No.1064272

新・恋姫無双~呉戦乱記~ 第4話

4BA-ZN6 kaiさん

ストック分を出します。
ここから孫権さんと甘寧さんが出てきます。

長文ですがよろしくお願いいたします。

2021-06-13 15:51:05 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1891   閲覧ユーザー数:1751

「蓮華の初陣に彼を同行させるわ、冥琳」

 

周瑜の執務室を尋ねると開口一番こう告げる。周瑜も孫呉独立の時が来たかとすこし感慨にふける。

 

「・・・・そうだな。今度の黄巾党の賊討伐は本腰でやれと袁術からは尻を叩かれている。袁家の顔に泥を塗るなとさ。あの餓鬼に従うのは少々不本意だが蓮華様の初陣と北郷の実戦の動きを見ることができるのなら従うのが最善策、ということか」

 

「餓鬼ねぇ・・・そんなはしたない言葉使ったらお嫁さんになれないわよ」

 

「茶化すな、餓鬼を餓鬼ということの何が悪い。まったくお前も付き合わされてつくづく同情するよ」

 

悪餓鬼の気まぐれに付き合わせている孫策を知っている周瑜はげんなりした表情でため息をつく。

 

「ふふ~ん、さっすが美周郎よくわかってるじゃない。もちろんあの馬鹿餓鬼のお守りのまま終わるつもりはないわ。孫呉の、母様の育てたあの地を取り戻す。それが今の願いであるのだから・・・」

 

孫策はグッと手握り締め顔元に掲げ現状に耐えるかのように決意を語る。全てを背負いそしてそれをシレっと受け止めてしまうのは彼女の長所でもあり短所でもあった。

 

貴女はそうやってすべてを背負い込もうとするのねと心で呟くと、周瑜はそんな彼女を支えるべくさらに奔走しなければならないなと強く決意を新たにするのであった。

 

 

「出陣?!」

 

俺は兵舎で同僚とどうやら近いうち戦が始まるようだという話を聞いた。

 

「そうだ。黄巾党という賊が最近暴走してるんだと。まぁこの前の村の襲撃も黄巾党の連中さ。今回はその根城を叩くということらしい」

 

男が説明してくれると俺もあの時の悲惨なあの村の末を思い出す。黄巾党といえば漢王朝の弱体化のきっかけになった反乱だったなと思い出す。

 

となると董卓や袁紹筆頭とした反董卓連合の討伐などが控えているということになる。

 

「そうか・・・・俺も初陣だから緊張するよ」

 

北郷が緊張の色を隠せずに言うと同僚の男はウンザリした顔で返す。

 

「うちの部隊で・・・いや黄蓋指令くらいしか今のお前に勝てる奴がいないのによく言うよ・・・」

 

「とはいっても模擬戦の話だから。生と死を選択される実戦は初めてだからなぁ。怖くないといえば嘘になるよ」

 

へーへー言ってろ。と全く受け入れてくれない。

 

「おい北郷!連隊長が呼んでるぞー」

 

ほかの兵士に呼ばれ、連隊長に呼ばれていると聞き直ぐ様、連隊長がいる部屋へと赴く。

 

「北郷入ります!!」

 

「入れ」

 

見知ったアルト調の声がなかから聞こえてくる。この声の持ち主は周瑜だ。

 

「失礼します!」

 

入ると連隊長と周瑜が二人で向かい合って会話していたようだった。邪魔したかな?と一瞬思ったが周瑜は俺の遠慮を感じたようだ。

 

「かまわん、そのままでいい。お前をここに呼んだのは他でもない。今は一兵卒として扱ってはいたが今お前が配属する連隊長、黄蓋殿と慎重に話し合いを行った結果、北郷お前は昇進して隊を率いてもらう」

 

「え・・・・?私が・・・でありますか?」

 

「そうだ!黄巾党の話は聞いているとは思うが我々としても討伐部隊の再編を行っている。お前はその討伐舞台の連隊長として部隊を運営してもらう」

 

連隊長は周瑜との話をしたのであろう内容をそのまま説明した。ただ自分としてはあまり嬉しくはない状況だった。昇進するスピードが早いのは自分と孫策への関係からの忖度からであるのか、という躊躇いがあったからだ。

 

周瑜は俺の複雑な心境を察したのか俺の考えを否定する。

 

