No.951196

英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

soranoさん

2章開始 題名 〜再会のクロスベル〜


外伝~それぞれの再会の鼓動~

2018-05-04 23:50:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1587   閲覧ユーザー数:1368

 

 

エレボニアの帝都であるヘイムダルの大聖堂の近くにある”聖アストライア女学院”にて、紺色の髪の女生徒がある女生徒にとっての朗報を伝えていた。

 

帝都ヘイムダル・サンクト地区・聖アストライア女学院~

 

「ほ、本当ですか……?」

「ええ、寄付金の一部をお返しし、今後の授業料として充当―――これで卒業までの心配はないと思います。」

「ああっ………ありがとうございます!リーゼアリア会長にはどう感謝していいのか……!」

紺色の髪の女生徒――――リーゼアリア・クレールの説明を聞いた女生徒は嬉しそうな表情を浮かべた。

「ふふ、学生会長として当然のことをしただけですよ。………それに、ここだけの話ですが貴女のような生徒は他にもいます。ですから今回の件も引け目に感じないでくださいね?」

「………はい。本当にありがとうございます。ふふっ、安心しすぎて気が抜けちゃったというか……なんだか突然、お腹が空いてきちゃいました。」

「ふふっ、よかったら紅茶とクッキーでも召し上がりますか?差し入れで頂いたものですけど。」

「わあっ、いいんですか!?―――そうだ、でしたら前々からお聞きしたい事があったんです!その、会長の”お従兄(にい)様”についてなんですけど……!」

「え。」

女生徒が突如言い出した言葉にリーゼアリアは呆け

「若き英雄、”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー様!ずっとずっとファンだったんです!」

リーゼアリアの様子に気づいていない女生徒は憧れの表情を浮かべて語っていた。

「そ、そうですか。まあ本人は、英雄と呼ばれるのは面映いと思っていらっしゃっているようですけど……」

一方女生徒の様子を見たリーゼアリアは困った表情で答え

「とんでもない!女生徒全員の憧れですよ!何でも新設された士官学校の教官に就かれたとか!?しかも皇女殿下もリィン様を陰で支える為にリィン様が就かれた士官学校の宿舎の管理人に就かれたともうかがっていますわ!女生徒はいるのかしら?はぁ~、妬けちゃいますねぇ。」

「え、えっと………貴女も今口にした通りリィンお兄様は既に既婚者――――アルフィン皇女殿下を娶っている事に加えて他にも多くの婚約者がいらっしゃっているのに、そこまで気にする必要はあるのですか?」

リィンに対して凄まじい憧れを持っている様子の女生徒に対してリーゼアリアは戸惑いの表情で訊ねた。

「当然じゃないですか!リィン様は皇女殿下と結ばれたにも関わらず、他にも多くの婚約者がいらっしゃっている事で、私達もリィン様にお近づきになれて、あわよくばリィン様の伴侶の一人にして頂けるチャンスがまだまだ残っている証拠なのですから!あ、そう言えば”あの噂”は本当なんでしょうか!?会長のお従兄様と新皇女殿下が―――――」

「―――アリア、いるかしら?」

そして女生徒が更なる質問をリーゼアリアにしようとしたその時、扉がノックされ、娘の声が聞こえてきた。

 

「あ……」

「ええ、どうぞ。」

娘の声を聞いた女生徒が驚いて背後へと振り向いている中リーゼアリアは声の主に部屋の入室を促した。すると扉が開かれ、金髪の女生徒が部屋に入って来た。

「あら、先客だったかしら?」

「と、とんでもありません!ちょうど話も終わった所で――――ご、ごきげんよう!わたくしはこれで失礼致します!リーゼアリア会長……またお話を聞かせてくださいね!」

金髪の女生徒の言葉に緊張した様子で答えた女生徒は金髪の女生徒に会釈をしてリーゼアリアに声をかけた後慌てた様子で部屋から退室した。

「あら……お邪魔しちゃったかしら?」

「ふう……どうせ狙って声をかけたのでしょう?」

女生徒を見送った後呟いた金髪の女生徒の言葉に呆れた表情で溜息を吐いたリーゼアリアは金髪の女生徒に指摘をした。

「ふふっ………だってアリアがリィンさんの事で困っていそうだったから。いっそ言ってあげたら良かったのに。『残ったお従兄様の伴侶の枠は14年前から決まっています』ってね♪」

