No.93210

真・恋姫無双~魏・外史伝37

 こんにちわアンドレカンドレです。
多くの方々は夏休みが明け、学校だ会社だと忙しい日々を送っている今日この頃・・・。僕は頑張って作品を投稿しています。しかし話が進むにつれて書く量が増えていき、投降する日の間隔が広がってしまう。これは何処かで調整しなくていけない・・・、そう思っています。
 さて、いよいよ物語は十六章!一刀君と伏義の因縁の対決も決着が着くのか?長きにわたる蜀+正和党ルート完結編!
 そんなわけで真・恋姫無双 魏・外史伝 第十六章~悲劇と喜劇は終幕へ・前編~をどうぞ!!

2009-09-03 17:13:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4686   閲覧ユーザー数:3838

第十六章~悲劇と喜劇は終幕へ・前編~

 

 

 

  五丈原で五胡を退けた俺達は、本陣にて華琳の話を聞く。

  「私はこのまま成都に行く事にしたわ。」

  突然の方針の転換に驚く皆。俺は華琳の傍らでその話を黙って聞いていた・・・。

 だが、華琳にも何か考えがあるのだと、皆がそれぞれに納得し、その方針に従ってくれた。

 とはいえ、国の方を空けておく訳にはいかない。そこで軍を2手に分ける事となった。

 蜀には華琳と俺、俺が来ると言う意味で部下の三羽烏、霞と以前の成都に行けなかった留守番組が

 行く事となった。そして軍師として、稟と風・・・、華琳はこれといった理由は言わなかったが、

 趙雲さんの事での考慮である事は容易に分かった。五胡と戦っていた最中に、蜀に放っていた斥候

 から得られた新しい情報の中に、趙雲さん、呂布が行方不明になっているというのがあった。2人は

 平然とした様子だったが、内心心配しているのはさすがの鈍感な俺でも見て分かった・・・。

  で、春蘭、秋蘭、季衣、流琉、桂花が留守番組として国に残る事となった。春蘭は最後まで私も行く

 と言って聞かなかった。俺と華琳と秋蘭の3人でなだめてようやく納得してくれた。春蘭も関羽さん

 の事が気掛かりだったのだとは思うけど、戦力的に考えれば、あまり留守番組を減らすわけにはいか

 なかった。そういう事で、俺達は急ぎ蜀、成都へと向かった。

  そして俺達が成都に到着した時、すでに手遅れとなっていた。

  「戦いが・・・、起きている。」

  成都より数里先にて待機していた俺達の元に、先行していた凪達から成都の様子を聞いた。

 すでに成都の街の中で蜀軍と正和党が戦闘を開始していたのだ。まるで俺達の行動を見据えての展開。

 事態はもう俺達が介入できる状態でなくなっていた・・・。

  「一足遅かった、という事ね・・・。」

  そう言って、華琳の顔に影が入る・・・。

  「華琳様、今からでも戦いを中止させる事はできないのでしょうか?」

  凪が華琳に戦いを終わらせる事が出来ないか、聞く。

  「恐らく・・・、無理でしょうね。私達が出て行ったら、それこそ火に油を注ぐのと同じ事。

  さらに戦いを激化させかねないわ。」

  「・・・・・・。」

  そして口を閉ざし、黙ってしまう凪。一方で、沙和が俺の元に駆け寄って来る。

  「ねぇ、隊長!何とかならないの?」

  「沙和・・・。」

  沙和の表情はとても悔しそうな顔をしている・・・。きっと街の中で逃げ惑う街の人達の姿を見て、

 何もしないで戻って来た事に憤りを感じているのだろう。そんな彼女の顔を見て、俺は胸が痛く締め

 付けられる。

  「・・・難しいだろうな。」

  「隊長・・・!」

  今にも泣きだしそうな沙和から目を背け、残酷な事を言う俺。

  「戦いを、途中で終わらせる事は・・・始める事よりもずっと難しい。どちらかが負けを認める

  まで終わらない・・・、それは、今までの事を振り返れば、分かる事だろ・・・?」

  そうだ。俺達は敵という敵を全てを打ち負かして来た・・・、だからこそ、この大陸を統一する事

 できた。そんな俺達に戦いを途中で終わらせる術なんて持っているはずもない。

