No.91467

~薫る空~23話(洛陽編)

前回の投稿から1週間越えてしまいました(´・ω・`)
すみません。

なので今回はちょっとだけ多めに書きました。
そろそろ話を動かさないと…

続きを表示

2009-08-25 00:28:03 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:5350   閲覧ユーザー数:4376

――翌日。

 

 

 今日から俺は業務である警邏のほかに空いた時間を剣術へと向けていかなければいけない。その際の指南役を華琳から誰か選べといわれていた。だけど俺は、実際に学ぶに当たって、誰に教わるかなんて実のところそれほど差はないと考えていた。俺の武なんてほとんど兵卒と変わらないんだから、要は誰なら教わりやすいかという事だった。

 

 教えるのが上手そうなのは華琳や秋蘭といったところだが、二人に俺に割く時間があるとは思えない。春蘭はなんかいろいろと俺の身が危なそうな気がする。季衣は修練にならないような気がするし、下手をすればずっと遊んでしまいそうだ。あとは凪と琥珀くらいだが…この二人なら、はっきり言って凪に教わるほうがいいだろう。

 

 だけど、俺はどうしても気になることがあった。だから――

 

【一刀】「琥珀、ちょっといいか?」

 

【琥珀】「だめだ」

 

 俺は琥珀の部屋に行き、に声をかけた。が、即効で拒否されてしまった。

 

【一刀】「頼むよ。」

 

【琥珀】「………なんだ?」

 

 気だるそうに机に突っ伏していた琥珀は重たそうに顔を上げ、こちらの話に乗ってきた。

 

 俺が気になったこと。それはやはり琥珀の戦闘スタイル。剣を六本もつかうのもそうだが、なにより攻撃と防御を同時行えないというのが気になった。当然だが、そんな事はまずありえない。俺にだって剣道の経験はあるんだから、敵の攻撃をうけて、その隙を突いていくのが戦闘の基本。そんな事は分かっているつもりだ。だから攻撃的な戦闘をする春蘭達のすごさはよく分かる。自分から仕掛けていきながら相手の攻撃を受けることも容易にこなす。隙など産むことが無い達人の領域にいる人間だからできることだ。

 

 琥珀だって、春蘭に勝ったのだからその領域にいるはずなんだ。にもかかわらず、片方がまったく出来ないというのはほとんどありえないように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「剣の稽古をつけてほしいんだ」

 

【琥珀】「………………嫌」

 

 だからこそ、知りたくなった。どうして琥珀がそういう戦い方になったのか。

 

【一刀】「そう言わないで、頼むよ」

 

【琥珀】「……嫌」

 

 しかし、直球で頼んでみたものの、あっさりと断られてしまった。だが、これからのことを考えると、俺もここで引き下がるわけにも行かなかった

 

【一刀】「華琳からも言われてるんだ。頼む!」

 

【琥珀】「………………」

 

 三度目の正直もいいところ。華琳の名前までだして頼んでみたが、琥珀の反応はやはり渋っていた。

 

【一刀】「………」

 

【琥珀】「……華琳が言ってたのか」

 

【一刀】「あ、あぁ…」

 

 何か思案顔になり、琥珀は机から立ち上がった。そのまま寝台のほうへと近づき、立てかけてあった剣を手に持って――

 

【一刀】「うおわっ!!」

 

 こちらへ投げられた。ギリギリのところでそれをなんとか受け取る。

 

【琥珀】「それ、貸してやる。………いくぞ」

 

【一刀】「へ?…お、おいっ!」

 

 残りの五本の小太刀を持って、琥珀は足早に外へと向かう。そんな琥珀に戸惑いながら俺も外に出た。

 

 廊下を少しあるき、中庭のほうへとやってきた俺と琥珀はちょうど少し広い場所で立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

【一刀】「稽古つけてくれるのか?」

 

【琥珀】「……んむ」

 

 相変わらず少し変わった頷き方で、琥珀は肯定した。先ほどまで嫌がっていたのはなんだったのか、よく分からないまま琥珀は俺と向き合った。

 

【一刀】「しかし……いきなり本物か…」

 

