「それはこの外史の礎となったあなたではない『あなた』の最後の記憶・・・」
―――一刀と華琳・・・、二人は今外史喰らいの中へと入り、その異質の空間で一人の少女に出くわす
「正史の想念と、『あなた』の想念が繋がり、そしてあなたの世界が生まれた・・・」
―――純粋で、無垢なその少女は
「だけど、それももうじき終焉を迎える・・・。そして、お前達はここにいるべき存在では無い」
―――その瞳で何を見るのか
「去れ・・・、それを拒むと言うならば、その存在を削除する・・・」
「あれが・・・、外史喰らいの中枢・・・?」
―――その少女の姿を見た一刀は驚きを隠せず
「・・・・・・・・・」
―――華琳もまた驚きに声を失う
―――だが、二人の思いは異なり、そしてそれは一体何を意味するのか
―――今、物語は終端へと行き着く・・・その先にあるのは、完全なる無か・・・、新たなる突端か
第二十五章~抗う者達の賛歌・前編~
一刀と華琳の頭上のはるか上にいたその少女が、二人と目の高さまで降りて来る。距離は数歩程
・・・。二人がその気になれば、一気に詰める事が出来る距離にその少女は立ち、その瞳で二人を
射抜くようにただ見つめている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな少女に二人は警戒心を解かない。互いに自分の得物を握り、少女の動きに注意を払いながら
少しずつ間合いを詰めていく。
そんな事に気付いていないのか、少女は両腕を前に伸ばし、両手の平を一刀達にに向ける。まるで
手を差し伸べるかのように・・・。そして、少女は微笑んだ。とても冷たい笑顔で、二人に微笑み
かけた・・・。
ブワァァァアアアアッ!!!
少女の両手から、大量の文字が飛び出してくる。そして、風で舞い上がる木の葉の様に無秩序に
少女の手から離れた文字達は周囲へと拡散するも、次第に一定の箇所へと集まり、一つの形、姿を
形成していく。それは二人にとって、見覚えのあるものであった。
「・・・っ!?しゅ、春蘭!?」
「秋蘭もか・・・!」
春蘭と秋蘭の姿を模した存在が一刀と華琳の前に現れる。
「随分とえげつない真似をしてくれるわね、あなたも」
「・・・・・・」
華琳の皮肉に無反応の少女。そんな少女を守る様に春蘭と秋蘭が一刀と華琳の前に立ち塞がる。
「まさかここに来てこの2人と戦うこになるなんて・・・、でもやるしかないんだよな?」
確かめる様に華琳に聞く一刀。
「当然でしょう。今こうしている間も春蘭達は戦っているのだから」
何を当たり前な事をと言わんばかりに答える華琳。
「・・・私達にあるのは、もう前進しかないわ!」
「ごもっともで・・・!」
すでに覚悟は出来ていた二人。そこに春蘭が我先にと飛び出してくる。そして秋蘭は弓を構え、
春蘭の援護に回る。
ブゥオンッ!!!
春蘭が二人に太刀の斬撃を放つ。二人はそれを横に避けると、横から春蘭に仕掛ける。
「たぁあッ!」
ブゥオンッ!!!
ガッギィイイイッ!!!
先に仕掛けた一刀の斬撃を春蘭は太刀の腹で受け止め、力任せに跳ね返す。
「はぁああっ!」
ブゥオンッ!!!
その隙を狙って華琳が絶で仕掛ける。
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
だが、春蘭は華琳の方に振り変えると同時に横薙ぎを放ち、絶の切っ先を叩き返す。
ビュンッ!!!
「華琳避けろッ!」
「くっ!?」
ザシュッ!
一刀の声に瞬時に反応した華琳。華琳の左横を秋蘭が撃った矢が抜ける。身体には当たらなかった
ものの、その矢は華琳の左側の巻き髪を射抜き、華琳の一部で無くなった髪束は宙で散らばる。
寸前で矢をかわしたため、華琳は体勢を崩してしまう。春蘭はそんな華琳に太刀を振り下ろした。
ブゥオンッ!!!
