恋姫†無双 真・北郷√08
冀州鉅鹿
/語り視点
物語の主役達が留守の間、冀州南皮の西、鉅鹿に、旅芸人の三姉妹が流れ着いた。
(鉅鹿 正史では張角、張宝、張梁の出身地である)
既に暴徒と化した黄巾党から逃げるように、幽州から南下し、公演を続けながら旅をする彼女達は、辺りを見回しながら歩き、話し合っていた。
「ねーねー、人和ちゃん。ここにくれば大丈夫なのー?」
「冀州には、黄巾党の連中は入れないって噂よ」
「ふーん、ちぃ達の事も、追いかけて来れないって訳ね」
長女の張角が三女の張梁に、何故冀州なら大丈夫なのかと、理由を問いかける。そして返ってきた単純明快な答えに、次女の張宝が一旦納得するものの……。
「でも、なんで、鉅鹿に来たのー? お姉ちゃん、噂の南皮に行きたいのにっ!」
「だよね! 今、大陸の話題の中心南皮なら、ちぃたちの歌は絶対ウケるはずよ!」
長女の我侭な主張に再び同調する。ここのところ公演をしても稼ぎが悪く、二人とも感情的になっているようだ。
鉅鹿に来て既に三日目。彼女達は黄巾党から逃げるように旅を続けており、あまり表立って公演出来ない事もあって、収入は現在ほとんどなかった。
「……姉さん達。あそこには天の御遣い様っていう方がいて、警邏隊なんていう見回りも大勢いるのよ? 南皮で公演なんてしたら、捕まえてくださいと言うようなものよ」
姉達の我侭に呆れつつも、解りやすく丁寧に説明する苦労人の張梁。しかし……、
「ねえ、これって、私たちの似顔絵かしら……」
「えー? なになに?」
「ちぃ達の似顔絵?」
食事に行く途中……張梁、張角、張宝の順で足を止める。なぜなら、
『見つけたら警邏隊まで!』
と、書かれた立て札に、自分達三姉妹と思しき三人分の人相書き。それを三人揃って眺めていると……がやがやと周りがざわついてくる。ちなみにこの立て札、あの猫耳軍師があちこちに立てさせたものである。
「……ここも、もう駄目ね。行く先々でもそうだったけど、徹底してるわ」
張梁が静かに諦めの声を漏らす。だが二人の姉が、
「んー、お姉ちゃん思うんだけどー。天の御遣い様って、とても優しい方って噂だから、直接会って助けてもらったらどうかなー? 黄巾党の人達と一緒にいても危ないし」
「そうよね。もぅちぃ達に逃げ場所なんてないのかも……正直に打ち明けて助けてもらうしかなさそう。あいつらのとこに戻るくらいなら、死ぬ方がましよ!」
諦めるのはまだ早いと、妹を元気付ける。
最初は三姉妹の支援者、ただの取巻きだったのに。いつのまにか暴徒と化して、近隣の邑を襲い、人を殺し、略奪を繰り返すただのケダモノになった。そんな連中といつまでも一緒にいては彼女達だって、いつどうなるかわからない。だから戻れない。
そう結論を出した張梁は……。
「……そうね。こうなったら覚悟を決めましょう。このまま捕まるよりは、こちらから会いに行って話し合う方が絶対いいわね。天和姉さん、ちぃ姉さん、行きましょう!」
見つかれば捕まる為、路銀を得ようと公演する事も出来ず、いずれは殺されてしまう為に、黄巾党の元に戻る事も出来ない。だったら全部正直に話そうと、天に縋る気持ちで三人は南皮に向かう。最後の力を振り絞り、猫耳軍師の魔の手を巧みにかわしながら……。
黄巾の乱 その二
/程『立』視点
風達は今、南皮に来ているんですがー。なかなか目的の方にお会いできないのです。
「……今日もお会いできませんでした」
「むぅー。今日も会えませんでしたねー、稟ちゃん」
親友の稟ちゃんが肩を落としていたので、風は宥めようと声を掛けました……追い討ちとも言いますがー。
「縁がなかったのでしょう……仕方がありません。あまり使いたくはなかったのですが、知り合いの荀彧殿の伝で正式にお目道り願えるようにしましょうか……」
おやおや、稟ちゃんも相当執着しているようですねー。荀彧さんに借りを作るのは嫌だからと言っていたのに。まあ、四日も会えずに宿に泊まっていたのでは路銀も減るばかりですしねー。それに、この街の活気を見たら、天の御遣い様に是が非でも会いたい。という、その気持ちもわかるのですよー。かくゆう風もそうなのですから。
「……ぐぅ」
暫く滞在して分かったのですが、この街は本当に治安が良くて快適で、街の皆さんの顔もとっても明るいのですよー。
「寝るな!」
「……おお! あまりに平和なので、つい熟睡してしまいましたー」
軒を連ねるお店の軒先に吊るされた、竹で出来た『鳴子』という変わった形の楽器。お店の人に聞いてみたら、困った時に鳴らすと警邏の人が来てくれると聞いたので、試しに鳴らしたら本当にすぐに来て感心したのですよー。その後、謝りましたが~。
そして、お年寄りの荷物持ちから、迷子の世話に、道の案内、住人の相談事まで、親身になって接している警邏の人達を見て、風は珍しく興奮したのです。
「じゃあ、稟ちゃん。荀彧さんに会いに行きますかー?」
荀彧さんは、稟ちゃんの所属する清流派の名士仲間らしく、今は、北郷軍の筆頭軍師をしている出世頭さんらしいのですー。
「それしかありませんね。……ん?」
動きを止めた稟ちゃんの視線を追うと、前方に『てんと』を張った行商人さん達がお店を開いています。
この広場の管理人さんに『担保金』を払うと、『てんと』という見通しが良く、屋根しかない天幕の様な物を貸してくれて、曇りの日でも、雨の日でも、安心して商売が出来ます。担保金は少々お高いのですが、てんとを返す時に日数に応じた借り賃を引いた額がちゃんと返ってくるので安心。と、良く考えられてますねー。
何で知っているかというと、興味が湧いたので管理人さんに聞いて調べたのですー。てんとを持ち逃げされても、担保金で賄えるとかー。
「何か気になる物でもあったのですか? 稟ちゃん」
「あれは何でしょう?」
そう稟ちゃんが指差す先には、なにやら怪しげな箱……なんでしょう? 風にも分かりません。
「はい、寄ってらっしゃい、見てらっしゃいー!」
そのお店はてんとを張っていない、いわゆる普通の露天商でした。狭い場所に、所狭しと竹カゴが並べられて……店主さんらしい? お姉さんの脇に、問題の怪しい箱がありました。ちなみに、凄くお見事としか言えないものを胸に二つもお持ちなのですよー。
「これはなんなのですか?」
興味をひかれたら聞いてみる。軍師にとって知的好奇心は不可欠ですよねー。稟ちゃんは商品そっちのけでお姉さんに質問していました。
「おお、そこのお二方、なんともお目が高い! こいつはウチが発明した、全自動カゴ編み装置や!」
「全自動……カゴ編み装置ですか……?」
ほほー、なにやら凄いもののようですねー。全自動という事は、勝手にカゴを作ってくれるのでしょうかー? そして出来たカゴを売る~。それはそれは大儲けですねー。
「せや! この絡繰の底にこうやって、竹を細ぅ切った材料をぐるーっと、一周突っ込んでやなー……そこの眼鏡の姉さん、こっちの取っ手を持って!」
「は? はぁ……こうでしょうか?」
お姉さんに言われて仕方無くといった感じで、変な箱からはえた取っ手のようなものを握る困惑顔の稟ちゃん。冷静なくせにノリがいいですよねー。いつも……。
「でな。こうやって、ぐるぐる~っと」
「……」キコキコ……キコキコキコ
お姉さんに言われて、稟ちゃんが無言で取っ手を回すと、
「……!」カチャカチャカチャカチャッ
規則正しい音と共に、竹の薄板が箱に吸い込まれて……箱の上のほうから編み上げられた竹カゴの側面が、ゆっくり、せり出してきました。
「ほら、こうやって、竹カゴの周りの部分が簡単に編めるんよって……」
「……ぐぅ」「寝んのかいっ!」
「おぉ! 風だけおいてきぼりだったので、思わず寝てましたー」
風が寝るのと、ほぼ同時でしたー。胸のとても大きいお姉さん、素晴らしい突っ込みですー。
「すごい絡繰ですね」キコキコ カチャカチャ
稟ちゃんも感心しています。全自動じゃなくて思いっきり手動な気がしますがー。
「……それで、底の部分と、枠の部分は、どうやるんですか?」キコキコ カチャ……
