No.110686

真・恋姫無双~魏・外史伝58

 こんばんわ、アンドレカンドレです。
ここ最近、雨が多いですね。ニュースを見ると、暖冬のせいでスキー場に雪が積もらないまま、スキー場が解放されるというあまりにシュールな話を見ました。雨が降るなら、雪も降ればいいのに・・・。まぁ、暖冬なのだから仕方のない事ですが、僕には暖冬だろうが、寒い以外の何ものでも無い!
 さて今回は、第二十四章後編。本来は中編は無く、中編の内容は元々後編の一部だったので、前回の挿絵の一部を修正した形で、中編の内容と合わせて投稿します。ですので、7ページまで飛ばしても何ら問題もありませんwww!
 では、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十四章~一刀、それは希望と言う名の剣なり・後編~をどうぞ!!

2009-12-05 21:51:13 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:4420   閲覧ユーザー数:3767

  時は遡り、一刀が左慈にさらわれた後の事。

 一刀と左慈が対峙し、そして春蘭と秋蘭が中心となって、その行方を追っていた時と同じ頃・・・。

  「具合の程はどうなのかしら、撫子?」

  「う~ん・・・そうですね~。例えるのならば、楽しみにしていたはずの本の続きが本屋に並んでいるの

  を見つけて、迷い無く買った後で中身を読んでみると、拍子抜けする程にくだらない内容だったものだから、

  その腹いせに、夜遅くまでやけ酒に浸って・・・、その次の日の朝の具合とでもいうのかしら・・・」

  「長い上に微妙な例えね・・・」

  本陣内のある天幕の中、椅子に座っている華琳と、その横に置かれていた寝台の端に腰を降ろしている撫子。

 祝融の呪縛から解放され、ようやく目が覚めた撫子の元に、ようやく来る事が出来た華琳はとりあえずは彼女

 のいつも通りの姿に呆れながらも安著した。だが、それでもまだ大きな不安は消えるはずもなく、華琳は顔に

 こそ出しはしなかったものの・・・、一刀の安否を懸念していた。

  「・・・じゃあ、性的欲求不満が一週間続いたその次の日の朝の具合と言えばいいかしら♪

  これなら、あなたにも分かり易い例えでしょう?」

  「あなたは本当に自由な人間ね」

  そんな従姉に呆れながらも、華琳の表情には憂いが混じり込んでいた・・・。その目はどこか遠くを

 見ているかのようで・・・。

  「・・・私もあなたの様にもっと自分に素直になれたのなら、二年前・・・、あんな過ちを犯す事は

  無かったかもしれないわ・・。」

  「一刀様の事・・・?」

  二年前という単語に、華琳は一刀の事を言っているのだと瞬間的に理解する撫子。

  「・・・・・・」

  華琳は撫子から目を背け、何も答えない。だが、その沈黙は撫子に正解だと言っていた。

  「だけど華琳・・・、その過ちがあったからこそ、『今』があるのではないかしら?」

  自分から目を背けたままの華琳に話か掛ける撫子。そこでやっと華琳の目は撫子に向く。

  「・・・そうね。前向きに考えれば、その通りよ」

  華琳の前向きという言葉に反応する撫子。

  「前向き?私から言わせるのなら、あなたが後ろ向きに物事を考え過ぎなだけだと思うのだけれど?」

  撫子の後ろ向きという言葉に反応する華琳。

  「物は言い様ね。私から言わせれば、あなたが前向きに物事を考えすぎなのよ」

  華琳のその発言に、笑顔ながらに鬼気迫る雰囲気を醸し出す撫子

  「ほう・・・、それはつまり私は能天気で、頭が足りない女だと・・・、遠回しに言っているのかしら?」

  そんな雰囲気を当ててくる撫子に、動じるわけでもなく軽く溜息を吐く華琳。

  「前言撤回・・・。あなたは前向きなのではなく、物事を『極端』に考え過ぎなのよね」

  「・・・まぁ、そんな事はどうでも良いわね♪」

  先程までの鬼気迫る雰囲気は何処にいったのやら・・・、一変して穏やかな雰囲気に戻る撫子。

  「あなたがそう言うのは、今の自分と心の中の自分との考えが噛み合わず、右往左往していると

  いった所かしら?」

  撫子は母親が子供に語りかけるように、華琳に微笑みかける。

  「・・・その通りよ」

  自分に微笑みかけてくる撫子に渋々答える華琳。

  「あら、随分と素直なこと・・・。普段からそれくらい素直なら良いのに・・・」

  「一言余計よ。それにこんな事・・・、あなたでなければ言えないわよ」

  「あと、一刀様の前でも、・・・ね?」

  「本当に一言余計な事を言うわね。」

  先程から余計な事を言ってくる撫子に、華琳は大人げなくカチンときていた。

  「でも事実でしょう?」

  「・・・・・・知らないわよ。」

  撫子から顔を背け、ぼそっと喋る華琳。

  「あぁん♪もぅ、華琳ったら・・・、可愛過ぎるぞ、このこの~♪」

  「・・・・・・」

  華琳の頬を指でつんつんと触る撫子。

  「もしかしてあなたは、『覇王』という肩書があなたが素直にさせないと・・・、邪魔していると考えて

  いるのかしら?」

  「えぇ、その通りよ。・・・皮肉なものよね。他ならぬ自分がそう望み、その道を選んで進んで来たと

  いうのに・・・それが今、私自身を苦しめているのだから・・・。私が今そうしたいと望んでいる事を

  そうさせまいと、私に絡みついてきて離れない・・・って、いつまでやっているの!」

  先程からずっと自分の頬をつんつん突いてくる撫子に、我慢の限界だと言わんばかりに声を荒げる華琳。

  「あらあら・・・ごめんなさい。あなたが全然反応してくれないものだから・・・。とりあえず、突っ込み

  を入れるまで頑張ってみようかな、と・・・」

  「突っ込み待ちのボケ担当はすでに間に合っているのよ」

  それは風の事かと、心の中で呟くと、撫子は咳払いをする。

  「・・・そうね。なら、私はあなたのボケに突っ込みを入れる突っ込み担当に回ろうかしら?」

  「何ですって?私がいつボケたというのよ!?」

  「先程からボケ倒しまくりでは無いかしら?『覇王』の肩書が自分を素直にしないだ、邪魔するだ、

  絡みついてくるだと、何を寝ボケた事を・・・。華琳、『覇王』の肩書があなたにそんなひどい事をした

  事なんて一度たりとも無いのよ」

  「どういう意味よ、それは・・・」

  撫子の言葉が理解できず、華琳は撫子に聞き返す。

  「『覇王』なんて所詮は肩書・・・、それ以上のものでも、それ以下の物でも無い。ただの言葉でしか

  ないの。だけど、あなたはその言葉に勝手に意味を持たせ、『覇王』という偶像を作り上げた・・・」

  「・・・・・・」

  華琳は黙って撫子の真面目な話を聞く。

  「だけどその偶像はあなたが知っている昔の偉人の姿や言葉を借りているだけ・・・。その偶像こそ、覇王

  なのだとあなたは勝手に決め付けて、自分もそうであろうとするから、結果として自分の本心と偶像とで

  ずれが生じてしまうのよ・・・」

  撫子の言葉は華琳の身にひしひしと染み渡っていく・・・。

  「・・・まぁ要するに私が言いたいのは、『いつまでも猿真似芝居なんかしてんなよ!』って事なのよね」

  「さ、猿真似って・・・」

  「『他人』を演じる事なんて誰にも出来ない。『自分』を演じる事が出来るのは、他ならない『自分』だけ。

  それは華琳、あなたも例外ではないはずでしょう?・・・誰かの『覇王』でない、あなただけの『覇王』が

  あっても良いのではないかしら?」

  「私だけの『覇王』・・・ねぇ」

  しかしそれでは自分が今まで築き上げてきた覇王像と大きくかけ離れてしまわないだろうか?