金髪の女生徒―――――アルノール皇家の養子になった事で新たなるエレボニア帝国の皇女となったリーゼロッテ・ライゼ・アルノール皇女はリーゼアリアを見つめてウインクをした。

「ふう……またそんな事ばかり。そう言うロッテの方こそ、噂になっているわよ?『若き英雄”灰色の騎士”と皇城で親密そうなやり取り………夏至祭でのお約束か!?』なんて。」

「あ、あれは年始のパーティーでアリアの話をしていただけで………その、少し相談にも乗っていただいたけど………ふう………降参よ、アリア。学生会長を引き受けてから付け入る隙がなくなったというか。先生方からも、生徒たちからも頼りにされているみたいだし。」

リーゼアリアの指摘に対して驚いたリーゼロッテは慌てた様子で言い訳をしたがすぐに諦めて降参した。。

 

「ふふ、ここまで従兄が有名になると従妹としても気を使うわ。――――それに、学生会長として力不足を痛感することもあるわ。……”あの子”の力にもなれなかったし………」

「……仕方ないわ。経済的な事情でもなかったし。アルフィンお義姉(ねえ)様の手紙によると”あの子”も第Ⅱ分校の生徒として通っているそうだけど……その事も含めて手紙の返事がまだ来ない事は気になるわね。ちゃんともう一度手紙を書いて第Ⅱ分校の宿舎に送ったのに……」

「ええ…………手紙の件で思い出したけど、例の件―――1年半前の件で退学なされたアルフィン皇女殿下の聖アストライア女学院への復学の件はどうだったかしら?」

「ダメだったわ。宿舎の管理人が増えた事で宿舎の管理人を務めておられるお義姉様が不定期でも、女学院に通える時間は取れると思ってもう一度手紙で頼んでみたのだけど……『今のわたくしはメンフィル帝国の貴族の一人であられるリィンさんの伴侶―――つまりメンフィル帝国に所属している事になります。”今のわたくしが所属している国であるメンフィル帝国”の指示によって第Ⅱ分校の宿舎の管理人を務めている上1年半前の件で散々メンフィル帝国に迷惑をかけたのに、メンフィル帝国の許可もなくそのような身勝手な事はできませんし、リーゼアリア(あなた)にも迷惑をかけてしまう事になるわ』と書いてあったわ。わたくしはそんな事、気にしないのに……」

「その………メンフィル帝国の許可が必要なら、リベールにあるメンフィル帝国の大使館に皇女殿下の女学院への復学の許可を頂く為の手紙を送ってみたらどうかしら?確かリベールにあるメンフィル帝国の大使館にいらっしゃるメンフィル帝国の大使は前メンフィル皇帝であられるリウイ前皇帝陛下なのでしょう?」

「さすがにそれはわたくしだけの判断で決められないわ。幾ら元自国の皇女の為とはいえ、手紙を送る相手は今は隠居の立場とはいえ、一国――――それも1年半前エレボニア帝国の戦争相手だったメンフィル帝国の皇帝で、しかもエレボニア帝国に侵略したメンフィル帝国軍の総大将を務めていた方なのだから……そうだ。貴女の方から、メンフィル帝国にお義姉様の女学院への復学を許可して欲しい事をリィンさんとエリゼさんに伝えてもらえないかしら?」

リーゼアリアの提案に複雑そうな表情で答えたリーゼロッテはある事を思いついてリーゼアリアに訊ねた。

「……1年半前までの私の実家とお兄様達――――シュバルツァー家との関係を知っていて本気で言っているのかしら?お二人とも手紙の返事はちゃんとしてくださっているけど、14年前のリィンお兄様の件で私達―――”クレール子爵家”はシュバルツァー男爵―――いえ、”シュバルツァー公爵家”と一方的に断絶したのだからリィンお兄様は当然として、エリゼお姉様にもそんな厚かましい事を頼む事はできないわ。特にエリゼお姉様は半年前の件―――――帝国政府の改革によって将来のクレール家の存続を危ぶんだお父様達が私とリィンお兄様を婚約させようとした件で、内心クレール家(私達)に対して怒りを抱いているでしょうし………」