知的好奇心全開の稟ちゃん、多分それはー。
「あ~そこは手動です」
つまり、全『手』動ですよねぇ。流れ的にあえて突っ込みませんがー。
「そ、そうですか、便利ですね……」キコキコ プスプス
稟ちゃんも突っ込みませんねー。しかし、ぐるぐる回す手を止めないんですかー? 煙が出てますよー。
ササッ
危ないので、離れておきましょうねー。
「あ、ちょ! 姉さん、回しすぎや!」
「……え?」キコ…… プシュー
お姉さんがそう叫ぶ前に、風はそこから退避完了でした。
チュドーンッ! ……パラパラパラ
閃光と轟音が煙を伴って辺りを包み、小さな破片が空から降ってきます。
「……ぶはっ!」
「あっちゃー……」
その煙の中で呆然としている稟ちゃんと、顔に手を当てて溜息を洩らすお姉さん。
「……稟ちゃーん、無事ですかー?」
風が稟ちゃんに声を掛けると、
「……風っ! 貴女って人は……っ!」
柳眉を逆立てた稟ちゃんの手には装置の取っ手だけが残って、あとの部分は周囲に散らばっていました。
「まだそれ、試作品なんよ。普通に作ると、竹のしなりに、こう、強度が追いつかんでなぁ……こうやって爆発してしまうんよ」
お姉さんが解説してくれました、納得ですねー。それと、風から稟ちゃんの怒りの矛先が逸れて助かりましたー。
「納得できるか! …・・・そんなに危ないものを、何故?」
おぉ! 風の心の声まで聞こえるとは、さすが親友ですねー。
「置いとったらこー、目立つかなぁ……思うてな」
「そんな理由で……」
稟ちゃんが必死に怒りを堪えているようです。なので、続きは風が質問しましょう。
「だったら、お姉さん。このカゴは、この絡繰で作ったんじゃないんですかー?」
「ああ、村のみんなの手作りや」
お姉さんは真顔でそう答えました。
「……ぐー」
「「寝(るな!)(んのかい!)」」
「おお! べたべたの展開だったので、思わず気が遠くなってしまいましたー」
今日、初めて会ったとは思えないほど、息の合った突っ込みですねー。
「ったく、なぁ、姉さんら? ウチの大事な絡繰壊したんやから、一個くらい買うて行ってぇな。ウチ、今遠くから来とって、手持ちが心許ないんよ。ここはひとつ、ウチを助ける思て」
たのんます! と、両手を合わせてお願いされました。なかなかいい根性してますねぇ。
「まー、ひとつくらいなら買ってあげればいいんじゃないですかー。稟ちゃん?」
「ちょっと風! こんな物買ってもしょうがないでしょう!」
まあ、そうなんですけどねー。
「でも……壊『して』しまったのは事実ですよー?」
「くっ」
「まいど!」
『手土産』を買った稟ちゃんと、お城にむかう風でしたー。
南皮城 玉座の間
/桂花視点
「……あとすこし、あとすこしで、取り逃がすなんてー!」
鉅鹿で張角達三姉妹が公演しているのを発見したと細作から報告があってすぐ、鉅鹿に存在する全ての宿泊先に警邏隊を待ち伏せをさせて続報を待っていたのに……。
「でも、この私の包囲網に引っ掛からないなんて……なかなかやるわね」
御主人様に任せて頂いている、圧倒的な情報網。それを駆使して出現しそうな場所に網を張って待ち受けているのに、一向に捕まる気配がない。このまま結果が出ないと……。
「もうすぐ帰ってくる御主人様に、何の進展もない現状を報告して……もし、失望されたら……どうしよう! どうしたら! あー!」
御主人様はお優しいから、私に何も言わないでしょう。それどころか労ってくれるに違いない。
だけど、この荀彧文若! 御主人様のお役に立てることこそが生き甲斐! 私の全て! 御主人様に、もし、ほんの少し……髪の毛一本分でも失望されたらと思うと……いてもたってもいられるわけがない! なんとしても、あの方がお帰りになる前に……。
「荀彧様! 荀彧様とお知り合いという方が面会を申し出ておりますが、如何致しましょう。今、城門の前で待って頂いていますが……」
侍女が玉座の間に入って報告してくれる。もしかしたら名士仲間の誰かが、仕官を申し出に私の伝を頼って来たのかも知れない。優秀な人物の推挙……御主人様のお役に立てるわ!
「すぐに、ここにお通ししなさい! くれぐれも失礼のないようにね」
わかりましたと一礼して退出していく侍女。
暫くすると、旧知の人物と『油断ならない』そう印象を受ける小柄な女が入ってきた。
「お久しぶりです、荀彧殿。突然の面会に応じて頂き感謝します。こちらは……」
「はじめましてー荀彧さん。程立と申します。突然押しかけてすみませんねー」
二人は私を見ると、こちらの心の中を探るように挨拶から切り出してくる。
「あら、郭嘉じゃない。久しぶりね。今は戯志才と名乗っているのだったかしら?」
次に程立にも軽く挨拶して、とりあえず旧知の人物から攻めていく。何気ない会話から軍師同士の腹の探り合いは始まるのだから。まず、突然来た事は気にしてはいないと含める。
「今は郭嘉でお願いします。もう、偽名を使う必要がありません」
「そうね。噂の天の御遣い様に会いに来た……ってとこでしょ? 貴女のような優秀な人材なら御主人様も喜んでお会いになるわ。ただ、今は遠征中なのだけれど」
郭嘉の態度から推測して、仕官にかなり乗り気なのが感じられる……。
「それで、会えなかったのですか。ありがとうございます。是非、お取次ぎ頂きたい!」
やっぱり! ふふふ、この様子なら御主人様に会っただけで落ちるわね。
偽名を使う必要がないって事は、もう仕える主を探す旅は終わりって事だろうし。
郭嘉は良いとして、さっきから薄ぼんやりと聞いている連れのほうが難しそうね……只者じゃないわ。
「程立はどんな用件で来たのかしら? 郭嘉の付き添い? それとも……」
「……ぐー」「寝るなっ!」
「いたたー。いつもより痛いのです、稟ちゃん」
「当たり前だ!」
「……ふぅん」
完全に話の流れを止められたわね。……やるじゃない。でも、甘くみられたものね! そんな話術でこの荀彧文若を煙に巻けるもんですか。
「とぼけるという事は、言い難い事なのかしら? そうね……私には言えなくて御主人様に『直接』伝えたい事がある……とか?」
ほんの少し、微妙に程立の口の端が上がったのを確認する。注視していないと判らないくらいの変化。
「おぉ! 驚きましたー。荀彧さんは心を読めるんですかー? なかなか食えないお人ですねー」
「そうかしら? 貴女ほどじゃないわ」
緩急を付けて話す独特の話術。寝たふりをしつつも相手の話を理解し、出鼻をくじこうと話を逸らす。一方的に話し続ける者、特にせっかちな相手には効果的ね。
「……風? 貴女、何を?」
郭嘉が驚いて程立を睨むと、
「おいおい、稟。風は良い子だぜ」
「おやおや宝譿、風を庇ってくれるのですねー」
「……全く。風、貴女はいつもいつも!」
成る程、あの人形は一旦相手の視線、意識を逸らす為……どうやって動かしているかは謎だけど。そして、黙り込む相手には効果的に挑発する手段というわけね。
今回の郭嘉は気持ちが高ぶっているのか、本来の冷静さが無いような気がするけど、程立は御主人様に任せるしかないわね。
「まあ、二人とも落ち着きなさい。部屋を用意させるから自由に使うといいわ。御主人様がお帰りになったら、すぐに紹介しましょう」
二人とも有能なのは判ったのだから。
「助かります。荀彧殿」
「おぉ! ありがとうございますー。よろしかったらコレをー」
「!? ふ、風!」
程立が何かをごそごそ漁り、私に手渡してきた。……竹カゴ? なんなのこれ?
「手土産ですー。稟ちゃんの」
「……荀彧殿、あの、これは……」
……郭嘉、あんたも苦労してんのね。
「あ、ありがたく、もらっておくわ。誰か!」
「お呼びですか?」
侍女がすぐに入ってくる。
「お客よ。この二人を部屋に案内してあげて」
「御意。お客様どうぞこちらへ……」
「では荀彧殿、また後程」
「荀彧さん、またー」
侍女の後について二人が玉座の間を出て行く。
さて、集めた情報や御主人様がご不在の時の報告を纏めなくちゃ!
