(弐)
建業を出発して半月ほどして一刀率いる遠征軍は京と真雪が駐屯している城に着いた。
だがそこはまるで大災害に遭ったかのようにボロボロで城内からは煙が何本かたっていた。
「これは……」
「旦那!」
門が開きそこから包帯を巻いた太史慈こと京が嬉しそうに出てきた。
「京、どうしたんだ、その傷?」
一緒に乗っていた風と降りて一刀は京に近寄っていき片目に包帯を巻き、身体のいたるところを怪我している彼女の前に立った。
「見てのとおり。報告を送った後に襲われてね。不意打ちだったから対応が遅れた結果がこれなんだ」
油断した自分達の方が悪いと言わんばかりに京は笑った。
「真雪も無事なのか?」
「うん?子敬さんなら無事だよ。でも、だいぶ怖い思いをさせちゃったからね、今は自室で休んでいるよ」
「そうか。でももう大丈夫だから」
二万の精兵と多量の物資を率いてきた一刀はさっそく防衛体制をとることになった。
「ところで悠里は来ているかな?」
「子瑜さんなら来ているよ」
軍を亞莎と華雄に任せて一刀は恋達を連れて京の後に続いて中に入っていく。
城壁に比べて中もひどい状況だった。
軍事拠点のため民の被害はないがそれでも兵士の宿舎など壊されている所が多くあった。
「でもよかったよ。旦那達が来てくれて」
また襲われでもしたら今度こそ陥落していたかもしれないほど、今の京達は疲弊しきっていた。
「これでやっと一息つけるよ。ありがとうな、旦那」
嬉しそうに振り返ろうとした京を一刀は後ろから抱きしめた。
「だ、だんな!?」
「……ごめんな」
「え?」
一刀は彼女達が無事であったことが嬉しかったのと同時に、もっと早くここに来るべきだったという後悔があった。
「京や真雪が頑張っていたのに遅くなってごめん」
「旦那……」
一刀に抱かれている京は彼の優しさが嬉しくて今まで我慢していたものを身体から抜いていく。
「いいよ。旦那はこうしてきてくれた。それに様子だけを報告していたんだから遅くなるのは当たり前だよ」
何も一刀が悪い事はない。
京は一刀が責任を感じる事はないのだと思っていたが、一刀からすればもっと自分が注意をしていればと何度も自問していた。
「旦那」
「なんだ?」
「同じことを子敬さんにもしてほしいんだ。オイラ以上に旦那の温もりが必要だと思うから」
一刀から離れていく京はそう言った。
「そのためにオイラ達の真名を授けたのだから」
新婚旅行のとき、蜀を出発するときに渡された手紙のことを思い出した一刀は頷いた。
「ありがとう、旦那」
そう言うと力なく一刀のほうへ倒れていく。
「京!」
慌てて抱きとめると緊張の糸が切れたのか穏やかな寝音を立てて京は瞼を閉じていた。
「恋、すまないけど京を連れて行ってくれるか?」
「(コクン)」
一刀からぐったりしている京を背負うと、ゆっくりと歩いていく。
「恋殿~。ねねもお手伝いいたしますぞ」
京が落ちないように音々音は支えながら恋について行く。
そして一刀が城内にある高級指揮官の宿舎に入ると今度は悠里が出迎えた。
「大都督殿におきましては遠路はるばる、ご足労をおかけいたしました」
まずは自分の上官への挨拶をする悠里に一刀が頷いてそれを受け入れた。
「悠里は何時、ここに着いたんだ?」
「一刀くん達より三日ほど早くです。兵も三千ほどですから予定より早く着きました。ただ、このような状況なので事後処理にかかっているところです」
別働隊を率いていた悠里が一刀より先に着いた時にはすでにこの城は山越に襲われた後だった。
よく見ると悠里の表情はその事後処理を休まず行っていたのか顔色が優れていなかった。
「悠里、もしかして休んでいないのか」
「子敬さんや子義さんが動けない以上、私がするしかありませんでしたから」
「風」
一刀はついている風達を見ると待っていたかのように見返してくる。
「はいはい?」
「悠里をしばらく休ませたいからその間に処理しなければならないことをしておいてくれるか?」
「わかっていますよ~。亞莎ちゃんがこちらにきたら二人でしておきますよ」
特に問題はないといった感じで風はのんびりと答えながらVサインを見せた。
「悪いな」
「いえいえ。お兄さんのお願いなら風はどんなことでも聞きますよ」
風の心遣いに感謝する一刀。
「というわけだ。悠里、これは命令だからきちんと休むんだ」
個人的に頼んでも悠里の性格からして休むことを拒むだろうと思った一刀は大都督の権限を使ってでも休ませることにした。
「わかりました。一刀くんが……大都督殿がそうおっしゃるのであれば休ませていただきます」
ゆっくりと頭を下げて悠里は彼の厚意を受け入れた。
「葵ちゃん、悠里を部屋に連れて行ってあげてくれるかな?」
「はい」
「そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」
