「帰ったわよ冥琳」
城に戻った孫策は、門の前で待っていた周瑜に手を振りながら近付いていく。
「遅かったな。いったい何をして・・・・・・雪蓮」
「何?」
「その祭殿がおぶっている猿轡をつけた少年は何者だ?」
「ん~~・・・・・・天の御使い?」
「ふざけているのか?」
不愉快そうに眉を顰める冥琳。
「ふざけてるわけじゃないわよ。帰る途中に急に辺りが光り出して、それが収まったと思ったらこの子が倒れてたの。ねえ祭?」
「うむ」
孫策の言葉に黄蓋も頷く。
「見た事も無い服を着てるし、面白そうだから連れてきちゃった♪」
「・・・・・・はぁ」
額に手を当て、ため息をつく周瑜。
その後、連れてこられた少年は城の一室に運ばれ、起き次第話を聞くこととなった・・・・・・
次の日の朝、黄蓋は昨日連れてきた少年の部屋へとやってきていた。
そろそろ目覚めている頃かと思ったのだが、少年はまだ寝ていた。
「う~~ん、あなたのために歌うことが、こんなにも辛い事だなんて・・・・・・」
「どんな夢を見ておるんじゃこやつは」
寝台に寝ている少年を少々呆れ顔で見つめる黄蓋。
それから数分後、少年は目を覚ました。
とはいっても寝ぼけているのか、目は薄っすらとしか開いておらず、身を起こしつつもぼーっとしている。
そして黄蓋の姿が視界に入るや一言。
「夜中過ぎたら子供達に甘いものを与えないって約束したじゃないですか!」
「何を訳の分からん事を・・・・・・」
黄蓋がそう呟くのが聞こえたのか聞こえていないのか、少年は黄蓋をじっと見つめて、
「・・・・・・夢だな」
そう言うやいなや、再び寝台に寝転がった。
「こらこら。二度寝は許さんぞ。おぬしには聞きたい事があるんじゃからな」
「寝かせてくれ~~。夢の中でも寝たいものは寝たいんだ~~」
布団を被りながら言う少年。
「夢では無いぞ」
「いいや。夢だ」
「何故そう思う」
「目が覚めたら傍らに妙齢の褐色美女がいてくれるだなんて、夢以外の何ものでもない」
「ほほう?」
「眠くなければ思いっきり甘えたい。でも眠気には勝てない。いっそ添い寝でもしてくれれば・・・・・・」
「美女と呼ばれるのは悪い気はせぬが・・・・・・いい加減起きてもらわんと困るんでな!」
そう言うと黄蓋は布団を掴み、強引に剥いだ。
「さあ!さっさと起き・・・・・・」
見ると、寝台に少年の姿は無かった。
何と少年は布団の裏側にぴったりとしがみついていたのだ。
「虫かお前は!?」
布団をばっさばっさと振る黄蓋だが、少年は離れなかった。
そんな時、扉を開けて孫策が部屋に入ってきた。
「そろそろ起きて・・・・・・何やってるの?」
「・・・・・・見ての通りじゃ」
その後、完全に目覚めた少年は孫策、黄蓋と向かい合っていた。
「まずは名前を聞いておきましょうか?」
「名前?北郷一刀だけど・・・・・・」
「変わった名前ね。そうそう、自己紹介がまだだったわね。私は孫策。彼女は黄蓋よ」
「孫策さんと、黄蓋さん?」
「そうそう。で、単刀直入に聞くけど、貴方何者?見た事も無い服装だけど?」
「それに答える前に一つ聞きたいんだけど」
「何?」
「この国の今の王朝は?」
「漢じゃが、それがどうかしたか?」
「・・・・・・」
黄蓋の答えを聞き、無言になる一刀。
「ちょっと、黙ってないで貴方が何者なのか聞かせなさいよ」
「・・・・・・あんまり言いたくないなあ」
「何故じゃ?」
「狂人扱いされるだろうから」
「もしかして、自分は天の御使いとか?」
「まあ、それぐらい突拍子も無い話なんだけども・・・・・・」
一刀は一度咳払いをし、
「ぼくは約二千年先の未来からやってきたんだ~~」
どこぞの猫型ロボットを髣髴とさせるだみ声でそう言った。
「「・・・・・・」」
本当に突拍子もない発言に言葉が出ない孫策と黄蓋。
「ほら、そういう反応をすると思ったから言いたくなかったんだ」
ぷいっと顔を背ける一刀。
「そうはいっても・・・・・・ねえ?」
「うむ。何か証拠になるようなものは無いのか?」
「証拠か。とはいってもポケットに秘密道具の類は・・・・・・」
ゴソゴソと服のポケットを漁る一刀。
「・・・・・・あ。これとかどうかな?」
そう言うと、一刀はズボンのポケットからとあるものを名前と共に取り出した。
「じゃ~~ん。で~ん~た~く~~」
「でんたく?何それ?」
「この道具は、どんな計算も瞬時に行う事が出来る道具なんだ」
「ほほう」
「試しに・・・・・・何か計算問題出してみてくれ」
