進化への迷い
せせらぎの丘にて、スイレンから与えられた水の試練を突破したヨウカはその近くにあったポケモンセンターで一泊して休んでいた。
「うーん・・・」
「・・・にゃあ・・・」
その宿泊室のベッドの上。
そこでヨウカは布団に埋もれながら、朝日が昇った今でも寝息をたてていた。
ポケモンと一緒にその部屋で眠っていたので、彼女の周りには彼女のポケモンが眠っていた。
ヨウカの隣には、定位置だと言うかのようにニャーくんが眠っている。
「にゃ・・・」
ピクンと耳を動かしながらニャーくんは目をゆっくり開けると大きなあくびをして背伸びをする。
そしていつものように、自分の隣で眠っている少女を前足で押しながら起こす。
「んぅ」
その動きでヨウカは身をくねらせつつ目を開け、視界を開ける。
ヨウカが目を覚ましたことに気付いたニャーくんは彼女の頬をなめながら鳴き声をあげた。
「にゃ!」
「おはよう、ニャーくん」
ヨウカはまずニャーくんに笑いかけてから起き上がり、一緒にいるポケモンたちを起こす。
「おはよう、タツくん、サニちゃん、カリちゃん!」
「たっべー」
「さにごぉ」
「かきりっ?」
ヨウカの声に応えてポケモン達はそれぞれ目を開けた。
そして朝食を注文しその部屋で全員で朝食をとり、ヨウカはポケモン達を磨いた。
「ポケマメ、おいしかった?」
「さにー」
ポケマメというのは、アローラ地方ではポピュラーなポケモンの餌だ。
なので今日のポケモンたちの朝食はそのポケマメであり、そのおかげで朝からポケモン達は元気いっぱいだ。
全員が朝から元気がいいのを確認したヨウカはいつもの服に着替えて、ポケモンセンターの人達に挨拶をした後でポケモンセンターをでた。
「さて、今日はどこまでいけるかなー?
がんがん強くなっていこーっ!」
ヨウカは右腕を高く突き上げてポケモンセンターをでる。
だがヨウカのその言葉を聞いたとき、ニャーくんは何かを考え込むように顔を俯かせた。
「どうしたの、ニャーくん、大丈夫?」
「にゃ!」
大丈夫と、気丈な返事を返すとニャーくんもまた、仲間達について行くのだった。
今彼女達が目指しているのは、アーカラ島のキャプテンの一人、ほのおタイプを得意とするカキの試練が行われる場所。
スイレンの話によれば、カキの試練はヴェラ火山公園という場所で行われるようだ。
ヴェラ火山は今なお活動を続けている活火山だ、試練もそれに関係しているのかもと思いつつ、ヨウカはその試練のためにポケモンをトレーニングしつつ進む。
そのトレーニングの一環として、彼女は今通りすがりのポケモントレーナーとバトルをしていた。
「ニャーくん、そこでほのおのキバ!」
相手のポケモン、アローラの姿のニャースにほのおのキバがヒットし、相手を戦闘不能にする。
自分のポケモンがやられたトレーナーはニャースを戻すと彼女の前から去っていった。
「ふぅ・・・これで5連勝だよニャーくん!
かなーり強くなったよね!」
「にゃ」
実はヨウカは立て続けに5人のトレーナーに勝負を挑まれていたのだ。
時々ほかのポケモンに交代して戦うこともあったが、それでもバトルにでる回数が一番多いのはニャーくんだった。
そんなパートナーにお疲れさまと声をかけつつブラシで乱れた毛並みをなおしていると、ある人物が彼女達に声をかけてきた。
「よう、ヨウカ!」
「あ、ククイ博士だ!」
その人物とはククイ博士だった。
こんなところで再会するとは、と思いつつヨウカは彼の前にたつ。
「なにか調査をしていたんですか?」
「ああ、この島にすむポケモン達の技を調べてたのさ!