「いいから。何か欲しいものがあれば葵ちゃんに言ってくれたら用意するから」
「……わかりました」
大都督であり夫である一刀にもはや逆らうことをやめ、葵と共に自分の部屋に戻っていた。
「それにしても酷い有様だな」
見る限り、城内に進入を許したのか至るところにその傷跡が刻まれていた。
多くの兵士が傷つき疲労感に身体を蝕まれており、京の言うとおりもう一度襲撃を受けたら陥落していたほどだった。
「山越かぁ……」
自分が思っていた以上に強敵に思えてきた山越に思わずため息を漏らす一刀。
だがすぐに周りを見て、弱気な部分を誰かに見られたか確認したが幸いにも誰も見ていなかった。
(俺は大都督だ。みんなの前で士気を下げるような態度は取ったらだめだ)
そう自分に気合を入れなおして屋敷の中に入っていく。
「真雪……大丈夫だろうか」
さっきの京の言葉が頭から抜けない一刀は不安で仕方なかった。
また朱里や雛里、それに悠里のように一刀には理解するには難しい本を製作して喜んでいる姿こそ似合えど、こうして山越という脅威に面した場所になぜ真雪が駐屯しているのか、その理由も知りたかった。
何度となくその理由を聞こうとしたが、なかなかその機会がなかったので長いこと忘れていたが、今の状況を見てそうも言っていられなかった。
いろんなことが一刀の頭の中を駆け巡っていく。
「やっぱり山越とは決着をつけないとダメか」
そうすれば真雪達に危険が及ぶこともなくなる。
そのために自分はここに来たのだと思い返しながら廊下を歩いていく。
やがて真雪の部屋の前に着いた。
「真雪」
一刀は中にいるはずの彼女の名前を呼んだ。
だが反応がなく、何度も呼んだが同じ結果だったのでゆっくり扉を開けて中に入っていった。
「真雪?」
一刀は部屋中を見渡し、真雪の姿がないことを確認して寝台のほうへ向かった。
寝台の上で真雪が眠っているのを見つけた一刀は起こさないように近寄っていき、椅子に座ってその様子を伺った。
「ん……」
「真雪」
悪夢にうなされているのか真雪の表示は悲痛なものを感じさせた。
「た、たしゅけて……かず……さま……」
無意識に手を伸ばしていく真雪に一刀はその手を両手で包み込み、
「ここにいるよ、真雪」
夢の中に現れるように優しく答えた。
「もう大丈夫だから。俺はここにいるよ」
温もりを感じたのか、真雪の表情はゆっくりと穏やかさを取り戻していき、いつしか安心したかのように薄っすらと笑みを浮かべていた。
小さな身体で必死に頑張ったことは一刀でも容易に感じ取ることができた。
「……かず……さま……」
ようやく気づいたのか真雪はゆっくりと目を覚まして、目の前にいる一刀の姿を確認すると驚きを表した。
「かずさま?」
「うん。俺だよ」
安心させるように彼女の頭を優しく撫でる一刀。
「かずさま!」
両手を伸ばして真雪はそのまま一刀にしがみつき、我慢していたものを吐き出すかのように泣きながら彼の名前を何度も呼んだ。
「よく頑張ったね。でももう大丈夫だから」
京と同じように真雪を包み込んでいく一刀。
「俺が来たからもう真雪に苦労をさせないよ」
「かずさま……」
真雪は甘えるようにして一刀の温もりを全身で感じ、もう自分は怖い思いをしなくて済むのだと安心した。
「落ち着くまでこうしていてもいいでしゅか?」
「もちろん」
小さな身体は全身を使って安心できる場所へ埋まっていく。
「こうしていると安心するでしゅ」
「それはよかった」
一刀は真雪が安心してくれるのであればこのまま彼女が望む限り抱いておこうと思っていた。
「かずさま」
「うん?」
「子義ちゃんの怪我を見たでしゅか?」
「ああ。今はきちんと手当てさせているよ」
武勇に優れている京が重症を負うほどの激しさがあったのかと思うと山越の実力に振るえを覚えた。
「子義ちゃんは私を庇ったせいで怪我したのでしゅ」
「そうだったのか」
真雪は自分を見つけた山越兵に斬りかかられるところを京によって救われたが、今度はその京に対して山越兵が襲い掛かってきた。
普通であれば京の武勇をもってすれば重症を負うことなどないが、真雪を守りながらだったため友軍の兵士が駆け込んでくるまで傷つきながらも耐えた。
そして全身に切傷、刺傷などを負った。
自分がいなければそのようなことにならなかったと真雪は自分を責めた。
それを痛みに耐えながらも笑って許してくれた京。
悠里や一刀達が来るまで必死になって自分を守ってくれた京の傷を見るたびに胸が痛んでいた。
「私がいたせいで子義ちゃんが痛い思いをさせてしまいましたでしゅ」
警戒の隙を作ったのも自分のせいだと思い始めていた真雪。
一刀に抱きしめられることなど本来であれば望んではならないのに、それを否定することのできない自分の弱さを痛感している真雪に対して、一刀は何も言う事はなかった。