「お前は私や孫策と認識があるがゆえ忖度を受けていると感じているようだがそれ違う。この激動の時代、常に変化をしていかなければならないのだ。優秀な人材であればそれを眠らすのは国家の損失だ。我々軍師はお前のような人材を腐らすことなく適正に配置することが仕事だからな」

 

「今回の昇進も俺の推薦もある。お前があれだけの動きをされると俺のメンツも保てん。故の苦渋の結末だ」

 

連隊長の不器用な言い回しに周瑜は優しい笑顔を浮かべ北郷に向ける。

 

「今回は孫策様の妹である孫権様が初陣ということだ。お前は孫権軍の連隊長として部隊運営を行うため今までと違い勝手は違うが引き受けてくれるな、北郷」

 

「わかりました・・・・。孫呉の兵に恥じないようさらに精進します」

 

二人に頼まれては断ることもできず、俺は連隊長として出陣することになった。

 

 

連隊長と言っても今回の賊の人数は1000人程度規模であり黄巾党本隊との合流をする前に叩くというのが目的のようだ。

 

孫策は袁術の客将ではあるが袁術からの支援は受けられないとのことだ。

 

袁術いわく高貴な自分たちがワザワザ下賎な貧民に手を下すのは汚らわしいとのことだった。

 

孫策の人望・有能さをとことん利用してやろうという魂胆が見え見えではあるが孫策サイドも今現在反旗を翻すのも時期尚早であるためこの命令を承諾することとなった。

 

これは董卓を筆頭とした宮廷の動きが激しくなり、宮廷内の政争に袁術も乗り気であることから孫策としても駆り出される将来を見据え兵力温存をするという考えがあった。孫策としてはその程度の烏合の衆に人数を掛ける意味もないという判断があったようだ。

 

要するにこれくらいやってみなさいよという孫権に対して姉としてのメッセージが込められていた。

 

姉としては少し冷淡ではあると思うが孫権軍としては賊の半数の500人程度の兵力になる。

 

ただ参謀総長は随一の切れ者である周瑜と孫権の矛である甘寧を同行させるあたりしっかりと配慮をしてはいるようである。さらにそこには名前は上がらないが北郷もつけている。

 

孫策は実は北郷の素質を買っており、孫権の補佐を周瑜と行って欲しいということだろう。

 

出陣前日の各隊の打ち合わせが行われた。日々の仕事の多さに忙殺されながらもなんとか部隊の運営ができている。

 

甘寧と俺、そして孫権とが集まり周瑜が参謀長として作戦の概要が説明がなされる。

 

まず黄巾党の根城は渓谷にあり背後からの攻撃等は難しいまさに穴熊、自然要塞であり正面からの突破はかなりの出血を有すことになる、とのこと。

 

ゆえに敵の穴熊にすきま風を吹かすという意味で北郷隊と甘寧の隊で前線の攪乱を行う。突撃はせず前線の戦線を伸ばすことを狙いにする。

 

従って相手を心理的に騙すということで最初の2隊による突撃は失敗し撤退するように見せかける。突撃と失敗での撤退これを繰り返すように見せる。

 

これで自分たちの方が強い・上手くいっているという心理を植え付けさせ隙を生じさせる。

 

2部隊の攻撃をしている最中は側面の監視は疎かになるであろうことから、孫権軍と周瑜軍とで渓谷の左右に密かに配置させる。

 

配置が完了し、北郷甘寧両軍がいつものように撤退する際に敵の追撃が始まり先端が伸びきったところを狙い左右から奇襲、挟撃をかけるというもの。挟撃が成功した場合は狼煙をあげ北郷甘寧の両軍に伝達させる。

 

その後両軍は反転し挟撃に加担し各個撃破するという作戦内容であった。

 

孫権軍筆頭の本隊は伝統に則った牙門旗等は一切使用しない。隠密に左右に兵士を配置させるためだ。しかし陽動する部隊は孫権・甘寧の牙門旗を設置させ部隊の存在をあえて知らしめる。

 

甘寧は孫権につく側近であり孫権の矛として傍に置く家臣であった。つまり甘寧を正面に出せば敵は名が広く知れ渡っている甘寧を主力だと勘違いするだろうからだ。

 

ただ左右の渓谷の道なりは厳しい。側面を叩く挟撃位置まで到着するには歩兵では時間がかかる。そのため陽動と時間稼ぎを行うという側面もあったのだ。

 

 

