霞さんとやり取りしているちょうどその頃、前線は大混乱でした。
虎牢関に籠城すると思われた呂布さんが打って出てきたのです。
前線中央にいた西涼その他の軍勢は、突然の襲撃に対応しきれなかったようです。
唯一、馬超さんだけ何とか耐えていたようですが、それも焼け石に水の状態。
中央はほぼ壊滅しました。
これではまずいと言うことで、曹操さんのところにいる夏候惇さんと夏候淵さん。
さらに袁紹さんの二枚看板である文醜さんと顔良さんが加わり、呂布さんの動きを何とか止める事が出来ました。
ですが、それはよくて現状維持という状態。
曹操さんも袁紹さんもかなりの打撃を受けました。
そこに、袁術さんのところにいた孫策さんが加わって、ようやく呂布さんより有利になりました。
さらにはこの事態を予見していたのでしょうか、愛紗さんも加わりました。
我が軍は、指示不足を考え稟ちゃんに前線に向かってもらいました。
一騎当千の武将達、そして稟ちゃんの知力を持って有利に戦いを進められたのですが、それでも結局呂布さんを討つことは出来ず逃がす形となりました。
ですが、結果としてようやく虎牢関を落とすことが出来たのです。
「以上、前線を見張っていた兵士さんからの報告です~。」
「恋は、流石やなぁ。」
「ああ・・・。」
「いや、褒めている場合じゃないと思うんだが・・・。」
「それで、稟はどうしたのだ?」
前線に行っていたのは稟ちゃんです。
なので、この報告も稟ちゃんからされるべきなのでしょうが、報告をしてきたのは状況を見張っていた兵士さんでした。
「それが・・・ですねぇ~。」
「すみません、戻るのが遅れました・・・。」
こう言いながら稟ちゃんは天幕へと戻ってきました。
「ご苦労だった。遅れたわけは?」
「前線は想像以上の混乱状態で、その事態収拾に時間がかかってました。」
「そうか・・・。それで次は私達が前衛というわけか。」
袁紹さんからの指示で、洛陽への突入は私達と桃香さん達が前衛となりました。
虎牢関で前衛を務めた皆さんの呂布さんからの被害が尋常ではなかったようです。
私達や桃香さん達は幸いにもその被害を被る事がなかったので次は前衛というわけです。
先に洛陽に入れると言うには、かなりいい事です。
華雄さんと霞さんから洛陽の事は、ある程度聞く事が出来ていたのでそれほど危険がない事は分かっています。
さらにその月さんの事もあるので、真っ先に洛陽に入りたかったのでそういう意味でもよかったです。
ただ、あまりにも話がうますぎる気がしました。
これが私のただの杞憂に終わればいいのですが・・・。
洛陽までの道のりは順調でした。
董卓軍など一切いません。
それもそのはず、華雄さん霞さんの話では、汜水関、虎牢関にしか兵士さんは配置していないそうです。
さらには洛陽にもそれほどいない事も聞きました。
なので、私達は安心して行軍を進めました。
数日後、洛陽の前に着きました。
洛陽はシーンと静まりかえっています。
まるで生き物など何もいないような、そんな風に思えます。
これには、華雄さんと霞さんも驚いていました。
「圧政なんてあらへんが、街にはきちんと人がいるはずやで。」
「ああ、門番なども配置しているはずだ。」
二人が嘘をつくとは思えません。
ですが今の洛陽の状態を見ると、とてもじゃないですが二人が真実を言っているとは思えませんでした。
「さて、いきなり突入するのは危険だから数名に行ってもらいたいのだが・・・。」
白蓮さんが言いました。
これは当然でしょう。
それほど危険がないと分かってはいても、今の洛陽の不気味な状態では突入などままなりません。
偵察に行くのであれば、名乗り出ないわけにはいきません。
「風が行きましょう。」
私は真っ先に名乗り出ました。
軍師が何もと思われるかもしれませんが、偵察する部隊を指揮する立場なのでその辺りの心得もあります。
何より、今冷静に状況を見ることが出来るのは私だけだと思っています。
「風が行くなら私も行こう。」
星ちゃんが名乗り出てくれました。
星ちゃんが一緒にいてくれれば怖いモノなしです。