もちろん、この身に受けてね!」
「えぇ・・・」
ククイ博士は主にポケモンの技について研究をしている。
ほかの地方には、タマゴや進化、野生の姿、そしてポケモンの起源について調べてるポケモン博士がいると聞いたことがあるが、この博士は彼らに引けを取らない。
そういえば、リーリエがククイ博士の研究スタイルについて悩んでいたなとヨウカは思いだした。
いつもククイ博士の白衣がボロボロになってしまうのだが、裁縫が得意ではないリーリエはいつも新しく買っているのだと言ってた。
「ほどほどにしてくださいよー?」
「あっはは!」
「反省してませんねその笑い方」
そんな話をしていると、ククイ博士はニャーくんがいることに気付きそちらの話題に変換させる。
「そういえば、そのニャビーはもう進化してもいいレベルだろうな」
「にっ!」
「え、そうなのニャーくん?」
「ああ。
君がニャビーと会ってから結構経ったし、ポケモンバトルもたくさん経験しているんだろう?
だから進化できるはずだ」
「へぇ」
ヨウカとククイ博士がそんな会話をしていると、ニャーくんの体が光り出した。
「と、言ってるそばから進化しそうだぞ!」
「にゃっ!?」
「おぉぉ、進化キター!」
ヨウカがニャーくんの進化に対して目を輝かせていると、ニャーくんは自分の異変に気づいて強く目を閉じなにかに我慢するような表情になる。
その様子に驚き戸惑っていると、進化の光は収まりそこにはニャビーのままのニャーくんがいるだけだった。
「あ、シンカをやめたロト!」
「えぇっ!?」
「自分で、進化の力を止めた・・・」
目の前で起きたことが信じられず、二人は目を丸くして口を開ける。
「どうしたの、ニャーくん・・・?」
「にゃ・・・ぅ・・・」
「ニャーくん!?」
どうしてニャーくんは進化しないのか、と疑問を抱いているとニャーくんは疲れたのか倒れてしまう。
あわててヨウカはニャーくんを受け止めてぐったりとしているニャーくんを抱き上げた。
「どうしたの、ねぇ、しっかりして!」
「進化を自分で止めるのは、そのポケモンにとってかなり体力を消耗することなんだ」
「・・・そうなんですか!?」
「今すぐポケモンセンターにつれてって、回復させた方がいい」
「はい!」
ヨウカはニャーくんを抱えるとククイ博士とともにポケモンセンターに駆け込んだ。
「あのニャビーは大丈夫ですよ、今日一晩ゆっくり休めばすぐ元気になります」
「よかったぁ」
ポケモンセンターに入りすぐジョーイさんにニャーくんを預けて回復し始める。
そこでジョーイさんに大丈夫だと言ってもらって安心した。
「だけどあの子、かなり無理してたみたいよ」
「えっ?」
「進化の兆しは結構前からあったけど、でもそれを必死で止めてたようね。
そのたびに疲れが出てたのをずっと我慢してて、今一気に出ちゃったというところかしら」
「そうだったんですか・・・」
初めて知った、ニャーくんの状態。
自分がトレーナーなのにそんなことに気付いていなかったんだ、と事実を知ったヨウカは落ち込み少し涙目になる。
そんなヨウカの頭をククイ博士はそっとなでた。
「ヨウカが気にする必要はないよ」
「でも・・・」
「ニャビーは元々感情を表に出さないポケモンだ、だから無理していても顔にはでないし態度もみせないんだ。
だから君が異変に気づかなかったのは、仕方のないことなんだよ」
「・・・」
「むしろ、君に選ばれたときにあんな嬉しそうな顔をしていたのが、僕としては驚きだったよ。
あのニャビーがあそこまで嬉しそうに、君のそばにいて一緒に戦うというのは極めて珍しい例なんだ。
あの子は、君のことをよほど好いているんだね」
「博士・・・」
ククイ博士はヨウカに優しくそう言った。
彼の言葉に少し心が軽くなったのか、ヨウカははいと返事を返してニャーくんのいる治療室を見つめる。
そのとき、ククイ博士のポケギアに通信が入った。
「もしもし?