  「この戦いを・・・、止める事が出来るのは、この戦いを引き起こした人物のみ。蜀の劉備さんか

  正和党の廖化だけだ・・・。」

  「うぅ・・・、そんなの・・・、あんまりなの~。何もできないなんて~・・・、そんなのないの~。」

  「・・・・・・・・・。」

  俺の胸に頭を預けて来る沙和。俺は彼女の頭を優しく撫でてやる事しか出来ずにいた。

  「華琳様~。向こうの方から砂塵が見えました~。」

  そこにいつものマイペースで風がやって来る。どうやら、砂塵を確認できたからそれを報告に来た

 ようだ。

  「旗印は・・・?」

  「赤地に孫の文字・・・、恐らく孫策さんかと・・・。」

  孫策が・・・、どうして彼女達がここに?俺達は孫策と合流するべく軍を進めた。

 呉軍から一人突出して来た孫策。華琳もそれに合わせて前方に出て来る。俺も一緒に前に出て行く。

  「久し振り・・・という程、日は経っていないかしら。華琳?」

  「そうね、そしてまたここで鉢合わせになるとは思ってもみなかったわ。ここへは何用かしら?」

  「ちょっとした野暮用でね・・・。それを言うなら、あなた達だってここに何しに来たのかしら?」

  「ちょっとした野暮用・・・、といった所かしら?」

  華琳と一通り言葉を交わすと、孫策は俺の方を興味深そうに見る。

  「あなたが・・・、北郷一刀?私の事は・・・知っているかしら?」

  「孫策伯符さん・・・ですよね?」

  そう答えると、孫策はニヤっと笑う。

  「あら、自己紹介の必要はないようね?」

  ちょっと怖い感じの気難しい人かと思ったが、意外にフランクな人なんだなと俺は初対面ながらに

 思った。

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・?」

  そんな事を考えていると、もう一つ別の視線を感じる。孫策の後ろに隠れる位置から俺をじっと

 見ている・・・、確か彼女は孫権だったはず。俺を警戒している・・・、のもあるんだろうけど、

 どうもそれとは少し違う感じ、何か考えながら俺を見ていた。

  「・・・・・・あの、俺に何か?」

  「えっ・・・?」

  俺は孫権の無言の視線に我慢出来ず、思わず声をかけてしまった。彼女もまさか声を掛けられるとは

 思っていなかったようで、細め気味だった目を丸くして驚いた。それに気づいた孫策は・・・。

  「あら、どうしたの蓮華?もしかして彼にひとめぼれでも?」

  「雪蓮姉様っ!!」

  孫策の冗談に顔を赤面させる孫権。

  「あ、でも彼は止めた方がいいかもねぇ・・・。魏の種馬に手を出したら、後で怖い目を見るわよ。」

  「姉様っっ!!!」

  孫策の冗談に、今度は怒る孫権。ついでに孫策の言葉が、俺の胸を抉る・・・。

  「ふぅん・・・、うちの種馬に手を出そうだなんて・・・、あなたも大した女ね、蓮華?」

  「だから!違うと言うにっ!!」

  孫策に合わせて、今度は華琳が孫権をからかい始める。全く、状況が分かっているのかな・・・

 この2人。そんな事も思いながら、やれやれと呆れていた・・・。

 

  ―――や・・・、いや・・・・!!・・・めて・・・。

 

  「ん?」

  俺の耳に声が入り込んでくる・・・。空耳か、とも思ったが・・・。

    

  ―――やめてええええええええええええええええ!!!

 

  「え・・・!?」

  今度は、トンネルの中で反響した時のような声が聞こえてくる。この声・・・、聞き憶えがある?

  「どうしたの。一刀?」

  俺の様子が変だと思ったのか、華琳が声をかけて来た。

  「華琳・・・、今、やめてって言ったか?」

  「・・・?何をやめろって言うのよ?」

  華琳は首を傾げながら、頭に?を浮かべているかのような顔をする。

 

  ―――・・・はははッ!!!・・・泣けぇ!!そして自分を恨め!何もできない、ただ見ている

  しかない愚かな自分をぉッ!!

