No.123889

恋姫 ~無想~ Prelude

風邪ひいた。
寝れないから、カッとしてやった。後悔はしてない……と思う。
ダーク展開有り。

※02/13 ちょっと修正(微ダーク分追加)

2010-02-12 08:33:56 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4111   閲覧ユーザー数:3512

 

・タグの通りの内容です。

 

 

・ゆっくりしていってね(短いけど)

 

 

・"作品"に対する感想、指摘、批判、大歓迎します。忌憚のないご意見お待ちしてます(_ _)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――――愛していたよ、華琳――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気づくと、荒野に立ち尽くしていた。夜に眼を閉じて、開いたら朝になっていたような、現実味の無い感覚。

 俺、北郷一刀は、愛しい人に別れを告げて、その存在を消滅させた筈だ。大局とやらに逆らった俺は、己の破滅という形で華琳達の居る世界から排斥されたのだ。

なのに何故――――

 

 

 

「どういう……、事だ……?」

 

 

 

 ――――何故、あの始まりの荒野に、俺は立っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋姫 ~無想~ Prelude

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆然としながら、周りを見回す。ここは間違いなく、俺が流星となって堕ちて来たという、陳留付近の荒野だ。

 

 

 

「俺は……、消えなかったのか……?」

 

 

 

 両の掌を呆然と見詰める。閉じて、開いて、力強く握り締める。忘れもしない、日に日に衰える身体と気力。気を抜けば、一瞬で闇に堕ちる確信がある、恐ろしい日々。それが今、確かな手ごたえと共に体中を廻る、生命の息吹。

徐々に、強烈な歓喜が湧き上がってくる。何故この場所に居るとか、管輅の占いとか、もうどうだっていい。そうだ、消えなかったのだ、俺は!

 

 あれからどれだけ経った? 消えたときは夜だったし、今は昼くらいか。少なくとも一晩は過ぎているだろう。いやでも成都から陳留だとかなり距離があるしだとしたら皆はまだ成都かそれは困る早く皆に逢いたいのにいや待てまだ一晩しか経ってないと決まった訳じゃない華琳はもう皆に伝えたのかな参ったなどうやって謝ろう皆許してくれるかな――――

 

 思考が加速する。逸る気持ちを抑えられない。皆に逢いたい。華琳に逢いたい。そんな想いで、俺の心は満たされていた。これから始まる幸せに、何の疑いも持たなかった。

 

 

 

 だからこれは、天罰だったのかもしれない。

 

 

 

「う、あ」

 

 

 

 急に、悪寒が走った。周囲の温度が一瞬で下がり、まるで極寒の地に放り出されたような感覚。視界が暗くなり、狭まった。四肢を縛られ、首を絞められ、心臓を鷲掴みにされたような圧迫感。

 

 

 

「ぎ、い……」

 

 

 

 強大な力が干渉してくる。推測に過ぎなかった破滅への認識が、はっきりとした形に変わる。

 俺は、外史の禁忌に触れたのだ。大局に逆らい、本来の流れを無視して、歴史を思うがままに操った。その罪を、外史という世界は赦さなかった。

 そして今、罰が下された。この世界の現実を見せ付けられた。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ。

 霞は、安定の荒野に出現した賊軍を、青龍刀を振り回して追い立てていた。それに呂布、華雄が続く。猛将三人の武威に賊軍は瓦解寸前にまで追い詰められている。後方にある彼女達の本陣に翻る旗印は、董。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ。

 流琉は、どこかの厨房で大きな鍋を振っていた。城の厨房ではない。小さな体のどこにそんな力があるのか、10人前はありそうな炒飯が宙を舞う。

 季衣は、愛らしい笑顔で流琉が作った炒飯にパクついている。あっという間に食べ終えると、厨房の流琉に大きな声で追加注文を頼んでいる。そんな季衣の頭をやさしく撫でる女性、どこか季衣に似ている。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ。

 凪、沙和、真桜は、竹を編んで籠を作っている。沙和がぶうたれ、凪に窘められている。真桜は得意げに絡繰の取っ手を回して動作を確認している。あの絡繰は、あの時壊れた筈ではなかったか。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ

 天和、地和、人和は、どこかの街角で楽しそうに歌っている。だが、世の乱れに疲れているのか、行き交う人々の反応は冷ややかだ。疎らに立ち止まる人々も、ひとり、またひとりと去って行く。歌い終え、肩を落とし消沈する二人の妹を、天和は明るい笑顔で励ましている。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ。

 桂花は、やたらと金ピカした謁見の間で袁紹に何事か献策している。だが袁紹は聞く耳を持たないようで、 華北をより強大にしたであろう献策を一蹴して高笑いをしている。文醜は呆れ返り、顔良は歯軋りをする桂花を必死に宥めていた。

 

 

 

 ――――意識が飛ぶ。

 稟と風は、何事かを話しながら荒野を歩いている。風が妙な事を言ったのか、稟は呆れたように眼鏡を掛け直す。後ろを歩く趙雲が、そんな二人を楽しそうに見ていた。賑やかな一行だが、どうして彼女達は、初めて出会った時と同じ旅装束をしているのだろう。

 

 

 

「やめ、ろ……ッ」

 

 

 

 ――――意識が――――飛ぶ。

 馬蹄の群れが大地を轟かせる。そんな中、春蘭は兵を怒鳴りつけながら馬を駆けさせていた。時折妹を振り返りながら "星が堕ちたぞ秋蘭!" などと叫んでいる。

 ああ、懐かしい。別れたのはついさっきなのに、そう感じてしまう。だって、春蘭はキラキラと“両目”を輝かせているじゃないか。

 そんな春蘭を苦笑混じりに眺めつつ、秋蘭は "姉者、危ないぞ" と窘める。言った傍からよろめき慌てて持ち直す春蘭を気付かぬ振りで通す。姉に恥をかかせまいという気遣いだろう。その間も兵達に指示を与え斥候を四方に放つ。

