ポニの大渓谷は、未開拓な地が多いポニ島の中でも最も険しい道といわれている。
人の手により橋が架けられている場所も数多くあるものの、岸壁も洞窟もそのままな箇所が多い。
「・・・ちょーっと、厳しい道のりになるかもだね」
「ああ」
ヨウカは渓谷を見上げて、ここからの道のりは決して楽なものではないと悟る。
一緒にいるツキトやセイル、そしてリーリエも同じリアクションだ。
「・・・それでも・・・私はいきたいです」
「・・・そうやね、進まなくちゃなんもかわらんもん」
彼女達が目指すものは頂上にある。
そこにたどり着くまでにはこの渓谷をのぼったりくだったりしていく必要があるのだ。
その途中の困難はどれほどのものかは解らないが、目の前にきてその困難に怯えて立ち止まってなどいられない。
意志を固めて歩き出そうとしたとき、岩陰からポケモンが現れた。
「ガゥ」
「・・・なんだ、ジャラコか・・・」
野生のポケモンが襲いかかってくるのかと思い身構えたが、そこから出てきたのはジャラコという小さなドラゴンポケモンだった。
普通のサイズより小さいので、このジャラコは幼いことがわかる。
ジャラコはヨウカ達を首を傾げながら見つめていると、なにかに気付いたかのようにそこを去っていった。
ジャラコの去っていった方向を見ると、そこには3匹のポケモンがいた。
「あれって」
「ジャラコとその進化系、ジャランゴにジャラランガだな」
ジャラコとジャランゴが一匹ずつ、ジャラランガは2匹いる。
「・・・もしかして、家族でしょうか」
「可能性が高いな、ほら」
セイルがそういうのでそのジャラコ達を真剣にみるヨウカ達。
ジャラコはジャランゴにじゃれつき、ジャランゴもジャラコの遊び相手となっている。
2匹のジャラランガはそんなジャラコとジャランゴを温かく見守っている。
そんな光景にほほえましさを感じつつ、ツキトがまずはとそこから動き出す。
「あいつらのことはこのままで、そっとしておこうぜ。
あいつらもこっちがなんもしなけりゃ、あいつらもなにもしねぇし」
「そうだね、邪魔するのも悪いし」
元々ゲットするつもりはないし、この空気を壊す気にはなれない。
これ以上ジャラコ達には触れず、自由にさせてあげよう。
そう思った彼らはポニの大渓谷を進むために歩き出した。
「・・・私達も、あのジャラコさん達のように・・・」
「?」
「・・・いいえ、なんでもありません」
ジャラコ達をみて、リーリエはどこか羨ましさを感じていた。
「ふぅ・・・だいぶ洞窟をでたり入ったりしたよね」
「ああ・・・流石大渓谷って名乗っちまうだけのことはあるぜ」
ポニの大渓谷に足を踏み入れてから何時間も経過して、気付けば空には満天の星空が広がっていた。
ほぼ休憩なしで進んできたので疲れがたまってきた頃、彼らの目の前には切り立ちそこの深い崖がそびえ立っていた。
「うわぁっ・・・」
「吊り橋だな」
そのとき見つけたのは、やや長い吊り橋。
見かけは古いが、これをわたらなければ先へ進めない、そんなときツキトは率先して吊り橋に向かうとその状態をチェックした。
「・・・あ、でもこれ、見た目より丈夫だから大丈夫だぜ」
「ホントに?」
「ああ、間違いねぇ!
手本としてオレがいの一番にいくぞ!」
そう言ってツキトがまずは動きだし、吊り橋を軽快にわたっていった。
吊り橋は、見かけによらず丈夫だという印象を壊すことなく少し揺れただけですみ、割れたり音を立てたりすることなくツキトを向こう側へと渡した。
「ホラッ!」
「ホントだぁー!」
「おまけにこの先に、野宿にちょうど良さそうな場所を発見したぜー!
