雪蓮と一刀達の初陣から二週間ほど経ったある日、袁術からの使者で黄巾党本隊と決戦し、撃破せよとの命令が来た。
雪蓮はうまく袁術から、呉の旧臣を集めてよいと出たので、雪蓮はすぐに伝令を出し、呉の旧臣達を呼び集める。
それからさらに三週間ほど経ち、ついに敵本隊と戦うために敵のいるところに向かう。
途中のところで昼にするといい、陣を張り、一刀は支給された弁当を食べていた。
「モグモグ、誰だこれ作ったの?」
一刀の舌には合わないご様子であった。
「かーずと。ご飯はどう? 美味しい?」
雪蓮が一刀の背中にべったりとくっついてきた。
「俺の舌には合わないが、まずいわけではない」
「ん? どういうこと?」
「どうも味が薄い。まあ俺の世界じゃ味が濃いのばかりだったからな。無理は無い」
「そうなの? 行軍するときのお弁当だから、結構塩を使ってるんだけどなぁ」
「じゃあ、これは雪蓮作?」
「一刀のはね……」
「そうか…。ところで何か用?」
「分かる?」
「用なしで来る雪蓮じゃないだろ?」
一刀はとりあえず弁当を食べながら話を聞く。
「あのね。一刀を拾ったときに約束したでしょ? 呉の武将を口説けって」
「ああ、それで?」
「それでね。…もう少しすればさ、私の妹が合流するんだけど」
「孫策の妹だと…孫権?」
「そ。…あれ? 説明したっけ?」
「俺の知識を甘く見ない事だな」
「ま、いいわ。それで妹の孫権なんだけど、ちょっと真面目過ぎだし、カタブツっぽいところもあるけど、とっても良い娘よ。
可愛いし、おっぱいも大きいし、お尻の形も最高だし」
「へぇ」
「で、私の後継者は孫権。だから一刀はどうにかして孫権をものにしなさい。約束よ?」
「ああ……」
言い終わると雪蓮はその場を去った。一刀はそこでようやく弁当を食べ終えた。
それからしばらくすると祭が来た。そこで一刀は祭に先ほどの会話の内容を聞かせた。
「俺、孫権に会った事無いけど、いいのか?」
「そこはほれ。お前さんの実力で何とかせい」
「そう」
「それが策殿と交わした約束じゃろうが? 約束を守らん男に価値は無いぞ?」
「そいつはそうだな」
そして祭も去っていった。
「ま、可愛い子で胸もあって、尻は……安産型なのかなあ?」
昼を終えて、次は冥琳と会った。
「弁当が口に合わなかったらしいな」
「雪蓮から聞いたか」
「ああ。もっと塩味をつけさせなきゃと言っていたから止めさせた。…塩は貴重だからな」
「そうか…迷惑かけたか」
「別に構わんよ。…文化の違いという奴は、厄介なものだからな」
「詫びと言っちゃ何だが、この時代でも塩が簡単に取れる方法を教えようか?」
「何? どうするのだ?」
「簡単だよ。海の水、この時代では川でもいいか知らんが、蒸発させれば、嫌でも塩が残るんだよ。
もっともそれをきちんと取る、部屋を作る必要があるけどね」
「まあ頭の片隅にでも置いておこう。それと北郷、次からはお前も常に戦場に出て欲しいのだ」
「キバの力があるから出て行くけど、何で改まって言うんだ?」
「うむ。孫策がお前を気に入ってる事もあるのだが、それ以上に…袁術にお前の存在が知られるのを避けたいのだ。
今はまだ天の御遣いという名称が世に広まってはいない。しかしお前の名前が世に広まれば、恐らくは袁術が動き出すだろう」
「俺を利用するか」
「相変わらず聡いな。そういうことだ」
「そいつは嫌だな。まだ口説いてないのに……」
「そういう風に捉えるか」
「その方が楽なんだよ」
そうこうしていると、黄巾党の一部隊が一刀たちを見つけてしまい、雪蓮は前線部隊を率いて先行してしまったとのことだった。
「何!?」
「総大将自らか…」
「全く、世話の焼ける…! 穏! 北郷! すぐに追いかけるぞ!」
「は~い!」
「分かった!」
「ガブリ」
「変身」
一刀はキバとなって雪蓮を追った。
そして冥琳達は雪蓮を止めるが、雪蓮は止まらない。
「大丈夫だって。黄巾党なんてすぐに蹴散らしてあげるから。じゃ、また後でね♪ 祭、行くわよ!」
「心得た!」
「俺も行くぜ!」
「北郷!? ああ、もう! 穏! 戦闘準備だ!」
冥琳の言葉と共に出てきた黄巾党と戦う。
キバは変わらずのキバフォームでの素手だったが、それでも敵を倒すには充分である。
そして敵達を蹴散らした。戦いから戻ってきた雪蓮を冥琳が叱るが、一刀が見る限り、雪蓮は約束を守る気はないと見た。
それから半日ほど経って、孫権の部隊が合流してきた。
