No.1010202

ヘキサギア 『白の魔女と永遠の声』

vivitaさん

LAの自称騎士『ルシア=ナイト』、VFの騎士『ベルデール』。
ふたりの騎士は、同じ敵を追っていた。
白の魔女と黒の魔竜が街を焼く。すべてが失われ、変わっていく。
魔を討つ騎士たちは、いかにして永遠を夢見るのか?

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2019-11-14 22:50:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:713   閲覧ユーザー数:713

その日、私は永遠と出会った。

 

地下シェルターから這い出て目にしたものは、焦土となった街。

防衛部隊であったはずのモーター・パニッシャーたちが、バラバラに砕けている。

 

なんと・・・惨いのか。

誰かいないのかと呼び掛けても、何もかえってはこない。

消えてしまった。もう私が大切だと思っていたものは、どこにもないのだ。

歩いているだけで、倒れそうになる。

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

金属をこすり合わせるような音が、かすかに耳に届いた。

モーター・パニッシャーの残骸。その顎だけが、空を噛むように攻撃を続けている。

 

私は吸い寄せられるように顎へと近づいて、抱き締めた。

不躾な人間に怒ったのか、モーター・パニッシャーが激しく牙をすり合わせ、私を傷つける。

私は泣いた。

迸る鮮血と痛みが、嬉しかった。濡れた瞳のまま、空を見る。

 

絶望が空を支配していた。

 

規格外の存在――エクストラヘキサギアクラス。

上空にあってなお、漆黒の幻獣は巨大に見える。

蝙蝠の翼、蛇の頭と尾、都市を一瞬にして焼き尽くす炎。まさに竜。

 

後に『アグニレイジ』と呼ばれるそのヘキサギアの背には、一人の少女がいた。

アグニレイジが黒なら、その少女は白。

汚染地域であるにも関わらず、纏うのは防護服ではなく、贅を尽くした純白のドレス。

大量殺戮を成し遂げた後だというのに、その綺麗な顔はすこしも崩れない。

 

人間ではない、魔女だと思った。

 

アグニレイジが飛び去ってゆく。

魔女と竜を呪うように、モーター・パニッシャーがいっそう大きな金切り声をあげた。

 

※※※

 

私は帳簿を前にして、頭を抱えていた。

赤字だ。

もう、ヘテロドックスの傭兵たちと交渉するための物資がない。

 

「苦しいな。やはり使う額に反して、得る額が少なすぎる。」

『サー・ルシア。物資は十分にあった。あんたが下手だっただけだ。』

横に寝転がっていた我が相棒。ヘキサギア『モーター・インパルス/ルチャル』が首を突っ込んできた。

インパルス特有の犬猫のような顔が、私の間近で愛らしく小首をかしげる。

 

「下手!?違うぞ。騎士道にもとづき、彼らを最高の条件で雇い入れただけだ。」

『笑わせるなよ。あんたは相手がちょっと渋って見せただけで大慌て。あれよあれよという間に、ありえないぐらい値が跳ね上がっちまった。覚えてないのか?傭兵さんがた、最後には気の毒になって減額してくれたんだぞ?』

「断られたら一大事だろ!私は騎士として職務をまっとうしただけだ!」

 

『サー・ルシア。おまえこの仕事向いてないよ。つかサーってつけなくていい?だるいんだけど。』

「うるさああああああい!!呼べ!!おまえが呼んでくれないと、他に誰も呼んでくれないだろ!!!!」

ルチャルは、ごろにゃーんと言いながら私に腹を見せた。降参した獣のようだが、長く伸びた尾が私の頭を小突いている。

私はぴしゃりと尾をはらう。手が直接ぶつかる前に、ルチャルは尾をどかしてよけた。

 

「すまない。少しいいだろうか?」

天幕の外から大きな声がした。低く、凛とした声色だった。

外に出た私を、銀色の騎士と竜が出迎える。

長い雷槍――スタニングランスを背負ったパラポーン(機械兵士)。イグナイトの称号を持つ、ヴァリアントフォースの精鋭。

しかし、彼が駆る恐竜型ヘキサギア『ボルトレックス』には、リバティーアライアンスの紋章が描かれていた。

 

「わたしはベルデール。SANAT様に仕える騎士だ。貴殿に頼みがある。」

SANAT。人間を情報体(データ)とし生き延びる計画、プロジェクト・リジェネシスを掲げるAIだ。

人が人のまま生きることを是とするリバティーアライアンス・・・つまり、私の所属する組織とは敵対関係にある。

私は困惑した。なぜ彼がこの基地内で、こうも呑気に私に話しかけているのか?というより、警備はどうしたのか?