 そんな事になれば、皆がどう思うだろう・・・?複雑な心境が華琳を迷わせる・・・。

  「私も、春蘭も、秋蘭も、他の皆様方も・・・、そして一刀様も。誰一人としてあなたの築いた『覇王』では

  なく、他ならぬ『あなた』を慕って、そしてあなたの側にいる・・・。例え、自分だけの覇王が今まで築き

  上げてきた覇王と大きくかけ離れてしまおうが、それであなたを見る目が変わる事は決して無いわ・・・」

  「撫子・・・、ぁ」

  華琳は不意に撫子に手を引っ張られ、そのまま彼女の胸元に倒れこむ。撫子は何も言わずただ華琳の肩を

 抱きしめ、頭を優しく撫で始める。

  「・・・ありがとう、撫子」

  華琳はただそれだけを言って、撫子にされるがままにになる。・・・それから数刻後、左慈との一騎打ちで

 満身創痍となった一刀が本陣に運び込まれる。誰よりも早く彼の元へと駆け寄った華琳。ボロボロになった彼

 の姿を見て、華琳は一つの、大きな決断をする。その決断を、もはや誰一人として、邪魔をする者はいなかった。

  

第二十四章~一刀、それは希望という名の剣なり・中編~

 

 

 

  洛陽で新たな決意を抱いた一刀がその姿を消す数刻前。

 場所は変わり、洛陽より東方に位置する泰山。

 

  泰山

 現在、世界遺産に登録されている標高1,545mの山脈であり、中国五大名山の一つとされている。

 また、道教の聖地でもあり封禅の儀を行う場として、始皇帝を初めとした歴代の皇帝が泰山に登る

 ようになったとされている。

  主として泰山府君と泰山娘娘が祀られており、泰山府君は病気や寿命、死後の世界の事など、

 生死に関わる事全般、碧霞元君は出産などの女性に関する願い事全般に利益があると信じられている。

 (他に眼光??も祀られており、目に利益があるとされている。)

                       ※wikipedia、中国の世界遺産・・中国まるごと百科事典を参照

 

  その泰山の麓には、洛陽から出立していた魏全軍が到着し、進軍の準備を開始していた。

 泰山への道を塞ぐように、麓には城塞が建造されており、今の所、その城塞を抜けていく他に頂上へと

 辿りつく事は出来なかった。

  「華琳様!全軍、進軍の準備が完了しました!!」

  春蘭が報告をし終えると、華琳は軽く頷く。そして王座から立ち上がり、全兵士の前に出ていく。

  「聞け!曹魏の勇敢なる兵士諸君っ!!!」

  魏王としての風貌を背負った華琳は整列する兵士達に、檄の言葉を掛ける。

  「私達が命を賭して、ようやく手にする事が出来た平穏を破り、再びこの大陸に動乱を巻き起こした

  輩の根城が、この先の泰山の頂上にある!奪われた平穏・・・、今こそ連中から取り返すっ!!

  今まで嫌と言うほど煮え湯を飲まされてきた分、向こうにたっぷりとお礼をしてやりなさい!!」

  「「「「「「応ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」」

  華琳の言葉に兵士達は武器を掲げ、大声を上げる。その声は空気を震わせ、皮膚にひしひしと刺激する。

  「勇ましく、猛々しく戦え!我等曹魏にあだなした愚か者共を一人残らず地獄に導け!!」

  その雄叫びに呼応するかのように、華琳の声も大きく、より遠くへと響き渡る。

  「これより魏武の大号令を発す!!その命を燃やし、敵を焼き尽くせ!!全軍構え!!!」

  そして兵士達は武器を一斉に構える。その矛先は目の前に立ち塞がる城塞。

  「突撃ぃぃいいいいいいっ!!」

  その勢いに乗る様に、春蘭が威風堂々の立ち振る舞いで兵士達を先導していく。行く先は泰山の頂上

 に存在する道教の神殿。城塞に突撃をかけた魏軍の兵士達、それに合わせるかのように城門が開き、

 濁流の様な勢いで大量の黒い影が飛び出していく。そして影達は勢いよく飛び出し、突撃して来る

 兵士達へと次々と突撃していった・・・。

 

  そんな華琳達、魏軍の姿を遠くから見下ろす様に見ている。その瞳に生の輝きは無く、

 生の無い、虚の輝き・・・。その瞳は一体何を映し出しているのだろうか?

  「・・・これで、いいんですよね?」

  その後ろに立っている人物に確認の意味で尋ねる。その人物は声に出さず、代わりに笑みで返す。

 その人物の笑みを見ると、再び華琳達を見る。彼女達の為そうとしている事が、その少女には・・・

 理解が出来なかった。

 

  「突撃!突撃ぃぃいいいっ!!!」

  「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  剣を振り上げ、叫ぶ春蘭。そして雄叫びをあげながら、敵へと突撃していく曹魏の兵士達。

  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュゥウウッ!!!

  「ッ!?!?」

  春蘭が放った横薙ぎが黒尽くめの兵士の胴を切り裂く。

  「ふんっ!芸の無い連中だ!」

  春蘭の部隊を筆頭に、外史喰らいの黒尽くめの傀儡兵をなぎ倒していく。今まであれ程に苦戦を

 強いられていたはずの相手にも関わらず、臆する事無く立ち向かっていく。戦力はほぼ均一し、魏軍の

 方が押している状況であった。

  「・・・・・・」

  最前線から少し離れた後曲から、華琳はこの現状を把握していた。

  「華琳様、夏侯惇隊が軍の先頭に立つ形で向こうの軍を城塞側へと押し込んでいる様子です」

  華琳の横から稟が前線の状況を逐一報告していた。

  「今の所は、都合の良い程にこちらが優勢の様ね・・・」

  「やはり華琳様もまだ向こうに何か手を隠していると?」

  「籠城戦を展開せず、こちらに合わせて突出してきたわ。連中の事よ、何かを隠しているはず。

  稟、張遼隊と李典隊を左翼右翼まで前進、夏侯惇隊と歩幅を調整しながら陣を展開させなさい!」

  「御意っ!」

  そして稟は一人の兵士に指示を送ると、その兵士は稟に一礼し、その場を離れると複数の兵士を連れ、

 本陣から飛び出していく。

  「向こうの戦力がこの程度では無いはず、必ず何処かで増援があるはず。・・・私達の方は、まだ

  来そうにないわね」

  

  「弓兵構え・・・、撃てぇっ!!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭の掛け声に合わせて弓兵たちが一斉に突撃を仕掛けて来る傀儡兵達に向かって矢を放つ。

  「・・・姉者の隊がいささか突出しているようだな」

  今、魏軍の陣形は春蘭の隊が他の隊を引っ張っていく形で(>←こんな感じ)展開されている。

 今の流れを考えれば、それも悪い形ではないだろう。だが向こうがこのまま終わるわけがない。

  