「お姉様! 今、報告を聞きました! 単騎で敵陣に突入するとは、どういうことですか!」
やってきた孫権が最初に言ったのが雪蓮への説教だった。
「あなたは孫家の家長にして呉の指導者! それがこんな戦いで蛮勇を振りかざしてどうします!」
「ご、ごめんなさい……」
「少しはご自分の立場を考えてください。あなたは我らにとって大切な大切な玉なのですから」
「はぁ~~い」
雪蓮と孫権のやり取りを傍らで見る一刀。
「あれが孫権?」
「ああ。雪蓮の妹にして孫呉の後継者だ」
「そうか。カタブツってわけがあれでわかったよ」
「そういう側面もあるがな。だが…器で言えば、恐らくは雪蓮よりも大きいだろう」
(そこの所は漫画と同じだな)
「どうしたどうした? 口説き落とす自信が無くなったとでも言うのか?」
「いや。でも俺は俺として接する」
「それで良いさ。…お、いらっしゃったぞ」
孫権が一刀のところにやってくる。
「貴様が天の遣いと言われている男か」
「ああ、一応な。どちらかと言うと仮面ライダーだがな」
「かめんらいだー?」
「まあそれは後で見せるさ」
「胡散臭いわね」
「ふふふ、言えてる」
「ふんっ……どこの人間か知らないけど、お姉さまを誑かす気ならば、すぐに立ち去りなさい」
「……(怖い、怖い。でも笑顔は良いだろうな。そういう顔だ)」
そこに冥琳が弁解するように言ってくる。
「孫権様。確かにこやつの素性は知れませんが、今まで行動していて怪しい点などはまるで無く、またその知識は広く、
我らでは考えも及ばない事を知っております。孫策様が拾ったのもあながち間違いではないかと。
また、こやつは孫策様が片腕とするには充分な実力があるかと」
「公謹がそういうのならばそうなのでしょうね。だけど私はまだ認めないわ」
「…結構」
そう言って孫権は一刀のところから去った。
(あれが孫権…。もっとあいつの事を知らないとな…)
一刀は去る孫権の背中を見てそう思った。
少しすると今度は孫権が別の女の子二人と一緒に雪蓮が一刀のところに連れてくる。
「雪蓮、どうした?」
「貴様、何故姉さまの真名を口にする!」
「許してもらってるからだ」
「そうよ。私だけでなく、冥琳と祭、それに穏もね」
「なっ!」
「それほどの人物なのですか? 私には胡散臭い男にしか見えませんが」
「胡散臭いとかじゃないですが…公謹様たちが真名をお許しになった事に、少し違和感があります…どういうことでしょう?」
孫権以上にカタブツそうな女の子と若干天然が入ってそうな女の子が一刀を見て、そう言った。
「ふむ。まぁそうだろう。だが…こやつはお前たちの夫になるかもしれん人物だ」
「「「えっ!?」」」
冥琳の言葉に驚く、三人。
「あの…どういうことでしょう?」
「んー。一刀は占いに出てきた天の遣いなの。そんな貴種の血を孫呉に入れることが出来たら、大きな力になるでしょ?」
「少なくとも、孫呉に天の遣いの血を引く人間が居る…という評判に繋がるだろうな」
「そういうこと。だから一刀を保護するときに契約したのよ。まぐわれって」
「何たる浅慮! お姉さまは私達の意志を無視するおつもりですか!」
「無視するわよ。特に蓮華。孫家の人間であるあなたの意志はね」
「っ!」
「母様の夢、孫呉の宿願…呉を独立させ、天下統一に乗り出すためにも、一刀の力が必要なのよ」
「ずるい。ずるいですよ、お姉様…母様の事を言われたら、私は何も言えなくなるではありませんか…」
孫権はしおれる花のようになった。
「知ってる。だから母様の名前を出したの。だけど安心しなさい。強制ではあるけれど、本気で嫌がるのならば無理はさせない。
それは一刀にも言ってる。まずはお互いを知り合いなさい。それが第一よ」
「……」
雪蓮と冥琳により、三人は真名を預ける事になった。
「は、はい! あの…姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命! 一刀様、よろしくおねがいします!」
明命と言う少女は緊張したように一刀に自己紹介する。
「俺は北郷一刀。こちらこそよろしく」
一刀が手を差し出すと明命は戸惑う。
「……あ、えと」
「握手だけど、ダメかな?」
「いえ! で、では僭越ながら…」
明命は恐る恐る一刀の手を取り握手する。
「未熟ものだけどよろしく」
「はい!」
(素直だな、この子。それにいい笑顔だ)
次にすごくカタブツそうな女の子が紹介した。