「以上だ。本作戦では甘寧・北郷の両軍の奮闘がなければ勝利は難しい。各軍の奮闘期待する」

 

周瑜は説明を済ますと周瑜・甘寧・孫権とそして俺とで再度話し合いが行われ、早速甘寧が厳しい口調で反対を唱える。

 

「蓮華様を危険にさらすという本作戦は私としては反対であります」

 

甘寧としては自分の主人が危険であるのなら反対するというのは俺も理解は出来た。そこで俺は手を挙げ甘寧の主張に理解をしつつも主張を展開する。

 

「甘寧部隊長の言い分は私としても十分理解はできます。ましてや孫権様は孫策様の妹君であられますゆえ危険な行動でもしものことが起きる可能性も否定はできません」

 

周瑜は静かに俺の主張に耳を傾けていた。お前の考えが知りたい。目がそう語っていた。

 

「しかし孫策様の考えとしましても孫呉の長と将来はなられる孫権様を今ここで先陣をきらせて戦果を上げるというのも今後のことを考えればやむを得ないというのが私の立場。

孫呉の民は背後で構える王を見て果たして力を貸してくれるのか?私としては大いに疑問があります」

 

「・・・今回の戦はただの掃討戦だ。この程度の戦で蓮華様が前に出るまでもない。むしろ我々の部隊の精鋭さを今ここで試しているのだからここは北郷と我々で十分かと」

 

甘寧が神経質な苛立ちを俺に向けた。余計なことを言うなと顔に書いてある。孫権は心中複雑といった心境なのかもしれない。

 

初陣でもあるし挟撃で魁殿を務めるというのは何分大きなプレッシャーがあるはずだ。孫権は武人として名ある孫策と違い文治政治での統治に長けた人間であったことからも武は姉より劣るのであろうからだ。

 

そういった複雑な心境や背景が甘寧が主張する際に一瞬浮かんだ孫権の複雑な表情から伺い知れたが孫権は立ち上がり凛とした口調で決意を述べた。

 

「北郷の言うことも一理あるわ。孫家の人間は常に最前線で道を切り開いてきた。母の孫堅・姉の孫策と。その精神は孫呉の根源であると思っているわ。故に私はこの作戦でやらせて欲しいと思っている。思春の気遣いは有り難いけど北郷の言うとおりよ」

 

決意を述べる孫権に対し甘寧もかしこまってしまう。主への気遣いがただの同情を投げつけていたのだと知ったからだった。

 

「・・・・分かりました」

 

「話は済んだようだな。では夜明けとともに両部隊夜明けと共に攻撃、我々は山岳装備で指定の場所へと向かう。思春・北郷頼んだぞ」

 

周瑜は3人の会話に満足したようで少し含み笑いを含めて視線をこちらに向けていた。周瑜は俺たちで話を付けることを期待してたのだろう。

 

その期待は果たされた。そういうことだろう。周瑜は北郷を呼び止め個別に話があると言ってきた。

 

「なんでしょうか?将軍」

 

「北郷、今は2人だ。別にいつもどおりで構わない」

 

「ん、分かった」

 

「北郷、お前は孫権様をどう思う?」

 

「俺は孫権様に関しては強い覚悟を感じる。と同時に大きな使命がのしかかっているのもまた感じる。姉が優秀だからね。心境は複雑だと思う」

 

あくまで個人的な見解だけどという前提で話すと周瑜も頷く。

 

「私もお前と同じ考えだよ。孫家の重みを必要以上に背負い込んでいる。全くそういう所は姉と似てるのがな・・・孫家の人間なんだなということだよ。お前があそこで孫権様の思いを代弁してくれたこと感謝している」

 

「いや、感謝されるいわれなんて・・・・」

 

「実際、蓮華様はお前の言葉に少し救われていると思う。あの方は優しすぎるからな・・・・、ああやって誰かが背中を押してやらなければならない場合もあるということさ」

 

「・・・気苦労をかけるな。周瑜」

 

「気にするな。それよりここの生活にはもう慣れたか?」

 

「ああ、文字もまぁなんとか食らいついてるよ」

 

苦笑しながら話す俺を見て周瑜は申し訳なさそうにうつむく。

 

「すまないな、話を聞きたいと言いながら私も多忙でな。今度時間を作るよ。街の案内もしてないからな」

 

「ああ、是非。その時は・・・・ここももう少し平和になれていたらいいな」

 

周瑜は強く頷くと強い決意の色を俺に見せる。

 