「私の名は・・・。」

「知っている。ルシア=ナイト、元ヴァリアントフォース警備部隊員。シティ21、最後の生き残りだ。」

 

※※

 

シティ21。

ヴァリアントフォースが支配する都市のひとつ。そこでは、大勢の『まだ情報体でない人々』が集まって暮らしていた。

決心がつかない、大切な人が逝くのを見届けてから、単純に転換の順番がこない。

さまざまな理由で情報体にならなかったが、SANATのもとにいることを選んだ人々。

私も、その一員だった。

 

警備部隊の一員として、毎日のように揉め事に首を突っ込んだ。

人々の話を聞いて、どうにか解決できないかと、ごたごたの仲介をする。

仲介はたいていうまくいかない。揉め事は、お互いがしたくもない妥協を重ね、傷を負いながら決着するものだ。

とうぜん、間に立つ私も無傷ではいられない。

無意味に思える傷をたくさん負い、被害をおさえるために苦心し、理想とはいえない結果を受け入れる。

 

大変な仕事だったが、私は充実していて、幸せだった。

笑顔で街を歩く人々を見ると、自分がこの平和を守る手伝いをしているのだと、自尊心をくすぐられる。

やればやるほど仕事に熱が入り、だんだんと技術や知識が増えていく。

優秀な仲介人として、私は有名になった。

なんにでも首を突っ込む厄介さと、潔癖症と称される公正さ。

皮肉と敬意。両方をこめて、私は「騎士(ナイト)」と呼ばれるようになった。

 

※※

 

ビークルモードとなった『モーター・インパルス/ルチャル』が、悪路をものともせず疾走する。

障害物をチェーンガンで砕き、亀裂をゾアテックスモードに変形することで飛び越える。

 

「貴殿がヴァリアントフォースから離れてしまったことは残念だ。優秀な仲介人だった。」

先を行く『ボルトレックス』ビークルモードから、ベルデールが通信してきた。

「情報体は、生身の感覚をすぐに忘れる。あなたがたに合わせたやり方は、私たちには合わない。」

「情報体の社会は、貴殿ら生身の人間にとっては、障害のある世界と?」

 

ベルデールの操作技術は極めて高い。

あらゆる無駄がそぎ落とされた、美しい走りだ。

 

ベルデールと『ボルトレックス』は、速度の高いビークルモードを極力崩さない。

ゾアテックスモードへの変形は、必要最小限。

変形によるタイムラグの差を使って、機動力に優れる『モーター・インパルス』に勝る速さを見せている。

私たちを振り切ろうと思えば、いつでもできるのだろう。

 

「そうだ。シティ21が滅びたいまとなっては、アライアンスのほうが居心地が良い。」

「・・・そうか。できれば、ヘテロドックスとの交渉のため、貴殿を引き抜きたかったが。」

「軍で引き抜いてもらうほどの価値はないよ。警備部隊は人命が最優先だった、だから落とし所がわかった。いまは違う。」

 

断崖の上に停まって、私たちは、遠くを見下ろした。

荒廃した大地のなかで、一点だけが楽園のように輝いている。

色とりどりの草花に、流れる小川。歩き回る生身の動物たち。

数々の機械(ライフライン)が、それらを維持していた。

 

楽園の中央に座しているのは、忘れもしない黒と白。

アグニレイジと、魔女。

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

モーター・パニッシャーの声が、耳に届いた気がした。

 

「これ以上近づくと反応する。ここが開戦位置だ。」

 

私たちは、運んできたヘキサグラムやパーツを、兵器へと組み上げ始めた。

ガバナーとは、ヘキサギアを駆る兵士であり、同時にアセンブルを嗜む整備士でもある。

事前に描いてきた設計図をもとに――時に間違いを修正しながら、ひとつ、またひとつとパーツをはめていく。

 