「ウチらも行ければええんやけど・・・。」
「すまん・・・。」
華雄さんと霞さんがそう申し訳なさそうに言います。
二人の存在を今はおおっぴらには出来ません。
なので、部隊の中で大人しくしてもらっています。
「決まったな。では風と星、気を付けて頼む。」
白蓮さんの言葉に二人で頷くと洛陽に向かいました。
が、ここでさらに名乗り出る人がいました。
「俺も・・・一緒に連れて行ってくれないか?」
「お兄さん!?」
「北郷殿・・・。」
そう、お兄さんです。
腕の怪我もほどよくなり、今は兵站などをしているのですがまさか洛陽偵察に名乗り出るとは思いませんでした。
「北郷殿は安全が確認できてからがいいと思うのだが・・・。」
「そうですよ~。偵察なら風と星ちゃんにお任せ下さい~。」
「いや、そうなんだけどさ・・・。何となく俺も行かないといけない。そんな気がするんだ。頼むよ!!」
そう言ってお兄さんは頭を下げます。
こうされては、私は反論できません。
あとは、白蓮さんの判断になります。
白蓮さんは星ちゃんの方向を見てから一つ溜息をつきました。
「星、すまないが・・・。」
「愚問ですぞ、白蓮殿。」
申し訳なさそうに言う白蓮さんにあっさりと返事をする星ちゃん。
そして、洛陽に向けて歩き出しました。
「行くぞ、風、北郷殿。」
「はいなのです~。」
「あ・・・ああ・・・。」
自分で言い出しておきながらお兄さんは、戸惑うような足取りで私達の後を着いてきました。
洛陽の中にはあっさりと入れました。
門番すらいない状況です。
というより、人っ子一人いないというのが正しい表現でしょうか。
「まるでゴーストタウンだな。」
「ごーすとたうん?」
「それは何なのですか~?」
聞き慣れない言葉です。
これは天界の言葉なのでしょうか?
「あー、そうだったね。ゴーストというのはお化け。タウンは街。つまり人がいないお化けが出そうな街がゴーストタウンって事かな。」
「なるほど、そう言う意味なのなら確かに今の洛陽はゴーストタウンとなるな。」
「そうですね~。」
お店や家々の戸は閉められており、人が住んでいる様子は全く見られません。
私達は三人一緒に行動しています。
他の場所は、私と星ちゃんの部下の兵士さん達に二人一組になって探索させています。
霞さんは安全な事を言ってましたが、斥候さんが一切帰ってこなかった街です。
大事に越したことはありません。
と、ここで目の前に人影が現れました。
今まで人の気配など全くなかったのにどこに隠れていたのでしょう。
白装束を被った風変わりな連中が次から次へと出てきました。
星ちゃんとお兄さんは獲物を構えます。
私もいざというときの護身用の短剣を取り出しました。
「北郷一刀は悪だ!!滅ぼさねばならぬ!!」
そう言いながら、その白装束軍団はお兄さんに向けて襲ってきました。
「させるか!!はあ!!」
襲ってきた連中を星ちゃんがなぎ倒していきます。
お兄さんも、何とか追い返しているといった感じです。
私は二人の邪魔にならないように動きました。
数は多いですが、所詮烏合の衆です。
星ちゃんの相手にはなりませんでした。
そして、何人か倒していた時です。
今までとは明らかに動きの違う人物が現れました。
「傀儡とはいえ、さすがに奴の遺伝子を受け継いだ者だ。一筋縄ではいかないか・・・。」
「誰だ!?」
その人が現れると、なぜか周りにいた連中が姿を消しました。
その人はお兄さんくらいの年齢でしょうか。
ただ違うのは非常に冷たい目をしている事でした。
「おぬしは何者だ!!」
「お前などに用はない。用があるのは北郷一刀だ!!」
「俺?俺、あんたの事知らないけど?」
「知る必要はない・・・。なぜなら、お前はここで死ぬからだ!!」
そう言うと間髪入れずにお兄さんに襲ってきました。
ですが、その攻撃は星ちゃんによってはじかれます。
「北郷殿は天が遣わしたこの大陸に平和をもたらす者。この趙子龍の目の黒いうちは死なせるわけにはいかぬ!!」
そう言って星ちゃんはその人に向けて槍を振り下ろします。
