No.908429

FRAME ARMS COMPLEX『CROSS SESSION』

エフケンさん

2人のFAユーザーによるコラボレーション。
『バーゼラルド・カソアリウス』と『トラブルシューター』
2機の俺ームアームズが己の信念をかけて激突する!
ぱるめ。氏(https://www.tinami.com/creator/profile/59449 )との
共同執筆作品。

2017-06-03 00:33:31 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:1827   閲覧ユーザー数:1747

あらすじ(side『カソアリウス』)

 

 月無人兵器群との戦争により故郷を失った『ユングステン・コロニー』の人々は、放浪の末に無人の工業コロニーと未知のFA『バーゼラルド・カソアリウス』を発見する。

 コロニーに住み着いたユングステン・コロニーの人々は、コロニー内に放置された兵器を用いて『ユングステン旅団』を名乗り傭兵として活動を開始した。

 ユングステン旅団の数少ないFAパイロットであるイヴン・ユグンステンは、バーゼラルド・カソアリウスを駆ける。全ては、大切な人を守るために。

 

 ユングステン旅団の下に地球防衛機構治安部隊から新たな依頼が舞い込む。

 内容は『権力者の私兵と化した治安部隊の無力化』。

 近代化されたFAを保有する正規部隊が相手となる今回の依頼に、ユングステン旅団は部隊を分けての多方向からの攻撃を主軸とした作戦を決行。

 イヴンは本隊から独立した奇襲及び遊撃戦力として単機で敵勢力圏へ向かう。

 

 本隊の到着と作戦開始を待つイヴン。

 突如として本隊との通信が爆音によってかき消される。本隊が奇襲を受けたことを悟ったイヴンは敵勢力圏から離脱を試みる。

 だが、同時に長距離レーザー通信ジャマーが展開。

 イヴンの行く手に異形のFAが立ち塞がる。

『見付けたぞ。橙色の感応装甲を持つフレームアームズ。』

 オープンチャネルによる通信。

 RF系の意匠を残しながらもその枷から外れた外道の機体…『トラブルシューター』の鋭い眼光がカソアリウスを捉える。

 奇襲を行わず、敢えて姿を晒した異形のFA――よほどの策があるのだろうか。だとしても引く訳にはいかない。

「みんなが待っているんだ。邪魔をするなら容赦はしない。」

 イヴンの狂気に近い信念が宿った声。

 それに呼応するように、対峙するFAがライフルを構える。

『事情があるのはお互い様だ。こちらも全力でやらせてもらうぞ。』

 トラブルシューターとバーゼラルド・カソアリウス

 二つの信念が交錯する。

 

 

 あらすじ(side:『トラブルシューター』)

 

 ポートシティ自治区アウターエリアに居を構える掃除屋(スイーパー)の青年『カゲイ・ヒュウガ』。

 FAを用いた賞金首の捕縛や障害の排除を生業とする彼の元にある1件の依頼が舞い込む。

 依頼主の男は地球防衛機構と繋がりの深い旧財閥系軍需メガコーポ"トライデント社"の警備室長を名乗った。

 依頼内容は自社施設への武力干渉を目論む反社会勢力の保有するイリーガルFAの排除。

 この街では珍しくない話だ。

 契約書に書かれた報酬の0の桁が2つ多い点を除いては。

 きな臭い物を感じながらも、

 自分の師の名前を出された事を決定打として、ヒュウガは依頼の受諾を決定する。

 

 交戦予定ポイントに『手品のタネ』の仕掛けを終えたヒュウガに標的出現の報が入った。

ゼロアワーだ。

 事前の打ち合わせ通りの砲撃支援。

 通信機器からはノイズが吐き出され、ジャマーが正常に稼動している事を告げる。

 

 だが――現れたターゲットは想定とは異なるものだった。

 ビーコンには『ユングステン旅団』のシグナル。

「なるほど、あれが噂のお尋ね者…『バーゼラルド・カソアリウス』か」

 標的はイリーガルFAなどではない。

 クライアントは、最初から俺にあれを排除させる魂胆だったという事か。

 標的の偽装は重大な契約違反だ。

 周囲の状況にしても依頼主からのブリーフィングとは相違があるのは明らかである。

 だが、途中で仕事を放り投げる掃除屋に誰が依頼をするというのか。

 不実の清算はここを切り抜けた、その後だ。

『見つけたぞ、橙色の感応装甲を持つフレームアームズ。』

 敢えてオープンチャンネルで呼び掛ける。

『みんなが待ってるんだ。邪魔するなら容赦はしない』

 似つかわしくない若い男の声だ。声には明らかに感情が乗っている。

『事情があるのはお互い様だ。こちらも全力でやらせてもらうぞ。』

 2つの信念が交錯する。

 