私は事のあらましを、ベルデールから聞いた。

白の魔女と『黒のアグニレイジ』は、ヴァリアントフォースから離反したパラポーンとヘキサギアだ。

アライアンス基地の破壊作戦中、突如としてネットワークから切断。護衛だったベルデールの部隊を壊滅させ、行方をくらました。

その後、魔女は、勢力関係なく各都市を襲撃。ヘキサグラムを奪い、少なくない被害を出している。

 

アライアンスの一部とSANATは、この状況を極めて危険と判断。

かの魔女を討つまで、秘密裏に共闘へと至った。

 

「わたしたちは情報体だ。甦ることはできたが、しかし、戻らないものもあった。アグニレイジと魔女だ。」

「エクストラクラスの裏切り。たしかに甚大な戦力喪失だな。」

「その通りだ。わたしにとっては、友の喪失でもあった。」

憂い深い様子でそう語るベルデールに、私はすこし苛立ちを覚えた。

 

魔女が、友?

 

厳しいまなざしをベルデールに向けると、彼はそれに気づいて言葉をつづけた。

「わたしたちは、同じ夢をかかげていた。」

「プロジェクト・リジェネシスか?私も掲げていたことがあるぞ。」

ベルデールは、首を横に振って否定した。

「わたしたちの夢は、楽園を作りあげることだった。永遠に尽きることのない、思い出の場所を。」

 

情報体となることは“個を一度捨て、全となること”だ。

人は全となることで、様々な発見を得て急激な成長を遂げる。新たなる価値観を持って、生まれ変わる。

情報体となっても、同じ個だ。しかし、以前とは、どこかが決定的に違う。ベルデールと魔女はそう感じた。

なにかを失くしている気がする。

 

だから、ベルデールと魔女は作ったのだという。思い出と理想の詰まった楽園のかたちを。

情報体となったあと、自分のすべてが変わってしまってもいい。

かつての自分が大切だと思ったものが、変わらずに世界に残っているのなら。

ベルデールと魔女は、そう、夢を見たのだ。

 

『おいおい、いいのか?』

押し黙る私をよそに、ルチャルが首を突っ込んできた。

「なにがだ?」

『いまから壊すんだぞ。あの場所を。魔女とアグニレイジも仕留める。あんた何でこの任務についた?いいところで裏切って、見逃すつもりか?』

「離反したことで、彼女はジェネレーターシャフトから消去された。バックアップはない。そしておそらく、あの義体にも、もう人格はない。」

 

『あぁん?』

ルチャルが長い尻尾をハテナマークにして、小首をかしげる。

 

「理由はわからない。何らかのエラーが起こり、あの義体から彼女の人格は消えた。だから無差別に人々を襲っている。僅かに残った習性のままに。」

『なるほどな。あんたにとって、魔女はもうお友達じゃない、その亡骸だ。それがわかってるから、SANATもあんたを選んだ。』

ルチャルは、得心がいったとばかりに頷いた。

長い尻尾が、マルの形になる。

 

私は、あの魔女が離反者であることしか、知らなかった。

あの殺戮は、意志をもって行われたのだと思っていたのだ。

しかし、現実はどうだ。『ただの事故で、加害者はもう死んでいる』などと。

いまから行われるのは復讐でなく、ただの後始末なのだ。

戦う気力がしぼんでいくのを、私は感じた。

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

気持ちとは裏腹に、着々と準備が進んでいく。

 

断崖の上に組み上げられたのは、雷槍スタニングランスをつがえた巨大な弓。

ロード・インパルスの尾が弦となり、ボルトレックスのグラップルカッター(腕)によって引き絞られる。

二体のヘキサギアの力によって、私たちは圧倒的なロングレンジを得た。

 

ボルトレックスが、キリキリと音をたてて、ゆっくりとスタニングランスを引いていく。

『俺の尾を壊すなよ!!』

ルチャルがヤジをとばした。

ベルデールとボルトレックスは緊張を見せず、ただ正確に後退していく。

弦が限界になったところで、ベルデールと私は目を合わせた。

 

お互いに頷くと、竜殺しの矢が放たれた。

 

信じられない飛距離にも関わらず、速い。

 

アグニレイジが攻撃に気付いた時、もう避けることも、防御することも叶わなかった。

スタニングランスが、喉元を貫通する。

生身ならば倒れているであろう一撃。しかし、ヘキサギアであるアグニレイジにとっては、致命傷ではない。

 