彼がしたことはただ優しく抱きしめるだけだった。
しばらくして一刀が腕の中で眠ってしまった真雪に膝枕をしていると華雄が入ってきた。
「おや、眠っておられるか」
「ああ。京が傷ついたり襲撃を受けたのは自分のせいだと思い詰めているんだ」
それを今すぐ癒すことはあえてしなかった。
その役目は自分ではなく京なのだと一刀は思っていた。
「それでどうかしたのか?」
「軍の配置、あと守備兵との交代を済ませてきました。ただ一つ気になることがあったので一刀様のご裁量をと」
「気になること?」
華雄は亞莎が風と共に事後処理に当たっている間に軽傷の守備兵から奇妙なことを聞かされた。
それは襲撃直前に閉まっていたはずの城門が開けられていたという。
閉めようとした時にはすでに山越兵がなだれ込んできたため迎撃に遅れ、大規模な損害を出した。
「城の中から手引きした奴がいるってことか」
それならば話が通じるが、京達の兵士は三千人、そして襲撃で数百人が殺され数百人が重軽傷を負っている。
二千人もの兵士から内通者を探すのは困難を極めていた。
「どうしたものかな」
こういうときに隠密活動に長けている思春や明命がいてくれたらと思った一刀だが、残念なことに二人とも居なかった。
そして死んでいるのか生きているのかわからないその内通者という存在が一刀達を悩ましていた。
「手引きした者はそれとなく探しておいてくれるか?」
「わかりました」
「それと風や亞莎達にもそのことは話しておいてくれ。くれぐれも兵士にはばれないようにな」
華雄は頷き真雪を起こさないように部屋を出て行った。
内通者がいることが明らかであれば、味方はお互いを疑い士気にも影響を与えかねないための配慮を一刀は忘れなかった。
「冥琳だったらどうするだろうか」
呉の大都督だった冥琳がここにいれば自分よりもいい考えを思いついているかもしれないと思った。
そんな彼女も今では一児の母であり、国政には関与することはなくなっていた。
この山越問題はもしかしたら大都督としての自分の力量を試されているのではないか。
自分から志願しておいてようやく立ちはだかる問題がいかに大きなものかをその身で感じ取っていた。
色々考えていると、再び誰かがノックをして部屋の中に入ってきた。
「一刀さん」
悠里を部屋に連れて行った葵が礼儀正しく入ってきた。
「悠里は?」
「ゆっくり休んでいます。一刀さんの命令だからって口では不満そうでしたけど、眠る前に感謝の言葉を言っていました」
「そうか。着て早々悪かったね」
「い、いいえ。私は一刀さんのお役に立つのであればなんだってします」
そして恥ずかしそうに「それに一刀さんのお嫁さんですから」と一刀に聞こえないようにつぶやいた。
「あ、し、失礼しました」
葵は真雪が眠っている事に気づき、少し声を大きくしてしまった事を反省した。
「葵ちゃん」
「は、はい」
「頼りにしているから」
思いもかけない言葉に葵はさらに顔を紅くしていき葵は喜びを表していく。
「でも、無理だけはしないでくれよ。命あってのことだからね」
「はい!」
命に代わるものなど何もないことを一刀はある人に教えられ、それを今、葵に教えていることに不思議な気持ちになっていく。
「それでは私は諸葛瑾さんのところへ戻っていますね」
「ああ。悠里が起きたらみんなで晩御飯を食べよう」
「はい」
嬉しそうに答えながら礼をして葵は部屋を出て行った。
夜になり主だった武将が会議室に当てられた部屋に集められた。
夕餉時、あえて山越の話題に触れずにそれなりに和やかな雰囲気で過ごした後、ようやく一刀は山越対策に乗り出した。
「しかし内通者がいるとすればこちらの動きが筒抜けですね」
亞莎も今の所、良策と呼べるものが何も思い浮かばなかった。
「でも、このままではまたいつ襲ってくるかわかりません」
兵力が増強されたとはいえ油断をすれば味方同士で斬りあうことになりかねないだけに、何としても対策を立てなければならなかった。
「こちらの兵力は負傷者を除いて二万五千。少なくはないのですがやはり油断はできません」
悠里の慎重さに誰もが頷いていた。
「真雪、山越の兵力はどれぐらいなんだ?」
眠りから覚めて少しは楽になったのか夕餉も残しながらも口にしていた真雪は落ち着いて答えた。
「把握している数だけで五万ほどはいると思いますでしゅ」
「こっちの倍かぁ」
だが把握し切れていないところをあわせるとまだ増えそうな予感が一刀にはあった。
そんな大兵力をたった三千で支えていたのだから、真雪と京がいかに優秀な武将かが誰から見てもそう思うことだった。
「でも山越っていっても一つにまとまっているわけじゃないんだよ」
包帯姿の京は山越の内情を説明した。
