No.1117440

【獣機特警K-9IIG】摘み取られた美貌(後編)【交流】

古淵工機さん

2023-03-29 23:13:22 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:437   閲覧ユーザー数:405

翌日。ラミナ警察署会議室。

「……というわけで、例の連続殺人事件について新たな手掛かりがわかった」

どよめく警官たち。壇上のエルザは説明を続ける。

 

「まず幻獣部隊からの報告で、犯人が隠れ家としているらしい建物がわかったのだ。場所はノースラミナ市R地区……使われていない洋館があるが、そこがアジトのようだ」

「なるほど。アジトがわかっただけでも収穫ってわけか」

「でも、いったい犯人は何が目的で……」

ジョナサン・ボーイングとイシス・ミツザワの質問に、エルザはさらに答える。

 

「その犯人についてなんだが、怪盗ノワールが気になる情報を盗んでこちらによこしてきたんだ」

「ノワールが?」

「……犯人は女性。テラナータイプのロボットだが改造により電子頭脳を胸部に移植しているそうだ」

「それと連続殺人に何の関係が?」

「……狙われたのが若い女性ばかりというのは知っての通りだが……その女性の首をパーツに改造していたらしい」

その言葉を聞いて戦慄する警官隊。

 

「ひどい!……これじゃあ殺された人たちも浮かばれないわよ!!」

「理不尽な理由で首かっ切られて、しかもそれを他人のパーツにされて弄ばれるやなんて!!」

「事態は一刻を争う。これ以上被害者が出る前に食い止めなければならん。クオン、イシス、ミライの3名で現場へ向かってくれ」

「「「ラジャー!!」」」

かくして、久遠・ココノエ、イシス・ミツザワ、筑波未来の三人で現場に向かうことが決まった。

ちょうど現場付近には三人を乗せたナインチャリオットが到着したところである。

 

「ここか……」

庭に植えられた期は手入れもろくにされていないのか伸びるに任せ、鬱蒼とした雰囲気が漂っている。

建物のペンキは色あせ、羽目板は朽ちかけ、いかにも打ち捨てられた館といった表現が似つかわしいような場所だ。

 

「ずいぶん不気味っすね。ホントにここに犯人が隠れてるんですか?」

「確かに洋館は使われていないようだけど……ノワールの情報だとカモフラージュ代わりに使われているらしいわ」

「…………待て、誰か出てくる!」

 

僅かに開けられたドアから出てきたのは白衣を着た女性。

昨日の目撃情報では「15人目の被害者」だったトナカイ型ファンガーの頭をつけていたというが……。

今回現れたのはウサギ型ファンガーの顔である。

 

「よし!すぐに出るぞ!」

「「了解!」」

姿を見るや車内から飛び出すK-9隊三人。

「……え!?どなたですか!?」

きょとんとした様子の白衣の女に、警察手帳を見せて尋ねるクオン。

「警察の者です。最近ラミナ周辺で女性を狙った連続殺人事件がありまして。何か心当たりは?」

「いえ、何の話でしょう」

「犯行内容があまりにも奇妙でしてね。現場に残された遺体からはきれいに首が切り取られて持ち去られていたんです」

 

「……あ、あの、それはどういった」

女の言葉を遮り、なおも質問をぶつけるクオン。

「貴女のその顔ですが……6人目の被害者である女性の顔と非常によく似ているんです。それに……」

その言葉を合図に、イシスがポータブル端末を取り出して映像を見せる。

「わが署の幻獣部隊が目撃していたんですよ。昨晩あなたが女子大生に手を駆けようとして失敗し、この館に逃げ込むところを」

 

その言葉を聞き、一瞬動揺する女。

「……そ、れは……」

そこに、今度はミライが食って掛かる。

「それに怪盗ノワールがいろいろ探って盗んできてくれましたよ。この館の地下にとんでもないものが隠されているって!それにあなたの正体も!」

数秒の沈黙を破ったのは……女のほうだった。

「……そう、ですか……全部ばれてたんですね。いいでしょう、どうぞ上がってください」

女は不気味に笑うと、どういうわけか三人を招き入れる。

 

「ん……?いったいどういう風の吹き回しだ?」

「さあね……とにかく入ってみよう!」

 

女に導かれるままにクオンたちが入ったのは、屋敷の下に造られた地下室だ。

「……ずいぶん薄暗いなあ……」

「ふふふ……」

女は笑いながらスイッチを押す。

……すると地下室の照明が灯された!

