甘寧から働けと言われた次の日。
働けと言われても何をすべきなのか?
それを与えられた部屋の中で悩んでいた時のことだった。
「……出ろ」
突然、自分に与えられた部屋に甘寧がやってきたと思ったら…。
「…??」
何をおっしゃっていらっしゃるのでしょうかこの人は?
「外を案内する」
そういえば、目覚めてからこの屋敷から出たことがない。
正確に言えば、この部屋とトイレ(こっちでは厠か)以外に行っていない。
厠へ行くにも場所が近く、外にも出てないし、窓から見える景色は長江のみ。
思い起こすと―
目覚める
↓
事情聴取
↓
胡散臭いと言われ凹む
↓
働けと言われる
↓
とりあえず暗いし寝る
↓
起きて今現在に到る
「何を呆けている、行くぞ」
さも煩わしい、そんな雰囲気をかもし出しながら甘寧は背を向け、歩き出した。
「ちょっ、ちょっと待って」
慌てて甘寧を追いかけ、後ろに続く。
「……」
甘寧は一言も言葉を発することなく歩き、そして外へ。
うう、無言が辛い。
「うへー、ここって結構高い場所に…へっ!?」
自分の目を疑う。
外の景色に言葉が出ない。
「甘寧…さん」
「なんだ?」
甘寧は、足を止め、怪訝な顔でこちらを見返す。
「ここって、甘寧さんの仕切る港町って行ってたよね」
そう、町。
町だと聞いた。
「そうだが、何か問題でもあるのか?」
問題?
問題はないと思われます。
でも――
「ここって屋敷じゃなく、船の上だったの!?」
そう船の上。
でっかい船の上層部。
「…貴様、一晩過ごしたのに気付いていなかったのか!?」
いや、そこで驚かれても…そうですね、すみません俺が鈍いだけです。
「港町だと言ったはずだが?」
よく見ればちゃんと町もある。
重ね重ね申し訳ありません。
「いや、でも仕切る町って言ってたから…てっきり、でかい屋敷かと思ってた」
「生憎と私に家はない。あえて言うならばこの楼船が私の家だ」
そう言った甘寧は、どこか誇らしげな顔をしていた。
でも少し、ほんの少しだけど寂しそうだった。
「こんな所で突っ立っていてもしょうがない。行くぞ」
船を降り、町に出る。
船の上から見た限り、町といっても、密集した家屋が数箇所にある程度だった。
それでも、やはり大通り沿いは賑わっており、呼び込みの声があちらこちらから聞こえる。
「この町の規模なら千人くらいかな、住んでるのって?」
そう、甘寧さんに尋ねてみると、
「…よく分かったな」
目を見開いて驚かれた。
歩いている人々を見ると、やっぱりここは日本―いや自分のいた世界じゃないんだと実感する。
だって、服装がね。
それに甘寧がこの町を仕切っているのだと実感した。
すれ違う人々からは、
「「甘寧さま」」
と少し怖がられながらも、声をかけられ、
明らかに堅気じゃない方々からも
「「お頭!」」
とドスの聞いた声をかけられていた。
甘寧が歩いていると、行く人、行く人に声をかけられている。
その度に興味深そうな目で見られているのは、気のせいじゃない…と思う。
「貴様、また呆けているのか。ここだ」
「へっ?」
どんどん一人で行ってしまわれますね、この人は。
「今日からこの冬灯が北郷、貴様の世話役だ」
案内された店―酒家というらしい―で席に着いた瞬間の言葉。
「…はい?」
何を一人でおっしゃっていらっしゃるのでしょうか?
「うーっす!よろしくな兄ちゃん!俺は、姓は丁、名は奉、字は承淵だ」
声がした。
真横から声がした。
この声は、たしか自分が目を覚ました時、側にいてくれた少女だ。
っていつの間に隣の席に…
と、とりあえず挨拶だよな。
「うん、丁奉さんだね。俺の名前は、北郷一刀。一刀でいいよ。
って、あれっ?今、甘寧さんが別の名前を…確か―」
動揺を隠しつつそう言い終わる前に―
―チャキ
はい、当たってます。
当たってますよ首筋に刃が。
何度経験しても絶対に慣れないであろう感覚。
甘寧に後ろから刃を当てられた状態で身動き一つ取れない。
「貴様、今何を口にしようとした」
「えっ、えっ、何か悪い事言ったの俺??」
本当に訳が分からない。
ただ甘寧が呼んでいた名前を言おうとしただけなのに。
「この兄ちゃんは本当に分かってないみたいだぜ、頭」
丁奉はニヤニヤしながらこっちを見てるし。
助けてください。
マ・ジ・デ!