  「押せ押せぇぇええっ!!我が曹魏の恐ろしさ、奴らに思い知らせろ!!」

  「ちょい春蘭様ぁ!待ってくださいなぁ!」

  「ほんまやで春蘭!でしゃばり過ぎるんもほどほどにしぃや!!」

  本来の陣から突出する形で隊を進めていた春蘭に稟の指示に従って後ろから追いつく霞と真桜。

  「霞!真桜!お前達も来たのか!?」

  「来たのかって・・・!春蘭様達が飛び出し過ぎなんですって!」

  「そうやで!もうちぃっと周りに合わせろやって!」

  「ふん!ならば、お前達が我々に合わせればいいだけの事だろう!気合が足りんぞ!!」

  「「・・・・・・」」

  やや開き直り気味に言う春蘭に二人は言葉を失う。

  「とにかくこのまま押し切りさえすれば・・・」

  その時、城塞の城門が再び開かれる。

  「ん?」

  いきなり開いた城門に目をやる春蘭。

 そしてその城門から濁流の様な勢いで飛び出してくる大量の傀儡兵・・・、さらに城門からでは足りん

 と言わんばかりに、城壁の上から壁を伝いながら下へと降りて行く傀儡兵。黒尽くめの傀儡兵によって

 城塞の壁は黒く塗りつぶされてしまったようになっている。城壁から出て来るや否や、傀儡兵は魏軍の

 方へと突撃を仕掛けていった。

  「な、何ぃぃいいい!!!まだこれだけの兵を隠していたのか!?!?」

  「いや、それは最初から分かりきったことやないか・・・!」

  「せやけど、姐さん!この数は半端やない!さっきの倍以上はおるでぇ!!」

  「それがどうした!先程の倍以上にいるならば先程の倍以上に叩き切ればいいだけの事だ!!」

  「なんやねん!!その春蘭理論は!?!?」

  「言うとることは分かるんですけどそれは無茶ってもんやでぇ!?」

  「だぁああ!!四の五の言っておる暇があるならば、手を動かせぇ!!来るぞ!!」

  「しゃーない!誰か後曲の秋蘭達を連れて来てくれへんかぁ!!!」

  

  「敵さんは増援を出してきたようですね~」

  後曲から秋蘭と同伴していた風がいち早く戦況の変化を察知する。

  「そのようだな。もっとも、数で言えば先程の倍以上か・・・」

  「こちらも先の戦闘で戦力を消費していますから・・・、その倍以上が増援で来るのは、

  こちらとしては少しよろしくないですね~」

  「どうするのだ?」

  「華琳様に状況を報告して本隊を動かしてもらった方がよろしいかと。風達も前線の春蘭ちゃん

  達と合流しましょう」

  「それが妥当だな。誰かあるか!」

  

  「はぁあああああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  「でぇやぁあああっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  「でぇえいいいいっ!!!」

  キュイイイィィィィィィンッ!!!

  片端から傀儡兵を薙ぎ倒していく三人。それでも一向にして向こうの戦力が削がれる様子が無かった。

  「なぁ、さっきから思っとたんやが・・・」

  ふと、霞が気になっていた事を口にする。

  「何だこんな時に!!」

  「うちらが敵さん方を倒す度に城塞の方から敵さんが新しく出てきとる気がするんやけど・・・」

  「何だとっ!?はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「違うで姐さん、新しく出てきとるんやない・・・。増援が出て来た時からずっと出てきとるん

  よ、あれ」

  と霞に真実を伝える真桜。

  「真桜、それはどういう意味だ!?」

  真桜の言う事がよく分からない春蘭。

  「増援がずっと出っぱなし・・・。そういう事でっせ、春蘭様」

  真桜なりに分かりやすく解釈で説明する真桜。

  「・・・底なしなんか。連中の兵数は・・・」

  そうもしている間にも傀儡兵の数は増加していく・・・。すでに兵数は前線の魏軍兵のそれを超え、

 もうじき全兵数に達しようとしていた。

  

  「華琳様、後曲の風から報告です。敵軍の増援により前線が押され始めているのとの事。

  本隊を前線まで動かして欲しいとの事です」

  風から新たに入った報告を華琳に説明する稟。それを聞いた華琳は案の定という顔をする。

  「そう、向こうは数の暴力で私達を潰す気の様ね・・・」

  「現在、敵の兵数はこちらの全兵数を超えようとしています。一兵当たりの戦力がこちらを

  上回っている事を考えれば、これ以上増加されては・・・」

  少し考え込む華琳。そしてすぐに考えを固めると、王座から立ち上がる。

  「・・・本隊を動かしましょう。本隊は私自らが率いていくわ!稟、あなたは風と合流し各将達

  に全戦力を前線に注ぐよう伝えなさい!」

  「御意っ!」

  華琳に一礼すると、稟は近くに待機させていた自分の馬にまたがり後曲へと向かっていった。

 

  外史喰らいにとって、この戦いに大した意味など無い。華琳達が何をしようが、結局は無意味なのだ。

 そしてあと二,三日もすれば一刀は勝手に死んでくれる。そうなれば、後はこの外史を消せば、こちら

 の勝ち・・・全ては無に還元される、という事になる。外史喰らいからすれば、この戦いは戯れにしか

 過ぎなかった・・・。

 

  後曲、本隊が前線に出るという状況にも関わらず、覆った戦況を再び覆す事が出来なかった。

 傀儡兵の数に押され、魏軍は前進するどころか後退する一方であった。

  「ちょりゃああああああっ!!!」

  ブォオオオオオオッ!!!

  ドガァアアアアアアッ!!!

  「おぉりゃああああああっ!!!」

  ブォオオオオオオッ!!!

  ドガァアアアアアアッ!!!

  季衣と流琉の一撃が周囲の傀儡兵を横に払い飛ばす。その攻撃網を潜り抜けた一人の傀儡兵が二人の

 横をすり抜けていく。

  「はぁあっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュゥウウッ!!!

  「ッ!?!?」

  だが、その一人も華琳の一撃に斬り捨てられる。

  「前線を突破され始めたようね・・・」

  すでに前線を突破し、華琳のいる所まで突破してきた傀儡兵が増えつつあった。しかし、不思議な

 事に華琳は春蘭達が苦戦する傀儡兵をいとも容易く倒していく。

  「さっすが華琳さま♪」

  傀儡兵を一撃で薙ぎ倒した華琳に感心する季衣。

  「華琳さま、このままだと陣形が持ちません!」

  「華琳様。流琉の言う通り、確かにこのままでは陣形が崩壊しかねません。」

  「そうね。前線を固める必要があるわね・・・。私達も前線まで出るわよ!!皆、私に付いて

  来なさい!!!」

  「「「応ぉぉぉおおおおおおっっっ!!!」」」

  

  その時、城塞の上を一つの影が過る。

 

  その影は優雅で、そして兇器な二枚の翼を大きく開き、時に羽ばたかせる。

 

  その華奢で小さな姿、だが時に鷹の様な猛々しさを見せる。

 

  そして影は戦場へと舞い降りていく・・・。

 

  「はぁっ!でやぁ!」

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオッ!!!

  「ッ!!」

  春蘭は傀儡兵の二本の爪を振り下ろした太刀で叩き折る。

  「もらった!!」

  春蘭は止めの一撃を傀儡兵に太刀を振り下ろそうとした瞬間、傀儡兵の背後から何かが近づいて来る。

 春蘭が気付いた時にはすでに太刀を振り下ろしていた。

  ザシュゥゥウウウッ!!!

