呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第017話「
「おはようございます」
わたしがそういうと、大広間と中庭に集まった300人の使用人は一斉に声を返してくる。呂北邸は扶風内ではかなりの大きな建物として知られているが、それでも300人の人口を収容できる部屋は無い。精々50程度であり、現在中庭に出ている人は白隊全員と灰隊の一部だ。
「本日の仕事割り当ては、
私は集めった使用人300をそれぞれの持ち場へと割り振っていく。そういえば、最近涼州の豪族、胡軫様を招いた時、接待したのは灰の
「あら、貴女は確か」
「は、はひ。本日から灰に配属されました
「はいよろしくお願いします」
形式的な挨拶はいいとして、この子の声、何処か上ずっている。これは演技なのか素なのか。でもよく見るといい肉付きしている。腕といい足といい腰回りといい、どれも主の好みなのじゃないかな。おまけに背も高いし.........胸も大きいわね。
「......あ...あのぅ」
肩身を狭くして、体をくねらせている。ここまで演技に徹しれば大したものね。
「気を付け」
私がそういうと、劉何は直立し、足元より調べていく。
劉何には問いかけることも許さず、ただ彼女は涙目になっている。ほんとにいい体をしている。尻は大きく、腰のくびれもいい。乳房も、持ち上げるぐらいには育っている。草であるから、程よく筋肉もついているし、きっと陰道の締りもいいでしょうね。
「貴女。本日はご主人様の伽の相手を勤めなさい」
私に指さされながらそう言われると、劉何は絶叫している。なるほど、今度の草はそういう反応なのですね。以前も潜入してきた草を送り込みましたけど、主の房中術に骨抜きにされていましたね。私は劉何に激励の言葉を送り、伽での作法を一通り教えた後に、恋お嬢様の所に向かった。
扶風の街を歩いていると、商人や町人の声で溢れかえっている。主の任されている西郡は、元は東から流れてきた、罪人や捨て子、国を追われた無法者達が集まる場所であった。扶風の東群は、主の養父である丁原様が治めており、
しかし主は、法を制定し、警邏隊を設けて厳しく街を取り締まり、必要以上の税の徴収をせずなど、治安維持を行ない。関税を撤廃して商人を来やすくして銭の流れを作り、捨て子には職を与え、効率の良い者には教育を与えている。そうやって街を興していくうちに、西群は東と引けを取らないまでに至った。人が集まってくれば、色んな俗物も交じっており、主もその様な者に渡す賄賂集めに苦労なさったと一度だけ愚痴を聞いたことがある。
それでも使えなくなれば、我々闇蜘蛛に暗殺命令が下り、内々敵に排除されるのだが。つい先日も主自身が、郷里殿に手を出そうとした
街の人々は節々に私に声をかけてくる。私は
それにしても、露店街を歩いているとよくわかる。また何処かの間者が紛れ込んでいる。あの路地近くにいる物乞いは、風貌と匂いはそれに近づけているが、下履きが真新しい。恐らくすぐに走れるようにするためだろう。右手奥に見える果物を売っている店も、盛り付け方がおかしい。下に武器でも潜ませているか。
今すれ違った
後で警邏隊にでも調べてもらって、炙り出しましょう。警邏隊といえば、
と
普段は冷静冷徹な主も、恋お嬢様のこととなると途端に甘くなるのですから、困ったものです。
そんなことを考えていると、お嬢様と
「おはようございます。お嬢様。高順様」
朝食を取っているお嬢様と愛華殿の部屋に入ると、私は頭を下げて挨拶する。
「おはよう。刃照碑」
愛華殿が挨拶を返すと、お嬢様は食べている食事を置いて私の下へ飛びつくように抱きついてきた。あぁ~、何よりも食事を優先されるお嬢様でありますが、食事より私を取って下さいますか。この刃照碑、嬉しすぎて言葉にすることも出来ません。お嬢様と私は歳も近く、身長もお嬢様が少し小さいくらいなので、お嬢様にとって私はいい同世代の相手といったところなのであろうか?私は失礼で遺憾ながらも、嬉しさのあまりお嬢様を抱き抱えて一度回り、地面に立たせてから彼女の口元に付いたご飯粒を指先で拭った。
「お嬢様、今は食事中でございます。はしたないマネはご遠慮下さい。お食事を作って下さった高順様にも失礼でございますよ」
お嬢様の頬についた米粒を指ですくい口に収め、会釈をする。それに対しお嬢様も素直に同意し、食卓に戻り食事を再開する。
