No.1064268

新・恋姫無双~呉戦乱記~ 第3話

4BA-ZN6 kaiさん

続きになります。

少し長いとは思いますがよろしくお願いいたします。

2021-06-13 15:43:49 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1436   閲覧ユーザー数:1320

それから孫策は北郷の片側を担ぐ形で支えながら医務室へと向かっていた。

 

北郷はぜーぜー言いながら、ときにウッとうめき声をあげるだけで反応はしない。

 

「ほら北郷、医務室はもうすぐよ」

 

「う・・・・・しぇ・・・・ん」

 

「え?なに?」

 

北郷が何かをつぶやいたのだがあまりにも小さい声で聞こえなかったため再度耳をすませると、彼は意識を失いながらも何かをつぶやく。

 

「しぇ・・・・れん・・・・、これで俺・・・・は・・・」

 

「雪蓮って貴方・・・・」

 

北郷に真名を預けたことなどがなかったのだが北郷は彼女の真名をはっきりとつぶやいたのだ。

 

孫策は驚きに思わず歩みを止める。

 

真名はその人間のもうひとつの名前である。その名前を呼ぶことは深い信頼関係に結ばれた者でしか呼べないという。

 

北郷は孫策たちとは出会って暫くは経つが真名を預けるほどの関係の深化はまだなかった。

 

だが北郷は今はっきりと彼女の真名を言ったのだ。孫策は暫く立ち止まり北郷を凝視したが北郷は以前朦朧とした意識をさまよっている。

 

(まさかどさくさ紛れに言ったとかそんなのじゃないわよね)

 

孫策は北郷が自分の真名を呟いたことを考えこむが理由が見当たらなかった。

 

北郷自身も真名という意味を当然理解をしているし今でもオフィシャルな場面では孫策を「様」で呼び敬語も外していなかった。

 

つまりは北郷は分別をつけて彼女と接しているということだが今は違う。まるで親しい間柄かのようにその声色は優しく、親愛が込められていた。

 

「しぇれん・・・・雪蓮・・・・これで俺は・・・・君を・・・守れる・・・だ・・・ろ・・う・・・・か?」

 

北郷はまたつぶやくとガクッと完全に意識を失ってしまった。

 

「ちょっと?!北郷!!もーなんだってんのよ~」

 

孫策は困惑をしながらも北郷を担ぎ医務室に急ぐのだった。

医務室に連れて行くが医者は北郷は相当重傷であるということで療養が必要であると告げた。

 

黄蓋や周瑜、そして孫策他、彼女の妹である孫権や側近の甘寧も顔を出していた。どうやらあの演習を見たあと気になったようだ。

 

一兵卒扱いの北郷が江東の小覇王を跪かせたのだ。興味がわくのは仕方のないことであった。

 

「彼は大丈夫かしら・・・・」

 

孫権はそう呟くと周瑜は優しく彼女に説く。

 

「蓮華(れんふぁ)様、北郷は少し休息が必要なようです。今は彼は話せる状態ではないため、話せるようになってから再度・・・・」

 

孫権にそう言うと同時に優しい顔から一変孫策に厳しい目線をぶつける。孫策は北郷のヤツレ具合を見て自分がやりすぎてしまったことを自覚したようだ。申し訳ないと両手を合わして周瑜にポーズを作る。

 

「そうね・・・・。冥琳、彼にお大事にと伝えてくれるかしら・・・・?」

 

「はい」

 

その後孫権と甘寧は病室を出て行ったが甘寧は北郷をチラリと一瞥はしたが何も言うことはなく孫家の後ろについて行った。

 

「さて・・・・北郷の病状は・・・」

 

「肋骨が何本か折れてるって・・・、あとは打撲と裂傷ね・・・」

 

孫策が医師から受けた説明を周瑜と黄蓋は聞くと溜息を付いた。

 

「策殿、やりすぎはよくないと思うがの。自分の立ち位置を弁えてもらわんと・・・・」

 

「北郷は今、成長株であるのだから彼を損失させるということは孫呉の損失と同義なのだぞ!」

 

黄蓋が呆れ気味で言うと周瑜は孫策にさらに追い討ちを掛ける。

 

「うん・・・・、今回は私の失敗ね。反省してる」

 

さすがの孫策も二人に詰め寄られては立つ瀬がないということか。彼女らの叱責を甘受する。シュンとする彼女を見て二人は反省していると感じたのか強い視線を少し緩める。

 

