No.98092

恋姫†無双 真・北郷√11

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・07修正。

2009-09-30 03:15:06 投稿 / 全27ページ    総閲覧数:63412   閲覧ユーザー数:38518

 読む前の注意!

 

 前回、資料で大反響? だった、皆様に大人気の華琳様。

 

 その性格も、やっぱり私設定です。はい、全く懲りずに!

 

 麗羽様と同様、生暖かく見守ってくださいね。

 

 多分、彼女の二つの人格のせめぎ合いは、こうだったんじゃないかな?

 

 と、私なりに考えました! もう、驚きませんよね?

 

 また、この作者は……と、ニヤニヤしていってね!

 

 それではどうぞ!

 

 

 最初に見えたのは、夜空に寂しく浮かぶ月……それは、少女の夢の中……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な月ね……」

 

 琥珀の月が映し出すのは静寂の闇に包まれていた二人。ひとりは男。もうひとりは……私?

 

 私に似た少女は男に顔を見せないように後ろを振り返らず、背を向けたまま話をしている。

 

 ――――。

 

 男の声は聞きとれない。見た事もない光景……なのに、胸が苦しい。男の気配が……、

 

 ――――。

 

 少しずつ消えていく……少女は必死に感情を押さえつける……別れの瞬間(とき)が近い事を確信して、

 

「……帰るの?」

 

「――――」

 

 声が震えないように淡々と話し続ける少女。私には分かる。少女もきっと……私と同じ、覇王だから。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 やっと彼の声が聞こえた。私が知らないはずの光景で、私の知っている優しい声が。

 

 そして、少女は空に浮かぶ月を見上げる……涙が零れそうだったから。少女は溢れ出す気持ちを押さえつける。これから逝く彼に、涙を見せる事は出来ないと。その想いに、私も胸が締め付けられる。

 

「けれど、私は後悔していないわ。私は私の欲しいものを求めて……歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じる事も、悔いる事もしない」

 

「……ああ、それでいい」

 

 歩むべき道。それは少女ではなく、覇王が選んだ道。少年が共に歩んでくれた道……。

 

「か__。あなたは? 後悔していない?」

 

「……前に華琳も言ってただろ? 役目を果たして死ねた人間は誇らしいって」

 

 それは少年が決意して選んだ……彼自身を滅ぼす道。

 

「ええ……」

 

「だから、華琳……君に会えて良かった」

 

 私も会えて良かった……少女になりかけた覇王は、己を律する。

 

「……当たり前でしょう。この私を誰だと思っているの?」

 

「曹孟徳。誇り高き、魏……いや、大陸の覇王」

 

 少女は彼が誇る王。彼という代償を払って手に入れた、誇り高き大陸の覇者なのだから。

 

「そうよ。それでいいわ」

 

「華琳。これからは俺の代わりに……もっと素晴らしい国を作ってくれ。……君ならそれが出来るだろ……?」

 

 手に入れたのは覇王が望んだ理想(ゆめ)……失うのは少女の最愛の人ただ一人。王として、犠牲は覚悟した筈。

 

「ええ……。あなたがその場にいない事を、死ぬほど悔しがるような国を作ってあげる」

 

「ははっ……そう聞くと、帰りたくなくなるな」

 

 その言葉に、覇王の心が少女へと揺れる。逝かないで、側にいて……。

 

「そう、そんなに言うなら……ずっと私の側にいなさい」

 

「そうしたいけど……もう無理……かな?」

 

 気配は更に薄れる……やっと言葉に出来たのに……。

 

「……どうして?」

 

「もう……俺の役目はこれでお終いだろうから」

 

 お終いなんて言うの……?

 

「……お終いにしなければ良いじゃない」

 

「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ……。その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない……」

 

 それは覇王も知っていた終端。それでも少女は、最愛の彼を失いたくなくて……。

 

「……ダメよ。そんなの認めないわ」

 

「認めたくないよ、俺も……」

 

 駄々をこねて優しい彼を困らせてしまう……もう……届かない。

 

「どうしても……逝くの?」

 

「ああ……もう終わりみたいだからね……」

 

 終わりが近い……少女の口元から笑みは消え、両眼に涙が滲む……。

 

「そう…………恨んでやるから」

 

「ははっ、それは怖いな……。けど、少し嬉しいって思える……」

 

 こんな時でも優しい彼の声……もう……取り戻せない。

 

「……逝かないで」

 

「ごめんよ……華琳」

 

 後ろを振り返るな! 私は覇王。こんな情け無い顔、彼には見せられない……。

 

「_ず_……」

 

「さよなら……誇り高き王……」

 

 彼の名が聞こえない。少女……私の口から出ているはずなのに。

 

「__と……」

 

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

 

 その言葉で覇王は少女に戻る。

 

「かず_……!」

 

「さよなら……愛していたよ、華琳――――」

 

 すぅっと、私の背後から気配が消える。その瞬間、そこには何も無かった様に……夜風が吹き、彼の姿を隠すように月が翳る。

 

「…………_ずと?」

 

 ――――――――――――――――――――――――。

 

 辺りを包むのは暗闇と静寂。大切な彼が……消えてしまった……。

 

「か_と……? 一刀………!」

 

 激しい喪失感が私を襲う。一刀……北郷一刀。私の記憶、少女の想い……重なる面影。

 

「…………ばか。……ばかぁ…………っ!」

 

 堪えていた少女の涙が流れ落ちる。

 

「……ホントに消えるなんて……なんで、私の側にいてくれないの……っ!?」

 

 ぽつりぽつり。雫となって、言えなかった素直な気持ちと共に……。

 

「ずっといるって……言ったじゃない……!」

 

 それは彼の優しい嘘。皆が迷わないように、私が後ろを振り返らないように。

 

「ばか……ぁ……!」

 

 そんな嘘、気付いていた。もっと自分に素直になれば良かった。彼に優しく抱き締めてもらえば良かった。彼の最後を見届けてあげれば良かった……。

 

 それでも少女は、彼の前では覇王である事を選んだ。後悔なんてしていないと。貴方の望み通り、後ろは振り返らないと。

 

 でも、今だけ、誰も見ていないから、いまだけは……。

 

ひっく、うわぁぁぁぁん、ぃっく、うあああぁぁぁぁんっ、っく、うあああぁぁん……。

 

 少女は泣き崩れる。大切な彼が逝ってしまった。彼女の側には、もう、彼はいない。どんなに泣き叫んでも、この想いは届くことはない。大好きだった一刀には……もう。優しく少女を包んでくれていた腕は、この世界の何処を探しても……無いのだから。

 

 そして私は、私では無い誇り高き覇王の悲しい夢の中から目覚めた……。

 

「私の居場所……ずっと、側にいて欲しかった……」

 

 その瞳に『少女の涙』を受け継いで……。

 

 

 

 光よ。どうか、彼女に届きますように……。

 

 

 

 

 

恋姫†無双 真・北郷√11

 

 

 

乱世の奸雄、治世の能臣

 

 

時間は少し戻り 汜水関前

 

/一刀視点

 

 曹操との決戦後、しばらくして愛紗率いる本隊が合流してきた。

 

「ご主人様! ご無事で何よりです! そして、曹操打倒。おめでとうございます。私は、ご主人様の勝利を信じていました」

 

「おや? ご主人様が心配だから早く行こうと行軍を早めたのは誰でしたか?」

「り、稟!」

「ふふ♪」

 

 愛紗が俺の横に駆け寄り、満面の笑みでお祝いの言葉をかけてくれれば、稟が人差し指で眼鏡を掛け直しながら、愛紗の言葉の一部を否定しつつ、ニヤリと笑顔で近づいてくる。

 

「愛紗、ありがとう。稟、ご苦労様。恋や麗羽達が頑張ってくれたお陰だよ。来てもらったばかりで悪いけど、曹操達を連れて一旦鄴に戻ろう」

 

「「御意!」」「……すやすや」

 

……

 