【琥珀】「木剣でやっても意味ない。それにお前弱いからな。時間もない」

 

【一刀】「そうなんだけど、そうはっきりといわれると少しへこむな…」

 

 実際はどうあれ、見た目は完全にようやく年齢が二桁になったかというところだ。そんな琥珀にこうまで言われてしまうとさすがに人としての自信が薄れてしまう。

 

【琥珀】「いいから、構えろ。適当に攻撃するから全部うけるんだぞ」

 

【一刀】「お、おう」

 

 俺は琥珀から借りた剣を抜く。春蘭との戦いで最後の決め手となった紫色の刀身を持つ太刀。実際に持ってみるとその重みに手が震える。振動が伝わり、太刀からカチャカチャと音が鳴る。

 

 そんな事実から逃げるように顔を上げてみれば、琥珀は日本の小太刀のような剣を持ってたっていた。静かにこちらを見つめる姿は春蘭の攻撃を全て受けきった時のものだ。

 

 だが、そんな空気もつかの間。気づいた時には琥珀の視線は殺気に満ちたものだった。

 

【一刀】「―――っ」

 

【琥珀】「攻める…から、死なないようしろ」

 

 もちろんそのつもり。そう言おうとした時、琥珀は既にその場にいず、目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「くっ!!」

 

【琥珀】「はっ」

 

 正眼に構えた俺の剣は手を引くことで少し斜めになり、豪快な金属音と共に琥珀の一撃を受ける。

 

 受けきったことに安心する間もなく、琥珀の二刀目がくる。真横からの一文字、一閃。

 

 体を捻り、無理やり太刀を迫る刃のほうへと向ける。短い息と共に再び擦れあう刃。ギリギリと金属同士が摩擦する嫌な音が響く。

 

【一刀】「くっ…ぐぐぐぐ……っ!がはっ」

 

【琥珀】「っ!!」

 

 予想以上に強い琥珀の力に負けじと力を込めていると、急に腹部に鈍痛が走る。

 

 その痛みをきっかけに、琥珀の体が離れる。あの体勢から腹にあの痛みを送るというのは、ひとつしかない。琥珀は競り合いの途中で俺に蹴りを放った。

 

【琥珀】「もっといくぞ」

 

 未だ収まらない痛みなど気にしない様子でふたたび琥珀は突っ込んでくる。こちらへ近づかれる前に、俺は太刀を正面中段へと構える。

 

 ………落ち着け…落ち着け…落ち着け…落ち着け………

 

 必死に頭の中で唱える。今尚こちらへ突進してくる琥珀を見据える。

 

【一刀】「っ!」

 

【琥珀】「……っ」

 

 左手から突きを出してくる。体をずらしながら、それをかわし――

 

【琥珀】「無駄」

 

 かわそうと、体を捻ったところで、琥珀は体を回転させ、右手に持っていた小太刀を左からなぎ払う。地に踏み込む音と土煙で一瞬琥珀の姿が見えなくなった。

 

【一刀】「っ…こっちk――ぐはぁっ」

 

 立ち上った土煙をかき消すように、琥珀の刃が振り切られる――。風きり音と共に豪快に太刀が悲鳴を上げる。

 

 俺は完全に不意をつかれ、体が浮き上がり、振り切った方向へと飛ばされ、茂みへ激突した。

 

【一刀】「っっ~~……」

 

【琥珀】「…やっぱり弱い」

 

【一刀】「…ってぇ…。だから修練して強くなろうとしてるんじゃないか」

 

【琥珀】「お前、才能ないぞ。…このまましても…」

 

【華琳】「あら、そんなことはないわよ?」

 

【一刀】「か、華琳?」

 

 

 

 

 

 

 いつから見ていたのか、華琳は中庭に置かれた椅子に腰掛け、こちらを見ていた。その表情は妙に機嫌がいいようにみえて、こういう顔のときは俺にとってあまりいいことが起きない。

 

【華琳】「最初からすぐに戦えるなんて期待していないわ。それより琥珀の攻撃を全て受けきったのは評価してもいいとおもうわよ、琥珀」

 

【琥珀】「……なら、華琳が教えればいい」

 