「させるか!!」
ガッゴォオオオッ!!!
華琳を庇い、春蘭の前に立った一刀は刃で春蘭が振り下ろした太刀を受け止める。
「ぐ・・・、うぅッ!!」
一刀は太刀を受け止め、鍔迫り合いに持ち込みながら、秋蘭の軸線上に来るように春蘭を誘導する。
「華琳!こっちは俺が引き受ける!だから、秋蘭の方を・・・、うぉおっ!?」
華琳に話しかけていた所で、春蘭に押し込まれる一刀。何とか腰と両足で踏ん張り、前へと押し返す。
「そうさせてもらうわ!」
そう言って、華琳は一刀の背中から離れ、秋蘭の方に向かう。それに気づいた秋蘭は華琳に狙いを
定め、弓の弦を引こうする。華琳は左側に残っていた髑髏を模した髪留めを外して、秋蘭に投げる。
秋蘭は引いていた弦を緩め、横へと避ける。その隙に華琳は秋蘭に一気に近づいて行った。
「ぐぅ・・・!何て力だ・・・!!」
一体のこの細い腕のどこにこれだけの力を出せるのか・・・。さすがは春蘭、魏武の大剣だと
改めて感心する一刀。
「・・・だが、所詮は・・・偽物だ!」
鍔迫り合いで春蘭と押し合っていた一刀は後ろに身を引く。すると、ずっと押していた春蘭は
前のめりの状態になり、体勢を崩す。
「せぃやっ!」
ブゥオンッ!!!
「はぁあああっ!」
ブゥオンッ!!!
一刀と華琳、二人同時に斬撃を春蘭、秋蘭それぞれに放つ。
ザシュッ!!!ザシュッ!!!
二人の放った斬撃が春蘭、秋蘭の体を切り裂く。だが、その瞬間、黒い文字へと姿を変え、
再び無秩序に宙を舞う。二つに裂かれた事で、黒い文字達は二分され、それぞれで新たに姿を
構成していった。
春蘭を形取っていた文字達は、新たに季衣と霞に姿を変え、秋蘭を形取っていた文字達は流琉、
凪へと姿を変えた。
霞は偃月刀で一刀に襲いかかる。
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
霞の連続の攻撃を一刀は刃で受け流す。
ブォォォオオオッ!!!
「・・・っ!」
霞の相手をしていた一刀は偃月刀を弾き返し、季衣の放った鉄球を後ろに下がって避ける。
そして避けた直後の一刀に再び仕掛ける霞。
ブゥオンッ!!!
ガッゴォオオオッ!!!
「ぐ・・・っ!はぁあ!」
ブゥオンッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
一方、華琳は凪と流琉の相手をしていた。
ブォウンッ!!!
ブゥオンッ!!!
「ち・・・っ!」
ガッギィイイイッ!!!
華琳は凪の徒手空拳を絶の柄の部分で受け流し、更に柄の先端で反撃する。
バッゴォッ!!!
柄の先端が凪の脇に入るも、凪は攻撃の手を緩める事無く、華琳に襲いかかる。
ガゴォオオオッ!!!
凪の放った拳を柄の中央で受け止める華琳。
ブォオオオオオオッ!!!
凪は自ら拳を引いて後ろに下がると、今度は流琉の放った一撃が襲いかかる。
「く・・・っ!」
華琳はそれを前髪をかする程度で直撃をかわす。
「これでは埒が空かないわ。先に本体を叩くのが先決ね・・・!」
近づいてきた凪を絶で牽制し、凪の方から距離を取らせると、華琳は少女の方へと走り出す。
少女が何をするわけでもなく、ただそこに立ち尽くしている。華琳はそのまま少女に近づいて行く。
「これで終わりにさせて貰うわ!」
そう言って、華琳は絶を振り上げ、走る勢いをに乗せて少女に切っ先を振り下ろそうとした。
ガシィイイイッ!!!