一方訊ねられたリーゼアリアは複雑そうな表情で答えた後悲しそうな表情を浮かべた。

「………ごめんなさい。フウ……ヴァンダール家の処遇といい、お義兄様の件といい、暗い話題ばかり。リィンさん達の第Ⅱ分校の演習先でも”事件”が起きたんでしょう?」

「ええ………サザ―ラント州ね。怪しげな兆候もあったみたいで………私や貴女も気をつけるようにと通信で言われたわ。」

「そう………ありがたいわね。それに比べてセドリックは………どうしてあんな風に………」

「ロッテ………」

複雑そうな表情を浮かべているリーゼロッテをリーゼアリアは心配そうな表情で見守っていた。

「そうそう―――すっかり本題を忘れていたわ。”例の話”なのだけど……何とか都合はつけられそうかしら?」

「ええ、学生会の案件も予定通り片付きそうだし。喜んでお付き合いさせてもらうわ。」

そして話を変えたリーゼロッテの言葉に対してリーゼアリアは静かな笑みを浮かべて答えた。

 

クロスベル帝国ノルティア州、ルーレ市

 

~同時刻・RFグループ本社ビル12F・第四開発部・PM(プロジェクトマネジメント)オフィス~

 

一方その頃1年半前クロスベル帝国の領土となったルーレ市にあるRF(ラインフォルトグループ)の本社ビルのある場所で金髪の娘が社員たちに指示を出していた。

「新型端末の受注は進めて。ただしVerは半々にしましょう。コスト、操作性、パフォーマンス、セキュリティ面で評価してちょうだい。」

「了解しました。」

「鉄道公社の業務システムも納入は完了してるわね?」

「はい!稼働テストは今週末です!」

「立ち合いはよろしく。アフターサービスについてもわかりやすく説明してあげて。」

「お任せください。」

金髪の娘を次々と指示を出していると通信の音が聞こえ、通信の音に気づいた金髪の娘はすぐに耳につけているインカムで通信を開始した。

「こちらラインフォルト。どうしたの?」

「財団のクロスベル支部から通信が入っています。いかがしますか、室長?」

「すぐに出ると伝えて!―――ミーティングは以上。みんな、よろしくお願いね!」

「はいっ!」

そして通信と指示を終えた金髪の娘は別の部屋に入って行った。

 

「はあ……いいよなぁ。ラインフォルト室長。」

「あの若さ、あの美貌に加えて頭も切れて度胸もあるし、気配りもできてるし………」

「ふふ、さすがはイリーナ会長の娘さんって感じですよね。それでいて、年頃の娘さんらしい可愛らしいところもありますし。」

金髪の娘がその場から去った後社員たちはそれぞれ憧れや感心した様子で上司である金髪の娘について話していた。

「いや~、ここまで忙しいとちょっと可哀想かもねぇ。婚約者さんとは今どうなっているのかしら?」

「ちょ、止めてくださいよ!」

「室長は俺達全員のアイドルなんですから!そしてその室長と婚約しているその婚約者は俺達にとって最大の宿敵ですよ!」

「そうですよ!”帝国の至宝”と称えられていたあのアルフィン皇女殿下と結婚したにも関わらず、室長を含めて8人の婚約者がいるって話でしょう!?幾ら”英雄”と称えられて、将来大貴族になる事が内定しているからと言って、やっていい事と悪い事がありますよ!」

「全くだ!俺達どころか、世界中の男の宿敵ですよ、室長の婚約者――――”灰色の騎士”は!」

女性スタッフの一人がふと呟いた言葉を聞いた男性スタッフたちはそれぞれ血相を変えて反論した。

「いや、キモいから。というかそもそも、室長が1年半前その”灰色の騎士”さんと婚約関係になったからこそ、列車砲の件でRF(わたしたち)に対して怒りを抱いていたクロスベル帝国も矛を納めたそうだから、むしろ室長と”灰色の騎士”さんの関係が良好であり続けてもらわないと私達が困る事になるかもしれないわよ?」

「そうよね。大体その婚約は政略結婚な意味合いはあるけど、それは結果的にそうなっただけの話で室長自身は灰色の騎士と普通に恋愛をして婚約関係になったって話だし、イリーナ会長も二人の仲を公認しているのだから、”部外者”の私達が室長達の恋についてどうこう言う権利は――――――」

対する女性スタッフ達は呆れた様子で男性スタッフ達の反論に対して答え始めた。一方スタッフたちがそんな会話をしている事を知らない金髪の娘――――ラインフォルトグループ会長の一人娘であり、”旧Ⅶ組”の一人にしてリィンの婚約者の一人でもあるアリサ・ラインフォルトはオフィスチェアに座って通信を開始した。