黄乱、尤突、潘臨、費桟などといったそれぞれの頭目がおり、外敵に対しては共同戦線を張り激しい抵抗を繰り返していた。
「つまり今はその四人が手を結び合って俺達に攻撃を仕掛けてきたということか」
「しかも手強いよ。武だってかなりのものだしね」
京の右目を奪ったのもその四人の中にいた。
「でもこっちにも負けないほどの武を持っているよ」
天下にその名を轟かせている恋と、この数年でそんな彼女に匹敵するほどの武を磨き上げている華雄、五胡で鍛えあげられた武を持つ葵がいる。
「それでも油断すれば負ける」
こちらの情報が漏れているかもしれない状況の中で少しの余裕を見せる一刀に京は嗜めた。
「旦那だってあいつ等の姿を見ればそんなこといっていられないよ」
「そうだな」
二人が無事だとわかっただけで安心していた一刀は怒りが収まっていくと、気持ちが緩やかになっていた。
「それよりもこれからどうするのですか?」
風は眠そうな表情で話を進めるように一刀に問う。
「兵力でも負けている、内通者がいる可能性もある、今のところは打つ手なしだな」
「「「「「え?」」」」」
その場にいた全員が自分の耳を疑うように一刀のほうを見る。
「おや、お兄さんらしくもない弱気ですね~」
別に非難をしているわけではない風に一刀は笑って見せた。
「仕方ないだろう。こうも動きを封じられたんじゃあどうしようもない」
「だからといって何もしないとはどういうことなのですか?」
亞莎には一刀の考えている事が理解できなかった。
早く対策を練らなければさらに状況は悪くなることぐらい一刀はわかっているはずだと視線をぶつけていく面々に、風だけはなぜか卓上の地図を見ていた。
「一刀くん、何もしなければそれだけ山越の思うがままに踊らされるだけでですよ」
「そうだね」
「ここにきて怖気付いたのですか、このへぼ主人め」
「確かにそうかもしれないね」
悠里や音々音の弱腰に対する非難を一刀は軽く受け流しているように見えた。
「だからこそ何も出来ないんだよ」
「それでは遠征した意味がありません」
「そうだね。だからこそ今はこのままでいよう」
何も手を打たない一刀に不満な表情を向けていく面々。
「今日の軍議はこれまでにしようか」
自分から始めた軍議を自分から終わらせる一刀はそれだけを言い残して部屋を出て行った。
「どうしたのでしょうか……」
あまりに豹変した一刀の態度に表情を曇らせる亞莎。
「一刀くんらしくないですね」
「やっぱり怖気付いたのですよ、あのヘボ主人は」
悠里も音々音も一刀の様子に対してそれぞれの意見を吐き出していく。
「そんなことないでしゅ!」
彼女達に対して真雪は大きな声を上げた。
「かずさまには何か考えがあるでしゅ。きっとそうでしゅ」
「子敬さん」
「子義ちゃんだってかずさまのことを信じているはずでしゅ」
京は真雪に言われるまでもなく一刀を信じていたからこそ、彼の態度に僅かばかりの不安を覚えた。
「まぁまぁ、今はお兄さんも思っていた以上に山越が強敵だと気づいて策を練り直しているのですよ。だからしばらくはお兄さんの言うとおりにしておきましょう」
今回の遠征軍副都督に風は蓮華から任命されたため、一刀に次ぐ上官になっていた。
「そうですね、。ここまでだとは旦那様も思っていらっしゃらなかったみたいですし」
亞莎はそう自分を納得させる。
「私達は一刀くんの指揮に従うのが筋。最低限の防衛だけをして今は様子を見ていましょう」
悠里の言葉に誰もが頷いた。
「子敬さん」
悠里は自分より小さな身体で年上の真雪の前で膝を折り、不満を一刀に漏らした事を反省した。
「子敬さんの言われるとおり、私達が信じなければいけませんね」
「子瑜ちゃん……」
二人はお互いの手を取り合い頷きあった。
「ところで風様」
「はいはい?」
その様子を見ていた亞莎は風がこの状況に置いて冷静さを保っていた事に気づいた。
「風様は旦那様の様子がおかしいとお気づきのはずですよね?」
「おかしいですか?」
「え?」
「風にはいつもどおりのお兄さんにしか見えませんでしたよ」
眠たそうに口元に手を当てて亞莎を見上げる風。
「さてさて、風も長旅で疲れてしまいました。皆さんも今日はもう休みましょう」
これ以上の詮索は無用と言わんばかりに風は目を擦りながらゆっくりと部屋を出て行った。
「私も少し仮眠をとってくる」
「恋も寝る」
華雄と恋も部屋を出て行き、
「恋殿~。ねねもお供いたしますぞ」
音々音も恋の後を追うように出て行った。
「子敬さん、オイラ達も休もう」
「はいでしゅ……」
二人も残された三人に礼をとり部屋を出て行った。
「はぁ」
悠里は椅子に座り用意されていたお茶を一口飲んだ。
「亞莎さん、一刀くんの態度をどう思いますか?」
「わかりません。風様はわかっているみたいですが」
