No.919611

双子物語80話~二人で海へ

初音軍さん

叶視点の雪叶カップルのお話。何の変哲もないよくあるネタだけど百合ップルだからこそ新鮮というか尊いというか。ちょろっと一時間くらいで書いたものの割りにはそれなりにまとまった気がします。時間は大事ですよ、本当…。

2017-08-23 11:03:52 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:564   閲覧ユーザー数:564

双子物語80話~二人で海

 

【叶】

 

「ただいま帰りました~」

「おかえり~」

 

 勉強から柔道までしっかり日程を終わらせた後は大好きな先輩の膝目掛けて

ごろ寝するのが大好き。ほのかにいい匂いがして疲れた体には効きすぎてすぐ

眠くなってしまう。

 

「むにゃ…」

「今日もお疲れ様」

 

 そして優しく撫でられると気持ちよすぎてどこかに飛んでいってしまいそうな

気持ちになるのだ。うとうとしながら今日のことを話している時間はとても幸せに

感じるのだった。

 

「将来有望そうだし、目指すはオリンピックかな?」

「えぇ、目標大きすぎですよ…!?」

 

「何言ってるの。大きいに越したことないでしょ。別に絶対叶えなきゃいけない

わけじゃないんだから」

「…それもそうですね!私がんばります!」

 

 先輩にそう言われるとがんばれるから不思議だ。力が湧いてくるというか。

その力強い表情がかっこよくてかわいくて…胸がキュンと鳴るのだ。

 

「私…先輩の赤ちゃん産みたい…」

「え?」

 

「あ、今変なこと言っちゃいましたね!気にしないでください!」

「赤ちゃんか…。今度細胞や医学の勉強するのもアリか…」

 

「先輩?」

 

 本気で考えちゃってる。先輩の色んな興味があってどの道を進むかが少し気になる。

今みたいな時間がとれなくなるのも嫌だし…。とはいえ、先輩の歩む道はどれも

忙しそうなのは間違いないのだけど。

 

「んー、まぁ。それは今は置いて。たまには気分転換したくならない?」

 

 冷房の効いた部屋、テレビには海水浴を楽しんでいるカップル達を特集している

番組が流れていてそれを見ながら先輩は呟いていた。

 

「気分転換?」

「海行かない?」

 

「あ、いつもみたいにみんなで?」

 

 それも楽しそうだなと少しわくわくしていたら先輩は首をゆっくり横に振ってから…。

 

「ううん、今回は二人きりで」

「ぴゃっ!?」

 

「嫌?」

「と、とんでもないです!」

 

 そういえば恋人同士になってからそういうイベントをしたことなかったや。

先輩の水着姿を何度かは見たことあるけど私のためだけに着てくれることを

考えるとすごく興奮する…。

 

「じゃあ日程決めようか」

「はい!」

 

 ただ…先輩綺麗だからナンパとか気になるんだけどって言うと先輩は笑いながら

大丈夫だって言っていた。

 

 

***

 

 海に行く当日。しっかりと準備をしてきた私たちは出かける前や移動中など特に問題等

起こらず海水浴場へと辿りついた。日差しが強くて紫外線対策や熱対策をしないと

すぐ熱中症になりかねないくらい天気がよかった。

 

「熱い…」

「先輩…」

 

 さっそく先輩は暑さに対して辛そうにしていたけど、動きが鈍ることはなくさっそく

更衣室に行って水着に着替える。久しぶりに見る先輩の髪の毛に合わせた

少し水色がかった白いビキニとほどよく締まった肉体が綺麗で眩しくて直視できなかった。

 

「どう、変?」

「変どころか!女神ですよ!女神!」

 

「…変なのは叶ちゃんの方だったか~」

「ど、どういうことですか。それ…!」

 

 二人でくだらないことで言い合って笑ってもう既に楽しかった。

さすがに時間帯も時期も他のカップルや家族連れとぶつかってけっこうな人数が

海水浴場にいたけれど、迷子になるほど混んでるわけでもない。ちょうどいい具合。

 

 最初のうちはパラソルと下に敷くものを準備して休憩場所を設置しておく。

それからしばらくは二人で海に入って涼を取りながら遊んだり大きい浮き輪を二人で

入って密着しながら浮かんだりとかしていた。

 

 休憩の時、私が飲み物か食べ物買ってくると言うと先輩目が輝いた。

 

「やきそばもお願い」

「はい。いっぱい買ってきますね」

 

 先輩が恐ろしいほど食べるのは知ってるからすごい量を買うことは既に覚悟している。

海から離れた砂浜に海の家やら屋台やらが並んでる場所で色々買い漁って戻ってくると

案の定先輩はナンパ男二人組に絡まれていた。

 

 私は買ってきたものを落とさないように急いで走っていくと私に気付いた先輩が

私の腕を引っ張って私をギュッと抱きしめながら冷たい笑みを浮かべて男たちの方を見た。

 

「では…連れが来たので、他の人でも誘ってください」

 

 相手にも私にも何も言わせるタイミングを与えず先輩は私の腕を引っ張ってその場を

去った。

 人気のない、日陰になっている場所を見つけてそこに腰を落とし休憩をすることにした。

暑さからなのかさっきのせいなのかわからないけど疲れた顔をして冷たい飲み物を

口にしてフーッて一息吐いた。

 

「さっきの人たち先輩に何かしたんですか。何なら私が」

「だめだよ」

 

「でも…!」

「あんなのにムキになったって無駄に将来を潰しかねないんだから」

 