「雪蓮、ともかく私も仕事があるのではこれで戻るが・・・祭殿はどうします?」

 

「ん?儂もそうじゃな・・・・いつまでも席を空けておくのもあまりよろしくはないの。とりあえずは無事も確認できたことじゃ、戻るとするよ」

 

「ん、わかった。私は少し彼を・・・・」

 

「そうか・・・・、まぁ今は小康状態を保っているが何かあれば頼むぞ、雪蓮」

 

「うん、わかったわ」

 

孫策が残りたいという素振りを見せたため周瑜もあのようなことがあったので責任を感じたのかと感じ仕事に戻れとは咎めなかった。

 

 

その後病状が回復したらということで孫策をあとに二人は去っていった。静寂が支配し、北郷の静かでリズムのある寝息が時を刻む。

 

「ねぇ・・・・どうして私の真名を言ったの?」

 

彼の寝顔をみながら尋ねるが、答えは当然帰ってこない。北郷はいまだに穏やかな寝息でリズムを刻む。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

孫策は彼を見つめ続ける。孫策は彼に真名を呼ばれたあと自分が経験したことがない何かが頭に入ってくるのを感じたのを思い出す。

 

「あれは・・・・いったいなんだというの?」

 

彼女は今では忘却の彼方へとなりかけているあの出来事を思い出す。

 

『・・・・・てばホントに弱っちいんだから~。それじゃ私を守れないわよ!』

 

孫策の声をした女性が男に笑顔でケラケラとそう言った。男の名前を孫策の声をした女が言うがその肝心な部分だけノイズが走っているように妨害がはいる。

 

『勘弁してくれ・・・・。俺が雪蓮に敵うわけがないのは分かっているだろう?』

 

男は少し弱気な声でそう言った。顔はボヤけており肝心な部分が全く見えなかった。

 

それから場面が急に移り変わり、川のせせらぎが聞こえる森林での中、男の後ろ姿と二つの石碑。そして周瑜の寂しい後ろ姿が映る。

 

『俺は・・・・・何もできなかった・・・・。雪蓮・・・・俺は君を・・・・・』

 

白い装束を着た男は震え、強い握りこぶしを作る。あまりに強く握ったのか爪が食い込み、そこから血が流れている。

 

『・・・・・それは・・・・』

 

周瑜が悲しそうな顔で男のほうへ振り返り咎めようとするが・・・・。

 

それが今孫策が思い出せる頭に流れてきた情報だった・・・・。あれはなんだったのか?

 

だがこれだけは分かった。あの孫策と同じ声をした女は間違いなくあの男を愛していた。それも深く。なぜだか分からないが孫策にはそれがわかった。

 

(忘れたくない・・・・。でもなぜ?なぜ私は忘れたくないと強く願っているの?)

 

孫策は北郷を見ながら心の中で思いを吐露する。

 

(分からない・・・・。でも私は・・・あれ?)

 

見ていた北郷の寝顔がぼやけると同時に頬に水分が流れ落ちる。そのとき孫策は涙を流しているのを知覚した。

 

「なんで私泣いてるの・・・・?どうして・・・・」

 

涙を拭うがとめどなく流れる涙を止めることができない。自分の感情のコントロールができず困惑する彼女ではあったがひとつの結論を孫策は見つけ出す。

 

「あぁ・・・私、忘れたくないんだ・・・・」

 

覚えたい。忘れたくない。強いその思いが孫策の感情を激しく揺り動かした・・・・。だが彼女は少し深呼吸をして涙を拭うといつもどおりの孫策に戻る。

 

「まったく・・・・北郷、お前には・・・・お前には振り回されっぱなしだわ・・・・」

 

孫策はそう言って北郷の頬を指でツンツンとつつくが北郷は起きることなく深い眠りについている。

 

「さて私も戻らないとねぇ~、あ~あ仕事かぁ」

 

孫策は演習での出来事の言い訳を考えないといけない事を考え深い溜息をついて医務室をあとにした。

 

 

翌日俺は意識が戻り医師から暫くは絶対安静を告げられ、療養をしている。

 

簡単な文字くらいは今の俺には読めるようにはなったので、簡単な文集などを読んで過ごしていると戸が開く音がして誰かが入ってきた。

 

「調子はどうだ?北郷」

 

周瑜が見舞いに来てくれたのだ。俺は彼女が見舞いに来てくれたことに少し感動しながらも大丈夫だと告げる。

 

