No.95110

真・恋姫無双 季流√ 第7話 天の価値は?

雨傘さん

いつも応援ありがとうございます!
今回は拠点っぽい話になっています。誰のってわけではないですが……
華琳様の一刀に対する態度が決まってきました。

2009-09-13 00:06:54 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:39353   閲覧ユーザー数:24599

 

あの騒動から数日後、華琳の元に朝廷からの使者が訪れる。

 

「韓居に代わり、辺り一帯の統治を曹 孟徳に任命する」

 

こうした知らせを受け、束縛の無い人事権を得た華琳は人事の大刷新を行う。

 

韓居は牢で色々騒いでいたが朝廷の使者に引き渡された、もう2度とこの地を踏むことはないだろう。

 

家督で居座るだけの無能者は徹底的に排斥し、優秀な者なら平民あがりでも次々に要職を任せていく。

 

韓居の息がかかっていた他の文官達が曹操に媚びてきたが、所詮叩けばいくらでも埃が出る奴等、韓居がいないこいつらなどただの雑魚同然。

 

直ぐに悪事の証拠を突きつけられて、むしろ御用となっていく。

 

捕らえられていた村人達は村へ返し、人身売買をしていた組織は今までの鬱憤を晴らすような春蘭の大活躍によって壊滅。

 

そこで人を買ったとされる名簿を没収すると、名簿に書かれている富豪や豪族達に軍を指し向かわせ、次々とその財産を接収することに成功した。

 

こうして潤沢な資金を得た華琳たちは本格的な軍の拡張を開始し、同時に治水、開墾作業を充実させ磐石の基礎を築き始める。

 

その資金の一部を、被害が出た村へ補償金として配布することも決定。

 

懐を全く痛めずに曹孟徳の名声は、瞬く間に大陸全土に広がり、陳留を中心とした街は大陸でも1、2を争うほどの賑わいをみせることになる。

 

「まったく、毎日毎日仕事は尽きないわね」

 

華琳の嬉しそうな声に、隣で執務をしている桂花が書簡に目を通しながら同意する。

 

「はい! これも華琳様の名声が大陸に轟いているからに他なりません」

 

「韓居がいなくなっただけで、こんなにもやりやすくなるなんて……

 桂花、この部分はどういう意味なのかしら?」

 

「少々お待ちください……これはこう、ですね。

 こちらの資料を合わせてご覧になってください」

 

「ありがとう……そういえば一刀は、一体どうしているのか知ってる?」

 

「むぅ……あんな男のことなんて……」

 

桂花が何かぶつぶついっているが華琳もそろそろ慣れてきた。

 

「フフ……かわいいわね桂花。

 でもあなたも認めているのでしょう?

 先の細作のような行動には驚いたけれど、それだけ有能であることに違いは無いわ」

 

「私はあんなの認めてなどいません!」

 

正直になれない桂花が微笑ましい。

 

「……北郷は街にでも行っているのではないでしょうか? 特にあの後命じたこともないですし」

 

「そう、では仕方がないわね。

 じゃあ桂花、広がった領土の懸案としてあがっている事項を纏めてくれないかしら?」

 

「はい! それでは今すぐ作成にかかります」

 

そういって幸せそうに笑う桂花は、部屋から出て行った。

 

そして夕方になって桂花が戻ってくると、大きな懸案事項を纏めた書類を持っている。

 

本当にやることは尽きないのだが、一切手は抜けない。

 

「ふむ……増えた住民の住居や仕事の斡旋、土地の開墾、それとそろそろ治水の時期でもあるわね……軍の調練の方はどうなっている?」

 

「はい、現在春蘭が中心になり連日にわたって新兵の訓練を含め行っていますが、少々手に余っているように思われます。

人事を刷新したおかげで大分文官武官が育ってきてはおりますが……」

 

「どれもなかずとばず、か……

 文官武官が充実する前に、領土がかなり広まってしまったわね。

 韓居の時の人間はろくなのがいないし……

 秋蘭にも周辺地域へ偵察を連日いかせているし、このままでは不味いわね。

 誰かに倒れられたら途端に厳しくなるわ」

 

「はい、それに……私は華琳様が心配です。

 もう何日も休まず、睡眠時間を削っているではありませんか」

 

「私は大丈……いいえ、止めておきましょう。

 確かに、少し疲れたわね。

 桂花も疲れたでしょう?」

 

「わ、私は大丈夫です!

