No.123717

『舞い踊る季節の中で』 第4話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。

明命√の作品となります。
(今回は、出てきませんが(汗)
拙い文ですが温かく見守ってください

2010-02-11 16:53:54 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:30407   閲覧ユーザー数:22460

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第4話 ~ 血霞の舞う中で堕ちる魂 ~

 

 

 

 

 

(はじめに)

 

 

 キャラ崩壊やセリフ間違いや設定の違い、

 

 誤字脱字があると思いますが、

 

 温かい目で読んで下さると助かります。

 

 この話の一刀はチート性能です。

 

 オリキャラがあります。

 

 どうぞよろしくお願いします。

 

オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

    姓 :諸葛

    名 :瑾

    字 :子瑜

    真名:翡翠

 

    武力:52(平均的な将を60とした場合)

    智力:81

    政治:89

    家事:92

    魅力:想像にお任せします(w

 

    焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

 

    性格:基本的に、温厚で外見に反して大人の女性

       だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

       警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

       妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配して

       よく食事を差し入れていた。

       やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯

       を仕掛ける悪癖もあるが、性質の悪い事に、普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

       家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕

       を見て自信を喪失。 以降、こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

       武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

       姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持つ

       自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは、変な趣味の持ち主ばかりで

       17の時、現実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。

       以降のめり込み、妹達を洗脳するも、基本的には周りには秘密にしている。

       そのうち執筆も行い投稿し、掲載されるようになる。

       数年たった現在では、定期的な愛読者も付き、『八百一』の主要作家の一人となっている。

       黄巾の乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

砂埃が舞う荒野

商隊の馬車と共に、俺と翡翠は揺られていた。

明命が、黄巾党討伐のため、丹陽の家を引き払ってしまうことになった。

そのため住む場所を失った俺は、翡翠に誘われ、翡翠の次の勤務地へと向かう最中だ。

翡翠の荷物は、向こうである程度落ち着いたら、兵達に取りに行かせるとの事で、

とりあえず必要となるものだけを持って、小さな商隊に紛れて荊州南陽に向かっている。

俺はといえば、特に荷物らしいものもないので、雑嚢に着替えと旅の必需品、そ

れと俺の世界から俺と一緒に来た鞄だけだった。

 

翡翠としては、無駄に兵を動かせる状況ではなく、

大きな商隊を望んでいたが、時間が無いとの事で、今に至った。

目的の街まで、あと一週間程かかるらしいが、俺は別に退屈はしていなかった。

旅の間、翡翠から多くのことを学んでいた。

俺がこの世界で生きるうえで足りない一般常識を中心に、

書物に載っていない彼女達にとっては当たり前の事までだ。

実際は経験してみるのが一番だけど、予備知識があるに越したことは無い。

 

それに、翡翠の話は要点が纏められており、順序立てて話してくれるため、とても解かりやすかった。

翡翠と話していて思ったのが、翡翠が年齢以上に落ち着いており、尊敬できる人物だという事。

それに茶目っ気もあり、此方を退屈させない。

明命は、一緒にいて心が安らぐのに対して、翡翠はとにかく話のテンポが合うのだ。

ただ、時折、顔を赤くしている時があるのが気になった。

最初は病気かと思い、聞いてみたが、溜息を疲れた挙句に、

 

「一刀君が、私を心配してくれるのは分かります。

 でも、今後この件に関して、私を含めて女の娘に聞くのは禁じます」

「えっ、でももし病気だったら」

「い・い・で・す・ね・!」

 

と、凄まれた。

もっとも、外見が外見だけに凄む姿は、正直可愛いと思ったが、

俺は、翡翠の体を覆う気迫に、黙って頷くしかなかった。

それ以降、この件に関しては、禁句として俺の体に刻まれ、気にしないようにしている。

まぁ、そんな事もあったりもしたが、一緒にいて楽しい事には違いなかった。

翡翠も、たぶんそう思ってくれていると思う。

幼い外見ながらも、その笑顔や仕草は紛れもなく大人で、

時折見せる女性らしさに思わずドキリとする事があった。

及川じゃあるまいし、俺そういう趣味は無いはずだけど・・・

 

