No.965879

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第10話

小次郎さん

現代に戻り勉学に励みながら、華琳たちに思いを馳せる一刀。
だが外史は・・・。

2018-09-02 21:47:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7759   閲覧ユーザー数:5571

まだまだ全体の十分の一も終わっていないのに、物凄く腰が辛い。

機械を使わない鎌を使っての稲刈りは本当に大変で、田植えの時の悪夢が蘇える、あの時も何時終わったのかが覚えていないくらいに疲労で意識朦朧だったよな。

それなりに体力には自信があったつもりけど、本業として従事している人達からすれば俺なんてモヤシに等しかった。

・・当初の生暖かい目は忘れられそうに無い。

俺、北郷一刀は現代に帰ってきて暫く落ち込んでいたけど、幾日後に夢の中で見た華琳たちの頑張っている姿、夢から醒めた後、こんなんじゃ駄目だと様々な事を体験しつつ勉強に励んでいる。

「・・かずピー、ワイはもう限界や、・・後は、頼んだで」

・・及川、お前その台詞何度目だよ。

「だから言っただろ、きつい農業体験だから止めとけって」

「そうはいかんで、かずピーだけ女子大生のお姉さま達と仲良うするなんて、そんな事は天が許してもワイが許さへん!!」

「女子大生も一緒なんて知らなかったんだよ!」

「大体学校内でもあんだけモテとりながら、更に外でもハーレムやと!この人類の敵め、何でや、何で神はワイを生みながら北郷一刀を生んだんや!」

周瑜と諸葛亮かよ、それって正史三国志には無い言葉で蜀贔屓な三国志演義の創作らしいぞ。

そもそも人聞きが悪い、俺は誰にも指一本触れてないからな、強引に迫られて触れられたのはノーカンだ!・・・・ノーカンにしてください、華琳さん。

・・とにかく、作業を続けよう。

実際のところ、そんなに大きな田じゃない、大凡の収穫量を聞いたら驚くほど少なかった。

あの世界でもきっと同じ様なものだったんだろう、それなのにきちんと食事を摂れていたのがどれだけ有難い事だったのか、今ならよく分かる。

あの戦乱の世で、本当に誰もが懸命に生きてたんだと。

・・頑張ろう、特別な才が無くても出来る事は必ずある。

きっと華琳たちも呉や蜀の人達と一緒に日々頑張っているだろうから。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第10話

 

 

(荊州)

「思春、よくぞやってくれたわ。僅か百の兵で、しかも一兵も失わずに敵本陣への侵入を成功させるなんて、それこそ古の名将に匹敵する武勲だわ!」

蓮華様の大絶賛を受ける思春様に、讃え大歓声を挙げる兵士達、そんな光景を目にしつつも素直に喜べていない私がいました。

確かに凄い事だとは思います、ですが魏にとっては実質の損害は無きに等しい成果なのです。

場に溶け込めていない私に、亞莎が小声で話しかけてきました。

「明命、気持ちは分かります。ですが今は少しでも士気を高めないと軍が崩壊してしまうんです。・・必要なのです、不安を払拭する為に」

それでは蓮華様や思春様は、全て分かった上で、あのように振舞っているのですか。

「先程蜀軍の方達が訪れて称賛の言葉と作戦を提示され、日が中を指した時に全軍で攻める事になりました」

・・いよいよですか。

「・・亞莎、私如きが口を挟める事でないのは重々承知なのですが、此度の戦は本当に必要だったのですか?」

雪蓮様や冥琳様が亡くなられ、多くの兵士達が討たれました。

ですが悲しい気持ちは溢れ出ても、怒りの気持ちは不思議なほどに湧き上がりません。

自分の心が、分からないのです。

「・・分かりません。ですが此の戦いは既にどちらかの国が滅びるまで終わらない、そんな戦いだと思います。もう、後戻りは出来ない所まで来てしまったんです」

滅びるまで、・・・亞莎の言葉が水の様に私に染み渡り始めると、何時の間にか足が震えて、更に全身にまで広がっていきました。

わ、私は戦いに身を置く者です、戦場で倒れるのは覚悟の上です。

ですが、戦に関係の無い人達はどうなるのですか?

国が滅びたら、その人達はどうなってしまうのですか!?

そんな戦いを、どうして私達は始めてしまったのですか!?

「あ、亞莎。どうしたら、どうしたらいいのですか?」

「・・明命、貴女にお願いしたい事があります」

 

 

蜀軍、呉軍が配置に着いた。

甘寧殿の奇襲で士気が上がっている呉軍に釣られ、我等蜀軍の兵にも明るさが見られる。

だが私の心は自身を殺めてしまいたい程に闇と化していた。

掲げている『関』と記した旗を叩き折ってしまいたい程に。

もう私は、天の光を浴びる事すら許されぬ咎人と成り果てているのだから・・。

 

翠と桔梗が戦死し、漢中侵攻軍が壊滅。

あまりな、あまりな報告が蜀軍本陣にもたらされ私は言葉を失う。

詳しい戦況を聴くにつれ、憤慨していた者達ですら口を閉ざしていく。

「愛紗、雛里、急ぎ退却すべきだ。荊州などに拘っている場合ではない!」

星の言う通りだ、このままでは漢中の魏軍が桃香様のいる成都に侵攻する、そして防ぐ為の兵力が成都には無いのだ。

「待って!この報は当然だけど魏にも伝わっているのよ、背を向けるのを予測していて追撃の準備を整えている筈。それに呉はどうする気?孫策を討たれて退くとは思えないわよ」