「褒めて頂けるかしら♪」
私はもうすぐ帰ってくる御主人様の為に、私室に戻り引き続き仕事に精を出すのだった……。
/一刀視点
冀州南皮城周辺
俺達は幽州への遠征を終えて南皮に向かっていた。
そろそろ鄴城に本拠地を移さないとなぁ……。反董卓連合の後に始まる群雄割拠時代。それが俺の飛び立つ始点。その為にも、今の南皮城から、より規模が大きい鄴城に移る事が既に決まっている。
そのタイミングは、黄巾の乱終結後の後漢の第12代皇帝、霊帝崩御。
早すぎても遅すぎてもいけない。早ければ諸侯に警戒されるし、遅れれば大陸統一が遠ざかる。霊帝崩御の混乱に乗じて計画を進める。
流石にこればかりは麗羽達に打ち明けるわけにもいかない。愛紗、恋、(二人は前外史で知っている)桂花あたりしか知らない事実だ。
現在、有力諸侯の勢力差は、桂花の計算によると、北郷・袁術・曹操、で、10・4・1くらいとの事だった。袁術のところは、孫策等、客将がいたり、各諸侯と連携していたりして、鵜呑みには出来ないけど。
もし、正史通り幽州全域を入れた河北四州だったら、12くらいだっただろうか。だが、正史で公孫賛は袁術側だったので、白蓮が俺たちに友好的なのは大きい。
俺はまず、対曹操を視野に入れて計画を進めてきた。正史で十倍近い戦力の袁紹を官渡の戦いで破り、統一への足がかりにしたのだから、放置する事は出来ない。
まあ、それも反董卓連合の後になる。まだ、辛うじて権力を有する後漢王朝の前で勝手に戦争を始めれば、諸侯たちの集中攻撃を受けるだろう。
とりあえず今は黄巾の乱をすばやく収めて、大陸各地の被害を抑えたい。既に人心は後漢王朝を離れており、これ以上長引かせるのは無駄でしかない。
正史では曹操が終結させたはずだったなぁ。などと考えていると、ようやくたどり着いた南皮城の門の前に……。
黄色い三人組がいた……。
「あれ……でも、女の子だよな?」
あのときの三人(始まりの外史で、最初に襲ってきた三人→愛紗に撃退された)なわけないよなぁ? アニキでも、チビでも、デブでも無いし。あえて言うなら、ボインと、ツンと、メガネ? などと考えていると。
「お願いします。天の御遣い様に会わせてください」
「申し訳ありませんが、御遣い様は遠征中です。御引き取りください」
「嘘言わないでよ! 会わせたくないからって!」
「ちぃちゃん、落ち着いてよ~。大声出したら、目立っちゃうじゃないー」
門番と言い争う、女の子達の声が聞こえてきた。
「ご主人様に用があるようですね?」
愛紗も気が付いたようだ。すやすや寝ている肩の上のちび恋を斗詩に預けてから、
「なにか急ぎの用みたいだな。疲れてるとこ悪いけど愛紗、一緒に来て。他の者は城に戻って休んでいてくれ。明日は休日にする。麗羽、雛里を頼む」
「「御意!」」
この城は初めての雛里を麗羽に任せて、俺は愛紗と三人女の子に近づく。
「いい加減にしないと、他の者も呼びますよ? 御遣い様は、お留守だって言ってるんです。嘘などついていません!」
「ちぃは、絶対、信じないんだから!」
「はぁ……」
門番が溜息混じりに答えるが、ツンな子は一歩も引き下がらない様子だ。
俺は馬を下りて、その少し背の低いツンな子に話しかける。
「そんなに怖い顔をしたら、折角の可愛い顔が台無しだよ?」
そう言いながら振り向かせ、にこやかに話しかける。
「御遣い様!? おかえりなさいませ! 伝令! 御遣い様が帰られた。荀彧様にお伝えしろ!」
「っは!」
門番が伝令を呼び城に走らせると、ツンな子が俺に何か言いかけるが、
「あな「えー! この人が御遣い様なんだー! わっかーい♪」ええー!?」
それを遮ってボインさんがおおはしゃぎ……天然さんでしたか。
「姉さん達、落ち着いて! 話が進まないわ。初めまして、御遣い様。私は張梁と申します。この度……」
「少し待って。ここではなんだから……城で話そうか」
「……はい」
一番真面目そうな張梁を見て少し思案する。こんなところで話すのはまずい。
正史の張梁。張三兄弟の末弟で、張角病死の後に張宝と共に戦死するはずだったが、始まりの外史でも男だった彼らは、ここでは女性。服装は黄色が大部分を占めて、ところどころ解れてボロボロだった。三人とも害意はなさそうだな。
俺が考え込んだ事で不安になったのか、ツンな子が声を震わせて、
「お願いします! 話を聞いてください! このままだと……ちぃ達……」
と、切羽詰った様子。俺はツンな子の頭を撫で、
「怖かったんだね。もう大丈夫」
ぼろぼろの女の子をそっと抱き締める。
「う、う、うあーん! 何度もつかまりそうになって……ひっく、それでっ~うぅ、姉さん達とはぐれたらどうしようって……やっとここまできてぇ、えっく、ぐす」
すると堪えきれなくなったのか、大声で泣き出し始めた。
「ち、ちぃちゃんー、ぐすっ」
「……ちぃ姉さん。うぅ」
三人とも相当苦労してここまで来たようだ。優しくその髪を梳くように撫でながら、
「愛紗、張梁さんを馬に乗せてあげてくれる?」
「御意」
「え?」
馬に跨り、張梁を引き上げるようとする愛紗。三人で名前聞いたの彼女だけだったな。
「後の二人は俺の馬に乗ってくれるかな?」
「人和ちゃん、どうしよー?」
「で、でも」
そう言って馬を指差す。さすがに三人は乗れないしね。
「そ、そんな! 御遣い様だけ歩くなんて、乗れません!」
「だよねー」
「ちぃも、そんな事出来ない」
張梁達は恐縮してるけど、ここは強引に!
「乗ってくれないと話を聞けないなー。ほーら早く、乗った、乗った! そんなに距離があるわけじゃないし」
「は、はい……(やはり優しい方……)」
「優しいー♪」
「ありがとうございます」
そう言って無理やり馬に乗せ、手綱を握って歩き出す。
「ご主人様、私とお代わり下さい。ご主人様が歩いているのに家臣の私が馬などと」
「でも、愛紗は女の子でしょ?」
愛紗が慌てて降りてきたので、掌を愛紗に向けて制しながら、メッ! と叱る。
「で、ですが~「愛紗」ぅ~はい……」
再び城に向かって進み始める。
……
/語り視点
小声で張角が張宝に話しかける。
「ねーねーちぃちゃん、御遣い様って噂通りだったねー♪」
「……(とても暖かかった♪)」
「ちぃちゃん?」
「え!? なに? 天和姉さん?」
しかし、地和は北郷一刀の背中を見詰めたまま返事をしない。もう一度張角が呼ぶと上の空だった様子。それでも諦めずに張角が話しかけると、
「だからー、御遣い様って噂通り優しいねーって」
「噂以上よ!」
「ん? どうしたの」
「あ、いえ、なんでもないんです! 御遣い様♪」
大きな声で返事をした張宝に驚いて、手綱を引いている一刀が振り返る。その顔を見た張宝は、全身を真っ赤にしながらも精一杯の笑顔で返事をするが、
「ちぃちゃん、真っ赤ー♪」
「う! うるさい!」
「……はぁ、姉さん達ったら」
張角に照れているのを指摘されて、そのまま烈火の如く怒りだす。その様子を見た張梁は、久しぶりに見る明るい姉達の姿に呆れつつも、安心するように微笑むのだった。
/一刀視点
軍議室
「それじゃ、話を聞こうか」
玉座の間に顔を出した途端、桂花に飛び付かれて泣かれた。少しの間、優しく慰めて理由を聞くと、自分が探し出せなかった張三姉妹を見つけて連れてきた俺に感激したらしい。更に、なにやら優秀な人材が俺に会いたがっているらしいとの事。その名前を聞いた俺は、この軍議に参加してもらって意見を得ようと提案する。もちろん強引に!
