<登場人物紹介>
姓 名 字 真名 簡単な説明
北郷 一刀 なし なし 一応、主人公。未だ天の御遣いとも呼ばれず、ただのお荷物。
甘 寧 興覇 思春 主は己。錦帆賊の頭領。まだ誰にもデレてない。
丁 奉 承淵 冬灯 錦帆賊の将。ニヤニヤしてる女の子。
魯 粛 子敬 ?? あらあらまあまあなセクシー系お姉さん。
一刀たちが廬江に到着する数日前・・・・・・
徐州にある、とある県
昼食まであと少しという時間
落ち着いた趣き、静寂に満ちた屋敷に似つかわしくない喧騒がそこにはあった。
「魯粛さま、魯粛さまー!どちらにおいでですかー?魯粛さまー!」
主を探す侍女はこう叫びながら、もう一刻(約30分)は経っただろうか。
彼女の主―魯粛は、この時間必ずと言っていいほど屋敷の敷地内にいる。
そして屋敷の中で、いるであろう部屋にはいなかった。
となれば、魯粛は中庭にしかいない。
しかし、地方といえど豪族の家であり、かなり裕福な魯家の屋敷は、庭といえども広い。
魯粛は、いつも同じところにいるわけでなく、その庭のあちらこちらにある彼女のお気に入りの場所付近で本を読んでいるのである。
「魯粛さまー!」
ここも違うかと侍女が諦めて他の場所に行こうとした。
その時、自分の後ろの茂みから穏やかな声が発せられた。
「あらあら、どうしたの?そんな大きな声で」
そこには、木陰に座り、本を読む手を止めた魯粛がいた。
「魯粛さま!こちらにおいででしたか」
侍女は息をつきながら、胸を撫で下ろした。
「まあまあ、どうしたのそんなに慌てて?身体に毒よ」
魯粛は眉根を寄せ、心配そうに侍女を気遣う。
「魯粛さま、そんなことより魯粛さま!あの方から書簡が届きました」
そう言う侍女の手には、丁と印が押された書簡が握られていた。
「あらあらまあまあ!冬灯ちゃんからね!!えーっと、なになに―」
普段の彼女からは想像のつかない速さで侍女に近付いたと思ったら、すでに書簡を読み始めていた。
「魯粛さま…」
侍女はとても何か言いたげな顔をしているが、魯粛は可愛い可愛い丁奉ちゃんからの書簡に夢中で気付く素振りも見せない。
「…うん、分かったわ、冬灯ちゃん!今すぐお姉ちゃんが会いに行くから!!」
魯粛は叫んだ。
丁奉がいるであろう南西方向に向かって叫んだ。
力の限り叫んだ。
あまりの大声に周囲の田畑(魯家所有)で作業中の農民が辺りを見回す。
何事もないことを確認すると、また魯家のお嬢さんかと呆れ顔で屋敷の方を見ていた。
魯粛は、地方豪族の娘として産まれたが、すぐに母をなくし、当主としてこの地を治めた。
しかし、家業を放り出し、財産をなげうって困っている人を助け、地方の名士と交わりを結んだ。
また剣術・馬術・弓術などを習い、私兵を集め兵法の習得などに力をいれていた。
これらのことは、この世を憂い行ってきた行為だが、周りの人々には理解されず、村の長老には、「魯家に、うつけの娘が生まれた」とまでいわれていた。
数少ない理解者の一人が幼い頃から妹として可愛がっていた丁奉で、魯粛は丁奉のことを溺愛していた。
