No.958468

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第8話

小次郎さん

国に帰る美以たちと共にいるのは。
漢中の戦が始まる。

2018-07-01 02:20:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7003   閲覧ユーザー数:5105

(南蛮)

「みいお姉ちゃん、まだつかないの?」

「もうすぐなのにゃ、りり、疲れたのならおぶってやるのにゃ」

「ミケがおぶるにゃ」

「トラもにゃ」

「にゃん」

あー、ミケたちがりりをおぶって走り去ったのにゃ。

久しぶりに帰ってきたから大はしゃぎで困ったものなのにゃ、みいは大王だからそんな事はないじょ。

・・みいの歩みが速くなったのは気のせいにゃ。

大体、みいは怒ってるのにゃ!

いきなり食べ物や住む所のお金を払わないなら故郷に帰れなんて、みいは大王にゃのだからお金なんて必要ないじょ。

そう言い返したら問答無用で城から追い出されて、お金を持ってくるまで来たら駄目なんて、桃香も朱里もひどいにゃ。

おまけに見張りをつけるって、りり以外にもたくさんの人を同行させたにゃ。

こうなったら皆を一杯もてなして、みいの凄さを教えてやるじょ。

謝ってくるまで遊びに行ってやらないのにゃ!

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第8話

 

 

(成都)

「桃香様、美以さん達は無事に国へ戻られたとの事です」

「・・そう、大人数だったから少し心配だったんだけど、・・・良かったよ」

美以さんと共に南蛮に向かって頂いた方達は、此度の戦に反対され桃香様の命によって蜀から国外追放処分を受けた人達です。

国内は好戦派が大多数を占めている為に反対されていた方への中傷が酷く、それに南蛮兵の徴兵に徴収という上奏まで挙がって来まして、此のままでは危険と考えられた桃香様による苦渋の決断でした。

「はい、ですが璃々ちゃんの事は、本当によろしかったのですか?」

実は璃々ちゃんの同行は秘密裏で、紫苑さんにすら無断での行ないなのです。

「朱里ちゃん、全ての責任は私が取るから。・・紫苑さんにも私から話すから」

「桃香様」

美以ちゃん等に対する行いは、公には絶対に口にする事は出来ない未来予想図からのものです。

しかし、桃香様にとっては確定した未来なのでしょうか。

戦の嘆願書を上奏されても判断を保留していた桃香様に業を煮やしたのか、好戦派は挙って押し寄せ決断を迫ってきました。

不敬としか表現しようのない行動に、私と雛里ちゃんは愛紗さんや星さん等に協力を求め、胆力で押し返し頭を冷やさせようと相対しました。

これまでに数多の戦歴を持つ私達です。

碌に戦の経験の無い者達に遅れを取る訳がと、そう思っていたのです。

それなのに、戦を求め迫る方達から感じた途轍もない恐ろしさに、私達は抗う気力を奪われてしまいました。

・・あれは、狂気でした。

自分達の行動に何一つ疑問を思わず、同意しない者は心底見下す態度。

中立すら認めず、正義という言葉で己の身を固めた狂人の集団。

正にあれこそ乱世を引き起した漢帝国の権力者たちと同じ姿で、桃香様は「諾」と一言だけ口にして下がられました。

そんな桃香様がどれほど不自然なのか、喜色満面の方達には分からなかったでしょう。

そして遂に戦は始まりました。

勝つ事は難しくても、何とか五分、もしくは長期戦の戦況に持ち込んで和睦をと、雛里ちゃんや愛紗さん等と協議を重ね戦略を組み立てています。

他にも国内の内部粛清、呉国との同盟破棄も考案しています。

既に準備も始めていて、実行時には躊躇しません。

どんな悪評でも受ける覚悟は出来ています。

・・いえ、そもそも最悪の事態を招いてしまったのは私の所為です。

政に携わる身でありながら、法整備による国内の乱れを恐れ、名家や豪族を増長させてしまったのは私の罪なのです。

好戦派を非難する資格など、私にはありません。

・・桃香様、罰は必ずお受けします。

ですが戦を終結させるまでは、何卒、何卒お許し下さい。

 

