No.105602

連載小説76〜80

水希さん

第76回から第80回

2009-11-06 22:18:52 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:444   閲覧ユーザー数:443

なぜだか、唐突に声をかけられた私達二人。

でも、意を決して振り返る事にした。

 

 

「誰だ!」

 楓が叫びながら振り返る。

 逆光のせいか、相手の顔は良く見えない。

「誰だとは失敬だな」

「失敬? そう思うんなら、もっと近づきなよ」

 ちょっと怖いけど、相手の顔が見えないのは、私には不安だ。

「そうだな、こんな遠くにいる事はねーか」

 つかつかと歩いて来る相手。一体どんな男なのか。

「声の感じじゃ、同い年くらいだね。えりか、耳に覚えは?」

「ない」

 楓がわざわざ訊くって事は、楓も耳に覚えがないんだろう。一体、誰なのか。

「これで、俺の事が分かるだろ?」

 至近距離までやって来たその男は、

「!」

「!」

 その男は!

「な、何驚いてんだよ」

「若い!」

「もしかして、高校生?」

 どう見ても、高校生だ。

「がくっ。そんなの見りゃ分かるだろ。つーか、驚きどころはそこか?」

「そこだね」

「いきなり私達に向かって叫ぶんだもん、どんなおっさんかと思うじゃん」

 私を不安にさせた罪は重いし。

「おっさんってなぁ! それよりも、それ以外に感想はねーのかよ」

「ないね」

「うん」

 全く、なんで私達に声をかけたのやら。そうだ、それは訊かなくちゃ!

「ね、君はなんで声をかけて来たのかな?」

「私達、すっごい不安になったんだけど」

「あ、いや、すまん。知ってる奴がいたんで、つい…」

 知ってる奴?

「楓、やっぱり知り合い?」

「あぁいや、知らない。えりかこそ、知り合い?」

 私達はしきりに首を振り合う。

「お、お前らなぁ」

 がっくりしてるって事は、やっぱりどっちかの知り合いなんだろう。

「でも、知らないものは知らないし…」

「ね」

「加藤清隆! 思い出せ!」

 加藤…清隆?

「思い出すも何も、私の人生にはそんな男はおらん」

「楓に同じく」

 正直、即答。

 

 

この男の子、一体誰なんだろう…

 

 

~つづく~

加藤清隆と名乗った男の子。

でも、私達の知り合いを自称していながら、面識がない。

一体、どこで知り合ったの?

 

 

「なあ、ホントに俺の事記憶にないのか?」

「ないね」

「ないね」

 くどいよもぅ…めんどくさいなぁ。

「お前ら~~~! 特に、そっちのぱっつん前髪!」

「あ~~っ! 私の事、そんな風に言ったね?」

「あ~あ。逆鱗に触ったよこの人」

 私が気にしてる事をぬけぬけと!

「逆鱗? だってそうじゃないか。って、そんな事はどうでもいい!

そんな事より、なんで記憶にないんだ倉橋えりか!」

「なっ!」

 わ、私の名前を…知ってる…

「この人、えりかの知り合いなんじゃん」

「し、知らない知らない」

「失礼な奴だなあ! クラスメイトの顔くらい覚えとけ!」

 えぇ?

「クラス…メイト?」

「聞き返すな!」

「ちょっとえりか。クラスメイトの顔を覚えてないの?」

 う。

「それはまずいよー。男子は交流ないかも知れないけどさあ」

「き、気まずい…」

 そういえば、佐々木君の時もそうだったっけ…

「まじで覚えてなかったのかよ…」

「あー、そういえば、中学時代もそうだったっけ」

 か、加藤君をがっくりさせてしまったわ。仕方ない事だけど…

「おい、倉橋の友達。よく言い聞かせとけよ」

「言っても無駄だと思うけど…それより、声をかけた目的は?」

「そうだそうだ。それを教えてよ。私を罵倒したんだから、答える義務はあるよねー」

 何しろこの人、私の前髪の事を言ったんだから…フフフ。

「そ、それは…」

 ごくり

「そ、それは?」

「なにかななにかな?」

 

 

~つづく~

私に声をかけて来た、クラスメイトの加藤清隆君。

正直見覚えのない男子だけど、そんな事より、

声をかけて来た目的って、何?

 

 

「俺がお前らに声をかけた目的はなぁ」

「うん」

「目的は?」

 なーんか、言いにくそうにしてる。ちと気になるね。

「知ってる奴を見かけたからだよ!」

「へ?」

「何、それ」

 正直拍子抜け。でもって、ちょっと憤慨。

「あのさ、そんだけの事で、あんな風に呼び止めないでよね!」

「そうそう。えりかがどれだけビビってたか」

 ちょ! 楓!

