No.1105844

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第049話

どうも皆さまこんにち"は"。

宣言通り、投稿です。
呂北との出会いは桂花にどう左右されるのか。
彼女は何を学ぶのか...っと二日連続の投稿ですので、語ることは殆んどありません。

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2022-11-01 00:21:31 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:828   閲覧ユーザー数:799

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第049話「王佐の雛」

 呂北が荀彧の主である曹操の真名を呼んだことに内心憤慨していた荀彧であったが、そんな彼に呼び慣れた感じにて、呂北を真名で呼んで返す曹操にも、荀彧は驚いていた。

少なくとも荀彧の記憶の中において、曹操が男性の真名を呼ぶ光景など見たことは無かったからだ。嫉妬や困惑、興味などの複雑な感情が入り混じっている荀彧は置いていかれる様に呂北達の会話は続いていく。

「まず、貴女は荀子十一世の孫とされる荀淑(じゅんしゅく)を祖父に持つだろう?」

その言葉に荀彧は驚愕する。自らの出生など聞かれでもされない限りは、語ったりもしない。しかも彼女は男嫌いで、話す相手も限られており、そんな中で何故目の前の男が自身の出生まで知っているのか疑問に思った。

「やはりな。その表情で確信がいった。貴女の先祖が提唱した『性悪説』は私も(たし)んだ。『人の性は悪なり、その善なるものは偽(ぎ)なり』…なるほど、人間の本質を付いた確かな言葉だ。華琳よ、確かさっきお前はこの娘を軍師と言ったな。家系・相・目の光を見てもこの者は大成する......例えるなら『王佐の才』と言ったところか」

王佐の才とは、王を補佐するのに相応しい才能を持つ人物のことをいう。それは呂北が曹操を王の才を持つ者と認めていることも意味し、荀彧は彼が言ったその一言を小さく呟く。

「華琳......いや、曹操殿。私が実際に体感した訳ではないが、聡明な貴女がこの者を軍師として取り立てているということは、貴女の眼鏡に叶う程の実力を持っているのであろう。それに加え、一般的に儒学が学ばれているこの世の中で、性悪説の知識があるということは、この世の中の裏側を見ることが出来るということだ。曹操殿、以前貴女と語らせてもらった時に思ったが、貴女の進む道は困難を極める筈。だからこそ、貴女が道を転ばぬ様に、足元を照らす者がいれば危険も減るだろうな」

将として曹操に語り掛ける呂北であり、曹操も自身の眼力が捨てた物ではないと納得して満足気に頷いている。

「......呂北様にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

突如荀彧は頭を下げて呂北に尋ね出し、彼は向き直るが、曹操は驚愕の表情を浮かべる。

自らの軍師の(へき)に関しては、自分以上に異常とも言えるほどの、完全なる男性拒絶であった。例え形式上だとしても、自ら頭を下げて、男性に謙譲語を重ねた二重敬語で話しかけるのを見たことも無かった。

「なんでしょうか?改まって――」

「貴方様の慧眼に感服しまして是非助言を賜りたいのですが、主である曹孟徳を支えるにあたり、私に足りない物を是非ご教授していただきたいのです」

その言葉に呂北は腕を組みしばらく考え込み、答えを出して語り出す。

「それでは荀彧殿、一つ忠告させてもらう。貴殿の先程からの言葉使いや表情。そして自信に満ちたその目を見るからに、貴殿は自尊心が人よりかなり高いだろう。自尊心が高いことは良いことだ。男なんぞに後れを取る物かという心意気は素晴らしい。だがこのままでいけば、その自尊心が己の身を滅ぼしかねない。自らの才に驕らず、男女や人種、考え方の全てを飲み込んで昇華すれば、いずれ君にも栄光の道が約束される筈だ」