「全くだ、この賊討伐でこの近辺の街が平和になる。流血がなくなる。そう願っているよ。北郷生きて帰って来い。お前の話を聞いていないのだから・・・お前に死なれては困るからな」

 

「ああ、周瑜有難う」

 

礼を言うと天幕から出て行った。

 

 

 

夜明け前に甘寧との両軍が集まり牙門旗を掲げながら陣を構えた後、進軍を開始する。おそらく敵もこの動きに気づいているだろう。

「しかし籠城を決め込む奴らは我々の誘いに乗ってくれるのか・・・」

 

甘寧はそう呟くと厳しい表情を崩さなかった。孤立無援に等しくなる彼女の心境を慮りフォローを入れる。

 

「籠城を引っ込めている兵士を引きずり出すのはたしかに難しい。だが甘寧殿と俺の部隊で合わせも250人ちょっとだ。相手の絶対数が多い場合勝負に出てくる。

故に正攻法でしのぎきる。敵も俺たちが弱ってきたと思えば勝負に打って出ると思う」

 

「互いに我慢比べとなる・・・か」

 

「そういうことだ。相手は篭城戦で仕留めきれない場合は必ず出てくる。周瑜将軍はそこに絶対的な確信があるんだろう」

 

「随分と自信家なのだな周瑜将軍は・・・・」

 

呆れ半分、辟易半分といったところか。まぁ精神論が濃い根拠が薄い作戦内容だと思うのは無理ないだろう。

 

「いや周瑜将軍は俺たちの部隊を評価しているということさ。俺もこの戦、そう厳しいものにならないと思っている。この部隊は練度もかなりあるし必ずしのぎきれる」

 

「そうか・・・。まぁお前の言葉に乗ってみることにする。北郷頼んだぞ」

 

「了解だ。撤退の時期がきたら笛を鳴らす。それまで存分に暴れてくれ」

 

「ふん・・・・・」

 

甘寧は照れているのか顔をそっぽにむき返事をする。意外と顔に出やすい性格なんだろう。

甘寧のその不器用さと主人を敬う実直さに俺も敬意はある。根は悪くはない人といったところか。

 

「さぁ時間だ暴れるぞ!!お前たちの実力ここで今見せる時が来たぞ!!」

 

「「うぉおおおおおお~!!」」

 

兵士の士気は高く、やってやる!という決意が滲んでみえた。彼らを見て戦への俺も一気に恐怖心失い、頭に血が昇っていくのを感じる。そう、やらなければならない。

これ以上あんな狂った光景を生まれさせないためにも・・・。

 

「各員、攻城戦用意!!対射撃壁展開!!敵の弓を防御しながら前進!!」

 

お俺の号令とともに進軍を合図する笛が吹かれる。前と真上にそして左右を盾で工作兵が10人程度の小隊へと分裂した隊を四方八方囲うようにガードしながら前進図る。外から見たらダンゴムシ、アルマジロみたいに見えるだろう。全身が進むと敵も弓矢の掃射が始まる。盾からカカカッと弓矢が当たる音がする。

 

「北郷隊長!敵の斉射の勢いは未だ衰えず!どうしますか!」

 

「指定の場所までついたら工作兵を前進させ、防御壁を展開しつつこちらも応戦!!いいか!工兵を援護しろ!!工作兵を単行動作させるな!常に援護兵をそばにおくようにしろ!!」

 

「了解です。いいかお前ら!!男を見せる時だ!心配するな!俺たちが守ってやるからなぁ!!!」

副官が工兵に喚き散らしながら工兵もアドレナリンが出ているのか雄叫びを上げながら彼の激に応じ、ダンゴムシからバラバラになり盾移動をしながら防御壁を作り出していく。

 

進軍がまだ済んでいない部隊がみえるがムカデのように、外から見たらダンゴムシに見えるソレはノソノソ進む。小隊がやがて合流し連隊となり所定の位置で盾を構える工兵が次々と全面に立ち防御壁を建て始める。

 

敵は工兵を狙おうとするがそれを俺たちは援護しそれ的確に邪魔していく。

 

敵の練度は低い。弓の精度も高くなく大抵は外れているし火弓の心配はまずない。工兵も援護する弓兵もそれが分かっているから慌てた様子はなく訓練通り篭城戦の陣地確保に動く。

 

「北郷隊長!!第1陣防護壁完了しました!」

 