 私は華琳様にお仕えしていることが幸せなんですから」

 

「ふふ、かわいいわね桂花」

 

「ぁあぁ……華琳さまぁ……」

 

華琳の手が桂花の頬に触れ、桃色の雰囲気がブワッと広がっていく。

 

コンコン

 

この城で”のっく”なるものをする人間は1人しか居ない。

 

「……入っていいわよ」

 

淡々と華琳が言うと、一刀が部屋に入ってくる。

 

「よう、あれ? …………ごめん。

 お邪魔だったかな?」

 

華琳達の体勢をみて察したのか、顔を赤くした一刀がすまなさそうに謝った。

 

桂花は半脱ぎだったので目のやり場に困る。

 

邪魔をされた桂花なんて凄い形相になっており、もはや念で殺せる形相だ。

 

「ご、ごめん! 後で出直すから!」

 

慌てて出て行こうとする一刀を華琳は止める。

 

「待ちなさい!一体なんの用かしら?」

 

「うぅ……いや、俺はほら役職についているわけでもないしさ、季衣や流琉たちも忙しそうにしてるし……」

 

「ようするに、暇と?」

 

「まぁそう言われると身も蓋も無いんだけど……

 皆忙しそうにしているから、なんか居た堪れなくてな。

 それでいくつか気になったことを纏めておいたものがあるんだけど、目を通して貰えないかな~って思って……」

 

そういって一刀はいくつかの書簡を取り出して机に置く。

 

「今の時期、手間を増やして欲しくはないのだけれど?」

 

「それはすまん」

 

本当にすまなそうに頭を下げる一刀。

 

「それに……一体誰に書いて貰ったのよ?」

 

「え? 自分で書いたんだけど……

 ごめんな? 言葉がちょっと滅茶苦茶かも知れないけど、多分意味はわかって貰えると思うからさ」

 

__何?

 

一刀はこの間まで字が読めなかったのではなかったか?

 

「いやぁなんか街を歩いてて色々話を聞いてさ。

 いくつか解決しそうなものがあったから持ってきたんだけれど……まぁ後で流し読んでくれればいいからさ、それじゃ!」

 

一刀はいくつかの書簡を机に置くと、失礼しました~といって部屋からさっさと出て行ってしまった。

 

華琳はアノ北郷が書いたという書簡を、さっきはああ言ったが実はかなり気になっているのだが、視線を落とすと腕に抱いている桂花が物欲しそうな顔をしているので、とりあえずかわいい桂花を愛でることにした。

 

 

「う~……やばいやばい。

 桂花の顔が般若みたいになってたよ。

 それにしても皆ああなのか?」

 

一刀はちょっと立ち止まって考えてみる。

 

桂花……マジ、ガチともいう。

 

春蘭……ほぼ確定。

 

秋蘭……バイ?

 

流琉……違うよね。

 

季衣……そういうことに興味を持ってはメ! です。

 

「ってゆ~かノックしたんだから気を利かせてもなぁ……俺だって男の子なんだぞ?」

 

あんな美女(少女)達が絡み合う姿なんて、考えるだけ血流が?!

 

「うぅ~~いかんいかん。

 煩悩退散煩悩退散……って無理だよなぁ。

 仕方ない! 街にでも行こうか。」

 

一刀は平民の服を着込むと、街へ向っていった。

 

「よう! 兄ちゃん! 今日はいつもの嬢ちゃんたちはいないのかい?」

 

最近よく通う屋台のおっちゃんが元気な声で話しかけてくる。

 

「あの子たちは俺より忙しくってね~。

 あ、おっちゃんラーメン一つね。」

 

「あいよ!」

 

しばらくして出てきたラーメンは、でっかいチャーシューが乗った醤油味だ。

 

「おお! 旨そう~! いただきます」

 

ズルズルズル

 

__?……!

 

「上手い! 親父、味変わったか?」

 

「おぁ! わかるか?

 最近はいい食材が手に入りやすくなってきたからなぁ。

 これも曹操様のおかげだぜ」

 

「そうだね、人も随分増えたみたいだもんなぁ……」

 

「最近は色んな行商やらが来て昼は賑わっているからな!

 ……でも結構あぶねえ連中も来てんだよ」

 

店主がコソっと耳打ちしてくる。

 

「危ない連中?」

 

「あぁ……ほら、西地区の奥ってあんまり整理されて無いだろ?

