「ぐ、おのれ……ッ!!」
ロキの繰り出した斬撃で右腕を斬り落とされたゴルドフは、機械化している左腕から伸ばしたワイヤーを右腕の傷口に巻きつけ、止血の処置を完了する。一方で彼の右上を斬り落としたロキは、ユーズから召喚した魔剣―――フラガラッハを構えたまま、視界の歪んだ両目を閉じている。
(何故だ……何故奴は俺の動きに反応出来る…?)
「意味が分からないって顔してるだろう?」
「!」
目を閉じたままロキが告げる。
「さっきも言ったろ? お前はもう、俺の攻撃を防げやしないってな。悔しかったら俺に反撃してみろよ、ポンコツ野郎」
「貴様ァ…!!」
挑発されたゴルドフは青筋を立て、左腕を刀剣から機関銃の形態へと即座に変形。ロキ目掛けて無数の弾丸を乱射し始めたが、弾丸は一発たりともロキには届かず…
「そこか」
「!? ごあぁッ!?」
気付けばロキは
「ならばこうすれば避けられまい!!」
「それはどうかな?」
「!? な―――」
左足から伸ばした仕込み刃でロキの胴体を狙うゴルドフ。しかし気付けばその仕込み刃すらも折られ、巻きつけたはずのワイヤーも全て斬られ、ゴルドフの目の前からロキの姿が消える。
(まただ!? 何故奴はこんなにも速く動ける…!?)
「俺はこっちだ!!」
「く……ぬがぁ!?」
姿を消したロキは、気付けばゴルドフの真後ろに移動していた。振り向こうとしたゴルドフの顔面がフラガラッハの柄で殴られ、列車の壁まで吹き飛ばされる。
「これ以上時間かけてはいられないんでな。次で終わらせようか」
(ッ……まさかコイツ、俺の攻撃にカウンターで返しているというのか…!!)
血反吐を吐き捨てながら立ち上がるゴルドフを前に、ロキはフラガラッハを両手で構え直す。ゴルドフはバチバチと火花を散らす左腕を再度刀剣へと変形させる中…
「…ッ!? ぐ、がは…!!」
「…!」
フラガラッハを構えていたロキが、突然勢い良く吐血し、その場に膝を突き始めた。それを見たゴルドフは先程までの焦りの表情が一変し、ニヤリと口角を上げる。
「なるほど。どれだけ俺の攻撃に対応しようとも、体内の毒はどうしようも無い訳か……ならば!!」
「…!?」
ならば自分がするべき事は決まっている。ゴルドフが取った行動とは……今いる車両の天井を破壊し、その場から逃走する事だった。
(奴に猛毒を喰らわせている以上、後は放っておけば良いだけの話だったな…!! これで奴は俺が何かをせずとも勝手に死に至る…!!)
そうなれば自分の勝ちだ。いちいち自分から攻撃を仕掛ける必要も無かった。後は猛毒で死んだロキの遺体をそのまま回収してしまえば良いだけの話。ついでにあの魔剣とやらも一緒に回収させて貰うとしよう。そう思ったゴルドフは勝利を確信し、列車の外に逃げてからロキの死を待つ。
「先程は手痛い傷を負わされたが……この勝負、俺の勝ちだ…!」
「勝手に殺してんじゃねぇよ」
「―――!? 何…!!」
ロキが取り残されている車両から、複数の魔力弾が一斉に飛来。思わぬ攻撃にゴルドフはすかさず列車から線路外へと飛び降り、追尾して来る魔力弾を左腕の刀身で薙ぎ払う。
「遠距離攻撃か、小賢し…ッ!?」
その時、ゴルドフは気付いた……自身の頭上から、フラガラッハを構えたロキが斬りかかって来ていた事に。
(まさか、
「終わりだ」
「ッ……俺は負けん、負けられんのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
刀剣による攻撃は振るうのが間に合わない。ゴルドフの左腕がロケット砲に変形し、ロキ目掛けてロケット弾を発射する。しかしロケット弾はロキに命中する事なく―――
「何度も言わせんな。これで終わりだよ」
―――ゴルドフの胴体は、フラガラッハの一閃の下に斬り裂かれた。
「…………みご、と……だ……」
ゴルドフの上半身と下半身が、ドシャリと地に落ちていく。着地したロキは、未だ猛毒で視界の歪んでいる目をゴルドフの方へと向ける。
「…アンタとは、違う形で会いたかったもんだよ」
ロキにはゴルドフの顔は見えなかった。しかしロキの目には何となく、ゴルドフの笑みを浮かべた顔が見えたような気がしていた。
場所は戻り、列車では…
「けほ、こほ……!」
「ふぅん、意外と大した事ないんだね。君」
崩れた木箱の上に倒れ込む青竜を、空中に浮遊しているラミスがつまらなさそうな目で見下ろす。その横ではネルガに首絞められているFalSigの姿がある。何処からどう見ても旅団側が追い詰められている状況だ。
「ッ……嫌な物ですわね、久々の戦闘で身体が鈍ってしまっているようですわ…!」
「君なんかの実力じゃ僕達には勝てない。諦めて死んでくれたまえ……って言おうと思ってたけど」
ラミスは倒れ込んでいる青竜の首を掴み、持ち上げてから彼女の身体を見据える。
「なかなか
「…冗談が過ぎますわよ、このスットコドッコイ!!」
「おっと」
青竜が右足で繰り出した蹴りは、ラミスには当たらなかった。ギリギリで回避したラミスは距離を取り、両足を変形させ始める。
「往生際が悪いねぇ。もう少し痛めつける必要がありそうだ」
「誰があなた如きにお持ち帰りされますの? 私をお持ち帰り出来るのはアン娘さんだけですわよ」
「あぁそう……言いたい事はそれだけかな!!」
変形した両足は鋭利な刃物となり、ラミスは浮遊しながら青竜に向かって突撃する……はずだった。