  近づいてきた何かが傀儡兵の首を跳ね飛ばし、春蘭が振り下ろした太刀を叩く。

  ガギィイイイッ!!!

  「ぐわぁっ!?」

  太刀は横に弾かれ、太刀を握っていた春蘭は体勢を崩しその場に倒れる。首なしとなった傀儡兵は

 足元から崩れ、その場に倒れる。

  「・・・何だ、今のは?」

  春蘭は状況を把握するため周囲を見渡す。そして自分の上を影が通り過ぎるのを見ると、それを

 追いかける。

  「・・・!」

  何だ、あれは・・・とその影をその二つ目で捉える春蘭。自分達の頭上のはるか上を旋回している影、

 鳥にしては大きく、その姿からしてもあり得ない。その姿はどちらかと言うと人間そのものだった。

  「何だ、あれは・・・鳥・・・いや人間か?」

  その正体が分からない存在に呆気にとられる春蘭。

 そして鳳凰は旋回を止め、現状維持の体勢を取るとくるり横に一回転する。

  ガチャ・・・ッ!

  何かが外れるような音がする。一回転した鳳凰は背中の二枚の翼を大きく広げた。

  二枚の翼に付いていた鋭利な刃となった数十枚の羽達が一斉に翼から離れ、四方八方へとまるで

 意思がある様に飛んでいく。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  「ぎゃあああっ!!!」「・・・ッ!!!」「がぁあああっ!!!」「・・・ッ!!!」

  そして地に足を付けて戦っていた傀儡兵と魏軍兵達を見境無しに、その体を刺し貫いていく。

  「な・・・、あいつ!敵味方関係なく・・・!」

  向こう側の者かと思っていた春蘭は、仲間である傀儡兵を殺す鳳凰に驚愕する。

 羽一枚当たり一人を殺害すると、刺し貫いた者から離れ、再び鳳凰の翼へと自分から戻っていく。

 その中に肉塊となった魏軍兵を刺し貫いたまま戻ってきた羽が一枚あった。

  ブゥオンッ!!!

  ザシュウウウッ!!!

  鳳凰はその肉塊となった魏軍兵を左側の翼で胴体を切り裂くと、最後の一枚も翼に帰って行く。

 二つに分かたれた肉塊は異なる場所にドサッと落ちる。

  「くそ・・・!」

  同胞の死体を無残に切断する様を見せつけられた春蘭は顎に力を込める。だが、肝心の鳳凰は

 自分の頭上はるか上、太刀の届かない所にいた・・・。

  「弓兵っ!あの敵に一斉発射!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭の掛け声に合わせ、鳳凰に向かって一斉に矢を放つ弓兵部隊。

 大量の矢が鳳凰に向かっていく。だが鳳凰は二枚の翼で自分の身を隠すと、矢はその翼に空しい

 金属音を立てながら次々とぶつかる。

  「くぅ・・・っ!」

  矢では通用しない事に少しばかりか焦りが生じる秋蘭。唯一の攻撃手段が通じないとなると、他に

 どんな手があるかそれを思索しようとするが、そうさせまいと鳳凰が動き出す。二枚の翼を広げながら、

 鳳凰は秋蘭達がいる場所へと急降下していく。

  「っ!?お前達この場から急いで離れろっ!!」

  こちらに飛び込んでくる鳳凰から逃げ出す弓兵達。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  逃げ遅れた弓兵は鳳凰の二枚の翼に体を切り刻まれ、肉塊が地面に転がる。

 再び空へと急上昇していく鳳凰の翼は兵士達の血で濡れ、先端から血の雫が滴り落ちる。

  「秋蘭、大丈夫かっ!?」

  秋蘭の元に春蘭が駆け付ける。

  「あぁ、何とかな・・・・。しかし、困ったものだ」

  そう言って、秋蘭は上空を優雅に旋回している鳳凰を見る。

  「・・・どうしたらいいんだ!いくら何でも空を飛んでいる奴など、私は相手にした事はないぞ!」

  「それは姉者だけに限った事では無いさ」

  「春蘭様!」

  「秋蘭様!」

  と、そこに事の事態に気付いた凪と沙和が駆け付ける。

  「凪、沙和。無事だったか・・・」

  「お二人共もご無事の様で」

  「でもぉ、すごく苦しいかもなのぉ・・・敵さん達は増える一方で、兵士の皆も疲れ始めているのぉ」

  「それとあれもな・・・」

  そう言って、秋蘭は顎で鳳凰を指し示す。

  「あの姿・・・、以前隊長を襲ったのとよく似た外装だ・・・」

  鳳凰の姿を見て、麒麟を思い出す凪。それを聞いて秋蘭はやはりと確信する。

  「やはり・・・、ではあれも向こう側の存在と言う事か」

  「だけど、あの鳥さん・・・さっき味方の敵さん達も・・・!」

  「・・・代わりはいくらでもいる、恐らくそう言う事なのだろう」

  「しかし、まずいぞ秋蘭。早くあれを何とかしなければ、前線が崩れかねないぞ!」

  春蘭の言う通り、ただでさえ疲弊している中での鳳凰の登場は兵士達の士気を大きく削る事となった。

 この状況を打破しなくては前線が崩れるのも時間の問題となっていた。

  「あ・・・!奴が移動を始めたぞ!」

  何かを見つけたかの様に、鳳凰は旋回を止めると、翼を大きく羽ばたかせ、春蘭達の上を過ぎていく。

  「・・・いかん!あの方向には華琳様が・・・」

  「・・・っ!」

  「大変なのっ!!」

  「・・・行くぞお前達!華琳様をお守りするぞ!!」

  

  「はぁあああっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ッ!?!?」

  「華琳さまに近づくなぁあああっ!!!」

  「おぉりゃああああああっ!!!」

  ブゥオオオンッ!!!

  バコォオオオッ!!!

  「ッ!!!」「ッ!!!」「ッ!!!」

  「大丈夫ですか、華琳様!?」

  周囲を傀儡兵達薙ぎ払うと、流琉と季衣は華琳の元へと駆け寄って行く。

  「えぇ、あなた達のおかげよ」

  そう言って、季衣と流琉に微笑む華琳。

  (・・・とはいえ、このままでは数に押されてしまう。後もう少し、何とか前線を

  持ち堪えさせないと)

  一方で、この現状が芳しくない事を言葉にせず頭で理解する。

  ブォオオオッ!!!

  「・・・っ!?」

  華琳は何も言わず、目の前に立っていた二人を横に突き飛ばす。

  「わわぁっ!?」

  「きゃぁっ!?」

  季衣が流琉の上に乗りかかる形で横に倒れる二人。そして華琳の前方から鳳凰が低空下から翼を

 広げ突進して来る。

  ザシュッ!!!

  鳳凰の翼の先端が華琳の右横をかすめる。寸前で避けた華琳のツインテイルの右側と髑髏を模した

 髪留めが宙に舞い、地面に落ちる。華琳の髪束は地面に落ちるとその衝撃で散らばってしまう。

  鳳凰は再び上空へと舞い上がると、華琳を上空から見下ろす。

  ガチャ・・・ッ!