金属の欠片がちらばり、周りの動物たちがおびえ逃げていった。

アグニレイジの羽ばたきによって、花びらが舞いふぶく。

 

白の魔女を乗せて、アグニレイジが飛び立った。

射出された小型ドローンが、すでに目標をとらえている。敵性反応、四体。

アグニレイジは、最も強力な武装を選択し、行使する。

街ひとつを一瞬で焦土へと変える、最凶最悪の規格外兵器『インペリアルフレイム』。

大腿部ヘキサグラムストレージからエネルギーをかきあつめ、放たれる・・・ことはなかった。

 

口内奥の発振器が、完全に麻痺していた。

竜殺しの矢、スタニングランスの効力だった。

電子攻撃であるインペリアルロアーをはじめとして、口周りの機能が使えなくなっているのだ。

 

『モーター・インパルス』と私が放ったチェーンガンが、プラズマ防御フィールドによって消滅する。

 

『インペリアルフレイム』の不発。長距離飛行。防御フィールドの展開。

エネルギーを使いすぎたアグニレイジは、墜落するような形でこちらへと降り立った。

 

爆弾が落ちてきたようだった。

アグニレイジが落下した衝撃で、私たちが吹き飛ばされる。

ベルデールはその高い操作技術で、私は『モーター・インパルス』が有するグラビティコントローラーで重力を操り、地面との衝突を免れた。

 

魔竜が、ゆっくりと体を起こす。

巨大だった。スタンダードクラスヘキサギアの三倍はある、異様な巨躯。

脚部の装備された二つの近接武装。プラズマタロンとハンティングフックが展開され、プラズマを纏う。

 

踊るように襲い掛かるアグニレイジを、私とルチャルはひたすらに避けた。

一発でもかすれば、間違いなく大破する。

それなのに、射撃武装までも展開して、アグニレイジは私たちを追い詰めてきた。

 

しかし、その猛攻が私をとらえることはない。

ボルトレックスのプラズマキャノンが、アグニレイジの防御フィールドを貫通する。

ベルデールが正確な射撃によって、アグニレイジの遠隔武装を削りとったのだ。

 

・・・勝てる!!

 

私は、規格外兵装『レイブレード』を起動した。

『モーター・パニッシャー』のたてがみから、光の剣が迸る。

半永久的に稼働するはずのヘキサグラムを使い潰すことで発動する、『インペリアルフレイム』にならぶ破壊の権化。

私たちは、小型ドローンを叩き落とし、ハンティングフックをくぐりぬけて、懐へともぐりこんだ。

 

必殺の一撃は、不発に終わった。

ベルデールとボルトレックスが、ビークルモードでルチャルに体当たりしてきたのだ。

 

まさか、裏切ったのか?

 

そんな私の疑念は、一瞬で消えた。

 

ルチャルとボルトレックスが、炎に包まれる。

範囲こそ狭まっているが、それは紛れもない『インペリアルフレイム』だった。

 

放ったのは、ヘキサギアではなかった。

白の魔女の両腕が、砲のように変形している。

足元から根のようなチューブが這い出て、アグニレイジへと繋がっている。

『インペリアルフレイム』を放つためのエネルギーを、ヘキサギアから吸い上げているのだ。

人にして竜。強化しすぎたがゆえに、獣性を得てしまったパラポーン『ウィッチ』。それが白の魔女の正体だった。

 

レイブレードを起動させていたヘキサグラムが減退し、光の剣が消滅する。

時間切れだった。もう、レイブレードを使うことはできない。

 

私たちの間に僅かに生まれた隙を、アグニレイジは見逃さなかった。

 

ルチャルがハンティングフックへと捕まり、引き裂かれる。

私は、地面へと転げ落ちた。

捕まったルチャルの四肢がバラバラに切断され、散らばっていく。

続けざまに放たれる『インペリアルフレイム』。

大地とともに、すべてが焼け焦げていく。

 

かつての思い出とよく似た景色が、目の前に広がった。

なにもかもが、消えていく。呼び掛けても、何もかえっては・・・。

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

金属をこすり合わせるような音が、耳に響いた。

まだ無事なパーツをかき集めながら、音のするほうへと走る。

かつてと同じように。

そこには、壊れてもなお動き続ける、モーター・パニッシャーの顎があった。

 

