No.973711

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第14話

小次郎さん

勝者の居ない戦が終わりを告げる。

2018-11-14 15:13:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9184   閲覧ユーザー数:6725

 

(成都)

私が幽閉されてから三ヶ月は経ったが、外の世界ではどうなっているんだろう?

魏との戦が決定してからも私は桃香に止めた方がいいと言い続けて、遂には捕縛され牢屋では無かったけど城の一室に閉じ込められて他者との交流も禁じられた。

見張りに面会を頼んでも駄目だし、桃香や愛紗たちも顔を出してはくれなかった。

情けない話だけど私の軍才は乏しいから戦況なんて予想がつかない。

ひょっとしたら勝利し続けていて国中お祭り騒ぎかもしれない、・・・でも。

・・桃香、駄目だ、こんな戦は駄目だ。

これは平和の為の戦じゃない!

お前だって本意じゃない筈だろ?あんな利だけを求める奴等の言う事なんか聞かなくていいんだ。

そりゃ色々言われるだろうし、下手をすれば反乱を起こされるかもしれないけど、それでもお前を信じて付いていこうとする奴だって沢山いるんだ。

お前の信じてる道を歩んだらいいんだ!

桃香!

・。

・・でも今の私には、返事を返してくれない扉に気持ちをぶつける事しか出来ない。

無力だった、友達があんな顔をしているのに何も出来ない、本当に情けなかった。

・・足音が聞こえてきた、食事の時間か。

唯一の外への接触機会、今迄もお願いしてるが何とか桃香への面会を頼もう。

扉が開いて、私は驚きのあまり硬直する。

現れたのが、当人である桃香だったから。

「・・と、桃香?」

「白蓮ちゃん、食事を持ってきたよ。・・ごめんね、閉じ込めるような事をして・・」

「い・いや、それはいいんだが、いや良くはないけど、・・どうしたんだ?それに戦はどうなってるんだ?」

「・・・・・」

「桃香?」

前に見せていた感情が抜け落ちた表情では無くて、でも以前の明るい日輪みたいな笑顔でもなくて、何て言ったらいいのか、・・・そう、子を見守り受け入れる母のような、温かな優しい笑顔だった。

・・・そして私は今、魏王曹操に相対している。

城で働いていた者達と、血が付いた剣、桃香の帯剣である靖王伝家を持って。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第14話

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!」

な、何ですか!?

「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

この声、詠さん?