「うん、ただ暫くは激しい動きは厳禁と言われた。外傷が治り次第退院だってさ」

 

「そうか・・・・命に別状はなくてよかったよ」

 

安堵したように彼女は胸をなでおろすとほれ、差し入れだと言って持っている袋を見せる。

 

「差し入れ有難う周瑜、孫策は・・・・あの後どうしてた?」

 

周瑜は差し入れの果物の皮を剥いて俺に俺に渡したあと少し厳しい表情になる。

 

「お前をここに連れてっていった。そのあとは黄蓋殿と私でキツイお灸を据えておいたよ。アイツは珍しく落ち込んでいたさ」

 

確かに周瑜と黄蓋の2人で迫られたらいくら孫策でも立つ瀬がないだろう。反省している孫策を想像し可笑しくて少し笑う。

 

「ただ皆仕事が忙しくてな・・・・黄蓋殿は現在極秘の任務で早朝ここを発った」

 

「孫策は・・・?」

 

「彼女も今は忙しいな。私がその代表というわけさ。孫策ではなく私では不満か?」

 

周瑜はニヤリと笑い俺を一瞥する。お前の考えなどお見通しだよと言わんばかりだ。

 

「そ、そうか・・・。周瑜が来てくれて俺は嬉しいよ。忙しい中来てくれて有難う。ただ・・・皆忙しいんだな」

 

図星を突かれ少し挙動不審にはなるが周瑜には感謝する。

 

「今はお前が見たあの村を襲った賊が巨大化しているからな。皆警戒と情報を収集しているということさ。ただ朗報ももちろんある。袁術からかつての旧臣を呼び寄せる許可をもらった。

 

これで軍備が整うことができる」

 

「黄巾党の討伐か?しかし孫呉の勢力が大きくなるのに袁術がよく許可したな」

 

裏切るかもしれない客将の勢力を増大させるなんて普通は考えないのだが。

 

「鋭いな。まぁあの連中は馬鹿だからな、雪蓮の口車に乗せられてるのさ」

 

「なるほどな。袁術は馬鹿か」

 

頭をコンコンと指差すと周瑜は笑った。

 

「そういうことだ・・・。ただ北郷、お前の黄巾党などの知識などは未来の知識ということか?」

 

「まあね」

 

「では今後の未来というのもお前は分かっている。ということだな」

 

「周瑜の言いたいことは何となくだけど分かる。しかし俺の歴史ではこの大陸を収める人間は女性でなく男性が主流だったんだ。俺が最初に孫策と周瑜を見て男じゃないと言ったのはそれが原因さ。そうとなれば俺が知っている歴史がこの世界で役に立つかは不透明だとは思う」

 

「つまりは歴史が違う以上はお前の知識は期待はできないと?」

 

「まぁそうかもしれないな。ただ黄巾党などの動きは大体一緒であるのなら少しは役には立つかもしれないが・・・・」

 

その後俺は口をつぐんだ。

 

このあとの歴史では孫策がどういった経緯で命を落とすのかを知っていたからだった。言ったほうがいいのか?しかし未来を変える影響力というのがあるはずだ。それが・・・どれだけの影響力があるのか俺には到底想像できなかったのもあった。

 

 

葛藤が続く俺に周瑜も察したのかやんわりと先の展開を教えなくてもいいと言う。

 

「北郷、お前が知っている世界の孫策や周瑜と今いる私たち果たして一緒だとは言い難い。そうであるなら未来は決められてはいない。我々は自分の信念で責任をもって行動をするのみだ」

 

「・・・・すまない。力になれなくて」

 

「気にするな。ただ北郷、どんな未来でも決められた既定路線というのはない。歴史とは今生きる人間が決断してそれが起こり得た過程の説明をその後の人間がしているに過ぎないのだから」

 

「そうだな・・・・・、周瑜の言うとおりだと思う」

 

「さて、本題に入るが・・・・。北郷、今後のお前の方針を明らかにしておきたいと思ってな・・・。北郷お前自身は今後のことをどう思っているのだ?軍師として働くかそれとも武官として動乱を生き残るか。それともこの街の町民になるのもいい。市民権は我々が保証する」

 

周瑜は今後の身の振り方を提案してきた。

 

「私が軍に入れたのはあくまで自分の命は自分で守れるようにということで入れたにすぎない。入隊辞令も発布していないのはそれもある。お前の希望を聞いておきたい・・・というのは建前ではあるが・・・・」

 

「え?」

 