今日のところはここで休もう!」
「オッケーイ!」
「じゃあ、俺がいくぞ」
「はい」
続けてセイルが渡るが、吊り橋は持ちこたえている。
残ったのは少女2人であり、ヨウカはリーリエの方をむくと彼女に手を伸ばした。
「リーリエちゃん、いこ」
「・・・」
「リーリエちゃん?」
マハロ山道のこともあり、彼女はこういう場所が苦手なのだと思ってヨウカは一緒にいこうと言ったのだが、やはり怖いのだろうか。
だが、顔を上げたときのリーリエはあのとき恐怖に震えているときとは違い、強気な表情だった。
「私・・・一人でわたってみます」
「えっ?」
「・・・ヨウカさん、私はもうあのときとは違います。
だから、私が一人でこの吊り橋を渡るところをみていてくださいね・・・!」
そう言ってZポーズの真似をしたリーリエは頷くと、吊り橋に足を踏み入れた。
途中でヤミカラスが背後に降りたときに立ち止まったりもしたが、リーリエは一歩ずつ確実に吊り橋を渡っていく。
「・・・!」
「おっ」
そして、リーリエは吊り橋を渡りきった。
自分でもそれが信じられなかったらしい、リーリエは驚きながらもその顔に満面の笑顔を浮かべており、まだ向こうがわに残っているヨウカに向かって手をふった。
「やった・・・ヨウカさーん!
私、橋を一人で渡り切りましたー!」
「やったね、リーリエちゃーん!」
ヨウカも大喜びしつつ、彼女に続いて吊り橋を渡っていった。
全員が揃ったところでツキトが見つけたという休憩場所で野宿の体制に入り、彼が用意した夕食を食べ始める。
「・・・そうか、リーリエはああいう場所が苦手だったのか」
「はい、マハロ山道でほしぐもちゃんが襲われてたときも・・・助けたかったけど吊り橋が怖くて、足がすくんで動けなくなっちゃったんです」
「・・・まぁ確かに、そのくらいの女の子ならあれを怖いと思うのは当然だよな」
「えー、あたしはー!?」
ツキトの発言にたいしヨウカは頬を膨らませ、それにたいしツキトはすまんと笑って謝罪する。
「だけど・・・こうして乗り越えられました。
勇気を奮って、吊り橋を渡れました・・・」
「うん、さっきのリーリエちゃんはりっぱだったよ!」
「ありがとうございます」
仲良くしているリーリエとヨウカをみて、ツキトは仲のいい2人の女友達を思いだし微笑む。
彼女達と同じくらいの仲の良さを持つこの2人も、助けていきたいと思いつつ。
「ま、オレもお前達を助けるのはオレの夢につながることだしな」
「夢・・・」
「オレは今は試練サポーターをやってたりもするけど、夢はライフセーバーなんだぜ。
そのためにポケモンも自分も鍛えているんだ」
「そうなんですか」
明るく夢を語るツキトにたいし、セイルは自分にはそういう夢がないと言う。
「・・・ツキトはいいな、しっかりと自分の夢を持っていて、そのために努力ができる。
俺にはないものも持っている」
一度ポケモンバトルをして勝ったものの、今になって考えれば自分はツキトに負けていた。
そう思っていたセイルは静かに笑みを浮かべつつ、ヨウカとリーリエを見つめた。
「・・・まぁ俺も・・・お前達の手助けになれていれば、それでいいと思っているからな・・・」
「そんな、セイルさんも十分にあたし達の力になれてますよ!