「・・・っ!?」
絶の切っ先が少女に届く寸前で華琳の動きが止まる。華琳の体を、序列化した黒い文字達がまるで
帯の様に巻きついて離れない。それを機と言うように、空間内を漂っていた文字達も華琳に巻きつき、
体の自由を更に奪っていく。
ギュゥウウウ―――!!!
「ぐぅ・・・!きゃぁああああああああ・・・っ!!!」
そして細い体を帯状と化した文字達に締め付けられる後ろのに仰け反る華琳。腕の自由が利かず、
手から絶を落としてしまう。
「華琳っ!!」
ブオオオオオオッ!!!
華琳の方に注意が逸れてしまった一刀は、季衣の放った一撃に反応が一瞬遅れてしまう。
バッゴォオオオッ!!!
「うわぁああああああっ!!!」
季衣の一撃をまともに喰らい、一刀の体は吹き飛ばされる。
「がは・・・っ!」
口から血を吐き出し、うつ伏せに倒れる一刀。そんな一刀に霞、季衣、流琉、凪は近づいて行く。
「が・・・、はぁ・・・あ・・・!」
一刀はぶるぶると震える腕で何とか身体を起き上がらせ、二本の足で立ち上がる。
「・・・負けられ、ないんだ・・・!俺達は・・・ッ!!」
一刀は脇構えに似た構えを取り、身を低くする。
「はぁああああああ・・・っ!!」
そして地面を蹴った瞬間、一刀の姿が消える。
ブワァッ!!!
ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!
次に一刀が姿を現したのは、その四人から見て背後から数歩先の場所。四人に背中を向け、
刃の切っ先を下に降ろした状態でいた。肝心の四人は先程の春蘭の様に体が二つに斬り裂かれていた。
そして二つに裂かれた四人の体はまたも黒い文字達へと姿を変え、先程と同じ動きを見せる。
「うぅおおおおおおっ!!!」
四人の背後に立っていた一刀は振り返り際、左拳を四人に向かって放つ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
前に突き出した左拳の前から拡散するように、黒い文字達に向かって青白い光が大量に放たれる。
一瞬にして光に包みこまれれた黒い文字達は一瞬にして掻き消され、光が収束し、消える時には
文字の一欠けらすらも残されていなかった。
「あぁ・・・、ぁ・・・、・・・」
締め付けてくる文字達に最初は抵抗していた華琳であったが、それも今はほとんどなく、目の焦点
が合わなくなり始め、首は背中の方に項垂れる。そんな華琳の様子を、少女はただ見ている。何かを
感じるわけでもなく、そのありのままの光景を見ている・・・。
「はぁああああああっ!!」
ブゥオンッ!!!
ザシュッ!!!
そこに一刀が介入する。一刀は刃で華琳の体を締め付ける文字達を片端から切り捨てる。刃に
斬られた文字達の残骸は消える事無く、宙に漂い続ける。そしてようやく黒い文字から解放された
華琳の体を一刀は腕で受け止める。
「・・・か、かず・・・と?」
朦朧とする意識の中、華琳は目の前の人物が一刀である事を、直接手で顔に触れて確かめる。
「・・・良かった。こっちの一刀は本物の様ね?」
「な、何の話だ・・・?」
華琳が何を言っているのかがよく分からず、一刀は聞き返してしまう。
「なんで・・・」
呟く少女。そしてまた両手から文字達を放出する。
「く・・・っ!」
一刀は華琳を抱きかかえ、その場から離れる。そして今度は先程とは比べ物にならない程の大量の文字
は大量の人型を模っていく。そして現れたのは、真桜、沙和、稟、風、桂花。さらには蜀、そして呉の
将達であった。
「・・・・・・」
目の前の彼女達を何も言わず黙って見ている一刀。華琳を巻き込まない様、その場に降ろすと
先に仕掛けるため、一人突撃を仕掛ける。
「やぁあっ!!」
ザシュッ!!!
最初に真桜を斬る。
「がぁああッ!!」
ザシュッ!!!ザシュッ!!!