 なんだか行き場のねえ連中があそこに集まって、結構喧嘩とか起きているらしい。

 この店の仕入れ屋があっちの方にあってよ、結構まいってるみたいなこといってたぜ」

 

耳寄りの情報を得た一刀は、ラーメンを食べ終わると主人に礼を言い、その足を西地区のほうへ向けた。

 

なるほど……覗き込んだ一刀は納得する。

 

表はそうでもないが、裏道はかなり乱雑になっていて先がわかりにくい、賊崩れみたいな連中にとってはうってつけってわけか。

 

一刀はそのまま西地区の様子をみるために店とかを適当に眺めながら歩いていると、夕方近くになってしまった。

 

そろそろ帰るかと一刀が考えていると”ドドドドドド”という音が、夕焼けに染まった街に響いていることに気づく……音のする後方を振り返ると砂煙が上がっていた。

 

「な、なんだぁ?」

 

その音に周りの人も気づきガヤガヤと騒ぎ出し始めた、どうやら西通りを走り抜けているようなのだが……まさか。

 

「北郷~~~!!!」

 

「兄ちゃ~~~ん!」

 

__ぎゃぁぁああああ!!

 

ドゴッ ブンッ ブンッ

 

季衣が勢いそのままに一刀の腹へダイブ。

 

そして春蘭が一刀の襟を掴んで容赦なく揺さぶってくる。

 

「……オガァ、ガハッ!? 季衣、もうちょっとゆっくりぃ。

 おわ!? ちょちょっちょ? 春蘭! 放してくれ!」

 

__出る! 出ちまうから麺が! リバース・デイしちまう!

 

「早く城へ戻れ!」

 

「な……なんで?」

 

「知らん! だが華琳様が急いで連れて来いといってだぞ!

 お前……まさか何かやったのか?」

 

__春蘭さん、剣をお仕舞いください。

 

「そうだよ兄ちゃん! 華琳様凄い顔してたよ!」

 

__季衣ぃその抱きしめる腕を、だな。

 

もうちょっと緩めてくれぇ。

 

ミシミシとか、もはやリアルな人間から、出せる擬音じゃ、ない……から、グハ……

 

「いやいや、全く覚えがないから! っつうか落ち着け! 別に逃げやしないから!」

 

なんとかそれだけ伝えると、春蘭と季衣は漸く手を放してくれる。

 

なんだか市中の視線を集めてしまった一刀は、2人に引きずられるようにして城へ向うこととなってしまった。

 

城へ向う途中に秋蘭と流琉も合流し、更にズルズルと引きずられていく一刀。

 

__っつ~か行きたくねぇ……覇王が怒っているとか凡人である俺の命はあっさりと散ってしまう。

 

だがこの四人に囲まれた一刀に、もはや撤退の道は残ってされていないのだ。

 

 

「華琳様! 北郷を連れてきました!」

 

扉を開けた春蘭は、一刀をペイって感じで手荒に部屋に投げ入れる。

 

「……一刀……」

 

一刀は上を向くことができない。

 

__一体俺が何をしました?

 

こんな声を出す華琳さん、初めてでっせ?

 

「あなたの書いたこの書簡のことだけれど」

 

__書簡?

 

ああ、朝のあれか、何か不味かったのか?

 

俺が書いたのなんてアルバイトとかの労働システムと、農器具の改善案、警邏隊の組織化にえ~と……え~と後は、風呂が毎日入れないって言うから効率的な熱の使い方とかか……

 

「説明なさい」

 

「何か問題?! ……へ? 説明?」

 

懸命に言い訳を探す一刀が顔を上げると、華琳が書簡を持ったまま手招いていた。

 

「ここのところなのだけれど、どういう意味なのかしら?」

 

一刀は書簡の中を覗きみるとアルバイトの労働報酬の部分だった。

 

「あ~……ここはこういう…………で、こんな意味だ」

 

「それでどういったことを…………」

 

「いや、そこんところは…………な感じにすれば…………ここらあたりでも使えると思うんだ」

 

一刀と華琳の話を周りの人達は訳がわからないといった顔で見ている。

 

「なるほど……この熱効率を上げる方法だけれど、実際どこから熱源を?」

 

「そうだな、それはこの農耕具を作るときに新しく大型の炉の設備がいるだろ?

 それを建設する際に風呂に熱が伝わるこの……そう、この辺りの仕掛けを工夫して使えばいいんじゃないかな」

 

「なるほど……次にここなのだけれど……」

 

華琳が終わった書簡を桂花達に渡す。

 

5人は書簡を興味津々に覗き込むと各々考え込んだ。

 

「これは……」

 

「…………」

 

「どういう意味なのだ? 季衣」

 

「え~っとぉ……僕はわかりませんよぅ」

 

「季衣、一緒に勉強したでしょう?」

 

5人の反応はそれぞれだが、少なくとも桂花と秋蘭と流琉は、書簡の意味を多少は理解したらしい。

 

「この警邏隊の組織化はかなり費用かかるわね」

 