現在、軍議室には、俺、愛紗、ちび恋、麗羽、猪々子、斗詩、桂花、雛里の北郷軍と、郭嘉、程立のお客様が揃っている。桂花と雛里は反対したけどね。
「初めまして、郭嘉と申します。このような席でご挨拶する事をお許しください」
「はじめましてー、程立といいます。なかなか面白そうですねー」
二人が俺達に挨拶してくる。
「こちらこそ礼を欠いて申し訳ありません。私が北郷一刀です。この三人は、今、大陸を覆う大乱を起こした黄巾党の首謀者と噂される人物です。いまから、この三人の話を聞いて対応を決めます。お二人の知恵をお借りして、意見を聞かせて欲しいんです」
非礼を詫びて、協力をお願いする。
「分かりました、御遣い様」
「風も面白そうなので良いですよー」
……
「張角と言います。御遣い様、お話をする機会を頂き、有難う御座います。姉妹を代表して、お礼を申し上げます」
「張宝です。絶対に嘘は言わないと誓います」
「姉妹のまとめ役の張梁です。勝手な事を申し上げているのは分かっていますが、私たちには、もう後がないんです。御遣い様に頼るしか……」
そして張三姉妹、張角、張宝、張梁。三姉妹の話を聞き、事の顛末を纏めると、
通りすがりの張角の歌が好きという男に、『太平要術』という竹簡をもらって実践していき有名になった。更に、当時から三人で着ていた黄色い服から、黄色い布を旗印の色にされた。までは良かったが、張角達には関係ない野盗など賊が混じってきて、いつのまにか狂気の集団になっていた。で、その切欠になったのが、
「私が悪いんだよー。あんな『竹簡をもらった』からー。ぐす」
「ううん、天和姉さんは悪くないわ、私が『大陸を獲れる』なんて言ったから」
「ちぃが悪いかったのよ。あんな『大陸、獲ってみせる』とか言わなければ」
張三姉妹回想
/語り視点
三人はあの日の晩を思い出す。
「これ、凄いわ……。私たちの思いも付かなかった有名になるための方法が、沢山書いてある……」
『張角がもらった竹簡』それを見た張梁が驚く。
「ちょっと……ホントに!? さっきの冗談よ?」
「冗談なんかじゃないわよ。これを実践していけば、きっと『大陸を獲れる』わ! 私たちの歌で!」
疑問のまま問いただす張宝に、興奮を隠さず答える張梁。
「ホントに!?」
「ええ!」
「よ、よくわかんないけど、すごいのねー」
二人は盛り上がるが、張角はわかっていない。
「そうよ! 凄いのよ!」
「よぉっし! なら、わたしたち三人、力を合わせて、歌でこの『大陸、獲ってみせる』わよ! いいわね!」
「おおーっ!」「ええ!」
張梁が凄さを再確認し、張宝が歌で大陸を獲ると繰り返す。張角は流れだけで返事し、張梁は夢が叶うと、意気込んだのだった。
……
回想 了
……
「ふむ」
俺は小さく唸る。
「死刑が妥当じゃないですかー? 大陸を騒がせたのは事実ですしー」
「私もそう思います。本人達があずかり知らぬ事とはいえ原因なのですから」
程立の意見に郭嘉も同意し、三姉妹の顔色が暗くなる。二人とも、最初に最悪の場合を切り出すところが優しいな。俺は二人に目配せする。
「「(!?)」」
「えと、えと、私は何も、死刑にまでしなくてもと、思うんでしゅ。あぅ」
「落ち着きなさいよ、雛里。でも、生かしておく理由もありませんね」
優しい雛里は殺すまでは厳しいと言い、桂花は生かしておく利点がないと告げる。
二人とも俺の意図に気付いているみたいだ。目で合図する。
「「(コク)」」
「あー、アタイは難しいのは苦手だけど」
「文ちゃん!」
「殺すのは可哀相かなーって。ん?」
「な、なんでもないの(ちゃんと自分の意見を考えてたなんて……)」
猪々子が素直な意見を言い、斗詩は猪々子が投げ出すと勘違いした為に焦る。
「斗詩さん、貴女の意見はありませんの?」
「ぶ、文ちゃんと同じです!」
「そう」
「……れんは、ごしゅじんさまに、まかせる」
「むぅ、恋。私より先にそれを言うとは、麗羽殿の考えはどうなのですか?」
愛紗が最後に麗羽に振る。
「私は『切欠になれば良い』と、そう思います。違いますか? ご主人様」
麗羽の言葉に軍師たちがわずかに反応する。麗羽も分かっていたのか。張三姉妹は顔を俯かせ、大人しく処分を待っている。心から反省しているのだろう。
「では、俺の意見を言わせてもらう」
俺の声に反応して顔を上げる三姉妹と、意見を言い終わった面々。
「現在、黄巾党が行っている事は、もはや無意味だ。略奪し、人を殺すだけ。そこに『大義』はない! しかし意味はあった。民が絶望するように、今、この大陸には、彼らを守る力を持つものがいない。重い税ばかりとり、民を苦しめる役人達ばかりだった。その事実を知らしめた。ならば俺達どうすればいいか」
皆が息を呑む。演説の経験なんて無い俺が上手く伝えられるだろうか。
「彼らを救う力がここにある! と、そう宣言すればいい! 民を救い、希望を与えてやればいい。黄巾党が絶望した民ならば何故希望を与えない! だから、俺はまずこの三人に希望を与えたい。話し合いに来てくれた彼女たちに、俺を頼ってきてくれた、この彼女達に、俺は手を差し伸べる! よって、張角等三名は河北の北郷に自ら降り生きていると、大陸中に知らしめろ! 黄天は、天の御遣いに自ら屈したと!」
「「「「「「御意!」」」」」」 「……ぎょい」
桂花が早速、各地へこの情報を流し始める為、文官たちに指示を出す。一刻も早く大陸の混乱を収束させる為に。しかし前外史よりも事態が早く進んでいるな。
これで民の犠牲も抑えられたのなら良いのだけど。俺がそう考えていると、
「御遣いのお兄さんは熱い方ですねー」
「御遣い様、民に希望を……素晴らしいお考えだと思います」
と、お客様の二人が発言すれば、
「御主人様こそ、希望の光。大陸にその名を響かせましょう!」
「か、感動しましゅた! はぅ、しました!」
「やはり、ご主人様は素晴らしいです♪」
「……いいかんがえ」
「ご主人様、そう仰ると思いましたわ(サラリ)」
「アニキ、アタイも民を救う為に頑張るぜっ!」
「ご主人様ぁ、私も、もっと頑張ります!」
皆も俺についてきてくれると、そう言ってくれる。
「御遣い様。私たちを助けて頂き、ありがとうございます。真名は人和です」
「ちぃ達で出来ることなら何でもします! ちぃの真名は地和って言います」
「うんうん、真名は天和でーす。御遣い様にお仕えしまーす♪」
張三兄弟も笑顔で真名を預けてくれる。
「うん、三人の仕事はさっき思いついたんだ。とりあえずお風呂を用意してるから、疲れをとってゆっくりしておいで。仕事については夕食後に話そう。誰か! この三人を湯殿へ案内してくれ」
「御意」
「はーい♪」「はい!」「はい」
侍女の返事の後、三者三様の答えが返ってくる。地和の返事が一番元気良いな。
「ふふ、気合が入ってるな、地和。やる気が伝わってくるよ。よろしくね?」
「はい! 御遣い様のためなら、ちぃ、全力で頑張っちゃうんだから!」
「ちぃちゃんたら、抜け駆けー、ぶーぶー」
「あの、私も頑張ります!」
「えー」
地和が嬉しそうに答えると、天和が頬を膨らませてぶーぶーと不満を洩らす。人和も、最後に笑顔を見せてくれた。三人とも侍女の後についていく。
愛紗たちも、一旦着替えに戻るようだ。
「じゃあ二人とも、御主人様に失礼がないようにね! では失礼します、御主人様♪」
桂花は郭嘉と程立の二人に声を掛けてから、雛里に城を案内するために退出する。
さてっと、
「お待たせしました。郭嘉さん、程立さん。まずはお礼を。先程の軍議で意見を出してくれて、本当にありがとう」
「いえいえー、御遣い様のお答えは決まっていたようなので。とくにはー」
「そうですね。今、彼女たちを殺しても各地の小さな残党には関係のないことでしょう。かえって捕まったら殺されると、強く抵抗されるかも知れません。自ら降伏すれば助かるかも知れないと思わせる前例を作ったのは、良い方法かと」
「ですねー」
ただ……と、郭嘉さんは付け加えて、
「生かしておくのもなにか理由があるのでしょうか? 残党を説得させるのも無理でしょうし。武勇や智謀があるとも思えませんでした」
「ですよねー。三女さんは頭が良さそうでしたがー。軍師に向いているかといわれれば、そうでもなさそうですしー」
二人揃って解らないようだ。まあこの時代じゃね。
「あの三人には、民達に、夢と希望を与える仕事をしてもらう。詳しい話は、夕食後にするよ」
「夢と希望!?」
「おお! 凄そうな仕事ですね」
二人は首を傾げている。
「それにしても風。今日は寝ないのですね?」
「稟ちゃん? これから主君になるかもしれない方の前でふざけないでくださいー」
「……」
郭嘉がなにやら真剣な顔で程立に聞いているが、寝るって何のことだろう?
