No.924419 真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第二十三話2017-09-30 22:08:14 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:3219 閲覧ユーザー数:2645 |
「いいですね、此処での話は他の皆には内緒で…月と詠以外には、という事になりますけどね」
部屋の中に入った俺と公達に劉協様は改めてそう釘をさす。
「はっ…殿下の命とあらばこの命に代えましても」
「いえ、さすがに命にまで代える必要は無いですから!」
俺がそう答えるとえらく慌てた様子でそう言ってくるが…皇族からの命令というものは、命
に代える程のものなのではないかと思うのは気のせいなのだろうか?だからこそ、あの陛下
がおバカ発言をしたのにも拘らず、袁紹一派の助命を止める事が出来なかったのだろうし。
「コホン、それはともかく…此処に来てもらったのは他でもありません。姉様の一声で袁紹主
従の助命が決まってしまった事は聞きました。本来ならば即刻処刑が妥当だったはず…私は
実の妹ではあるものの、あの人の思考論理は時々分からなくなる時があります」
…ふむ、やはり劉協様はまともな御方のようだ。あの場にこの人がいてくれれば、まだマシ
な結果になったかもしれないな。
「しかも、今回私には『袁紹の事はこちらに任せれば良いから』と姉様と黄に言われ、立ち会
う事すら許されませんでした。こういう事になるのなら、もっと強引に立ち会っておけば良
かったと反省しきりです」
…なるほど、劉協様がいなかったのはそういう理由からか。もしかしたら、陛下は最初から
袁紹さん達を助けるつもりだったという事か?あんなのでも一応袁家の人間だし…。
「おそらく、袁紹の事を聞いて姉様に変な入れ知恵をしたのは黄でしょう。月が十常侍を始末
してくれた時に、一人姉様の所に逃げてぬけぬけと逃げ延びただけでも許し難い話だという
のに…」
「あの…その人って一体?十常侍って…?」
「…そうでしたね。黄というのは元々は十常侍の一人であった趙忠の事です」
…えっ?十常侍の一人?十常侍って俺達が洛陽に来る前位に月様が全員始末したって聞いて
たけど…。
「趙忠は元々姉様付きの料理人上がりで、何時の間にやら張譲達と結託して政を壟断するよう
になっていました。おそらく姉様には適当にでっち上げた報告で済ませていたのでしょう…
何せ姉様は黄巾党すら何かのお菓子の名前だとしか思ってなかったのですから」
…そんな人が皇帝って、余程その時に跡継ぎがいなかったのだろうか?おそらく劉協様は今
よりもっと子供だったのだろうし…しかし、という事は、もしかして…。
「その趙忠様?というのは宦官という事なのですかね?声を聞いた限りでは普通に女性の声に
聞こえましたけど…」
「それについては私も分かりません。おそらくそれを知っているのは姉様だけ…黄は真名は預
けてくれても、それ以上の付き合い自体を避けているのです」
…ふうむ、色々あるようだな。気にはなるものの、これ以上踏み込むのは得策でもないみた
いだし…。
「ところで、本日私どもを呼ばれたのはどのようなご用件でしょう?」
「…あっと、そうでした。北郷の絡繰の腕を見込んでお願いしたい事があって来たのです」
「…何をお造りすればよろしいのです?」
「………………」
俺がそう問いかけると劉協様は言葉を詰まらせてしまう。これはなかなか難しい物を造れと
いう予感がする。そして…。
「姉様をずっと閉じ込めておけるような絡繰を造って欲しいのです!」
その予感通り、劉協様の要望はとんでもないものであった。
「…劉協様、失礼な事ながら一応確認しますが、そのお言葉の意味は分かっていらっしゃいま
すよね?」
俺の言葉に劉協様は強く頷く。自分がクーデターを企んでいるという事を認識してはいるよ
うだな…今回のこの秘密会談は月様と詠も知っていると言っていた以上、二人が加担する意
志を持っているのは明白という事か。
「北郷殿、脅迫するような物言いで申し訳ないが、協力出来ないというのであればそれ相応の
措置を取らせてもらう事になりますので悪しからず」
