持てる力の全てを顎に込めて噛み付いてくる。

 

押し飛ばそうとしたり、顎を開かせようとするもビクともしない。

 

 

噛まれている腕の感覚が抜けてくる中、青年はこの状況に既視感を覚える。

 

「(…なんか…前にもこんなことが、あったな…)」

 

思い出すのは一匹の小狼。

 

見知らぬ場所で見知らぬ人物、自分達を恐れていたが、

やがて和解することが出来、家族の一員となった。

 

いつも傍にいて、両親と幼馴染の母親を亡くした時、辛い時を共に乗り越えた。

 

そして、再会を約束して別れた家族。

 

過去を思い出した青年は、そのときと同じことを、

自分は敵ではないことを伝え、安心させる為に、

未だに力を緩めず噛み付く狼にする。

頭から背にかけて撫で、口の傍にある耳に囁きかける。

 

「大丈夫だ…大丈夫だから…」

 

そして、なんとなくではあるが、目の前にいるのが彼女であると考え、

撫でるうちにふと目に入った、赤く染まる身体の中、

僅かに残った血が付いていない箇所が、月光を浴びて白銀に輝くのを見て確信する。

 

「大丈夫だ…ルビナス…」

 

 

「大丈夫だ…ルビナス…」

 

名前を呼ばれた。それを聞いて、思い出がフラッシュバックしてくる。

 

幼い時、森で遊んでいて親の許に返ろうとしたとき光に包まれ、

目を覚ますと見知らぬ場所にいた。

 

何もかもがわからずにいたところを、一人の少年が助けてくれた。

 

全てを恐れていた自分を、少年は優しく包み込んでくれた。

温もりをくれ安心させてくれた。

 

やがて家族となり、いつも傍にいて過ごした。

 

だが、その新しい家族も失ってしまった。

 

その後、辛い時を、二人より沿うことで乗り越えていった。

 

暫くし、二人は、ルビナスは出会った。

故郷の森の香りを漂わせる少女に。

 

故郷の森にいけるかもしれないと言う考えと、

稟の傍を離れたくないと言う考え、

二つのことに悩む中、言葉が通じなくても意志を読み取った稟が告げる。

 

行っておいで、と…

 

約束した。必ず帰って来て、と…

 

 

そして今、自分に温もりを与え、優しく包み込んでくれる青年。

身体を撫でる手は、最後に抱きしめあった頃より大きくなっていた。

囁く声は、最後に約束を交わしたあのときよりも大人び、それでいて更に優しいものになっていた。

 

強く大きく逞しく、それでいて暖かく優しい感覚に、

ルビナスは心地よい脱力感を感じる。

 

顎から噛み付く力も抜け、何も心配することは無いのだと、

彼になら自分の全てをゆだねても良いのだとルビナスは意識を手放そうとする。

 

薄れ行く意識の中、ルビナスは幻聴とも思えるほど小さな声で囁く。

 

「ただいま…稟…」

 

その呟きを最後に、ルビナスは安心した穏かな笑みを浮かべながら、意識を手放した。

 

 

「いっつつ…ふぅ、やっと放してくれたか…」

 

軽く言うが青年の、稟の怪我は小さいものではなかった。

 

噛まれた腕は血を流しすぎた上、全力ではないとはいえ鋭い牙と強い顎で挟まれ、

まともに動かせずにいる。牙にいたっては骨にまで届いていただろう。

 

「…早く、獣医に連れて行かないと、な」

 

自分の腕がそれほど大怪我を負ったにも拘らず、稟は目の前にいる狼、

ルビナスを案じていた。

 

記憶の中から、最寄の獣医の場所を探り、

この公園からだと、家を過ぎてちょっと行った場所にあったようなと思い出す。

 

どうにか片手でルビナスを担ぎ上げて公園を後にする。

見た目どおりかなり重く、自身も大怪我を負い血を流していた為に、

度々躓きそうになったが、なんとかこらえる。

 

 

 

絶えず血の滴をたらしながら進み、ついに稟は芙蓉家の間近まで着た。

最近出来た両隣の内、和風な豪邸の外壁まで来たときに、

少し休憩にと壁に寄りかかる。

 

数秒か、数分か、数時間か分らないが休憩できたなと、

もはやまともに考えられない頭で判断し、

この角を曲がって少し進めばもう家だと考え、再出発しようとする。

 

が、無意識の内に力を大分消費していたらしく、

寄りかかる壁から身を離すことが出来ずにいた。

 

「チっクショウ…動けよ体…ルビナスに比べたら大した傷じゃないだろ」

 

自棄気味に、自身の身体に言葉を投げるも、

力を失った身体は言うことを聞かない。

 

やがて、力に加えて意識まで失われていくのを感じる。

 

ならばせめてと、稟は自分も真横にあるルビナスの頭の耳に向け囁く。

 

「…おかえり…ルビナ、ス」

 

公園で聞いた幻聴のような、しかし本当にルビナスが発していたように感じた言葉に、

稟は返した。

 

それを最後に、稟は遠くから響く誰かの声を聞きながら、

再会できた家族の傍で意識を手放した。

 

 

「ようやくここの暮らしにも慣れてきたな」

 

「ええ。技術が進んでるから、こんな夜でもいろいろ出来るなんてね」

 

街灯が照らす夜道を一組の男女が歩く。

二人の手には買い物袋が提げられている。

楽しげに会話する二人だが、どこか無理をしている感じがしている。

 

「…ルビナス、どうなってしまったのかしら…」

 

「フォーベシイ様もいろいろ調べてくださっているが、今のところ手掛りは無いそうだ」

 

義娘を想いながら、数日前に人間界に引っ越してきた二人、

ハリーとマオは新しい家へと歩を進める。

 

暫く歩くうちに、マオはあることに気付く。

 

「?ねぇ、人間界って道路にこんな点をつけるなにかってあったかしら?」

 

「ん、なにがだ?」

 

「ほら、これ」

 

マオが足元の、大きさも並びも不規則だが、一つの方向に向け続く点の列を指差す。

 

「こんなものないだろう。誰かがペンキをこぼしながら歩いていたんじゃないか?」

 

「ええ…でも、これ私達の家の方向に向かってない」

 

「そういえば…」

 

二人は道路に付着する点を辿るように、先程より早く歩く。

家に近付くにつれて、二人は点の正体に気づく。

 

「これって…血?」

 

「いけない、誰かが怪我しているのか!?」

 

考えに至り、二人は走り出す。

 

そして、家の近くまで来たところで、神王家宅の外壁の横で倒れる何かを見つける。

 

「「ルビナス!!?」」

 

遠目でも分る。倒れているのはルビナスだ。

駆け寄ってみると、その真横には一人の大怪我を負った青年がいた。

 

「いけない!マオ、救急車を!」

 

「ええ!」

 

諸々の事情により、人間界の獣医には診せられないルビナスを新居に入れ、

程なくして、通過する家々を赤く照らしながら、救急車が到着した。

 

 

~あとがき~

 

第14話『再会』いかがでしたでしょうか?

 

読者の方の中にはちょっと不満をもつ方もいるかもしれませんね。

 

稟とルビナスの再会でありながら、会って直ぐにガブリンチョ!

 

しかも、お互いに無意識に近い状態での「ただいま」「おかえり」

 

で、お互いにまともに話す間も無く稟は119に連行~。

 

で・す・が~…

 

このガブリンチョが後々重要になってくるんですよ。

 

ではこの辺で。

 

次回、第15話『初めまして』お楽しみに。


 
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