自分達には理解できない事をしようとしているのか、それとも本当に弱腰になってしまったのか、彼女達には理解できなかった。
「葵さんは何か言われましたか?」
「いえ、私は諸葛瑾さん「悠里でいいですよ」悠里さんをお守りするよう仰せつかっただけで他は何も」
三人は結局、何杯かお茶を酌み交わしてその夜はゆっくりと休むことにした。
部屋を出た一刀は自分の部屋に戻って灯りをつけないまま寝台に倒れこんだ。
「やれやれ」
ため息ばかりがこぼれていく。
「お兄さん」
「うん?」
いつしか部屋の中に入っていた風は寝台の上に座って、寝転がっている一刀の髪を小さな手でゆっくりと撫でていく。
「風はお兄さんのすることに従いますよ」
「そっか」
「はい。だからお兄さんのしたいようにしてください」
「ありがとう、風」
手を伸ばして彼女の頭を撫でると、それを待っていたかのように風は身体を一刀の方へ倒していく。
「今日は風が傍にいてあげますよ」
寝台の上で二人は寄り添っていく。
「やはりお兄さんの腕に抱かれるのは何よりも心地がよいですね」
「風は子供を産んでも結局、体型が変わらなかったな」
まるで成長が止まったかのように風は背が伸びる事も胸が大きくなる事もなかった。
そして華琳によって切られた髪も五年が過ぎてなお、肩でそろえておりそれ以上は伸ばそうとしなかった。
「お兄さんは風が雪蓮さんのようになったら喜びますか?」
雪蓮と同じ体型の風を想像する。
肩でそろえた髪に半分眠っている目。
それでいてミニスカートに白のブラウスに豊かな胸。
もちろん頭には宝慧が付いている。
「嬉しい……かな?」
「おやおや、困ったお兄さんですね」
一刀の性格を熟知しているように風は呆れる様子はなかった。
そういう彼を好きになり、愛し、そして愛娘を授かった。
「風」
「はいはい?」
「風にだけは教えておきたいことがあるんだ」
「風にだけですか?」
誰でもない自分にだけ教えられる何かに風は胸を弾ませる。
「うん。風にしかできないことだ。でも、無理を押し付けることだから嫌なら忘れてくれ」
風が予想していたのとは違う気がしてきた。
だが拒絶することなど考える余地もなかった。
「いいですよ。お兄さんに身も心も捧げた風です。お兄さんのお願いはどんなことでも叶えてあげますよ」
そうすればまたこうして抱きしめてくれる。
風の言葉に偽りがないことを確認して一刀はあることを彼女の耳元で囁いた。
しばらくして半分眠っていた目が大きく見開いていく風は思わず手で一刀の制服を強く握っていった。
それでも決して耳から聞こえてくる一刀の言葉を一言も聞き漏らすことなく最後まで聞いた風は初めて自分の中に恐怖というものを感じた。
「お兄さん」
「なんだ?」
「風でなくてはならない理由を教えてもらえますか?」
震えていることに気づいた一刀は風の小さな身体を少し強く抱きしめた。
「亞莎や悠里、それにねねだと今回のことは余りにも負担が大きすぎてすぐに顔に出かねない」
「おや、それではまるで風は感情のないお人形さんですか?」
「そんなことは思ってない。でも、ちょっとやそっとでは動じない風が一番適任だってことだよ」
一刀は自分よりも冷静な判断ができるであろうと判断した結果、風をおいて話した内容を上手く理解できる者はいないと思っていた。
「それでもダメかな?」
無理であれば別の手を考えなければならなかったが、一刀からすれば風が了承してくれることを望んでいた。
「お兄さん」
「なんだ?」
「風は悪者になればいいのですね」
「……結果的にはそうなるかもしれない」
「やれやれですね」
風は呆れるようにため息を漏らす。
「それに風は何でも聞いてくれるんだろう?」
自分の話したことははっきりいえば支離滅裂なことだと自覚している一刀だが、彼は彼なりに考えた末のことだった。
「……お兄さんは意地悪ですね」
「まあね」
「でも……風は約束してしまいましたから、お兄さんの言うとおりにしますよ」
「悪い。上手くいったら風のお願いを何でも聞いてあげるよ」
一刀は自分の無理な願いを聞いてくれた代わりにそれに匹敵するほどの願いを叶えると約束をしてきた。
「わかりました。ではそのお願いは無事に終わった時に言いますよ」
それだけを言い残って風は眠たそうな目を完全に閉じて夢の中に意識を手放していった
同じ頃。
真雪が眠ると京は傷ついた身体を椅子に座らせてお茶を飲んでいた。
「まだ起きているのか?」
「あんたも一杯どう?お茶だけどね」
部屋の片隅で床に座って背を壁にもたれさせていた華雄は京の言葉を受け入れ椅子に座った。
「悪いね、護衛なんてさせてさ」
「気にするな。一刀様から仰せつかったことだ」
京から手渡された杯にお茶を注がれ、一口飲んでいく。
「それよりも起きていると傷に障るぞ?」
華雄から見ても今の京は疲労感に満ちていた。