「王允殿、それは『脅迫するような』じゃなくて『脅迫』って言うじゃねぇんですかね?しか
もご丁寧に月様の承認まで得ているとなれば、そこに『命令』って言葉も追加されると俺は
思いますがね?」
「確かにそう言われてしまえば返す言葉もないですね、荀攸殿…申し訳ない」
王允殿からのその言葉に公達が少々ムッとしたような顔でそう言い返すと、少しバツが悪い
ような表情で王允殿は謝ってくる。
「元より月様もご存知の話という事であれば、断る理由もありません…ありませんのですが…」
「?…何か問題でもあるのですか?」
劉協様は俺の返答の歯切れの悪さに若干訝しげな表情で問いかけてくる。
「…その話、どれだけの人達が知っているのです?宮中の貴族や役人の何割がこちら側なのか
という意味でですが」
「そ、それは…」
「まさか此処にいる以外の味方は月様と詠だけ、などという事はないですよね?」
「………………」
俺の問いに劉協様は完全に黙り込んでしまう。
「ならばそれがうまくいってからですね。仮にうまい事閉じ込める仕掛けを造るにしても、準
備にどうしてもある程度の時間がかかります。その間に陛下や趙忠殿に知られてしまっては
元も子もありません。そして、秘密裏に進めようとするのであれば、もっと協力者が必要で
しょう…少なくとも、陛下達に伝わらないように出来る程度には。それとも、月様達が既に
その辺りは根回し済なのでしょうか?」
俺のその言葉を劉協様は静かに聞いていた…というより、眼に涙をためたまま必死に泣かな
いように我慢しているだけのようではあるが。
「これ以上何も無いようでしたら、我々はこれで…ただ、劉協様がおやりになろうとしている
事、決して反対しているわけではありません。というより、今言ったような根回しや準備が
整ったのならば、すぐにでも取りかかれるように準備はしておきましょう」
俺が去り際にそう言うと、劉協様の顔に喜色が浮かぶ。
「…わかりました。次はあなたに失望させないようにしてみせます」
…最初、計画を聞いた時は絵空事にしか聞こえなかったが、今の劉協様の表情を見れば、今
度はうまくいきそうにも感じる。ならばこちらはこちらで準備をしておくとしよう。
・・・・・・・
「…という事があったわけですけど、実際の所、計画はどの辺りまで進んでいるのですか?」
俺と公達は劉協様との話を終えるとその足で月様の執務室に向かい、事の次第を問い質して
いた…とはいえ、月様は俺達が自分の所に来るであろう事は既に予測済だったようで、まっ
たくといって良い程、その表情に驚きは存在してなかったのであったが。
「どの辺り…と細かくは言えませんが、おおよそ六割といった所ですね」
ほほぅ…六割ときたか。しかし、混乱していた状況とはいえ、よくこの短期間でそこまで持
っていったものだな。さすがは月様、頼りになるし恐ろしくもある主君だな。
「本当はもっと進められる予定だったのですが…黄巾の混乱の最中に十常侍が皇甫嵩将軍や盧
植将軍を追放してしまってさえいなければ…」
月様はそう言って悔し気に顔を歪ませる。皇甫嵩と盧植…何か名前だけは何処かで聞いた記
憶が…確か三国志の最初の辺りに出てたような…あれ?確か盧植って…。
「そういえば、盧植様というのは白蓮のお師匠様だったはず…」
「そうなのですか!?」
「一応、本人に確認は取ってみますけど…」
・・・・・・・
「ああ、確かに風鈴…盧植先生は私の師匠だ。それと、と…劉備の師匠でもあるけどな」
小半刻後、呼ばれてやってきた白蓮の口から盧植が彼女の先生だったという話を確認したの
だが…そういえば、劉備もそうだったな。確か三国志じゃ、同門の先輩だからって劉備が公
孫賛の所を訪れるって話があったはずだし。
「そういえば、風鈴様は中郎将に抜擢される前に幽州におられたと前に…」
「ああ、その時に風鈴先生は私塾を開いていて、私と劉備はその時に先生に師事したんだ。そ
れに…追放された風鈴先生の身柄を預かったのは私だ」
「それじゃ!?」
「ああ、銀蓮からは先生が何処へ引っ越したっていう連絡は聞いてないから、まだ幽州にいる
はずだ」
「ほぅ、白蓮は従妹殿と連絡を取り合うようになったわけか?」