「そこは商人の人達にきちんと説明すればある程度寄付が募れると思う。

 実際町の治安は悪くはないけど”安全”ってわけでもない。

 屯所が一箇所しかないから事件が起きて、ほとんど終わってから到着するなんていうケース……あ~っと、状況に何度も俺は会った。

 安全は金に代えられない至宝だ。

 それは人から街が一番初めに評価される、なによりもの基礎になると思う。

 後、警邏隊を創設するならば、それに並列して街全体の区域化も併せて行うべきだ」

 

「区域化? 書簡にはなかったけれど……」

 

「西地区にガラの悪い連中がたむろしている、整理されてない区画があるんだ。

 そこの整理を初めとして街を再編させる。

 区域化としては、例えば食事処を1つの区画にまとめ、包丁など研ぐ仕事が主な鍛冶屋を近くに集めるとかってことかな。

 主要な職業の関連を繋げていき、場所を指定することで無駄を省くんだ。

 そうすれば広い街を何度もいったりきたりしないで済むだろ?

 それに求めているものを探すのにも便利だ」

 

「なるほど」

 

「後、街の中心に無駄に馬鹿でかい空き屋敷がいくつもあるよな? 前に捕まえた文官達が使ってた奴だ。

 もうほとんどが無人だし、そのうち浮浪者が住み着くだろう。

 まだいくつかの建物は使われているみたいだけどそれは公費で買い取るかして、あそこ一帯を大きく潰して公共の広場を作ったらどうだ?

 そういうものがあると、心理的に安心して住みやすくなるし、何か大きな催し物を行う時にも、または戦時の時に皆が集まる場所にしても利用の幅は広い」

 

一刀から湯水のように出される革新的な発想の連続に、あの曹操と荀彧も共に己の脳細胞をフル回転させている。

 

「そうね、桂花はどう思うかしら?」

 

「……いいと思います」

 

__桂花、表情がとても嫌そうなのはなんでだ?

 

「ふぅ……ご苦労様、今日はもういいわ。

 煮詰めたら直ぐにまた呼ぶから、出かけるならば誰かに行き先を伝えておいて頂戴。

 後、季衣と流琉ももう今日は上がっていいわよ、久しぶりに一刀との時間を過ごすといいわ。

 ……春蘭と秋蘭はちょっと残って頂戴」

 

「ハイ!」「ありがとうございます!」

 

華琳にそういわれたので、一刀と季衣と流琉は華琳の部屋を後にした。

 

「へへ、兄ちゃん。

 華琳様に怒られなくて良かったね!」

 

__ホントにな。

 

「ほんとどうなることかと思いました。

 華琳様が、帰ってきた秋蘭様に”一刀はどこ!”って言って城の中を探しまわってたし……大変だったんですよ?」

 

「ハハ、悪い悪い。

 どうやら提出した書簡がわかりずらかったみたいだ。

 ……さて、今日はもう2人ともお仕事は終わりって話だからな。

 何したい? ……って言ってももう夕方だけどな」

 

「今日はお風呂があるって春蘭様が言ってたよ! 一緒に入ろうよ兄ちゃん」

 

季衣の爆弾がさり気なく投下される。

 

「へ?!」

 

「ぶっ!!」

 

季衣のいきなりの言葉に一刀と流琉が驚いて動揺する。

 

「うわ! 汚いなぁ……何? 兄ちゃんは僕達と一緒にお風呂に入りたくないの?」

 

「達?!」

 

「ちょっと季衣! 駄目だよ! 兄様は男の人なんだよ!」

 

「え~……だって兄ちゃんだってあのひろ~いお風呂に入っていいんでしょ?」

 

確かに一刀は女性しか入れない(というより将軍クラス専用なのだ、実質将軍クラスには女性しかいないため必然的に女性用になる)広い方の風呂に特別に入っていいと華琳に言われているのだが、万が一誰かと鉢合わせるとそこでバッド・エンドが確定するので利用したことはなく、一般兵用の狭い蒸し風呂でごつい男達に囲まれて入っていた。

 

「季衣! 兄様が困ってるでしょう!」

 

「ぶ~……じゃあいいよ、ボクは兄ちゃんと入るから流琉は後で入れば?」

 

「そんな! ……私だって、兄様と……」

 

「ほら! 流琉だって一緒に入りたいんじゃん。

 ねえ兄ちゃん! 背中流してあげるからさ! 一緒に入ろうよ~!」

 

そういって一刀の腕を引っ張ってお風呂場へ引きずっていく季衣。

 

「無理! 無理だって季衣! 放してくれ!」

 

「ふっふ~~」

 

一刀の必死の抵抗にも上機嫌の季衣はニコニコと笑って耳に入っていない。

 

季衣の怪力に一度でも掴まれた一刀が勝てるわけもなく、そのままお風呂のエリアへと入っていくことになってしまった。

 

 

 

__カポーン

 

 

 

「これは広いな」

 

銭湯のような広い風呂は、泳げる位の広さを誇っていた。

 

これは経費の無駄遣いでは? と思われる者もいるだろうが、華琳達はこの風呂の運営だけは自腹で出しているのだ。

 

__女として譲れないところは譲れないらしい。

 

ちゃんと自分達が入った後には侍女達も入れてあげる辺り、華琳達の優しさが伺える……が!