丁奉は彼女の下を離れ、錦帆賊とまでいわれるようになったが、それでも二人の関係は変わってはいなかった。
むしろ、心配する思いから丁奉への愛が強まる一方であった。
そんな丁奉から手紙が来たのだ。
『廬江で待ってるから手伝ってくれ』
その一文だけであったが、魯粛にとって丁奉の下へと向かうには充分な理由である。
その日のうちに、家のこと、領地のことを信頼できる者に任せ、馬の背に揺られることとなった。
廬江―酒家にて
「ふふっ、初めまして、北郷一刀さん。私の名前は魯粛。字は子敬と申します」
待ち合わせ場所の酒家には、甘寧、丁奉、そして穏やかな微笑を浮かべた女性がいた。
「―あっ、は、はい、初めまして」
魯粛―といったその女性の微笑に思わず見とれてしまった。
まず目が行ったのは、流れるように黒く光る長い髪。
糸目で、常に微笑を絶やさないそんな口元が印象的な凄く、そう凄く綺麗なお姉さん。
服装は、教会のシスターが着ていそうな長衣のように見えるが、深いスリットが入り、肩が露出している。
また、特筆すべきは、その溢れんばかりの胸を隠す胸元の部分がヘソの少し上まで開いているところであろうか。
ただ、中に黒いタイツのような肌着を全身に着ているようで、胸元からもスリットからも肌色が見えることはなかった。
ただこれは、これで良い。
うん、凄く良い。
「…おい、北郷…顔が崩れているぞ」
「兄ちゃん、分かりやす過ぎるだろ、それは」
甘寧がものすごい形相でこちらを睨み、丁奉はいつものように…ではなく、少し呆れたかのようにニヤニヤしている。
「……ちっ(女性と見れば、誰彼構わず相好を崩して、軟弱な)」
「はぁ…(兄ちゃんも胸か?やっぱり胸なのか?)」
そんな二人の様子を気に留めた様子もなく魯粛は一刀を嘗め回すように観察する。
「んー、この子が噂の占いに出てくる天の御遣いねぇ」
魯粛は、少し眉根を寄せつつ、唸っていた。
「「はっ?」なっ!!」
俺、甘寧、丁奉の声は完全に重なっていた。
「どういうことだ冬灯?書簡には御遣いのことは一文も書かれていなかったはずだ!」
驚いた甘寧は冬灯に詰め寄っていた。
「もちろん!というより本当に一文しか書かなかったんだけどな」
冬灯もいつものニヤニヤ顔を消し、驚いていた。
「あのー、天の御遣いって―」
「どういうことだ琴鳴(きんめい)」
俺のなけなしの勇気を振り絞った小さなつぶやきは甘寧の一言でかき消された。
ああ、完全に俺の言ってること聞いてないし、というか今出た琴鳴という名前はもしかして魯粛の真名なのかな?
そんな俺の気持ちを一切感じない甘寧は、魯粛をジロリと睨みつけていた。
「あらあら、どうしたの思春?そんな怖い顔をして…何を驚いているの?」
そんなことを気にした様子もなくにっこりと微笑む魯粛がいた。
「琴鳴姉ちゃん…どうして兄ちゃんのことを」
丁奉の口からもその名前が出たというは間違いないだろう。
うん、俺もこの二人の真名を呼べるように頑張ろう―
だから何を頑張るんだ俺?