 琥珀は口を挟んできた華琳に対して、それだけ言い残し、城の中へと入っていった。戻り際に見えた表情はずいぶん不機嫌だったような気がする。

 

【一刀】「はぁ…上手く行かないもんだな」

 

【華琳】「琥珀は昔からあの通りよ。…それより、本当に琥珀でいいのね?」

 

【一刀】「あぁ、琥珀がいい」

 

【華琳】「そう……」

 

 華琳は顔を下へと向ける。俯き加減になり、上手く表情が見えない。

 

【華琳】「なら、ひとつだけ忠告しておいてあげるわ」

 

 踵を返して、背中越しに華琳は言い出した。

 

【一刀】「忠告?」

 

【華琳】「……琥珀の過去に触れるようなことは止めておきなさい。下手に関われば琥珀は貴方から余計に距離を置くわよ」

 

【一刀】「あ、あぁ……わかった…」

 

 華琳の声が軍議のときのそれと同様のものになり、俺は何故聞いてはいけないのか。そう答えることも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 琥珀の過去。特にそれほど気になるものでもなかったが、今気にしている琥珀の戦術についてももしかしたら、その過去に関わってしまうのかもしれない。なら、華琳の忠告どおりにすれば、俺は指南役を琥珀に選んだ理由の半分を失う。それに琥珀自身、俺に剣を教えるのは嫌そうだった。それはそれで個人的にはものすごいショックだが、この際気にしているような場合でもなかった。

 

 琥珀が何処かへ行ってしまったことで、結局修練は俺一人でのものとなった。それほど身になっているのかは疑問だが、やらないわけには行かない。

 

 修練を終えた後、俺は自室に戻り、昨日の警邏の報告の処理をしていた。異常なしが続き、ほぼ退屈となっていた仕事だった。

 

 ある程度、今日の政務を終らせた頃には昼過ぎになっていた。思ったよりも早く終らせたので時間があまってしまった俺は今の状況を改めて整理しようと思った。

 

 まず、黄巾党討伐により、華琳は統治する領土を増やし、さらに都での地位も上がる。群雄として名乗りをあげるには十分なステータスを持つことになるのだ。

 

 そして、琥珀の参入。ここにきての戦力の増加は、これからの華琳が歩もうとする覇道を乗り越えるには、かなりの手助けになるはずだ。だが、その琥珀自身の事はまだまだよく分からない部分も多い。

 

 さらに時々警邏の報告にも上がってくる、都・洛陽の噂。董卓を筆頭とした文官たちが暴政を強い、欲のままに権力を行使しているという。その光景は地獄にも通ずるとあるが……これも噂話であり確証が取れない。その上、洛陽で起こっていることとなれば下手に動くわけにも行かない。

 

【一刀】「反董卓連合……虎牢関………たしか、そんな名前だったな…」

 

 無意識に呟いていた。俺の知る大きな戦。そのひとつ。黄巾の乱を平定した後に起こってしまう乱世の福音。

 

 当然そこまで気になって、考えないはずが無い人物のことも気になっていた。死んでしまった後も三国最強の名を譲らなかった武将。

 

【一刀】「当然、いるんだよな……呂布」

 

 とたんに足元が冷えていく感覚に陥る。もしかしたらまた女の子かもしれない。そんな事を考えても、名を想像しただけで冷や汗が流れる。俺は春蘭や秋蘭たちの強さを知ってる。だからこそ、彼女達がどれほど強いのかも知っている。だけど、俺の知っている知識の中の呂布はそんな春蘭達ですら敵わなかった猛将。怖くないはずが無かった。

 

 強くならないといけない。自分が戦うわけでもないのに、そう思わざるを得ない。

 

【一刀】「はぁ……だめだな。何を勝手に落ち込んでるんだか。」

 

 首を振って、思考を飛ばす。まだ起きてもいない戦におびえて、あってもいない人物に畏怖する。そんなことを考えている暇なんてないんだから。

 

【一刀】「………………そういえば、まだあいつらのところにきちんと行ってなかったな。」

 