 

今はそんな考察をしている場合じゃない!

 

脱衣所で戸惑い無く服を脱ぎだした季衣から逃げるように、慌てて服を脱いだ一刀は軽く湯を被って風呂へ駆け込んだのだ。

 

「兄ちゃ~ん、お待たせ~」

 

「兄、さま……」

 

季衣と流琉も入ってきたみたいだ。

 

一刀は壁の方を向いて目を瞑る。

 

流石に一刀も、幼なめに見えるとはいえ年頃の女の子とお風呂を共にした経験などは皆無だ。

 

もし見てしまったら自分を抑えきれる自信がない。

 

「……? ねえ兄ちゃん、なんでそんな隅にいるの?」

 

「な、なんでもないですが!?

 ほら、2人ともあっちのほうでお風呂をしっかり楽しんできなさい。

 滅多にないんだから」

 

「えぇ~~…………」

 

__行ったか?

 

風呂場は音が反響して正確な位置がわかりにくい。

 

ばしゃっ

 

「えい!」

 

「うわぁぁ!?」

 

いきなり季衣が一刀の背中に飛びつく。

 

せ、背中に! 小さいがたしかに柔らかいものが!

 

「季衣! 兄様、大丈夫ですか!?」

 

ばしゃばしゃとお風呂に入って近づいてくる流琉……を、一刀は顔を上げてモロに見てしまった。

 

「え……きゃぁぁあああ~~!!! 兄様! あっち! あっちを見てください!」

 

「ご、ごめん!!////」

 

__見ちまった! やっちまった!

 

流琉の白い肌が網膜に焼きつく。

 

__マズイマズイマズイマズイマズイ……

 

このままではナニか大事なものを失うだけじゃなくて、ナンカの線を越えてしまいかねん!

 

「ねえ兄ちゃん、体洗ってあげる!」

 

__季衣ぃ~そんな背中に抱きついたままフラフラと動かないでくれ~……

 

っく! このままではどうしようもない!

 

一刀は意を決して立ちあがると、洗い場の方へ注意しながら向かい、季衣に背中を流してもらう事にした。

 

「へへ、兄ちゃんの背中って広いね~。

 なんか父様みたい。

 ねえ! 流琉もやってみない?」

 

「えぇ?! あ、あのぅ……兄様? 私もいいですか?」

 

そろりそろりと頼む流琉。

 

振り返りたい衝動に駆られるが、ひたすら耐える一刀。

 

「あぁ、頼むよ」

 

__もうどうとでもなれだ。

 

「そ、それでは失礼します」

 

初めは手つきが戸惑っていた流琉だが、次第にゴシゴシと丁度いい力加減で気持ちよくなってくる。

 

「ホントだ、兄様の背中って広いですね」

 

「ね? 言ったでしょ?」

 

「昔は2人でよく訓練した後、川で父様の背中を流したんだっけね」

 

「そうそう! 流琉ったら父様大好きだから中々代わってくれないんだもん」

 

「そういう季衣だって一度やりだすと代わらなかったじゃない」

 

「えぇ~……? 覚えてないよぅ」

 

「もう、季衣ったら。

 あ! 兄様お湯をかけますよ?」

 

ざばぁ

 

背中にお湯をかけてくれる2人。

 

__こんな娘が将来欲しいです。

 

なんて現実逃避をしている場合じゃないので、一刀は視界に気をつけながら風呂へと戻る。

 

季衣と流琉が後ろできゃっきゃとはしゃぎながら体を洗い合っているようだ。

 

しばらくして風呂に戻ってきた2人が、一刀の膝の上に乗ってききたりしてかなり目のやり場に困ったりもしたのだが、やがて2人はのぼせてきたのか先に上がっていった。

 

江戸っ子気質の一刀は、まだ大丈夫である。

 

__た、耐えた…………耐え切ったよ。

 

褒めてくれ!

