『祭神と時雨』
晩秋の頃の夜半過ぎ、住んでいる地区の祭りが終わった後の出来事である。
自治会の手伝いで、人気の途絶えた神社の周辺を掃除していた時、境内の社殿の裏手から、人影の様な何かが勢い良く飛び出すのを見た。それは瞬く間に囲いをすり抜けると、稲刈りの済んだばかりの田圃が広がる中を、空気を切る鋭い音を立てながら走り抜け、そのまま西の彼方へ消えた。
そちらは明日、こちらに一日遅れて祭りが催される事になっている隣の地区がある方角だった。
その直後、瞬間的に激しい通り雨が降り、それが上がると、真っ黒い煙の様な雲間から、青っぽい色白の満月がすぐに顔を出した。そして周りの家並を冷え冷えと照らし出した途端、外気が急に冬の冷たい寒さに変わった。
つまり、さっきの通り雨が、秋の終わりを告げる「時雨」の一番最初の物だったらしかった。丸で気候が即入れ替わる境目をたった一人で潜った様で、どこかしら寂しい気分になった。
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原稿用紙、約一枚分です。