 

  今度は男の声が聞こえてくる。この声も・・・聞き憶えがあった。

  「華琳達には・・・、聞こえないのか?」

  「聞こえるって何が聞こえるのかしら・・・?」

  そう言いながら、孫策は周囲を見回す。華琳と孫権もそれにつられて周囲を見渡す。

 皆には・・・、聞こえていないのか?成都の街の方から聞こえるって言うのに・・・。街の方・・・?

 何を言っているんだ、俺?どうしてそんな遠くの声を聞けるんだ・・・?俺は成都の街の様子を

 うかがう・・・。幸い街の城門は開いていたので、様子がうかがえた。そこから街の中央の通りで、

 蜀軍と正和党と思しき兵達が戦っている・・・って何を言っているんだ?こんな遠くからそんな事が

 分かるわけないだろうが。・・・でも、俺の目にはそれがはっきりと映っていた・・・。もしかして

 これもあの力の影響なのか・・・?

 

  ―――あっははははははははは・・・、・・・はははははは!!!

 

  今度は男の声が・・・、笑い声が聞こえてくる・・・、まるで悪魔が笑い声のような。

 その笑い声を・・・俺は知っていた・・・。俺の目はその声を元にその主を追いかける・・・。

 声の主は、簡単に見つけられた。何故なら、奴は・・・、城の展望台で劉備さんと一緒にいたのだから。

  「ふっ・・・ぎ・・・。」

  その瞬間、俺の思考が一瞬止まった・・・。

  「一刀・・・、あなた話を聞いているの?」

  華琳が俺に何か話しかけているようだが、今の俺には・・・届いていない。俺の耳に届くのは、奴の

 笑い声だけだった・・・。

  「伏義・・・。」

  もう一度、奴の名を呼ぶ・・・。

  「伏義・・・?ちょっと一刀、何を言って・・・。」

  俺の体に、あの時と・・・同じ感覚が支配する・・・。そして、俺の中で何かが切れた・・・。

  「伏義ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーー!!!」

  「んなっ・・・!?」

  「「・・・っ!!」」

  腹の底から大声を出す。俺は思うままに、体から溢れ出しそうな力を・・・体に溜めこんでいく。

  「・・・うがぁぁぁあああッ!!!」

  「待ちなさい、一刀!!勝手な行動は許さ・・!!」

  華琳の静止を振り払い・・・、俺は奴の元へと駆け出した・・・。

  「一刀っ!!」

  「ねぇ、華琳・・・、彼どうしちゃったの?」

  「私に聞かないで頂戴・・・!」

  「華琳!今、一刀が街の方に走っていったのが見えたが、どないしたんや!?」

  「霞!あなたは足の早い兵を数名連れて、一刀の後を追いかけなさい!!凪達も好きに使っていいわ!」

  「応よ!!まぁかしときーーっ!!」

  