 

「お待たせしました。―――ふふ、先月ぶりですね。」

「ええ、その節はどうも。運用レポートは受け取りました。ARCUSⅡ――――順調みたいですね?」

アリサの通信相手――――漆黒の翼を背に生やした白衣の娘はアリサにある確認をした。

「ええ、おかげさまで。マスターシステムのサブ化も上手く行ってるみたいですし。遠距離通信の精度も思った以上に素晴らしいですね。」

「うーん、あれはブースターなどの設備がないとどうも不安定なのですが……RFの方で相応の設備を用意したんですか?」

「えっと、実はちょっと裏技を使わせてもらっていまして……今度お会いする時にでもお話しできると思うんですが。―――できれば、仕事以外のプライベートな時にでも……」

「……なるほど。こちらも何かネタを仕入れておきましょう。楽しみにしていますね。アリサ・ラインフォルト室長。」

「こちらこそ――――ティオ・プラトー主任。あ、それと私事になりますが、今度お会いする時に他にも聞きたい事があるのですが………」

「?私で答えられる事でしたら、答えさせて頂きますが……一体どのような事でしょうか?」

白衣の娘―――――リィンがクロスベルに派遣された際、ランディと同じくリィンの同僚だった元”特務支援課”の一員――――ティオ・プラトーはアリサの言葉を濁した様子の問いかけに不思議そうな表情で首を傾げて問いかけた。

「えっと……その………ティオ主任が1年半前まで財団の出向で所属していた部署の同僚の方の事で聞きたい事があるんですけど…………」

「私が1年半前まで財団の出向で所属していた部署――――”特務支援課”の……?―――ああ、なるほど。フフッ、そのくらいでしたらお安い御用です。ですがその代わり、アリサ室長がたった約2週間で、しかも敵対関係だったにも関わらずリィンさんに”落とされた”経緯を教えてくださいね?」

恥ずかしそうな表情で遠回しな問いかけをしたアリサの問いかけを聞いたティオは首を傾げたがすぐにアリサが誰の事で自分に訊ねようとしているのかを察し、静かな笑みを浮かべて答え

「ええっ!?」

「フフ……――――それでは失礼します。」

自分の問いかけに驚いている様子のアリサをティオは静かな笑みを浮かべて見つめた後通信を切った。

 

「ふう……彼女に会えるのは嬉しいけど。スケジュールが山積みなのは何とかしたいわね………」

「―――お嬢様、失礼します。」

ティオとの通信を終えたアリサが一息ついて今後の事を考えていると扉がノックされ、アリサにとって馴染み深い声が入室の許可を訊ねた。

「あ、うん、入って。」

「お疲れ様です。紅茶をお持ちしました。」

「あ……もう3時なんだ。ありがと、シャロン。よかったら付き合ってちょうだい。それと、みんなには――――」

「ふふ、コーヒーとお菓子をお出ししておきましたわ。」

アリサの許可を聞いて入室してきた紫髪のメイド――――ラインフォルト家に仕えているメイドにして結社”身喰らう蛇”の”執行者”の一人でもあるシャロン・クルーガーが持ってきた紅茶とお菓子で、アリサはシャロンと共に休憩をしていた。

 

「は~、生き返るわねぇ。ホント、シャロンのお茶とお菓子はオアシスというか生命線だわ。」

「ふう……頑張っていらっしゃるのはいいのですが少しは潤いも大事にされませんと。たまにはⅦ組や特務部隊の皆さんと連絡をお取りになっては如何ですか?」

「悪かったわね、潤いがなくても。フフン、でも言われなくてももう少ししたら”彼”にも――――……………」

シャロンの提案に呆れた表情で答えた後得意げに反論しかけたアリサだったが、すぐにシャロンに乗せられた事に気づくと頬を赤らめて恥ずかしそうな表情でシャロンから視線を逸らした。

「あらあら、言わずもがなでしたか♪そう言えば先日、ラウラ様やフィー様、ステラ様と通信で話されていたみたいですけど。」

「さ、察してるんならわざわざ言わないでちょうだい!……もう、それよりも自分はどうなのよ?最近、本社を空ける事も多いし、母様の手伝いばかりしていない?……それとも”昔”の関係で何かあったとか……」