・・・うん、ああ、そうか・・・わかった」
ククイ博士は通信をきると申し訳なさそうな顔をしてヨウカを見る。
「・・・悪いヨウカ、急な仕事が入ってしまったんだ。
ここはちょっと、カンタイシティへとんぼがえりさせてくれないか?」
「・・・仕事ならしょうがないですよ、戻ってください。
あとはあたしも、自分で何とかできますから」
「そうか、じゃあまた!」
「はい」
去っていくククイ博士を見送った後で、再びヨウカは今治療を受けて眠っているニャーくんに目を向けた。
「・・・」
「たっべ?」
「さにごぉ」
「かっき」
「あっ・・・」
ニャーくんのことをロトムにまかせ、外で一人俯きながら考え込んでいると、ポケモン達がヨウカのことを気にするかのようにヨウカに歩み寄ってきた。
「・・・みんな、ありがとう。
みんなも、ニャーくんを心配してくれてるんだね」
「たっべぇ」
「・・・あたしね、ニャーくんがどうして進化をいやがるのかとか・・・ニャーくんがなにを考えてるのか・・・ずっと考えてるんよ」
「かきりっ?」
ヨウカは自分のポケモン達に、自分が推理したニャーくんが進化をいやがる理由を打ち明けようとした。
ククイ博士の言葉、ロトムに調べてもらって知った事実、自分の思い。
そのすべてを。
「わっ!?」
「さにごっ!」
だがそのとき、なにかがヨウカ達に襲いかかってきた。
咄嗟にサニちゃんが全員の前にでてまもるを使って防御したので、ヨウカたちは無傷だった。
「なにっ!?」
「くくくっ・・・」
「スカル団!?」
彼女の目の前に現れたのはなんと、スカル団だった。
なぜこいつがここにいる、とヨウカは思い敵をにらみつける。
「なにしにきたの!」
「グラジオを倒したお前を倒せば、スカル団も安泰間違いなしだぜ!」
「まだそんなこと言ってるの!?
ちょっとそれはウザいよっ!」
「そのためには・・・おまえのポケモンを奪ってやる!
おまえのポケモンが手当を受けてるのは知ってるんだぜ!」
「・・・!」
ニャーくんをねらっていると聞いたヨウカはタツくんやサニちゃん、カリちゃんと顔を見合わせてうなずき、スカル団の男と向かい合った。
「タツくん、サニちゃん、カリちゃん!
みんなでニャーくんを守るよ!」
「生意気を・・・いっけぇ、コラッタ!」
「コラッ!」
スカル団は一気に3匹の、アローラの姿のコラッタを繰り出し、いかりのまえば攻撃を指示する。
「サニちゃんはとげキャノン、タツくんはりゅうのいかり、カリちゃんはこのはだよ!」
攻撃がくる前に3匹はそれぞれ技を放ち、コラッタの攻撃を防ぎそのまま同じ技で攻撃してフットバス。
「クククク、身を退けば見逃してやったものを」
「負けてるくせに強がり言うな!
それに・・・絶対に、退くもんか!
ニャーくんはあたしのポケモン、だから絶対に守る!」
「なにをいってんだぁ?」
スカル団はヨウカを見下しほくそ笑む。
「そんなロクに進化もしてねぇポケモン、価値なんてねぇんだし、オレに譲っても問題はないだろだろ!」
「うるさいっ!
あんた達なんかに、この子の良さなんてわかるわけないでしょ!