.........可愛い。素直すぎる。今だけは申し訳ありません一刀様。貴方様に避難を浴びせた私をお許しください。お嬢様の可愛さの前では皆無気力になってしまいます。それを考えれば、馬鹿共を生かしたことに何かしらの意味はあったことでしょう。
「ご馳走様。それじゃ刃照碑、後はお願いね」
「かしこまりました高順様。どうぞいってらっしゃいませ」
愛華殿は皿を流し台に置くと、私に後を託して仕事に向かった。愛華殿は常に私のことを警戒するような雰囲気を出している。無論他の者にはその高度な気配の消し方はわからないだろう。目も顔も笑っており、傍から見れば私という侍女に全幅の信頼をおいているようにも見えるが、それでも私の本能が告げている。私のことを完全に信用しておらず、何処かでボロを出さないかどうか。以前、私が主の命を狙っていたことが原因かもしれない。だが今の私は一刀様にその身を心身ともに捧げている。
一つ一つの行動で、信用してもらえるようになるしかない為、それまでは表立って真名を呼ぶことは控えている。
本日、お嬢様の下に参上したのは、御目付という名目だ。領主である一刀様の妹様である。その身に大事が起こっては問題であり、それに加えお嬢様を溺愛している主のことであるから、彼女の近くには必ず誰かがいるのだが、お嬢様は性格上あまり人を近づけたがらない為に、傍にいる人間は限られてくる。それであれば兄である主の保護下に置けばいいのではないかとも思うのだが、諸事情によりそれは叶わない。
現在お嬢様が心許している人物は兄である一刀様。愛華殿と最近ようやく打ち解け始めた郷里殿、それに加えお嬢様お気に入りである留梨に侯成と郝萌である。三人に関しては彼女からというより、お嬢様の買っている犬のセキトが、三人に警戒を抱かなかったから大丈夫という安直な決め方であり、郷里殿に関しては彼女の血の滲む努力により最近になってようやく真名を交換したらしい。普段はどのようなことがあろうとも苦悩の表情を浮かべない郷里殿であったが、あの時は珍しく私の所にまで相談に来ていた。「どのような食べ物が好きか?休日は何が好きか?セキトには何を与えればいいか?」など色々相談をされた。
最終的には主のとりなしもありお嬢様が気を許した感じだったが。
お嬢様が合掌すると、私はその皿を片づけるが、お嬢様は一つの手提げ網籠をじっと見つめる。網籠の中には私がお嬢様の為に作ってきたおやつが入っており、中から漏れてくる焼き菓子の匂いにお嬢様の手が自然と伸びていく。
「ダメですよ。これは今日の勉学を終えてからです」
私は籠を取り上げ、お嬢様の伸ばした手は空を切る。
「......歩闇暗」
「ダメですよ。そんな目をしてもあげません」
そう。甘やかしすぎるのはお嬢様の教育にもよろしくない。
「.........ファン、アン」
「ダメです」
お嬢様は捨てられた仔犬の様な目で訴えてくるが、そうはさせません。
「............ファn「ダメです」......」
「...............」
無言の訴えも私には通用しません。いずれお嬢様にも呂家を支えていくお方に育っていってもらわなければなりません。その為に私は鬼になります‼
「...............」
「...............」
.........一枚ぐらいなら.........ハッ?!いけません。そのように甘やかせれば、お嬢様の為によくありません。これは全てお嬢様の為。お嬢様の......。
「..................ウルッ」
「ッ‼‼‼‼‼」
やがて私はお嬢様の(視線による)波状攻撃に負けて、寝間着から着替えたらという条件付きで、一枚だけ食べていいことを約束する。その後、普段着に着替えたお嬢様は焼き菓子を一枚頬張り、私はお嬢様がまた摘まみ食いの衝動を起こす前にと思い、お菓子を別の場所に隠した。
私が恋お嬢様の側付きとして行うことは、何時も愛華殿が恋に対してやっていることと変わらない。身の回りの世話をし、近くで勉学を教える。全て朝に終わらせ、昼食以降は、勉学が遅れなければ後は恋の自由時間である。傍目から見ても、お嬢様はあらゆる才能に満ち溢れていると思う。
以前愛華殿と鍛錬に励んでいたことを記憶しているが、その際も土が水を吸うかのように教えを吸収し、文学においても呑み込みが早く、愛華殿も舌を巻いていたが、しかし如何せん文学における勉学は苦手とされている。そこで役に立つのはが、先程お嬢様がねだっていたあのお菓子である。議題を出し、一つ終えるたびに食べていいという条件をつけて行なう。だが、普通の菓子ではお嬢様の舌を満足させられない。この為に私自身も菓子職人の下で菓子作りを学び、蜂蜜を取り扱っている商人が来れば持ちうるだけ買い漁ったりもした。