 2機のFAの会敵から300秒。 交戦の様相は徐々に形を変えつつあった。

「ッ!…大砲を抱えたバッタか!?」

 トラブルシューターの『M950サブマシンガン』が吠えた。放たれた弾丸がカソアリウスに迫る。

 しかしカソアリウスは推進器と跳躍を組み合わせた跳躍機動でこれを回避。本命の掃射は廃墟に孔を穿っただけに終わった。

 間髪入れずにカソアリウスの携帯火器『ファイア・ライン30mm突撃銃』による報復射撃が放たれる。

 掃除屋はこれを辛うじて躱し、機体を廃墟の中央部、旧高層ファクトリーへ向けて走らせる。

 ヤツの最大のアドバンテージがあの跳躍力から来る三次元機動力だというのなら、まずはそれを封じねば勝ち目はない。

 拓けた場所で上を取られれば終わりだ。

 それに『あそこ』にはまだ『手品のタネ』が多少残っている。

 ヤツの瞬発力は脅威だが機動線はやや直線的だ。

 鼻先に火線を張り、動きを抑えつける。

 M950の残弾は予備マガジン1つ込みで194発。

 際どいところだが不可能ではない。やれる筈だ。

 

 トラブルシューターは迫るカソアリウスに対して牽制の火線を張りながら、廃プラント群に滑り込む。

 やや遅れて弾幕をすり抜けながらカソアリウスが続き、手にした突撃銃がトラブルシューターを捉える。

『機動戦闘でカソアリウスを振り切れると思ったのか?これで終わ――』

 刹那、ワイヤー状の何かがカソアリウスの脚部に接触した。

 カソアリウスの背後の壁面が爆ぜる。

『M242対FA近接指向性散弾』。

 FAサイズのクレイモア地雷ともいうべきそれが、カソアリウスの接触に反応したのだ。

爆風がベアリング弾の雨を混じらせ、破壊の暴風となってカソアリウスを襲う。

 傭兵は勝利を確信した。

 M242はFAを全損させる威力はないが、コックピットやセンサー、推進器を潰すには充分だ。

 あの距離での爆破ならば防御姿勢を取る他ないが、機体を守ればトラブルシューターに背を向け死角を晒す。

 それで詰みだ。

 トラブルシューターがカソアリウスへ狙いを絞る。

 

 しかし——

 カソアリウスは防御姿勢を取ることなく、眼前の敵機に猛進した。

 ベアリング弾を背部の推進器や装甲にめり込ませ、頭部の一部を潰されながらも加速に乗せた大剣をトラブルシューターへ振りかざす。

 その姿には狂気にも似た揺るがぬ信念が感じられた。

 

 戦慄が走る。

 

 大剣が振り下ろされるのと、マシンガンを捨てたトラブルシューターがコンバットナイフを大剣に叩きつけるのはほぼ同時。

 凄まじい火花と轟音を上げながら大剣はナイフとトラブルシューターの左肩アーマーを吹き飛ばした。

 左マニュピレーター自体が無事だったのは奇跡としか言い様が無い。

「命の惜しく無いバカか!」

 腰部ラックから『セブン54mm散弾砲』を抜かせつつ、横薙ぎに払われた追撃の大剣を間一髪のバックステップで躱す。

 今”セブン”散弾砲に装填されているショットシェルでは駄目だ。

 あの手の輩はコックピットに1撃叩き込まなくては。

『セブン54mm散弾砲』が唸る。 1発、2発、3発。

 これをカソアリウスは大剣の側面で防ぐ。

 傭兵は知らない。

『13式超硬実体刀 スクラマサクス』――単分子カッターのように切断能力を持たない、装甲を『斬る』のではなく『割る』ことを目的とした硬く鋭利なだけの鉄塊は、54mm弾を用いても破壊不能ということを。