「凄い大軍ね。連合より多いんじゃないかしら?」

 

「そうだな。あの質、あの数。これは、孫呉の独立を早めなければならぬかも知れん」

 

 孫策が圧倒的な本隊の数に驚けば、周瑜が対抗する為にはあまり時間がないと返す。

 

「(……こんな力だけのやり方なんて、絶対、間違ってる)」

 

「桃香様……?」

 

 一方、曹操の性格を知らない劉備は、話し合いで解決できたのではないかと思い、北郷に対して怒りを感じていた……義姉妹である星の呼びかけも聞こえないほどに。

 

 

鄴城(ギョウジョウ)玉座の間

 

「御遣い様。この度は、本当に有難う御座いました。皆で無事に西涼へと帰る事が出来ます」

 

「北郷様。我が太守、董卓様をお救いくださり、誠に有難う御座います。御礼として……」

 

 董卓と賈駆が、先日の反董卓連合で助けた事についての謝儀に訪れる。

 

 董卓達は念の為、しばらく鄴に滞在していたが、現在、安全を確認出来、そろそろ西涼に戻るとの事で、なにかお礼がしたいと言うのだが、

 

「お礼は何も要らないよ」

 

「なんですって!?」

「詠ちゃんっ!」

「ごめん、月。つい……」

 

 俺は俺で利が有ったし、連合と戦ったのは董卓達だ。俺達は曹操達と避けられない決着を付けただけ。それでも受け取らない訳にはいかないのが、謝儀ってやつだけど。

 

「それではこちらの気が収まりません。とは言いつつも何を差し上げれば良いのか」

 

 董卓達は、今回の大遠征や、張遼、華雄等の戦闘で使った軍資金など、決して損害が無い訳じゃない。だから要らないと言ったんだけど……困ったな。

 

「じゃあ、もし、北郷を信じてくれるなら降って欲しい。俺達はいずれ大陸を統一する。その時に董卓達とは戦いたくないから。考えて欲しい……返事は今じゃなくて良いから」

 

「な、何言ってんのよ! そんな事、認められるわけないじゃない」

 

「へぅ、分かりました」

「ゆ、月!」

「違うよ、詠ちゃん。少し落ち着いて。返事は今じゃなくて良いって、そう仰ったでしょ? だから帰ってから考えようよ」

 

「……うん」

 

 考えます。と、答える董卓に、賈駆が言葉を挟むものの、結論は西涼に帰ってからという事で決着する。

 

……

 

董卓達が西涼に戻る日

 

「それでは、色々お世話になりました。あのお話、真剣に考えてみます」

 

「月! ボクは反対なんだからね! そりゃ、感謝はしてるけど……」

 

「関羽! 今度は負けへんで! また手合わせしてなー♪」

 

「噂どうりの武勇だった。関羽殿のような武人と会えて楽しかったぞ。また逢おう」

 

「うぅ……呂布殿。お別れが悲しいですぞ。今度は是非、西涼に遊びに来てくだされ! ぐす……」

 

 そして董卓達は帰路につく。月と詠があの時戻りたいと望んだ西涼へと……。二人が幸せでありますように。俺は心からそう祈り彼女達を見送った。

 

 

時は戻り 玉座の間

 

 北郷の武将と知将が勢揃いしているのは玉座の間。曹操が目を覚ました事で、元曹魏の武将が集められる。

 

 曹操、夏侯惇、夏侯淵、許緒と、前外史にはいなかった典韋だ。

 

「抜け目のない貴方の事だから、もう私の領地には手を回してるんでしょう?」

 

「ああ、既に全てを掌握している。あと、陳留で段珪を発見して始末した。勝手に上がりこんで悪い」

 

 初めに曹操から領地についての確認がされる。俺は正直に答える。

 

「いいえ、私は敗者ですもの。文句はないわ。あの狸も私が殺したかったくらいよ」

 

 素っ気ない振りをしているが、俺には分かった……。彼女は華琳だ。恋に吹き飛ばされた時、最後に呟いた言葉と、この微妙に甘えるような雰囲気。

 

「曹操。今回の決戦『は』邪魔が入らなかったな」

 

「ええ……最高の刻だったわ。貴方も素晴らしい英傑『になった』じゃない……北郷」

 

 互いに確認をする。どちらも隠す事は無い。お互い命をかけて戦い、その勝敗を決したのだから。華琳は負ける事も覚悟して戦う一流の英傑。勝敗に悔いはないと……。

 

「華琳……」

「貴様ぁっ!」

 

 いきなり曹操の真名を呼んだ俺に夏侯惇が切りかかろうとするが、武器などある筈もなく縄で縛られている為、怒声で威嚇してくるものの、

 

「春蘭いいの……」

 

「で、ですが華琳様」

「春蘭」

 

「……はい」

 

 華琳によって静かに制される。

 

「ん、話を続けて良いかな?」

 

「……ええ、いいわ」

 

 華琳と向かい合い話を始める。そして俺は俺の願いを切り出す。

 

「君の力を貸して欲しい」

 

「……あら、領地や兵士だけでなく、私も? あの時のように捕虜にするのかと思ったわ」

 

 俺の願いを皮肉で返す華琳だけど……。

 

「華琳」

 

「……(私の真名を呼ぶ……この優しい声、懐かしい響き)」

 

 俺は彼女を寂しさから救いたい。

 

 

「もう一度頼む。俺に力を貸して欲しい」

 

「でも、私は乱世の奸雄、曹孟徳。貴方の邪魔にしかならないわ。部下に奸雄がいては軍にも影響が出るでしょう?(私は貴方の側に居られれば……それで良いの)」

 

 俺は前外史でずっと華琳を捕虜として城に閉じ込めていた。外出等はさせていたものの監視は絶対で、かなり窮屈な思いをさせていたんじゃないだろうか。だから今回は……。

 

「許子将の言葉は君を奸雄と決めつけたのか?」

 

「……許子将の言葉?」

 

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華琳回想

 

/華琳視点

 

 許子将……陳留にいた、あの怪しい占い師。たしか彼は私を……。

 

「力の有る相じゃ。兵を従え、知を尊び……。お主が持つは、この国の器を満たし、繁らせ栄えさせる事の出来る強い相……。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ……国にそれだけの器があれば……じゃがの。お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。その野心、留まるを知らず……あふれた野心は、国を犯し、野を侵し……。いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、類い希なる奸雄となるであろう」

 

 と、そう言っていたわね。

 

 国の器を満たし、繁らせ栄えさせる……稀代の名臣。国にそれだけの器があれば……。

 

回想 了

 

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「この国の器……(北郷という国の器……)」

 

 華琳は考え込んでいる。俺の願いが今、華琳に届く。

 

「ああ、俺がこの大陸を統一して作る国……華琳が収まる器かどうか、確かめて欲しい」

 

「華琳さん、それが無理なら、貴女は城の中でお茶でも飲んでいると良いですわ」

 

 麗羽が華琳に、茶でも飲んでなさい(意訳 貴女は要らないから大人しくしていなさい)と、挑発すると、

 

「……麗羽にそこまで言われるなんてね。それに、北郷の器? ふふふ、面白いわ。私が麗羽に劣るなんて、そんな事は認められないわね。分かったわ、北郷一刀。私は貴方の臣となりましょう! 但し、大陸をひとつにしてから。と、いう条件で」

 

 ん? なんで条件があるんだ?

 

 

「それまでは麗羽の言う通り、貴方の側で美味しいお茶でも入れるとしましょう。よろしくね、ご主人様♪(もう我慢なんてしない……ずっと一緒なんだから♪)」

 

「なーーーーっ!?」

「な、なんですって!」

「えーーーーっ!」

「あわわっ!」

 

 可愛らしく笑う華琳の爆弾発言に、居並ぶ皆から驚きの声が上げる。夏侯惇達は主君の変わりように口が開いたままだ。夏侯淵だけはニヤニヤしているが……?