「そういう余計な事は言わなくていいから!」

「でも、事実じゃん」

 あー、もう、そうじゃなくて!

「女の子相手にあんな呼びかけ、デリカシー0だねっ!」

「す、すまん…」

「お? 意外と素直?」

 素直に謝ったからって、それで許してあげられるようなもんじゃない。

「あのさあ。謝る気持ちがあるんなら、なんで最初にもっと普通に声かけ出来なかったの?」

「そ、それは…距離が空いてただろ? だから…」

 そんなの、ぜーんぜん理由にならない!

「楓、それって、理由になる?」

「ならないね。少なくとも、私達はビビったんだし」

 よし、今度は楓も同意見だ。

「ちょ。じゃあどうすれば。謝罪ならするから!」

「ふふん。本気? じゃあ、私達これから買い物するんだけど、

荷物持ちをして頂戴」

「ちょっとえりか、都合確認からしなきゃダメじゃん。で、どうなの?」

 私としては、そんなに買い物するつもりはないから、大した事は要求してない。

「都合か…あ、あいにくと予定はない」

「あっそ。じゃあ決定ね。私達が買い物を終えて、駅に戻るまで、

荷物持ちをすること。これが罪滅ぼし。OK?」

 仕方なさそうな顔で了承する加藤君。これはこれで、アリかも。

「それじゃ、行きましょ。あ、できれば、道案内もよろしく」

「うんうん。私達より、詳しそうだ。っと、早速だけど、この荷物もよろしく」

「へい」

 よし、これで私達の買い物も、はかどるってもんだ!

 

 

~つづく~

加藤君を荷物持ちに従えた私達。

よし、これで買い物もはかどるに違いない!

 

 

「んで、二人はどこに行くんだ?」

「ハチキュー」

「じゃのぅ」

 ハチキューってのは、おしゃれなお店がいっぱいあるビル。

正式名称は「蜂須賀第九ビル」っていうんだけど、

渋谷の「マルキュー」を真似して、みんなこう呼んでる。

「だったら道は分かるか」

「それは心強いね」

「えりか、結構いいアイディアだね、荷物持ちと道案内とは」

 ほっほっほ、そうなのです。

「でもな~、ハチキューだろ?」

「だね。えりか、間違いはないよね」

「うん。異論があるのかな?」

 立場上、私達には逆らえないはず。何を言い出すのかな? このクラスメイトは。

「あそこ、男は入り辛いんだよな~」

「おや、行った事が?」

「行った事があるなら問題ないと思うんだけど?」

 しかし、行き辛いと言いながら行った事があるとは、これは異な。

「あの時だって荷物持ちだったんだ…またかよ」

「ほほぅ。これは興味深いですな。ねえ、楓さん?」

「ですなあ。詳しく聞かせて頂こう」

 私達は加藤君に詰め寄った。場所は薄暗い路地だけど、構うもんか。

「~~っ。詰め寄るな。彼女と行ったんだよ。おかしくないだろ?」

「おかしくないけど、彼女持ちとは許せん!」

「恋愛を楽しむ男は罪だね」

 私達は一致団結した。

「それに、彼女がいながら私達にあの態度。ますます許せませんな」

「うむ」

 ふっふっふ。

 

 

私達二人は、満場一致でさらなる制裁を決定した。

 

 

~つづく~

まさか、加藤君に彼女がいたなんて。

私達女の子二人としては、制裁措置を追加するしかない。

急遽制裁会議を開始した。

 

 

「ねえ、楓さん。どうする?」

「そうだね、えりか君。ここは一発、加藤君が恥ずかしくなるようなので、

どうかね?」

「おーい」

 恥ずかしくなるような…か。

「安直ではないかね?」

「だが、それ故に効果的だとは思わんかい?」

「ちょっとー?」

 安直故に効果的か。ふむ、一理あるな。

「で、具体的に何を考えてるんですかな?」

「それはね?」

 楓が私に耳打ちをする。

「ほうほう、それはすごいですな」

「でしょう? 異論はないようだね。では実行という事で」

「ちょっと、何を企んでるのさ!」

 会議は満場一致で結した。

 

「ーーというわけで、追加制裁措置を決定したので通知します」

「通知します」

「で、俺はどんな辱めを受けるんだ?」

 ま、追加制裁はともかく、まずは服を買わなきゃだ。

「とりあえずハチキューに行こう」

「予定通りにね」

 私達は、歩みを止めない。

 

 

~つづく~


 
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