そんなわけで、途中立ち寄った街では、俺は積極的に商隊の手伝いをし、移動中は翡翠から知識を学んだ。

朝夜は日課の舞の練習を行う。

この世界に来た以上、する必要はないと分かってはいるんだけどね、、

でも、物心付く前からの日課のため、今更とても止める気にはなれなかった。

それに、まったく役に立たないというわけではない。

俺の練習風景は、最初翡翠や明命を驚かせたが、今では商隊の人達も、楽しみにしている。

まぁ、深夜の練習は流石に見せれないが、これくらいは問題ないだろう。

そう思い、練習の仕上げに、人を魅せるための舞に、心も動きも切り替える。

 

 

 

そんな旅の中、商隊は荒野を抜け峡谷に入る。

狭い道を抜ければ、次の街が見えるはずらしい。

そんな時、俺は周りの空気が変わった事に気がつく。

 

「商隊長さん馬車を走らせて、早くっ!」

「えっ、一刀君?」

 

俺の言葉に、商隊長さんは反射なのか、それとも何かを感じ取ったのか、馬車を走らせる。

そんな中、俺を不思議そうに見ていた翡翠も、周りの空気に気がついたのか、

顔から表情が消え、冷静な眼差しで周りを見渡す。

 

そん中、後方から激しい音と振動があたりに響き渡った。

崖崩れか何かで岩が落ちてきたのだろう。

いや、それは正解ではない、崖が崩れたんじゃない、崩れさせられたんだ。

そう判断した時、馬車は急停止をした。

その衝撃に、俺は翡翠を体と馬車の間に押し込み、振り落とされまいと体を馬車にしがみ付く。

翡翠は、俺の突然の行動に小さく悲鳴を上げてくるが、

状況が理解したのか、大人しくされるがままに馬車にしがみ付いてくれた。

やがて、衝撃が治まると、俺と翡翠は馬車を降りる。

その際翡翠は、その小さな手に、『護身用です』と言って、持ってきていた二対の双剣を手にし、

 

「だいじょうぶ、一刀君は私が守ってあげますから」

 

そう言って、俺に力強く微笑む。

だけど、俺は気がついていた。

彼女の笑顔が、無理に笑っていた事を、

俺を守ると言って、無理やり笑う事で、心を奮い立たせていた事を・・・

 

だから、俺は、いつも持っていた小さな鞄を取り出し、翡翠の後を追った。

狭い道をすり抜け、数台の馬車の前に行くと、

 

「おっ、まだ幼いが女がいるぜ、しかも上物だ」

「ああ、これは今夜楽しみだぜ」

「おまえ、あんなのまで範囲かよ」

「うるせぇ、ああいうのを無理やり目覚めさせるのが楽しいんじゃねえか」

「はははっ、確かにちげえねぇが、俺は遠慮するぜ、ガキなんざ女のうちに入らねえからな。

 くれぐれも傷つけたり、壊したりするんじゃねぇぞ。

 売り物にならなくなっちまうからな」

 

そんな胸糞悪い声が、俺の耳に入る。

二十人程の黄巾を纏った男達の足元には、一緒に旅をしてきた商隊の護衛の人達が転がっている。

跳ねる心臓をよそに、俺の頭は、もうそれが人であったものだと告げていた。

 

「太平を乱す下衆共っ、今おまえ達黄巾の者は、諸侯の軍勢の前にいまや風前の灯火っ!

 滅びたくなくば、剣を捨て縛につくがよいっ!」

 

目の前の賊を前に、翡翠はその小さな体から放ったとは、信じられないほどの声量で、賊に口上を述べる。

俺は、目の前の事についていけず、呼吸を乱していた。

あいつらの持つ剣・・・血がついている。

あの人達はあれで、やられてしまったのか・・・

 

 

 

 

そして、目を血走らせた、嫌な笑みを浮かべた男達が、そんな翡翠に対して、

 

「おっ、こいつ一人前に良い剣を持ってるぜ、

 もしかしたら、良い所の娘かもな、上手くすれば身代金ががっぽり取れるぞ」

「ああ、もっとも、楽しませてもらう事には、変わりないがな」

「おまえそればっかだな、そう言えばこいつなんか言ってたな」

「ああ、黄巾が風前の灯とか」

「あはははははっ、そんなもの俺達に関係すると思ってるのかねぇ」

「そうそう、俺達は利用できる物を利用しているだけって言うのにさ」

 

だめだよ翡翠、あいつ等は、そんな言葉に何も感じていない。

逆にこいつ等を付け上がらせるだけだよ。

くそー、上手く言葉に出来ない。

いつものように、呼吸できない。

上手く頭が働かない。

 