 

「ちょっとぉ! そこのクルクル女! なに言ってんのよ! 貴方が御主人様のお茶を入れるー? そんな羨ま、じゃない! 勝手な事、認めないわ! 断固反対! 絶対反対ーーっ!」

 

 目を血走らせた桂花が、機関銃のような早口で華琳の発言を却下しようとするが、

 

「あら、私以上に料理が得意で、お茶を入れるのが上手、王としての政の助言も出来て、ご主人様の護衛までこなせる。そんな側仕え、この北郷にいるのかしら?」

 

「くっ、料理の時点で(きーっ! この女は敵ね! 私より胸があるし(重要らしい)」

 

 ちなみに、指を折っていた雛里は護衛の時点でダメだったようだ。しんなりしている。

 

 他の皆も悔しそうに口をつぐむ中、勝ち誇るように華琳は宣言する。

 

「決まりね。私はご主人様専属の侍女、メイドだったかしら? として、お仕えします」

 

「華琳様!」

 

 結論が出たところで、今まで呆けていた夏侯惇が主君の名を叫ぶ。

 

「春蘭、私はもう貴女達の王ではないの。貴女達の身柄は北郷軍に委ねられたわ。これからは、ご主人様を自分達の王として守り、仕えなさい」

 

「……私は、華琳様以外に仕える気はありません」

 

「でも『大切な仲間』でいてくれるのでしょう? 友人として貴女達にお願いします。ご主人様は大切な私の居場所なの……皆、守ってくれる?」

 

 華琳は昔、部下達を物だと言っていた……。だから夏侯惇達に、これからは仲間として接すると告げる華琳の言葉は、きっと夏侯惇達には何より輝いて見え……四人はすぐさま膝を折り、

 

「「「「御意」」」」

 

 華琳の決定に、不服はない。と、そう答える。

 

 これが、完璧メイド白華琳、爆誕の瞬間である。

 

 

 それから夏侯惇達の縄を解くとそれぞれが臣下の礼を取り、全員に自己紹介をする。

 

「改めて、真名は華琳。ご主人様のメイドとしてお仕えします。覇王としてではなく、仲間、友人として接してくれると嬉しいわ。コホン、みんなよろしくね♪」

 

「春蘭だ、華琳様がお認めになられたご主人様に、真の忠誠を誓う。我が剣は、これより魏武の大剣から北郷の大剣となり、ご主人様の敵を必ずや粉砕してみせよう!」

 

「我が真名は秋蘭。華琳様の居場所を守り、ご主人様の大陸統一を叶える為、改めてこの弓をとり、邪魔する者は後悔すらさせず、この矢で射抜いてみせる」

 

「ボクは季衣と言います。北郷軍の皆さんは、とても優しくて、暖かいです。よろしくお願いしまーす!」

 

「私の真名は流琉です。一応……料理が得意です。あ、あと武将としても戦えます。えっと、とにかく頑張りますので、よろしくお願いします」

 

 その後、華琳に二人だけで話がしたいと言われ、近くの桃園へ向かう。丁度綺麗に桃色の花が咲いている頃だ。

 

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……

 

 これにより幽州を除く河北河南を統一することになる。河北から文官を送り込み、内政を充実させると共に、鉄道事業を河南一帯にも押し進めていく。

 

 ちなみに、反董卓連合の後、当然ながら諸侯達は朝廷から褒美等もらえず、これを不服とした諸侯達は、完全に力を失った朝廷を無視して、互いの領地を奪い合い始める。いわゆる群雄割拠の時代が始まった。

 

……

 

数日後 玉座の間

 

 華琳達も皆と打ち解けてきたようで、和やかに話し合い互いの親睦を深めていた。これならもう大丈夫。と、これからの事を全員で話し合っていると、

 

「公孫賛様と趙雲様がお見えになられました。面会をご希望です」

 

 侍女が静かに来客を告げる。

 

「通してくれ」

 

「御意」

 

 しばらくして、親しい二人が侍女に案内され、玉座の間に入ってくる。

 

 

「お久しぶりです、北郷様。曹操打倒。おめでとうございます」

 

「久しぶりだな、北郷。先に私の用件から伝えよう」

 

 どうやら二人は一緒に来たようだ。互いに目配せをして挨拶してくる。

 

「ありがとう、星。久しぶり、白蓮。二人とも、遊びに来たって訳じゃなさそうだね?」

 

「ああ、まず、幽州は北郷に降る事にした。先日、軍議で決まってさ。私も無駄な戦いはしたくないから賛成した。烏丸も麗羽には友好的だしな」

 

 白蓮が、黄巾の時に俺が誘った事に対しての返事をしてくれる。

 

「そうか」

 

「ああ、但し、私は桃香と蜀に行くことにしたんだ。あいつはなんか、ほっとけなくてな……北郷に誘われたのは本当に嬉しかった。でも、ここは優秀な奴が沢山いる。だから私は桃香を助けてやりたいんだ。悪いが白馬義従五千だけは連れて行かせてくれ」

 

 ……始まりの外史で無力な俺を助けてくれた、人が良い彼女。今度は劉備を助けてやりたいと言う。俺はそんな彼女がとても尊い人に思えた。

 

「分かった。幽州の民は俺に任せてくれ。白蓮も何かあったら俺を頼って欲しい」

 

「ああ、私は北郷を信じているさ、わがままを言ってすまん」

 

 俺はこんな良い人を救えなかったのか……。

 

「北郷様。先程、白蓮殿が言っていたように、我々は徐州から益州に向かいます。朱里の献策と桃香様の強い希望で、拠点を蜀に移す事になりました」

 

「強い希望?」

 

 劉備の希望だって? 彼女とは友好的な関係で、うまくいっていたと思っていたが?

 

「はい。我等は献帝と同じ劉家の血筋である桃香様がいた為、朝廷より唯一領地を賜ったのですが、平原から引っ越して間もなく袁術が攻めてきたのです……」

 

 

「美羽がねぇ……」

 

 蜀は暗愚な劉璋が民を苦しめていると聞いている。正史の流れ的にも、おかしくは無いが。

 

 美羽も本人は善悪の判断がついてないようだったし、七乃さんか? いや……まさか、周瑜か……?

 

「それで今回、北郷様の領地を通らせて頂きたく、お願いに参りました」

「いいよ」

 

「……は?」「北郷!?」

 

 驚いてる星って希少だなぁ。俺の即答振りに二人とも驚いてるようだけど。

 

「ついでに馬車と、それを引く馬。兵糧、武器も付けよう。矢が必要だろう?」

 

「「……北郷(様)」」

 

 二人は、俺の矢継ぎ早の提案に呆けているようだ。

 

「俺は二人を信じている。だからこれくらいはさせてくれ。白蓮には幽州を任せてもらったし、貸し借りなんて考えないでくれよ?」

 

「そうはいっても……私は北郷の誘いを蹴ったんだぞ? 幽州を任せたのだって、軍議で決まったからだし……」

 

 白蓮が申し訳なさそうにしているが、俺はこの尊い二人を助けたい。

 

「そうだな。じゃあ、代わりに蜀の民を救ってやってくれ。それが何よりの礼になる」

 

「わかった。任せてくれ、北郷」

「……感謝致します。北郷様」

 

 これで良い。劉備は話し合いを重視する仁の君主。理想は俺と同じはずだ。例えそのやり方が違うとしても、彼女の進む道。それは、無力だった俺も歩いてきた道なのだから……。

 

「斗詩、稟、あと、秋蘭。劉備達の道案内をしてやってくれ」

 

「「「御意」」」

 

「愛紗、雛里、春蘭、季衣、流琉。追って来る袁術達を追い返せるかな?」

 

「「勿論です!」」

「叩き切ってやります!」

「「はい!」」

 

 なんかひとり物騒なのがいるけど、愛紗がいるから平気だろう……多分。

 

「それじゃ、俺はこれから用があるから頼む。白蓮、星……元気で、またな」

 