「オイラはこれぐらいでへこたれないよ。それに夜までぐっすり眠ったおかげでだいぶ楽になったよ」
「そうは見えないが、お前がそういうのであればそういうことにしておこう」
「悪いね」
京は華雄の好意に感謝して空になった杯にお茶を注いでいく。
お互いに目を閉じて黙ったまま、時だけが過ぎていく。
「なぁ、あんたは守りたいものはある?」
「守りたいもの?当たり前だ」
「じゃあその守りたいものが目のまでなくなったらどうする?」
お茶に写る自分の姿を京は眺めながら続けた。
「オイラは……いやオイラ達は目の前で大切な人を失ったんだ」
「そうか」
だからなんだといわんばかりに華雄は素っ気無く答える。
「守らなきゃって思った人を守れなかった。だから誓ったんだ。もう二度と大切な人を失わないと」
「それが魯粛か」
華雄の指摘に京は頷き寝台で眠っている真雪を眺めた。
「子敬さんは優しい人だよ。あの人は豊かな家に生まれながらも苦しんでいる人を助けたりしていたんだ」
貧しい者に自分の家の蔵を開けて食料を無償で提供したり、病人を見つけては薬を与えたりしており、周りからはその恩を感じる者が多くいた。
「でも、それは子敬さん個人がしていることで、家族からは冷たく見られていたんだ」
誰にでも手を差し伸べればそれに無条件ですがり、欲を覚えた者は彼女に要求するようになっていった。
結果、魯家の蔵は底をつき、家族からも気が狂っていると言われた真雪は自分の行いが間違っているのか自問していた。
「オイラも初めてそんな子敬さんの行動を知った時、あの人のやっていることに意味があるのかって思ったよ」
「すがることしか知らない者に与えるしかなければそう思うのが当然だろう」
華雄も同じ気持ちだった。
「オイラは仕官してきた子敬さんに聞いたんだ。『どうして何もしないですがることしかしない者に与えるのか』ってね」
「それで?」
「困っている人を見たら放っては置けないだそうだよ」
京からすればそれはただ単に自己犠牲をしているだけではないかと問い返すと真雪は、
「それでも困っている人を助けたいでしゅ」
と答えた。
「お人好しだな」
華雄は自分の仕えていた、もしくは今仕えている主君もそれに該当すると思い苦笑する。
「でも一緒にいると子敬さんの優しさがよく分かったよ。この人は心の底から他人を心配してくれているってね」
「だからオイラはどんなことがあっても子敬さんだけは守るって決めたんだ」
人の優しさを知った京は真雪と共に行動し、彼女を守ることを自分の信念としていることを華雄に話すと満足そうに笑みを浮かべた。
「旦那はいい男だね。オイラ達を救ってくれるかもしれないから」
「救う?」
その言葉に華雄は妙なものを感じたが、それが何か分からないままだった。
「それよりも一献どうだい?」
立ち上がった京は音を立てないように戸棚を開けてそこから酒瓶を取り出した。
「けが人が呑んでいいのか?」
「酒は百薬の長だっけ。呑んだらこんな傷すぐに治るさ」
「お前な……」
そう言いつつも酒が気になったのか華雄はお茶を一気に飲み干していく。
「一杯だけだぞ」
「わかってるって」
空になった杯に酒を注いでいく。
「なぁ華雄」
「なんだ?」
「オイラ達は勝てるかな」
不安を口にしたくなるほど京は山越の実力を思い知らされた。
「勝つ以外に何かあるのか?」
華雄は自分達が負けるとは微塵も思っていないのか、彼女なりのあっさりとした答えを言った。
京はそれを聞いて声をかみ締めながら笑った。
「なんだ?」
「いや、噂どおりのまっすぐなものの言い方だなって思っただけ」
「なんだそれ」
不満そうに華雄は一杯の酒を流し込んでいった。
誰もが寝静まった深夜。
一刀の宿舎を警護していた兵士が声を上げることなく倒れていった。
「なんだ、呉の精兵だって聞いたけど大したことないわね」
滴り落ちる紅い雫を振り払いながら長身の女は呆れていた。
「頭」
その彼女の周りにいつしか屈強の男達が十人ほど集まっていた。
月に照らされたその姿は呉の兵士の鎧を身に纏っていた山越の兵士だった。
「全員いるわね?」
「はっ」
「なら天の御遣いとやらの首を頂きにいくわよ」
ゆっくりと門を開けていく女。
だがそこに誰かが立っていることに気づき手を止めた。
「……誰?」
彼女達の前に立っていたのは恋だった。
それも手には方天画戟を握り締めており、始めから臨戦態勢をとっていた。
「ちっ。見られたからには生かしておけないわね」
女の合図で男達はその肉体に似合わないほど軽快に動き恋の周りを囲んだ。
腰から剣を引き抜き恋に向かってその刃を向けるが、恋はそれに動じることなどまったくなく、ただ女の方を見ていた。
「やりな」
女の命令を受けて男達は一斉に恋に向かっていく。
「……お前達、敵?」
