エーテル財団の存在
アーカラ島の島巡りも残すところは大試練のみとなった。
その大試練が行われる場所を目指して、しまクイーンであるライチが住んでいるというコニコシティに、ヨウカはいま目指すのだった。
「よう!」
「あ、ツキトくんっ!」
そのときヨウカが出会ったのは、ライチの弟であるツキトだった。
実は大試練への案内を彼がしてくれることになっていたのだ。
「ここに来たと言うことは、大試練に挑む準備ができたということだな?」
「うん!」
「よしわかった、じゃ約束通りオレがコニコシティまで案内してやるよ」
そう言いツキトは洞窟を指さした。
「ここ、ディグダトンネルが最近解禁されたから、こっちを通っていくぜ。
そうすりゃ近いんだが・・・確認するけど洞窟は平気か?」
「全然大丈夫だよっ」
「そっか、なら問題ないな!
そうときまれば、レッツゴーだぜ!」
「おーっ!」
ディグダトンネルというのは、文字通りディグダがたくさん住んでいる洞窟のことだ。
元々はディグダが人間を手伝ってあけた穴だが、そこの土がディグダにとってよいものだというのが判明したという噂もある。
ここにいるディグダは危害を加えなければ非常におとなしく、中には人間に友好的だったり興味を持つこともあるという。
そんなディグダの住むディグダトンネルに足を踏み入れようとしたとき。
「ってあれ?」
「どうした?」
ヨウカは何かを発見し、そちらを凝視した。
彼女の視線の先では白衣を着た老人と白い帽子とスーツを身につけた女性、そしてスカル団の姿があった。
スカル団の方はヤドンの尻尾を掴んでいて、それを白いスーツの女性が止めようとしているようだった。
あの二人も、スカル団に絡まれているのだと気付いたヨウカは迷わず彼らの中に飛び込んでいく。
「アブないっ」
「あ、ヨウカ!」
ツキトが止めるのも聞かず、ヨウカはスカル団と白い服の二人組の間に割ってはいっていった。
「なんだガキッ!」
「いじめはダメだよ、スカル団!」
「なんだとぉ、オレの暇つぶしを邪魔する奴は容赦しねぇぞ!」
「おっぼえてろーっ!」
ポケモンバトルでスカル団を追い払い、ヤドンの尻尾にできた傷にきずぐすりを使うヨウカ。
戦ってくれたサニちゃんに対しありがとうと告げてボールに戻すと、白衣の老人が手をすりあわせながらヨウカに声をかけてきた。
「いやぁー助かりましたよぉー。
あいつらスカル団は本当にロクデナシで、乱暴者で・・・私では止められなかったんですよ」
そう語る老人に、横から女性がツッコミを入れてきた。
「ザオボーさん、自分には無理だからって私に止めさせてたクセに・・・」
「なにか言ったかね?」
「いいえなにも?」
そうやりとりする二人をみて、何者だろうとヨウカが首を傾げたとき、ツキトが合流してその二人が何者なのかを確かめた。
「あんたら、エーテル財団の人・・・だよなっ?」
「エーテルざいだん?」
「ポケモンの保護をするために活動しているという、一つの組織のことだ」
「いかにもその通り・・・そして私はその支部長を務めるザオボーともうします。
気軽にザオボーさんと呼んでくれていいですよ」
「・・・」
それを聞いた瞬間、ツキトはいかにも嫌そうな顔をしてザオボーをみた。
どうしたんだろうとヨウカが気にしていると、ザオボーはヨウカの顔を見つつ話を続ける。
「ちょうど良い・・・今回のお礼のために是非あなたをエーテルパラダイスにご招待したいですな」
「エーテルパラダイス?」
「そうです」
女性が、エーテルパラダイスについて説明を始めた。
「エーテルパラダイスとは、私達エーテル財団が現在アローラでの活動の拠点にしている人工の島です。
そこでは傷ついたり、迷ったり・・・トレーナーとはぐれたポケモンをお世話したりしているんですよ」