 

一刀はじいちゃんとの修行で培った、全ての精神力を使い果たしたかと思うほどに疲労していた。

 

ここで1人になった一刀は、湯船にしっかりとつかってようやく休息を得る。

 

__まったく、風呂に入って逆に疲れるってどうなのよ?

 

まぁでも……こんなに広い風呂にせっかく入ったんだ、精精堪能させて貰うとしよう。

 

「そういやぁ背中しかしっかり洗っていないなぁ……」

 

しっかりと湯につかれるのは、この時代では最高ランクの贅沢だ、口調だってのんびりになるというもの。

 

温まった一刀は再び洗い場にへ行くと、体と髪をしっかりと洗う。

 

__そういえば石鹸か、後で薬剤関係者に聞いて似非シャンプーくらいなら作れるかなぁ……

 

そんな事を考えていた一刀だが、不意に災厄に気づいた。

 

__? …………!?

 

体を洗う一刀は、自分が先ほどをはるかに上回る窮地にいることを悟ってしまった。

 

 

__ナニカ気配がする、脱衣所に。

 

 

「華琳様! 今日のお風呂楽しみですね~」

 

「そうね。

 最近皆には苦労をかけているから、せめてお風呂くらいは満足して入りたいわね」

 

「んん? 秋蘭、少し胸が大きくなったか?」

 

「フフ、そうかもしれんな」

 

__ニゲロニゲロニゲロ

 

スタスタ ガラ

 

__終わっ……いや、まだだ! まだ終わらんよ! ってかここで終われるか!

 

「待て! まだ俺が入ってるからもうちょっと待っ!?」

 

ガラガラ

 

__あ、オワタ。

 

布一枚でかろうじて大切なところが見えていない春蘭とバッチリ目が合う一刀。

 

 

 

刻が、止まった。

 

 

 

さわさわ さわさわ

 

 

 

優しい風が2人の間を通り抜ける。

 

だが、刻一刻と春蘭の顔に赤味が増していった。

 

「…………ぉぉほんごうぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおう!!!!!!」

 

「ちょっと待て! お前タオルが?!」

 

__そんなに一気に動いたら見えちゃう?!

 

「タオルってなんだぁぁああああ!!」

 

バゴン

 

「その布のことだぁぁあああぁぁぁぁ……」

 

空高くアッパーで殴り飛ばされた一刀は、そのまま湯船に落下する。

 

ヒラリ

 

タオルが落ちることによって全部が丸見えになった春蘭が、また怒って一刀をぶちまわしたのはいうまでもない。

 

 

__すげープロポーション

 

 

 

この風呂の事件が起きるちょっと前に戻りたい。

 

華琳の政務室で残された2人は、最近の成果について話し合っていた。

 

「季衣はどうかしら?」

 

「はい! すでに兵達には季衣を慕う兵も多く出てきています。

 指揮のほうも中部隊位なら問題なくこなせると思います」

 

春蘭が自分のことのように喜んで華琳に報告する。

 

「そう、じゃあ今度季衣の新たな部隊を編成しなおしましょう。

 流琉はどうかしら?」

 

「はい、流琉も部隊の指揮を任せていいと思います。

 偵察の際の判断は確かなものでしたし、地理や自然に対しての造詣も深いです。

 ふとそのことで不思議に思いまして流琉に聞いてみたところ、季衣と流琉の両親はもともと都の方の武官と文官だったことがわかりました。

 2人とも幼い頃から武術や勉学を教え込まれてきたそうです」

 

秋蘭もそれは嬉しそうに華琳に報告する。

 

「なるほど……あれほどの力を身につけているのだから、誰かに師事を受けていたと思っていたのだけれど……ふふ、ホントにいい人材を見つけたわ」

 

華琳の笑顔は非常に満足気だ。

 

「はい! 2人とも鍛え上げれば華琳様のお力になることは間違いないです!」

 

「そうね、でもまだ2人のことは春蘭と秋蘭に一任するわ……もうしばらくはね。

 それと桂花、北郷はどう思うかしら?」

 

今度は桂花に向かって意地の悪い笑顔に変える。

 

「う……悔しいですが、先程の書簡に記された案、発想はどれも素晴らしいと……認めざるを、得ません。

 あの案を採用し上手くいけば、他国にはない圧倒的な組織力が得られ、磐石な経済力をも築けると思います」

 

桂花が北郷を……というより男を褒めているという、あまりにも珍しい光景を見て春蘭と秋蘭が驚く。

 