 何かほかにすることはないかと、思考をめぐらせたところで、不意にあの三人が思い浮かんだ。世話係を任命されておきながら、まだそれほどきちんと仕事をしていなかった。

 

 

【一刀】「まぁ、いってくるか」

 

 

 呟いて、席を立つ。一通り見終えた報告の書簡を机に広げたまま、扉へと歩き出し、外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ。軽い音を立てて、とある店の扉が開いた。

 

 その音を聞いてか、中に居た店員が入り口のほうへと歩き出す。「いらっしゃいませ」と、入ってきた客―― 一刀に声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店に入り、一通り見回す。あの三人の予定だと今日はここ居いるはずだった。すると、やはりというか予定通り店の少し奥のほうで食事をしている姿を見つけた。

 

【一刀】「おーい。」

 

 他の客に迷惑にならない程度に大きめの声をだして、俺は三人に声をかけた。

 

【天和】「あ、一刀~~~」

 

 最初に気づいたのは天和だった。口元についた食べかすがいかにも食事中でしたといわんばかりで、思わずこちらを和ませる。

 

 姉の声に反応し、他の妹二人――地和・人和もこちらを振り向き、俺の存在にきづいたようだ。

 

【地和】「今までどこで遊んでたのよ。ちぃたちの世話係なんでしょ?」

 

【一刀】「ごめんごめん。俺のほうも色々あってさ」

 

 相変わらず少しきつめの口調だが、初めて会った戦場のときほど嫌悪されてはいないようで、俺が来た事を知ると少し席をずらして俺が座る分のスペースを空けてくれていた。

 

【一刀】「ありがとな、地和」

 

【地和】「もう、いちいち人前で真名なんて呼ばないでよね」

 

【一刀】「そうは言っても張宝とはよべないだろ?」

 

【地和】「それはそうだけど…」

 

 名前に関してはもはやあきらめてもらうほかなく、地和は俯いてしまった。

 

【人和】「それで、一刀さん。ここに来たのは次の公演場所でも見つかったんですか?」

 

 こちらも相変わらずという様子で、行動の意図を先に読もうとする人和。頭が回る分こういう癖が出てしまうんだろう。

 

【一刀】「ん~…。そこまで具体的に決まったわけじゃないけどね。とりあえず近いうちに別の街でも歌えるようになるよ」

 

 まさか気が向いたからともいえず、俺はとりあえずそう言っておいた。でもそれほど嘘なわけでもなく、都の使者から正式に勅命が下れば他の街でも公演は可能だ。

 

 

 

 

 

【天和】「やった~~~♪」

 

【地和】「やっとか~」

 

【一刀】「はは。あんまり喜んでこの街のファンを減らすなよ」

 

【天和】「”ふぁん”?」

 

【一刀】「天和たちを慕ってくれる人たちの事だよ」

 

【人和】「ふぁん…ですか」

 

 少し不思議な響きに三人は”ふぁん”という言葉を口ずさむ。

 

【天和】「じゃあ、この大陸中の人を天和たちの”ふぁん”にしなくちゃだね~」

 

【地和】「もちろん!」

 

【人和】「そうね」

 

 改めて目標を固めるように、俺達は話を深めていく。これから起こっていく戦争の中でこの子達の歌が唯一救いになるかもしれない。そう思うからこそ、俺も三人を全力で支える。

 

 

 

【一刀】「で、調子はどうなんだ?」

 

【地和】「そんなの順調に決まってるじゃない♪」

 

【人和】「以前ほどではないにしろ、お客さんの数は日に日に増えていっています」

 

 二人が機嫌よく答える。俺がついていられなかった分不安だったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

【一刀】「そっかぁ。………………よし、俺も何か食べるかな」

 

 店員を呼んで適当に注文する。

 そういえば朝から何も食べていなかったことに気づいて、それをきっかけに一気に空腹が押し寄せてきた。

 

【天和】「一刀~?」

 

【一刀】「ん?どうかした?」

 

 突然、隣に座っていた天和が声をかけてきた。心なしか少し顔が赤いような気がする。

 

【天和】「一刀はこのあとお仕事残ってるの?」

 

【一刀】「いや、今日はもう暇だけど…」

 