自分に刃を向けてくることで敵と認識した恋は方天画戟を強く握り締め、正面から突っ込んでくる男の刃を当たる直前で避け、片手で男の顔面を鷲づかみにした。
「がっ!」
「……お前達、誰?」
必死にあがく男の鳩尾に方天画戟の柄をお見舞いして黙らせた恋は男を放り投げて、再び女の方を見る。
「誰って聞かれて正直に答える馬鹿はいないわよ」
怯んでいた男達は再び恋に向かっていく。
「なら敵」
短く答えた恋は向かってくる男達の方を見ることなく、ただ片手で方天画戟を女の方へ向けてゆっくりと膝を折っていく。
「もらった!」
一人の男が恋の死角を突き、笑みを浮かべながら刃を振り下ろした瞬間、一陣の風が男を掠めていった。
恋は何事もなかったように次の男の向かって方天画戟を下から上へ振り上げた。
「お前達、弱い」
ゆっくりと膝を伸ばしていき、三度、女の方を見た。
二人の男は何が起こったのかわからないまま地に伏せていく。
残った男達は動きを止め、自分達が斬りつけようとしていた相手を見る。
「ご主人さまの敵は恋の敵」
静かに闘気を高めていく恋に男達はそれが危険なものだと察知して間合いを取っていく。
「へぇ~やるじゃない」
恋に恐れることなく女は剣を構えた。
「呉にもこんな奴がいたんだね」
そう言って女は笑みを浮かべた。
「!?」
恋はそれに気づいた時にはすでに女は視界から消えていた。
そして自分の後ろから殺気を感じ振り向くことなく方天画戟を頭の上で構えて一撃を受け止めた。
重い一撃に恋は驚くと、
「いいね。このアタシの動きに反応できるなんて凄いじゃない」
女は嬉しそうに恋の反撃に反応して距離をとる。
「でもまだアタシの方が強いわよ」
今度は真正面から突っ込んでいく女に恋は方天画戟を突き出していく。
「遅いわよ」
女は軽々しく恋の一撃を避けると、彼女の懐に飛び込んで左手に持ち替えた剣を胸に目掛けて突き出した。
「これで終わりよ」
だが、女が望んだ結末はやってこなかった。
女が見たものは左手で刃を掴んで止めていた恋の姿だった。
「ばかな……」
手のひらは刃で斬れて血が滴り落ちていく。
「お前、少しだけ強い」
恋は握っていた刃をそのまま力任せに握って砕いた。
手のひらは真っ赤に染まっていたがまったく気にすることもなく恋は女を見下ろしてこう言った。
「でも恋の方が強い」
その言葉と同時に女の首筋に方天画戟の柄を叩きつけた。
「なっ……!」
意識を飛ばすほどの一撃に女は成す術なく地に堕ちた。
「か、頭!」
男達が助けだそうとする前に、周りが騒がしくなってきたため自分達の頭を残して止む終えず逃亡を図った。
「何事だ!」
兵士が門の外から入ってくると恋の姿と地に転がっている四人を見つけた。
「これは呂布将軍。一体何事ですか?」
兵士の問いに恋は答えることなく地に転がっている女を見下ろしていた。
「どうしたんだ!」
宿舎から一刀達が出てくると、恋はゆっくりと一刀の前に歩いていった。
「ご主人さま」
「恋、どうしたんだ?」
「ご主人さまを狙っていた」
一刀は恋からこの四人が賊であることを告げた。
「山越か……」
四人のうち二人はすでに息絶えており、残りの二人、とりわけ女の方を見て一刀よりも京の方が驚いた。
「京、誰か知っているのか?」
「こいつは……潘臨」
「はんりん?」
「山越の頭の一人だよ」
まさかの出来事に一刀達は驚きを隠せないでいた。
「凄いじゃないか、恋」
一刀はてを握ると恋は僅かに痛みを覚えた。
「恋?」
「大丈夫」
一刀が手を離すとそこには赤く染まった自分の手があった。
「怪我しているじゃないか」
恋の手首を掴んで目の前に上げると、赤く染まっている手のひらを見つけた。
「大丈夫」
「どこがだ。すぐに治療するからな」
手首を掴んだまま一刀は恋を引きずるようにして宿舎に入っていった。
恋は大丈夫と言いながらも一刀に掴まれた手首を振りほどくことなく素直についていった。
「こいつは重要人物だから監視はしっかりつけておいてくれ」
「はっ」
残された京達は捕虜と死体の処置を兵士に命令して自分達の部屋に戻っていった。
「またしても侵入を許してしまった……」
京は悔しく思いながらも、恋がいてくれたことに感謝していた。
「明日、もう一度、調べた方がいいな」
隣を歩いていた華雄にそう言われ、重傷の身ながらそれを行おうと京は思った。
「やるのは私だ。お前は傷を治すのが仕事だろう?」
華雄は京の考えを珍しく見抜いた。
「もし勝手に動いたら一刀様に報告するからな」
そう言って華雄は京の行動を制限した。
「まったく無茶しやがって」
恋の手当てをしながら一刀は呆れていた。
「でもご主人さま守れた」
一刀を守れたことが嬉しいのか恋は自分の怪我など気にしていなかった。
「あのな、恋が傷ついたら俺は嫌なんだぞ」
「そうですよ~恋ちゃん。お兄さんは風達が傷つくのを一番嫌っていますか気をつけてくださいね」