「我が名は甘寧。字は興覇。王の命令により真名を教えよう。思春と言う」
「よろしく」
「よろしくするかどうかは孫権様次第だな…」
思春は一刀と握手せず、一瞥し孫権の後ろに退いた。
「孫権」
「なんだ?」
「俺が胡散臭いってのはわかる、真名を教えるのは俺を知ってからでかまわない。
俺も君に俺を知ってもらうよう努力する。だから……とりあえず握手しない?」
「………」
「ダメか?」
「会ったばかりの人間の気持ちなど、見透かす事など出来ない。だけど冥琳達が私に嘘をつくはずは無い。
だから……間接的には認めてやろう。……握手はしない。その…そういうことには慣れていないから……」
そして自己紹介が終わり、部隊の再編に取り掛かり、敵の本隊があるとされる城にまで行く事になった。
その城の近くで一刀達の位置から北方に曹操、西に袁紹、東に公孫賛と劉備の部隊がいると聞く。
(いよいよ、黄巾の乱も大詰めか……)
一刀と冥琳は色々諸侯の事情などの説明などで話しているのを遠くで見る孫権に一刀は気付いてなかった。
そしていよいよ黄巾党本隊のいる城を目の前までにした。
「壮観だな」
「曹、袁、公孫、それに劉。いい感じに集まってるわね」
「計算どおりだな。これだけ集まっていれば、敵とは互角に戦えるだろう」
「じゃがわしらの参戦する場所が無ければ、功名も立てられんぞ?」
「祭の言う通りね。…諸侯の軍勢が集まっている以上、時間をかけるわけにもいかないし」
「かといって、力攻めだけでは落ちんじゃろ」
「確かにキバのドッガやガルルでも簡単には落ちなさそうだな」
「そうよね~。どうする冥琳?」
冥琳はそう言うと、穏に城内の見取り図を持ってこさせて、皆で地図を見る。
「全軍を展開できるのは前面のみ。左右は狭く、大軍で攻めるには無理がある、か」
「後ろには絶壁がそびえていて、回り込む事は不可能でしょう」
「めんどくさいから、真正面から突入しちゃおうよぉ~…」
「うむ。策殿意見に賛成じゃ」
「何をバカなことを言ってるのですか、二人とも。タチの悪い冗談を言ってる場合じゃありません」
「結構本気なんだけど……」
「なおタチが悪いです」
「……いや、案外それいいかも…」
と一刀が雪蓮達の意見を賛成するかのような事を言う。
「何を言ってるのだ、お前?」
「前面賛成ってわけじゃないけど、その真正面からの攻めを利用してこっそり入ればいいんだよ。
そんでこの地図にある本丸の横にある倉を叩く」
「でも、一体どうやって?」
「それはな…、まあ夜の方が良いな。夜襲をかける振りをしてあいつらの目を正門に惹き付けてる隙に忍び込む」
「なるほどな。なら、その後、興覇と幼平の部隊が城内に侵入。放火活動を行います。
その状況に合わせて、祭殿は雪蓮と合流し、混乱する城内に突入する。これでどうかしら?」
「良いんじゃない? ワクワクしちゃうわ」
「し、しかし…絶対に成功するという保証が無い以上、お姉様が前に出るのは反対です!」
「蓮華。戦に絶対は無い。それぐらい分かっているでしょ?」
「しかし…母様が死んだ時と、状況が良く似ていて……」
孫権は心配するが、雪蓮は心配ないと言い切る。
「なあ、俺も潜入部隊に入って良い?」
一刀は潜入部隊に入る事を希望し、何とか潜入部隊に入る事になった。
それから陣を張り、夜になった。
「ああは言ったものの…やっぱり怖いな」
「一人で何をしている」
一刀の元に孫権が来た。
「考え事だな」
「何を考えている?」
「どうすれば生き残れるか。…かな?」
「……怖いの?」
「怖いよ」
「そうか。…ふっ、男のくせに軟弱な奴ね」
「軟弱だろうな。キバに変身できなかったら特にな…。それにこの作戦の言いだっしぺは俺だ。怖いが逃げるわけにもいかんだろ。
ま、とりあえず月を眺めながら生き残れる事を祈ってた」
「そうか」
「孫権はどうしたんだ?」
「わ、私は、その……。これが私の初陣なんだ。緊張して何が悪い」
「なるほどね……ははは」
「な。何を笑っているんだ、無礼な!」
「いやいや別に悪く思ってるわけじゃない。最初に会ったときと比べると親近感が湧いたからさ」
「ふん…」
「お互い、無事でいられると良いな」
「盗賊如き下郎に遅れを取るつもりは無い。お前も安心しておけ」
「うん?」
「お前は私が守ってやる」
その時の孫権は照れ隠ししているようだった。
「うーむ」
「なんだ。私に守られるのが不満なのかっ!?」
「それは違うが、これは言える。俺もお前を守ってやるよ」