 4発目の発砲と同時にトラブルシューターは何かを防御姿勢を取るカソアリウスへ投擲した。

 鋭い閃光が炸裂する。

 閃光手榴弾だ。

 先のベアリング弾で頭部センサーの一部を欠損したカソアリウスの復旧が一瞬遅れる。

 頭部カメラが防眩機能を発揮した時には、青い傭兵機の姿はそこには無かった。

 

 

 生じた一瞬の空白に、傭兵は機体を手近なビルの背後に回りこませた。

 瞬時に"セブン"散弾砲にライフルスラグ弾を装填する。

「M950とナイフを喪失。あのFA、想像以上に手こずらせてくれる。機体もそうだが、厄介なのは中身だ。あれは『死兵』だ。」

 傭兵は、カソアリウスの機動には一切の『迷い』を感じなかった。

 戦士として『迷い』とは必要なものだ。何故ならば戦士の目的は戦いに勝つことではなく、生きて帰ることなのだから。

 一方、カソアリウスの戦い方には『生きて帰る』という意思、それから生じる迷いを一切感じない。寧ろ『刺し違えたとしても敵を倒す』という意思すら感じる。

「あれは自身を犠牲にしてでも何かを守りたいという意思、いや…執念か。」

 カソアリウスが今までトラブルシューターに撃墜されなかったのはパイロットの中に訓練で学んだ生きるための術が辛うじて残っているからだろう。

 もしトラブルシューターが刺し違えて倒すつもりだったなら、既にカソアリウスは撃墜されていたかもしれない。

 その戦い方は『戦闘技能によって支えられた死兵』と言えるだろう。

「まさか、あんな化け物に出会うとはな。」

 

 FA乗りの最優先事項は先ず生きて帰ることだ。カソアリウスのパイロットの戦い方は決して共感出来ない。

 あの鬼気迫る戦い方、あちらのパイロットにも退けない理由があるはずだ。才ある若者にあんな戦い方をさせる事情。ロクなものである筈がない。

 一瞬、心中に差し込む陰を振り払うように掃除屋は呟いた。

「だが…こちらにも事情がある…。」

 敵のために死んでやるわけにはいかない。

 音響センサーに反応。どうやらカソアリウスが動いたようだ。

 感傷に浸っていた傭兵は全感覚を愛機トラブルシューターと同期させる。

 両者とも消耗している。恐らく次のセッションで決着が着くだろう。

 刹那、構造物同士がぶつかり合う轟音と共にトラブルシューターが身を隠していた構造物が倒壊する。

 巻き上がる粉塵。

 弾ける瓦礫。

 その向こうでカソアリウスの感応装甲が輝く。

「見付けたぞ。無法者。」

 

 若い男性の冷淡な、けれど執念に満ちた声がコクピットに響く。

 煙幕を切り裂き、鋭い打突がトラブルシューターに迫る。しかし、傭兵に焦りはない。

「違うな。俺は掃除屋(スイーパー)だ。」

 

 トラブルシューターが返す勢いで散弾砲を抜き撃つ。

 放たれた弾丸は迫る刀身の側面に着弾。横からの衝撃によって硬く鋭利な大剣の矛先は虚空へ向いた。

 トラブルシューターはたった1回の発砲で迫る大剣の軌道を逸らしたのだ。

 その間0.1秒にも満たない。自動照準では絶対に出来ない、技量と経験、なにより冷静な判断力が成す神業としか言えない芸当である。

「その迷いのなさが命取りだ…!」

 排莢され、発砲可能になった散弾砲が無防備なカソアリウスを捉える。

 しかしこの時、傭兵――いや、掃除屋は感じた。カソアリウスから発せられる刃物のように鋭い執念を。

「時には冷静さが仇となることがある。」

 カソアリウスの推進器が吠える。さらに跳躍と弾かれた大剣の慣性で1回転してみせた。

 それ即ち、より大きな運動エネルギーを得た大剣がトラブルシューターに迫りつつあることを意味する。

 金属の裂ける音が轟き、二つに裂けた散弾砲が宙を舞う。

 トラブルシューターの機体本体が無事なのは、咄嗟に散弾銃を盾にしつつ宙に浮くことで機体本体への衝撃を逃がしたからだ。

 だが衝撃を逃がしきれずにトラブルシューターは瓦礫の中に叩き付けられる。

 そこに大剣を振り上げたカソアリウスが迫る。

「僕には守るべきものがある。邪魔をするなら切り崩す…!