「北郷、私のもとで働く気はないか?お前のその知見は才能がある。どうだろう?私のもとでその知略を磨くというのは。お前は大陸一の軍師になれる素質はあると私はふんでいる」

 

周瑜は俺に弟子にならないか?と誘われたのだ。その誘いが俺の背中を軽くした。あの周瑜が俺を誘っているという事実が嬉しかった。

 

だが俺はよろこんで!という返事を上げることができず口は錘でも入ってるのかというくらい重い。

 

(なぜだ・・・・。なぜ俺は・・・・・)

 

自分の気持ちの変化に困惑する俺であったが直ぐ様、脳裏に夢で見た泣いている女性がフラッシュバックする。

 

そのフラッシュバックに俺は混乱するが、自分がこのまま軍にいたいという動機としてはそれが一番であるというそんな気はした。

 

(知らない女性を泣かせないためねぇ・・・)

 

顔も姿も知らない、それでいて泣いてる声しか知らない女性を動機の対象にするのは自分で自分に呆れるがそうと決まったからには周瑜には断りを丁寧にいれた。

 

「周瑜、君が俺をそこまで評価してくれることはすごく光栄だし、嬉しい。だが俺は武官としてこの戦乱を戦い抜きたい。その覚悟はある」

 

「・・・・・ほう?ではなぜ武官なのだ。お前は確かに凄まじい実力ではある、だがそれだけを理由にこの私の誘いを断るということは私としても思うところがあるからな。私が納得いく答えが言えたら受理しよう」

 

周瑜は俺が武官になるのが納得がいかないようで、自分の誘いが断られるのが少し心外だとムッとした表情でそう言った。

 

それだけプライドが高く、また俺がついて来てくれると考えてたようだ。彼女の瞳に動揺の色で揺れているのが珍しく見えた

 

「けじめだ」

 

「けじめ?・・・・なんの?」

 

「分からない。だが・・・・贖罪・・・かな」

 

周瑜は狐につままれた顔から一変不審な表情で俺を見つめる。だがまぁいいかと納得してくれた。

 

「けじめ、贖罪とは・・・・お前は誰かを死なせてしまったとかそう言った過去があるのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「いやすまない、イヤなことを聞いたな。忘れてくれ」

 

俺の沈黙を周瑜はどうやら過去に俺が悲惨な経験を思い出したからだと思ったようだ。俺も説明が難しいのでこの彼女の勘違いに乗っかかることにする。

 

「有難う周瑜・・・・」

 

「気にするな、そう言った過去があれば私も止めはしない。自分で過去にケリをつけるという姿勢は不器用ではあるとは思うが私も実直ではあると思うからな」

 

「周瑜・・・・」

 

「ふむ・・・お前とこれから未来の知識や制度などを話し合いたいところだが・・・・流石にこれ以上の時間はかけてはな・・・」

 

すまないと謝る周瑜に気にしないでいいとフォローするが周瑜としては未練があるようであった。

 

「そうだな・・・・なかなか休みはお互い取れるものではないが・・・・今度ゆっくりと話そう」

 

そう言って周瑜は去っていった。その後、差し入れ袋を覗いてみると食べ物だけではなく本であったり教材であったりと色々ある。

 

「周瑜・・・・有難う」

 

周瑜が忙しいなかわざわざ街で、自分の家でと身寄りのない俺のためにと選んで持ってきてくれたのだと思うと感謝の思いで胸が熱くなり目頭を少し熱くさせるのであった。

 

 

だが病室での何日も療養でじっとしているというのも流石にしんどいものがある、ということで外出許可をもらい城を巡り散歩をしてみることにした。

 

負傷した箇所を傷めないようゆっくりとした歩調で城を散歩する。日差しが暖かく俺を包む中、大きな広場に着くと寝転がり少し青空を堪能する。

 

「ふ~気持ちいいなぁ」

 

そういえばこうやって青空を大の字で眺めるのは子どもの頃以来だなと少し感慨にふけっている。

 

「こ~ら!そこで寝転んで何をしてるの!」

 

と言われ軍の職業病ゆえか立ち上がって敬礼をしようとするが、怪我の箇所が鈍い痛みを放ちなかなか立てない。

 

痛みに解放され立ち上がると周りは人がいないことに頭をポリポリとかく。イタズラにしてはこれだけ広い広場だ。逃げようにも人影というのはわかるもの。

 

「あははは~北郷ってば上よ上!」

 