 だから今ここにいるわけなんだが。それだけ答えると、天和の表情がすこし弾んだように晴れた。

 

【天和】「じゃ~、どこか遊びに行こう♪」

 

【一刀】「どっかって――」

 

 ――ガシャン。

 

 何処へといいそうになるのを、突然響いた快音に遮られる。

 

 恐る恐る音のほうへ顔を向ければ、先ほどまで黙っていた地和が食事を止めてこちらを見t…――

睨んでいた。よく見ると箸を持っている手がわなわなと震えている。

 

 

 

 

 

 

 

【地和】「二人だけでなんて、そんなのダメに決まってるでしょ!お姉ちゃん!!」

 

【一刀】「…え?」

 

【人和】「ちぃ姉さん落ち着いて、周りに迷惑よ。それに目立っているわ」

 

【地和】「あ、うん…」

 

【天和】「ちぃちゃんどうしたの?」

 

【地和】「お、お姉ちゃんには関係!!……ないこともなぃ…かも…」

 

 文末に行くほど声を小さくしながら、地和は顔を赤くする。

 

【一刀】「はぁ……じゃあ、四人でどこかいく?…天和もそれでいい?」

 

【天和】「もちろん~」

 

【地和】「まぁ…それならいいわよ」

 

【人和】「分かりました」

 

 とりあえず、みんなで遊びに行くということで結論づいた。

 

 …暇だったからよかったけど、もともと遊ぶつもりじゃなかったんだけど…。

 だが、この三人にかかればそんな事を気にしていられるはずも無く、俺の頼んだ分も急いで腹に収め、俺たちは店を出た。

 

【一刀】「しかし、遊ぶって言っても何するんだ?」

 

 急遽思いついた話なので、当然ながら何も決まってはいない。仕方なく街を歩きながら考えるが、なかなかいい案も出なかった。地和は「う~」と声に出しているのを気づいていないのか、さっきからうなりっぱなし。人和は腕を組んで余所見をしている。考え方というのは姉妹でもどうやら違いがあるようだ。

 

 ちなみに言いだしっぺの長女はふんふん♪と鼻歌を歌っているが何も考えてはいないようだ。

 しかし、考えてみれば、一応それなりにこの街では有名になった天の遣いがかつての黄巾党の首領と何をして遊ぶかなんて考えているというのもおかしな話だ。

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「ん~………おっと。すみません。」

 

 考え事をしていると、どうも俺は周りが見えなくなるらしい。琥珀の件もあってか、そんなことを思うようになった。現に今も、また誰かとぶつかってしまったようで、俺の前にその人が転んでしまっていた。

 

【??】「…痛たた……前はちゃんと見たほうがいいですよ、お兄さん。」

 

【一刀】「あ、あぁ…ごめん」

 

 どうやらほんとに前を見ていなかったようで、声をかけられてようやくその相手が女の子であることに気づいた。俺はその子に手を伸ばして体を起こしてやる。

 

【一刀】「…大丈夫?」

 

【??】「はい。ではでは~」

 

【一刀】「あ…」

 

 女の子は小走りで路地の中へと消えていった。話し方というか、強弱がすごい印象的な子だったな。

 

【地和】「一刀~~。何してるのよ~」

 

【一刀】「あ、あぁ、すぐ行くよ」

 

 女の子と会話していたせいで、天和達と少し離れてしまったようだ。

 

 俺は急いで、早足になりながら三人と合流する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――冀州

 

 

 

side袁紹

 

 

 城の中を一人の伝令兵が走る。それは一つの文がこの冀州の主あてに届けられたため。

 

【顔良】「え?文ですか?袁紹さま宛てに?」

 

 突然の伝令に戸惑いながらも、袁紹の側近のひとりである顔良が口を開く。伝令は少し息を切らしつつも、それに短く返事をし、その場を去る。

 

【顔良】「ふむ……」

 

【??】「お~い、斗詩~」

 

 顔良がその手紙を眺めていると、少しはなれたところから、声が聞こえた。

 

【顔良】「あ、文ちゃん。」

 

【文醜】「ん?なにもってるの?斗詩」

 