 カソアリウスを駆けるパイロットの声――狂気に近い信念を抱いた男の声がトラブルシューターのコクピットに響く。

 しかし、歴戦の傭兵がここで終わるはずがない。

「切り札は最後まで取っておくものだ。小僧。」

 モデル626マグナムリボルバーが”カソアリウス”のコクピットを捉える。

 何の変哲もないFA用拳銃。これがジョーカーだ。

 刃と弾丸が交錯するその刹那―

 

「「!」」

 ほぼ同時にその場を退く両者。

 次の瞬間、先まで二機が居た場所に爆煙が巻き上がる。榴弾による攻撃。

 巻き上がる煙幕。その向こうから2機のFAを弾丸の嵐が襲う。カソアリウスとトラブルシューター、双方を狙った射撃だ。

 掃除屋は満身創痍の機体に回避運動の鞭を振るいながら思案を巡らす。

 状況と食い違う依頼内容、多すぎる報酬。考えるまでもなく結論は1つだ。

 両方が消えれば、奴らは丸儲けという訳か。

「…通りで報酬の桁が多いわけだ。」

 トラブルシューターのコクピットで掃除屋がぽつりと零した。

「なにを納得しているんだ。」

 カソアリウスがトラブルシューターの前に出て大剣の側面で敵射撃を防ぐ。

 先ほどまで殺し合っていたとは思えないほどの完璧な、そして明らかな援護。どうやら敵ではないと判断されたらしい。

「あぁ。こいつらはお前の援軍じゃないようだぞ。」

「そうだったら嬉しかったよ。」

 カソアリウスのパイロットが皮肉で返した。はじめての敵意の無い会話。

 しかし敵の攻撃が止むことはない。

 煙幕の向こうから放たれる絶え間無い射撃が2機のFAに集中する。包囲殲滅されるのは時間の問題だろう。

 

 掃除屋は複合索敵プログラムを起動。

 トラブルシューターの音響センサーが敵機の数と概ねの位置を捉える。

 彼は即座にそれを”僚機”に転送した。

「何のつもりだ。」

「借りは返しておく。利子が払えるほどの持ち合わせもない。」

 スモークグレネードを展開しながら掃除屋が応じる。

 意図を察したカソアリウスが大剣を地面へ叩きつけ砂塵を巻き上げる。

 まずは身を隠さねばならない。でなければ、仲良く残骸が転がることになる。

 

トラブルシューターによる『WA2000 90mm対FAライフル』の斉射。

敵からすれば奇襲に成功し戦闘状況の主導権を握った矢先、予想外の反撃を受けて大いに戦術を崩されたことであろう。

掃除屋は弾幕を張るカソアリウスへ声を投げかける。

「おい、さすがに犬死するつもりは無いな?」

「悪いが自分には興味が無い。もっと大切なものがある。」

 相変わらずの冷たい声。相変わらずの頑なな思考。

「…このままじゃお前も仲間も何もできずに無駄死にだ。嫌なら少しだけ手を貸せ。」

 トラブルシューター のパイロットの声の調子が少し変わった。まるで子供に言い聞かせる大人のそれだ。

「…何か手があるのか」

 鉄面皮をわずかに溶かした声が答える。このパイロット、戦闘以外では案外子供っぽいのかもしれない。

「上に敵機はいない。…お前の機体はまだ翔べるな?」

 カソアリウスのパイロットにはそれだけで十分だった。

 

 トラブルシューターが後退、それに合わせるようにカソアリウスが射撃する。

 そのタイミングは完璧で、煙幕の向こう側に居る敵からすれば、こちらがその場に留まって応戦しているかのように思うだろう。

 

 先ほどの砲撃の主、防衛機構のエンブレムを付けた4機のtype-32『ウェアウルフ』(一部地域では『轟雷』と呼称される)は思わぬ反撃の弾幕に釘付けになっていた。

 初弾で仕損じた動揺が4機の挙動から感じられる。

 その最中、煙幕の内側からの射撃が一瞬弱まる。

 敵は後退している―

 廃墟を包囲しながらも攻めあぐねていたtype-32にすれば、その隙は絶好の突破口に見えた筈だ。

 4機のtype-32が履帯を唸らせながら、2機の排除目標が居るであろう煙幕の中央部に突撃をかけた。

 

 だが、彼らは見逃していた。

 致命的な凶鳥の羽ばたきを。無数の戦場を渡り歩いた傭兵の狡猾さを。

 

 最初に犠牲になったのは隊列の最後尾にいた1機だった。

 type-32の重装甲の隙間を90mm弾が貫く。

「当てが外れた様だな。…逃げ足は早い方でね」

 残り3機のtype-32が鏃状に展開し、滑空砲がトラブルシューターを狙う。

 避けられる距離ではない。

 しかし傭兵の動きに焦りは無かった。まるで規定事項のように。

「頭上注意というやつだ」

 その瞬間、陣形の中央に陣取る敵機に砲撃が炸裂した。

「邪魔をするな…!