聞き入った声がする方に振り向くと木の上で孫策は酒を飲んでいた。仕事で忙しいと周瑜が言っていたが・・・・。

 

「孫策・・・・君は・・・・・」

 

呆れ気味に言うと孫策はキャッキャと笑いながら酒を飲む。

 

「だってバタバタもがく北郷が面白くて・・・・ククク」

 

「そうさせたのは君なんだがな・・・!」

 

少し語気を強める。孫策は仕事もせずここでサボっているという事実が少し腹立たしかったのもある。

 

ほんとにそれだけか・・・?それは心の中に封印することにする。

 

「ごめんネ~それはホント耳が痛いのよ。堪忍して頂戴」

 

片手を手を頭に上げてごめんと仕草を見せるが、ここで怒ってもしょうがない、演習時のことじゃないかとココロを落ち着かせ険しい顔を元に戻す。

 

「いや俺も今更過去を蒸し返すようなことしてすまない。それに演習で起こったことなんだ気にする必要はないさ」

 

「そう言ってくれると私も助かるわ。戦うってなると頭の考えが全部吹き飛んじゃうのよね~」

 

悪い癖ね~と苦笑するが、俺も孫策らしいなと笑う。孫策もそれを見て微笑み木から飛び降りると綺麗に着地する。

 

「酒抱えながらの着地とは恐れいるな」

 

「なれたもんよ~、さて見つかったしどこか違う場所で飲みましょうか?」

 

「仕事しないのか?」

 

「もう北郷も冥琳みたいなこと言うのね!あいにく天に二物は与えられるのよ。私の仕事はもうおしまいなの!」

 

聞くなということだ。まぁ孫策のことだから仕事はきちっとするんだろう。

 

「ははは・・・それはすまない。俺も病室でじっとしているというのもね?酒に付き合っていいかい?」

 

「あら!優等生だと思っていたのに意外と不良なのね!」

 

驚きの声を上げる孫策に今言ってる不良みたいなことしてる君が言うのかと俺も思わず苦笑する。

 

「まぁ一人酒も飽きちゃったし・・・・北郷付き合いなさいな」

 

豊満な胸の谷間からもう一つ杯を出してホレっと渡す。どこから出してるんですかねぇ?

 

「まぁいいじゃないの。ほら飲まないの?」

 

「いただきます」

 

孫策のぬくもりがまだ残る杯を受け取るとやきもきしながらも酒を注いでもらう。

 

 

それから二人で静かに酒を飲む。一切の言葉は飛び交わないが俺からしたらそれが心地の良い空間であった。

 

彼女のそう感じてくれているのかはわからないが少し微笑みながら酒を静かに飲んでいる。

 

「孫策はさ・・・・どうしてそんなに強いんだ?」

 

北郷は精神的に強い孫策の強みが知りたく質問をしてみることにした。他意はないただの質問だ。

 

「ん~強いのは母様がいたからっていうのが大きいのかもね。あの人ほんと強かったもんな~よくしごかれたなぁ」

 

「確か君の母は江東の虎、孫文台だったか?」

 

「うん、すっごい豪快な人でね~酒と戦が生きがいみたいな人だったなぁ・・・」

 

それって孫策なんじゃないか?と突っ込みそうになったのは自重する。ただ孫策がそれほど言うということは相当な人物だったのだろう。

 

「母は私にとって壁でもあるし、超えなければならない存在でもあるのよ。・・・・だから強くならなければならなかった」

 

志半ばで死んだ孫堅のあとを継ぐのはその当時まだ若い孫策(今でも十分若いが)であり、そこに大きな苦労があったのだろうというのは少し疲れた笑顔を見て感じる。

 

今まで従順であった豪族たちの離反やそれに便乗した袁家の支配など孫策は辛酸を舐めさせられたということなんだろう。

 

孫策はそう言った情勢を何とかするために自分で体を張って生きていかなければならなかった。それが彼女の強さということなんだろう。

 

「しかし孫呉の独立も近づいてきている」

 

「うん、蓮華、思春も合流ができたしね。彼女の初陣を布陣に孫呉の独立へ動こうと思う。情勢は混沌としているけれど混沌としている今こそがいい機会であると思っている」

 

「ああ、その通りだな。だが独立が果たせたらそのあとはどうするんだ?」

 

「そのあとは・・・・そうねぇ少し私も疲れているし休みたいものね」

 