頭いいしポケモンも強いし、学校でみんなに色々教えてるし・・・今も勉強してるんでしょ!」
そう熱くセイルに向かって語っていたヨウカだったが、不意に現実に戻ったように照れて、頭をポリポリかいた。
「あたしも、ハッキリした夢もってないし・・・」
「・・・そう、だな・・・。
だから・・・これから、見つけられればいいな・・・俺も、お前達も」
「そうそう、みんなで見つける夢も、アリだしよっ!」
「はい!」
セイルとツキトの言葉にヨウカとリーリエは同時に返事をし、この日はそこで眠りについた。
「よし、しゅっぱーつ!」
翌朝、朝御飯も食べて準備も整ったところでヨウカ達は再出発した。
ところが。
「え?」
「あら?」
「は?」
「・・・!」
少し進んだところですぐに立ち止まってしまった。
道を阻むかのように横一列に並んで、4人の行く手を阻む集団が存在していたのだ。
3人はポカンと口を開けて驚いており、セイルだけはその集団に対し警戒してにらみつける。
そんなセイルにも気付き、なんとか押さえながらもツキトが前にでてその集団に問いかける。
「・・・お、お前達はスカル団・・・だよな?
なにやってんだこんなとこで・・・そんな、電線に止まるヤミカラスみたいに並んで・・・」
「おめぇらを待ち伏せてたんだよ」
「あ、あたしらを?」
「ああそうさ」
横一列でヤンキー座りをしていたスカル団は一斉に立ち上がる。
「おめーら、エーテルパラダイスで消えたグズマさんを探して見つける方法、知ってるんだって!?」
「アタシら、力ずくでも聞き出し手やるから、骨の髄まで覚悟を決めなっ!」
「むっ、やる気だなー!?」
ベトベターやラッタ、ヤブクロンなどを出してくるスカル団をみてヨウカは彼らは自分達と戦うつもりだと気付き、同じようにボールを構えた。
「ニャーくん!」
「ジュナイパー!」
「アシレーヌ!」
そこにセイルとツキトも加わり、同じようにポケモンをだす。
リーリエには万が一に備えて側にミミちゃんを出しておいた。
「ヤブクロン、ヘドロばくだん!」
「かえんほうしゃでぜーんぶ相殺だよっ!」
「ジュナイパー、あやしいかぜ!」
「まもる!」
「あくのはどう!」
「うたかたのアリア!」
スカル団のポケモンと正面から戦っていくヨウカ達。
単純にポケモンの数でいえばスカル団側の方が有利だが、一匹ずつしっかりと育てていった3人のポケモンの方が強い。
指示もしっかりしていて、判断も冷静だ。
「・・・やっぱり、すごいです・・・ヨウカさん達・・・!」
そうやって数に負けず相手を圧倒していくヨウカ達をみて、リーリエはポケモントレーナーという存在に対するあこがれを募らせていた。
初めて見たときからずっとヨウカや多くのトレーナーがバトルをしていく姿を見て、トレーナーというのは何なのかを知っていったからこそ、今もポケモンバトルにたいし魅入ることができる。
「そこだよ、DDラリアット!」
とどめはニャーくんの物理技であり、相手のダストダスはその技を受けて戦闘不能になる。
これにより、スカル団側のポケモンは全員戦闘不能となった。
「まだやるかっ!」
「・・・お前達は、ここまでだろうがな」
「くぅぅぅ・・・!」
ポケモン達が倒れたとき、1人のスカル団が立ち上がりほかの下っ端の前に出てきた。
「オレたちだって、まけらんねーんだよ!