「ああ、またな北郷」

「北郷様、またお会いしましょう」

 

 二人を見送った俺は造船所に向かう。呉に対抗する準備をする為に……。

 

 

劉備追撃中 袁術軍+孫呉軍

 

/周瑜視点

 

「この先は一刀兄様の領地じゃ! すぐ引き返すのじゃ!」

 

 くっ! 劉備を逃がすわけにはいかないと言うのに。

 

「袁術様、あなたが皇帝となる野望の為にも、北郷はいずれ戦う敵です」

 

「いやじゃ! お兄様と戦うのは、絶対いやじゃ!」

 

 いつもはうまく扱えるのに、なぜこうも嫌がるのか……。

 

「ですよねー♪ 北郷様達と戦って、勝てる訳がありませんよ。化け物だらけですしー」

 

「関羽とあの紅い童だけではないのか?」

 

 情報が少なすぎる……張勲は何か知っているのだろうか。

 

「麗羽様のお手紙ですと……」

 

「うむ! あの曹操めが完全に降り、侍女をしておるとか。あの馬鹿の夏なんとかも、張り切っておると書いてあったのじゃ」

 

 私的な手紙か。あの曹操が侍女? ……想像も出来んな。

 

「あははっ。あの曹操が侍女~? 絶対ありえないって! もー、袁術ちゃんたら♪」

 

 雪蓮も大笑いしているし、夏侯姉妹も、そう簡単に主を変えるような武将ではない。もしかしたら、情報操作かも知れぬな。

 

「むー! 何故笑うのじゃ! とにかく、妾はいやじゃ! 帰るぞ。孫策」

 

「はぁ……どうする、冥琳?」

 

 袁術め。うまく操れると思ったが……やはり、こいつは邪魔だな。計画を早めよう。

 

 私が孫呉独立の為の謀略を画策していると、

 

「報告します! 前方に、関、夏侯、許、典、鳳の旗が……待ち伏せです!」

 

「冥琳! まずいわよ!」

「関羽、夏侯惇じゃと!? 儂でもあの二人は無理じゃぞ」

 

「むぅ、関羽だけでも不味いのに、夏侯、許、典だと? 先程の話は本当なのか……」

 

 

 しかも、鳳統といったら反董卓連合の最後、曹操を短時間で破り、その見事な軍略を見せた天才軍師ではないか。やはりこのままでは不味い、計画を急がねば……。

 

「報告します! か、関羽隊と夏侯……

「(七乃! 逃げるのじゃ!)」「(はーい♪)」ビュンッ

……惇隊が物凄い勢いで突撃してきます!」

 

「くっ」

「あっちゃー」

「むぅ、これはちと不味いぞ」

 

 振り返ると、既に袁術は逃げた後だった……。

 

「退却する! 追いつかれると不味いぞ! 急げ!」

 

 このままでは、我々孫呉の兵だけが損害を受けてしまう。相手も悪過ぎる。

 

 腑抜けた君主など、やはり不要。

 

「冥琳……(最近、すごく疲れてるのに相談もしてくれないのね……一体どうしたら)」

「……(大陸制覇の為に袁術には……)」

 

「祭! とりあえず逃げるわよ!」 

 

「応!」

 

「冥琳!」

 

「……あ、ああ」

 

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……

 

 こうして、劉備達は蜀に無事辿り着いた。三国志の流れ通りに……微妙に形を変えて。

 

「……北郷様。蜀の民を必ずや救って見せます。貴方を悲しませない為に……」

 

 遥か東の空を見上げて、星は愛しい男に思いを馳せる。やがて遠くから諸葛亮が、

 

「星さーん! 桃香様がお待ちですよー。急いでくださーい!」

 

……

 

政務室

 

/一刀視点

 

 造船所で指示を出した後、愛紗に船上訓練の追加と、適正の高い兵士の選抜を指示する。その後、真桜の工房で造ってもらう為の絡繰の図面を書いていると……。

 

「ご主人様。お茶が入りました」

 

 スッと、音を立てない完璧な動作で、仕事の邪魔にならない位置にお茶が置かれる。

 

「ありがとう……華り」

 

 お礼を言いながら顔を上げると、そこには……。

 

「ご主人様、似合いますか? えへへ♪」

 

 メイド服姿の華琳がいた。

 

 

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 白華琳のメイド服姿……服は詠バージョン準拠。但し、ソックスはサイハイソックスの黒。絶対領域は確保の方向で……鎧は着ないので、髪留めはリボンのみです。結構色の違和感がありません。

 

 裏設定として、城で退屈していた前外史の華琳は、同じ様な境遇の月と詠が楽しそうに北郷一刀を世話しているの見て、内心羨ましかったけど、やっぱり言えなくて。今回転がり込んだ好機(覇王では無く、少女として生きていく事)に挑戦してみようと、記憶をたよりにメイド服を自作したと言うものです。

 

 なぜ、詠バージョンかと言うと、同じツンデレで、サイハイソックスが映えるからです!

(補足……サイハイソックスの長さ。通常華琳が履いている物くらいの長さ)

 

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「うん、とっても似合う。可愛いよ! ごく、んー、凄いな……滅茶苦茶美味いよ」

 

「ふふ、ありがとう。美味しいのは当然よ? だって愛がたっぷり入っているもの♪」

 

 甘える仕草にこっちが赤面してしまう。何かが吹っ切れた華琳は、とても魅力的な女の子だった。

 

「このお菓子も?」

 

「ええ、私も趣味で色々やっていたけど、ご主人様の為に今まで磨いた事が生かせるのって、なかなかいいかも♪ ふふっ、お味は如何ですか?」

 

 本当に楽しそうにくすくすと笑う華琳。俺は彼女を救えたのだろうか……。

 

「うん! とっても美味い! さすが華琳だ。良かったら、一緒にお茶にしない?」

 

「はい♪」

 

 こちらが戸惑うほどハイテンションだ。こんなに彼女が楽しそうなら、救えた。と、そう思っても良いのだろうか……。

 

 俺は嬉しそうな華琳と、楽しいお茶の時間を過ごした。

 

……

 

 その後、図面を書き終えた俺は真桜の工房へと向かう。呉と戦い俺が望むように勝つ為には、もう一手必要だ……。

 

 

 それから数ヶ月、俺達が曹操達の旧領地、河南一帯と、公孫賛から譲り受けた幽州を磐石にしている間に、劉璋を倒した劉備が益州の州都、成都で蜀を興し、袁術に反乱を起こした孫呉が長江流域で首都を建業として呉を興したと情報が入る。

 

 ここにきて、北郷、呉、蜀、涼州連合に大勢力は絞られ、力の無い諸侯達は近くのいずれかの勢力に属するようになる。

 

 現在勢力比は、北郷を10として、呉、蜀、涼州が、3・2・2位だ。河南一帯と幽州を手に入れた事により、赤壁時の魏に相当する領地を手に入れ、様々な施策で国力を底上げしてきた成果だ。

 

 天地人☆しすたぁずも、凪と沙和を引き連れて、忙しそうに各地で公演中だ。

 

 そんな時、美羽の安否を心配し、捜索と救出作戦の為、呉で情報収集させていた特殊細作『草のもの』から、信じられないような極秘情報が転がり込む。

 

 孫策が行方不明。呉に拘束され、処刑される寸前の美羽達を連れて逃げたらしい。更に、

 

 孫権が呉の王となり、周瑜がそれを全面的に補佐して、急速に勢力を伸ばしている。とも……。

 

……

 

 外史は走り続ける。より良い結果を目指そうと、慎重に歩む北郷一刀を嘲笑うように。寂しき少女を助けた事が、呉の運命の歯車を狂わせた。孫策と周瑜という、ふたつの歯車を……。

 

 つづく

 

 

おまけ

 

拠点 愛紗07春蘭01

 

鄴城 愛紗私室

 

『道程』

 

/愛紗視点

 

「愛紗、愛紗はいるか?」

 

「ああ、春蘭か。どうしたんだ?」

 