桃香様や兵と一緒に悲鳴が聞こえる詠さんと月さんの私室に向かうと、・・物言えない姿に為られていた月さんと、縋り付き慟哭を発している詠さんの姿がありました。

そして詠さんが落ちていた短剣を掴み御自身の喉に突き刺すのを、私はただ見ている事しか出来なかったのです。

・・もう何が起こっても、私には驚く気力が無いと思っていました。

雛里ちゃんが死んだと詠さんから聞いても、私は感情を乱す事もなく受け入れていました。

むしろ雛里ちゃんを殺した孟達将軍の行動が何を表しているのかと思考が移り、急ぎ成都城の籠城準備を整えるように指示を出していましたから。

・・ですが目前にある光景が麻痺していた私の心を現実へと呼び戻しました。

行方知らずの蒲公英さんを除いて、・・雛里ちゃん、愛紗さん、鈴々ちゃん、星さん、翠さん、紫苑さん、恋さん、ねねさん、桔梗さん、焔耶さん。

・・本当に、本当に死んでしまったんですね。

目から涙が溢れて、私は床に手をつきます。

声に成らない声を上げて、私を抱き締めてくれた桃香様に赤子の様に縋り付いていました。

・・ですが涙が乾く間もなく次の報が届き、月さんと詠さんを残し城壁に向かう事となるのです。

成都に押し寄せてきました軍勢は城を包囲し、問答無用で攻撃を掛けてきました。

現在成都を包囲しています軍は魏軍ではなく、蜀国の重臣でした劉巴さんの軍で、開戦派筆頭と言える方でした。

益州に於いて名家中の名家で、元々桃香様や私達を見下していましたから何も不思議ではありません。

それなりに優秀な方ですが保身の塊の様な方でもありますので、魏軍が到着するまでの演技に過ぎず怖くはありません。

「朱里ちゃん、状況はどう?」

「四方の門の全てを攻撃されていますが、予想通り魏国への心象を良くする為の見せかけの攻勢です」

「そう、それなら皆に無理はしないように伝えてくれる」

「はい、怪我を負いましたら即下がって治療するように周知徹底しておきます」

伝令を出し、攻めてきました軍に目を向けます。

・・そして二日後、遂に魏軍の姿が見えました。

遠見からの報告で総数約三十万、曹操さんや主力将軍の旗も確認されたとの事。

劉巴さんは魏軍を迎え入れようと軍を整列させているようですが・・・。

 

 

 

「ふっざけんじゃないわよ!全部わかってんだから!」

「・・あんな、あんな人達の為に」

「・・ごめんね、一刀。知ったら絶対に悲しむよね。・・でも、どうしても許せないんだよ!」

 

 

 

・・この結果は、見えていました。

恐慌状態に陥っています劉巴軍、降る事が認められない慈悲無き戦場、魏軍の蹂躙劇が終わるのは動く物が居なくなった時でしょう。

今迄成都城を攻めていた劉巴軍の兵達が私達に助けを求めています。

ですが、門は開けられません。

門を開ければ成都に住む人達全てが殺戮の対象と化してしまいます、それだけは絶対に避けなければいけないのです。

眼下の光景を正視出来ず数多の兵士さんが嗚咽を上げています。

私も目を逸らせるなら逸らしたい、でも出来ません、桃香様が目から血を流しながらも見届けているのですから。

どれほど心が悲鳴を上げられているのか、どれほど心を殺しているのか。

それでも目を逸らさず、蜀の王として全うされているのです。

・・そして悪夢の如き日が終わりを告げました。

劉巴軍を全滅させた魏軍が退き、野営の陣を構築しています。

明日に攻撃を仕掛けてくると取れます魏軍の動き、逆に取れば・・・・。

「・・朱里ちゃん、白蓮ちゃんの所に行ってくるね」

「・・はい、桃香様」

 

 

成都城内の者たち全員を引き連れて曹操に降服を願い出る。

私の所に来た桃香から全てを聞いた。

私が軟禁されていた理由も分かった、此の時の為に桃香は私を全てから遠ざけていたんだ。

一番苦しんでいた筈なのに、私に謝り続け後の事を託させてと。

自分の身を差し出して許しを乞うてほしいと。

・・断れなかった。

私は靖王伝家を受け取り桃香を・・。

だからこそ託された事を果たす、此の身がどうなっても絶対に。

「・・公孫賛、劉備は死んだのね?」

「・・ああ、私が斬った」

胸が締め付けられる、そうだ、私は桃香を斬った。

「お願いだ、いや、お願いします!私は処刑されても構わない、どうか、どうか降服を受諾して下さい!」

桃香の最後の願いを、どうか!

「・・・・・いいわ、降服を受諾しましょう」

「あ、ありがとうございます!」

良かった、本当に良かった。

これでもう、思い残す事は無い。

降服が認められたのが皆にも伝わったのか、少し騒がしくなってきた。

下手に魏軍を刺激したくないから注意しようと振り向くと、今は誰も居ない筈の城から火が出ていた。

・・な、どうして!?