「所詮獣、言葉が通じるわけありませんね。

 来なさい、この諸葛子瑜、ただではやられはしません」

「おい、傷つけるなよ」

「ああ、分かってる。

 ちょっと、御嬢ちゃんを躾けるだけさ」

 

そう言って近づいてきた男の一振りを、

翡翠は、片方の剣で受け止め、同時にもう一つの剣で男を斬り捨てる。

男は、斬られた痛みでのた打ち回り、谷底へと転がり落ちていく。

その事実に、黄巾党を騙る賊どもは、油断して良い相手では無いと悟り、

狭い道ながらも、道一杯の人数。

3人がかりで、翡翠に斬りかかる。

翡翠は、剣をかいぐぐり、受け止め、

何とか、二人を斬り倒すが、賊共はまだ二十人以上いる。

駄目だ、幾ら翡翠が人より強いと言っても、体力が無限にあるわけじゃない。

うごけっ、翡翠を助けるんだ。

俺は、上手く動かない体に、一生懸命命令をするが、

その手は、その足は震えるばかりで、ちっとも言うとおりに動いてくれない。

 

「くそー、くそー、くそーーーーーっ!」

 

このままじゃ翡翠が、

そう焦っていると、

 

「きゃっ」

 

ズササァーーーーッ!

 

 

翡翠の悲鳴と共に、

翡翠の小さな体が、地面を転がり、

崖へと体を叩きつけられる。

翡翠は、叩きつけられた衝撃に耐え、

対になった二本の剣を杖に、立ち上がろうとするが、

衝撃のあまり上手く体が動かないようだ。

そんな翡翠のもとへ、男達が近づき、

その手の剣を、振り上げる。

 

フォンッ

 

「翡翠っ!」

 

 

 

 

フォンッ

 

「翡翠っ!」

 

ギンッ

 

(翡翠が、殺される)

 

そう思った時、俺の体は無意識に動き、

体を翡翠と、男の前に滑り込ませる。

男の剣は、俺の手に持つ鞄によって遮られていた。

 

「・・・・一刀君」

「てめぇよくも邪魔をっ」

「さっきまで震えてた小僧だ、とっと始末しちまいな」

 

邪魔をされた男は、仲間の声に余裕を取り戻し、

その剣を、今度は俺に向かって振り上げた。

 

ヒュッ

ドガッ

 

男の剣は、俺に振り下ろされる事はなかった。

男の喉もとに、鞄から取り出した扇子が、めり込んでいたからだ。

ただの扇子ではない。

いわゆる鉄扇、通常のものより大きいそれは、確かな重量で持って、男を気絶させた。

男が気絶し、地面に倒れると、

後ろの賊が、今度は3人で俺に斬りかかる。

そんな3人を、俺は静かな動きで、3人の中に滑り込ませ、

 

ドスッ

ドガッ

ボスッ

 

鳩尾、延髄、人中と急所を強く打ち込み、相手を気絶させる。

もう、体に重みは無い。

翡翠が殺される所を幻視してから、いつもとおりに動く。

心は静かに、相手の動きを読む。

続いて斬りかかってくる三人の攻撃を、

鉄扇で受け、避わし、間合いを外しながら、

ひろげた鉄扇の端で、相手の手首を、足の腱を切り裂く。

男達は、剣を落とし、のた打ち回る。

だが死ぬような傷ではないはずだ。

視界の端で、戦闘不能にした男達を捉えながら、

俺は懲りずに襲いかかって来る賊に意識をやる。

 

「何をしているんですかっ、賊は殺しなさいっ!」

 

俺の背に、翡翠の叱咤が飛ぶ。

俺は、今まで殺さないように、賊を相手にしてきた。

翡翠はそれを見抜き、俺を叱咤したのだ。

おそらく、翡翠の言っている事の方が正しいのだろう。

こいつ等は、民を襲う害獣だと。

現に、翡翠を下衆な目で見ていた。

だから俺は、心を凍らせ、翡翠の命令を実行させる人形となる覚悟をした。

 

 

 

 

その後は、簡単だった。

俺は、男達・・いや、獣達の動きの間を読み、思考を読み、

体を滑り込ませ、目を斬り裂き、喉を潰していく、

獣達の動きは単調だった。

だから、避わし、鉄扇で防ぎ、広げた扇で動きを惑わせ、攻撃を無効化させた。

そうして、そこにあったのは、賊達が商隊を襲う姿ではなく、

血霞を空中に舞わせ、賊達を殺戮する姿があっただけだった。

最後に逃げる賊を、鉄扇を飛ばして、その喉を、足を同時に斬り裂き、近づいて止めを刺す。

 

賊を皆殺しにし、危険がなくなった事を確認すると、

俺は翡翠のもとへと歩いて行き、翡翠の怪我を確認するため、

 

「翡翠大丈・」

 

パンッ!