「そうね……惜しむらくは、まだ私達にあれらを実現させるだけの技術力が不足しているところね。

 研究費の予算を上げて専用の施設を作ることを考えているのだけれども、私達では専門のことまではわからないのよね。

 一刀に任せてもいいのだけれど、実際に製作となると1人じゃ厳しいでしょうし……

 桂花はそういう技術に長けた人間を調べておいて頂戴」

 

わかりました、と桂花が快諾する。

 

「後は何か、問題はあるかしら?」

 

「そうですね、我が軍も大分大きくなってきました。

 将軍4人でも全兵を指揮するのはそろそろ難しいかと……

 武に秀で、何より指揮ができる将兵が必要です」

 

__人材か……結局は人材、それが一番難しい。

 

有意な人材を誰よりも愛する曹操だからこそ、その獲得の難しさが誰よりもわかるのだ。

 

華琳は静かに窓の外を眺める。

 

まだ表立ってはいないが、漢王朝に力などないことはもはや明白。

 

この広い大陸には、まだまだ在野に埋もれる人材がいるのだろう。

 

その人材を探し出し、手に入れねば乱世で果たして生き残れるかどうか……

 

「……北郷、一刀……」

 

独りでに口ずさむ男の名。

 

不思議な男。

 

 

「そろそろ。

 一刀の扱いも決めたいのだけれど……どうすればいいかしらね……」

 

 

 

華琳は北郷を天の御遣いとして扱う気は、実はとうになくなっている。

 

理由としては問題が2つあるからだ。

 

感情的なものとして、万一民に失望を与えた場合、その絶望が計り知れない程大きくなる。

 

初めは苦しんでいる庶人の希望の旗手として、”天”を自分がこれから立てる国の”良心の体現”として扱うつもりだった。

 

だがこれは、諸刃の剣。

 

無いとは思うが、北郷か曹操自身、故意であろうとなかろうと天下に不義を起こした場合に人心は一気に離れることになる。

 

これからの乱世を迎えようとしている世では、それは強みであると同時に弱味にもなるだろう。

 

他国にその点で嵌められでもしたら致命的になる、もはや立ち直れまい。

 

”天を奉る”とは、完全な理想を……いや、夢を掲げるのと同義なのだ……

 

もう1つの問題としては、一刀を”天”として扱うということは、ただ存在するだけで今は危険なのだ。

 

問題となるは、漢王室。

 

帝は”天子”なのだ、それが世の常識。

 

天の御遣いを快く認めてもらえるならともかく、十中八九自分達のところに降りなかった天の御遣いなどを認められるわけがない。

 

いくらその力が形骸化しているとはいえ、今の天下は漢王朝なのは揺るがせない事実だ。

 

召喚され、明らかな証明ができねば公開処刑は免れぬ。

 

白く輝く服では証明に弱いのだ。

 

また召還を断れば、各諸侯が格好の的として攻め入ってくるだろう。

 

下手をすれば諸侯が連合軍を組んでくるかもしれない。

 

天を名乗るということはそういうことなのだ。

 

あの北郷一刀を、そんなことで失うわけには絶対にいかない。

 

彼は間違い無く”天の御遣い”である、それは華琳自身確信しているが、彼の能力を鑑みた場合に天として祭り上げるにあまりに勿体無いのだ。

 

人を集めるのは大変だが、治安を良くしたり、経済を活発化させれば代用は利く。

 

だが、あれほどの有為の人材は望んで手に入るものではないのだ。

 

いくら金銭を費やしても、どんなに労力を用いても獲ることのできない、まさに宝のようなものだ。

 

無能ならばともかく、北郷一刀を”天”にしたてる利益と”人”として得れる利益。

 

どちらが華琳にとって魅力的か?

 

人である一刀の能力を考えると、色々やれることはある。

 

あの思考力と洞察力を活かして文官として政務につかせてもいいし、あの身体能力を活かして細作の育成部隊を作らせてもいい、あの武で例の警邏隊を指揮させてもいいのだ。

 

まだ未知数だが……部隊を指揮させてみるという手まである。

 

ここで天にするということは、実質的に危険なことはさせられなくなる、彼が万が一死んだ場合に、ちゃんとした理由が必要となるのだ。

 

きちんとした理由がなければ、天下を平和にするために舞い降りた天の御遣いが死んだのは、無能な奴についたからだという意見も出るであろう……それは自分の風評に繋がるのだ。

 

やはり、北郷一刀を天の御遣いにすることはできない。

 

正式に仕えて欲しい。

 

人には絶対に言えないけれど……

 

 

支えて欲しい、のよ。

 

 

だけれど、どうすれば良いのか、華琳にはわからない。

 

「華琳様! 話は変わりますが今日は風呂の日では?」

 

春蘭が思い出したかのように発言する。

 