 春蘭と仲良くなってから、互いの部屋によく遊びに行くようになった。彼女は純粋で、とても気持ちのいい武人だ。実力も申し分ない。

 

 恋に負けた事を少し気にしているようだが……あれは人中、いや既に人外。いつかは一本とってはみたい気もするが……。

 

「ご主人様について、聞きたい事があるのだ!」

 

「うむ、他ならぬ春蘭の頼みだ。私が知っている事であれば答えるが?」

 

 春蘭の顔にぱぁーっと笑みが咲く。本当に裏表がないな……(貴女もです)

 

「それで、聞きたい事とは? ……んっ」

コト

「気を使わせてすまんな」

 

 部屋にある机の方に歩いて行き、座って待つ春蘭の前に熱いお茶を置く。私も自分の茶器に口を付ける。

 

「華琳様に、ご主人様がここではない、別の大陸を統一した事があると聞いてな」

 

 なるほど……私は始まりの外史の話を聞かせる。最初は何もなかった事、苦労をしながらも仲間を集めてひとつの国を作った事。話を進める度に春蘭は、次、次は? と、先をねだるように聞きたがる。

 

「むぅ。それでこの大陸でも……なんと素晴らしいのだ!」

 

「春蘭?」

 

「それは華琳様が目指された世界と同じではないか! それは、多少、違うものの……。細かい事はどうでも良い! ご主人様と華琳様の望まれた世界は同じ。ならばそれで良いのだ!」

 

 春蘭が笑顔で良い良いと繰り返す。同じ……か。大きい意味では同じなのかも知れないが。

 

「どうしたのだ、愛紗よ! 難しい顔をして……? 大陸をひとつにする! 同じではないか!」

 

「!? ふふ、そうだな! 同じだ。春蘭は良い事を言う。武人はそれで良いのだったな!」

 

「うむ! それで良い!」

 

 お互いに満面の笑み。本当に気持ちの良い友人だ。私はこの出会いに感謝したい。この愛すべき武人の見本、春蘭に出会えた事を……。

 

 

おまけ

 

拠点 恋07秋蘭01

 

鄴城 調練場

 

『触角仲間?』

 

/秋蘭視点

 

「……きんと、がんばった。とてもえらい」

 

 私は、あの姉者を瞬く間に倒したと言う武将を観察している。

 

 姉者は恋に会う度に慌てて……それはそれで可愛いのだが、私はひとつ気になっていた。

 

「……きょうも、しゅぎょうする」

「ブルル」

 

 馬と話しているようだが……一体何を?

 

「……よける」

 

 恋が細い枝を持って馬に攻撃するが……なんだと? 遠くからでもその速度が分かるが、それを全て紙一重でかわすあの馬は一体……。

 

 それにしても……恋の頭頂部に生えている触角? を観察する。なぜか和む。どこかで見た事があるような……喉まで出かかっているのだがな。思い出せん。

 

……

 

「……しゅうらん、ひま?」

「ブルッ」

 

「!? あ、ああ、どうした、恋?」

 

 考え込んでいたようだ……恋はまだしも、この馬の接近まで分からなかったとは。

 

「……しゅうらん、きんとをゆみで……」

 

 そう言いながら弓を引く仕草をする。触角が更に近くに……なぜこんなにも心惹かれるのか。

 

「……わかった。この弓と矢で、その馬を射れば良いのだな?」

 

「……(コク)」

 

 触角が揺れる! じーー……はっ。気をとり直して弓を構え、鏃をつぶした矢で遠慮無く狙うが……。

 

「くっ、当たらん? これでどうだ! まさか……これを避けるとは……」

 

 いつの間にか本気で射続けるものの、紅い馬には全く当たらない。

 

 む……良くみたら、この馬にも触角が!?

 

「……しゅうらんのゆみ、はやかった」

 

 恋がそう言いながらぺこりと頭を下げる。そしてあげた顔は、ぱぁーっと笑顔で。

 

 !? 姉者! ……姉者にも触覚がある! 姉者も恋も馬も赤い。そうだったのか!

 

「いや、私もまだまだ未熟だった。また、いつでも誘ってくれ……」

 

 コクンと頷いて、二本触角がある恋は、一本触角のある紅い馬キントと共に去っていく……。

 

 恋は二本。姉者とキントは一本。……そう言う事か。なにかに納得する。

 

 遠くで聞こえた気がした『赤いツノ付きは三倍』と。

 

 ならばしょうがない。私はようやくスッキリとした気分で夕焼けを眺めた……。

 

 そして、こう思った……私はなぜ青いのに触角が無いのかと……。

 

 

おまけ

 

拠点 麗羽05華琳01

 

鄴城 城下町

 

『悪友で幼馴染』

 

/麗羽視点

 

 今日も街を警邏中です。鄴に来たばかりで日も経っておらず、街並みも完全には把握できていませんが、お気に入りのお茶の専門店は見つける事が出来ました。南皮城の専門店が、ご主人様を追って鄴に移転して来たからです。

 

 あら? あれは華琳さんじゃありませんの?

 

 楽しそうにメイド服姿で買い物をしている華琳さんを見かけた私は声を掛けました。

 

「華琳さん? 何をお探しですの?」

 

「あ、麗羽じゃない。ええと……ご主人様の為に、お菓子の材料と、お揃いの箸と……」

 

 ……最初以外、ご主人様の為じゃなく、貴女の為なんじゃありませんの?

 

「……お揃いの茶器と、あと、茶葉かしらね」

 

「茶葉なら私が気に入っているお店がありますわ。そこになら茶器も少し」

 

 最後の二品は案内出来そうでしたので、誘ってみたのですが。

 

「ありがとう、麗羽。お願いしていいかしら?」

 

「素直な華琳さんの為ですもの。なんでもありませんわ」

 

 そう言って案内します。こんな風に一緒に過ごせるなんて……思ってもみませんでした。

 

 友と。戦友と。悪友と。戦っていくのが戦乱の世……。ご主人様がいらっしゃらなかったら、私達はこうして仲良くお買い物をする事も出来なかったでしょう。

 

茶葉専門店 試飲所

 

「やっぱり麗羽はお茶の味に関しては確かね。完璧に近いわ」

 

「一応、名家でしたもの……貴女の様に美味しく淹れる事はできませんわ」

 

 華琳さん。興奮して口調が戻ってますわよ。ふふ、二人でお茶を飲むなんて本当に久しぶり。お茶の味について話が出来るのも貴女くらいだけですもの。

 

「私で良かったら、暇な時にでも教えるけど?」

 

「ふふ、それも楽しそうですわね」

 

 貴女は、私に対等な態度を取った最初の人でした。物怖じせずきっぱりと言い放つ自信家。その自信に見合うだけの行動力。周りがヘコヘコと名家の私に頭を下げる中で、その存在が鼻についた。いえ、気になった事は確かです。

 

 色々な悪戯をして、やり返して、またやられて……それは、今では楽しい思い出。

 

「ねえ、麗羽。私の事を恨んでる?」

 

「ふふふ、何を言うかと思えば……私は恨んでなどいませんわよ」

 

 二人で思い出話に花を咲かせつつ、お茶を楽しむ優雅なひと時。こんな話は貴女としか出来ませんもの。

 

 

/華琳視点

 

 私は麗羽のお気に入りの茶葉専門店に案内されて、二人でお茶の試飲をしている。

 

「ねえ、麗羽。私の事を恨んでる?」

 

「ふふふ、何を言うかと思えば……私は恨んでなどいませんわよ」

 

 麗羽とは小さい頃、いろいろとやりあったり、競い合ったり、一緒に花嫁泥棒をするなんて洒落にならない悪戯までしたわね。全ては笑って許せるような他愛のない昔の話。でも……。

 

「……私が貴女の領地を奪った事よ」

 

「……ふふっ、流石、華琳さん。気付いていましたのね? ええ、勝敗は兵家の常でしょう? 恨んでなんていませんわ。貴女だってそうなのでしょう?」

 