「ふん。傀儡ごときが俺の相手になるか!!」
星ちゃんの攻撃は確実に捕らえていました。
ですが、その人はその攻撃を蹴りではじき返したのです。
さすがの星ちゃんもその動きに唖然としてしまい少し動きが止まりました。
その隙を突かれ、その人はお兄さん目掛けて走ってきました。
そして、防御行動をする間もなく、その蹴りをお兄さんに向けてきたのです。
お兄さんが殺されてしまう。
そう思っていても私にはどうする事も出来ず、ただただ自分の無力さを呪うだけでした。
しばらくしてバキッという音がしてお兄さんがやられた・・・と思いました。
ですが、その蹴りはお兄さんに届く前に別の巨漢の男に抑えられていたのです。
「なっ、なんでお前がここにいる!?」
「ぐふふ・・・。オイタはだ・め・よ。」
「そいつはイレギュラーな存在なのだ!!ここで消さねばこの世界がどうなるか分からないのだぞ!!」
「それを決めるのは私達じゃないでしょ。自分の思い通りにならないからってこんな事しちゃダメじゃない。」
「ぐっ。」
さっきから何の話でしょう。
ただ、状況を見る限りあのお兄さんと同じくらいの人とこの巨漢の男は知り合いのようです。
何度か言い合いをしたかと思ったら、相手の男が振り向きました。
「くそっ、ここでは一旦退くが・・・。北郷一刀!!必ずお前の命を奪ってやるからな!!」
「そんなことはさせぬぞ!!・・・ってなぜ止める?」
捨て台詞を吐いて逃げていく男を星ちゃんは追いかけようとしました。
しかし、星ちゃんはその巨漢の男に止められてしまいました。
「追いかけても、む・だ・よ。あいつに追いつくのはむ・り。それに追いついても今のあなたでは相手にならないでしょ?」
「それはそうだが・・・。」
星ちゃんと巨漢の男がやり取りをしている横で、私はお兄さんに駆け寄りました。
「お兄さん、大丈夫ですか~?」
「あぁ、なんとか・・・。けど、あいつは何者なんだ?」
「知らないのですか~?」
「見たこともない。」
そう言ってお兄さんは空を見上げました。
その表情は酷く寂しげに見えます。
おそらく、あの男に言われた事が気になるのでしょう。
確かにそれも気になるところですが、今一番気になるのはあの巨漢の男です。
まだ星ちゃんと何やら話をしていますが、それに割り込むことにしました。
「ところで、あなたは何者ですか~?」
「私?私は貂蝉。ここ洛陽に住むしがない踊り子よ。」
そう言って貂蝉と名乗った男はウインクをしました。
色々言いたいことはありましたが、踊り子と名乗った段階でその場の空気が凍り付きました。
お兄さんはその名前に驚いているようです。
「お・・・お前が貂蝉・・・?」
「何よ。変な名前だって言うの?」
「いや・・・俺の知っている貂蝉とは雲泥の差があってな・・・。」
「あら。そんなに私が美しいって事か・し・ら。」
「いや、逆・・・。」
そうお兄さんが言った瞬間、場の空気が変わりました。
そして、身の危険を感じたお兄さんは続きを言うのをやめました。
「ところで、貂蝉とやら。あいつらは何者だ?知り合いのようだが・・・。」
「迷惑かけちゃったわね。昔からああやって暴走する事があるのよ。でも安心して。あいつが襲ってきても私が助けてあげるから。」
そう言ってお兄さんに近づく貂蝉さん。
「あ・・・ありがとう・・・。」
お兄さんはそんな貂蝉さんから離れながら返事をしました。
それから、貂蝉さんに色々質問したのですがのらりくらりとかわされるばかりでなかなか核心を言ってくれません。
この人は、相当なくせ者のようです。
そんな事を考えていると、部下の一人が戻ってきました。
「程昱様、向こうの通りで貴族の女性と思われる人物が多数の護衛を連れておりますが、いかがいたしましょうか?」
「貴族の女性ですか~。行って話を聞きましょう~。」
「そうだな。貂蝉は何も教えてくれなさそうだしな。」
「そんなこと無いわよ。ちゃんと私のスリーサイズを・・・。」
「そんなもん、聞きたくないわ!!」
貂蝉さんの言葉に大声で反論するお兄さん。
スリーサイズとは何のことでしょう?