いける。北郷は確信した。この防護壁ができてしまえば敵は必ず痺れを切らしてくる。持久戦にここで持ち込みこのまま撤退だ。

 

「よし、各連隊の損害を知らせろ!」

 

防御壁を展開してしばらくして損害報告を受ける。軽負傷者5人程度、重症者0人死者0人だった。

 

俺はその報告を受けてこの戦い勝てるという自信が生まれる。俺は一番犠牲が出ると予測していた攻城戦での防御壁展開だったがこの程度の損害で凌げたのだ。

 

「負傷者は傷の程度がひどい場合は撤退し治療、そうでないのなら救護兵を回させろ!!!防護壁を甘寧がいる左翼に集中させ防御を固めるんだ!!甘寧の連隊と連携を密に取るよう!!甘寧の部隊に我が隊の損害を報告させろ!」

 

伝令兵に俺は指示を出しながら防護壁の射間から弓で敵を射る。1人また1人と減らすがやはり多数に無勢は否めない。

 

日の出前に攻撃が始まり昼過ぎ頃に敵の動きが変わる。門が開くのだ。しびれを切らしたということだ。

 

北郷は事前に敵の動きを察知し警鐘を鳴らすとまるで逃げおおせるように撤退の準備に入る。

 

「甘寧隊が殿を務めるそうです!」

 

「甘寧やるな!」

 

俺もそう叫ぶが彼女の好意に甘え部下たちに撤退を急がせる。

 

「各部隊に伝令。準備でき次第撤退戦を開始せよと」

 

「了解です!!」

 

「伝令兵は角笛を!!撤退だ!!!」

 

撤退が行われる最中に敵が飛び出してくる。ここまでは予定通りだ。

 

「俺も殿を務める!!お前たちは撤退を早く完了させい!!!」

 

「了解です!!ご武運を」

 

殿を務めると部下に告げると敵の進撃を受け止める。

 

「ひゃひゃっひゃ~敵は逃げるぞ!!ヤッちまえ!!!」

 

黄巾党の連中が意気揚々と追撃を掛けるが俺は敵の追撃を一人またひとりと切り捨てていく。

 

「北郷隊、男を上げたいやつは俺に続け!!」

 

俺は自分を鼓舞する意味でも大声で叫び敵陣へと吶喊する。

 

一人また一人と自分の前に、後ろにと死体が転がっていく。その姿に血しぶきが飛んだ血だらけの俺の姿に敵は恐れおののく。

 

「な、なんだこいつ?!こんな奴今までみたことが・・・・ガフッ!!」

 

敵が狼狽をみせる間もなく倒れていくのを見て敵は進軍を緩めた。よし、ここは撤退だ。

 

「撤退だ~撤退しろ~」

と俺は情けない声で演技を交え撤退する。こちらが負けたと思わせるためサル芝居をしているということだ。

 

 

敵は追撃を諦め、俺たちは陣を構える本部へと向かう。撤退は完了されており全部隊の損害も軽微である。

 

「ほ、北郷隊長一度体を洗われてはいかがでしょうか?」

 

「まだいい。被害を報告しろ」

 

副官は血しぶきを浴びた俺を見て思わず身じろぎするが俺はいつもどおり報告を急がせる。

 

「は、はい工作兵も損害は軽微です。我が連隊も重症者はいません」

 

「結構だ。補給に関してはどうか?」

 

「補給は問題無く行われています。撤退の際破棄した防護壁の補給も十分でこれで当分は持つと思います。しかし・・・・」

 

副官が表情を少し曇らせたため俺は彼の考えたことを察する。

 

「捨てた防御壁を敵が鹵獲して運用されてしまうという懸念か?」

 

「はい・・・敵の防御がこれではますます硬くなってしまう」

 

「貴殿の考えることはもちろんだ。しかし敵が有利な状況をわざと作り出し心理的に優位な状況につけさせるという狙いがあるとしたら?」

 

「なるほど・・・・周瑜将軍は我々の行動がお見通しだったということですか・・・」

 

「ああ周瑜将軍はそこまで考えているということだ」

 

「はい。敵にしたら心底恐ろしくなりますね」

 

周瑜のあの余裕を浮かべた顔がよぎる。彼女を敵に回すのはどれだけ恐ろしいことなのかというのを痛感する。小覇王の孫策とその手綱を握る周瑜。

 

江東の麒麟児(ここでは女性だが)と呼ばれる人物と渡り合えるのだから俺たちなどわけないということか。

 