やがて今日の課題が終わると、後はお嬢様の自由時間。その日はお嬢様のお腹が満足するまで、街を散策して食べ歩いた。無論愛華殿のツケという名目で。
日が傾きだした頃、愛華殿と城で合流し、その傍には最近郷里の下で軍師見習いとして働き始めた音々音こと陳宮を引き連れていた。彼女は音々音の仕事着である。領内も安定してきているため、主は子供達に対する教育にも力を入れており、彼女はその成果の第一人者と言っても過言ではないだろう。軍師補佐という大役を終えた後なのであろうか、軽く憔悴したかのように足元をふらつかせている。音々音はお嬢様の顔を見て気が緩んだのか、倒れそうになった音々音をお嬢様がそっと受け止め、その背中に少女をおぶさる。さしずめその姿は、妹をあやす姉の様にも見えた。実際お嬢様自身もそう思っているに違いないはないと思う。
「音々音、今日もお疲れ様」
「......おぉ、歩闇暗殿でありますか。今日も恋殿に大事は無かったでありますか?」
「ふふふ、大丈夫ですよ。お嬢様に大事はありません。貴女も郷里様のお仕事頑張ったみたいね」
「そうですぞ。音々は恋殿の軍師になるのです。そして、れんどのをぉ...おささえ…するので.........」
力なく手を挙げて宣言していた音々音であったが、徐々に声の力が抜けて、そして眠りについてしまっていた。私は、少女の頭を一撫ですると、一息ついて恋が自宅への帰路へ向かう。
実際にそうなって欲しい。お嬢様を支える駒は一人でも多いほうがいい。それにお嬢様に浸透してかつ優秀な人材が育てば、それに越したことはない。
「それでは高順様。私はこれにて」
一つお辞儀をし、お嬢様の護衛を愛華殿に引き継ぐと、私は帰路に着いた......後ろから刺される、愛華殿の視線を受けているが、おそらくは疑いの眼差しだろう。まだまだ信頼される日は遠くなりそうだ。
夜。私は呂北邸に戻ると、まず体を清め、布の手ぬぐいの様な触感で出来た体を包み込む外衣に身を包んで一刀様の部屋を訪れる。一刀様は何時もの窓枠から月明りが一望できる場所にて
「今回の余興、なかなかに面白かったぞ。やはりお前の見立ての通り、確かに河北の”草”であったわ。......おそらく、
やはりか。しかし今出てきたのは女性の名前ですか。
「お知り合いで?」
「袁家の筆頭軍師
そういうと一刀様は小さく頬を上げる、どうやら当時も圧勝だったようだが、何故そこで笑う必要があるのでしょう。一体田豊とは一体?調べている必要がありますね。
「一体目的は何だったんでしょうか?」
「それならば
「.........事実でしょうか?」
「何時もお前にやっているアレをやったんだ。
......アレですか。いくら
「そうですか。ちなみにどれだけアレに耐えれましたか?」
「情報の吐露までに7回。忠誠を誓わせるまでに15回。真名を預けさせるまでに20回といったところか」
そうですか。アレを20回も行なっていただいたのですね......。
「なるほど。ご主人様のアレは凄まじいですからね。それにしても草とあろうものが7回で情報を吐くとは、教育がなっていませんね」
「まぁ、それはこれからお前が”調教”してくれるのであろう。草の能力としては俺の近くにまで来られたのだから、その能力は高いものだ。『闇蜘蛛』の一員としてしっかりと鍛えてやれ」
「承知しました」
私は膝を伸ばし、背筋を伸ばしてお辞儀をすると、一刀様は「ところで...」っという言葉を続けながら私の股を探った。突然の行動に、私はそれを静止する前に弄られ、そのまま股に侵入を許して、触れて間も置かず絶頂を迎える。知らず知らずのうちに、私の体は劣情を抱えたようだ。
「おいおい。既に洪水。というより、もう
「ご、ご主人様の話を聞いているうちに、か、体の疼きが、抑えられなくなって......」
私は息を荒くして答える。
「全く。初めて俺を暗殺しに来た時に、俺の”
「あぁぁ、あ、あ。ご、ご主人様、そんなの無理でございます。朝までなんて耐えられるわけ――」
そういいながら、私はこれより行なわれる行為に妄想と言葉と相対する期待を膨らませて受け入れる。
そう、あの日の夜と同じように......。
Tweet |
|
|
4
|
0
|
追加するフォルダを選択
どうも皆さんこんにち"は"。
本当にたまたま創作意欲がわいていた為に作り上げてしまいました。
こんなことはそんなにありませんので、過度な期待だけはおやめください。
歩闇暗の話、考え出したら止まらなくてね。
続きを表示