一刀のそんな悩みをもちろん知ることのない3人の会話は続く。
「それはもちろん、知ってたからよ」
魯粛は、さも当たり前かのように話す。
「だって、可愛い冬灯ちゃんの身の回りに起こることは全て報告を入れさせていたのだもの。
冬灯ちゃんが今日どこに何をしに行ってたかも知ってるわよ。それよりも冬灯ちゃん!」
彼女には珍しく、声を少し怒らせて言った。
「…んだよ」
丁奉は明らかに面倒くさそうにしている。
「その言葉遣いは何です?私はそんな風に貴女を育てたつもりはないわよ」
「別に姉ちゃんに育てられてねぇ……ほとんど育ててもらってた気がすんぜ。めしとかメシとか飯とか」
「ほら、また。そんな言葉遣いしていたら、お姉ちゃん泣いちゃうわよ」
言うや否や本当に瞳を潤ませていた。
甘寧は、そんな二人のやり取りを見慣れているのか、呆れ顔で放置している。
「ねぇ、甘寧。この二人って」
2人の喧騒を横目に、甘寧に尋ねる。
「ああ、琴鳴は冬灯を小さい頃から面倒をみていたらしく、冬灯のことを溺愛している。
丁奉がウチに来るときも大変だった」
「大変って?」
「私兵が攻めてきた」
そう言う甘寧は心底ウンザリという顔をしている。
「へっ!?」
あの綺麗な人が…やはりどこの世界でも女性は恐ろしい。
「実情が分かっていたから下手に殲滅することも出来ずに大変だった。
あの頃の錦帆賊は300人ほどだったか、それに対して琴鳴の私兵は50人そこそこだったが…思い出したくもない」
苦労したんだろうな。
甘寧の顔を見るだけでそんな風に窺える。
っと、そろそろ―
「あのー、そろそろその辺で」
「あらあら、私としたことが―冬灯ちゃん続きは後でね」
一刀の言葉に我に返ったのか、魯粛はそう言って微笑んでいた。
しかし、丁奉はまた後でという言葉に、
「うえー」
と舌を出して嫌がっていた。
「と~うと~うちゃ~ん」
ズゴゴゴゴという効果音が相応しいくらいにゆっくりと丁奉に顔を向けた魯粛。
そして、その目が開くかという次の瞬間―
「ハイ、キンメイオネエサマ」
まるでぜんまい仕掛けのカラクリのようにカクカクとした動きで応える丁奉の目は、虚ろだった。
それを見る魯粛の目は、糸目のまま変わっていない。
「それで何かしら北郷さん?」
パッとこちらに微笑を浮かべた顔を向ける魯粛。
自分は大人、自分は大人。
ココはスルーだぞ一刀。
決して怖いとか思ってないぞ。
「さっき言ってた天の御遣いって何?俺のことを言ってたみたいだけど…」
錦帆賊の兵の中にもそんなことを言っていた人が数人いたがいったい何のことなんだ。
「まあまあ、2人とも…言ってなかったの?」
甘寧、丁奉の方を見ると露骨に目を逸らされる。
「あらあらまあまあ、駄目じゃない。これからこの御方が私たちの―」
「んっ、んん」
魯粛が最後まで言う前に丁奉がわざとらしく咳をし言葉を遮った。
「そう、まだなのね。いいわ、それはまたいずれね。…それで北郷さん天の御遣いのことですね」
「そうなんだけど、その前にさ。その、北郷さんって止めてくれないか。なんか慣れなくて。
甘寧みたいに呼び捨ててもらっても良いし、一刀と呼んでくれてもかまわない」
「私はまだ貴方に真名を預けるようなことは出来ませんがそれでも構いませんの?」
「それでもです」
一刀はその眼差しを真っ直ぐと魯粛に向けて力強く言った。
「あらあら、そこまで言われたら仕方ありませんね。一刀さん」
「はい」
一刀はそう笑顔で応えた。
純粋に嬉しかった。
自分の名前を呼ばれるだけでこれほど嬉しいとは思ってもみなかった。
「あらあらまあまあ//」
「……ちっ」
「兄ちゃん…」
その笑顔は3人の心を暖かくさせる、そんな笑顔だった。
「東方より飛来する流星は、乱世を治める使者の乗り物なり。
つまり天の御遣いとは、この乱世に平和を誘う天の使者。
自称大陸一の占い師、管輅の言葉です」
「それが俺!?」
魯粛が教えてくれた話に一刀は驚いていた。
俺はそんなすごい人間ではないし、普通の、どこにでも居る学生だ。
