No.932426

【創作】少年と世界樹 最終話

meguro さん

ついに最終回を迎えます。児童文学の様な不思議で心温まる話が書きたいと思いこの作品を書きました。ここまで読んで下さり有難うございました。

2017-12-06 21:31:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:599   閲覧ユーザー数:598

前回のあらすじ

古代遺跡が残る村に辿り着いた少年と樹の苗、そこで村に住む老婆から村はずれにある神殿に住む女神の話を聞く。そして女神に会いに行くために神殿へと向かった。神殿には老婆の話通りに女神らしき白い服を身にまとった女性が姿を現した。しかし、女神には人間に対する怒りが心に残っていた。

 

 

「確かに昔の人間たちは私を崇めてくれた、だが次第に科学や哲学の発展、機械を使う様になって人間たちは変わってしまった。私の力で食料問題、流行り病、他国の侵略からずっと守っていたのに、それをいつしか自分たちの力だと勘違いするようになった人間が多くなった。そして、私の存在さえも疑う様になって最終的には神はいないという考えになってしまった。・・・だから人間たちを追い払ってやろうとしたのだが、やり過ぎてしまった。今更、後悔しても遅いのだ・・・。誰もこの地には来ない。かつての町の賑わいには・・・戻らない」女神は苦しそうに涙を流しながら語った。

 

「出来るよ!また、昔の町の賑わいに!だって彼と僕がこの町に来たもん!」樹の苗が自信満々に言う。

「うん、約束するよ。自分たちがこの町に再び人を呼び寄せる!だから、安心して」少年も釣られるように言う。女神は安心したように、また、少年たちに任せると消えていった。「ありがとう・・・そして、ごめんなさい」と一言残していった。

 

女神が消えた後、街の様子は何だか変わっていた。遺跡のこの部分が変わったなど物理的ではなく、空気が昨日よりも澄んでいて空が晴れていた。

 

風も昨日とは違ってそよ風だ。老婆が少年の方に近寄る「これは・・・長い間ずっとあった穢れや呪いが消えている・・・お主ら・・・一体?」老婆が驚いていると樹の苗が話す「じゃあこの町を再建しよう。」樹の苗は少年に話掛けると町はずれの野原に行った。

 

「ここでいいよ。あのね・・・僕ずっと僕が役に立つ場所を探してたの。色々旅をして辛いことも沢山あったけど、凄く楽しかった。僕の旅はここで終わりにするよ。」

 

地面に植え蜂を置くと樹の苗が少年に語る。「なに、言ってるんだよ・・・。まるでお別れみたいじゃないか!嫌だよ!自分はもっと樹の苗と居たい!」

 

「旅はもういいの?」樹の苗が問いかける「・・・・うん、少し旅を中断して今までの旅の事を本にしようと思っていたんだ」少年は、恥ずかしそうに言う。

 

「君ならきっと、いい本が書けるよ。僕は、ここで待ってる」「ほら、やっぱりお別れみたいじゃないか!」少年は益々不安になる。「楽しかったよ、有難う」

 

空が曇ると雨が降ってきた。樹の苗の根っこは植え蜂を破壊し、地面にねじり込む。そして苗も連動するように大きく成長していった。

 

凄い地鳴りと地震が起きる中。少年は空を見上げてただ茫然とするだけだった。さっきまで自分が抱えるぐらいの大きさの樹の苗があっという間に巨大な樹になっていく、樹の成長が終わるといつの間にか太陽が出てお天気雨になっていた。大きな樹、樹と比べると豆粒ぐらいな少年。

 

 「こんな・・・なんで・・・?こんなのどうやって話すればいいの?」驚きながら、訳が分からずポロポロ涙を流す少年。「君は泣き虫だね。僕がちょっと成長しただけじゃないか」樹全体が葉を揺らして話している。「ちょっと所じゃないよ!でも、大きくなっても会話出来て良かった」少年は安心した様子だった。

 

 

 

 

 それから、10年後町には人が少しずつ集まっていた。古代の文化を尊重し古代風の白い石で造られた町が作られて今日も賑わっている。

 

この町の名物は女神が住んでいた巨大神殿と神が宿る世界樹。実は最近になって女神は元いた神殿に戻り、今もその神殿に住んでいるという。そして、少年は、すっかり青年になっていた。この町の町長になり町の発展を続けていくだろう。そして少年が7年前に書いた冒険記も話題になりベストセラーにはならなかったが、町の人たちに絵本代わりとしてよく読まれていた。

 

 そしてそんなある日、「町長さん!町長さんに面会したいという人が来ましたが!」役場の役員が声をかける。かつての少年は会議の資料を整頓し終わると、小走りに自分に会いたいという人の所に向かった。

 

仕事の話だろうと思っていると、その人物を見て驚いた。「・・・大きくなったな・・・ロイド。」目の前にいたのは14年前に行方不明になっていた父だった。随分と時が経った為、顔はしわくちゃ、背も父んでいた。しかし、声、話し方、笑い顔などまさに父だった。

 

「な・・・なんで・・・なんで?どうしてここに?なんでここに僕が分かった?今までどこにいたの!?」

 

突然の父との再会で長い間胸にしまっていた思いを一気に吐き出してしまった。

「細かいことはいいだろう、こうやってやっと出会えたんだから。後でゆっくり話をしよう、まずは飯が食いたい」昔と変わらない父の性格に町長ロイドは安心した。

 

その日の夜、注目の町として取材され雑誌やTVの取材、町長としての仕事がある中で久しぶりに夜ゆっくりと語る時間が出来た。

 

相手は世界樹と呼ばれるほど成長したかつての樹の苗。「それでさ、行方不明になってから記憶喪失になってたんだってさ。6年ぐらい自分が何者か分からなかったらしい。でも、自分が書いた本を読んで全部思い出して僕に会う為に、この町に来たんだってさ。全く・・・困った父さんだよ」

 

夜のそよ風に揺れて葉が揺れる。「君、なんだか凄く楽しそう。良かったね、やっと念願の父さんに会えたんだね。良かった良かった・・・最近、君忙しそうだったから寝る暇のないんじゃないかと心配だったんだ」

 

樹の苗も昔と比べたら少し言動など落ち着いて世界樹らしくなっていた。「そうだ、僕も一つ思い出したことがあるんだ。

 

長い間、名前で呼ばれた事なかったから忘れてたんだけど、まだ君には言ってなかったね、ロイド・・・それが僕の名前だよ」ロイドと世界樹はこれからもこの町のシンボルになっていくだろう。

 

 

 

これはそんな不思議な話のひとつ。

 

     おわり

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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