ちょっと気になりましたが、それよりも今はその貴族の女性が大事です。
私達は、その女性がいるという通りに向かいました。
その女性の一団は私と星ちゃんの部下達に囲まれていました。
抵抗する様子はないです。
私達は、部下達をかき分けてその女性達の前に立ちました。
確かに一見すると貴族の女性という表現が正しいでしょう。
ただ、その物腰から単なる貴族ではないようなそんな気が私はしました。
と、ここで貂蝉さんが驚きの発言をしました。
「あらぁ、董卓ちゃんと賈駆ちゃんじゃない。」
「えっ!?」
「と・・・董卓?」
「そうですか~。」
貂蝉さんの発言にビクッとしましたが、すぐに落ち着きを取り戻したその女性は頷きながら言いました。
「はい、私が董卓です。」
「ゆ・・・月!?なんで・・・。」
その董卓と名乗った女性の横でもう1人の女性が驚いていました。
彼女が賈駆さんなのでしょう。
そして、その女性が名乗った月という名前。
これで、霞さんや華雄さんが言っていた月という名前の謎が解けました。
彼女達は董卓さんの事を言っていたのですね。
しかし、董卓さんの有利にとか時間稼ぎとかがよく分かりません。
その辺りの話を聞ければと思ったのですが、それよりも今私達の目の前に今回の目的である董卓さんがいるという事実が大事です。
「どうしましょうかね~。」
「風、どうしようって?」
「今目の前にいるのは、私達がここまで来る目的だった董卓さんです~。」
「そうだな。」
「普通に考えれば、総大将の袁紹さんに引き渡すべきでしょうが~。」
私がそう言うと賈駆さんが私と董卓さんの間に割り込みました。
「月は渡さないわ!!」
「詠ちゃん・・・。」
そんな賈駆さんの様子に私は首を振りました。
「勘違いしないで下さい~。風は普通はと言いました~。直接洛陽に来て、袁紹さんが言うような圧政はありませんでしたし、先ほどの白装束の集団も気になります~。」
「確かに、その辺りの事を色々聞きたいとは思うが、このまま董卓殿を匿うという事になれば、今の連合がそのまま我々の敵になりかねん。」
「そうですね~。」
私と星ちゃんがうーんと唸りながら考えていると、お兄さんが言いました。
「それじゃ、董卓さんには死んでもらおう。」
「なっ!?」
お兄さんの言葉に、董卓さんは言葉を失い賈駆さんは驚きました。
そして、賈駆さんの表情が怒りに変わりお兄さんの首を掴みながら怒鳴りました。
「あんた!!月に死ねって言うの!!そんなのボクが許すわけないでしょ!!」
「ちょ・・・ちょっと待てって・・・。ふりだよ、死んだふり。」
「ふり?」
お兄さんの言葉に、賈駆さんの手が離れました。
お兄さんはゴホゴホと軽く咳をしてから言いました。
「袁紹達に渡したくないなら死んだ事にするしかないじゃないか。」
「確かに、それなら言い訳も出来ますね~。」
「だが、北郷殿。彼女達はどうするのだ?袁紹殿はおそらく董卓殿の顔を知っておろう。見つかるとまずいのではないか?」
星ちゃんの懸念はもっともです。
いくら偽装を行っても見つかってしまっては元も子もありません。
しかし、この懸念は杞憂に終わりました。
「それなら大丈夫だと思います。私は袁紹さんに会ったことありませんから・・・。」
「本当か?董卓殿なら他の諸侯達と顔見知りだと思ったのだが・・・。」
「いいえ。私は政には顔を出していません。それは全てこの詠ちゃんにしてもらっていましたから。」
そのように紹介された賈駆さんはふんという感じに横を向きました。
「なら、賈駆さんでも見つかったらまずいのではないですか~?」
「大丈夫よ。ボクは見つかるなんて失敗はしないから。ってなんでボクの名前を?」