 

乾いた音が、峡谷に、

俺の頭の中に響き渡る。

俺の言葉を遮り、翡翠は俺の頬を張ったのだ。

その事実に、俺は呆然とすると

 

「賊に情けをかけるなんて、一刀君は何を考えているんですかっ!」

「ひす」

「言い訳なんて聞きたくありませんっ!

 情けをかけるなんて余分な余裕が、一刀君を殺す事もあるんですっ!

 情けが、より大きな惨劇を呼ぶこともあるんですっ!」

「・・・・・ごめん」

 

翡翠の剣幕に、

涙交じりの言葉に、

悲しみと怒りと心配が織り交ざった表情に、

俺は、ただ謝る事しかできなかった。

 

「はぁー、とは言え、よくやりました。

 ここの後片付けは、私達で行いますから、一刀君は後ろで休んでいてください」

 

翡翠は、最後に困った弟を見るように優しげに微笑み、俺に休むように言う。

・・・・良かった。

・・・・俺、翡翠を守れたんだ。

 

翡翠の言葉に、俺はその事実を噛締める事が出来た。

せめて、それだけは喜ぶ事が出来ると、自分に言い聞かせ、

俺は翡翠に言われたように、商隊が見えなくなる位置まで、来た道を戻る。

 

 

 

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

 

丹陽を出て、大分経ちました。

袁術の目を誤魔化すためと、余分な兵がいないのもあって、私達は商隊に紛れて旅をする事にしました。

本当は、もっと大きい商隊だと良かったのですが、時間は待ってくれません。

冥琳様は、袁術に気付かれぬ様、出来るだけ早く来て欲しいと手紙をよこしていました。

これからの事を考えると、使える人手が足りないのでしょう。

ですから、この際贅沢は言っていられません。

 

幸い、旅程は順調で、退屈と思われた道中も、一刀君のおかげで楽しいものへと変わりました。

やはり一刀君は、才ある方で、此方の教える事をどんどん吸収していきます。

まるで砂漠に水が吸い込まれるように・・・

とにかく、一刀君の知識は、一般常識が欠けています。

一体、今までどうやって生きてきたのでしょう。

そう思い、聞いてみた事があるのですが、曖昧に笑って誤魔化されました。

 

あの時ほどではないとは言え、一刀君の笑顔は反則だと思います。

私は、彼に笑い掛けられる度に、顔が熱くなってしまいます。

本当に、明命ちゃんは、彼と一緒に住んでいてよく平気だったと思います。

まぁ、あの娘は、そういう事には鈍感な所があるので、気がついていないだけなのかもしれません。

そうそう、鈍感と言えば、一刀君です。

彼に笑い掛けられる度に、顔が熱くなる私に、

 

「翡翠大丈夫? もしかして病気だったら大変だから、少し寝たらどう?」

 

なんて、あの朴念仁は言うんです。

この時ばかりは、私も久々に頭にきました。

『この鈍感!』と怒鳴りたいのを我慢して、二度とその質問をしないように釘を刺しておきました。

一刀君は、もしかしたら明命ちゃんと、良い仲になるかもしれません。

なら私は、お姉ちゃんとして、一刀君を明命ちゃんとつり合うような、立派な殿方にしなければいけません。

一刀君は、妙に細かいことに気がつくくせに、女心だけは国宝並みに鈍感のようです。

これは直るとは思えません。

なら、これから先、一刀君の笑顔に魅せられた女の娘の気持ちに、一刀君が気がつかないようにしとくしかありません。

まぁ、多少私好みに育てるのは、役得と考えましょう。

 