「かかりましたわね」
「…ッ!?」
突如、ラミスの身体がピタリと止まった。何事かと思ったラミスは身体を動かそうとするが、彼女の身体は空中に制止したまま思うように動けず、余裕の表情が崩れる。
「…何をしたんだい?」
「私じゃありませんわよ。そうですわね、FalSigさん?」
「その通りっすよ」
「ご、ぁ……が…」
「!?」
人が床に倒れ伏す音。それを聞いたラミスが振り向くと、そこには床に倒れ伏しているネルガの姿があり、痛めた首をゴキゴキ鳴らしているFalSigの姿があった。
「あぁ~キツかった。このアホが俺を捕まえたまま油断してくれたおかげで、やっと集中して
「!? まさか、糸で僕の身体を…ッ!!」
ラミスが静止したまま動けないのも、FalSigがこっそり張り巡らせていた糸に捕まったから。その事に気付いたラミスは力ずくで糸を引き千切ろうと全身に力を込めるも、そんな彼女の右足の刃物を青竜が両手で掴み取る。
「さぁ~て、私をお持ち帰りしようとした不届き者には……お仕置きが必要ですわね?」
「!? やめ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
グシャリと右足を捥ぎ取られ、ラミスが悲鳴を上げ始める。捥ぎ取られた右足はその場に放り捨てられ、青竜は続けて左足を掴む。
「ッ……貴様ァア!!」
「声が荒んでますわよ? レディがはしたない」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
左足も引き千切られ、両足を失ったラミス。力ずくで糸の拘束から抜け出したラミスは、服の袖から取り出した仕込みナイフで青竜に襲い掛かる。
「あら」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「お断りですわ」
-チュドォォォォォォォォォォォンッ!!-
魔力を吸収する義足がなくなればこちらの物。青竜が至近距離から繰り出した雷撃は、ラミスの全身を一瞬にして焼き焦がした。床に落ちようとしていたラミスの頭を青竜が掴み、そのまま二撃目を発動する。
「か、は…」
「失せなさい、永遠に」
そのまま二撃目が炸裂。一撃目の時点で黒焦げになっていたラミスは、二撃目の雷撃で消し炭すら残す事なく完全に葬り去られた。ラミスの死亡を確認した青竜はその場に座り込み、そこにFalSigが歩み寄る。
「…ふぅ、疲れましたわ」
「地味に面倒な奴等だったなぁ。死ぬ時は結構アッサリだったけど」
「案外普通でしたわ。ちょっと苦戦するフリをしてあげるだけで、向こうは勝手に油断してくれるんですもの」
「…その割には必死なように見えたっすよ? もしかして、あの女に美味しく頂かれるのを避ける為に―――」
「それ以上言ったら怒りますわよ?」
「…すいませんした」
青竜が黒い笑みを浮かべるのを見て、即座に謝罪するFalSig。まぁ、これは聞いてはいけない事を聞こうとしたのだから自分が悪い。そう自分に言い聞かせたFalSigは、すぐに本来の任務に戻る事にした。
「…と、とにかく、早いところレリックを回収しましょうや。そろそろ管理局の正規部隊に勘付かれるだろうし」
「あら、そうでしたわね。それじゃあ早くロキさん達とも合流し―――」
-ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!-
「「ッ!?」」
その直後だった。轟音と共に車両のドアが破壊され、吹き飛んできた“何者か”が二人の間を通過。何事かと二人が振り向いた先には、全身がズタボロ状態のmiriが木箱の山に突っ込んでいる姿があった。
「「miriさん!?」」
「ッ……がは、ごほ…!!」
miriが圧倒されている。旅団ナンバーズの初期メンバーの一人であるmiriが。その信じられないような事実に驚愕する二人だったが、あまり驚いていられる時間は無かった。
「つまらんな。貴様の力はこの程度か、オブライエン」
「「…ッ!!」」
青竜とFalSigは即座に身構える。二人が睨みつける方向からは、破壊された出入り口から車両へと侵入して来る黒服の男。
「!? お前は…!!」
「? FalSigさん、あの男は一体…」
「…エーリッヒ・マウザー。特務虚数課の最高責任者で、かつてmiriさんの上司だった男」
「!?」
「…ほぉ、私を知っているか」
現れた黒服の男―――エーリッヒ・マウザーは笑みを浮かべながら、右手に構えたククリナイフの刀身を左手で愛おしそうに撫でる。そんな彼の姿を見た青竜は……思わず戦慄してしまっていた。
(ありえない、この男……
「せっかくだ。君達のお相手も務めるとしよう……さぁ、何処からでもかかって来ると良い」
「…じゃあ、遠慮なく!!」
FalSigがすかさず抜いたベレッタをマウザー目掛けて発砲。マウザーがその弾丸をククリナイフで防御したのを皮切りに、再び死闘は開始するのだった。
「ん? 何だぁ、随分と騒がしいなぁ…」
その戦いの音を聞きつけた者が、そちらに向かおうとしている事にも気付かないまま…
To be continued…
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因縁 その3