  「ッ!?!?」

  気が付いた時には、俺は伏義の顔面に真正面から堂々と俺の全体重をかけた蹴りを放っていた。

 一体どうやってここまで来たのか・・・、疑問であったが今はそんな事は大した問題では無かった。

 そして伏義の視線と俺の視線が重なった。

  「・・・。」

  「ほ、北郷・・・!」

  伏義は俺の名前を呼ぶ、と同時に勢いよく、後ろへと吹き飛んでいった。

 その体はまるで水面を跳ね返る石のように、地面に何度もぶつかり、何度も跳ね返る。

 そして後ろの壁に激突。壁は激突した衝撃で破壊される。伏義はその崩れた壁の下敷き

 になった。

  俺は劉備さんの手前に、衝撃を和らげるために身を屈めて着地する。

 そしてゆっくりと立ち上がりながら・・・。

  「伏義・・・、お前に・・・、これ以上好き勝手な事はさせない。

  悲劇と喜劇は・・・、これで終幕だッ!!!」

  自分でも、自分は北郷一刀なのかと疑ってしまう・・・。それほどまでに、俺は怒っている事が

 感覚的に、第三者から見た感じに理解出来ていた。

  「ほ、北郷・・・さん?」

  後ろでよろけ倒れていた劉備。彼女の目は少し虚ろな目をしていた・・・。

  「劉備さん・・・、ここは俺に任せて、一刻も早くこの戦いを止めるんだ。」

  「・・・・・・、無理です。私にはできません・・・。」

  「何を言っているんだ、あなたは?」

  こんな時に何を言い出すんだ、この人・・・。

  「そんな愚痴を言っている場合は無いだろう?早く戦いを止めないと・・・。」

  「駄目なんです!私は、私には・・・もうどうする事も出来ないんです・・・。私一人では・・・、

  何もできない・・・。」

  両腕で上半身を支え、項垂れる劉備は涙をぼろぼろと流しながらに、涙声で喋る。

  「私は頑張った・・・。王様として、皆のために・・・頑張った!でも、正和党の人達が戦を始めて

  ・・・、愛紗ちゃんも・・・いなくなって、そして星ちゃんと恋ちゃんも・・・!私が守ろうとした

  もの皆が私の前から無くなっていく・・・!私を支えてくれる人達が居なくなっていくの!!そんな

  中で・・・私にこれ以上、何が出来るって言うのよ!!」

  「・・・・・・。」

  俺はそんな彼女を見ろしながら、黙って聞いていた。

  「華琳さんの言うとおりだったんだ・・・!私は、私は・・・王様になるべきじゃなかったんだ!!」

  パシィッ!!!

  俺は反射的に劉備の左頬を引っ叩いていた。

  「甘ったれるもいい加減にしろ、劉備玄徳!!」

  俺は彼女のその態度が酷く腹が立っていた。彼女の左頬はみるみる赤くなり、彼女は左手で押さえる。

 彼女は涙で真っ赤になった目を丸くして、俺を見ている。

  「王になるべきじゃなかったっ!?今更そんな事言って、この現実から逃げるのか!?

  それで解決するのか!!何も変わらないじゃないか!」

  俺は再び立ち上がる。

  「あなたは何のために王になったんだ!!皆が笑って暮らせる優しい国を作るためじゃないのか!

  俺は覚えているぞ!!2年前に、華琳にそう言った事を!それなのに今のあんたは何だ!華琳の

  言葉を言い訳にして、自分に都合の悪い現実から目を逸らして・・・、あんたを信じて付いて

  来てくれた人達だけじゃなく自分自身からも逃げようとして、あんたは無責任だ!!」

  「・・・・・・!!」

  「あんたが王に相応しいかどうかは、俺には分からない!だが、今あんたがするべき事は逃げる

  事じゃないって事は分かる!!王として、あんたは責任を全うするべきなんじゃいか!?それが

  あんたを慕い、ついて来てくれた人達の信頼に応えるって事じゃないのか!?!?」

  「ほんごう・・・さん。」

  「責任を全うするまで・・・あんたは蜀の王だ、あんたが何を言おうが!逃げようとしようがだ!

  そのためにも立つんだ、立って・・・この戦いを終わらせるんだ!!」

  俺は彼女に手を貸す。彼女は自分の前に差し出された俺の手を取ろうと恐る恐る手を伸ばしていく。

 そして、俺の指と彼女の指が重なろうとした瞬間・・・。

  

  ドゴォオオッッ!!!

 

  「ぐおあッ!!!」

  「北郷さんっ!!」

  俺の背後に強烈な衝撃が走る。突然の事だったため、その衝撃に耐えきれず劉備の頭上より先へと

 宙に吹き飛ばされる。その瞬間、俺にぶつかって来たのが、伏義だった事が分かった・・・。宙に

 吹き飛ばされ、展望台の手すりから外へと放り出され、背中から落ちる形になる。そして俺の目に

 伏義の姿が映る。

 

  ドォォオオウンッ!!!