「北郷、呼んだか?」

 

しばらくしてこちらに呼んでいた甘寧が天幕に入ってきたことが俺は3人以外の人の気配を察知し、人に見えないようシャットアウトする。

 

この天幕に近づく、出入りができるのは各部隊長と甘寧そして今いる副官だけだ。それがワザワザ聞き耳を立てるような人間が孫呉の兵にいるはずはないからだ。

 

「副官、君もぜひ残って欲しい」

 

「はぁ分かりました・・・」

 

甘寧との話し合いがあるのだろうと席を外そうとした副官だが本意が読み取れず副官も思わず怪訝な顔をする。

 

俺は紙にスラスラと書く。

 

「甘寧殿、負傷者等の程度は?私の部隊の損害はともかく士気の低下が著しい。兵が孫権隊に対して不満があるようだ(この天幕は間諜に聞かれている。これからは筆で意思表示をする)」

 

甘寧、副官は少し驚いたが

 

「こちらも損害は軽微である。北郷、貴殿とその問題に関しては以前話し合ったはずだ。孫呉の兵である以上疑念を抱くの御法度であると(それは本当か?)」

 

「甘寧隊長落ち着いてください。北郷隊長も本作戦の意義をどう思われますか?(どこの間諜が紛れ込んでいると?)」

副官は紙を見せながら違うセリフを急造に喋る。まるで不満を感じているかのようだ。

 

俺は頷きながら紙に書きそれを見せながら怒気を含んだ口調で口を開く。

 

「この作戦は我々を捨て駒にしているとしか思えない。この人数でどうにかなる相手なのか?(それはまだ分からない。だが今作戦の動きがバレている。敵の動きや追撃が俺たちの合図に応じて動いている事考えるとバレていると考えるのが自然だ)」

 

「北郷、落ち着け!いまは我々でやるしかないんだ。堪えるべきだ(間者は黄巾党でないとすれば・・・、袁術か?)」

 

「北郷隊長の言うとおりですよ。甘寧殿、今の黄巾党の人数を見たでしょう?あれでは我々連隊が相手ができる範疇を大きく超えています。これでは・・・(可能性はありますね。この討伐をワザと失敗させて支配を強めたいという思惑でしょうか)」

 

俺は副官の言葉大きく頷きながら不満をぶちまける。

 

あくまでも俺の推測ではあったが袁術サイドはこの討伐戦ワザと失敗するように仕向けていると思われた。敵はあれだけの弓など一体どこから調達してきているのか。強奪してきたとしても数が多すぎる。色々と考えたら察しはつく。

 

袁術は孫家の討伐が失敗したあと自分たちで再度軍を率いて討伐戦を行い手柄を横取りするつもりなのだろう。

 

討伐が終われば失敗した孫家に落ちこぼれのレッテルも貼れるし、自分たちが討伐できたら民意も袁術に傾く。税の徴収が厳しい袁術に不満を持つ民は多いがこれを機に硬化する民意を宥めることができる。そんな考えもチラホラ見える。

 

さらに厄介なのは袁術たちの策がたとえ失敗しても袁術側の損失は一切ないということだ。孫家の討伐が成功しても袁術は自分の手柄だと吹いて回るだろうからだ。

 

孫策と周瑜がなぜ兵士の増員を認めないのかというのもそう言った政治的な駆け引きがあるに違いない。自分はそう思った

 

「そうだ!増援が望めないのであればこのまま撤退もやむを得ないだろう(恐らくな。孫策様は袁術には手に余る。故に手綱を握り、主導権を奪いたいという考えだろう。甘寧殿も気をつけて欲しい)」

 

甘寧は深く頷きながら。俺に不満をぶつける。

 

「撤退などと・・・してみろ。その時貴様を逆賊として始末するまでだ。(我が部隊長にも伝えておく。警戒は怠るなよ)」

 

「待ってください今ここで我々が争っても仕方がないでしょ?!冷静になってくださいお二人方!」

 

互いに掴みかかり副官の制止でこの会議は終了した。甘寧は呆れた様子で出て行ってしまい俺は苛立ちを隠せないようする演じる。

 

その後部隊長を集め演技を含めながら間者に気をつけるように、逆にこの作戦がうまくいっていないということ演じて欲しい頼んだ。

 

各隊長たちは快諾してくれた。

 

