街を彩るイルミネーション。
そこら中から聞こえてくるクリスマスソング。
周りの人々は笑顔が溢れ、楽しい雰囲気に更なる彩りを添えている。
その中を体を寄せ合い歩く二人。
その姿は、さながら物語から飛び出してきた王子様とお姫様のよう。
恋人達のクリスマス……。
そんな素敵な一夜を過ごしませんか?
「はぁ、素敵……」
読んでいた雑誌を机に置いて桃香は胸の前で手を合わせながら天井を眺めていた。
その表情は、幸せに惚けている。
桃香の頭の中では、先ほどの雑誌の書かれていたイルミネーションの中を一刀と二人、体を寄せ合いながら歩く姿が映し出されていた。
(はぁ、なんか幸せ……)
そんな桃香の元に、冷静な妹とやんちゃな妹が来ていた。
「桃香様……」
「何を読んでいたのだ?」
二人の問いかけに反応しない桃香。
それどころか、さらに自分の世界へと入り込んでしまう始末。
「愛紗~、反応しないのだ」
「仕方ないな……。桃香様!!」
「うわぁ!!」
愛紗の大声で桃香は我に返った。
「愛紗ちゃんに鈴々ちゃん……。もう、びっくりさせないでよ!!」
「すみません……。いや、声をかけても全然返事をしなかったので……」
「そうなのだ!! 鈴々達の事を無視してたのだ!!」
妹達の訴えに桃香は申し訳なさそうにお辞儀をした。
「そうだったの。ごめんね」
「いえ、分かってもらえれば……」
「ところで、何を読んでいたのだ?」
「あー、えっとこれだよ」
そう言って桃香は二人に先ほどまで読んでいた雑誌を見せた。
「わー、クリスマスなのだ!!」
「クリスマスって……、鈴々知っているのか?」
「ううん、知らないのだ」
鈴々の回答に唖然となる二人。
さも知っているかのような先ほどの態度はなんだったのだ。
愛紗は鈴々の相変わらずの態度に溜息をついた。
だが、愛紗自身もクリスマスの事はよく分からない。
「クリスマス……、最近よく聞くのだがよくわからないな」
「愛紗ちゃん、知らないの? クリスマスはね――」
「元々はキリスト教のお祝いの日だったようだな。だが、いつしかそういう事は関係なくケーキを買い皆で楽しむ日になったようだ」
「星!!」
「むぅ、私が説明しようと思ったのに……」
桃香が説明しようとすると、そこに星が割り込み説明をした。
むくれる桃香などお構いなしに、星は自分の知識を披露していく。
そんな中、鈴々が聞いてきた。
「キリスト教って何なのだ?」
鈴々のこの質問にさすがの星も開いた口がふさがらない。
「鈴々!! 今までどんな勉強をしてきたんだ!!」
「勉強は嫌いなのだ~!!」
そういえば、体育はいいのにそれ以外がさっぱりだなと愛紗は思い出した。
しかし、実際にキリスト教が何かと説明するのは難しかった。
そこへ、蜀の頭脳たる二人の少女が来た。
「キリスト教はイエスキリストを祖とする宗教の一つです」
「様々な宗派がありますけど、キリスト教は世界で多く信仰されている宗教の一つですね」
「朱里に雛里か……」
一通りキリスト教とは何かを披露してから朱里はみんなに聞いた。
「皆さん、何の話をしているんですか?」
「クリスマスの話だよ」
「クリスマスですか、いいですね」
「朱里ちゃん、クリスマスと言えば……」
「はわー!! そ……、そうでした!!」
「なに、朱里どうしたんだ?」
「はわわ……、な……なんでもありましぇん」
雛里に耳打ちされてから朱里は途端にそわそわし出し、言葉も噛みまくっていた。
愛紗と星はこの様子にクリスマスに何か企んでいる事を察したが、桃香と鈴々は首を傾げるばかりだった。
その後は、桃香を中心にみんなで色々雑談をし出した。
みんなでの会話は楽しいのだが、時々周りが見えなくなってしまうことがあった。
まさに今がそれで、すでに休みの終わりを告げるチャイムは鳴っているのだが、それでも雑談は終わりを告げようとしていなかった。
そのうち、次の授業の先生が現れ集まっている場所の後ろで咳払いをした。
途端に今の状況に驚くみんな。
急いで自分達の教室へと戻っていった。
そんなみんなの姿を見ながら、桃香はある種の幸せを感じていた。