一刀君は、とにかく一生懸命です。

商隊の人達からいろいろな話を聞いたり、手伝いを率先して行い事で、多くの経験を積んでいっています。

知識だけで学べない事を、ああやって、一刀君は学んでいるのでしょう。

あと驚いたのが、一刀君が日課としている舞の練習です。

一刀君にそんな趣味があったのは意外でしたが、その舞は見た事無い静かなものでした。

ですが、そこから感じたものは、とても静かと言えるようなものではありませんでした。

とても幻想的で、静かにこちらの心を鷲掴みされた気分です。

一緒に見ていた商隊の中には、涙を流している人もいました。

一刀君が、これほどの舞が出来るなんて、観るまで知りませんでした。

明命ちゃんには、今度あったらお仕置きが必要ですね。

 

ある夜、ふと目が醒めると、近くで寝ていた一刀君の姿がありませんでした。

しばらくしても戻ってこないので、探しに行こうかと思った時、一刀君が戻ってきました。

厠にしては長かったので尋ねてみると、彼はその手に持っていた扇子を見せ、

 

「眠れなかったから、少し舞っていた」

 

と、いつもの笑顔で、私にそう告げました。

月光が、一刀君の顔を照らし、その笑顔はいつもより、少しだけ・・・ぁぅぁぅ、

とにかく、今回だけは誤魔化されてあげる事にしました。

私は、鼓動が激しい胸と、熱い顔を、理性で無理やり押さえ込み寝ることにしました。

いつまでも起きていては、へんな考えが浮かぶと思ったからです。

 

 

 

 

そんな感じで色々大変だった旅程も、あと少しです。

あと街を二つも過ぎれば、南陽の街に着きます。

そんな時、一刀君が、いきなり馬車を走らせるように指示をしました。

それに驚いていると、周りの空気がおかしい事に気がつきました。

もしかして、一刀君はこれに気がついたのかもしれません。

理由を考えるより、今は現状を確認することの方が優先です。

この雑多な気配、それにこの地形、これは・・・

敵の考えを至った時、後ろから轟音と振動が響きました。

おそらく岩を落としたのでしょう。

前ではなく後ろにと言う事は、やはりこの先に

そう思った時、馬車は急停止をしました。

 

「きゃっ」

 

馬車の止まる衝撃に、泳ぐ体を一刀君が、私を引き寄せ、

一刀君と馬車の壁との間に、私の体を押し込み、馬車にしがみ付きました。

 

ドキッ

 

押し付けられた一刀君の体と体臭に、心臓が跳ね上がりました。

でも今はそんな時ではありません。

私は跳ねる心臓を無視して、一刀君と馬車にしがみ付いて体を安定させます。

やがて、馬車が完全に停止し、衝撃が収まると

私は体を一刀君と馬車の間から抜け出し、愛刀の"双天"を手に馬車を降ります。

さっきは、一刀君が私を守ってくれました。

なら、今度は私が一刀君を守る番です。

正直、武に自身はありませんが、数人程度なら何とかなります。

(数人なんて事はありません)

頭の中の冷静な部分が、私にそう警告してきます。

でも、これしか手はありません。

だから、せめて一刀君が安心できるように、一刀君に笑いかけます。

でも駄目ですね。

演技には自信があるのですが、どうやら見破られたようです。

一刀君の顔は、目は、行っては駄目だと訴えています。

一刀君の、考えている事が顔に出る癖は、どうにも直りそうにありませんね。

そう場違いな事が、頭の中を横切ります。

 

この危機だというのに、私は何を考えているのでしょう。

その事実に、私はやや強張っていた体と思考が、完全に解けるのが分かりました。

不思議です。 どうしようもない危機だというのに、一刀君を守らなければと思うと、勇気が沸いて来ます。

 

賊の前に出ると、想像したとおり、下品な笑みを浮かべていました。

彼らの足元には、一刀君の舞に涙していた商隊の警護の人達が事切れて、転がっているのを確認してから、

 

すぅー

 

息を深く吸い込み、無駄と知りつつ、彼らに口上を述べます。

案の定、無駄でした。

やはり獣に言葉が通じる訳がありませんでした。

彼らを睨み付けつつ、視界の端に一刀君を見ると、

青い顔をして震えていました。

仕方ありません、一刀君は庶人なのですから、こういう状況には慣れていないでしょう。

でも大丈夫です。

一刀君は、私が守りますから

そう心に誓い、

"双天"を構えなおします。

 

 

 

 

「きゃっ」

 

ズササァーーーーッ!

 

 

くはっ!