これで間者を泳がせると同時我々の作戦がうまくいっていないというのが敵に伝わるだろう。

 

「それより隊長・・・体の方を・・・・」

 

「あっ!すまない、これは汚いなぁ。ちょっと洗ってくる・・・」

 

血だらけのままの俺を副官は諌めると直ぐ様川で体を洗うべく申し訳なく思い頭を下げながら天幕から出て行った。

 

 

それから3日ほどこのような攻防と撤退そして天幕での喧騒を繰り返すがそれに比例して敵は士気が上がっているようだ。やはり間者がいる。がこのまま泳がせておけばいい。

 

俺と甘寧は少しづつ兵士の数を減らし、この戦いで死傷者が増加しているという嘘の情報を敵に信じ込ませるため一手間うった。

 

最初の戦いで敵の攻撃はそれほど激しくはないと兵士も感じたようで余裕はあると言うので工兵の数と弓兵を減らしつつ戦うことになった。

 

甘寧と俺は部隊を再統合させることで少人数での工兵3人で弓兵1名の少数での防御陣営の形成考え、守りを固めて犠牲者を少なくさせると同時にこちらの攻撃の手数を少なくさせる作戦に変更させた。

 

たがこのままではジリ貧である。現状他の挟撃するための追撃部隊として編成し何時でも出られるよう待機してはいるが人数をそちらに割いているので厳しい。

 

そして5日目の昼ごろ。負傷者の数も30名人負傷、重症者7人という苦しい用兵運営を強いられてはいる。だが兵士の士気は高い。それも挟撃がうまくいくという自信が、自分たちの動きに敵がハマってきているという実感が湧いてきているのだろう。

 

この戦い必ず勝てる。皆がそう信じていたのが俺や甘寧らも救われていた部分はあった。

 

いつものように持久戦を展開しているとき所定の位置に待機させていた伝令兵が興奮した面持ちで帰還し報告を行う。孫権たちが配置についたと。

 

「甘寧、周瑜と孫権様の両翼の配置が完了した。ここは撤退しよう!!」

 

俺が呼びかけると甘寧の目に更なる炎を燃え上がるのを見逃さなかった。賽は投げられた。そういうことか。

 

「・・・了解だ!各部隊長に伝達。賽は投げられたと。各部隊は撤退を急がせろ」

 

甘寧の指示からしばらく兵士たちが逃げ出すように撤退していく。

 

黄巾党はすかさず追撃の手をうってくるが俺たちは反撃はすることはなく防御に徹しながら撤退を行う。

 

狼煙が上がった!挟撃が始まる。俺たちの待機している追撃部隊も直ぐ様行動に移すだろう。

 

それから暫く敵の後方から動揺が大きく感じる。どうやら孫権と周瑜の挟撃を受けたのだろう。

 

俺たちはそこから反転正面から逃げ道を塞ぐため攻勢に出る。

 

「援軍が来たぞー!孫権様の軍勢だ!!!」

 

俺が叫ぶと兵たちが歓喜にわくと同時に一気に攻勢に出る。

 

「いままでよく我慢してきた。さぁその鬱憤を晴らしてやれ!!」

 

「「うぉおおおおおおお!!!!!!」」

 

俺は叫ぶと反転・進撃の角笛を吹くと皆が咆哮を挙げて同時に突撃。逃げ惑う黄巾党を斬って斬って斬りまくる。後方からさらに待機していた部隊が到着した。この時のために追撃隊は騎兵隊メインで編成をした。

 

機動力を活かし追撃で更なる攻勢に打って出られるだろう。

 

そして統率力のない烏合の衆であった黄巾党は態勢立て直せずこのまま敗戦をし、孫権筆頭の黄巾党討伐戦は死傷者を出さずに劣勢のなかでの大勝という形に終わった。

 

 

それから帰還を果たすと民たちから手厚い歓迎を受けた。

 

俺は袁術が手柄を横取りすると思っていたが孫策側が何やら手を打っていたようだ。

 

孫家・名門の復活!!小覇王の妹・孫権の初陣の圧勝!!という知らせが村・街中を飛び回ったようだった。

 

勝利の帰還を孫権が果たし国民が名門の復活・孫家復興も近しと一気に歓喜に沸くなか北郷はそれを神妙な気持ちで見ていた。

 

(今回は誰ひとり死なずに帰還ができたが・・・。次は・・・・)

 