た、確かに詠の言う事も尤もだ。

一刻でも早く桃香様の元へ戻りたい、だが我等は既に鎖で足を縛られている状況だ、身動きが取れない。

その後も様々な提案が出るが一長一短で結論が出ない。

「ならば曹操を討ってしまえば全ては解決するのです、万の兵を蹴散らす事の出来る恋殿ならば造作も無い事なのです」

「ねね、何を馬鹿な事を言ってるのだ、いくら恋でも無理なのだ」

「お前と恋殿は違うのです!恋殿こそ天下無敵なのです!」

とても軍師とは思えぬねねの主張に正直失望し、相手にする必要は無いと鈴々を止める。

だが、一体どうすれば。

「・・・皆さん、私の策を聴いてください」

 

 

魏に波状攻撃を仕掛ける、それが蜀からの提案だった。

兵を一万ずつの層と化して攻め、疲れが見え始めたら左右に逃れ次軍と替わり、最後に後方に回って新たな層と化す、そうやって魏の傷口を徐々に開かせると。

悪くないわ、これなら如何に堅固な陣でも何時かは崩れ落ちる。

それに被害の大きい先陣を蜀が務めるとまで言われては否は無い、後陣で止めを刺す機を我等呉に回してくれた事を感謝しよう。

「シャオ、今は悲しみを全て怒りに変えなさい、いいわね!」

「うん、絶対に、絶対に雪蓮お姉ちゃんの仇を獲ってみせる!」

・・その通りよ、絶対に勝つ!

銅鑼の音が鳴り、蜀が攻撃を開始する。

二層目の軍、三層目の軍と続き、次第に戦況が肉眼でも確認出来始めた。

魏の防衛線に綻びはまだ見えない、でも波状攻撃の効果は感じられる、今まで見えなかった相手の動きが分かる。

そして蜀の最後尾である呂布軍が、横陣から垂行陣へと陣形を変え突撃を開始した。

中央突破を図る気ね!

今こそ好機よ、次軍の思春に追従の指示を出して全軍での総攻撃を開始を、

「蓮華様!!」

亞莎!?どうして後軍を任せてる貴女が此処に?

それに普段とは掛け離れた声、一体どうしたの?

「蓮華様、後方に回った蜀軍が撤退を始めています!・・私達は嵌められたんです!」

・・・・え?

 

 

蜀には失望したのです。

呉を盾にして時を稼ぎ撤退しようなど、戦う者の風上にも置けないのです。

不運が重なり蜀に身を置いておりましたが、やはり恋殿こそ天下を統べるに相応しい事を再確認したのです。

このまま曹操の首を獲り敗軍を平伏させ、呉蜀を支配下に置き王としての恋殿をお支えする、それこそがねねの天命だと早く気付くべきでした。

見るのです、魏の戦線が崩れました、このまま一気に、

 

 

 

「愚かな、軍師の策とは最弱の兵にて勝つ事。将の武を頼りにする事ではありません」

 

 

 

落とし穴。

嫌な感じがしたけど後ろから沢山付いてきてるから止まれなかった。

穴に槍が並んでて咄嗟に赤兎から飛ぶ、・・赤兎、ゴメン。

恋は落ちずに済んだけど、他の兵はそのまま落ちていった。

落ちるのが終わったら敵兵が襲い掛かってきて、みんな倒されていく。

でも恋には襲ってこない、遠巻きに囲まれているだけ。

・・じゃあ、ねねは?

 

あ・ああ。

恋殿、恋殿!

最早軍は崩壊したのです、それなのに後ろの呉は全く動かず、一方的に兵は魏に蹂躙されていきます。

恋殿の御無事を確認している内に後方にも兵が回され、完全に包囲されました。

押し寄せてくる魏兵に、もう何も出来ないのです。

包囲は迫ばり続け、遂に周りの味方がいなくなります。

そして剣がねねに振り下ろされ、

!!!

物凄い音が響き魏兵が吹き飛んでいきました、いきなりな事にねねだけでなく周りの者も呆然としています。

一体何が?

改めて吹き飛んだ兵を見ましたら、戟が体に突き刺さっていました。

それは普段から見ていた戟。

「恋殿!!」

そう、恋殿の方天画戟。

振り返り目にしたのは敵の中で無手となっている恋殿の姿、そして襲い掛かる魏兵たち。

「れ、恋殿、恋殿ーーーー!!!」

・・恋殿に浴びせられる刀、突き刺さる槍。

恋殿が、天下無双の飛将軍である恋殿が・・。

ねねが、ねねが独断でした事が、恋殿を、恋殿を・・・。

ねねの伸ばした手は、謝罪の言葉は、もう恋殿には届かないのです。

そして、ねねの胸から飛び出す槍先。

・・恋・殿・・、申し・わ・け・・・・。

最・期・に・・御・供・・しま・す・こ・とを・・お・お許・し・・・・・。

 

 

「駄目よ!そんな事は認めないわ!」

ありがとうございます、その御気持ちだけで私は充分です。

「思春さん、お願い致します」

「・・蓮華様、参りましょう」

「思春、何を言って!」

思春さんが蓮華様の馬を刺激して強引に走らせ、撤退が始まったと兵が続きます。

蓮華様のお声が聞こえ、私は礼を取ります。

蓮華様、冥琳様、穏様、あれほど御教授いただきながら申し訳ありません。

一兵卒でした私を取り立ててくださり過分な身を戴きながら、最期まで私は阿蒙でした。

せめて、せめて殿を務め、少しばかりながらも御恩をお返ししたいと思います。

・・魏軍が動きました、・・ですが不思議な程に心は落ち着いています。

共に残る兵の方達には申し訳ありませんが、どうか蓮華様が無事に建業までお戻りできる様、私に力を貸して下さい。

明命、小蓮様をお願いしますね。

 


 
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