  二枚の翼を横に広げる鳳凰、翼から数十枚の羽達が離れ、その先端を華琳に向け一斉に華琳に

 飛んでいく。

  「・・・・・・っ!!」

  正面、左右横から飛んでくる羽達によって華琳は逃げ場を失う。華琳は無駄だと分かっていても

 絶で防御を張ろうとする。そこにようやく春蘭達が駆け付ける。

  「「華琳さまぁ!」」

  叫ぶ季衣と流琉。

  「「華琳様っ!!」」

  叫ぶ凪と沙和。

  「「華琳様ぁあああっ!!!」」

  叫ぶ春蘭と秋蘭。そして・・・

  「華琳ーーーーーーーーっ!!!」

  その瞬間、華琳の横を風が吹き抜けた・・・。

 

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  数十枚の羽が刺し貫く音・・・。

  「う、うわぁああああああああああああ・・・・・・っ!!!」

  ドサァッ!

  悲痛な叫びをあげ、春蘭がその場に崩れる音・・・。

  ザザザァァァアアアア・・・ッ!!

  砂煙をあげながら地面を滑る音・・・。

  「姉者・・・」

  秋蘭は片膝を折って、項垂れる春蘭の肩を持つ。

  「うぅ・・・、かりんさまぁ~・・・」

  「姉者、顔を上げてみろ・・・」 

  「・・・?」

  秋蘭に言われ、恐る恐る顔を上げる春蘭。涙目で歪んでいたが、春蘭には分かった・・・。

 どうしてそこにいるのかは分からなかった。だが、そこあるのは間違い無く彼の背中であった。

  「・・・大丈夫か、華琳?」

  一刀は自分の胸に抱えていた華琳に尋ねる。

  「一刀・・・。あなた、どうしてここに・・・?」

  華琳は一刀に抱きかかえられながら彼に尋ね返す。

  「質問を質問で返すなって。まぁ、その様子なら大丈夫の様だな」

  一刀はゆっくりと立ち上がると、抱えていた華琳を地面に立たせる。

  「か、華琳さまぁ~~~っ!!!」

  がばぁっ!

  「きゃ!?ちょっと、春蘭っ!」

  大粒の涙をぼろぼろと零しながら華琳の腰に抱きつく春蘭に華琳は思わず驚いてしまう。

  「華琳さまぁ~~~っ!!!」

  がばぁっ!

  そして季衣も満面の笑みで華琳の腰に抱きつく。

  「な・・・ちょ!季衣あなたまでっ!?」

  「華琳さま~♪華琳さま~♪」

  「良かった・・・、本当に良かったです~!華琳さま~~~!・・・北郷!恩に着る!本当に

  ありがとう!」

  「春蘭、・・・お前も泣いたり、礼を言ったり、・・・忙しいな」

  「「隊長っ!!」」

  「兄様!」

  そんな一刀の元に駆け寄る凪、沙和、流琉。

  「凪、沙和、流琉。すまん、来るのが遅くなった」

  「しかし北郷、何故お主がここに・・・?」

  秋蘭は洛陽にいたはずの一刀が何故ここにいるのか理由を求めてくる。

  「それは後で話す。・・・まずは、あいつを何とかするのが先だ」

  そう言って、一刀は羽を回収し終えた鳳凰を見ると、それに釣られる様に秋蘭も鳳凰を見る。

  「そうだな。色々と聞きたい所だが、今はそちらに専念しよう」

  「華琳・・・?」

  一刀は華琳の方をもう一度見ると、ようやく季衣と春蘭から解放されていた。

  「・・・そうね。一刀、今は敢えて何も聞かないわ。でも後でちゃんと話してもらうわよ」

  「そうだぞ、北郷!お前は華琳様の言う事に背いたのだ。後でちゃんと聞かせてもらうぞ!」

  「・・・・・・」

  先程まで子供の様に泣きじゃくっていた春蘭の切り替えの早さに逆に感心し、言葉を失う一刀。

  「な、何だ・・・その目は?」

  「・・・いや別に。後で、ならいくらでも喋るさ」

  「そ、そうか・・・」

  春蘭との会話を終えると一刀は刃を鞘から抜き取る。

  「では一刀、この場はあなたに任せるわ。秋蘭、あなたは一刀の援護に回りなさい!」

  「はっ」

  「なら私も・・・!」

  「他の子達は私と一緒に前線を立て直すわよ!」

  「「「はっ!」」」

  「なら私はここに・・・!」

  「姉者は華琳様と行け」

  「何だとぉっ!?」

  「春蘭、前線の持ち直しにはお前の力が不可欠になる。ここは秋蘭の言う通りにするべきだと思うぞ」

  「し、しかし・・・!」

  「春蘭」

  「姉者」

  「・・・・・・分かった」

  「話は終わったかしら?」

  「はい!急ぎましょう、華琳様!!」

  華琳は春蘭達を引き連れ、前線へと戻って行く。一方でその場に残った一刀と秋蘭。

  「こうして組むのは初めてだな」

  「あぁ、足を引っ張ったらごめん」

  「問題無い。そのために私がいるのだ」

  「・・・そうだな。なら、行くか」

  「うむ」

第二十四章~一刀、それは希望という名の剣なり・後編~

  

 

  

  上空の鳳凰が右手を腰に回し、腰に下げていたものを右手に取る。それは今でいう拳銃に近い代物。

 その銃口を地上の一刀に向け、引き金を引く。

  バァア―――ンッ!!!

  銃口から破裂音とともに数十㎝の鉄杭が放たれる。

  「っ!」

  一刀は咄嗟に左に体をずらすと鉄杭は一刀の横をすり抜け、地面に突き刺さる。どうやら、桔梗の

 豪天砲のそれを片手用に改良したものなのだろう。鳳凰は銃口を再び一刀に合わせ、引き金を二度引く。

 そして破裂音とともに二本の鉄杭が撃ち出され、鳳凰自身も地上へと急降下していく。

  一刀は足で地面を蹴って後ろへと下がり、二本の鉄杭を避ける。

  ブワァアアアッ!!!

  そんな一刀に急降下して来た鳳凰の翼が襲いかかる。

  ガッギィイイイッ!!!

  一刀は刃で翼を受け止めるが、その衝撃に後ろに倒れる。鳳凰は上空へと戻る事無く、後ろを振り

 返りると、倒れた一刀に銃口を向ける。

  ビュンッ!!!

  秋蘭が撃ち放った矢が鳳凰の右手を捉える。

  「・・・!」

  右手に刺さった矢を見下ろす鳳凰。

  「・・・ッ!」

  ブゥオンッ!!!

  その隙を貰ったと、一刀は起き上がると同時に刃で斬りかかった。

  ガゴォオオオッ!!!

  だが、斬撃は翼によって受け止められ、そのまま弾かれる。

  「うぉおっ!!」

  一刀は地面を蹴り、鳳凰の間合いに入り込むともう一度斬撃を放つ。

  ブゥオンッ!!!

  しかし、鳳凰は上空へと上がりその斬撃は空を切る。

  「逃がさんっ!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  「・・・!」

  バァンッバァア―――ンッ!!!

  秋蘭が放った二本の矢を引き金を二回引く事で鳳凰は撃ち落とす。すると、銃身の下から鉄杭が

 空になった杭倉が自動的に落ちる。鳳凰は左手を腰に回し、予備の杭倉を取り出すと、銃身の下から

 杭倉を装填する。

  「空の方に逃げられたら、こっちは手も足も出せない・・・」

  自分も空を飛べれば、そう何度も考えたが、飛ぶという事が今一つピンとこない一刀。イメージが

 上手く固まるはずも無く(つまり飛ぶという概念が立てば、一刀も飛べるかもしれない)、次第に

 苛立ちが現れる。

  そんな彼の心情を察するかの様に鳳凰は二枚の翼を広げる。

  ガチャ・・・ッ!