 やっぱり記憶が……あの麗羽がここまで変わるなんておかしいと思ったわ。

 

「そうね……今回は負けたわ。……まさか!? 貴女、ご主人様を……」

 

「華琳さん。それ以上言うと怒りますわよ? この袁本初、ご主人様を利用しようとした事など、一度たりともありません。あの方には感謝してもし尽くせないのですから」

 

 少し安心する。この幼馴染は、こういう事で嘘を言う奴じゃないから。

 

「ならいいわ。でも、ご主人様を私から奪おうとするなら……」

 

「……落ち着きなさい。店の中ですわよ? それに、私も同じ気持ちと言っておきます」

 

 殺気立つ私を麗羽は涼しげに流す。だけど、その瞳は静かな怒りを湛えていて。

 

「……いつからなの?」

 

「ふふっ。いつからでしょう? いつの間にやら惹かれてしまう。そんな方でしょう?」

 

 やっぱり麗羽ね。私の威圧にも全く動じず、微笑みすら浮かべて話が出来るのだから。

 

 悪友と久しぶりに悪戯をするのも良いかも知れない。私はもう覇王じゃないのだから。

 

「そういえば麗羽? 猪々子に聞いたのだけれど、髪を真っ直ぐにしたいんですって?」

 

「な、な、なんでその事を! 猪々子~。全く、あの子は変なところばかり鋭くなって!」

 

 くくっ、一瞬で顔を真っ赤にして慌ててる。これは面白くなってきたわ!

 

「私が真っ直ぐにしてあげましょうか? 但し、条件があるのだけれど……?」

 

「か、華琳さんが? 条件ですって? ……その笑顔、怖いですわね……」

 

 そう怯えながらもチラチラと私の顔を窺う麗羽を見て、かかったわ! と、確信し、そのまま耳に口を寄せる。

 

「耳を貸して」

「……いいですわ」

 

 そして、私の計画を話すと……。

 

「……で……しょう」

「!?」

 

 聞き終えた麗羽が更に顔を赤くし、辺りを見回して誰もいない事を確認する。本当に分かりやすい幼馴染ね。クスクス。

 

「どう?」

 

「な、なかなか面白いですわね! その話乗りますわ!」

 

 良い返事がもらえたので、私達は麗羽の部屋の鏡台の前に。

 

 

鄴城 麗羽私室

 

「……なるほど。いっぺんにやるから悪いのよ。貴女のはくせっ毛じゃなくて、その髪型に毎日整えてるんでしょう?」

 

「中途半端にクルクルのままなんて、そんなみっともない姿でいられませんわ」

 

 まあ、そうでしょうけど……。

 

「斗詩は?」

「言える訳がありません!」

 

「他は……たしかにいないわね」

 

 納得した私は麗羽の髪に熱湯で浸した布を当てながら、根気良く巻き巻きの髪を真っ直ぐ伸ばしていく……。

 

「華琳さんに髪を整えてもらえるなんて、思ってもみませんでしたわ」

 

「ふふ、女の子同士じゃない。私は楽しいわ♪」

 

 嬉しそうに微笑む鏡の中の麗羽と眼を合わせて笑顔で返事をする。

 

「あとは香油を塗って、これで良いのかしら?」

 

 真っ直ぐになった麗羽の髪は、前のクルクルは胸の下辺り、後ろは踵(かかと)くらいまであって、

 

「……ご主人様に気に入って頂けるかしら(サラサラ)」

 

 髪を掻き上げると、とても綺麗に煌きながらサラサラと流れて落ちていく。

 

「ええ♪ 似合ってるわよ。長くて綺麗な髪ね。でも、ここまで長いなんて……」

 

 改めて踵まである金色の髪先を眺める。ここまで見事だと達成感があるわね。

 

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 真麗羽様……クルクルの髪は真っ直ぐ伸ばすと、かなり長いと推測します。前髪は胸の下。後ろ髪はクルクル状態で腰までありますので、二倍と仮定しても踵まで……凄く長いです。

 

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「さて、約束は守ってもらうわよ♪」

 

「ええ、どちらがご主人様を想っているか、勝負ですわ!」

 

……

 

一刀私室前

 

コンコン

「ご主人様」「……(どきどき)」

 

 ご主人様の部屋の扉をのっくして、緊張した麗羽と中からの返事を待ち、

 

「華琳? どうぞ」

 

 扉を開けて、ご主人様に髪形を変えた麗羽のお披露目をする。

 

 

「……ご主人様、あの、すとれいとにした私の髪、いかがでしょうか?」

 

「……麗羽。とっても綺麗だよ」

「ご主人様っ!」ギュ

「華琳!? な、なにを」

「華琳さん! ずるいですわ!」バッ

「!? れ、麗羽まで!」ドサッ

 

 ご主人様が驚いている隙に麗羽と二人で飛びついて、ご主人様を寝台に押し倒す。

 

 二人の悪巧み。それは……ふたりで一緒に『女』になりましょう!

 

 そして、二人の新たな戦いが始まる『一刀の閨』で……。

 

……

 

/麗羽視点

 

 私は不意に目が覚めました。たしか私が先にご主人様と体を重ねて……。気を失っていたようですわね。ぼーっと幸せの余韻に浸っていると、

 

「ぁふ……ぁ、うぅ…っ! んはぅっ! ぃやぁ……はぁ」

 

「ほら、素直に良いって言って……」

 

 なにやら華琳さんは、苦しそうで、嬉しそうな、そんな声を上げていますわね。あら……う、動けませんわ。

 

 華琳さんも初めてのようですから、私と同じ様に痛いのでしょうか……? 嬉しいという気持ちも分かりますし。

 

 私は動くのを諦めて、そのままご主人様の隣で眠りにつきます。幸せな気持ちで……。

 

……

 

 麗羽が眠りこけている間、被虐的な華琳は加虐的な一刀に可愛がられていた……。(これ以上は書けません)

 

 

おまけ

 

拠点 猪々子03斗詩03季衣01流琉01

 

鄴城 厨房

 

『似たもの同士の二乗』

 

/斗詩視点

 

「流琉ちゃん、そこのお塩とってくれる?」

 

「はい! 斗詩さん」

 

 新しく仲間になった流琉ちゃんが料理が得意だと言うので、一緒にお昼ご飯を作っているのですが……。

 

「いっちー。流琉の料理、美味しいでしょー?」

 

「美味いっ! きょっちーも、斗詩の料理食ってみろよ」

 

「美味しいー!」

 

 作るそばから食べてしまう人達がいるんです……。

 

「文ちゃん!」「季衣!」

 

 流琉ちゃんと声が重なりました。

 

「流琉ちゃんと二人で作っても……」

「食べる方も倍では……」

 

 二人揃って、はぁと溜息。

 

グルグル ギュギュー

「でも、流琉ちゃんの料理すごいね! お店出しても良いくらいだよ」

 

グルグルグルギュッギュ

「斗詩さんのお料理も、大会で優勝出来そうなくらいですよ」

 

 それから二人でお互いの親友を縄で縛って大人しくさせる。

 

「ほひー! ほう、ふはひふいひないははー」

(斗詩ー! もう、つまみ食いしないからー)

 

「ふふー、ほふははふはっはほー」

(流琉ー、ボクがわるかったよー)

 

「文ちゃん、何言ってるかわかんないよぉ♪」

「季衣、出来るまで大人しくしてて♪」

 

 それでも私達は二人のために料理を作る。美味しく食べてくれる親友が大好きだから。

 

「聞いてくださいよ、斗詩さん。季衣ったらいつもお腹すいたよー、ばっかりで」

 

「あははっ、文ちゃんもそうだよ。斗詩ーって、すぐ私に泣きつくんだから」

 

 流琉ちゃんと料理を作りながら、楽しくおしゃべり。後ろがフゴフゴうるさいけど……。

 

 もう少し待っててね、文ちゃん。美味しいもの、一杯作って上げるから。

 

……

 

「ひょっひー。ほひはふほふはっへひはんは……」

(きょっちー、斗詩がくろくなってきたんだ……)

 

「ふふほはほー、ひっひー」

(流琉もだよー、いっちー)

 

 斗詩と流琉の気持ちを知らない猪々子と季衣は、二人に笑顔で料理される……じゃない、二人が笑顔で料理するのを、震えながら待っていた……。

 

 あれ? どっちでもあまり変わんない?