「ふふ……それこそまさか、ですわ。過去は過去――――わたくしの愛と献身の対象が変わる事だけはあり得ません。ですからどうか、ご安心ください。」

アリサの問いかけに目を丸くしたシャロンは苦笑しながら答えた。その後休憩を終えて後片付けをしたシャロンは退室した。

「……やっぱり最近ヘンよね。妙に優しかったり昔を懐かしむようなことを。!来たわね――――」

シャロンの様子を見守り考え込んでいたアリサだったが、ARCUSⅡから鳴り響く”Ⅶの輪”の音に気づき、通信を開始した。

「ふふっ、こんにちは。」

「一応、指定した時間だがそちらは大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。仕事の区切りは付けたから。それじゃあ二人とも、段取りを詰めましょうか?」

そしてアリサはある人物達と今後について話し合い始めた。

 

~パルム近郊、アグリア旧道~

 

「ええ、ええ………私も”やり残し”を片づけたら出発するつもりです。ふふ――――それでは現地で。」

一方その頃通信を終えた眼鏡の娘――――旧Ⅶ組の一人にして”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”の一人であるエマ・ミルスティンはARCUSⅡを元の場所に戻した。

「ふう、もう少し早く掴めていればこの地でも会えたんだけど……ふふっ、でももうすぐね。」

「まったく。嬉しそうにしちゃって。しかし人間ってのは面白いことを考えつくわねぇ。あの皇子が隠しもってた”遠話”のアーティファクトを通信網に利用するなんて。ま、あの裏技使いの遊撃士も絡んでいそうだけど。」

するとその時エマの足元から声が聞こえ、声が聞こえた方向にエマが視線を向けるとそこには黒猫がいた。

「ふふ、それとアリサさんの協力があってこそね。つくづく色々な人達の縁に助けられているわね。」

「”秘蹟”を守る一族としては本来どうかとは思うけど。でも―――何だかアイツ妙な事になってるみたいね?あの皇子が設立した分校への派遣の件もそうだけど、ゼムリアともディル=リフィーナとも異なる世界から現れた”魔女”―――それも”予知能力”なんてとんでもない”異能”を持っている人物の担当を受け持つ事になったんでしょう?そんなとんでもない人物とアイツがそんな関係になるなんて、とても偶然とは思えないわね。」

「ええ、しかもプリネ皇女殿下達の話だとその”魔女”の方―――ゲルドさんが見た”未来”で今後起こりうる可能性があるリィンさん達の戦いでゲルドさんがいたとの事だから、その戦いにゲルドさんがいる”意味”もあると判断したゲルドさんが自ら分校に来たそうだから、”次の演習地”で実際に会ってゲルドさん自身の事やゲルドさんが見た”未来”がどのような”未来”なのかを訊ねる機会があればいいのだけど………―――その前にこちらを片付けておかないと。」

黒猫―――エマの使い魔にしてお目付け役でもあるセリーヌの言葉に頷いたエマは表情を引き締めてある石碑を見つめて魔導杖を取り出した。

「この地の”霊窟”はここだけ――――手を貸してちょうだい、セリーヌ!」

「任せておきなさい、エマ!」

そしてエマはセリーヌと共に石碑にある魔術をかけ始めた。

 

~同時刻・レウィニア神権国・王都プレイア・セリカの屋敷~

 

同じ頃”ディル=リフィーナ”のアヴァタール地方最大の神権国――――レウィニア神権国の王都――プレイアにある”神殺し”セリカ・シルフィルとその使徒達が住む屋敷の自室で夕焼けのような色を赤髪を持ち、海のような蒼い瞳を持ち女性と見間違うほどの美貌を持つ男性――”神殺し”セリカ・シルフィルは本を読んでいた。

(やれやれ、1年半前のクロスベルの騒乱以来ゼムリアでも、このアヴァタールでも何も起こらず暇だの。そろそろまたひと暴れしたいから、どちらかの世界でまた”何か”が起こらないかものだの。)

セリカが本を静かに読んでいるとセリカの愛剣でありかつては”神”であるセリカの身体を狙って死闘をし続けた魔神であり、死闘の末セリカの愛剣となった”地の魔神”――ハイシェラは退屈をしていた。