「…一族に碌に連絡してない公達に言われたくはないけどな。星と朱里のおかげでようやく銀
蓮も折れてくれたし…大分渋々だったけど」
白蓮はそう言って大きくため息をつく。
ちなみに、今の話の中に出て来た銀蓮…白蓮の従妹の公孫淵さんとは此処に至るまで色々と
あったのだが、此処で話すには長くなってしまうので後の話とさせていただく事とする。
「それはともかく、今はその盧植様だ」
「そうですね…白蓮さん、所在を確認する事は出来ますか?」
「ああ、銀蓮に連絡してみる」
・・・・・・・
七日後。
「一刀、銀蓮から連絡が来たぞ!先生はやっぱり幽州にいたんだ!!」
「よし、ならばすぐに月様へ!!」
・・・・・・・
「良かった…風鈴様はお元気だったのですね」
白蓮が持ってきた公孫淵さんからの書状を眼にした月様は、そう言って安堵の表情を浮かべ
ていた。
「白蓮さん、風鈴様はこちらへ戻ってくれそうですか?その辺りがこれには書かれていないよ
うなのですが…」
「銀蓮には所在が確認出来たらそれもお願いするように伝えたんだけどな…やっぱり、自分を
冤罪で追放した洛陽にわだかまりがあるんじゃないか?」
「そんな…それじゃ、どうすれば風鈴様を『俺が行ってみようか?』…一刀さんが?」
「ああ、こういう時は直接話してみた方が良いかもしれないし…とはいっても、さすがに月様
が行くわけにはいかないだろう?」
「そうですね、本当だったら私が直接風鈴様とお話したい所ですが…今、私が洛陽を離れてし
まえば、宮中を抑える事が出来なくなるかもしれません。一刀さん、お願いします。私も風
鈴様宛の手紙を認めますから」
そして十日後、俺は北平へと足を踏み入れたのだが…。
「おい、蒲公英…何故お前まで此処にいるんだ?連絡役が洛陽を離れて、もし向こうで火急の
用事とか発生したらどうするつもりなんだ?」
「大丈夫、大丈夫♪丁度、蒼がこっちに来たから、しばらく留守は頼んでるんだ。それに、盧
植様には伯母様もお世話になったらしいから是非会いに行ってくれって頼まれたし」
何故か俺達と一緒にやって来た蒲公英がそう胸を張って言っていた。しかし、蒲公英の意味
ありげな眼を見るとそれだけの理由ではないような気もしないではないのだが…気のせいで
ある事を祈る。
・・・・・・・
そして俺達は盧植様に会う前に公孫淵さんに挨拶に訪れたのだが…。
「そうですか…白蓮姉様は今回は留守番ですか」
「はぁ…月様より白蓮を見込んでお頼みしたい事がと。白蓮も残念がってはいたのですが…申
し訳ありません、公孫淵様」
白蓮が同行していない事を聞いた公孫淵さんはこれ以上ない位にガッカリした顔をしていた。
無論、月様が白蓮を引き留めたなど大嘘である。厳密に言うと、用事こそは頼んではいたも
のの、決してこっちの用より優先しなければならないようなものではなく…はっきりと言え
ば、そんな用事など別に何時でも良いだろうというものなのではあるが、未だに白蓮を北平
の太守に復帰させる事を諦めていない公孫淵さんの所に白蓮を行かせるとどのような事態に
なるか容易に想像出来る話であったので、月様が気をきかせて白蓮に用事をと言って洛陽に
留まるようにしたというのが真相なのであるが、そんな事を公孫淵さんに言えるはずもない
ので、此処は言わぬが花というものであろう。
「ええっと…それはともかく、今回我々がこちらへ参りましたのは…」
「はい、董卓様より聞いております。盧植様のお屋敷には不肖、この諸葛孔明がご案内させて
いただきましゅ…はわわ、噛んじゃった」
…しかし、何時見てもこのカミカミ少女があの諸葛孔明とはねぇ。まあ、羽毛扇から光線と
か発射するとかよりはまだマシか…でも、彼女が『はわわ!』と言いながら光線を発射した
りしたらそれはそれで強烈なインパクトとかありそうだな…名付けて『はわわ光線乱れ撃ち』
とか。
「あの…どうかしましたか?」
「いえ、何も…こちらこそよろしくお願いします」
こうして内心でバカな事を考えながら、諸葛亮さんの案内で盧植様のお屋敷へ向かったので
あった。
・・・・・・・
「初めまして、私が盧子幹です。北郷様のご高名がかねがね…このような片田舎までわざわざ
ご足労いただき恐悦至極にございます」