 

 跳躍機動で敵の頭上を取ったカソアリウスによる集中射撃。

 態勢を崩したtype-32をカソアリウスの大剣が降下の勢いを乗せて両断する。

 煙幕からの牽制射撃とトラブルシューターの後退は、全てカソアリウスによるトップアタックの布石にすぎなかったのである。

「上出来だ。坊や。」

「坊やじゃない。さっきから『坊主』だの『坊や』だの、僕は――」

 

 勢いのままにカソアリウスが残りのtype-32の1機を切り倒す。

「わかっているさ。」

 

 掃除屋は反論の言葉を遮りながら敵機に照準を定めた。

「”自分の身を盾にしてでも”なんて馬鹿はそう居ない。腹は決まってるんだろ」

 傭兵が最後に残った敵機を撃ち抜いたのはほぼ同時だった。

 

 もはや大勢は決した。

 包囲網には穴が穿たれ、4機のFAを喪失した防衛機構に彼らを追撃する余力は無いだろう。

 彼らにとっては本来『ここで戦闘は起こっていない』筈なのだから。

 満身創痍の2機のFAはただ一瞥を交わすと、別々の方向へ離脱していった。

エピローグ

(Sideトラブルシューター)

 離脱するトラブルシューターのコックピットでヒュウガは"僚機"の戦いを思い起こした。

 明らかに無謀ながら確かな信念が感じられる機動。ああいう奴は嫌いではない。

 何かを諦められないところは自分と同じだ。

『守りたいものがあるんだ』

 男の声が脳裏に響く。

『命なんて構うものか』

 そんな切実さが俺にはあるだろうか。

 依頼主のために全力を尽くし、命を賭ける。

 掃除屋としてあるべきやり方。先代から引き継いだはずの姿。俺にとっての守るべきルール。

 自分はそこにあれだけの覚悟を持てるのか?

 

 明滅したアラートがヒュウガの意識を現実に呼び戻した。

 まずは裏切者からの精算だ。

 傭兵を裏切ることの意味を馬鹿な"元"依頼主に教えてやらねばなるまい。

 掃除屋は舐められるべからず。報復は確実に。

――これも先代から教えられた事の1つだ。

 その後は――

 

 煮え切らない思考を苦笑で強引に纏める。

 命を賭ける時は必ず来る。

 俺にとってはそれは今では無い。

 そう1人ごちると掃除屋は機体を荒野に走らせた――。

(Sideトラブルシューター 終)

 エピローグ

(Sideカソアリウス)

 先の戦闘領域を離脱したカソアリウス1号機のパイロット、イヴン・ユングステンは、攻撃を受けているであろう友軍本隊へ向けて最大推力で向かっていた。

 攻撃する敵勢力を背面から攻撃して、本隊を援護する。

 大切な人々を想い焦る気持ちを抑え、イヴンは推進器を吹かす。

 不意に自分を”坊や”と呼んだパイロット駆けるイリーガルFAの姿が脳裏を過った。

『”自分の身を盾にしてでも”なんて馬鹿はそう居ない。』

 イヴンには分からなかった。

 ”大切な人”が居ない世界で生きていくことに意味などあるのだろうか。

 イヴンはコクピットに飾られた写真を見た。今は亡き故郷で穏やかな日常を過ごしていた頃の、イヴンと大切な人々が写った写真。

 イヴンが命に代えても、守りたいもの――

 それを遮るようにイリーガルFAがイヴンを睨みつける。

『”自分の身を盾にしてでも”なんて馬鹿はそう居ない。』

 再び先のパイロット――掃除屋の声が脳裏に反芻する。

「黙れ。」

 イヴンの拒絶に満ちた瞳が、トラブルシューターの幻影を睨んだ。

 今回は共闘することになったが、所詮奴は守るべきものを持たない野良犬だ。

 いつまた敵になるかわからない。その時は――全力で叩き潰す。

 