彼女は男性嫌いな筈であったが、何故か呂北の言葉は耳に入ってきた。それはまるで主である曹操の持つ言葉の力の様に、自らの耳に残るのだ。彼女は求めていた答えを貰ったのか一言「お言葉感謝いたします」と言い、深々と頭を下げた。

「さて華琳、友人とも語り合えた俺は酔い覚ましで抜けて来る。こんな形式だけの集会、お前も程々にして抜け出せよ」

そう言って彼は立ち上がり宴席を抜け出した。

挨拶を終えた曹操は、自らの席に戻って荀彧に酒を注がせながら二人は語り合う。

「どうかしら桂花(けいふぁ)。貴女から見てあの男は――」

「......底が知れません。一体あの者は何なのですか」

軍師とは思えない感嘆とした感想に、曹操は微笑む。

「でも、男に素直な貴女も、見ていて面白かったわよ」

「な‼か、華琳様。わ、私は決して――」

「判っているわ。でも私の子達の中で私に盲目な一番と二番が、こうも簡単に素直になるなんて、嫉妬も過ぎて恐ろしくも思うわよ」

「い、一番と二番って......ん、もしかすると、もう一人とは――」

「察しが良いわね。春蘭よ。貴女にはあの子が素直に謝罪する姿が想像できるかしら」

その言葉を聞いて、荀彧は言葉を失う。曹操軍において、知の長は荀彧であり、武においては春蘭こと夏侯惇だ。曹操自身も有能な二人の臣を持てて、主としても誇りに思っているのだが、如何せん彼女達の忠誠心は盲信的過ぎた。

そのせいで周りが見えなくなることも多々あり、そういった意味でも曹操は何とか改善させようと試みていた。

そんな中曹操は教育の一環として夏侯惇を呂北の前に連れて行く場を作った。

結果として夏侯惇は呂北と出会ってから武人としてより成長していた。

元来の猪武者は健在であったが、自身より高見にいる武人との出会いに思うところがあったのか、猪突猛進な戦の進め方を止め戦況を静観することを覚え、荀彧を驚愕させ、他者も認める曹操一の矛として再評価されてきた。

あの夏侯惇が変われたのだ。曹操も確信はなかったが、呂北と引き合わせることにより、荀彧も変われるのではと期待した。

成果は想像以上であり、荀彧自身も自分の中の何かが動いたとも思った。後に二人はそれぞれ『魏武の大剣』、『王佐の才』と謳われ、曹操の武と知を支えるのはまた後の話。

 一刀は夢音(むおん)を従え、別室にて酒を嗜んでいた何進の下を訪れていた。

「何進大将軍におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じます」

呂北と成廉(せいれん)は膝をつき、何進に傅く。呂北が訪ねて舞い上がり尊大な態度で頷いているが、後ろに控える成簾の存在で、内心舌打ちを切らせないでいた。

「っで、どうしたのだ一刀。お前が訪ねて来るとは珍しい。そ、その、どういった要件じゃ?よ、余に出来ることであれば、何でも叶えてみせるぞよ」

「はっ。是非とも何進大将軍にお願いしたい義がありますれば、こうして参上した次第でございます」

「な、なんじゃ?お前と余の仲ではないか。その様な言葉使いでなくとも良い。いつも通り話しておくれ......ま、まぁ、その様な話し方の一刀も決して嫌いではないが......」

頬を染めて両手の人差し指で、自身の両指を突いている何進であるが、一刀は口調だけ変えて構わず言葉を続ける。

「わかった。なら(けい)、西園八校尉の席はもう一つ残っているな?その一席に関しては、ここにいる成簾を推薦させてもらいたい。成簾は俺の養親父一の家臣だ。何とか取り計らってもらえるか」