 そして――――

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 一騎当千の二将と精兵を従えて、悠然と馬を進める少女。優雅で気品ある小さな肢体。だが存在感は誰よりも巨大。美の女神すら嫉妬する美しい顔に、自信に満ち溢れた微笑みを浮かべている。

 

 

 

「か、り、ん」

 

 

 

 華琳。

 我が主、我が王。そして、寂しがり屋の女の子、だった。逢いたい、と想った。想っていたのに。

 世界が、俺の心に止めを刺す。

 

 

 華琳の微笑みには、寂しがり屋の女の子なんてモノは微塵も感じない。長く一緒に過ごす内に、自然と読み取れるようになったソレを、一切感じなかった。

 皆が、まるで初対面の他人のような、俺の知らないダレカのよう。

 

 

 ――――彼女は、彼女たちは、誰一人として、逢いたいと想った人たちではなかったのだ。

 

 

 

「おい、お前」

 

 

 

 粗野な呼び掛けと同時に視界が開けて、感覚が戻ってくる。先ほどまでの圧迫感が嘘のようだ。心は凍て付いたままだが。

 

 

 

「おいコラ、無視してんじゃねぇよ!」

 

 

 

 億劫に相手を見る。黄色い布を頭に巻いたチビデブヒゲの三人組み。

 ああ、見覚えがある。何せ、人生で初めて死の恐怖を味あわせてくれた連中だ。忘れるはずも無い。どうやら声をかけて来たのはヒゲのようだ。どうでもいいが。

 

 

 

「ヒヒヒ、顔色が悪いぜ? 医者を呼んでやるから、身ぐるみ全部寄越せよ」

 

 

 

 下卑た笑みを浮かべながら、チビが睨め上げてくる。嘗ての俺なら多少怯んだだろうが、警備隊や戦場でそこそこの修羅場を経験してきたので、恐怖は感じない。まぁどちらにせよ、丸腰なので如何しようもないのだが。木刀の一振りでもあれば、時間を稼いで警備隊の……いや、俺の警備隊は、まだどこにも無い。こんな時でも、警備隊長として動きそうになるのは、それだけ染み付いてるって事だろう。

 

 

 

「さ、さっさと寄越すんだナ。じゃないと、い、痛い目に遭うんだナ」

 

 

 

「――――はぁ」

 

 

 

 脅し文句が余りにも稚拙だったので、思わず溜息のような失笑が漏れてしまった。別に挑発をしたわけじゃない。丸腰では如何しようもないし、ただ、どうでもよかったのだ。

 そんな内心を知る由も無く、チビデブヒゲは色めき立った。

 

 

 

「てめぇ、何笑ってんだ?!」

 

 

 

「ゆ、許さないんだナ」

 

 

 

「この野郎、舐めやがって!」

 

 

 

 ヒゲが、余り切れ味の良さそうでない刀を抜き、顔に突きつけてきた。浅く頬を裂く。

 

 

 

「調子に乗るんじゃねぇぞ、ぶっ殺されてぇのか」

 

 

 

「……そうかもしれない」

 

 

 

「あぁん?!」

 

 

 

 小さく呟いた言葉は、相手の耳に届かなかったようだ。あっさりと簡単に出てきた死の甘受は、蒼天へと融け逝き、魂も抜け堕ちたような気がした。

 

 ヒゲの興奮が伝わった刃先が、より深く頬を裂いた。消えないかもな、傷。どうでもいいけどさ。

 

 

 

「このや――――」

 

「持っていけよ」

 

「――――あ?」

 

 

 

 両手を広げ、小馬鹿にした笑みを浮かべた。

 ヒゲの怪訝な顔が、徐々に怒りに染まってゆく。

 嗚呼、頬から流れる血の、何と甘美なことか。

 

 

 

「持っていけよ。何なら殺してから剥ぎ取るか?」

 

 

 

「……てめぇ」

 

 

 

 今度のは意図的な挑発だ。首も傾げ、相手を逆撫でする笑みを浮かべてやる。

 

 

 

「上等だ。ぶっ殺してやるよ」

 

 

 

「やっちまえ、アニキ!」

 

 

 

「な、なんか怖いんだナ」

 

 

 

 "情けねえこと言ってんじゃねぇ!"とチビがデブを蹴飛ばすのを尻目に、ヒゲは刀を振り上げた。

 視線で追いかけた刃先が太陽の光を受け、鈍くギラつく。その眩しさに、思わず腕で目を庇う。

 その仕草を恐怖と勘違いしたのか、ヒゲは嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

 刃が、振り下ろされる。

 

 ふと、気づいた。

 視界に納めた制服の裾は、卸したてのように真新しい。

 乱世を駆け抜けた制服は、所々がほつれ、汚れを蓄積させていた筈なのに。

 

 何か、もう、本当に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――――逝カナイデ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――本当に、どうでも、いい。

 

 袈裟に振り下ろされる刃を、俺はただ無感動に見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Prelude END

あとがきのようなもの(そして次回予告のようなもの)

 

 

やっちまいました。

しかも短い。文章をコンパクトにする癖が抜けてないです。字数を増やさねば。

ちなみにPrelude(序曲)とある通り、続く予定……ではあります。

ほら、華蝶仮面が黙って見てる訳ないでしょ?

 

まぁ、今後も投稿するかもしれませんので、どうぞよろしく(_ _)

 

※02/13 修正しました。文章に少々肉付け、ダーク分を一振り、最後もちょっとだけ変えました。

 

 
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