「董卓さんのそばに仕え、政を引き受ける軍師と言ったら賈駆さんしかいません~。簡単な推理ですよ~。それに先ほど貂蝉さんも名前言ってましたし~。」
そう言った矢先、外が騒がしくなってきました。
そして、私の部下が報告に来ます。
「申し上げます。連合軍が洛陽に突入するとの命令が出されました。あと一刻もしないうちに連合軍が突入してくると思われます。」
「なんだって!!」
「まだ調査完了の報告はしていないはずなのですが~。」
私達は困惑しました。
私達が現地調査をして報告してから突入と言うことになっていたはずです。
それがされたという判断でしょうか?
それにしては行動が早すぎますし無理もあります。
何とも分からない事態になりました。
しかし、貂蝉さんだけ心当たりがあるようです。
「きっと、あの子の仕業ね。」
「あっ、さっきの奴か。」
「まだ董卓殿達をどうするか決まっていないうちに突入されるのはまずいな。どこか匿えるところがあればいいのだが・・・。」
星ちゃんの言葉に、貂蝉さんが応えます。
「ウチならここから近いわよ~。」
「じゃあ、貂蝉の家に行こう!!董卓さん達もいいよね?」
「え・・・ええ・・・。」
「どのみち、選択肢なんて無いじゃない!!」
董卓さん、賈駆さんも了承したので、私達は貂蝉さんの家に行きました。
そして、私の部下に白蓮さん達をここに呼ぶようお願いしました。
貂蝉さんの家は、洛陽の中でも一際目をひく大きさでした。
ここなら色々な意味で安全でしょう。
ですが、それだけ目立つため袁紹さん達に目を付けられる可能性もあります。
それは貂蝉さんが何とかしてくれる気がしました。
ほどなくして、白蓮さん達がここに来ました。
中に入ってすぐに、霞さんが董卓さん達の姿を確認するとものすごい勢いで走ってきました。
そして、董卓さんを思いっきり抱きしめました。
「月~!!無事やったんやなぁ。」
「し・・・霞さん、苦しいです・・・。」
苦しがっている董卓さんに気付き、霞さんは抱きしめるのをやめました。
そして、今度は賈駆さんがいる方向に向き言いました。
「詠も無事で何よりや。」
「ボクがこんなところで死ぬわけないじゃない!!月の事もあるし・・・。それより、なんであんた達が公孫賛軍と一緒にいるのよ!!」
「それは、ウチらが公孫賛軍に下ったからや。」
「ああ・・・。」
「な・・・なんですって!!」
華雄さんと霞さんの言葉に激怒する賈駆さん。
確かに堂々と自分たちとは違う軍に下ったなどと言われれば、軍師としては怒る他ありません。
「く・・・下ったってボク達を裏切ったって事!?」
「裏切ってはおらへんで。」
「ああ・・・。」
「でも、今公孫賛軍にいるってボク達の敵って事じゃないか!!」
華雄さんと霞さんは必死に否定しますが、賈駆さんは取り付く島が無いためいつまで経っても話が進みません。
白蓮さんが仲裁に入ろうとしましたが、その前に賈駆さんの前に立つ者がいました。
そして、パチンという大きな声が響いてきました。
それは、董卓さんが賈駆さんの頬を叩く音でした。
これには、その場にいたみんなが驚き唖然としてしまいました。
一番唖然としたのは叩かれた賈駆さんでしょう。
董卓さんは自分で叩いた頬を撫でながら言いました。
「詠ちゃん、そんな悲しいこと言わないで!!二人が裏切るはず無いじゃない!!こうしてまた私達の前に来てくれて、思いっきり抱きしめてくれる人が裏切り者のはずないもの!!」
それだけ言うと、恥ずかしさからかうつむいてしまいました。
賈駆さんは唖然としながらも、董卓さんの行動で今の状況が分かったようです。
うつむき加減の董卓さんを抱きしめました。
「月・・・、ごめん・・・。」
「分かればいいんだよ。それに、謝る相手は私じゃないでしょ?」
董卓さんがそう笑顔で言うと、賈駆さんはうなずき華雄さんと霞さんの前に立って頭を下げました。