 

(漢中)

漢中に限らず全ての侵攻は予告無きものだ、魏が対応に遅れるのは当たり前の事。

戦時中ではない以上、只の山である定軍山に多くの兵を配置する事などあろう筈がない。

「桔梗様、やはり二年前の敗戦は不運だっただけなのですね」

「気を緩めるでない、が、確かに順調と言えよう」

漢中の要所となる定軍山を翠が率いる先陣が速やかに占拠し、わしら蜀軍は最良の前線基地を手に入れた。

此処を拠点とする事により、防衛や兵站の負担が大きく軽減され、漢中への侵攻は既に成ったと言っても過言ではない。

紫苑の指揮により兵糧が運び込まれ、砦化も始まっている。

「焔耶、陽平関に向かった翠たちへの援軍に何時でも出陣できるようにしておけ」

「心得ました。しかし翠の奴、独断先行が過ぎませぬか?定軍山を陥とした功は認めますが、総大将である桔梗様に事後報告で先へ軍を進めるなど」

・・確かにな、少々気が逸り過ぎておる。

翠にとっては母の弔い戦ゆえ気持ちは分からぬでもないが、軍としての規律は絶対に守って貰わねばならん。

「分かっておる。陽平関を陥とした後は暫し後陣に下がって貰う。焔耶よ、次はおぬしが先陣を務めよ」

「ハッ、お任せ下さい」

先陣を任された事が嬉しかったのか、意気揚々と軍を束ねに向かう焔耶。

しかしあれも桃香様の為と浮かれておるからな、手綱をしっかりと握っておかねばならん。

漢中を陥としても最終目標である洛陽までの道程は長い。

「桔梗」

「ん、紫苑?何かあったのか?」

「いいえ、何も無いわ。・・でも、だからこそ拭えない不安があるの」

慎重な紫苑らしい意見だな。

実のところ、わしも釈然とせんものはある。

結果だけを見れば急襲に成功した、それは間違いない。

だが未だに魏軍の動きが掴めぬ、漢中にも駐在兵は居るであろうに報告は無い。

何か策なり罠なりがあるのでは?

いや、定軍山の重要性を考えれば流石に杞憂だろう、敵に易々と明け渡せる拠点ではない。

それに、わしとて油断はしておらぬ。

「見張りは多く出しておる、何かあれば直ぐに報告が届こう。それに定軍山は天然の要塞だ、お主とわしがおれば尚の事よ、五倍の兵力で攻め込まれても充分に耐えられる。陥ちる事はありえん」

「ええ、分かっているわ。分かっているのだけど・・・」

ふむ、元々紫苑は戦に反対であったからな、戦に気持ちが切り替わっておらぬのかもしれん。

思うところがあるのだろう、わしは賛成でも反対でもなかったが。

戦場に立つ者は全て平等よ、力なき者は倒れる。

何を考えていようと変わらぬ事実よ。

そして武人は主の命があれば戦い、戦場にて死力を尽くす。

わしにとっては、それだけの事なのだ。

 

どうにも嫌な感じが止まらないわ。

あの曹操を主とする魏国が、このまま私達に思い通りの行動をさせるとは到底思えないのよ。

如何に秘匿しようと情報とは漏れるものだわ、そもそも同盟中といえど細作を互いに出し合っているのは暗に分かる事。

戦乱を潜り抜けてきた者にとって、ましてや勝ち抜いた魏国の重臣なら尚更に。

桔梗に油断は無いし、私も注意を怠ってはいない。

・・でも私達の及ばない目論見があったら?

・・全ては魏国の掌中だったら?

陸の孤島とも言われる漢中。

だったら私達は、誰も助けには来てくれない孤立した軍なのかもしれない。

・・璃々、今ほど貴女を抱き締めたいと思った事はないわ。

 

 

 

「網にかかったか。・・ならば始めよう」

 

 

 

「お姉様、進軍速度を緩めないと。歩兵たちが付いて来れてないよ」

「どのみち道は狭くて戦えるのは限られてるんだ、ゆっくり来させたらいいさ」

翠お姉様が速度を優先するのは分かる。

定軍山は抑えれたし、あと陽平関を奪ってしまえば魏国は漢中を諦めると思う。

魏の態勢が整う前に陥とそうとするのは正しいよ。

でも唯でさえ進軍経路がか細くて兵列は冗長してるし、鬱蒼とした森のせいで周りの見晴らしも悪いんだよ?