 

「きゃあ!?こ、これって……!!」

照明が灯された瞬間、イシスはその光景に思わず声を上げてしまう。

今までに殺された被害者の頭……いや、厳密には、その頭を機械化したものだった。

「ノワールが……持ってきた情報の通りだったってのか……!?」

「うふふふ……可愛いでしょ?みんないい顔を持ってたのね……その体の持ち主さんたちには悪いけど、これが今は全部私の顔なんですよ……?」

 

「……いったい何が目的なんだ!」

クオンが吠える。すると女は何かに酔いしれるように笑いながら答える。

「変身願望、ってご存じないかしら」

「変身願望……?」

「ここに置かれているのが元々の私の顔なのよ」

女が指さした先にあるのは黒髪のテラナーの女性の顔。

釣り目がちで、眉もやや太い造形ではあるが、それでも一般にいうところの美女と呼べそうな顔である。

 

「なぜだ!こんなに美しい顔を持っていながら、なんでこんな恐ろしいことをしたんだ!!」

「さっきから言っている通りよ……?変身願望。テラナーやファンガーにはいろいろな顔の人がいる」

「それがどうしたっていうんだ!?」

「……確かに私は美人ってよく言われてきたの……でも自分の顔に少し飽きてきちゃったってわけ。そこでまず手を付けたのが通信販売の交換用ヘッド……」

女はさらに続ける。

「自分の顔を変えられる。それは新しい自分になれるってことだった。だけど……周りの人を見ているうちに、こう思ってしまった……」

嬉々として話す女の目には、狂気が宿っていた。

「ひっ……!?」

その様子を見て、思わず身をすくめるイシス。

「……『あの子の顔が欲しい。あの子の顔も、あの子の顔も、全部私のものにしたい』。……道行く女の顔を全部私の顔にできたらと、考えてしまったの」

「それで……それでこんな犯行を思いついたっていうのか!!」

「ご名答。……そういえばあなたたちもいい顔をしているわ。ロボットなのがちょっと残念だけど……そうね、電子頭脳を抜き出して、加工すれば使えるかしら?」

女はレーザーカッターを手に取り、詰め寄り始める。

 

恐怖と怒りが入り混じった顔でミライが叫ぶ!

「こ、こんなのおかしい!……狂ってるよ!あんた!!」

 

女が詰め寄る!

「なんとでも言いなさいな。こうしてあなたたちを招き入れたのも、あなたたちを私のコレクションにしたいがためよ……それと、こうして足がついちゃった以上は……消えてもらわないとね」

壁際に追い詰められ、距離を詰められるクオンたち三人。

「さぁて……だ・れ・に・し・よ・う・か・なぁ~?」

女がレーザーカッターのスイッチを入れようとした、その時だった!!

「ひっ!?……い、嫌ぁ!!」

突然、女が胸元を押さえて苦しみだした!!

 

「隊長!彼女の様子が変です!!」

「おい!どうしたってんだ!!」

「来ないで!来ないでこないでこないで!アたシの顔なの!もうアナた達ががが……」

レーザーカッターを取り落とし、何かにおびえるかのように左手を振り回し、追い払うしぐさをする女。

右手は首元の、電子頭脳が収められているであろう部分を押さえている。

 

「どうなっているんだ!?イシスさん、サーチアイで彼女を分析して!!」

「了解!……こ、これは!?」

「なんだ!?なにがわかったんだ!!」

「よくわかりませんが……何らかのエネルギーが、彼女の電子頭脳に負荷を与えているようです!!」

 

そんな状況を尻目に、女はさらにもがき苦しむ。

「ハなしテ、ヤメて、やめ……あ、あああああああああああ!!!!!」

女がひときわ大きな叫び声をあげた瞬間だった!