 僕は奪われた日常を取り戻す。

 そのために僕は今を生きている。

 僕は『あの人』を守る。

 そのためだったら、命など何一つ惜しくはない。

 

 カソアリウスの感応装甲が静かに輝く。

 イヴンが修羅に堕ちる、その瞬間を待ち望むかのように。

 

(Sideカソアリウス 終)

(sideとある島国に届いた報告書)

レインボー作戦第4次中間報告書

 

 懸案の地球防衛機構ユーラシア方面軍治安部隊第12FA(多目的追従外装)機動隊は予定通り処分され、証拠隠滅も完了しました。ユーラシア方面軍内では『離反部隊を無力化、パイロットの逮捕は失敗』として処理された模様。すべて計画通りに推移しました。我が国について情報漏洩の可能性は低いと考えますが今後も調査を継続。同時平行で新たな協力者の選定を進めます。

 また今回の作戦の中で、他方で進んでいた案件についても進展が見られたので報告します。

 

1、レインボー作戦補助適格者選定について

 調査を進めていた傭兵カゲイ・ヒュウガについての調査は概ね終了。今回は戦闘面でのデータを採取。レインボー作戦の補助として利用価値は十分にあると判断。ただし利用には入念な根回しを推奨します。今後もレインボー作戦補助適格者選定をポートシティにて継続。

 

2、SA-24GAPバーゼラルド・カソアリウスについて

 今回の戦闘で戦闘を重ねるごとに中枢管制システムOS-10とパイロットの親和性が向上しているとの確証に至るデータを採取。練度の高いカゲイ・ヒュウガ、及び正規部隊と極限状態に近い戦闘によって『現象』の軽微な発現が確認されました。今後、このパイロットが『現象』の発現を引き起こす日も近いと思われます。

 当機関は今後もこのSA-24GAPとそのパイロットを貴重なサンプルとしてモニタリングを継続。

 

 追記1:今回の件でカゲイ・ヒュウガが当機関について調査を始めた模様。支部長は各諜報員へ注意を促してください。

 追記2: 報告書を書く際『FA』の後に『(多目的追従外装)』と書かなければいけないの面倒なのでどうにかなりませんか?

 追記3:送って下さった信玄餅、皆喜んでいました。また送って頂けると嬉しいです。

以上

 

 日本国防陸軍 対外情報収集3課 久我満 情報特務三佐

 あるスクラップブックより

 

『セントラルエリアにて爆弾テロ発生。軍需メーカー標的か』

 

 本日未明、シティセントラルエリア第23ブロックにてテロとみられる爆発が発生。

 同ブロック内のトライデント社保有施設が破壊され、

同社代表取締役、アーサー・S・カークランド氏を始めとする同社関係者18名の死亡が確認された。

 破壊活動は同施設に集中して行われ、同ブロックの他施設に被害はなかった。

 犯行の手口としては、なんらかの爆発物を設置、遠隔操作により起爆したものとみられる。

 ポートシティ警察では犯行の詳しい手口、付近の監視カメラの記録等から犯人の特定を急いでいる。

 

 カークランド氏は12年前に統合政府外交省 日本国駐在大使として5年間の任期を全う、

国防省に所属を移した後も両国の外交関係の改善に努めていた。

 国防省を勇退後、前社長からの推薦によりトライデント社のCEOに就任。

 出自から統合政府との太いパイプを持ち、将来的な政界への進出を噂されていた矢先の出来事であった。

 

【ポートシティ・エクスプレス X月Y日号外より抜粋】

 

『トライデント社爆破事件、新展開』

 

 セントラル地区の1大軍需メーカーを標的にしたテロ事件から1週間。

 事態は思わぬ方向へと転がっている。

 被害者でのあるはずのトライデント社への事情聴取の過程で同社の不正行為が次々に発覚、シティ警察の同社本社への強制捜査では大量の証拠物件が押収される事態となった。

 本誌では独占スクープとして、同社内部文書の入手に成功。

そこには同社と市政局上層部の収賄を示すやり取りが赤裸々に記されていた—

 

 他、袋とじセクシーグラビア『可愛すぎるテストパイロットVS清楚秘書官』

 

【週間ポートショック Z号見出し広告より抜粋】


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択