「縁起でもない事を言うな。何も起こらず、平和のままが一番だろうが。それにそんな事を言っていると、本当にまた”何か”が起こるか――――」

「セリカ様、よろしいでしょうか?」

ハイシェラの念話を聞いたセリカが呆れた表情で答えかけたその時、扉がノックされてセリカにとって馴染み深い人物の声が聞こえてきた。

「ああ。」

「――――失礼します。セリカ様、先程エヴリーヌさんがいらっしゃり、この手紙をセリカ様に渡して欲しいとの事です。」

「エヴリーヌが?エオリアからの手紙か?」

部屋に入って来た茶髪のメイド――――セリカの”第三使徒”であるシュリ・レイツェンから手紙を手渡されたセリカはシュリに訊ねた。

 

「いえ、エヴリーヌさんの話ですとヴァイスハイト皇帝陛下からの手紙との事ですが………」

「何?ヴァイスからだと?……………………………」

意外な人物からの手紙である事をシュリから聞かされたセリカは眉を顰めた後手紙を読み始めたが、手紙に書かれてある内容を読むごとにセリカの表情は険しくなり始めた。

(おい………お前が縁起でもない事を言っていたせいで、本当に起こっただろうが……―――それも1年半前のクロスベルの騒乱すらも超えるような出来事が。)

(我のせいで起こった訳でもないのに、我に責任をなすりつけるなだの。しかし………クク、どうやら1年半前の騒乱よりも血肉が湧き踊る戦いになりそうで、今から楽しみだの。)

「あ、あの………?ゼムリア大陸で一体何が起こったのでしょうか……?」

呆れた様子のセリカはハイシェラに恨み言の念話を送り、対するハイシェラはいつもの調子で答えた後好戦的な笑みを浮かべ、二人の念話が聞こえていたシュリは不安そうな表情でセリカに訊ねた。

「………―――正確に言えば”これから起こる”事だ。―――シュリ、旅支度の準備を。準備を終えたら”冥き途”に向かい、ナベリウスと合流した後そのままミルスを経由してクロスベルに向かう。最低でも数ヵ月はゼムリア大陸で活動する事になるから、準備は念入りにしておいてくれ。」

「え………――――かしこまりました。ロカさんには連絡しなくてよろしいのですか?」

セリカの指示に一瞬呆けたシュリだったがすぐに気を取り直して会釈をした後セリカにある確認をした。

「世界中を回って活動しているあいつに連絡がつくとは思えないが………今から俺が書く手紙を一応ベテルーラの神殿に送ってくれ。―――勿論差出人は俺ではなく、お前の名前でな。」

「え………どうして私の名前で……」

(”神殺し”であるセリカの名前で送った手紙が軍神(マーズテリア)の神殿に届けば、絶対ロクでもない事が起こる事は間違いないから、セリカの名前ではロカ嬢ちゃんに手紙は送れないからだの。)

「あ…………―――かしこまりました。それでは私はマリーニャさん達と一緒に旅支度を始めますので、手紙を書き終えましたらお呼びしてください。」

セリカの指示を不思議に思ったシュリだったがハイシェラの指摘を聞くと理由を察し、セリカに会釈をした後部屋から退室した。

「………”鉄血宰相”に”黒のアルベリヒ”、そして二人に加担する愚か者共。未来に生まれてくるサティアが平和に過ごせるように、お前達の愚かな”野望”は徹底的に叩き潰させてもらう……!」

(やれやれ………エステル嬢ちゃんの娘に生まれ変わった愛する女が平和に過ごせるようにする為だけに、セリカに目をつけられた者共は”哀れ”だの。)

そしてセリカは決意の表情で外を見つめ、セリカの様子を見守っていたハイシェラは苦笑していた――――――

 

 

 

 

 

今回の話にてエリゼとアルフィンの代役を務めるリーゼアリア、リーゼロッテがようやく登場しました。なお、リーゼアリアの容姿やスタイルは『賢者の孫』のシシリーで、リーゼロッテの容姿やスタイルは『精霊幻想記』のリーゼロッテで髪の色だけ金髪にした人物だとイメージしてください。そして今回の話の最後でまさかの戦女神シリーズの主人公にして、エウシュリーキャラの中でも最強クラスかつ数あるエウシュリーの主人公でも恐らく最強キャラである”神殺し”セリカ・シルフィルが登場しました!サティアがゼムリア大陸で平和に過ごせるようにする為だけにセリカに敵認定された人物達はご愁傷様でしょうね(大爆笑)なお、2章終盤ある敵キャラ相手のセリカ無双の話を予定していますのでセリカ無双を楽しみにしている方達はその時までしばらくお待ちください。


 
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