この、人生すべてがダサダサ軍団!」
「な・・・なにをぉぉぉ!?」
スカル団がヨウカに殴りかかろうとしたそのとき、炎が飛んできてスカル団をその炎の中に閉じこめる。
炎が消えたとき、スカル団は黒こげになったかと思いきや、身につけたものがすべて燃えて素っ裸になっていた。
「えっ・・・」
「フシャーッ・・・!」
「ニャーくん・・・!」
その技の正体は、治療室を飛び出したニャーくんだった。
ニャーくんは口から火を漏らしつつスカル団を睨みつけて脅す。
「くっそぉぉぉぉ!!」
やけどの痛みやすっぽんぽんであることにスカル団はなにもできなくなり、その場から逃げ去っていった。
直後、彼が繰り出したポケモン達も吹っ飛んでいき、そのスカル団にすべて命中したのだった。
「ふしゃぁ・・・」
「ニャーくんっ!」
ふらついたニャーくんをヨウカは受け止める。
他のポケモン達も、ニャーくんを心配しているようだ。
「ニャーくん・・・ありがとう・・・!」
「にゃ・・・」
ニャーくんは自分達を助けるために飛び出したことに気付きヨウカはニャーくんにお礼を言う。
ヨウカ達の無事に一瞬喜ぶが、そこでニャーくんは我に返ったかのようにうつむいた。
「あのね、ニャーくん。
あたし、ニャーくんが進化したくない理由・・・気付いたんだ」
進化の話になったときにニャーくんはぴくんと耳を動かして、ヨウカを見上げた。
その目には不安の色に染まっていた。
それに気付いたヨウカは、ニャーくんと向かい合ったまま話を続ける。
「あなたの進化、あたし見たよ。
最終的にはガオガエンっていうすっごく大きくてたくましいポケモンになるんやね」
「・・・」
「・・・ニャーくん、そのガオガエンになりたくないんでしょ?
姿が変わりすぎて・・・あたしに見放されちゃうのが、イヤなんだよね?
進化してかわりっぷりにショック受けて、手放しちゃう人がたくさんいるって・・・あたし、聞いたとあるよ」
「にゃ」
ヨウカの言葉に、ニャーくんは瞳を大きくし、目を揺るがせる。
そんなニャーくんに対しヨウカは、いっさい視線を逸らさない。
「・・・あたし、最初からわかってたんよ。
ポケモンは進化するし、ニャーくんもそうなるんだろうなって思うてたし・・・姿とか色々変わるのも、わかってた」
「にゃあ・・・」
ニャーくんは、最初にみたときからヨウカのことが大好きだった。
そして一緒に旅をして、ともに過ごしともに戦うなど、たくさんの経験を積んでいくにつれて、ヨウカに対する気持ちも大きくなっていた。
だから、彼女にだけは捨てられたくなかった。
そんなニャーくんの気持ちには、ヨウカは気付いていた。
「だけどね、あたしはあなたがいいの。
この気持ちは、変わらないから・・・ニャーくんにもその気持ち・・・持っててほしいの」
「ニャ・・・」
そう語りかけ、ヨウカはニャーくんを抱きしめる。
なにがあっても手放さないという気持ちを直接、伝えるために。
「姿が変わっても、どんなに大きくなっても・・・どんなことになっても!
ニャーくんはニャーくんで、あたしの大事なパートナーだよ!
あの時にククイ博士が言ってたとおり、一生の友達だよ。
だからね、ニャーくんがニャヒートに進化しても、ガオガエンに進化しても、あたしは手放さない!
進化して姿が変わったぐらいで簡単に手放すような人間にだって、あたしはなりたくない!
だって、あたしはニャーくんが大好きだし、ニャーくんと一緒にいくって決めたのもあたしだもん!」
「・・・!」
「あたしはね・・・強くなりたい。
あなたと一緒になら、できるとおもう・・・!
だから、もっともっと・・・先へ進もうよ・・・一緒に!」
「にゃあ・・・!」
ヨウカがそう言うと、ニャーくんはヨウカの腕から離れてその身体を赤く光らせる。
やがてニャーくんの身体は炎に包まれ、その身体を大きき変化させていく。
「あっ・・・」
前足は以前より太くたくましくなり、目つきも鋭くなり、首にはまるで鈴のように炎の珠がついた。
赤い光を放つ炎が消えたとき、そこには新しいポケモンがいた。
「ニィヒャッ!」
「ニャーくん・・・!」
ニャビーは、ニャヒートに進化した。
そのニャヒートを見つめたヨウカは、優しく微笑みかけながら自分の相棒をまた、抱きしめたのだった。
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ニャビーが中心の話ですね。
割と周囲にグサッとくるような内容をねらってみました。