「い、いえいえ!顔を上げてください、盧植様!わ、私の方こそ、ろ、ろ、盧植様にそこまで
していただけるような者ではございませぬです、はい!」
「一刀兄様…ちょっと落ち着こうよ。色々変になってるよ」
一刻程して俺達は盧植様の屋敷に到着する。これは盧植様のお屋敷が近くにあったわけでは
なく、改良型の木牛の性能によるものである。そして諸葛亮さんが道中その木牛に興味津々
であったのは言うまでもない。
「ええっと…コホン。本日私がこちらに参りましたのは、我が主董卓より盧植様への手紙を渡
す為でございます。主より重要な物なので、必ず手ずから渡すようにと厳命された次第です」
ああ、緊張する…一応、相国様の家臣としてそれなりに偉い人への対応は慣れて来たと思っ
ていたのだが、元とはいえ将軍様のオーラ半端ねぇです、マジで。
「なるほど、月…相国様の御心は確かに。でも…であればこそ、私のような者では足手まとい
になる事は必定、断りの返事を認めます故しばしお待ちを」
えっ…断る!?此処で盧植様を連れて帰れなければ、月様の計画が大きく後退してしまう可
能性が…でも、どうすれば?その時…。
「ちょっと待った!!」
蒲公英がそこに割り込んでくる。
「あなたは?」
「たん…私は馬岱!我が伯母である馬騰よりも盧植様への手紙を預かってますので、一読の程
を。伯母が申しますには『月の誘いを断るかどうかはこれを読んで判断して欲しい』との事
です!」
何と此処で葵さんが…しかも盧植様が月様の誘いを断る事すら見透かしての行動とは、さす
がの年のk…ゲフンゲフン。
「楼杏…そう、あなたも決断したのね」
そして葵さんの手紙を読んだ盧植様はそう呟くと何かを考え込むように押し黙ってしまう。
「なぁ、公達。今の名前の人って…?」
「誰かの真名だろうが、俺も知らん」
「皇甫嵩様の真名だよ。皇甫嵩様は追放された後、ずっと伯母様が匿ってたの」
何とまぁ…しかし、さすがに月様がそれを知らないわけが…もしかして、盧植様の復帰を望
んでいるのは自分一人じゃないって事を強調する為にこの段取りを考えたのだろうか?
「…分かりました。この盧子幹、微力な存在ではありますが相国様の為に一臂の力となりまし
ょう。北郷殿、洛陽までよろしくお願いしますね」
「は、はい!こちらこそ!!」
…手紙の内容は分からなかったものの、盧植様が復帰されるとなれば、月様もお喜びになる
だろうし、まずは一安心一安心。
(涼州からの馬騰殿と楼杏からの手紙…この内容の通りならば、月こそが獅子身中の虫たる存
在となりかねないって事に…真実を見極める為、陛下と白湯様の身を守る為にもまずは洛陽
で何が起きているのかをしっかりと見極める必要がありそうね。まずは月の手元にある可能
性が高いという、かの太平要術書…それの確認、出来れば焼却からのようね)
俺が浮かれている横で盧植様がそう決意している事など知る由も無かったのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回も遅くなりまして申し訳ございませんでした。
そして…ようやく此処まで書けましたが、色々な思いと考えが
交錯してきました。果たして今後どのようになっていくのやら?
そして…実は以前に『何進と何太后と趙忠は出るのか』という
質問に『この話には出ません』とはっきりと答えてしまいながら、
空丹を出す以上どうしても黄を出さざると得なくなってしまい、
完全なる前言撤回になってしまいました。誠に申し訳ありません。
此処で改めて言っておきますが、何進と何太后は本当に出ません
ので。
次回も拠点です…とはいっても、この数話の流れについては一旦
此処で終わりにしますので。この続きは本編に入ってからになり
ます。次回の話は今の所は未定という事で。
それでは次回、第二十四話にてお会いいたしましょう。
追伸 朱里は一刀の木牛を見て、秘かに自分も研究を始めたとい
う噂が…果たして?
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お待たせしました!
今回も拠点回です…一応。
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