魔女は、ベルデールが燃え尽きる様子をじっと見つめている。

まだ私の動きには、気付いていない。

 

なにもかもが、変わってしまったように思う。

情報体にもなっていないのに、私はもう、かつての私ではない。

シティ21で過ごしていた日々。記憶で思い出せても、かつてと同じ心を感じることはない。

 

それでも、何かひとつだけでも、永遠に残ってくれるものがあるのならば。

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

モーター・パニッシャーの顎が、ゆらりと浮かびあがった。

ヘキサグラムが詰まった関節パーツをぶらさげ、ドローンのフライングユニットで進んでいく。

その姿は、宙を這う幼虫のように見えた。

 

 

モーター・パニッシャーは、アグニレイジの体へと纏わりついた。

ヘキサグラム同士が結合し、アグニレイジがモーター・パニッシャーになっていく。

ゾアテックス同士のぶつかり合い。どちらの意志が強いのか、ただそれだけを問う上書き合戦。

 

どこからが自分で、どこからがそうでないのか。

黒のアグニレイジは、自分を見失っていた。

 

侵略に気付いた白の魔女が、『インペリアルフレイム』を放つ。

接続している自分自身を巻き込んで、いまやモーターパニッシャーとなったアグニレイジへ。

 

閃光と爆音が、世界を支配する。

大きな誘爆が起こって、私は意識を失った。

 

 

※※

 

『ようやく目が覚めたかよ。』

目を覚ますと、『モーター・インパルス/ルチャル』が私を覗き込んでいた。

ところどころパーツが入れ替わっているが、口ぶりからすると、確かにルチャルのようだった。

肩にあたる部位には、、モーター・パニッシャーの顎が取り付けられている。

 

私はベッドから降りて、立ち上がった。

くらくらする。

「どうなったんだ?」

『あのあと新しくなったベルデールがきて、俺やあんたを回収したんだよ。いやー、死ぬかと思ったぜ。』

 

「・・・そうか。あの、モーター・パニッシャーは?」

『今もちゃんと肩にあるだろ?なぜか俺のことは喰わないみたいだからな。これからも仲良くしていくさ。』

 

私はほっとして、ルチャルの肩へ寄りかかった。

モーター・パニッシャーの顎に、やさしく手をあてる。

『おい、寄りかかってるのは、俺の肩なんだぞ。』

「すまない。少しだけ。」

ルチャルは、しょうがねえなー、とぼやいた。身を預けやすいように、姿勢を変えてくれる。

 

ノックの音で、私は我に返った。立ち上がり、来客を迎え入れる。

ベルデールだった。

「目覚めたと聞いてな。事の顛末を話にきた。」

 

白の魔女と黒のアグニレイジは、炎の中に消えた。

ヴァリアントフォースに回収された残骸のほとんどは『アグニレイジでもウィッチでもない何か』へと変質していた。

僅かに残った部位は使い物にならないパーツであり、破棄されることが決まった。

ベルデールは、パーツを『楽園』の近くに埋葬し、作戦行動を終えた。

 

「我々はアグニレイジを回収したが、貴殿らの取り分がない。なので、こちらから物資を渡すことになった。」

提示された内容は、とんでもないものだった。

私が交渉で枯渇させてしまった物資を補って、なお余る。

「こんなにいいのか?」

「アグニレイジのことを考えれば、適正な額だ。遠慮されてはこちらが困る。」

 

また同じようなことがあれば、手を組むことになるだろう。

或いはその前に、敵として出会うかもしれないが。

 

そう言い残して、ベルデールは去っていった。

 

※※

 

ぎぃ・・・ぎぃ・・・。

 

戦場へ赴けば、変わらずに聞こえる声がある。

何もかもが失われていく世界で、私はその声だけを追い続けていく事に決めた。

それは永遠。変わることのない意志の在り方。

 

「ゆくぞ、モーター・パニッシャー。」

『だから、いま動いてるのは俺だっつーの。』

 

獅子は小さくぼやいて、敵の群れへと突っ込んでいった。

どうしようもない二つの意志が夢見るままに、どこまでも。


 
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