  そして何かが外れるような音がする。

 二枚の翼に付いていた鋭利な刃となった数十枚の羽達が一斉に翼から離れ、その先端を一刀に定めて

 飛んでいった。

  ガギィイッ!!!ガギィイッ!!!ガギィイッ!!!

  一刀は足を使って一ヵ所に止まらないようにしながら、羽を片端から刃で叩き落とす。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭も一刀を援護をするべく、可能な限り矢を撃ち続ける。一刀に向かって飛んでいた羽の一部は

 秋蘭の撃った矢の方に狙いを変え、矢を叩き落とす。一刀に叩き落とされた羽、秋蘭の矢を落とした羽

 は再び鳳凰の翼へと戻っていく。その中で、鳳凰は銃口を秋蘭に向け、引き金を引く。

  バァア―――ンッ!!!

  「っ!?」

  秋蘭は咄嗟に横に避ける。

  ザシュッ!!!

  撃たれた鉄杭は秋蘭の右太腿を掠り、掠った箇所から血が噴き出す。

  「く・・・っ!」

  右足が崩れ、膝を折る秋蘭。それと同時に、全ての羽が鳳凰の翼へと戻り終える。

  「・・・・・・」

  鳳凰がもう一度先程の攻撃を繰り出してくると分かった一刀は何か打開策を見つけようとする。

  「何か飛び道具があれば・・・」

  一刀はそう呟く。それが聞こえたのか、秋蘭は手の中の餓狼爪を見ると、今度は一刀を見た。

  「使え、北郷!」

  秋蘭から餓狼爪を投げ渡され、一刀はそれを左手に取る。すると、餓狼爪は一刀の体格に合わせるか

 のように大きくなる。

  「・・・・・・」

  一刀は右手に矢のイメージを注いでいくと、掌から青白い炎が空に上がり、矢へとその姿を象る。

  「・・・良しッ!」

  意を決した一刀は炎の矢を餓狼爪に掛け、そして力の限りに弦をキリキリと音を立てながら

 ゆっくりと引く。

  「・・・・・・ッ」

  矢の先端をはるか上空の鳳凰に定める一刀。それに気付いた鳳凰は二枚の翼を広げる。翼に装着

 していた羽が翼から離れ、上空から地上の一刀に向かって次から次へと飛んでいく。

  「・・・ッ!!」

  ビュンッ!!!

  弦を離した瞬間、矢は青白い光の残像を描き、炎の残り火を巻き散らしながら鳳凰へと真っ直ぐに

 突き進んでいく。

  ガギィイイイッ!!!

  ぶつかる矢と羽。競り勝ったのは一刀の炎の矢。矢はその勢いを削ぐ事無く、そして次々と一刀を

 狙う羽を正面から叩き落とす。

  「・・・・・・ッ!?!?」

  鳳凰はその矢を叩き落とそうと、その矢に向かって全ての羽を放っていく。

  ガギィイイイッ!!!

  そして残り最後の羽が翼から離れた瞬間・・・。

  ビュンッ!!!

  バッゴォオオオッ!!!

  炎の矢が鳳凰の胸を貫く。

  「・・・・・・!?!?」

  鳳凰の小柄な体を矢はいとも容易く貫通し、矢の先端が背中から飛び出そうとする瞬間、背中から

 矢に引き剥がされる様にして、蛸の姿を模した影篭が矢に貫かれる形で現れる。

  ボォオ・・・ッ!

  そして影篭の体はたちまち青白い炎に包まれ、激しく燃え上がる。その炎は瞬く間に鳳凰にも移り、

 鳳凰の体も燃やす。上空を飛んでいた鳳凰はその力を失い、逆さまに落ちていく。落ちて最中、影篭

 の身体は黒い文字に姿を変え、宙に舞い、消える・・・。

  ズドォオオオオオオン―――ッ!!!

  地に落ちてもなお、しばらく燃え続ける鳳凰の体。だが、消えるのは本当に一瞬であった。

 そこに残ったのは、白銀の鎧と・・・小柄な少女、音々音だけであった・・・。

 

  「ありがとう、秋蘭。これ、返すよ」

  そう言って、一刀は餓狼爪を秋蘭に返す。餓狼爪が一刀の手から離れ、秋蘭の手に戻ると、本来の

 姿へと縮小する。

  「北郷、体の方は大丈夫なのか?」

  「おかげさまで。ちょっと危なかった所もあってけど、そこは秋蘭が・・・」

  「そう言う意味で言ったのではない」

  一刀の台詞が秋蘭の台詞に遮られる。秋蘭の言おうとした事を違う意味で解釈していた事を、

 一刀は理解する。

  「・・・これの事か?」

  そう言って一刀は学生服の襟を広げ、自分の首筋を秋蘭に見せる。同化はすでに首筋にまで至り、

 顎の裏側まで達しようとしていた。

  「また・・・、一段と進んでいるようだな」

  「そうだな」

  そう言いながら、一刀は学生服の内ポケットから数粒の赤い錠剤を取り出す。

  「何だ、それは?」

  答える前にその錠剤を全て口に含み、一気に飲み干す一刀。

  「同化の進行を抑える薬らしい。ここに来る前に干吉から渡されたんだ・・・と言っても、

  焼け石に水だろうけど、飲まないよりかはましだろうさ?」

  「・・・そうか」

  他に言いたい事はあったが、敢えてそれだけを言う秋蘭。

  「あ。、そうだ。秋蘭、例の巻物・・・今持ってるか?」

  「・・・これの事か?」

  一刀に言われ、懐からあの時左慈が残していった祝融の巻物を取り出す。その後、一刀もその

 内容を確認したのだが、結局一刀ですらその内容を理解出来なかった・・・。

  「だが北郷、これが今更何だというのだ?」

  「文のところどころがまるで文字化けみたいになっていて、訳が分からなかったけど・・・。

  どうもこの中身はさほど重要じゃないみたいなんだ。大事なのはこの巻物自身なんだ」

  「・・・どういう意味だ?」

  「この巻物が、外史喰らいに行くための鍵なんだ」

   

  「引くなぁああああああっ!!!全力死守ぅぅうううっ!!!」

  「「「応ぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  鳳凰の介入により、瓦解寸前であった前線を華琳達は何とか持ち直す事が出来たが、それでも劣勢