 向かい合ってもやもやしてる私に手招きしてくる先輩。近づくと背中に手を回され

ギュッと今度は優しく抱きしめてきた。華奢だけどふわふわと柔らかい先輩の体が

気持ちよかった。

 

「何か言われたとか?」

「ないとは言わない。けどね、他人がどう思おうが一番大事なのは私と叶ちゃんの

気持ちだからね」

 

「…はい」

 

 先輩の言葉は私の中に沁みこんでいく。少しの間そうしていると先輩と私のお腹の音が

鳴り、ちょっと恥ずかしそうにしながら買ってきたもので食事を始めた。

 割り箸はつけてもらったしちょうどいい段差の石があったからその上に器を乗せて

二人で分け合いながら食べた。

 

「うーん、こういうところで食べる食事って何でこんなに美味しいんだろう。

普段食べたら絶対美味しくないのにね」

「そうですね」

 

 いつもの笑顔に戻った先輩の顔を見てホッとする。そしてさっきまであった些細なこと

はすっかり頭から消えていた。ただただ、静かな時間を二人で食事しながら過ごした。

外でこうしている時間ってあまりなかったから新鮮で貴重な時間だと思えた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 やきそば、いかやき、やきもろこし。他にも色々。10人前以上の量を二人で

ペロッと食べ尽くしてしまった。私もスポーツしてるからかよく食べるけど

私の倍以上は入るんじゃないだろうかってくらい先輩はよく食べる。

 

 そしてモデルさん並の体形を維持できているのだから普通の子からしたら

羨ましい体質だろう。でも…先輩はその分、病気に弱い。そこが一番の心配だろうか。

 

「ん、どうかした?」

「いえ、何でも」

 

 ジッと先輩の顔を見ていたらキスしたくなってしまい、どうしたものかと考えていたら

私の考えてることがわかったのか先輩の方から私にキスをしてきた。

 

 チュッ…。

 

 お互いの唇をつけるだけのキス。でも柔らかくて先輩の香りが鼻腔を刺激し

長い時間触れているとすごくドキドキする。肌と肌が密着してお風呂一緒に入るのとは

また違った興奮を覚えた。

 

 それから我慢できなくなった私は唇を離した後、先輩の首筋や胸の露出している

部分に何度もキスをした。さっきまで入っていた海の塩分なのか先輩の汗なのか

わからないけれどほどよく効いた塩味がすごく美味しく感じられたのだった。

 

 

***

 

「ふぅ、やっぱり海は疲れますね~」

「そうね…。勉強とか色々忙しいけどたまにはこういうのも良いね」

 

 電車の中で少しの間、沈黙の時間が流れると。

 

「今度は…プールもいいかもね」

「あ、良いですね~」

 

「これから少しずつでも二人で行けるところ…色々行ってみたいわね」

「はい」

 

 また少し沈黙の時間が出来て何か会話を探そうとするも浮かばないからとりあえず

先輩に声をかける。

 

「先輩…あっ…」

「す~…」

 

「寝てる…」

 

 やっぱり体力的に少しきつかったのか、冷房の効いた電車内で汗を少し滲ませながら

意識が途切れたかのように寝ている姿にちょっと驚きながらも先輩の手を握る。

いつもより暖かい手を感じながら。今なら言えるかな…って先輩から目を逸らして

呟くように言う。

 

「ゆ、雪乃…。今日は楽しかった…よ…」

 

 な、名前で言うなんて恥ずかしすぎる…!まだ私には早すぎたかもしれない…!

一人で勝手に自爆して顔を真っ赤にしながら先輩を見ると目を瞑りながらも

少し微笑んでいた。もしかして聞かれてた!?と声に出さず驚いていると

再び寝息が聞こえてきた。

 

「な、何だ…いい夢でも見てたのかな…。はぁ…心臓に悪かった…」

 

 電車内も私達の他には人は点々としかいなかったし、その人たちも眠っていたので

聞こえていなかっただろうと思うことにした。

 

 そして少し気持ちが落ち着くと私も眠くなってきて、ボ~ッとしながら先輩の肩に

頭を預けて目を瞑った。するとすぐに意識が薄れていったのだった。

 

 

 

 

***

 

「叶ちゃん」

「ん、あ…先輩」

 

「もうすぐ降りる駅だよ」

「あ、寝てましたか。すみません」

 

「どうして謝るの。二人共疲れてたからしょうがないよ。でも…楽しかったね~」

 

 先輩は腕を伸ばして一息吐くと立ち上がって私に手を伸ばした。

電車のドアが開かれて私も先輩の手を取って立ち上がって駅に降りる。

電車の中は涼しかったけれど、降りると暑さが肌に刺すように襲い掛かってくる。

 

「今日はこのまま帰ろうか」

「そうですね。明日に響くとまずいですし」

 

 休みはまだ少しあるけど、私は柔道もあるし、先輩も学びたいことが沢山あるからと

他の人よりはあまり時間が取れないから。だからこそこういう時間は貴重でいつもより

幸せに感じられる濃度が高いのだと思う。

 

「…じゃあ行こうか」

「はい」

 

 名残惜しくても時間はどんどん過ぎていく。私達は手を繋いで相手の存在を感じながら

歩いていく。もしその先が少し寂しくあろうともお互いの心が繋がっていれば大丈夫…。

その寂しさは一度交われば埋められるはずだから…。

 

 空から降り注ぐ暑さがそんな私達に気合を入れさせてくれているように感じたのだった。

 

続。

 


 
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