『疲れている』という言葉を彼女は軽く語るがその言葉が俺からしたらどれだけ孫策が苦労を重ねてきたのかを垣間見る瞬間でもあった。

 

「そうだ・・・孫策は休暇が必要だ。疲れただろう?」

 

「そうね・・・。正直言うとヘトヘトよ。だが我々の宿願を果たすのも近い。それまでも我慢よ」

 

と言って酒をぐいっと煽ると寝転んでいた孫策は上半身だけ起こして俺を見る。

 

「久しぶりにうまい酒が飲めた気がする・・・。有難う北郷」

 

「・・・・・・・・・」

 

「でも考えちゃうこともあるのよ?あたしが普通の女の子だったら~って孫呉の人間じゃなかったら普通に暮らせていたのかなってね。ごめんね~私らしくない‐‐‐‐」

 

「俺は別に構わない」

 

俺は彼女の言葉を遮りそう言う。孫策は驚きこちらを見つめる。その目に動揺の色が珍しく広がっていた。

 

「え・・・・?」

 

「疲れたなら、そしてそれがどうしてもしんどいのならやめちまえばいい。最悪もしもではあるが孫呉の悲願が叶わないという可能性もあるかもしれない。だが伯符、それは君の長い人生のほんのちっぽけな出来事に過ぎないんだよ。もしダメなら今度違う目標を立てそこに向かってしっかりと大地に足をつけて生きればいいんだ」

 

「北郷・・・・・」

 

「周瑜や黄蓋さんは君がどういった判断を下してもそれを責めることはしないさ。それだけのことを君はやってきたとあの二人は理解しているからね。大丈夫、生きてさえいればどこに行ったってどうとでもなるさ。・・・・ってすまない、部外者の俺が言う事ではなかったな」

 

「ううん、そんなことない。うん・・・・・・・そうよね・・・・そう・・・なんだ」

 

孫策は驚いたあと微笑んだ。孫策から心から暖かい笑みを向けられたのはこれが始めたな気がする。

 

「でもそのとき北郷はどうするの?」

 

「俺は所詮は流れ者だからな・・・・。君が要らないといえば立ち去るし、必要であれば何処だってついて行く覚悟はある。俺に祖国はないからね。君たちがいるところが俺の祖国ということだ」

 

俺がそう言うと孫策は体育座りして顔をうつむく。その表情は見えなかったが孫策から俺の手にキュッと手をつないでくる。

 

俺はそれを握り返すと孫策は大きくため息をつく。その表情は未だ見えなかったがポツリと俺に言う。

 

「北郷は・・・・寝返ったら許さないんだから・・・・。どこに逃げても必ず捕まえてやるんだから・・・・」

 

ぽそりと小さな声でいう。俺は彼女のその言葉が最大限の彼女なりの不器用な答えであった。

 

俺は握ってくる彼女の手を強く握り、微笑んで返す。孫策も強く握り返してくる。

 

「それは怖いな・・・。伯符、俺は君について行く、どんな君になってもね。生きる時も死ぬときもずっと一緒だ」

 

「うん・・・・あ~あ孫呉の悲願を果たすまでは私も死ねないわねぇ~。はぁ~気持ちがスッキリした!あとは・・・・・・ねぇ北郷?たまに私のお酒に付き合ってくれると嬉しかったりするけど・・・だめ?」

 

パッと顔を上げると目を少し潤ませながら笑顔でそういったが最後の方は上目遣いで子犬のように言う姿に俺も胸が高鳴るが微笑んで彼女の頭をなでる。

 

「もちろんさ、君が仕事をしてくたらな」

 

「ひっど~い!せっかく誘ってるのに!!」

 

俺は少し茶化すと彼女はブーと顔をふくらませて拗ねてしまう。彼女の表情がクルクル変わるのが面白くて思わず笑ってしまう。

 

「ちょっと北郷!!笑うことないんじゃないの~?」

 

笑った俺を孫策は馬鹿にしていると思ったのかすこし彼女を怒らせてしまったようだ。俺は両手で振りながら苦笑いで謝罪する。

 

「いや、すまない。ちょっと意地悪だったな。許してくれないか?」

 

「ふん!・・・じゃああたしの言うこと聞いてくれる?」

 

「ああ」

 

「・・・・・これからはたまには私とお酒付き合いなさい!王の命令よ・・・」

 

「フフッ・・・・もちろん!孫策よろしく」

 

彼女が顔を真っ赤にして言うその姿に微笑ましさを感じながらも快諾するのだった。

 


 
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