そしてそのまま横から襲いかかって来た明命と思春を返り討ちにする。
「らぁあッ!!!」
ザシュッ!!!
刃の先端で翠の体を刺し貫くと、翠に前蹴りを放って強引に刃を引き抜き、背後から来る蒲公英と
焔耶を振り返ると同時に斬る。
「なぁッ!?」
一刀の腰ほど背丈の朱里と雛里が一刀の両足に纏わりつき、一刀の行動を抑え込む。
「くそ・・・!離せ!離れろッ!」
一刀は足に纏わりつく将達を払い除けようとしているとそこに星が槍先を一刀に向けて突進してくる。
「・・・っ!」
一刀は左足に抱きついていた朱里の顔を左拳で殴り倒すと、自由になった左足を使って星の突きを
かわすと槍の柄を捕まえ、星を自分の所まで引っ張り、刃で体を縦に斬り裂く。
「あアアっ!!」
ザシュッ!!!
そして右足に抱きついていた雛里を力任せにどかすと、右横の沙和を斬る。
「でヤァアッ!!」
ザシュッ!!!
時々声が裏返りながらも、必死の形相で周囲の将達を倒していく。無表情で叫ばないのがせめての
救いだった。一刀は頭の中を真っ白にし、思考を停止させながら、目の前の敵を切り捨てていく。
ザシュッ!!!
ふと、足元を見る。そこには今まで自分が斬った者達が横たわり、黒い文字達へと変わっていく。
「・・・あ・・・ッ!」
一刀は分かっていた。頭では分かっていた。確かに分かっていた。
―――でも、いつかきっと誰かを傷つけてしまう。守りたいはずのものなのに・・・
「あ・・・、ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
悲痛の叫びを上げながら、一刀は刃に力を注ぎこむと、刃の刀身が青白く輝く。
「えぁアアアアッ!!!」
裏返った声で叫びながら、刃を横に払う。すると、青白い残像を残しながら、一度に複数の体を
斬り裂き、斬られた将達は青白い炎を上げて燃える。
「ああぁアアアッ!!!」
ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!
一刀は刃を乱暴に振り回す。振り回される刃(じん)の刃が将達の腹を、腕を、足を、首を、
次々と斬り裂いていった。
「りゃァァァアアアああああああッ!!!」
ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!
刃(じん)の刃を横にし、一刀はその場で勢いよく青白い残像を残しながら一回転し、周囲に
いた将達を力任せに強引に斬り倒す。ようやく敵全員を倒した一刀。
ガチャ―――ッ!
刃が手から落ちる。青白く輝いていた刃は一刀の手から離れた瞬間、その輝きが消える・・・。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」
至る所で青白い炎を上げて倒れている彼女達を見ながら、その場に片膝をついて、呼吸を整える・・・。
「どうして、あなたは・・・大切な人達を、平然と殺せるのですか?」
少女は一刀に尋ねる。
「平然・・・?冗談じゃない・・・。いくら偽物だからと分かっていても・・・気が狂って
どうにかなりそうだった」
「偽物ではありません」
「・・・」
一刀は顔をあげ、少女を見る。
「あれは、今まで削除してきた外史の情報を元に復元した存在。つまり、あなたの大切な人達と
同一人物である存在を、あなたは殺しました・・・」
それを聞いた一刀はまた項垂れる。
「・・・・・・そうか。だけど、それでも偽物だ」
「あなたは私の話を聞いていなかったのですか?」
少女は再び一刀に尋ねると一刀は口を開く。
「俺が知っている皆は、あんなに冷たい顔はしていない。・・・この世界の人達は皆、とても
温かくて、一緒に笑える・・・そんな顔をしている・・・」
「でも、それだけの違いなんて・・・」
少女の話を遮るように、一刀は首を横に大きく振る。
「それだけが、決定的な違いなんだ」
「・・・?」