「寝るといえば、そうでしたー。風は御遣い様にお伝えしたい事があったのですよー」
「泰山で太陽を持つ夢を見た」「!?」
太陽『日』を掲げて『立』つから『昱』程立が程昱に名を改名した有名な話だ。たしか、曹操がその夢を聞き、喜んで名付けたんだっけ?
目の前の程立は、半目だった目を大きく見開いて俺の顔を覗き込んでいた。あれ? また口に出してた? ん、たしかに、声に出してた。
「姓は程、名は立から改名し昱、字は仲徳、真名は風と申します。風とお呼びください」
「風、貴女がそんなにあっさり決めるなんて、先程の夢の話。本当なの?」
「はい、稟ちゃん。すべて御遣い様の仰る通りなのですよー、なので決めました。この方を支えて、太陽を支えていこうとー」
「全く……私の方が先に決めていたのに、抜け駆けばかりして」
「……ぐー」
「寝るな!」
「おお! 珍しく寝ないで話していたので、疲れて眠ってしまいましたー」
ふたりの絶妙なノリ突っ込みに思わず笑ってしまう。
「あははっ、なかなか良い相方だねっ」
「風! 貴女のせいで笑われてしまったじゃない! コホン。御遣い様、この街に何日か滞在して、貴方が真に民の幸せを願っている事を知り、先程仰った、民に希望を与えるという誓いが嘘ではない事がはっきりと判りました。どうか私を戦列の端にお加えください。真名は稟と申します。是非、稟と!」
「大歓迎だよ。君たちはその為の犠牲も覚悟できるんだろう? 先程の軍議で判ったよ。これから力を貸して欲しい。よろしくね、風、稟」
「「御意」」
やはり二人とも非情な部分も持っている軍師だ。そういう人材が統一には必要なんだ。
「君たちの参入は、この時期で丁度良かったよ」
「鄴城へ拠点を移すのですねー?」
「やはりそうでしたか。全ての施設や街の仕組みが一時的なもの、なにかの実験のように見えましたが、拠点を移すためだったのですね」
さすが智謀の二人。今度はこちらが驚いてしまった。顔には出なかっただろうか?
「本当に頼もしいね。その通りだ。だけど時期は今じゃない。すぐに分かるよ」
「本当に不思議な方ですね。とても興味深い」
「御遣い様は、不思議さんですねー」
風には言われたくないな。とても突っ込みたい気分だ。
「お話中に申し訳ありません。御遣い様に是非お会いしたいという方達がお見えになりましたが、お通ししますか?」
侍女がそう告げる。
他の皆は休んだりしてるけど、俺休んでないよね? 帰ってきて服もそのままだし。いや、それでも会っておくべきだろう!
「会おう。通してくれ」
「御意」
「お連れ致しました」
「ありがとう」
暫く待つと、侍女に連れられ、三人の女の子が入ってきた。案内を終えて戻っていく侍女に礼を言いつつ、自己紹介を始める。って、風と稟は、話に参加するようだ。
「初めてお会い致します、天の御つ」
「わー、若いのー。ねぇねぇ真桜ちゃん♪」
「沙和!」ゴツン
「うぅ……痛いのー」
「申し訳ありません、御遣い様」
格好良い感じの真面目そうな女の子が話をしている途中で、メガネの、んー、どう見てもこの時代っぽくないお洒落な服を着た子が邪魔して殴られたようだ。
「改めまして……」
「あー!」「おお!」「貴女は!」
「……くすん。どうせ、私なんて…」
話を仕切りなおそうとした格好良い子の言葉を、今度はメガネの子の反対側にいた、ピンとしたくせっ毛で、かなーり際どい服の胸の大きい子と風と稟が遮った。可哀相過ぎる。
とりあえず、なんて呼べば良いのか分からないので名乗ってもらう。
「大梁義勇軍の楽進と申します。天の御遣い様はこの大陸の行く末を憂いて、この冀州に降臨されたとの事。どうか、我々の力もお使い頂けますよう……」
ふむ、黄巾党との戦いも、もう終わるんだけどね。さっき決着したし。でも心強い味方だな。楽進か、
「ウチも是非、頼んます。北郷は何もかも進んどって、なんや色々面白いもん作っとるって聞いとるし、あっと名前は李典や」
「真桜」
「李典です!」
なかなか面白そうな子だな。楽進に睨まれて汗流してるけど。
「于禁なのー、凪ちゃんと真桜ちゃんが決めたしー。御遣い様カッコイイから、お願いしますなのー♪」
最後にメガネの子、于禁が仕官のお願い? をする。
なるほど…正史で考えると、李典は堅実な将で教養が高かったくらいしか分からないけど。楽進と于禁はすごいな。 楽進も于禁も曹操五大将の一人だし、三人とも間違いなく優秀な人物だ。
「三人とも、遠くから力を貸しに来てくれてありがとう。こちらこそ、お願いするよ。よろしく!」
「はい! 真名は凪です。よろしくお願いします!(なんて爽やかな笑顔なんだ……)」
「真名は真桜や、真桜て呼んでくれてええで(なかなか面白そうな男やね)」
「真名は沙和っていうの。よろしくお願いしますなのー♪(カッコイイのー♪)」
三人が仕官すると決まり、全員真名を交換し合ったところで、先程の件を聞いてみる。
「で、風、稟。真桜と何かあったの?」
「はいー。稟ちゃんが真桜ちゃんの絡繰を壊してしまいましてー」
「風!」
「そうそう、ウチの発明品を「!?」……どないしたんですか? 大将」
絡繰、発明品、と、気になる言葉が出てきた。
「真桜、君は絡繰を発明できるのかい?」
「はいな! ウチは絡繰を作るのが大好きなんです」
馬や牛で引かせようと思っていた貨車を、蒸気機関車として走らせられるかも知れない。かなり世界が広がってきた!
「真桜には、俺の世界の絡繰を色々と再現してもらう事になるかもしれない。頼むよ」
「ウチに!? 了解ですわ。いやー、楽しみやわー。天の世界の絡繰♪」
快諾が返ってきた。これでおしまいかな?
「三人とも疲れただろ? 風呂が沸いているから入って休んでくると良い。夕食後、これからの事を話し合う予定になっているから。誰か!」
「御意」
「ありがとうございます!」
「おー、風呂やて♪」
「沙和、温かいお風呂、久しぶりなのー」
侍女を呼び、盛り上がっている三人を連れて行ってもらう。今日は来客が多かったな。
さて、先に着替えて夕食を食べておこう。今は風呂に入れないしな。俺は自分の部屋に戻り、扉を閉める。夕食まで仮眠しよう。
……
大陸を揺るがし、後漢王朝を衰退させた黄巾の乱は、その首謀者達が北郷に降伏した事によって結末を迎えた。大陸の諸侯、名のある武将達に、その名を広く響かせながら……。
夕食後 軍議室
全員が揃い、俺の言葉を待つ。
「それでは、これからの計画について話し合う。まず俺の考えを聞いてくれ」
つづく
おまけ
拠点 愛紗05
遠征から帰還した翌日『早朝』 南皮城 一刀私室
『愛々(あいと)』
/愛紗視点
「……ご、ご主人様。あの、その、大丈夫ですか?」
遠征中、ご主人様とは、ずっと口付けだけだった私は、昨夜、遂に我慢の限界に達して、ご主人様を押し倒すや、否や、その……今、我に返ったわけでして……。恥かしくて顔から火が出そうだ……。
ご主人様は少し疲れた笑顔で,
「愛紗が寝かしてくれなかったから……元気じゃないかも?」
なんて仰る。うー、私をいじめて楽しんでいる時の声音だ。
久しぶりに自制出来ずに、ご主人様に何度も何度もお願いしてしまった。
今、仰向けで寝ているご主人様の胸に両手を添えて、その両掌の隙間に左の頬を乗せて、髪を乱した私が覆いかぶさっている状態だ。ご主人様がゆっくりと、私の黒髪を優しい指先で梳いてくれる。とても落ち着く……。私は恥かしくて目を合わせられないまま呟く。
「……ご主人様、今日は二人ともお休みですよ」
「そうだな。このまま愛紗と閨でイチャイチャするのもいいかなぁー」
それは、とても魅力的ですが……。頬をずらしてご主人様のお顔を見上げるように姿勢を変える。そして精一杯、顔がふにゃっとならないように気合を入れて!