グズマさまのために、200%の本気をぶつけてやるッスカ!」
「・・・!」
そのスカル団の下っ端の言葉を聞いて、セイルは目を丸くした。
ずっと憎んでいたスカル団、そのボスはもちろん憎い。
だが、彼らにとっては慕うべき存在だというのがスカル団の下っ端達の真剣な姿勢から読みとれる。
彼らのグズマにたいする思いを知ったから、セイルは驚いているのだ。
「こうなったら・・・!」
「やめなっ!」
暴力にでようとしたスカル団だったが、不意に聞こえてきた女性の声に手を止める。
振り返り声のした方向をむくとそこには、スカル団の幹部的な存在である女性、プルメリがいた。
「あんたは・・・」
「あ、あねご・・・!」
「・・・あとはあたしが話を付ける、あんたらはさっさとかえりな!」
その後、プルメリは下っ端達に命令してそこから立ち去らせた。
そしてリーリエの姿を見て彼女が心機一転したのだと悟ったプルメリは、リーリエにたいしポツポツと謝罪の言葉を言う。
「あたいらは・・・いくらグズマ・・・もとい代表の命令があったからといって、アンタを無理矢理という形で連れて行ったり、あんなヤバいことに手を貸しちまった。
流石にやりすぎたと思ってる・・・悪かったね」
「もう、済んでしまったことなので気にしていませんよ。
それに、あなたは約束の通り私以外の人には手を出しませんでしたし」
リーリエはにっこり笑いながら、彼女達が自分にしたことを許した。
「私も、守ることを貫くために強くなりたいと、気持ちを持ち直しましたから」
「・・・お淑やかでおとなしいだけのお嬢様なんかじゃない・・・それはお友達のためにあたいらに自らついていったときから感じていたけど・・・。
やっぱり、心はあたいらなんかよりずーっと強いんだね」
ずっと感じていた、自分と彼女の違い。
ポケモントレーナーか否かでは判断できない気持ちの強さ。
自分より彼女の方がずっと強いと感じたプルメリが打ち明けたのは、スカル団もといグズマが何故エーテル財団と通じて、あそこまで協力していたのか、その真相だった。
「・・・グズマはな、代表のことが好きなんだよ」
「・・・へっ!?」
プルメリの発言にツキトは驚く。
「自分を認めてくれる、強さを評価してくれる。
そんな唯一の大人だから・・・アッサリついていって、従っちまったのさ」
「あ、そっちの好きか・・・ビックリしたぜ」
「なんの意味で想像していたかは、だいたい想像がつく・・・」
プルメリはあきれてため息をつきながら、ツキトにそうツッコミを入れる。
グズマとルザミーネの関係をしったリーリエは、少し落ち込んだ様子を見せつつも口を開き続けた。
「あの人は・・・お母様はわがままです。
自分が好きなものだけを自分勝手に愛でて・・・それが正しいと、私達のためになると思いこんでます。
許されることをしているわけが、ありません・・・私も、すべてを許せるわけではありません。
でも、助けます・・・言いたいことを言うために!」
「・・・」
そう語る真剣な表情に、プルメリは彼女には勝てない要素を感じ取っていた。
そしてその目の色は、あの人物にどこか似ているとも。
「これを言っていいのかはわかんないけど、あんたは代表に結構似ているね。
方向が違っても気持ちの強さがある」
「・・・」
「・・・もっとも、気持ちの強さの向け方は、あんたの方を評価しているよ」
そうリーリエとの話を切り上げたプルメリは今度は、ヨウカの方を向く。
「・・・こんなこと頼める立場じゃないけど・・・代表と一緒に、あのアホ野郎を連れ戻してくれ。
償わせるためにも・・・」
「・・・うん、あのアホ野郎も絶対に、連れ戻してくるよ」
「・・・ふっ、あんたもただものじゃないね」
「えへへっ」
ヨウカの言葉にプルメリは僅かに笑みを浮かべる。
そのときプルメリは心の底から、ヨウカのことを認められた気がした。
遅くなったが認めることができてよかった、と同時におもいながら。
「・・・ポケモンを大事にしていて、ポケモントレーナーであることをまっすぐに貫ける。
そんなあんただからカプに選ばれたし、カプの罰を受ける心配もないんだろうな」
「・・・プルメリ、さん」
「・・・じゃあね。
あたいも、あんたらを信じるから」
「うん!」
プルメリの言葉にヨウカは力強くうなずき、彼女とはそこで別れた。
去っていく後ろ姿を見ながら、ヨウカ達は気を引き締め直す。
「・・・スカル団も、助けなきゃね」
「・・・ああ・・・」
セイルはなにか、思い詰めたような顔をしながら彼女の言葉に同意した。
彼がなにを考えているのか、それがわかるのは少しだけ後のことである。
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ポニの大峡谷をひたすら進む話です。
ここで、本来はあったはずなのに、そのイベントもその存在もすっかり忘れていたからかいていなかった、あのキャラたちを登場させています。