今回やった討伐戦はこれから起こる戦いに比べたらおママゴトにちかい。兵士の死という大きな事実に果たして自分は耐えることができるのだろうかという不安はあった。

 

手が震える・・・。怖くて震えてるのではない。ストレスだ。今回の生死が決まる戦いで大きな負荷がかかったのだろう。

 

死んでいった者たちを思い出す。皆が死に対して恐怖で怯えていた。命乞いするもの、泣きじゃくるもの。その全てを俺は殺めてしまったのだった。

 

(とりあえず休暇が欲しい・・・・。)

 

華々しい孫権のパレードを見ている傍らどうしようもない恐ろしさに身震いする。休みたい。心の底から強く願うのだった。

 

「北郷、やったな」

 

呼ばれ気がつくと甘寧が興奮冷めやまぬ様子でそこにいた。酒も飲んだのか少し顔が紅葉していた。

 

「甘寧殿・・・・」

 

「なんだその辛気臭い顔は・・・・ほれ貴様の分だ。付き合え」

 

酒瓶をポイッと俺に渡すと甘寧は酒を煽る。

 

「この戦いでお前に対する認識を改める必要があるようだ」

 

「え?」

 

「正直にいうとお前との部隊共闘は私としては嫌だった。お前を嫌っていたからな」

 

「そうか・・・・。すまなかった、色々アレコレと指示を出したな」

 

頭を下げるとそれはいい、気にするなといった。

 

「お前は部隊が生き残るための最善策を常に見つけようと模索していたし、お前の姿勢に兵は感銘を受けいていた。私ではあの状況を纏める事はできなかっただろう。お前、どこかで戦を経験したことがあるのか?」

 

「・・・・どうしてそう思う?」

 

「お前の迷いのなさだよ。そして的確だ。あれは初めての人間が出せる指示ではない。まるであの場に雪蓮様や冥琳様がいるようだった・・・」

 

「おれにもわからないんだ。どうしてこれだけ体が動くのか・・・・。そしてどうして・・・・」

 

それっきり言葉が出ず酒をガバっとあおる。酔ってしまえばいいと願うも頭はずっとすっきりしたままだ。

 

「ふむ・・・・お前にも色々な事情があるのだな・・・・。明日から貴様は非番が続く。しっかり休め」

 

甘寧はそれだけ言うと去ってしまったが、彼女は気を使ってくれたのだろう。必要以上に催促や探りを入れてこない彼女の姿勢が有難かった。

 

(迷いのなさだよ。そして的確だ)

 

甘寧の言葉が頭によぎるがそれを振り払う。あの時の自分は変だった。自分が自分ではない感覚、頭にあるはずのない知識が頭から掘り起こされるイヤな感覚。

 

自分が一体何者なのか?それが分からなくなってくるこの感覚。

 

「もう寝よう。疲れているんだ・・・」

 

独り言をつぶやくとフラフラと寝室へと向かうが・・・。そこに見知った人物が・・・。

 

「あら早いお帰りね。どう初めての戦は?」

 

暗闇ではあるが声でわかる。孫策だ。

 

「あぁ・・・・。恐ろしいことをした。そう思った」

 

「・・・・・・・・・」

 

孫策は黙っていたが塞き止めていたものが溢れ出てくるのを止められなかった。

 

「自分の指示で、自分の行いで人間が簡単に死んでいく。俺が指示を出せば部下が傷ついていく、俺が剣を振りかざすと後ろには死体が転がっていく・・・・。生死与奪の権利を自分が握っていたという事実に恐ろしくて・・・・。

 

見えるかな?手が震えてる・・・。止まらないんだずっと、ずっと・・・・!!」

 

「それで・・・・?」

 

「恐ろしい、恐ろしいんだよ雪蓮。俺は誰なのか、自分が誰なのかが分からなくなっていく。でもここに存在する、君と話しているのは事実で・・・・。雪蓮・・・・俺は・・・・」

 

「北郷・・・・貴方また・・・?!」

 

孫策は北郷の言動がいつもの俺であるとは思わなかったようだ。北郷の姿をした誰か。孫策にはそう見えているのかもしれない。

 

「助けてくれ・・・・、助けて欲しい・・・雪蓮。ようやく君に、君に逢えて・・・!!!」

 

「北郷?北郷、しっかりしなさい!とりあえずは・・・・」

 

そこで北郷は倒れてしまった。孫策は急いで彼を医務室に運びこんだ。


 
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