「そんな、不健康的な生活はいけません! 一緒に街にでも出かけましょう」
よし! 自然に言えたはずだ。ご主人様は少し驚いたお顔で、
「そうだね。折角のお天気だ。出かけますか! ……それに、そろそろ時間だし」
私の腰をぎゅっと抱きしめて、ぐるっと、そのまま私を横に移動させると、口付けをひとつ交わし、ご主人様は寝台から立ち上がる。その御姿は、身ひとつなのに堂々として……。
「(ほぁ~♪ ……!?)はい! どこにでも、お付き合いしますよ」
思わず見惚れて我を失うところでした。ご主人様が愛しすぎるのがいけないんです!
二人でお昼はどこで食べようか? などと話しながら衣服を身に付けていると、入り口の扉が開いて恋が入ってきました。
おまけのつづき
拠点 恋05+愛紗05 合流イベント
同日朝 南皮城 一刀私室
『恋々愛々(こいとあいと)』
/一刀視点
ちび恋がいつもの時間に部屋に入ってくる。夜は大抵愛紗と一緒だけど、昼の間はちび恋がべったりだ。いつも通りよぢよぢと俺の肩に上ってくる。
「……れんのばん」
「むむぅ、折角、ご主人様と一緒の休みなのだが……」
ちび恋の正当な権利の主張に何も言えない愛紗。ちび恋のお仕事は俺の警護が主である。まあ、恋は休みの日でも、やっぱり俺にべったりなんだけどね。
俺は愛紗の手を握り。
「なら、三人でいこう。二人より三人の方が楽しいよ。ね?」
「とても、たのしい」
「ええ♪ 私も恋が大好きですから。恋、ありがとう」
笑顔で互いの顔を見る。俺からちび恋の顔は見えないけれど、きっと、とびっきりの笑顔をしているのだろう。だって、腕を組んで俺の頭の上を見ている愛紗は、とても嬉しそうな顔なのだから。
く~。と、俺の頭の後ろから直接響く音が聞こえた。でも俺は気付かない振り。
「まずは朝餉にしましょう。一日の活力は、きちんとした食事からです」
「(コク)」
愛紗もちび恋のお腹の音には触れずに提案する。恋だって乙女だ。俺だってその位わかる。
「そうだな。今日は斗詩が作るらしい。なんでも、かなりの腕前だとか」
「そうなんですか? 遠征組は今日、皆、休みになっていましたから自由ですけど……むぅ? つまり、斗詩は料理を作る事が好きだから作るというわけですか?」
そして、食堂で斗詩に声を掛けると、俺と愛紗に一人前、恋には大盛二人前を渡してくれた。
「ご主人様。今日は私の自信作ですよ。えへへ。喜んで頂けると嬉しいです♪」
どうやら全員ではないようだ。そりゃそうか……周りから羨望の目で見られる。
席に着き斗詩が作ってくれた料理に箸を付ける。
「うん! すごく美味い!」
料理全体が今から食べるのに丁度良い温かさで、斗詩が味だけではなく、食べる人への小さな心配りまで出来る人物だという事がわかる。
「なんと素晴らしい!」
愛紗はしきりに感心している。
愛紗の料理、最初はひどかったけど……最近は普通の料理を作れるし、その家庭的な味はわりと気に入ってる。
「……れん、あいしゃのごはんもすき」
俺がそんな事を考えていたら、恋が愛紗の料理の事を褒めた。
「れ、恋。お前という奴は……っく」
ずずーっと、汁椀で泣きそうな顔を隠して感動する愛紗。ホント仲がいいな。
その後、愛紗と二人で交代しながらちび恋にご飯を食べさせる。いつもは俺の膝の上だけど、今日は愛紗の膝が良いらしい。愛紗も極上の笑顔だ。少し妬けてしまうくらいに。
「(もきゅもきゅ)」
愛紗と顔を見合わせる。くすっと笑みを零せば、愛紗も全く同じタイミングで微笑む。食べ終わった俺達は、まだ厨房にいる斗詩に、ごちそうさまと声を掛ける。
「凄く美味しかったよ。また機会があったらお願いしたいくらいだ」
「うむ、斗詩は素晴らしい腕を持っている。とてもうらやまっコホン。とても美味しかったので、今度教えて欲しい!」
俺が素直に感想を言うと、愛紗が焦りながら斗詩の料理の腕を褒める。
「もちろんです♪ ご主人様に喜んで頂けて、私もとっても嬉しいです♪ また、近いうちにご馳走しますね。ふふっ(昨日の夜から下準備をして、仕込んだ甲斐がありました♪ あとで文ちゃんの縄も解いてあげないと……全く、つまみ食いばっかりして)」
斗詩が優しく微笑み、良く通る鈴のような声で返事をしてくれる。
「……とし、とてもすごい」
「ありがとう、恋ちゃん。ご飯、足りたかなぁ?」
「(コクコク)」
「ふふっ、良かった」
ちび恋も大満足のようだ。斗詩は本当に良いお嫁さんになれるな。
「さてと、いこっか?」
「……(コク)」よぢよぢ
「はい、ご主人様。参りましょう」ガシッ
ちび恋が肩によじ登り、愛紗は俺の腕を当然のようにその胸に抱く。
そして俺達は麗羽に会ってお茶を飲んだり、桂花と雛里のコンビと一緒に昼飯を食べたりして過ごした後……。
静かな広場に来た。心地良い風が流れている……。
「心地良い風ですね……」
自然と腰を下ろす流れになって、澄み渡った空を見上げる。膝の上では、丸くなったちび恋がスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。
「ああ、本当に気持ち良い」
俺のすぐ横で美髪がたなびく。黒く長いその髪を片手で押さえながら、目を細めて微笑む愛紗。
『……ごしゅじんさまと、いっしょ』
少しでも時間があれば側に来て、いつでも俺に笑顔をくれる恋。
『ご主人様に全てを捧げています』
そう言って、いつも俺を後押ししてくれる愛紗。
俺は、この二人の想いを返しきれているのだろうか……。いや、馬鹿な考えだ。二人がこうして俺の側にいる事、それが何よりの答えだというのに。
俺は笑顔を守りたい。その為に人の命を奪う。だけど、決してそれを無駄にしない。
「……ご主人様」
「……れんもいる」
顔に出ていたのだろうか? 二人が心配そうに顔を覗き込んできた。俺は膝の上の大切な恋の頭を優しく撫でながら、愛しい愛紗の瞳を見つめて、
「大丈夫だ。俺には心を支えてくれる人達がいる。そうだろう? 愛紗、恋」
愛紗は静かに頷くと、その頭を俺の肩に乗せて寄り添う。恋も目を細めて、頭を撫でる俺の手に身を委ねる。俺達はそれ以上何も話さなかった。
サワ…… サワ…… サワ……
静かで穏やかな時間が過ぎていく。広場に流れる風と共に、緩やかに……。
おまけ
拠点 麗羽03
遠征から帰還した翌日 南皮城 麗羽私室
『琢刀(たくと)』
/麗羽視点
「ふんふふーん♪」
鼻歌も軽やかに、私は上機嫌で『ご主人様に作って頂いた琢刀』の手入れをしています。武器の手入れなどした事もなかったのですが、(実際、袁家の宝刀は鈍らだった) なかなか良い気分転換にもなりますわね♪
……この細く美しく輝く剣先は、鋭く振ると高い音を奏で、その刀身は鞭のようにしなります。
あまり腕力のない私にでも振り回すのが容易なほど軽く、とても扱い易いのです。
使い方もよけて刺すだけと、単純にして明快。至れり尽くせりですわ。(彼女はそれだけで戦える『強運』があります。これだけは本当に、天に愛された麗羽の才能だと作者は思います)
更に持ち手の部分は十文字に模されて……なんて愛しい意匠なのでしょう!