「そういえばそうね、今日のところはここまでにして、皆でゆっくりお風呂に入ることにしましょうか」

 

ハッとした華琳は、ひとまず先程の考えを頭から消し去る。

 

3人はその言葉を聞くと、嬉しそうに自分の部屋に戻ってお風呂の準備をしに向かった。

 

あのお風呂は将軍クラスの人間からの給金から天引きして沸かしているのだが、誰も文句を言わない。

 

やはり皆、女として譲れない線というものはある。

 

秋蘭が私達が入った後に、そっと侍女達を入れてあげていることも知っている。

 

そういう心遣いができるから秋蘭は貴重なのだ。

 

3人が戻ってきて自分も準備をして風呂へと向う。

 

脱衣所に入ると春蘭が直ぐに服を脱ぎだした、華琳の目の前で形の良い大きめの胸がたわわと揺れる。

 

__気にしているわけじゃ……ないのよ?

 

ん?

 

あの端にある服は……一刀の?

 

まさか、入っているの?

 

他の3人は気づいていな……いいえ、秋蘭は気づいているわね。

 

秋蘭は一刀のことが随分気に入っているみたいね。

 

もう……抱かれたのかしら? いや、でも……しかし……

 

桂花もなんだかんだ一刀を気に入っているのだろう。

 

極端な男嫌いの桂花が”普通”にでも成れただけで凄いものだ。

 

春蘭は……どうなのかしらね?

 

もう少し様子を見る必要があるわ。

 

春蘭が我先にと風呂へ入ろうとする。

 

ニヤリ

 

楽しいことが起きそうだ。

 

ガラガラと扉を開けて入っていく春蘭がピタっと立ち止まる。

 

しばらく止まっていたかと思うと、いきなり走り出して一刀を吹き飛ばした。

 

__あっはっは、人って空を飛べるのねぇ?

 

ビシャ~~ンと大きな音を立てて、風呂に落下する裸の北郷を見ながら秋蘭も笑っている。

 

桂花は汚物を見るような目だけれども、気にしないことにしましょう。

 

このような雰囲気も悪くないわ……とりあえず……

 

 

私は浮いている北郷に蹴りでも1つ、入れにいこう。

 

 

 

どうもamagasaです。

 

応援ありがとうございます!

 

そして前回のたくさんのコメントについてですが、ここで返事をさせていただきます。

コメントやメールをたくさん頂きました、本当にありがとうございます!

こういう双方向の感じは良いですね、凄い面白かったです。

 

順位をつけるような聞き方をしませんでしたので、正確な集計をしなかったのですが、

現時点までに見たところ、凪と風が頭一つ抜けているという感じですかね。

風さんはある程度予想がついていましたが、凪はちょっと意外でした。(3・4位くらいかなぁと思ってました)

次に秋蘭と流琉。

華琳と霞は上と僅差ってところでしょうか?

皆さん! 自分の好奇心に付き合っていただきありがとうございました!

 

感想……というより自分が気になったことを述べさせていただきますと、凪も風もまだこの話に出てきてないって事ですかね(風はちょろぉぉっと出ましたけど)

凪はですね……変更はあるかもしれませんがまだ先になりそうです。

風に至ってはまだ予定も立っていないという有様。

 

本編があまり進まないんです、本当にスイマセン。

 

あ! 後これは言いたいです、いえ! 自分に、はっきり声高々と言わせてください!!!

 

 

 

 

 

 

 

…………季衣が全然なかった……………………(アレェ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

え~~っと、今回の話は華琳様の心境を含めた拠点にさせて頂きました。

 

いかがでしたでしょうか? ちょっと華琳様が女の子の一面が見えます。

 

一刀君は今回の華琳様の心境通り、天の御遣いではなく”北郷 一刀”として扱っていきたいと考えています。

 

理由は述べた通りなのですが、どう思われましたでしょうか?皆さん。

 

御意見、御感想本当にお待ちしております。

 

メールとかで作品に対してアドバイスとか頂けたら有難いです。

厳しくても全然いいです、ただどこがどう悪いかはお手数ですが具体的に指摘して頂けると嬉しいです。(でないと自分じゃよくわからないので)

よろしくお願いします。

 

 

次の話は予告していた外伝となります。

ただ本編の延長上にある外伝でもあると思います。

外伝とつけたのは、本編は進まないし、拠点って感じでもないし……何より前編後編ですので一応外伝とさせて頂きました。(でも話数カウントは増えます)

 

 

 

それではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

一言

 

実物大ガンダム……その前で大声で歌う、燃え上がる大勢の人達……自分もやりたいなぁ。

 


 
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