 に置かれている事には何ら変わりは無かった。

  「うぅ~、倒しても倒してもきりがないよ~!!」

  「弱音を吐くな、季衣!!弱音を吐く余裕があるならば一人でも多く倒さんか!!」

  「相変わらずの無茶振りやなぁ!!春蘭!!」

  「無茶でも何でもやれ!やってみせんかぁあああっ!!!」

  「でも・・・そうだよ、季衣!ここで諦めちゃ・・・今までしてきた事が無駄になっちゃう!」

  戦いの中、互いに励まし合う春蘭達。そこに鳳凰を倒し、ようやく一刀と秋蘭が戻って来る。

  「姉者、無事かっ!?」

  「秋蘭!当たり前だ、私を誰だと思っておるのだ!!」

  「そうだな、愚問だったな」

  春蘭の返答に秋蘭はふふっと笑う。

  「華琳、この傀儡兵達は倒してもあまり意味は無い。外史喰らいの本体を何とかしない限り、

  こいつ等の数は減る事は無い」

  「・・・でしょうね。私としても、早い所先を急ぎたいのだけれど、向こうがそれを阻んでいるのよ」

  「そうやで隊長。だからうちらも困り果ててんやで」

  「・・・何か手は無いのか?」

  「・・・無い事も無い」

  「あるのか、秋蘭?」

  「だが、それには北郷・・・。お主も覚悟をしてもらう必要がある」

  「覚悟なら、すでに出来ている」

  一刀は秋蘭の顔をじっと見る。その目に迷いは無く、それを見た秋蘭は一人ふっと笑う。

  「・・・そうだな。では簡単に言う。我々で道を作る。お主は・・・華琳様と一緒に、行け」

  「全員は無理でも、一人二人のための道を作るぐらいならば、何とか出来るうだろうしなぁ」

  「春蘭、秋蘭・・・」

  何かを言おうとした一刀。だが、その言葉を喉の奥に引っ込める。それを口にすれば、二人の

 思いを無駄にしてしまうのではに無いかと思ってしまった・・・。 

  「華琳・・・」

  一刀は華琳の顔を見る。華琳はちらっと一刀の方を見て、すぐに春蘭と秋蘭に目を向ける。

  「・・・あなた達にそれが出来るかしら?」

  「はい!」「無論・・・」

  華琳の質問に同時に答える二人。

  「なら、やってみせて頂戴」

  華琳は敢えてただそれだけを言う。それだけで春蘭と秋蘭は華琳の言わんとする事を全て理解して

 いた。そして一刀もこの三人の信頼関係を誰よりも理解していた。だからこそ、このやり取りに

 隠れた絆を一刀は分かっていた。

  「良し・・・、行くぞお前達!!!我々で道を作る!!その命、私に預けろぉぉおおおっ!!」

  春蘭は兵士達に向かって叫ぶ。

  「「「「「「応ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」」

  そして兵士全員が大気を震わせる程の声を上げる。

  「突撃!!突撃ぃぃいいいいいいっ!!!」

  春蘭が声を荒げ、敵陣へと切り込んでいくと兵士達はその後に続いていく。傀儡兵の陣は城塞に

 向かって、みるみる二つに分断されていく。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  「ぎゃぁあああっ!!!」「うがぁあああっ!!!」「がぁあああっ!!!」

  突撃の中で倒れていく兵士達。だが、それでも皆は臆する事無く突撃し続けていく・・・。

  「・・・・・・っ!!!」

  次々と倒れていく兵士達の姿を見て、一刀は堪(たま)らず目を逸らそうとした。

  「駄目よ、一刀!!」

  目を逸らそうとした一刀に怒る華琳。

  「彼等はあなたと私、そしてこの世界のため、命を賭す覚悟を決めた。あなたも覚悟を

  決めてここに来たのならば、彼等の覚悟から目を背けてはいけない!!」

  「・・・・・・っ!」

  そして一刀は再び前を見る。そんな彼の姿を見て、華琳は口を開く。

  「一刀」

  「・・・?」

  「さっきは敢えて聞かなかったけれど、今ここで聞きましょう。」

  「・・・・・・・・」

  「北郷一刀。お前は・・・、どうしてここへと来た?」

  「于吉にここまで連れて来てもらった。勿論、桂花にもちゃんと話は付けて来た」

  「誰もそんな事は聞いていないわ!何故ここに来たのかを聞いているの!」

  「皆が頑張っているのに、自分一人が何もしないでいるわけにはいかないと思ってさ」

  「私は何もするなって言ったはずよ。まさか、忘れたのかしら・・・?」

  「忘れてはいないよ。ただ・・・」

  「ただ・・・」

  「あの時、決めたんだ。戦うんだって・・・」

 

―――まだ俺の戦いは終わっていない。露仁・・・、俺は戦うよ!あんたに言われたからじゃない、

  俺だって守りたいんだ・・・、この世界を、華琳達のために、そして何より俺自身のために・・・。

 

  「それが残り少ない命を削ってまで、その力を使って戦う程の理由だって言うのかしら・・・?」

  「・・・最初は理由なんてなかった。全ては押し付けられて始まった・・・でも、『戦う』って

  決めたのは『俺』なんだ。誰かに決められたわけじゃなく、俺自身が決めた事なんだ。

  だからこそ、俺は今ここにいる。戦う理由が必要だって言うなら、今の俺にはそれだけで十分だ」

  「その結果が、死ぬ事になろうとも?」

  「死なないさ」

  「どうしてそう言い切れるの?」

  「君が俺を守ってくれるからさ」

  「あなた・・・」

  「そして君も死なない。何故なら・・・」

  そこで一旦止める一刀。そして再び口を開いた。

  「俺が君を必ず守るから」

 

―――ならもう少し強くおなりなさい。・・・女を守ってやれるぐらいにね。

 

  「・・・そう。なら安心ね」

  頼もしくなった少年を横目に見て、華琳はほくそ笑む。

  「・・・行こう、華琳。君は俺を守ってくれるんだろう?」

  そう言って、一刀は華琳に手を差し伸べる。

  「・・・えぇ」

  華琳は一刀の手をぎゅっと握り締める。そして二人は春蘭達が作った道を突き進んでいった。

 その道は一人、二人がぎりぎり通れる程度の道・・・。その道を二人は互いの手を握り締め、駆け

 抜けていく。

  そして春蘭と秋蘭の横を二人が横切ろうとした。

  「北郷!」 「華琳様!」

  春蘭は一刀に、秋蘭は華琳に声を掛ける。

  「華琳様を!」 「北郷を!」

  二人はそれぞれ自分の思いを伝える。

  「頼んだぞ!」 「頼みます!」

  二人は一刀と華琳の背中を見送る。

 だが、城塞の城門から傀儡兵が現れ、二人の前に立ちはだかる。

  「華琳、飛ぶぞ!!」

  一刀は華琳の後ろに回ると両腕に抱きかかえる。

  「はぁああああああっ!!!」

  ブワァアアアッ!!!

  一刀は華琳を抱きかかえながら、傀儡兵達の頭上高く飛び上がり、傀儡兵達の後ろへと着地する。

 そしてそのまま城塞内へと入って行くのであった・・・。

 

  ガッゴォオオオッ!!!

  「・・・ぐわぁっ!!!」

  太刀を弾かれ、倒れる春蘭。傀儡兵の数の暴力によって、すでに道は無くなっていた。

  「ぐ、くそぉ・・・、ここ、までなのか・・・」

  太刀を杖代わりに立ち上がろうとする春蘭。だが、足が言う事を聞かない。そんな彼女に傀儡兵が

 襲いかかった。

  「・・・っ!」

  春蘭は目をギュッと閉じ、顔を俯く。傀儡兵はそんな春蘭に容赦なく剣を振り下ろす。

  ブォウンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「・・・ッ!?!?」

  ドサッ!!!