「ご主人様がこの『私の為に』考え、作ってくださった宝刀……ふふ♪」(既に宝指定)
十文字、ご主人様の旗印を連想させるこの琢刀。特に華美でもなく無骨でもない。そんな在り方が誰かを連想させて、思わず顔がにやけてしまいます。
手入れを終えた琢刀を大切に腰に佩いて一息。
「あら、こんな時間でしたの? 誰も迎えに来ないなんて珍しいですわね?」
いつもなら、猪々子や斗詩が迎えに来るはずですのに……。
さて、今日はお休み。まずは街に出てみましょうか。
……
城下町
「袁紹様、この前相談した縁談、うまくいきました!」
「ふふ、おめでとう」
……
「袁紹さまー、お休みですか? いい茶葉が入荷しましたよー」
「あとでお伺いしますわ」
街の民達に笑顔が溢れている。それがとても嬉しいのです。そのまま私は特に用事もなく、ただ歩いていただけのはずでしたが……。
「なんで、ここに来てしまうのかしら……」
辿り着いたのは警邏隊の詰め所の前。休みの日なのに……体に染み付いてしまったのでしょうか。
「袁紹様! 全員せいれ」
「お待ちなさい。今日は休みですの。偶然通りかかっただけですわ」
「は! 了解しました!」
私を見て、いきなり号令しようとした隊員を静かに制します。本当は偶然……ではないのですけれど。
「袁紹様。さきほど東門の近くで御遣い様達を見ました」
「まぁ、そうですの? 良く教えてくれました、ふふっ、感謝いたしますわ」
気が利く隊員にお礼を言い、東門に向かいます。ご主人様に会いに行くために……。
……
/語り視点
「なあ、袁紹様って、すっごく優しくなったよなー。笑顔もお綺麗だし」
「応! 昔は笑ってても目は笑ってなかったもんな。おーっほっほっほ! ってさ」
隊員達が口々に、最近の彼女の変化を噂する。
「うん。やっぱ御遣い様が来てホントに良かった。もう足向けて寝られないな!」
違いない! と、何人もの大きな笑い声が詰め所の中で響いたのだった……。
/麗羽視点
ご主人様達を見つけた私は、先程茶葉を勧められたお店にお誘いして、一緒にお茶を飲んでいます。
お茶の試飲所。大量に買うようなお得意様しか入れない場所ですが、私のお気に入りの場所です。店の主人の趣味で、落ち着いた室内に色とりどりの茶器が並べられ、そこに試飲するための一角があり、店主自らお茶を淹れてくれるのです。
「んー、香りが良いね。味とかあんまりわからないけど……うまい? のかな」
「ご主人様っ! 店主の前ですよ! あまり、失礼な事は……」
「(もきゅもきゅ)」
ご主人様の素直な感想に、愛紗さんは焦り、恋さんはご主人様のお膝の上でお茶菓子をもくもくと食べています。
ふふっ、本当に退屈しませんわ♪
「麗羽、ごめん! 折角誘ってもらったのに……俺の考えが足りなかった」
「ふふ、構いませんわ。ご主人様のようにお茶の事が良くわからなくても、香りは良いとわかるお茶。それだけ良いお茶という事なのですから」
私がそう言ってチラリと店主に目配せすると、
「御遣い様に来て頂けるだけで、当店は大繁盛です」
「あんた! 早くこっち手伝って!」
「し、失礼します」
この通りです。と、おどけて奥に戻る気の良い店主。
「そっか。なら良かった。良い場所だね」
相変わらず私の気持ちが読めるんじゃないかと思う程、絶妙な瞬間に褒め言葉をくださるご主人様。私はとても嬉しくなって、
「私のお気に入りの場所ですの。お茶を買う時にしか入れないのですけど、警邏隊を始めた頃に見つけて以来、ここには良く来ますの(サラリ)」
髪を掻き揚げながら説明すると、うんうんと嬉しそうに頷くご主人様。私はその後、茶葉を選んで城に届けてもらうようお願いしてから、ご主人様達と一緒に店を出ました。
「では、私は斗詩達を探してみますわ」
斗詩達が気になり、ここでお別れすると伝えます。
「……とし、しろにいた」
恋さんが城で見たと……城だけでは広すぎますわね。
「あら、そうでしたの? 恋さん」
「厨房で料理作ってたよ。じゃあ、俺達はもう少しぶらぶらしてくるから」
どの辺りで、お見掛けになったのかしら? と、聞こうとしましたが、ご主人様が代わりに答えてくれました。お二人にお礼を言わなくては、
「ご主人様、恋さん、ありがとうございます」
するっと自然に感謝の言葉が出た事に安堵して、愛紗さんにも一礼します。
「麗羽殿。改めて先日の戦、お見事でした。貴女と共に戦える事を誇りに思います」
愛紗さんはそう仰いますけれど……。
「ありがとうございます。愛紗さんの練兵のおかげですわ」
では、失礼します。と、ご主人様達に別れを告げ、城への道を歩いていきます。
「全て順調と言いたいところですが……」
斗詩達と遅い昼食を食べて、しばらくして別れ、自分の部屋に戻った私は考えました。
先日の遠征で、ご主人様に任された陣頭指揮。ご主人様に手解きして頂いた指揮方法『完全調和』
相手が黄巾党という、まともな訓練を受けていない者達だったこともあって、私の初めての連携戦術『完全調和』は、巧くいきました。けれど、また多くの命も失われました……。
『話し合いで解決するのが最善。無理なら戦う。結局人間は殴り合い殺し合って、どちらが正しいのかを争う事で理解し合うしかない。それが、それぞれの誇り、絆、理想、そんなものが関わって来るなら尚更だ。黄巾党は既に大義と理想を忘れてしまっている。……彼らも又、犠牲者だ。だが、まず殴り付けないといけない。目を覚まさせる為にも』
ご主人様の言葉を思い出す。大義を忘れた『賊』を、そのままにすれば、新たな犠牲者が出る。そして、家族、夢を奪われた、その犠牲者は、大切なものを守ってくれなかった官軍を恨んで、暴徒と化し、関係のない者の命を奪う。つまり、彼等を止めなければ新たな『賊』が生まれ続けていくのだと。
「いままで、猪々子や斗詩に全て任せていましたけれど、あまり気持ちの良いものではありませんのね。ご主人様はいつもこのような気分なのでしょうか」
今まで自分がどれだけ世の中に無関心だったのか、ここ最近思い知るばかりです。
私達が勝っても『命』は沢山失われます。ですが敵が勝てば、私達だけではなく、私たちの後ろにいる民達だって危険に晒される……。
腰に佩いた琢刀。この刃にかかる命は計り知れないほど大きい。その事を心に刻み込み、それでも下を向く事は出来ません。あの方が前を歩いている。どこまでも、どこまでも、先を目指して。その剥き出しの心を、深く傷付けながら……。
「ご主人様……」
もう一度琢刀を見ます。その刀身の細さが、先程、その御姿を連想したご主人様の御心のように思えて……。私はその、今にも折れてしまいそうな剣を大切に胸に抱くのでした。
おまけ
拠点 斗詩01
少し戻って遠征出発前日 南皮城 厨房
『あなたのために』
/斗詩視点
最近、私だけが取り残されている気がするんです……文ちゃんは、すっごい真面目になっちゃうし、麗羽様は、毎日、休みの日にまで、警邏の仕事に行くほど、街を歩くのが大好きになっちゃいました……。
文ちゃんは訓練、麗羽様は外回り、私は……なんだか寂しくなってきちゃいました。
ご主人様が来てからというもの、厄介事は減るし、心配の種も無くなるし、夜もぐっすり眠れるし、少し太っちゃ……コホン! とにかく!
「ひまだよぉ~」
まさか、麗羽様と文ちゃんに振り回されていた私に、こんな暇な時間が出来るなんて。
「あーあ、なにか、ご主人様のお役に立てることないかなぁー」
そんな事を考えながら厨房に行くと、(つまみ食いじゃないですよ! 本当です!)ご主人様がいました! なにやらお料理を作ってるみたいですねぇ?
「ご主人様? 何を作っていらっしゃるんですか?」
「ん、斗詩か。バターを作ってるんだよ(シャカシャカ)」
何を振ってるんでしょう? 中身が見えないので、液体を壷に入れて振っている事しかわかりません。
「ばたぁですか? 何かのタレみたいな物でしょうか?」
「よし、これくらいかな? はい」
ご主人様が肩を回しながら、蓋をした壷を私に渡します。その蓋を私が開けると、
「なんですか、この白い液体は?」
「牛乳って言って、牛の乳だよ」
疑問に思って聞くと、なんて物を使うんだろう!
「ご主人様、家畜の乳なんて下賎なもの、人間の料理に使うんですか!?」
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注意 中国では、昔から牛は力仕事をしたり、肉を食べたりしていたが、牛乳は下賎なものとして、長く飲料としては普及しなかった。象形文字などに、牛の文字の生い立ちが、牛を後ろから見たもの。として描かれており、かなり古代から中国に牛は存在はしていた。
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「飲んだ事無いの? 美味しいのに」
そう言いながら壷から白い液体を椀に移して、そのまま飲み始めるご主人様。少し美味しそう……。
「飲む? はい」
更に壷から牛乳を継ぎ足して、私に渡してくれる。
「んっ、……へー、まろやかで、なかなか美味しいですね!(ゴクゴク)」
ってあれ? 私、全部飲んじゃったよぉ!? ご主人様が作ってた、ばたぁを!