「裏切り者呼ばわりしてごめん・・・。」
「別に分かればいい。」
「頭上げーや。詠らしくないで。」
「そうだね。」
そう言って頭を上げた賈駆さんは笑顔でした。
なんとか事態の収拾が図れたところでこれからの事です。
とその前に疑問を投げかけてくる人がいました。
「ところで、この二人は誰だ?」
そう、この事態を知らない人、白蓮さんです。
董卓さん達が見つかり匿っていると言うことは話してはいません。
「この二人が董卓と賈駆や。」
私が言う前に霞さんが言っちゃいました。
「董卓と賈駆って・・・。私達の敵じゃないか!!」
「そうですね~。」
「そうですねってなんでそんなに悠長なんだ?」
「それはお兄さんに説明してもらいますか~。」
「お・・・俺?」
先ほどからずっと黙っているお兄さんに白羽の矢を立ててみました。
そもそも死んだふりをすると提案してきたのはお兄さんです。
なので、その説明責任はお兄さんにあります。
「白蓮、この二人は死んだことにしてもらおうと思うんだ。」
「死んだふりというわけか?」
「そう。この洛陽に袁紹が言うような圧政は存在しなかった。だから、董卓が檄文で言われていた事のような罪がないなら狙われる必要は本当はないと思う。けど、袁紹や他の連中は納得しないと思うんだ。だから、死んだ事にしようと思ってね。」
「理屈は分かる。だが、私達がそこまで義理立てしてやる必要はあるのか?」
白蓮さんの言い分は尤もです。
この策を施すという事は、私達が董卓さんと賈駆さんを匿う事になります。
この二人を匿うだけの価値があるのか、それ以上に見つかった時の危険性が大きいというのもあるのでしょう。
一国をあずかる太守としては、それは考えなければならないことです。
そして、その事に同調する人がいました。
他でもない董卓さんその人でした。
「そうです。私達を助ける事にあなた方にはなんの利点があるのですか?見ての通り何の力もありません。死んだふりをしても、見つかる危険性もあります。」
「別に利点なんて無いよ。」
董卓さんの言い分にあっさり答えるお兄さん。
これには、董卓さんも面食らっていました。
お兄さんは董卓さんに近づきました。
「こうやって出会って言葉を交わしたんだ。そんな相手を殺されたくない、それだけだよ。」
そう言って董卓さんの手を握るお兄さん。
突然の行動に、董卓さんは驚きながら頬を赤く染めます。
白蓮さんは呆れ、星ちゃんや華雄さん、霞さんはやるなと感心しています。
私は・・・なんでしょう。
なんかムカムカと不思議な感覚に囚われていました。
そして、賈駆さんは別の意味で真っ赤になるとお兄さんに蹴りを食らわせました。
お兄さんの体は、かなり飛ばされました。
「どさくさにまぎれて月に何してんのよ、この変態!!」
「詠ちゃん・・・、そんな事しちゃダメだって。」
「月、だまされちゃダメよ!!男はみんな狼なんだから!!」
「狼?」
「そうだな、北郷殿は“狼”だな。」
どさくさに星ちゃんがとんでもない事を言います。
董卓さんは意味が分からず首をかげています。
賈駆さんは、星ちゃんが言ったお兄さんの名前に驚いているようです。
「あんた、北郷っていうの!?」
「いててて・・・。ああ、そうだよ。北郷一刀って言うのが俺の名前だよ。」
「北郷一刀って・・・。」
「天の御遣い様・・・?」
そういえばまだ紹介していませんでした。
お兄さんの名前を聞き二人は唖然としています。
「なあ、俺ってそんなに有名か?」
「有名も何も、知らない人間なんてこの大陸にはいないでしょ。」
「すごーい!!」
董卓さんは何やら喜んでいますが、結局この二人をどうするか結論がまだ出ていません。
そんな事態に白蓮さんが話を進めます。