真名で呼んでもらった事により、その響きを彼女は噛み締めるが、本命による話題が、連れて来た女の推薦と聞いて、面白くはなかった。

「......一刀、いくらお前の推挙であっても流石にそれは。それにそいつは”穢れた血”ではないか」

その言葉に対して呂北は動揺することなく、成簾も反応しなかった。

「それに栄光ある漢王朝の上位役職に、その様な者は――」

「ふっ、傾、いつまでそんな(ぬる)い考えをしているのだ」

「ぬ、ぬるい!?」

気にかけている呂北からの思わぬ挑発で、何進は怒り以上に動揺が(まさ)ってしまう。

「傾、俺はなんだ?漢民族ではない。倭の国の人間らしいが、その出生は定かではない。にも拘らず、何故俺はこの地位にいる?何故お前は俺の事を気にかけてくれる」

立ち上がり大袈裟に腕を拡げて語る呂北に対し、何進は一瞬小さい言葉で「ほれt―」っと言いかけるが、直ぐに飲み込んで「優秀だから」と言い直す。

「そうだ。俺は優秀だからだ。優秀だから人に出来ないことが出来る。漢民族でもないのに。漢民族?五胡?倭人?そんなものに拘る時代は古臭い。優秀な人物を取り入れて国を発展させることが、これからの時代の在り方であり、(まつり)・人の在り方を発展させる。お前はこれからの古い時代を壊し、新しい時代を切り開ける使命がある。現にただの肉屋の店主が、王朝の大将軍という地位まで成り上がったのだ。お前は人間として進化した存在なんだ。そのお前が示してやらねばならない。民族や風習、習慣をも越えた人の可能性を。それこそが大将軍としての役割ではないのか」

大袈裟な身振り手振りで表現する呂北に対し、何進は机を背にして背中をしならせると、呂北の言葉をさもありなんと言わんばかりに胸を張る。

「なら、いいんだな?成簾を一人に加えても」

「構わん。余が許す。しかし余が出来ることはここまでだぞ?何か問題が起こっても――」

「大丈夫だ。その時は俺と養父親が補填する」

「なら安心だな」

何進は高らかに笑うと、呂北は頭を下げる。しかしその影を落とした顔は不適な笑みを一つ浮かべ、顔を上げる。笑っている何進を尻目に、一つ目線を何進の後ろに向けてからそのまま出て行こうとすると――

「あ、一刀。少し待ってくれ」

部屋を出て行こうとする呂北を呼び止めると、彼は成簾に先に出ている様に告げると、また振り向き直る。

「せ、折角また会ったのだ。ちゃ、茶でも飲んでいかぬか?」

頬を染めて体を寄せて来る何進。豊満な乳房を体に押し当て誘惑して来る。

「そうだな。洛陽私塾以来ゆっくり話したことも無かったな。俺たちのこれからのことも、久々に語り合うか」

「そ、そうか‼それでは直ぐに酒の用意をさせる」

「了解だ。俺は(ふぁん)瑞姫(れいちぇん)を呼んで来よう」

「わかった。黄と瑞姫......え?」

喜々として準備をする何進であったが、対する呂北は淡々と話を進めて行く。

そんな呂北の提案で、彼女は素っ頓狂に声を漏らす。

「まさか私塾時代の友が、一人は陛下の室。一人は陛下の側近。お前は今を煌めく王朝一の忠臣ときた。”俺たちのこれから”の動きを存分に語り合おう」

「いや、あの、一刀?」

「瑞姫は黄に言えば陛下の許しも得られるよな。それじゃ、ちょっと行ってくる。あ、陛下の側近が全て離れるわけにもいかないから、適当なツマミと酒は黄の指定する場所に持って来てくれ。ではな――」

手刀で手を挙げる呂北はその足で黄に声をかけに向かう。ちなみにここで呂北が述べる瑞姫とは何太后のことである。軽く事情を語ると、私塾時代にて勉学に励んでいた呂北と趙忠。食材の買い出しに利用していたのが、何進の経営する肉屋にて当時の何太后とも出会ったのだ。

やがて趙忠の用意した部屋にて夜を明かして、当時の思い出話を語り合う三人と、どこか疲れた感じの何進がいたという。

 


 
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