「へぇー」
「見学は大歓迎です・・・っと、そういえば貴女のお名前は?」
「あぁ、あたしは巽陽花っていいます」
「ヨウカさんですな、では」
「あ、今からはいけません」
早速彼女をエーテルパラダイスへ連れて行こうとしたザオボーだったが、ヨウカはそれをバッサリ切り捨てた。
愕然とするザオボーをみて、ヨウカは慌てて今行けない理由を説明した。
「あたしにはこれから行かなきゃいけないとこあるから・・・。
そ、それが終わってからでいいならエーテルパラダイスに行かせていただきますっ」
「・・・そうでしたか、別に用事が・・・。
いいでしょう、話はまた後日改めて。
そちらの方はいかがです?」
ザオボーはツキトの方をみてそう問いかけるが、ツキトは訝しげな顔をして断る。
「・・・オレはいかねぇよ」
「行けないのですか、さぞかし事情があるのでしょう・・・了解しました」
「いやいかねぇって言ってんだろおっさん」
ツキトがツッコミを入れるが、ザオボーはそれをスルーして去っていった。
最後に待ってますよーと告げて。
そんなザオボー達をツキトは訝しげな表情で見つめて、早々にディグダトンネルに足を踏み入れた。
「・・・先へ急ぐぞ」
「あ、はーい」
さっきの様子と言い、ツキトはあのエーテル財団というのが嫌いなんだろうか。
そのことを道中で聞いてみるが。
「どうも胡散臭くて気にいらねぇだけだ」
の一言で終わった。
ポケモンの保護をしているのだから、良い人なんじゃないのかと思ったが、さっきのツキトの態度が少し怖かったので、ヨウカはそれ以上なにも聞かなかった。
ツキトに案内させてもらったおかげで、ヨウカは無事にディグダトンネルを抜けてコニコシティに到着した。
途中で野生のポケモンは多々見かけられたが、特に攻撃はされなかった。
コニコシティは、アローラともカントーとも、少し違う異文化な雰囲気を漂わせる熱気に満ちた町だった。
「ここが、コニコシティなんやねぇ」
「ああ、そうだぜ。
せっかくだし、いろんな場所も教えてやろうか?」
「うん、あたし知りたいなぁ、この町のこと!」
「そっか、じゃあまずは案内してやるよ」
ヨウカの返事を聞き、ツキトはコニコシティを彼女に紹介することになった。
まずはポケモントレーナーとして基本的な施設であるポケモンセンターを、そして奥に見える灯台をヨウカに説明し近くにあった家にも向かう。
「そしてここが・・・」
「あれ、ツキトくん」
「おぉ、スイレンちゃん!」
そのとき、家の中からスイレンが出てきて、またツキトは嬉しそうな顔をする。
ヨウカとも普通にに挨拶をする彼女の足下にはそっくりな顔をした二人の女の子がいた。
「ここは私の家、そしてこの子達は私の妹・・・ホウとスイです」
「ホウでーす!」
「スイでーす!」
どうやらこの女の子達は双子で、スイレンの妹のようだ。
彼女の家は漁師をしているという話と、今ツキトはヨウカにコニコシティを案内しているという話をした。
「私も一緒でいいですか?」
「ああ、それはもちろんだぜ!」
「ねぇねー、ホウたちもいくー!」
「いくいくー!」
「ダメです、遊びじゃないんですよ」
ブーイングをする妹たちをなだめて、スイレンもこの案内に参加することに。
彼女が同行すると知ったツキトはまた、嬉しそうな顔をする。
「ツキト!」
「あ、マオ」
「マオちゃん!」
そしてレストランの前ではマオに遭遇した。
彼女はあの人懐っこい笑顔を浮かべながらツキト達に駆け寄る。
「ここはわたしの家族が経営している料亭よ!」
「へぇー、マオちゃんって料理のお店やっとるんやねぇ。
だから試練も料理が由来やったんかぁ」
「そうよ。
・・・っていうかヨウカちゃん、あのあと大丈夫だった?