「北郷の言い分は分かった。だが、この二人を本初達に見つからずに匿うと言うのは大変だぞ。」
「それはどうにかなるんじゃない、なあ風?」
ここで頼りますか。
でも、それが軍師というモノです。
「そうですね~。お二人が表舞台に出ずにいれば大丈夫だと思いますよ。」
「表舞台に出さないか・・・。具体的に何か案あるか?」
「色々あると思いますが~。白蓮さん付きの侍女という事でどうでしょう。」
「侍女か・・・。確かにそれなら表舞台には出ないで済むな。だが、私には侍女はいらないが・・・。」
「なら、お兄さんにはどうでしょう?」
「俺?だって、俺は雑用係だぜ。そんな俺に侍女って・・・。」
「それなら、侍女じゃなくて一緒に雑用をする手伝いにしたらどうだ?」
「それならいいか・・・。」
どうやら決まったようです。
ですが、賈駆さんは不満があるようです。
「ちょっと、勝手に決めないでよ!!なんでボクがそんな事・・・。」
「詠ちゃん・・・。私はそれでいいよ。処刑されてもおかしくない状況なのにこの人達はそれをしようとしないどころか、匿ってくれるっていうのよ。」
「せやで、賈駆っち。もう少し大人にならなぁ。」
「そうだな。」
賈駆さんだけ反対のようですが、董卓さんに言われては従わざるおえないようです。
しぶしぶ了承しました。
「けど、あんた!!一緒の役目だからって月に手を出したら承知しないからね!!」
「そうだな、北郷殿は“狼”だからな。」
「せやせや。」
「ちょっと、俺はそんなコトしないって!!」
「どうだか・・・。」
白蓮さんがそう言うとみんなが笑い出しました。
その横で董卓さんだけ、相変わらず何の事だか分からず首をかしげていました。
一方その頃、屋敷の周りでは袁紹軍や曹操軍の(主に男性の)悲鳴が響いていたそうです。
あとがき
うわあ、かなり遅れてしまいました。
と言うわけで、その10です。
もうツッコミどころ満載と言ったところでしょうか。
期間が空きすぎてしまい、話の流れを掴み直すのに苦労しました。
何とかまとめられると思うんですが・・・。
まず、最初の恋の戦闘シーンですが、この物語は風の視点で進むので基本的に風が見ていない事は語りません。
なので、普通の小説なら細かく戦いシーンがあったりするモノですが、それも省略です。
恋は、ここで仲間にするよりは逃がしてという方がいいと思いこんな感じになりました。
でも、翠、春蘭、秋蘭、猪々子、斗詩、雪蓮、愛紗、稟が揃って取り逃がすって強すぎたかなぁ^^;
白装束集団については、真恋姫では出てこないのでそれを謳っている以上出てくるのはおかしいと思う人もいるかもしれません。
ただ、アニメ版には于吉も出たし同じ恋姫だからいいかなぁと思ってます。
風視点で且つ従来とは違う感じにするには、こういった分かりやすい敵キャラを作らないと難しいです。
とはいえオリジナルにすると批判の対象になりますからという苦肉の策です。
後半、言い方がくどくなっているのは仕様・・・もとい作者の文書力のなさです。
もっと効率よく書けるように努力していきたいですね。
あと、同じく後半部分に稟の台詞がないのはわけがあります。
それは次回かなぁ。
次は、反董卓連合が終了後になりますね。
年内にアップできればいいなぁという感じなので気長にお待ちいただけると幸いです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真・恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
またまたかなり期間が空いてしまいすみません。
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