 

女の胸元から火花が上がる。回路に過負荷がかかり、焼き切れてしまったのだ!!

「ぁ……ァ……」

女はそのまま、糸が切れた人形のように、床に倒れたのだった。

「大変だ!すぐに搬送しろ!!」

「「了解!!」」

それから数日後、ラミナ警察病院ロボット病棟。

ベッドの上には、元の頭を取り付けられた例の女が寝かされている。

その様子を見ているのはクオン。病室のドアが開き、一人の女性が出てきた。

ロボット工学者のテレジア・アウディである。

 

クオンが質問する。

「……博士。彼女の様子は?」

テレジアは首を横に振った後、こう続ける。

 

「……なんとか一命はとりとめているけれど……もう以前の彼女には戻せそうにないわ。電子頭脳に受けたダメージが大きすぎて、人格データが破損してしまっている」

「そんな……それじゃあ彼女は……?」

テレジアは久遠を病室に招き入れる。

そこには変身願望のあまり狂気に染まった女の姿はなく、

変わってベッドの上に寝ているのは、虚ろな瞳で折り紙を折る姿。

「……人格データの破損で今の彼女はこんな状態なの」

「こんな……こんなことが……」

クオンはこぶしを握り締めて立ち尽くす。

 

すると、ベッドの彼女がつぶやいた。

「……あ……わんわんのおねーちゃん……」

一瞬たじろぎつつも、すぐに平静を装い答えるクオン。

「っ……!……そ、それは僕のことかな?」

「つるさんができたの……おねーちゃんにも……あげるね……」

彼女は折り鶴をクオンに差し出した。

クオンはその折り鶴をおそるおそる受け取ると、女の頭をなでて一言……。

「……上手だね……」

その言葉を聞いてややぎこちない笑顔を浮かべる女。

「さ、行きましょう」

「はい……」

病室から出たテレジアとクオン。

「……そういえば、彼女が壊れるとき……」

「……?」

「急におびえだしたんです。まるで見えない何かが……彼女自身に向かってきているのを追い払うかのように」

 

そんな話を聞いたテレジアはクオンに切り返す。

「そういえば、彼女は例の連続殺人で15人の女に手をかけて殺した……って言ってたわよね」

「ええ」

「…………科学者の私がこんなこと言うのも変かもしれないけど……あの女、『もともとの首の持ち主』の残留思念に襲われたんじゃないかしら」

「残留思念?」

「理不尽に首を切られ、殺された女たちの怨念かなにか……それが不可解なエネルギーとなり電子頭脳に流れ込んだ。そして……」

「過負荷になって回路が焼き切れて、あんな状態になってしまった、と……」

「おそらく……そうとしか言えないでしょうね」

 

「そうか……。あの女は、歪んだ変身願望のあまりに、多くの女たちを手にかけ……そしてその怨念たちに復讐されたってことか……」

「まさに因果応報、と言いたいところだけど、それにしても哀しいものよね……」

かくして、奇妙な殺人事件は思わぬ形での幕切れとなった。

美を求めるのは女なら誰しもが通る道かもしれない。

だが、今回の事件ではそれが一人の女を凶行に駆り立て、

そしてついには自らの身を滅ぼしてしまったのであろうか?

 

……事件は一応の終息を見たが、クオンの胸中は晴れなかった。

歪で、恐ろしく、狂おしく、そして惨めで哀しい女の末路に、ただただ口惜しさとやるせなさを噛み締めていたのだった。


 
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