「美味しかった? でね」
「す、すみませんすみません!」
「え? あー……クスクス」
必死に謝る私に、優しく微笑むご主人様?
「これを見てごらん?」
ご主人様に促されて壷の底を見ると、ほんの少しだけ黄色い物が残っていました。
/一刀視点
むー、やはり手間が掛かるな。
牛乳を搾って口の大きめな桶に入れ、絞りたてを放置すると表面にクリーム状の物体が浮いてくる。この乳脂肪の塊を集めて、分解する為に振りやすい大きさの壷に入れ、ずっと振ってたんだけど……。出来たのは、わずかお猪口一杯分。
ちなみに牛乳の方は、胸が大きくなるって言ったら、桂花と猪々子が全て持って行きました!(保存できないのにね)冷蔵庫も無いし、実験は成功って事で食べちゃおうかな。
……
/斗詩視点
「いま飲んだのは残り汁みたいなもので、こっちがバターなんだ。沢山の牛乳から、ほんの少ししか取れないんだよ。いま、ここには二人しかいないし……味見してみる?」
ご主人様にそんな事を言われてしまい、キョロキョロと辺りを見回しました。
「はい、お願いします!(ドキドキ)」
私が期待に胸をふくらませていると、ご主人様はごまだんごを取り出しました。
「はい、一個ずつね。甘いのは好きかな?(パク)」
「あ、はい、大丈夫です(パク)(少し太っちゃ……コホン。でもまあ、一口♪)」
でも、これって普通のごまだんごですよね? 美味しいですけど。
「で、ここにバターを少し塗る。ヌリヌリっと、斗詩のも、はい(ヌリヌリ)」
ご主人様が、竹ヘラでばたぁを私が齧ったところに塗ってくれました。
「さ、食べてみて?(パク)んー、うまい!」
「(どきどき)はい!(パク)……!?」
まろやかな風味が餡と混ざり合って、両方強い味なのに……ゴマの風味を殺さず、
「とっても美味しいです♪」
「まあ、ごまだんごは買ってきた物だけどね」
そう言って照れ笑いをするご主人様。
「これが天の味、ばたぁですか。ご主人様は料理まで出来るんですね」
「いやー、知識があるだけで失敗続きなんだ。料理はあまり得意じゃないよ」
!? これは……私の出番かも!
「ご主人様。私、お料理得意なんです! よろしければ、その、お手伝いをさせてください!」
「それはこちらからお願いしたいくらいだよ。これから色々手伝ってくれるかい? こっちには足りないものが多くて、代用品を探す時に知恵を貸して欲しいんだ」
えへへ、ご主人様に頼りにされるって嬉しいなぁ♪
「任せてください! ご主人様のためなら頑張っちゃいますよ!(暇ですし♪)」
「じゃあね、ホットケーキを作りたいんだけど……」
「なるほど……が使えますね」
……
ご主人様のお料理のお手伝い。それが最近の私の生き甲斐なんです♪ 遠征から帰ったら、早速、私の腕前をお見せしないと♪
……文ちゃんが邪魔(つまみ食い)しないように準備もしておかないと。フフフ……。
おまけ
拠点 桂花03
遠征から帰還した日 南皮城 玉座の間
『師弟関係』
/桂花視点
軍議が終わり、ご主人様に郭嘉と程立を紹介した私は、新しく軍師になった鳳統に城の中を案内していた。
「あの、えと、初めまして、鳳統と言います。よろしければ、雛里と呼んでください!」
「私の御主人様がお認めになった軍師ですものね。私は荀彧、真名は桂花よ」
なかなか素直で可愛い子ね。仲良くなれそう……胸も同じくらいだし♪
「はい! 師匠!」
「は!? どうしたの雛里、そんな呼び方して」
師匠? 何か知らないけど嬉しい響きだわ……。
「は、はひ! ご主人様に、師匠は情報という最高の武器を全て管理している凄い方だって聞きまして。わ、私は軍略が得意ですので、師匠の情報を戦場で役立てようと……」
ふむ、私があまり得意じゃない軍略が得意なのね! 素晴らしいじゃない。
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ここで自分設定です。
ここから先に出てくる政略、戦略、軍略の違いと、それが特に得意な軍師。
政略 おもに政治的な謀(はかりごと)…… 桂花、風
戦略 戦にかかわる戦力と資材の効果的な運用などを行う…… 稟、桂花、雛里
軍略 戦場での謀、計略、陣形の指揮など…… 雛里、稟、風
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「雛里、貴女気に入ったわ。二人で御主人様の為に頑張るわよ!」
「はい! 師匠!」
大きな帽子のツバを両手で押さえ、気合を入れている雛里。この子も御主人様を愛する同志ね! 胸も同じくらいだし(ここがかなり重要らしい)
「城の中なんて明日からでいいわ。戦略司令室を見せてあげる。いくわよ、雛里!」
「あわわ、了解です!」
ふふ、一生懸命追いかけてきちゃって、こんな楽しい気分は初めてよ。
戦略司令室に入る為、まず見た目普通の扉を開ける、次にぼうおん扉を開けて、
「あわわ、扉が二重になってます」
やっぱり驚くわよね。私も初めて見た時驚いたもの。
「これは『ぼうおん』扉って言ってね。室内の音を通しにくいの」
「間諜対策ですね!」
流石ね。
「そうよ。この他にも色々仕掛けがあって、室内の機密が保たれてるわ」
そう言って中に入る。すると、天井のちび連者専用出入り口からクロが顔を覗かせる。
「クロ? 異常は無いかしら?」
「なー」
「無いようね」
私の質問にちゃんとクロが答える。
「わわ! 今の大きな猫さん、人の言葉が分かるんですかー」
「ええ、言葉も分かるし、理解もしてるわ……(恐ろしいほどに、くすん)」
「天井の上……それも間諜対策ですか! 徹底してますね」
顎に手を当てて考え込む雛里、へー、かなり頭の良い子ね。なんといっても、この前の二人みたいに腹に一物って感じじゃなくて良いわ。政略には向いてないけれどね。
「天井は迷路状になっていて、さっきの猫達に見つかると包囲して連絡がくる仕組みよ」
「あわわ、猫さんなら足音も立てないし、暗いところでも目が利くし、最適ですね!」
でも、どうやって仕込んだんだろう……と、思考に入る雛里に、
「北郷には、動物と家族みたいに付き合える武将がいるのよ!(そう、超絶可愛い恋が!)」
「恋さんですね。お馬さんとも仲良しでした」
私と自然に話せるようになった雛里、彼女も私を気に入ってくれたみたいね。
「えとえと、これは何ですか?」
雛里の質問の後、彼女が指差した先を見ると……。
「ただの竹カゴよ……」
「あぅ」
あのふたりにもらった手土産の竹カゴが置いてあった……完全に浮いてるわね。二人でそのまま話に熱中する。本当に凄い才能を持ってるわね。心強いわ。
「あら、もうお昼ね。雛里、一緒にご飯を食べに行きましょう」
「はい、師匠。ご一緒します! ~♪」
二人で街に出ると御主人様達が歩いていた! 御主人様ぁ♪ 雛里と目が合わせ打ち合わせをする。既に連携は完璧だ!
「御主人様! もしかして、これからお昼ですか?」
まず、緊張すると噛む雛里のために私が先制する。
「ああ、これから行きつけの店に行こうかと思ってね」
御主人様の意識がこちらに向いたら、すでに成功したも同然♪
「えと、その、『師匠と一緒に』ご飯に来たんですけど、何処が良いかなって、それで」
雛里のなんとかして助けてあげたくなる話し方が、御主人様の心をくすぐる。さり気なく私も同席すると含ませて。
「そっか、じゃあ、桂花も雛里も一緒に行こう。大勢の方が楽しく食べられるしね。愛紗、恋、いいよね?」
「はい! 大勢の方が楽しく食事ができます」
「……みんな、いっしょ」
さすが愛紗お姉さま! 恋も良い子すぎるわ。今日の昼食は、とても楽しくなりそう♪
そして、五人で楽しく食事をした。御主人様を中心に、みんなの夢と希望を語り合いながら。
私の可愛くも頼もしい相棒、同志雛里。その笑顔も守りたいと……私は心を新たにした。
「よし! 次いくわよ、雛里♪」
「はいっ♪ 師匠ぉ~」
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恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・05修正。