  

  「ぶッ・・・!?!?」

  伏義は宙に放り出された俺の腹に追い打ちをかけるように、踵落としを振り降ろす。その一撃の衝撃

 が加わり、俺は一気に下の一軒家の屋根に叩き付けられ、屋根を破壊した。

  「ぐはぁ・・・ッ!」

  家の中に落ちた俺の顔に屋根にぽっかりと空いた穴から太陽の光が差し込む。辺りは埃が舞い、太陽の

 光線を反射していた。体を起こそうとすると、腹部に痛みが走り、腹部を見る。鎧にひびが入って割れて

 いる。もし鎧を着ていなかったらもっと痛かったに違いない・・・。幸い俺の手には剣が、刃があった。

  「北郷・・・、やっぱりお前はあの時確実に殺しておくべきだったな!!」

  屋根の穴から伏義は覗き込むように、見下ろす。

  「ぐ・・・、そうか・・・。俺も・・・、あの時お前を逃がした事を・・・後悔している!」

  俺は刃を構える。先程までの俺の頭を支配していた熱はいつの間にか消えていた。

  「ハンッ!!だったらどうするよ?」

  「・・・ここで、あの時の・・・決着をつけるだけだ!」

  「いいぜ、望むところだ・・・。」

  「・・・!」

  まただ、いつの間にか移動している。屋根の方にいたはずの伏義は今俺の目の前にいて、低姿勢から

 片手用の鉈を横に払おうとしていた。

  「死ぬのはお前だがなぁあああッ!!!」

  ブォウンッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィィィイインッ!!!

  奴が放つ連続攻撃を刃の腹で受け止める。あまりの速さに俺は防戦一方を強いられていた。一撃を

 受け止める度に火花が勢いよく散る。

  「ハッハハァアッ!!どうやらあの時はまぐれだったようだな、北郷!」

  そして、また俺の前から姿を消す。一体どうなっているんだ?奴には加速装置でも付いているのかよ!?

  ドガァアアッ!!!

  「ぐぁああッ!!!」

  そして伏義の体当たりに俺の体が吹き飛び、今度は家の壁を突き破り、隣の家の壁も突き破る。

  「くそ・・・!俺も奴の様に動ければ・・・!!」

  俺は両脚で床を蹴り、その反動で体を後ろにバク転する。俺が倒れていた所に伏義の鉈が振り下ろされた。

 再び足を付けた俺は一歩二歩とステップを踏みながら下がり、刃を構えなおす。伏義は一本しかなかった

 はずの片手用鉈を両手に持っていた。

  「良い反応だな・・・。お前じゃなかったら、とうにくたばっているぞ!」

  「何だそれ、ほめ言葉か?」

  軽くパニくっているにもかかわらず、俺は伏義の言葉を返す。・・・どうしたらいいんだ?

 奴のあの異常なまでのスピードについて行くには・・・・、どうしたらいい!!奴の動きは何となくで

 はあるが、感覚的に感じる事が出来て、それで何とか致命傷を免れている。

  「まぁ、俺に一撃も与えらないんじゃ、お前に勝ち目は無いだろうがな!!」

  「くそ・・・!」

  俺は突進してくる伏義にカウンター気味の振り下ろしを放つが、それは空を切る。

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィィィイインッ!!!

  そして俺の死角から鉈の二枚の刃が俺に襲いかかって来るのを、感覚的に察知し、受け返す。

 奴の能力・・・、あの時の・・・、伏義は俺達を油断させるために華奢な体の女に姿を変えていた。

 どういう原理かは分からないが、奴は骨格、筋肉、脂肪、・・・人の体を構成するこれらの割合を

 変える事が出来るんだ、しかも質量保存の法則を完全無視というチート付き!

  「オラオラオラオラァアッ!!!」

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィィィイインッ!!!

  「く、くそ・・・!!」

  このままじゃ、やられる・・・!

 どうしたらいいんだ!俺は、どうしたらいいんだ!!

 

 ―――・・・北郷!・・・恐れるなぁ!・・・その力は・・・、お前の・・・心しだい!!

    自分の・・・心を信じるんだ!・・・その心のままに、力を・・・解放するんだ!!

 

  俺の頭に露仁の言葉が蘇る・・・、そして同時に露仁のが伏義にやられた時の光景も・・・!!

  「ぬぐ・・・ッ!うああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

   ブォウンッ!!!

  「何ッ!?」

  ガギィイイッ!!!

  初めて俺の一撃が伏義を捉えた。伏義は俺の一撃を二刀の鉈で受け止める。この時、一瞬だったが

 奴から余裕の笑顔が消えた。

  「・・・・・・!」

  「・・・。へッ、まぐれだろ?」

  ガギィイイッ!!!