進めば進むほど嫌な感じで、こんな場所で伏兵に襲われたらと冷や汗が止まらない。

半日に亘る進軍は生きた心地がしなくて、広い道に出て陽平関が見えた時は心の底からホッとしたよ。

「このまま一気に陥とすぞ!」

「待って!歩兵たちが追い付くまで待つべきだよ!」

そんなに大きな関じゃないけど、此処に居るのは二千の騎兵だけなんだから。

でも翠お姉様が止まらない。

何で?ずっと気になってたけど、やっぱり何かおかしいよ。

こんなの普段のお姉様じゃない。

止めないと取り返しが付かなくなる、そう思って馬首を寄せようとしたら、

「蒲公英、伏せろ!!」

いきなりの呼び掛けに頭が真っ白になって無意識に伏せたら、後ろから断末魔が聞こえた。

「矢だ、蒲公英!関の上からだ!」

関の上?確かに誰か立ってるみたいだけど、まだ全然判別出来ないくらいの距離がある。

えっ!?何か光って、

「伏せろっ!!」

お姉様がまた叫んで、言われるままに伏せたら先程と同じ様に馬から落ちた兵がいた。

「おそらく夏侯淵の弓だ!皆、身体を馬で隠せ!」

お姉様の指示が飛んで、たんぽぽ達は前傾姿勢になって馬の背で恐怖に耐える。

関に近付いて乱戦に持ち込めば弓は使えなくなるから、適切な判断だったと思う。

更に何騎か討たれたけど、関までもうすぐ。

・・でも、この判断も向こうの導きだったんだよ。

嫌な音と共に馬上から投げ出されて、地面に叩き付けられる。

隠されていた杭に、たんぽぽ達が全力で馬ごと突っ込んだから。

関からの矢は杭に気付かないようにする為で、本命はこっちだったんだ。

 

関門が開いて、魏兵が押し寄せてくる。

あたしは痛む身体に力を振り絞って立ち上がる、・・左腕は折れてるか。

急激に勢いを殺されたから兵は半ばくらいまで押し潰れちまった、立て直すのは無理だな。

「・・蒲公英、動けるか?」

「死ぬほど痛いけどね。・・何をのんびりと構えてるのさ、今の状況を分かってるの?」

「・・分かってるさ、絶体絶命なんだろ。だから蒲公英、お前は逃げろ。あたしが殿を務めるからさ」

「なっ!何言ってるの、翠お姉様!」

・・ハハッ、蒲公英が驚くのも当たり前だよな。

こんな状況じゃ、どう考えたって殿なんかしたら生き残る道なんてないからな。

でもさ、

「・・すまない、蒲公英。・・これがさ、あたしの望みだったんだよ」

やっと、この時が。

この二年間、空っぽだったあたしの生に、ようやく火を灯せる時が来たんだよ。

・・成都での戦が終わってからさ、あたしの気持ちは宙ぶらりんになっていた。

停戦になんか納得出来る訳もなくて、同盟締結の場に乗り込んで全てを無にしてやると思ったりもしたけど、所詮あたしは亡国の将で、主役だった桃香や曹操の出した結論に口を挿める立場じゃなかったから。

桃香たちには世話になってる手前、納得したような返事をしてたけど、母様や国の事を考えると身が引き千切られる思いだったよ。

怒りと憎しみが全てだった。

でも母様の最期や以前より栄えている国の事を聞いて、憎悪の気持ちだけを持つ事が出来なくなっちまってるあたしがいた。

だけど無くなる訳でも無くて、どうすればいいのか何も分からなくなってたんだよ。

・・そう、あたしは死に場所を求めて、戦場に出たんだ。

「蒲公英、今迄ありがとうな。悪いが最期の我儘だ。・・お前は、生きてくれ!」

「翠お姉様!!」


 
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