 声の主は同じく袁紹の側近・文醜だった。斗詩という顔良の真名を呼ぶことで二人の関係が深いものだと理解できる。

 

【顔良】「それが、袁紹さま宛てに手紙がきてるんだけど…」

 

【文醜】「袁紹さまに~?ないない。なんかの間違いだって。あの麗羽さまに手紙を送るなんて、そんな奇特な奴いるはずないって」

 

【顔良】「それはちょっと言いすぎな気もするけど……とりあえず麗羽さま届けてくるね」

 

 顔良は踵を返して、袁紹の自室へと向かう。

 

【文醜】「あ、待ってよ、斗詩~。アタシも一緒にいくってば~」

 

 それを追いかけるように、文醜も小走りになりながら、袁紹の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、袁紹自室前。

 

 扉越しに顔良は部屋の中に声をかける。すると中から扉越しでこもった声だったが、「入りなさい」と、袁紹の声が聞こえた。

 

【顔良】「失礼しま――うっ」

 

【文醜】「ん?斗詩何して……うわっ、何だこのにおい」

 

【袁紹】「あら、ふたりともそんな入り口に立っていないで、こちらにいらっしゃい」

 

 部屋のにおいに顔を引きつらせる二人に、何をしているのといわんばかりに不思議そうな顔で袁紹は声をかける。

 

【顔良】「れ、麗羽さま…?このにおいは…?」

 

【袁紹】「斗詩にもわかりますの?これは街の商人から買い取った珍しいお香ですのよ」

 

 これでもかと胸を張っていうが、その匂いは一般人の嗅覚を持っていればとても耐えられるような物ではなかった。

 

 雨の後に森に入ると同じようなにおいを感じた事がるとは、顔良は口には出さず心にしまっておいた。

 

【袁紹】「それで、いったい何の用ですの?」

 

【顔良】「あ、はい。実は麗羽さま宛てに文が届いているんですが……」

 

【袁紹】「ふむ…。見せてもらえる?」

 

【顔良】「はい」

 

 顔良はこの部屋に充満した大気と戦いながらも袁紹に近づき、文を手渡した。

 

 文を受け取り、袁紹は徐に中身を開ける。ガサガサと折りたたまれた紙を開き、読み始める。

 

【文醜】「(なぁ、斗詩)」

 

【顔良】「(…何?)」

 

 袁紹には聞こえないよう、小声で文醜が話しかける。

 

【文醜】「(麗羽さま宛ての手紙ってどんなだと思う?)」

 

【顔良】「(そんなのわかるわけないよ…)」

 

【文醜】「(絶対果たし状か、脅迫状だよなぁ…まさか恋文ってことはないろうしさぁ)」

 

【顔良】「(文ちゃん…麗羽さまに嫌な事でもされたの?)」

 

【文醜】「(…?何が?)」

 

【顔良】「(はぁ…そうだよね。文ちゃんだもん。素で言ってるんだよね…)」

 

 半ばあきらめたように、顔良は呟いた。

 

 ―――ガタン!!!

 

【袁紹】「顔良さん、文醜さん!」

 

【二人】「は、はい!」

 

 突然袁紹が机を叩き、部屋の中に大きな音が響く。まさか聞かれていたのかと二人の体に一気に緊張が走る。

 

【袁紹】「出来るだけ早く遠征の準備をなさい!数ヶ月は帰らずともいいように!!」

 

【二人】「へ!?」

 

 またも突然の袁紹の言葉。

 

【袁紹】「それから、ここに書かれていることを各地の諸侯に伝えて頂戴」

 

 いつの間に書いていたのか、袁紹は手元にあった何か文字の書かれた紙を手渡してきた。

 

【顔良】「こ、これって…」

 

【文醜】「本気ですか?袁紹さま」

 

【袁紹】「当然です!この機を逃すわけにはいきませんわ!」

 

 袁紹の普段見ることもほとんどない剣幕に二人は戸惑いながらも御意を示した。

 

 すぐに二人は部屋を出て、準備に入る。

 

 

【袁紹】「………………でも…どうやって…」

 

 