思い当たる理由は一つしかない。

背後から弱く、小さな、でも心にまで沈む言葉が聞こえた。

 

 

 

「・・生きていても、会いたい人は既にいないのよ」

 

 

 

私と朱里ちゃんだけしかいない玉間。

白蓮ちゃんに曹操さんには死んだと言っとくから逃げろって言われたけど、ごめんね、気持ちは嬉しいけど愛紗ちゃんたちが待ってるから。

でも、ありがとう。

いよいよ最期を迎える時が来たけど、何か肩の荷が下りて楽になった気がするよ。

もう今更特に言う事なんて無いけど、朱里ちゃんとお喋りでもしてようかな。

「朱里ちゃん、天の御遣い様の話を覚えてる?」

「確か管路さんの予言で言われていましたが、結局は現れなかった人の事ですか?」

「そう、平和の為に協力して貰えないかなって思ってたんだけどね」

「そういえば魏国に存在していると噂がありましたね。確認はされませんでしたが」

「うん。でもね、ひょっとしたらって思った人がいるの。ほら、洛陽で月ちゃん達を連れてきた男の人、覚えてる?」

不思議なんだけど、なぜか忘れられないんだ。

「すみません、はっきりとは。ですがどうして御遣いの事をお考えに?」

「・・御遣い様が本当に居たら、こんな事には為らなかったのかなあって、ちょっと思っちゃったんだ」

あの男の人が御遣い様だったら、三国の架け橋に為ってくれて皆が悲しい想いをしなくて済んだのかなって。

勝手な妄想だけど、人一人に出来る事なんて本当にちっぽけで、王様だって全然万能じゃ無いって身を持って分かってるけど。

それでも・・って。

・。

・・煙が凄くなってきて、意識が朦朧としてきた。

「・・朱里ちゃん、手を握ってくれる?」

「はい、喜んで」

・・朱里ちゃん、ありがとう。

・。

・・愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、みんな、ごめんね。

・・こうなるって殆ど確信してたのに、それでも止めずに皆を送り出した。

・。

・・曹操さん、ごめんなさい。

・・私の所為で、いっぱい傷つけちゃった。

・・伝わってきたよ、怒ってる裏で物凄く悲しんでいる心が。

・。

・・。

もし、もしも・・今度が・あるなら、・・今度こそ・皆と・・・・。

 

 

・・終わったのね。

焼け落ちる成都城を私達は無言で眺める。

勝者など何処にもいない、私達の心を占めるのは虚無。

何の為に戦ってきたのか、何の為に働いてきたのか、何の為に友を失ってきたのか。

・・何の為に愛する人を手放したのか。

こんな、こんな世の為に・・・。

・。

・・。

・・・私達の心は一つだった。

・・・・こんな世界、滅んでしまえばいい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故に時が戻り、貴方が形を変えて私達の所に戻ってきてくれたのかは永遠の謎。

記憶に関しても私達元魏の者しか甦る事はなかったわ。

ただ、桃香たちの魂には残っていたのかもしれない、そんな風に感じる事はあったわね。

・・今度こそ、本当のお別れ。

でも寂しくはあっても悲しくは無い。

一刀、貴方は確かに私達と共にいる。

心に、そして世界に。

・・今度は貴方が、私達を待ってなさい。

 

史書華伝 第二章 曹操伝より抜粋

 

魏国王として君臨するも降服後に華国臣となる。

比類なき才を存分に発揮し、華国礎の名臣と称される。

北郷王の后が一人。

一男六女の母であり、北郷王の半身とも言われた。

華国次代の王の生母であったが、北郷王譲位と共に公職から退き政から離れ、文学に力を注ぎ後の建安文学の担い手となる。

また北郷王との数多くの逸話が女性の心を捉え、多くの詩や物語が今も作り出されている。

 

 

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あとがき

小次郎です、お読みいただき有難うございます。

やっと、やっと辛く苦しい話が終われました。

本章の物語の根幹でもありますので、御不快に思われた方も当然いらっしゃるでしょうが出来るだけボカさずに書いたつもりです。

これで本当に書く事が無くなりましたが、流石に後味が悪く何とか話を考えてみようと思っています。

では、また読んでいただけたら嬉しいです。

 

 

 
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