 

 

おまけ

 

拠点 桂花05雛里02風02稟02

 

時はかなり戻り反董卓連合中 曹操との決戦出撃前 鄴城 桂花私室(新戦略司令室)

 

『雛羽扇の謎』

 

/桂花視点

 

 私は雛里の羽扇子を作るために自室で白木を削っている。心を込めて……。

 

「御主人様と雛里が負けるはずはないけど、雛里はあがり症だから……」

 

 雛里は軍略の天才だけど、優しすぎる。焦ってしまうと失敗もする。人間だもの、それはしょうがない。でも、それでもしも失敗してしまったら……。

 

「御主人様が負けるのも、雛里が泣くのも、私が絶対許さないんだから!」

 

 お守り……軍師である私がこんな事をするなんて、可笑しいかしら?

 

「いえいえー、桂花ちゃんはおかしくなんてありません。とっても良い子なのです」

 

「!? ふ、風! ど、どうやって入ったの? 扉が開いた覚えはないし……ていうか、人の心を読むなーっ!」

 

 いきなり私の背後に現れた風に驚く。なんて読めない奴なのかしら!

 

「おお! これはこれは。風はあそこからクロちゃんに連れてきてもらったのですー」

 

「クロ様? そういえば、あんたも猫達と話せるんだったわね」

 

「クロちゃんだけなのです」

 

 充分よ! と、そう言って風が指差す先を見ると。天井のちび連者用出入り口だった。

 

「どんだけ猫なのよ!」

 

「……ぐぅ」

「寝るな!」

「おぉ! 猫の様に眠ってしまいました」

 

「それで、何の用なのよ? 別にあんたも北郷軍の軍師なんだから、扉から堂々と入ってくれば良いのに」

 

 変わってるけど優秀な軍師なのは間違いない。この私でさえ……読めないのだから。

 

「桂花ちゃんが苦労しているようなので、風達もお手伝いしようかとー」

 

「知ってたの?」

 

「おいおい、水臭いなぁ。雛里のことは風達も心配しているんだぜ」

 

 風の頭の上の人形、棒付きアメを持った宝譿が返事をする。

 

「……そうね。お願いしようかしら。正直間に合いそうもないし、大勢の方が願いも叶いそうだもの」

 

「はいはーい♪ では、風達の仕事部屋に行きましょう」

 

 風に連れられて、大きな部屋の前に着く。

 

 

鄴城内 歌姫計画委員会本部

 

「初めて入るわね……お邪魔するわ」

 

「桂花殿ですか。どうぞ」「どうぞー♪ 桂花ちゃん」

 

 扉の中と外から、二人が私の入室を承諾する。

 

ガチャリ

 

 扉を開けて中に入ると、

 

「な! なにこれ……」

 

 広い部屋の中には、いろいろなものが所狭しと置かれている。決して乱雑ではなく整然と。

 

「天地人☆しすたぁずの舞台衣装、舞台装置、仮面雷弾の敵役の衣装……その他、諸々です」

 

 稟が答えてくれるけど……これもなの? 青っぽい鳥の衣装? を観察する。

 

「桂花ちゃん、お目が高いですねー。それは『きぐるみ』と言って、稟ちゃんの舞台衣装なのです。ご主人様の知識を基に作られた、幸せの象徴なのです」

 

「蒼い(あおい)鳥と言う、幸せを呼ぶ伝説の鳥とのことです。最近これを着て歌うのが大好きでして」

 

 ……稟、貴女、妄想癖が別次元に飛び立ってるわよ。違う意味で。でも幸せの象徴ねぇ……。

 

 私はきぐるみに付いている羽を見る。雛里の髪の色のような淡い蒼色……。

 

「稟。この羽もらえないかしら?」

「どうぞ」

 

 はや! 驚いている間に、良さそうな羽を躊躇なく抜いていく稟。

 

「あんたのお気に入りじゃなかったの?」

 

「雛里は私をも超える軍略の天才です。まあ、いずれは超えて見せますが。……その彼女の唯一の弱点である、弱気な性格から来る焦り。言い方を変えれば優し過ぎる。それを克服させる為ならなんでもします。私が追いつくまで負けてもらっては困りますから」

 

 稟も風も分かっていたのね。なかなか良い奴等じゃない。

 

「風もクロちゃんに頼んで、この鈴を用意したのです。なんでも鳴らせばたちまち猫が集まってくるという、未来の世界の頭がテカテカで冴えてピカピカな青い狸っぽい絡繰猫の鈴だとか……いまは壊れているそうですが」

 

「役に立たないじゃないの!」

 

 全く……それは色々と危険だわ。いつも必ず失敗してしまう気がする。なんとなくだけど。

 

「おお! 仕方がありません……ご主人様の意匠で麗羽様の金の鎧から削って作った。クロちゃんのおまじないをかけてある鈴にしておくのです」

 

 

「そっちの方が、すっごくご利益がありそうじゃない! 早く出しなさいよ!」

 

 とは言いつつも、そこまで苦労して作ってくれたのね。

 

「軍師用の羽扇子と聞いていたのですが、白木ですか? 雛里に似合いそうですね。ふむ、あひるでしょうか? なかなか可愛く出来ています」

 

 ……鳳雛にちなんで、鳳凰(ほうおう)のつもりだったんだけど……言い出せないわ。

 

「稟ちゃん、違いますよー。どうみても雛(ひよこ)です。雛里ちゃんの雛(ひな)から取ったんですよ。ねー? 桂花ちゃん」

 

 ……惜しいけど違うわ、風。

 

「とりあえず、組み立ててみましょう」

 

 そう言って手先の器用な稟が組み立てていく。流石にきぐるみを自作しただけの事はあるわね。

 

「完成です」

「……ぐぅ」

 

 稟が短くそう言うと。ごく短時間で仕上がった羽扇子。二人がいなかったら、こんなに上手くはいかなかったわね。

 

「風、稟、ありがとう。この借りは必ず返すわ」

 

「桂花殿。先程も言ったように、これは私達の意志です。お礼などいりませんよ」

 

「……素直にお礼を言う桂花ちゃんに驚いて、起きちゃいましたー。風も稟ちゃんと同じなのです」

 

 私達は仲間なのね……これなら、どんな敵でも怖くないわ。こんなに頼もしい仲間がいるんですもの!

 

「それでは授与式と参りましょう」

「雛里ちゃん、出て来てもいいのですー」

 

「え?」

 

 稟と風が、笑顔でそう告げると、

 

ガタン

「ぐすっ、うえーん! じじょーーっ」

 

 蜜柑と書いてある箱の中から雛里が出て来て、泣きながら私に抱き付いてくる。まんまと風達にはめられたって訳ね、まあ、悔しくないけど……。

 

 さて、決断しなければ……真実を伝える決断を!