けほっ、けほっ

 

吹き飛ばされ、崖に叩きつけられた私の体は、その衝撃で肺の中の空気を吐き出させられました。

何とか体を起こそうとしますが、体が思い通り動きません。

賊の一人が私に剣を振り上げます。

どうやら此処までのようです。

 

一刀君守れなくて、ごめんなさい。

 

ギンッ

 

諦めた私に、一向に剣が振り下ろされる事はありませんでした。

一刀君が、いつの間にか私と賊の男の前に体を滑り込ませ、剣を防いでいました。

その後、次々と手に持った鉄扇で、数人の賊を戦闘不能にしてゆきます。

そう、戦闘不能に、命を奪うでもなく、重傷を負わせる事なく、軽症で賊を無力化しているのです。

結果そうなのではなく、わざわざ、そうしたように私は感じ、その事実に、私は頭に血が上りました。

 

「何をしているんですかっ、賊は殺しなさいっ!」

 

私は一刀君の背中に向かって、叱り付けました。

彼等は害獣です。

賊に堕ちた時から、彼等は人をやめたのです。

此処で生かしておけば、新たな悲劇を生むだけです。

それに、そんな余分は、一刀君を殺します。

私は、全ての想いを籠めて一刀君を叱り付けました。

一刀君は私の想いに、気がついてくれたのか、手加減をするのを止めてくれました。

その後の光景は、私の心に一生残るものだと思いました。

 

 

 

殺し合いの中で、一刀君は舞っていました。

その動きは、殺し合い所か、美しい舞そのものです。

血霞が舞う中で、一刀君は静かに舞っています。

その舞の舞台の中で、次々命が散っていく。

幻想的とさえ言える中で、死の舞が、そこにありました。

どうしたら、あんなに静かに、綺麗に、動けるのでしょうか、

どうしたら、あんなに相手の動きに合わせて、舞えるのでしょうか、

静かに、ゆっくり動いて見えるのに、どうしてあんなに速く感じるのでしょう。

私は、その光景にただ、ただ魅了されました。

 

やがて、獣の全ての命が散り、舞が終わってしまいました。

舞を終えた一刀君が、私の傍に来て、私を心配そうに覗き込みます。

私は、そこで我を取り戻し、声を掛けようとした一刀君の頬を、思いっきり引っ叩きました。

 

パンッ!

 

乾いた音が、峡谷に、

私の手に響きます。

手がじんじんと痛みますが、叩かれた一刀君はもっと痛いはずです。

体も心も

でも、一刀君には、どうしても言って置かなければならない事があります。

私の言葉に、一刀君は、黙って頷き謝ります。

 

(私に謝ってどうするんですか)

 

と思いつつ、私は、一刀君を赦しました。

元々、一刀君そのものを怒っておいたわけじゃありませんから、その言い方は語弊があるかもしれません。

でも、一刀君は私が言いたかった事は、理解してくれたはずです。

だから、私は、私の命をまた救ってくれた一刀君を、労い、せめて休ませてあげようと、思いました。

一刀君は私に言われるまま、商隊の後方へ下がって行きます。

私は、獣達の遺体を谷底へ、逝ってしまった護衛の者を弔おうとすると、

商隊の隊長さんが、後始末はするので、私も休んで欲しいと言ってきました。

せっかくなので、その申し出を受けることにしました。

正直私も、叩きつけられた体が痛いです。

私は一刀君の後を追って、商隊の後ろへと下がると、一刀君の姿が何処にもありません。

 

「まったく、何処に行ったのかしら」

 

そう呟くも、答えは決まっています。

此処は一本道なのですから、もと来た道の何処かにいるはずです。

道は、賊達が塞いだので、そう遠くにいると思えません。

まったく商隊から離れるなんて、何を考えてるのやら、これではまた叱り付けなければいけませんね。

 

 

 

一刀君を探すため、道を戻っていくと、一刀君の姿が見えました。

 

「げぇぇぇ、おぇっ げほっ」

「えっ?」

 

だけど、その姿は、休んでいるのではなく、

吐いている姿でした。

すでに吐く物がなくなったのか、

吐きつつも出るのは、苦しげな声と僅かな胃液だけ、

私は、その姿にある推論が浮かびました。

 

「・・・翡翠か・・・見苦しい所を見せてごめん、・・・すぐ戻るから・・・先に戻っていてくれると助かる」

 

