雪天小学校3年1組、社会科の時間。
黒板には、<レポートの宿題:わが街のヒーロー・ヒロイン>の文字が書かれている。
マイカ先生「ということで、皆さんには夏休みの宿題として、<わが街のヒーロー・ヒロイン>というレポートを書いて提出してもらいます」
唯「正義のスーパーヒロインならネタに事欠かないわよね」
和美「だね。このクラスにも何人かいるし」
雪歩「なんたって俺たちもそうだしなw」
マイカ先生「いいえ、今回はそれじゃないの」
唯「えっ?」
マイカ先生「今回は正義のスーパーヒーロー、ヒロインじゃなくて、敢えてそうじゃない普通の人について書いてもらいます。これは、アマネ市長が市内の全小学校に出した宿題なの。優秀作品には何かご褒美が出るそうよ」
唯「やったあ! あたし、断然張り切っちゃう!」
マイカ先生「では、みなさんのレポート楽しみにしてますね」
子供たち『はーい!』
放課後、帰り道のいつもの三人。
唯「正義のスーパーヒーロー、ヒロインじゃないヒーロー、ヒロインって誰だろ?」
和美「うーん、正義のスーパーヒロインだったらいくらでも思いつくんだけどねー」
雪歩「ヒーロー、ヒロイン、ヒーロー、ヒロイン…スポーツマン、アスリートとか?」
唯「それ!」
和美「いいわね! 雪歩、あんたたまには冴えてるじゃない!」
雪歩「たまにはは余計だ!」
唯「そうと決まれば、誰を取材する?」
そして、夏休みに入ったばかりの7月某日、ステーキハウス『エアーズ・ロック』。
カンガルー型セリアンスロゥピィのリタが経営する店である。
唯、和美、雪歩「ごめんくださーい!」
リタ「いらっしゃいませ! おや、かわいいお客さんたちだ。水持ってっから、好きな席に座って待っててくれ」
唯「いえ、今日は食べに来たんじゃないんです」
リタ「?」
和美「実は、夏休みの宿題で──」
リタ「なるほどね。そういうことだったら喜んで協力しようじゃないか」
唯、和美、雪歩「ありがとうございます!」
唯「では早速。リタさんって、昔オーストラリアにいたんですよね」
リタ「ああそうさ。あたしはオーストラリアはメルボルンの出身だよ」
唯「そのオーストラリアにいた時、キックボクシングの学生チャンピオンだったって話は本当ですか?」
リタ「ハハハハハ、どこでそんな話を聞いたんだい?」
和美「レポートを書くにあたって、色々と調べさせていただきましたw」
雪歩「で、本当のところどうなんだ?」
リタ「本当さ。こうやってね(シュッシュッシュッ!)、パンチパンチパンチ! キックキックキック! パンチとキックのフルコンボ!! そしてノックアウト!!」
唯、和美、雪歩「おおーっ!」
リタ「男子学生のチャンピオンもあたしには叶わなかったさw テレビの取材も何度か受けたことがあるよ」
唯、和美、雪歩「すごーい!(すげえ!)」
唯「もっと詳しくお話聞かせて下さい!」
唯、和美、雪歩「ありがとうございました!」
リタ「どういたしまして!」
唯「これでいいレポートが書けそうね」
和美「うん!」
雪歩「家に帰ったら、早速執筆開始だぜ!」
その翌朝、ステーキハウス『エアーズ・ロック』。
リタ「お待たせいたしました。厚切りオージービーフステーキでございます」
豚男「うむ。ウィ~ヒック!」
リタ「ごゆっくりどうぞ」
厨房。仕込み中のリタ。
リタ「あのお客、こんな朝から酒の臭いプンプンさせちゃって、一体どんな生活してるんだろうねえ。おっと、お客さんのプライベートに突っ込んじゃダメだよね。仕事仕事!」
ガタン。
リタ「ん?」
リタ「どうかしましたかお客さん? あ、食い逃げ!」
リタが厨房の中からホールを見た瞬間、豚男は出口から姿を消した。
リタ「待てーっ!! クソッ、間に合わないか!」
ドンッ!
伊織「いったあーい!」
豚男「いってえな! ウィ~ヒック!」
伊織「ごめんなさい。ってお前は!」
豚男「げ、ヤバっ! ウィ~ヒック!」
リタ「伊織さん!? 大丈夫ですか?」
伊織「なあーに、これぐらい平気さ」
リタ「そんな血相を変えて、何かあったんですか?」
伊織「いやね、あたしの店で食い逃げがあってね。SNSに上げるのか知らないが、この男が酒臭い息吐きながらラーメンの写真を撮って、豚みたいに汚く食い散らしてたのさ。それでもお客はお客、我慢して笑顔で応対してたけど、ちょっと目を離した隙にダッシュで逃げちゃって、そいつを追ってたんだ。しまった、見失った!と思ったら、ここで偶然ぶつかって」
リタ「ふーん、なるほどねえ。ウチとおんなじだ」
伊織「あんたのとこもかい」
リタ「ええ。じゃあいっちょ」
伊織「やりますか」
リタ、伊織「とりゃあーーーっ!!!」
ドカッ!! ドカッ!! ボカッ!! ボカッ!!
ドカアーーーーーッ!!!
豚男「ぎゃああああ! ウィ~ヒック!」
・・・・・・
フィーア@TVニュース『食い逃げの現行犯で逮捕されたのは、H町の作業員、吐瀉豚容疑者です。吐容疑者は、「朝から酒を呑みつつ男とヤッて激しくエネルギーを消耗した。ラーメンだけでは足らなかったので2軒めも行った」と犯行を認めているとのことです』
唯、和美、雪歩「うわ」
唯「男とヤッたってどういうことだアッー!」
和美「そんなことあたしに聞くなアッー!」
雪歩「考えたくもねえなアッー!」
唯「それにしても、リタさんたち凄いわね!」
和美「これはレポートに書き加えないと!」
雪歩「だな!」
そして夏休みも終わり、秋の声も聞こえてきた頃。
ステーキハウス『エアーズ・ロック』。
唯、和美、雪歩「リタさーん!」
リタ「おや、いらっしゃい!」
唯「夏休みにお話したレポートの宿題、あたしたちがグランプリを獲りました!」
和美「これがその表彰状です!」
リタ「本当だ! こいつは凄えや!」
雪歩「それで、賞品にこの市内共通お食事券をもらったんだけど、この店で使える?」
リタ「もちろん使えるさ。お祝いにとびっきりのステーキを焼いてあげよう。好きな席に座って待っててくれ」
唯、和美、雪歩「はーい!」
=END=
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