  「あらら、何だか・・・随分と手こずっていたようね?春蘭・・・」

  「・・・な、何?」

  目を再び開き、春蘭は顔を上げる。

  「ふっ・・・、夏侯惇とあろう者がこの程度で根を上げようとは少々情けないぞ、春蘭」

  そこには傀儡兵の亡骸と、雪蓮と愛紗の姿があった。

  「お、お前達・・・、助けに来るなら、・・・もう少し早く助けに来い!!」

  そう言って力強く立ち上がる春蘭。

  「助けに来てあげたって言うのに、相変わらずの物言いね」

  「だが、それでこそ春蘭らしいと言うもの」

  この時、ようやく呉軍、蜀軍が泰山の麓に到着する。すでに陣は展開され、傀儡兵と戦う

  呉軍兵士と蜀軍兵士達の姿がその戦場にあった。

  「大丈夫ですか、秋蘭さん?」

  「紫苑。お主も来てくれたのか」

  「助けに来てやったのだ、ちびっ子!!」

  「何だとちびっ子!?お前の助けなんか必要ないやい!!」

  「ちょっと季衣!喧嘩している場合ではないでしょう!」

  「真桜!凪!沙和!助けに来たぞ!」

  「翠~!」

  「翠・・・!来てくれたのか!?」

  「たんぽぽも来たよ~!!」

  「ありがとう、蒲公英ちゃん!」

  「星ちゃん、あなたも来てくれたのですか~?」

  「ふふっ当然、このような大舞台を前にしてくすぶっておる様な私ではないのでな!」

  「相変わらずの自信家のようで・・・」

  「だが、それでこそ私というものであろう、稟?」

  「・・・違いありません」

  「へへ・・・っ、何や何やぁ?戦いはまだまだこれからっちゅうことかいな?」

  「そう言う事だ、霞。折角我々が来たと言うのに、勝手に幕を降ろされてはかなわん!」

  「そうよね~。私達も楽しませてもらわないと♪」

  「良く言ったお前達!ならば、遅れた分しっかりと戦ってもらうぞ!!!」

 

  一方、無事に城塞内へと侵入した一刀と華琳・・・。

  「泰山の頂上へはどう行けばいいんだ?」

  「泰山への頂上、神殿へはこの城塞内にある洞窟を抜ける必要があるのよ。そこからでなければ、

  神殿へ辿りつく事は出来ないわ」

  華琳の後を付いて行く一刀。城塞内には人の気配は無く、もぬけの殻の状態にあった。

 そのため、二人はすんなりと洞窟の前に辿りついた・・・。

  「これは・・・」

  二人の行く道を阻むかのように、洞窟の入口は無機質な壁に遮られていた。

  「おかしいわね・・・。前に来た時は、こんな壁は無かったはず・・・」

  華琳は壁を上から下へと見ていく。壁にはたくさんの文字が隙間なくみっちりと描かれており、

 その中央には変わった形の窪みがあった。その窪みを見た一刀はそれを見て、すぐに理解した。

  「・・・そうか。鍵って、こう言う意味だったのか?」

  一刀はポケットから先程秋蘭から貰った例の巻物を取り出すと、そのまま窪みにはめ込む。

 考え通り、巻物はその窪みぴったりとはめ込まれる。すると、壁の文字達がゆっくりと光り出す。

  「「・・・・・・」」

  黙って様子を見る二人。壁が次第にその光に包み込まれ、ついには壁全体が光り出す。そして光は

 四方八方に拡散し、そこにあった壁は跡形も無く消えていた。

  「どうやら、この洞窟が直接『道』に繋がっているのか・・・」

  洞窟の中を見る一刀。洞窟の途中から明らかに世界が変わっていた。恐らくこのまま進めば、外史

 喰らいの中へと入ること出来るのであろう。

  「・・・行きましょう」

  「あぁ・・・」

  二人は洞窟内へと足を運ぶ。

 洞窟内を進んでいくに連れ、二人を白い光が包み込み、次第に二人の視界も白くなっていく。気が

 遠くなりそうな感覚に襲われながらも、進み続けると、ようやく白い光を通り抜け、白い視界からも

 次第に解放される。

  「・・・・・・あぁっ!?」

  「・・・・・・ここが・・・」

  今自分達がいる場所に目を大きく開いて驚く華琳と一刀。

 空と大地の境界線がそこには無く、遠近関係なく周囲は完全な白に尽くされ、その中を無数の序列化

 した文字達が縦横無尽に漂っていた・・・。

  「不思議な場所ね・・・。私達の世界とは明らかに逸(いっ)しているわ」

  そんな事を語りながら歩いていると、華琳の目の前を文字達が通り過ぎていく。華琳は思わず

 その文字に触れてしまった。

 

―――後方より敵軍が突っ込んできます!華琳様このままでは戦線が崩壊してしまいます!

―――くっ・・・、しかしこれ以上、奴等の勢いを止める事が出来ない!

―――・・・もはやこれまで。そういう事でしょう

 

―――これはもはや、天命が私から去ったと見るべきでしょう

―――天は覇王では無く、均衡を求めた。そう言う事でしょうか?

 

―――春蘭

―――は、はいっ!

―――この戦場を放棄し、撤退する。可能な限り兵をまとめ、一点突破で戦場を脱出するわよ

 

―――えっ!?本城に戻らないのですかっ!?

 

―――我等はこの大陸を脱し、新しき天が広がる大地を目指す

―――新しい天の土地・・・新天地ですか

―――えぇ・・・、天は大陸だけにあらず。

 

―――西方、東方・・・天は果てを知らず、よ

―――ではわしが先導仕ろう。貴君を新たな外史の礎とするために―――

 

  「く・・・っ!」

  「華琳っ!?」

  倒れかけそうになった華琳の体を受け止める一刀。

  「大丈夫か!?」

  額から大量の脂汗を流し、目の焦点が合っていない華琳を見て心配する一刀。

  「・・・今のは、一体・・・?」

  華琳は先程、自分の頭の中に入り込んできた映像を思い返す。赤壁の戦いのものである事は

 何となくは理解出来たが、華琳自身その映像に思い当たる節が無かった・・・。

  「それはこの外史の礎となったあなたではない『あなた』の最後の記憶・・・」

  そして何処からともなく聞こえてくる少女の声・・・。一刀は周囲を見渡し、声の主を探す。

  「正史の想念と、『あなた』の想念が繋がり、そしてあなたの世界が生まれた・・・」

  華琳は一刀の腕から離れ一人で立つと、その声の主を見据える・・・。一刀は華琳の視線の先を見る

 とその先には、文字達に囲まれながらもその中に人の姿を見つけた。

  「だけど、それももうじき終焉を迎える・・・。そして、お前達はここにいるべき存在では無い」

  そして声の主から文字達が離れる。二人の前に現したのは、純白を身に纏った幼き少女であった。

 銀色の長い髪をなびかせながら、その生気の無い瞳で一刀と華琳を見つめる。

  「あれが・・・、外史喰らいの中枢・・・?」

  機械的な想像をしていた一刀にとって、少女というその想像からかけ離れていた姿に驚きを

 隠せなかった。

  「・・・・・・・・・」

  一方で、華琳は何も言わず少女の姿を見つめる。

  「去れ・・・、それを拒むと言うならば、その存在を削除する・・・」

  少女は両腕を広げると、周囲の文字達が一刀達の横を物凄い速さですり抜けていく。

  「ぐくぅ・・・っ!?華琳、どうやら向こうは俺達を消すつもりだ!!」

  「・・・・・・」

  「・・・華琳っ!?」

  「っ!・・・え、えぇ。その様ね・・・」

  先程から様子がおかしい華琳。そんな彼女を見て、一刀は不安になってくる。

  「・・・大丈夫か?やっぱりさっきのが・・・」

  「大丈夫よ。そっちでは無いから」

  「・・・そうか。それならいいんだが・・・」

  「さぁ、来るわよ!構えなさい!」

  「・・・あぁ!!」

  華琳に言われた通り、鞘から刃を抜く一刀。

  「・・・・・・(気のせいなの?あの娘の顔、一刀に何処となく似ている様な・・・)」

  華琳は再び、少女を見る。やはり何度見ても、一刀の面影が少女の顔にあった・・・。


 
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