分からない、という顔で一刀を見る少女。
「姿形が同一なら、それは同じ存在なのか?・・・それは違うと思う。春蘭と秋蘭の様に姿が
似ていても、中身は完全な別人だ・・・。なら、並行外史の間でもそれは同じ事が言えるはずだ。
ほんの少しでも世界が違えば、例え同じ存在だろうと・・・、決して全ては同じなはずがない。
外史喰らい・・・、人間はそこまで単純に出来ていないんだ」
「・・・分からない。所詮は、作られた存在でしかないというのに・・・」
「確かに、俺達も作られた存在なのかもしれない。・・・でも、中身が空っぽってわけじゃない。
俺達には、心がある・・・」
呼吸を整えると、一刀は片膝を上げてようやく立ち上がる。
「え?」
「百人の人間がいれば、百人全員が別の心を持っている。完全に同一なんて無いから、誰かを
好きになったり、愛したり・・・、時には怒ったり、憎んだりする事もある。傷つけ合う事も
あるかもしれない・・・」
「それが心・・・」
「え・・・っ?」
急に強い口調で喋った少女に、一刀は面食らう。そして少女は言葉を続ける。
「心があるから、人間は・・・欲を持つ。その欲を満たすために、誰かを傷つけ、怒りや悲しみを
植え着ける。そしてその心がまた新たな怒りと悲しみを誰かの心に植え着ける。その、繰り返し」
少女の話に、一刀は片耳を塞ぎながら、苦笑い・・・。
「自分が先に言っておいて何だが、聞いていて耳が痛いよ・・・。でも、それでも俺達は互いに
手を取り合って、共に歩く事が出来る。・・・それもまた事実だ」
「・・・そんな。そんなもの、ただのかりそめ」
「かりそめなんかじゃない。俺はそれを知っている」
「・・・分からない。そんな、そんなはず・・・」
少女は両手で頭を抱えると、そのままその場にしゃがみ込んでしまう。
「俺・・・、何か変な事を言ったのかな?」
うずくまってしまった少女を見て、困惑する一刀。
「・・・そう、そういう事・・・」
「華琳・・・?」
一刀は後ろを見ると、そこには華琳が一刀達の方に近づいて来ていた。ふらつきながも自分の足で
歩き、華琳は一刀の横で立ち止まる。
「あなたの中に・・・、心が芽生えたのね」
華琳の声に反応して、少女は恐る恐る顔を上げる。
「こ、こ、ろ・・・」
「外史は人の想念から生まれる・・・。あなたは使命を果たす過程で、そんな人の想念に触れて、
感じて・・・そしていつしか、作られた存在であったはずのあなたの中に、心が生まれた。
けれど、突然自分の中に生まれたものに、あなたはどうすればいいのか・・・分からなくなって
しまった」
「・・・・・・・・・」
「自分の中から湧き上がって来るものが何なのか・・・、あなたは知りたかった。だからあなたは
外史を削除し、そして外史の情報を取り込み続けた。そうしていれば、きっと分かる時が来るのだ
と・・・。でも、いつまで経ってもそれが分からない。それに反して大きくなる自分の気持ち。
板挟みとなったあなたがとった行動が、結果として暴走という形で現れてしまった」
華琳は少女にゆっくりと歩み寄って行く。だが、少女は華琳から逃げる様に後ろに下がる。
「だけど、私はそれが悪い事だとは思わないわ。ただそのやり方が間違っていただけ、ただそれだけ
の事なのだから」
「わ、私・・・は」
だが、それでも華琳は少女に歩み続ける。華琳から逃げていた少女であったが、近づいて来る華琳
に観念したのか、いつしか逃げるのを止めていた・・・。
「誰だって、分からないものに対して最初は恐怖を抱く」
そう言って、華琳は逃げるのを止めた少女の手を取ると腰を下げ、少女の目線に合わせる。
「恐怖・・・?今の私の体を支配しているのが、恐怖・・・」
「えぇ・・・、でも今は別の感情があなたを支配しているはずよ?」
少女は華琳の言葉に、不安そうな顔をしながらも頷く。
「今、あなたが感じているのは・・・」
華琳は少女に何かを教えようとした、その瞬間・・・。
パチィイイン―――ッ!