 

「雛里、これは私が鳳お」

「とってもかわいいひよこの羽扇子です!」

「え、えっと」

「師匠、私、これを師匠、風さん、稟さんの三人だと思って、大切にします」

「そう! ひよこよ! ひよこの羽扇子な……の」

 

 もう本当の事は言い出せそうもないわ……。

 

 

 結局、その羽扇子は『雛羽扇(ひよこうせん)と名付けられた。そのうち光線が出そうだ……。

 

 

おまけ

 

拠点 三羽烏02

 

鄴城の離れ 李典絡繰工房の前

 

/語り視点

 

『蒸気機関起動』

 

「んー、やっと鄴にこれたのー。凪ちゃん、沙和達最近忙しすぎるよねー?」

 

「我々の仕事は、ご主人様に任された大切な仕事だ、忙しい事は良い事だ。それに、ちゃんと休みだってをくださるじゃないか」

 

 いつも仲良し三人組も、最近はなかなか会えない日が続く。沙和がそんな気持ちを洩らすが、凪は仕事への不満だと勘違いしてしまい、

 

「むー! 凪ちゃんは、頭がカッチンカッチンなのー。沙和は不満じゃなくて、鄴になかなか来れないって言っただけなのにー! はやく真桜ちゃんと会いたいよー!」

 

「む、悪かった。私も真桜に会えなかったから、少し余裕が無かったかもしれない」

 

 沙和を怒らせてしまうが……自分の非を素直に認める。それが凪の美点。

 

「沙和のほうこそ、凪ちゃんが寂しいのが分からなかったのー。ごめんね、凪ちゃん」

 

「うん。はやく真桜に会うに行こう。っと、そこの建物だ」

 

 二人は城の離れに立てられた、見上げるような大きさの簡素な建物を目指す。

 

「わー! すっごく大きい扉なのー♪ どうやって入るんだろー? 分かる? 凪ちゃん」

 

「むぅ?『のっく』をしてみよう」

 

 名案なのー! と、喜ぶ沙和と一緒に両手でがんがんと扉を叩く凪だが……。

 

「ぜぇぜぇ……誰も出てこないよー! 責任者、出てこーいなの!」

 

「誰もいないんだろうか?」

 

 二人がそう思った瞬間。

 

ガコンッ ウィーン……ガガ

 

 扉がひとりでに上に持ち上がって行く。

 

 

ガガガガガガガガガ……

「わわわ、どうなってるのー?」「す、すごい」

 

「あっれー? 誰か思たら、凪と沙和やん。入り口はこの裏やって」

 

 揃って驚いていると、やがて中から二人の親友が顔を出す。

 

「真桜ちゃん、扉が勝手に上がっていくの!」

「これなら開けた後、邪魔にならないな……」

 

 沙和は驚き、凪は感心している。

 

「あー、これな。天の世界で『しゃったぁ』って言うねんて、工房で作ったデカブツを出すときに便利でなぁ。今から、ちょいと走行実験しよ思てな。あれやわ」

 

「「実験?」」

 

 真桜が指し示す場所、建物の一番奥に大きな鉄の馬車の様なものが見える。その馬車の下には鉄の棒が二本。更にその下に木の板が綺麗に敷き詰めるように並べられ、一番下には砂利が敷いてある。

 

 それがずっと向こう、城の外まで続いている。

 

「蒸気機関車ちゅう天の世界の乗り物や。良い所に来たわー、二人ちょい乗ってみん?」

 

「やーなの!」

「真桜のその笑顔は信用できない」

 

 ニヤニヤ笑いながら試乗を勧める真桜に、あっさり断る付き合いの長い二人。

 

「なんや、度胸ないなー。しゃーない、ウチが一人で試乗しよ。残念やねー、大陸初やのに」

 

ピクピク

「「(初?)」」

 

 二人の耳が微かに動く。

 

「だーれも味わったことのない、は・じ・め・ての体験やったのに。ほな……ウチひとりで」

「待ってなの!」

「真桜、私が悪かった」

 

「お二人さん、ご案内~♪!」

 

 真桜の罠にはまる二人の運命や如何に! ……いや、三人かも知れない……。

 

シューーーシュシュシュ ゴゴゴゴゴゴ……

「な、なんかすっごい音がするのー(がくがく)」

「……煙が凄いな(どきどき)」

 

「では出発進行や!」

 

ピーーーーーーーーッ

「ひゃぁ!?」「うわ!?」

 

「にしし。気笛の音にも、こだわったでぇ!」

 

ピーーッ ピーーーッ シューーシュシュシュシュ

ガッコン……ガッコン……ガッコンガコンガコンガコン……

 

 試作機関車が走り出す。三人を乗せて……。

 

シュシュシュシュシュ……

ガタンゴトン ガタンゴトン

「わー! すっごい、速いのー♪」

「な、なんと! 馬もいないのに」

 

「凄いやろー?」

 

 ぶんぶんと二人は何度も頷く。三人とも顔が真っ黒だが……

 

「もすこし煙突を高くせなあかんか。ゴホゴホッ」

「馬みたいに揺れないから快適なのー♪」

「……」

 

 真桜が改良点を洗い出し、沙和が楽しそうに感想を口にするが、凪は何かを考え込む。

 

「凪ぃ? どしたん?」

「凪ちゃん、どうしたのー♪」

 

 二人の問いに……凪は真剣な顔で、

 

「なあ、真桜。これって、どうやったら止まるんだ?」

 

「あ」

「えー! ちょ、真桜ちゃん、真桜ちゃーん! その答えは怖すぎるの!(がくがく)」

 

 彼女達の明日はどっちだ……とにかく蒸気機関起動は成功した。起動だけは……。

 

「助けてなのー!」

「真桜! なんとか言え!」

 

「なんとか……」ゴン「がくっ」

 

 二人の助けを求める声に、ボケで返してしまう悲しい性の真桜。だが、凪に本気で突っ込まれ気を失ってしまう。

 

 燃料の薪が切れれば止まるのにね……。

 

 

おまけ

 

拠点 天地人02

 

北郷領地内、巡業中の町 歌姫仮設舞台

 

『小さな歌姫?』

 

/語り視点

 

「お疲れー♪」

「お疲れ様。姉さん達」

「今日も皆に夢を与えられたかしら♪」

 

 天地人☆姉妹の三人が公演を終えて、いつもの如く一報亭のシュウマイを食べに行こうと街を歩いていると……。

 

~いらない♪ ~~妾の伝説♪

 

 二胡(にこ)の調べと共に、透き通った歌声が聞こえてくる。

 

「わー、可愛い声♪」

「本当ね、演奏も見事だわ」

「うん、ちぃ達には少し負けるけど!」

 

 音がする方へと歩いていくと、小さな女の子が歌い、その横で女性が二胡を弾いていた。

 

「ねーねー、あれって麗羽様じゃないー?」

「姉さん……どんな目をしているの?」

「あー! 御遣い様が探してる、袁術様じゃないの? ちぃ、御遣い様に聞いたもの!」

 

 いつのまに……と、天和と人和がジト目で睨む中、地和が話を進める。

 

「ほ、ほら。袁術様を見つけたって言えば、御遣い様にいっぱい褒めてもらえるわ!」

 

「ちぃちゃん、かしこーい♪」

「全く……ちぃ姉さんたら。でも、報告はした方が良いわね」

 

 地和のごまかしに天然の天和は飛びつき。人和は呆れながらもちゃっかり話に乗る。

 

「何言ってんの! ちぃ達が見つけたんだから、すぐに保護すべきよ! 戻れば凪達もいるし」

 

「そうだねー♪ そうしよー!」

「私は凪さんと沙和さんを呼んでくる」

 

 そして、天和と地和は二人に近づいていくが……。

 

「(姉さん、びっくりして逃げるかも知れないから……そぉっとよ)」

 

「うん!」

 

 地和の注意を聞き、天然な姉は大きな声で返事をしてしまう。地和はすぐにその口を塞ぐが、

 

「(馬鹿! 声が大きい)」

「むぐぐ~、ひぃはん~くぅひぃほぉ~」

 

「ちょっと、そこのふたり。それ以上近づいちゃ……ダメよ?」

 

 袁術達まで、あと少し。と、二人近づいたところで、木の上から女性の鋭い声がするが……。

 

「あら、貴女達は……ふふっ、私の勘は正しかったみたいね♪」

 

「え! もしかして貴女は!?」

「? ……ちぃちゃん、知ってるひとー?」

 

 天の御遣いは思わぬところで鍵を手に入れる。『彼女達』を助け出す鍵を……。

 


 
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