  静止していた俺達は再び動き出す。互いに刃を弾いた俺達はすかさず相手の懐に入り込む。

 今、気が付いたが・・・俺の視界が黄色く染まっている。黄色く染まったその視界は奴の動きが青白い

 残像として残り、俺に奴の動きを如実に教えてくれている・・・、そんな気がする。

  ガギィイイッ!!!

  「なッ!」

  「・・・!」

  ガギィイイッ!!!

  「馬鹿なッ!」

  「でやあああッ!!!」

  ガギィィィイインッ!!!

  「グオオオオッ!?!」

  吹き飛ばされたのは、俺でなく、伏義だった。さっきので、俺は奴の動き付いて行けるようになっている

 ようだ・・・。成程、チートなのは俺も同じって事か・・・。しかし、便利な力だ。正体が分からないのが

 気味が悪い所だがな・・・!

  バゴオオオッ!!!

  吹き飛ばされた伏義は家の壁をぶち破り、外に飛び出す。俺も急ぎ後を追いかけた。

 壁に出来た穴から飛び出すと、外は砂埃が立って周りが良く分からない。俺は奴の姿を探す・・・。

  ブオウンッ!!!

  砂煙の向こうから気配を感じた俺は前方に転がり、攻撃を回避する。

  「・・・!?こ、ここは・・・!」

  砂埃が落ち着き視界が広がっていく・・・。俺は前転から攻勢に転じようと構えると、1つ気が

 付いた事があった・・・。今俺がいる・・・この場所。ここは紛れもなく、蜀軍と正和党がぶつか

 っている戦場のど真ん中じゃないか!!慌てふためく俺に、後ろからいきなり切りかかって来る

 蜀軍兵士。俺はそれをかろうじてかわす。

  「のわ!ちょ・・・待って!俺、敵じゃないって!!」

  そんな事を言った所で、聞いてくれる状況でもない訳でッ・・・!蜀軍兵士、正和党の党員が

 容赦なく次々と俺に攻撃を仕掛けて来る。これでは伏義どころでは無いぞ!!

  「わッ!おッ!ほッ!のわッ!」

  敵味方関係なく、俺に襲いかかる二勢力の兵士達。その連携は恐ろしいくらいに完璧なものだった。

  ちょ、お前等仲良過ぎだからぁッ!!!俺の心の叫びなど彼等が知るはずもなく、俺はいつしか

 壁際まで追い詰められていた。こういう時を・・・、窮鼠猫を噛むって言うんだっけ?

  「いやいや・・・、それはちょっと違うだろ?」

  自分に一人突っ込みする俺・・・。こんな状況なのに、俺は本当に余裕だな。・・・だが、ここは

 一つ、鼠になった気持ちでやってみるしか無さそうだ。そう結論付けた俺は刃の刃を返し、峰に持ち

 かえる。

  「てしゃあああっ!!」

  剣を振り上げて突っ込んでくる蜀兵士。

  ドゴゥウッ!!!

  次は蜀軍、正和党の入り乱れた3人同時の攻撃をかいくぐり、峰打ちを叩きこむ。

  「どりゃあああっ!!」

  今度は長槍の切っ先が俺に襲いかかる。俺は片足を軸にして切っ先を回避すると同時に長槍の間合いの

 内側に入り込む。

  ドゴゥウッ!!!

  長槍を持っている兵士の首筋に峰打ちを放つと、俺は長槍を取り上げる。右手に刃、左手に長槍といった

 感じ・・・。俺は長槍をブンブンと振りまわし、周囲の兵士達を片っ端から叩きつける。

  ドゴゥウッ!!!

  ドゴゥウッ!!!

  ドゴゥウッ!!!

  一通り周りを片づけたかと思った瞬間。

  バゴオオオッ!!!

  「・・・ッ!?」

  背後の家の壁が壊れ、そこから伏義が飛び出してくる。俺はすかさず長槍で交戦しようとするが

 槍の真ん中を切り落とされてしまう。刃より短くなってしまった槍・・・、俺はそれを伏義に投げつける

 が、奴は難なく避け、俺との間合いを一気に詰めて来る。

  ブォウンッ!!!