空間内に響き渡る指を鳴らす音。
「・・・・・・ッ!」
その音を聞いた途端、少女はそわそわし始める。
「・・・どうしたの?」
華琳は少女に尋ねる。だが、答えを聞くよりも先に周囲の様子が一変する。
白に覆い尽くされた空間が突如として黒く塗りつぶされていく。そして宙に漂っていた文字達は
空間内を急速に動き回り始める。
「な、何が・・・っ!?」
一刀は空間の異変を知ろうと周囲を見渡す。
「・・・・・・っ!?」
そして、見つける。黒い空間内にポツンと立つ一つの白い影を・・・。
「一刀・・・っ!」
華琳に呼ばれ、彼女の方を見る一刀。華琳と少女を囲むように、光の円が彼女達の足元から
浮き上がってくる。
「華琳・・・!」
一刀は華琳の元に駆け寄ろうと近づく。
ブワァアアアアアア――――――ッ!!!
だがそれを拒むかのように、光の円は円盤となり、華琳と少女を乗せ、はるか頭上へと上昇する。
「一刀っ!!」
「華琳っ!!」
互いに手を伸ばす二人。だが、その手が一度と重なる事無く、二人の距離は離れていく。
ブワァアアア―――ッ!!!
「うわ・・・っ!」
一刀の足下より、城の柱並みの太さの黒い柱が無秩序に、次々と昇っていく。柱の高さは
まちまちの様で華琳達を乗せ、上高く浮かぶ光る円盤に近い柱ほど高くなっているのが分かった。
「・・・・・・っ!」
華琳達を乗せた円盤を見上げた瞬間、気が付く。空間の真上に中国大陸を描いた巨大な地図が
映し出されている事に・・・。
「何なんだ・・・、一体何だって言うんだ・・・!何が・・・、何が起きたって言うんだ!?」
「外史削除を実行段階に移行させたのさ・・・」
「・・・っ!」
後ろを振り向く一刀。そこには頭にフードを被った白装束の人物が一人立っていた。
「・・・っ!お前は・・・、あの時の・・・!!」
一刀はその姿に覚えがあった。最初は、聖フランチェスカ学園で、二度目は洛陽の人混みの中・・・。
「・・・こうして会うのは2度目・・・いや、洛陽の時を合わせれば、3度目になるのかな?」
「く・・・っ!」
一刀は男の動きに警戒しながら足下に落ちていた刃を拾い上げる。
「一刀・・・、君には驚かされてばかりだ。怒りを通り越して、もはや感嘆しか湧いて来ない。
外史の突端である君を相手に、作られた存在でしかない僕達が敵う筈が無かったというわけだ」
「・・・・・・」
「でも、それもここまでの話・・・。ここからは、僕が君になり代わる・・・」
そう言うと、その人物は頭深く被っていたフードに手を掛けると、ばさっと背中の方にフードを
払いのけると、フードで隠れていた顔半分がさらけ出された・・・。
「・・・なッ・・・!?」
そのフードの下の顔を見た一刀。驚きのあまり言葉を失い、ただその顔をじっと見つめる。
「ふふっ・・・、予想通りの反応だね。今まで隠してきた甲斐があったと言うものだ」
フードの男は一刀の反応を嬉しそうに、ただその顔をじっと見つめる。
「・・・そんな、そんな・・・馬鹿な!・・・どうしてお前が・・・、何でお前が・・・!
俺・・・、なんだ・・・ッ!?」
対峙する同じ顔を持つ二人・・・。物語の終端は別の方向へと再び歪み始めていた。
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こんばんわ、アンドレカンドレです。
5月の中旬から投稿を開始して、早くも7か月・・・かな?
半年以上も書き続けてきた二次創作、魏・外史伝。
それもあと残り2章となって、僕も嬉しい様な寂しい様な。
ですので、皆さん・・・最後までお付き合いのほどよろしく
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