もちろん、この世界にはない未来の知識はある。
しかし、それも学生が分かる範囲でだ。
「ああそうだ。貴様を拾ったあの日、確かに長江に落ちる流星を見た。
そして流星が落ちた方角から流れてきたのがお前だ」
「一刀さん、貴方は別の世界から来た。それは間違いないはずですね」
「ああ」
ここは自分のいた世界とは違う。
それは確かだ。
「そして私たちが見たことのないような生地の服を着ている。それならば天の御遣いとして十分です」
そうか、この時代は、迷信や神様への畏怖が人の心に強く関係していたはずだ。
「つまり俺を天の御遣いとして担ぎ上げて、天の御遣いの風評を得よう、ということだよな」
自分が天の御遣いかどうかは分からない。
そもそも今、俺がここに居る理由・・・・・・それが何なのかわからないけれどきっと何か意味があるからこそ、俺はこの世界に来たんだろう。
なら俺は―
「そーだぜ、兄ちゃん。俺達は兄ちゃんを利用しようとしてる。それが嫌なら―」
「別に嫌じゃないよ。だからそんな悲しそうな顔をしないで丁奉。
それに、俺は君達に拾ってもらった恩もある。今日まで生かしてくれた恩も。
甘寧にも丁奉にも本当に感謝してる。こんな俺で役に立てるならどんな風に使ってくれても構わない。
これからも君達の側にいさせてくれないか?」
そう、考えるよりも行動。
自分の思ったように生きる。
甘寧たちの側で―
「北郷…」
「兄ちゃん…」
利用すると言っている自分達の側にいたいという一刀の言葉に2人は心を打たれる。
「……北郷、私の真n―」
甘寧の決意を籠めた言葉は丁奉の叫びによって掻き消える。
「良し決めたぜ!」
「何だ?丁奉?」
「俺の真名は冬灯。冬の灯りと書いて冬灯だ。兄ちゃんに預ける。好きに呼んでくれ」
そういう丁奉の顔にはいつも以上にニヤリという顔。
「丁―いや、冬灯。ありがとう」
「あらあらあら、冬灯ちゃんが真名を預けたんなら私の真名も預けようかしらね。
私の真名は、琴鳴。改めて宜しくね」
「ああ、こちらこそ宜しく、琴鳴さん」
「ええ、聞いてると思うけど、私が勉強を教えるときは『先生』って呼んでね」
「えっ!?なんのことだ、それ」
「あらあらまあまあ、それすらも言ってなかったの冬灯ちゃん」
「そういや言うのすっかり忘れてたぜ。今日迎えに行くのが兄ちゃんの先生だって」
3人が笑いあう、そんな中、一人顔を歪ませ、悲しそうに立つ甘寧がいた。
その様子に気付いた一刀は甘寧に声をかける。
「どうしたんだ甘寧?そういえば今何か言いかけていたような―」
「なんでもない!」
「えっ、でも」
確かに何か聞こえたような―
一刀はそんな顔で甘寧を見る。
「なんでもないと言っている!それにこれだけは言っておく!私はまだ貴様に真名を許すつもりはない!!」
「うん、甘寧ならそう言うだろうね。俺はまだ、甘寧に認めてもらえるようなことを何一つしてないからね」
「そうだ、私を認めさせろ!そうすれば私の真名を貴様に預けてやる!」
そういう甘寧の頬は少し赤くなっていた。
<あとがき>
はいMuUです。
ようやく5話目。
遅くなってないですよ。
これが通常ペースです。
さて、オリキャラ2人の真名を貰った一刀さん
ようやく天の御遣いとしてスタートできる・・・・が、思春よ
まだデレるな
お前はまだまだいけるはずだ!!
とりあえずセリフ「」の前の名前は一刀が真名を貰ったその時から真名表記になります。
分かりにくかったら申し訳ないッス。
2/16改定
セリフ「」の前の名前ではなく、文章の中の名前は一刀が真名を貰ったその時から真名表記になりますw
うむ、改定さえも遅れがちなのねん
ノシ
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ついに登場?教えて魯粛先生~♪
すみません
ここの使い方をいまだに悩んでいます
今回は前話から一日も経ってない
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