そんな私に、一刀君は、さっきまでの辛そうな顔を隠して、私にそう言ってきます。

その一言で、私の推論が間違えていない確信が持てました。

 

「一刀君、もしかして・・・今まで人を斬った事が・・・」

 

私の言葉が、自分の言葉と信じられないくらい、かすれて他人の言葉のように、聞こえた。

 

「・・・ああ、初めてだ。

 ・・・俺の国では殺し合いそのものが、まず無かったから・・・

 ごめん、そのおかげで覚悟が決まらずに・・・翡翠に怪我までさせてしまった・・・・」

 

そう言って、私に謝ってきます。

違う、謝るのは私の方です。

あれだけの強さを見せられて、私は一刀君が苦しんでいる正体に、気が付く事が出来なかった。

きっと一刀君は、闘いながら苦しんでいたに違いありません。

一刀君が言う事が本当なら、一刀君は人の死とは無縁の生活を送っていた事になります。

そんな理想的な国が本当にあるのかと、疑問に思わない。

一刀君が、こうして苦しんでいる姿が、その答えだから、

 

一刀君は賊に対して手加減をしていたんじゃない。

傷つけたくないと、必死だったのです。

それを、私が、一刀君に殺させてしまった。

仕方が無かったとはいえ、私が、一刀君に・・・・・・・

 

「・・・翡翠・・・翡翠の言ったことは何も間違っていないよ・・・間違っていたのは俺だから・・・・・

 それに、・・・こうして翡翠を助ける事が出来た・・・俺はそれが嬉しいと思ってる・・・だから・・・

 自分を責めないでほしい・・・違うよな・・・翡翠は俺に教えてくれたんだ・・・この世界の現実を・・

 だから、翡翠・・・ありがとう・・・・」

 

そう言って、一刀君は私に笑いかけてきます。

いつもの笑顔を、

でも、それはいつもの笑顔ではありませんでした。

一刀君は、私を助けられて、本当に良かったと思っています。

それを心の底から、喜んでくれている。

その事実が、一刀君を微笑ませています。

でも同時に、人を殺した罪悪感が、一刀君を襲い、その笑顔を悲しみに変えていたんです。

 

 

 

 

……限界でした。

 

一刀君の困った時、嬉しい時、呆れた時、どの笑顔も素敵でした。

 

その笑顔が、今は悲しみに彩られている。

 

私が、一刀君の笑顔を奪ってしまった。

 

私は、私の犯した過ちに気がつき、

 

取り返しの付かない事だと気がつき、

 

一刀君の悲しい笑顔に、涙した。

 

今の私に、泣く資格なんて無いと分かっているのに、

 

私は、泣いてしまった。

 

一刀君の胸にしがみ付き、

 

泣いてしまった。

 

一刀君は、この愚かな私を、

 

なんでもない事だと、私を赦すように

 

私の髪を優しく撫でる。

 

その優しさに、私は余計に悲しくなり、

 

一刀君の胸の中で泣き続けた。

 

峡谷を、私の泣き声が、

 

死者を追悼するように、

 

響き渡る。

 

いつまでも・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

第4話 ~ 血霞の舞う中で堕ちる魂 ~ をおくらせていただきました。

今回は、予告どおり、一刀と翡翠のお話になりました。

うーん、いかん、正直やりすぎました。

これでは、翡翠が明命を喰ってしまう。

まぁ、今後、明命も翡翠に負けないよう頑張ってもらう事にしましょう。

作中にありましたが、基本的には翡翠は明命を応援する立ち位置です。

ですが、今回の出来事により、その考えが大きく揺らぎ、翡翠を苦しませる事となる予定です。

・・たぶん(汗

まぁ、そこは、頭の中で暴走しているキャラしだいとなります。

すでに、キャラが私の手を離れているので・・・・(汗

 

さて、今作で一刀君の強さの一端が明かされる事となりました。

今作品の一刀君は、剣術ではなく、舞踊をやっています。

むろん、ただの舞踊ではありません。

戦国を発端とする、裏舞踊の伝承者で、その強さは、(今後にご期待)

とにかく、現状では20人程度の賊を、苦もなく倒せる程度の武はあるという事です。

また、舞踊としても、すでに完成の域に達し、観る者を魅了させる領域にあります。

 

次回は、荊州南陽の街での生活の話となります。

どうか、最後までお付き合いの程お願いいたします。

 


 
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