 一人になったあと、ポツリと袁紹は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――陳留。

 

 

 

side一刀

 

 

 

 

【一刀】「ふぅ…………しかし、お前らはしゃぎすぎじゃないか?」

 

【天和】「そんなことないも~ん」

 

 夕方の街。俺達は帰り道を歩いていた。結局遊ぶネタなど思いつかず、町の近くにある森にでもいくかという事になった。そんなに面白いものでもないと思っていたが、これが意外と夢中になって遊んでいた。

 

 適当にそこに何かいたとか、あっちのほうには何があるのかとか。軽い探検気分だったというわけだ。

 

 遊びというのは何で遊ぶかというよりは誰と遊ぶのかで楽しさが決まるものなんだと改めて思わされた一日だった。

 

【一刀】「にしても、少し疲れたな。明日から大丈夫か?」

 

【地和】「これでも体力は自信あるんだから。大丈夫よ」

 

【一刀】「ま、それならいいんだけどな」

 

 明日からもまた色々と忙しいこの子達だ。あまり疲れさせるような事はしないほうがいい。

 

 まぁ、それも今更なんだけど。

 

【人和】「では、私達はこっちですから。」

 

【一刀】「お、そっか。近くまで送ろうか?」

 

【地和】「そんなに遠くないから大丈夫よ」

 

【一刀】「そっか。じゃあ、またな。気をつけて帰れよ~」

 

 とりあえず送ろうかと提案してみたが、どうやら必要ないようだ。やはり男に送られるというものに意識してしまうんだろうか。

 

【天和】「じゃあね~、一刀~」

 

【地和】「あんたこそ気をつけなさいよ~」

 

【一刀】「はは。ああ、そうするよ。」

 

 言葉を交わして、俺達は別れた。

 

 一人になったと、俺は城に戻る道を歩く。明日には、都からの使者が来る。それで、正式に東郡……つまりこの辺りの邑や街はほとんど華琳が治める事になる。

 

【一刀】「気合入れてかなきゃなっ」

 

 あの三人の事も、琥珀のことも、俺自身のことも。

 

 茜色の帰り道。そんな事を考えて、俺は城へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side???

 

 

――夜。

 

【???】「無事とどけたわよん。」

 

【??】「そっか。ありがとね」

 

 暗い街の中で明かりのともる限られた店。その中の一つで”彼女”達はいた。

 

【???】「ほんとに、これでよかったのん?」

 

【??】「うん。私の”記憶”が合ってれば、これで動き出すはずだよ」

 

 何かを確信したように、”彼女”は話す。

 

【??】「………御遣いの役目を終わらせないためには……」

 

【???】「……貴女がそれを望むのは…私達のせいでもあるのよねん…」

 

【??】「気にしなくていいよ。あの時、私はきちんと覚悟して、決めたんだから」

 

【???】「………………」

 

 ”彼女”の言葉にその相手は黙り込んでしまう。

 

【??】「大丈夫だよ。ちゃんとやるから。」

 

 

 ”彼女”はそれを言い切ると踵を返す。もう話すことはないと言わんばかりに、歩き出し、店をでた。

 

 

【???】「変わったわね………”薫ちゃん”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【薫】「今度は”私”が………頑張る番だから……」

 

 

 少女の声は星空の中に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

前回から非常に遅くなってしまった(´・ω・`)

申し訳ないです。

えー、言い訳させてもらえると、3日間ほど旅行に行ってたせいです。(言い訳になってない)

 

さて…

 

今回色々と動き始めましたが…正直どうなんだろう。展開遅い?速い?

自分で書いてるとまったく分からないんですよねぇ…書き急いで内容薄くなるのも嫌だし、かといってあんまりgdgdやっちゃうのも…

 

まぁ、自分自身そこまで書けているのか不明ですがw

 

 

次回から、いよいよ華琳様の出世と共に麗羽が動き始めます!

一刀は強くなれるんでしょうか!

薫の動向は!

 

という感じで進めていきます(´・ω・`)

 

それでは次回もお付き合いいただけることを祈って、この辺で失礼します。

 

であであ(`・ω・´)ノ

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
72
11

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択