駆けつけた試練サポーターの人がポケモンセンターにあなたを搬送していったんだけど」
「んー、この通り全然大丈夫だよ。
でも・・・気付いたら3日経ってたんだけど・・・寝る直前の記憶が全くないんよ。
試練を達成したのは覚えてたけど・・・なにがあったんやろ?」
「・・・」
「・・・」
「ほえ?」
試練の話になったとき、ツキトとスイレンは苦い顔をして黙ってしまった。
マオのレシピ通りに作ったものを彼女が口にして、そのショックで気絶したことなど、彼女は全く覚えていないのだ。
だが、思い出さない方がいいのかもしれないとツキトとスイレンは同時に思った。
すぐにツキトが、ヨウカがこれから大試練に挑むために姉のライチに会いに行くという話に持ち込んだため、その話は打ち止めとなる。
そうしてマオを加えて4人は、ライチが経営しているという店に向かうのだった。
「さー、ついたぞ!」
とある店の前でツキトは立ち止まった。
「ここが、姉ちゃんが経営しているアクセサリーショップだぜ!」
「ライチさんってアクセサリーショップをやってるの?」
「そうよ!
色んな石を使って作ったアクセサリーがたくさん売られてて、素敵なものばかりなの」
「へぇ・・・アクセサリーかぁ・・・」
ヨウカも年頃の女の子なので、アクセサリーには興味津々だ。
マオの話を聞き、中にはお客さんも沢山みえていることや、窓から少し見える店内とそこに展示されてるアクセサリーをみて、ヨウカは目を輝かせる。
「大試練終わったら、ちょっと見せてもらおうかな?」
「オススメですよ」
「じゃ、決まりっ!」
大試練のあとの楽しみが一つ増えて、ヨウカは胸を弾ませた。
ツキトはその店を見つめつつ、ポツポツと姉と自分のことを語りはじめた。
「・・・姉ちゃんはさ・・・」
「え?」
「姉ちゃんは親が死んじゃってからオレの母親代わりになって、今まで育ててくれてたんだ。
だから・・・オレは今恩返しがしたい」
「恩返し・・・」
「ああ・・・ライフセーバーになって自立して、姉ちゃんに楽させたい・・・。
そしてなによりも、姉ちゃんにはイイ男と結婚して幸せになってほしいんだ」
「・・・」
そう語っているツキトの表情はとても穏やかだったが、ふっと我に返ると恥ずかしそうに顔に赤みを差しながらあわて出す。
「・・・おっと、オレがこんなことを思ってることは、姉ちゃんには内緒だぜ!」
「え、なんで?」
「なんでもっ!
じゃあオレにも仕事があるから失礼するぜ、じゃなっ!」
「あ、ツキトくん!?」
「姉ちゃんに、お前が来たこと伝えてくるからー!
ポケモン回復させたら命の遺跡にこいよなー!」
ツキトはそう言い残して、さっさとその場を去っていった。
ポカンと立ち尽くすヨウカの後ろで、スイレンとマオが口を押さえつつクスクスと笑い出す。
「ツキトくんは、いつもライチさんのことを独身だといってからかって遊んでますけど・・・。
だけどホントは、誰よりもライチさんのことを気遣ってて、幸せを願ってる・・・とってもお姉さん思いな男の子なんですよ」
「そうそう、いい弟の見本よね。
まぁこれを言うとあいつ照れるからあまり言わないんだけどね」
「そうなんやぁ。
ホントにいい人なんやね、ツキトくん」
「そうなのよっ」
「そんなツキトくん、私も素敵と思います」
そう会話をした後で、家の手伝いをすると言うマオとスイレンと一度別れたヨウカ。
改めて、姉について語るツキトの姿と言葉を思い出す。
それは、彼があんなに姉思いだとは知らなかったからだろう。
「にしても家族を思う形って、色々あるんやねぇ・・・」
ふとヨウカの脳裏によみがえったのは、自分の両親の姿だった。
この店で二人におみやげも買おうと思いつつ、ヨウカはアクセサリーショップを離れポケモンセンターに向かうのだった。
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最初うさん臭かった組織ですね(半分正解だったけど