そんなやり取りの後、女子寮に戻ったみんなはクリスマスの話でさらに盛り上がった。
そこには先ほどの会話に加わらなかった翠や蒲公英、白蓮や麗羽達、月や詠、恋や音々音、美以達も加わりかしましさが数倍になっていた。
それぞれがクリスマスに関する情報を持ち寄り、それらを披露していく。
その中で、いつしか誰が一刀と一緒に過ごすかという話題になっていった。
桃香や恋、美以達のように堂々と宣言する者。
麗羽や詠のように全く興味ないと言う者。
朱里達や翠達のように興味がなさそうに装いながらも虎視眈々と狙っている者。
その場はさながらカオスの様相を呈していた。
楽しかったはずの雑談が、だんだん危険な状況へと変貌していく。
だが、それを解きほぐす者がいた。
管理人室から聞こえてくる明るい声である。
そこでは、璃々が母親の紫苑と共にクリスマスの飾り付けをしていた。
桔梗が紫苑と共に璃々の手伝いをする一方、焔耶は桔梗に命ぜられるまま璃々では難しい高い場所の飾り付けをやらされていた。
飾りの定番であるクリスマスツリーを始め、リースや簡単なイルミネーションなどまざにクリスマスというに相応しい飾り付けがなされていった。
そして、ある程度の飾り付けが終わった後、紫苑が璃々に聞いた。
「璃々、サンタさんには何をお願いするの?」
その質問に璃々はちょっと考えて言った。
「うーんとね……、お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃんって一刀さんのこと?」
「そうだよ!! 璃々、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!!」
「そうなのねー」
笑顔で答える紫苑。
そんな璃々の言葉に、桃香達はこんな所にもライバルがいたと、嫉妬に近い感情を抱いた。
だが、璃々の次の言葉にその気持ちは次第に和らいでいった。
「でもね、桃香お姉ちゃんも愛紗お姉さんも、他のみんなもそれにお母さんもお兄ちゃんの事好きだから、みーんなでお嫁さんになれるといいなぁ」
「そうねぇ」
璃々の言葉に紫苑はもちろん、桔梗も思わず笑顔になる。
焔耶は、複雑そうな表情だった。
そして、それはその様子を見ていた他のみんなも同じだった。
一刀が好きな事は事実だ。
だが、そのせいで争っていても仕方ないじゃないか。
それよりも今はみんなで楽しくクリスマスを過ごそう。
璃々の言葉に、誰もがそう思った。
そう決めてからの行動は早かった。
みんなで寮全体を飾り付けようという事になった。
次々と色鮮やかに飾り付けられていく女子寮。
桃香達だけじゃない、他の女生徒達もその輪に加わり例年にない規模での飾り付けとなった。
「うわぁ、凄くキレイだね!!」
飛び跳ねるように喜ぶ璃々。
そんなみんなの様子を見ながら桔梗はうなずき、紫苑もそれに合わせて笑顔を浮かべる。
イブのその夜は、いつにない素敵な時になる・・・。
そんな予感がしていた。
あとがき
クリスマス間近という事で、恋姫とクリスマスを合わせてみました。
まずは蜀編となります。
現代が舞台なので、結構好き勝手にさせてみました。
もっと各々に話させて個性を出したいところですが、まとまりが付かなくなりそうだったのでこの程度にしました。
クリスマス要素無いじゃないかと言われればそうかも・・・(^^ゞ
イベントとの併合は難しいですね。
中途半端に終わっているように感じるかもしれませんが、その辺は後で補足できればと思っています。
次は、魏編の予定です。
ご覧いただきありがとうございました。
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もうすぐクリスマス。
というわけで、恋姫達のクリスマス物語を書いてみました。
まずは、蜀編となります。
舞台は現代なので、一刀の事はご主人様ではなく名前で呼んでいるなど原作と差異があります。
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