「………私は別にお前に守ってもらおうなどと思っていないぞ。
それに…私は呉の王族のはしくれとして、兵達の上に立つ。そして兵達を守ってみせる。
それがひいては民を守り、国を守る事に繋がる。…私はそう信じている」
孫権が無理をしているように一刀には見えた。
「いやいや、やっぱり俺が孫権を守るさ」
「なに?」
「孫権が兵の皆を守るなら、孫権は俺が守る」
「貴様に出来るのか?」
「仮面ライダーは…いや、俺はお前を守り通すと約束したいな」
「好きにすれば良い」
こうして孫権と一刀は分かれた。
そして作戦が決行され、明命、思春そしてキバに変身した一刀が潜入する。
キバは恐ろしい事に走りながら城壁を登っていったのだ。
「一刀様、すごい……」
「ふん、あれでは潜入にならんだろ」
しかし敵が一刀に目を向けてくれているので明命と思春は簡単に中に潜入でき、火を放つことに成功する。
一刀は城壁の上を走り、次々に敵をなぎ払うかのように倒し、突入部隊を城壁から射ろうとする敵も簡単になぎ払った。
そして戦いは一刀達の勝利で終わるが、一刀が本陣に戻る道には黄巾党の屍が多数あった。
「また人が死んでいったか……」
一刀は変身を解いて本陣に歩いて帰った。
それから本拠地に向かっての凱旋の中、一刀は眠れず外に出ていたら…。
「また一人で考え事?」
「孫権か。そうだよ」
「何を考えているの?」
「自分でも良く分からん」
「ふ~ん?」
「まあ生き残る事が出来て良かったという気持ちがあるのは、よくわかってるな」
「その割には浮かない顔ね」
「ま、色々あるんだよ。俺の心にはな…。それを考えているのさ」
「そう、色々考えているのね、あなたって」
「一応…(うん? あなた?)」
「……」
「ところで孫権はどうした? 寝れないのか?」
「あなたに言いたいことがあったから…」
「何をだい?」
「あ…あなたの、その…戦いぶりはしっかりと見させてもらったわ」
「ああ、キバのあれか…。だが俺はそれでも敵に手加減してたんだぜ。雪蓮と約束したのに……それを考えるとダメダメだぜ」
「それでも戦い抜いたでしょう。……少し見直したわ」
「ありがとう」
「それで、その…失礼な事を言った事に対して謝罪しようと思って…」
「何か失礼な事を、孫権したっけ?」
「むぅ…そんな風に言われてしまうと、謝る事が出来ないじゃない…」
「謝る必要は無いんだ。孫権は孫家の一員として、王となるべき人間として、気を張ってるだけなのは知ってるからな。だから気にしないでくれ」
「気にしないでくれと言われて、そうかって納得できるほど、私は薄情じゃない。
だから…私の気の済みようにさせて欲しいの。ダメかしら?」
「いいけど、どうするんだ?」
一刀がそう言うと、孫権が手を差し伸べる。
「私の真名は蓮華という。この名、お前に預けたいと思う」
「分かった。俺は北郷一刀。改めてよろしく蓮華」
一刀は蓮華の手を取り握手した。
「よろしく…一刀」
おまけ
作者「どうかな仮面ライダー×真・恋姫†無双 呉編 第2章」
一刀「今回もひねりが少なかったな」
作者「何度も言っているが、呉編は書きにくい。それに呉の場合だと一刀は軍師的な役目だからな。でも仮面ライダーの力のせいで軍師というより戦士的な役割が大きいからな。それもあって書きにくいんだよ」
一刀「そうなのか…。そういえば、前回のコメント…」
作者「ああ、仮面ライダーが人殺しっだな……」
一刀「お前はどう思ってるんだ?」
作者「俺だって、仮面ライダーに人殺しをさせたくないし、まして一刀となるとますますな…。そんなの書いてる俺が一番よくわかってる」
一刀「でも呉編って…」
作者「結構重い話が多いんだよな…。それでも俺は最後まで書く! 例えどんなに批判的な事を言われても俺は戦う! それでは…!」
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基本的には真・恋姫†無双の呉ルートの話ですが、もしも北郷一刀が仮面ライダーの力を手に入れたらという妄想から生まれました。
そして流れも基本的に原作のままですが、仮面ライダーの力があるためセリフや一刀の態度が違うところや話そのものが大きく違うところも出てきたりします。
そのためそんなの嫌だという方は閲覧をご遠慮願います。
先に言いますが一刀が手に入れる仮面ライダーの力は全部で3つです。何が出るかはお楽しみ。