「北郷……貴様、本当にこの世界の人間ではないのだな」
「はっ、はい~?」
突然、自分の話が信じられたようで、ますます訳が分からない。
とりあえず床に正座してみる。
「貴様が今言おうとした名を真名という。真なる名と書いて真名。
私たちの誇り、生き様が詰まっている神聖な名前のことだ」
甘寧は、自分の心の底から湧き出る誇りを、生き様を称えるように話す。
「自分が認めた相手、心を許した相手…そういった者だけに呼ぶことを許す、大切な名前」
丁奉も先程とは違う雰囲気、まるで宝物を話す子供の様に見える。
「「他者の真名を知っていても、その者が許さなければ呼んではいけない。そういう名前」」
2人の様子を見て確信した。
「大切な、本当に大切な名前なんだな。
俺も2人に真名を呼んでもいいって言われるくらいに頑張るよ」
何を頑張ればいいのかも分からないけど。
二人に力強く笑いかける。
甘寧「(ふんっ、ヘラヘラとして軟弱な)…言葉だけでなく行動で示せ」
丁奉「頭、そんなに焦らせても兄ちゃんには無理ってもんだろ。
(ふむ、思春様はなにやらイラついているようだな。実に面白い)」
丁奉は甘寧を横目に見ながらニヤニヤとしていた。
「そういえば貴様の真名を聞いていなかったな。教えてくれるか」
甘寧の言葉に俺は驚いた。
「えっ、そんな大切な名前で呼んでくれるのか?」
「それは流石に貴様の態度次第だな」
そんな俺の様子に甘寧は、不敵に笑いながら言い、
「うんうん、まあ俺らの真名を教えるかどうかは別としてな」
丁奉もニヤニヤとしながら言っていた。
「う~ん、嬉しいんだけどさ…ないんだ、真名」
苦笑いを浮かべつつ頬をポリポリ。
「「はぁ!?」」
2人は唖然とした表情をした。
「だからないんだって、真名なんて。俺のいた世界ではそんな風習がなかったんだ。
でも、そうだな…強いて言うならば一刀という名前が真名に当たるのかな?」
まあそんな大層なモノでもないだろうしね。
side:甘寧
「―――――――――――――」
言葉が出なかった。
北郷一刀…こいつは馬鹿なのか、それとも器がデカイのか。
分からない、本当に分からない。
「それは何ともまあ、兄ちゃん…・」
冬灯も言葉が出ないようだった。
「んっ?どうしたんだ2人とも」
「いや、貴様は馬鹿なのか、それとも器がデカイのか分からないものでな」
「だから、真名の概念がないんだから、そう真剣に取らなくてもいいよ」
あっけらかんにそう言い放つ男が甘寧には信じられなかった。
「ならば私はこれまで通り、北郷と呼ばさせてもらおう。
私のことは…甘寧でいい。さんは付けるな、気色が悪いからな」
流石に真名は許せんが、呼び捨てにされるぐらいはいい。
「俺は兄ちゃんのままでいいよな。真名は…呼ばせてもいいけどお頭の目が怖いし、またの機会なー。
あと、俺もさん付けはやめてくれよ。兄ちゃんの方が年上っぽいしな」
「うん、これからよろしく甘寧、丁奉」
一刀は再びニコッっと二人に笑いかける。
―クルッキュー
一刀が笑いかけた瞬間、その一刀のお腹から可愛らしい音が鳴った。
「とりあえず飯を食わせて。そういや俺ココに来てから何も食ってないから死にそう」
「締まらねぇな、兄ちゃん」
その言葉を聞いた丁奉のニヤニヤは最高潮に達していた。
「フッ…」
まあ考えても仕方がない。
なるようにしかならんだろう。
拾ったコイツが私にとって玉になるか、
はたまた路傍の石となるかは神のみぞ知るというやつだろう。
<あとがき>
は~い、MuUさんでした。 orz
このあとがきを書くのが二回目でも気にしない。
誰もが通る道だと思います。
3作目だー!!
見習い卒業おめでとう私!
これからは週に2、3本のペースで行けたらいいなと妄想してみたり。
妄想力がびびびと来たり来なかったり。
さて、オリキャラ紹介
マイナー武将と言われても気にしない
甘寧の部下で武勇だけでなく、知略にも優れているのを探していたら見つけたのだー!
丁奉 承淵
真名は冬灯
甘寧の部下で礫(つぶて)の名手。
腰にいつも鉄の礫の入った袋を下げている。
一刀の監視役?。
イメージは赤ポリSの(ショートカットの)ミゼルドリッド。
けっして2人いませんので、あしからず。というかそこまで考えてなかった。コメントの方々は神ですか!?
一人称「俺」。言葉遣いは乱暴だが、実は・・・。←こうやっていた方が後々楽そうなので
武器は『甲(かぶと)』(でっかいパチンコ そげキングのアレ)
得意の礫をそのまま投げるだけでは面白くないと思いまして・・・・・・鈍器にもなりますので打撃もOKです。
次回ものんびりまったり
黄巾が遠い・・・・・・
2/11改定
ふむふむ自分は一刀視点で書いていたのですな…と今更ながらに思う私w
ちゃんとside~と書かないと突然視点が変わったりして大変ですね。
まあ改定前は台詞の前に名前を入れて誤魔化していましたけどねw
ではノシ
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物語は・・・ここから
進まないねぇ
ゆったりのんびり
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