夜着を羽織って恋にお茶を淹れる風。
「ごめんなさい」
恋は悲しそうな表情を浮かべ、それを見た一刀は彼女の手に包帯を巻き終えると真紅の髪を撫でた。
戦では鬼神のような強さを誇る恋は一刀の前ではその面影などどこにも見当たらなかった。
「もういいよ。恋は俺を守ってくれた。十分嬉しいよ」
ぎゅっと抱きしめると恋は頬を紅く染めて一刀の背中に手を回した。
「ご主人さま、好き」
「俺も大好きだよ」
「風も大好きですよ」
一刀は風がいることを思い出して慌てて恋を離すと、恋は少し残念そうに彼を見た。
「まぁなんだ。もう二度と無茶はしないでくれよ」
「うん」
恋は一刀の言葉にはどこまでも従順だった。
彼に抱きしめられること、頭を撫でられること、一緒にご飯を食べること、その全てが彼女を幸せにさせていた。
「セキトだって傷ついた恋を心配するからな」
「うん。もう傷つかない」
恋は約束をすると今度は自分から一刀に抱きつき、彼の唇に自分の唇を重ねた。
「れ、恋?」
「ご主人さまは恋が守る」
「うん。期待しているよ」
それを聞いて恋は柔らかな笑みを浮かべ、そして一刀から離れて部屋を出て行った。
「いい子ですね、恋ちゃんは」
「そうだな」
一刀と風はお茶を飲み、眠気が再びやってきたので寝台に戻った。
「お兄さん」
「うん?」
「風もお兄さんを守りますから」
「おう、ありがとうな」
一刀は風の髪をくしゃくしゃと撫でた。
その頃、雪蓮は荊州にいた。
「というわけなの。協力してくれるかしら?」
三国会議室で雪蓮はそこにいた魏、蜀の特使達に話をしていた。
「わかりました。可能な限りのことを華琳様に上申してみます」
稟は雪蓮の話を受け入れることを約束した。
「そうですね。私も桃香様にすぐにお伝えいたします」
紫苑も承諾したことで雪蓮は二人に礼を言った。
「これが最後の戦になることは間違いないわ。本当なら私達で解決しなければならないことなのに、魏や蜀に頼むのは正直、悩んだわ」
「何をおっしゃいます。今は三国が協力しあっていくことが大切です」
「そうですよ。私達が出来ることがあれば何でも言ってください」
もはや自分達は国を超えた友情で結ばれているのだから遠慮など不要だと二人は雪蓮に言った。
「ありがとう。それじゃあついでにお願いがあるんだけどいいかしら♪」
ひどくおかしそうに雪蓮が笑顔を見せると、二人はその願いを聞いて唖然とした。
「わかりました。そのように手配をいたします」
なんとか納得する稟に雪蓮は嬉しそうに頷いた。
「でもそこまでする必要があるのですか?」
紫苑からすればあまりにも大きすぎる出来事にやり過ぎではないかと雪蓮に問う。
「ダメよ。これぐらいしなければ解決できないわ。それに……」
「それに?」
「……なんでもないわ。それよりもしっかりお願いね」
「「はい」」
二人は雪蓮の提示したものをそれぞれの主君に伝えるために伝令をすぐさま用意して走らせた。
一人残された雪蓮は腰にさげている剣、倚天の剣を鞘から抜き掲げた。
「一刀。待っていてね」
すでに京達が襲われたことは明命から知らされていた雪蓮は胸騒ぎを覚えていた。
何か悪いことが起こるかもしれないといつもの女の勘が雪蓮に警鐘を鳴らしていた。
「明命」
「はい」
雪蓮の後ろに現れた明命。
「山越の動きはしっかり掴んでおきなさいね」
「わかりました」
明命は雪蓮の命で動いていることは蓮華すら知らないことだった。
(全ては一刀が無事に戻ってこられるためよ)
だが雪蓮ですら予想を超える出来事が一刀に襲い掛かるとはこの時、思いもしなかった。
(座談)
水無月:夏はダメですね~。
穏 :おや、どうかしたのですか?
水無月:夏バテした挙句に少し風邪を引いてしまいまた。
亞莎 :夏風邪は厄介ですから早めの治療をお勧めします。
水無月:そうですね~。
冥琳 :ところで、今年は海に行ったのかしら?
水無月:一人で人がたくさんいる海に行っても仕方ないですよ?
穏 :カキ氷を食べるといいですよ
水無月:食べましたよ~。そう一人で……orz
冥琳 :まぁそのうちいい人が現れるわよ。
水無月:ですかね。まぁ今はこの作品を完成させるほうが重要です。ということで次回も山越編第三話です。いよいよ山越の蠢動が始まります。
穏 :暑さに負けないで皆さんもがんばって生きましょうね~。
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一週間ぶりの更新です。
少し体調不良なので療養しながら書いていました。
山越編第二話ですが、今回もまた長くなりました。
(もちろんねらってですけど 爆)
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