  そして片手用鉈の斬撃を放つ伏義、しかしその一撃は空を切る。何故なら俺は飛びあがっていたからで

 ある。俺は前のめりになった伏義の背中を踏み台にさらに飛び上がると屋根に着地する。

  ガギィイイッ!!!

  後ろを振り返ると、伏義の追撃が襲い掛かる。刃で受け止めるが、その衝撃で俺の足は屋根の上を滑る。

  「ハアアッ!!!」

  ガゴオオッ!!!

  伏義のさらなる追撃を宙に飛んで回避する。伏義の一撃は屋根の瓦を木っ端微塵に破壊する。奴はすか

 さず俺に突っ込んで来る。

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィイイッ!!!

  ガギィィィイインッ!!!

  屋根を転々と飛び移りながら、俺は奴と斬撃の打ち合いを繰り返す。恐らく、常人の目には何が起きて

 いるのかすら分からないだろう。

  「く、くそ・・・ッ!!」

  「ハッハァア!!どうした北郷!てめぇはその程度だったのか!?」

  伏義は俺の斬撃を弾き落とすと、俺の顔に向かって回し蹴りを放つ。

  ドゴオッ!!!

  まともに食らってしまった俺は受け身を取る事もままならず、屋根の先端に背中を打ちつけ、跳ね返る

 と狭い街の通りに落ちる・・・。奴の異常なまでのスピード(恐らくその気になれば、音速並みに速く

 動けるかもしれない・・・)について来れるようになった所で、戦闘技術では奴の方が上・・・。

  「さて・・・、そろそろ終幕と洒落込むか?」

  伏義は俺より少し離れた先に降り立つ・・・。俺は何とか立ち上がり、刃の切っ先を奴に向ける。

 きっと次で決まる・・・、奴もそれが分かっているはず。

  「てめぇの・・・死を以てなぁぁぁあああッッ!!!」

  体を屈め、低姿勢から地面を踏み、突進してくると思った瞬間、奴の姿が消えた。

 まずい・・・、奴の気配が感じられない。これじゃ・・・!

  ガギィィィイインッ!!!

  「ッ!!」

  手にあったはずの刃が手から離れ、空に向かって弾かれると、俺の体をバランスを崩して

 しまった。この時、伏義は笑っていた。俺をトドメを刺そうと鉈の刃先を俺の首筋に目掛けて・・・。

 

  ――― 一刀っ!!!

  

  「ッ!?」

 

  ―――華琳・・・!

 

  ドゴゥウッ!!!

 

  宙に舞いあがっていた刃が勢いをなくし、今度は重力に従って落ちてくる・・・、刃の

 切っ先が地面に突き刺さる。伏義の鉈が俺の首を跳ね飛ばすより先に・・・。

 俺の左拳が・・・、伏義の鳩尾にめり込んでいた。伏義から笑顔は無かった。そこにあったのは驚愕の

 顔・・・、白目を向き、口が塞がらない。両手に持っていた鉈は手から滑り落ち、地面に落ちる。

 考えるよりも体が先に動いていた・・・。伏義も俺の行動を読む事は出来なかった様だ。

  「ぐ・・・、が、あ・・・ッ!!・・・ホン、ゴウ・・・!き、キサま、ナニ、ヲ・・・。」

  「・・・あの世で露仁に詫びて来い。」

  そして、俺の左拳から強烈な突風が生まれる。その突風は伏義の腹に集約していき、俺の拳から

 離れた途端、一瞬にして後ろに吹き飛ばされていった・・・。家だろうが、店だろうが、破壊しても

 その勢いが止まる事無く・・・、奴の体のいたる所から青白い光が溢れ出す・・・。奴の勢いが

 止まったのは、街の城壁に激突した時だった。奴の体が壁にめり込んだ所で、奴の体が青白い光で

 包まれた・・・。

  その光は伏義の周囲の地面、壁を飲み込む。そして、球体状に集約すると、空に向かって柱を昇らせた。

 その光の柱は、城壁をもに見こみ、そして雲をかき消して、天へと昇っていく。柱はみるみると太くなり、

 再び周囲を飲み込んでいった。

  「・・・もっともお前は、地獄行き・・・だろうが・・・、な。」

  力使い果たした俺の体は糸が切れた操り人形のように、意識を失い倒れてしまった。


 
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