「それじゃあ・・・・・・百十一たす千二百十六たす三百十七たす五千三百六十二ひく七百五十四は?」
「ぽちぽちっとな・・・六千二百五十二」
「早っ!」
「合ってるだろ?」
「・・・・・・ごめん。言っといてなんだけど、適当に言っちゃって私じゃすぐに答えが出せない。てへっ♪」
舌を出してそう言う孫策に一刀はずっこけるしかなかった。
「あのなあ・・・・・・」
その後、普通に計算して正解だった事は証明された。
「しかし、便利な物じゃのう」
「うん。しかも太陽の光で動くから大事に使えば一生使える」
「むう・・・・・・」
「少しは信じてもらえた?」
「そうね。ただ、そのでんたくの数字が私達の使ってるものだったら分かりやすくてよかったんだけど・・・・・・」
「そればかりはなあ・・・・・・」
「まあいいわ。信じるとしましょう。で、貴方これからどうするの?貴方が未来人だというならこの大陸・・・・・・いえ、全世界探しても貴方は天涯孤独の身っていうことになるけど」
「さて、どうしたものか・・・・・・」
自らを取り巻く現実を認識し、途方に暮れる一刀。
「そこで提案なんだけど」
孫策がニヤリとしながら言葉を続ける。
「ここで面倒みてあげましょうか?条件付きで」
「条件?」
「そう。まず、貴方は天の御使いになるの」
「なるって、どうやって?」
「どうもしないわよ。そういう肩書きを背負ってもらうだけ」
「・・・・・・つまり、宣伝用の道化になれってことか」
「嫌なの?」
「背に腹は変えられないな。まあ、やってみよう」
「そう。あともう一つの条件だけど」
「まだあるのか」
「貴方、子供を作りなさい」
「はい?」
「うちの武将たちを口説いて子供を作るの」
「・・・・・・なぜ?」
「その方が喧伝しやすいじゃない」
「それだけ?」
「それだけ。けどね、そのそれだけが大きな力を持つかもしれないのよ」
「う~~ん」
「あ、ちなみに無理矢理とかはだめだからね。双方合意の上で。これ大事」
「自信が無いなあ。正真正銘のチェリーボーイだし」
「ちぇり・・・・・・何?」
「女の子と付き合ったこともない童貞野郎のこと」
「そうなの。まあ、これを好機だと思って頑張りなさい。一緒に過ごして嫌われるような事をしなければ距離も縮まるわよ。」
「・・・・・・了解」
「決まりね。それじゃあ私の真名を伝えておこうかしら」
「真名?」
「心を許した相手だけが呼ぶ事を許されるとっても大事な名前の事。当人の許可なく呼んだら殺されても文句が言えない位大事なものだから心して受け取りなさい」
「う、うん」
「私の真名は雪蓮よ。そうそう、もうさんづけはいらないからね」
「わしの真名は祭じゃ。ほれ、呼んでみるがいい」
「雪蓮に祭・・・・・・さん」
「わしもさんづけはいらんぞ?」
「そう言われても・・・・・・」
「まあまあ。ところで一刀。私と祭も子作り候補に入ってるわけだけど、一刀的にはどっちが好み?」
妖艶なポーズを取りつつ言う雪蓮。
「え?祭さん」
即答だった。
「ほほう・・・・・・悪い気はせんのう」
笑みを浮かべる祭とは打って変わって、雪蓮はポーズを取ったまま固まっていた。
少しして、硬直から解けた雪蓮は一刀に詰め寄った。
「何で?理由を言いなさい」
「・・・・・・言わない」
「言いなさい」
「やだ。言ったら殺される」
「い、い、な、さ、い」
一刀の胸倉を掴み上げ、脅迫する雪蓮。
「く、苦しい」
「解放して欲しいならさっさと言いなさい」
「う、うう・・・・・・」
苦しみながら、嫌々理由を口にする一刀。
「さ、祭さんはいい奥さんになってくれそうな印象だから・・・・・・」
「私の印象はどうなの?」
手に力が入る雪蓮。
「し、雪蓮の印象は・・・・・・」
「印象は?」
「じょ、女性というより雌の肉食じゅ・・・・・・」
それ以上口にする前に、一刀は雪蓮に絞め落とされていた・・・・・・
どうも、アキナスです。
何ヶ月も音信不通で申し訳ありませんでした。
しかも久しぶりに投稿しましたが、したのはもうとっくに忘れ去られているであろうプロローグだけで書いてなかったやつという。
無論、五斗米道の方もあげていくつもりですが、何と言うか・・・・・・ギャグが書きたかったんです。
恋姫も新作が出るようですし、楽しみですね。
それではまた次回・・・・・・
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忘れられていたお話・・・・・・