No.900561

SAO~帰還者の回想録~ 第1想 形成・桐ヶ谷和人

本郷 刃さん

意識を失った和人、眼を開けばそこは見慣れぬ空間
和人は一体どこに来てしまったのか・・・

2017-04-09 13:49:32 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7074   閲覧ユーザー数:6652

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第1想 形成・桐ヶ谷和人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

〈さて、ここは何処なんだろうな?〉

 

目を覚ませば、というよりも気が付いたら一面が暗闇のような場所に居た。

言葉を発してみたけど本当に言葉になっているのか分からないような感覚、

もしかしたら言葉にならず発したような感覚だけなのかもしれない。

結局のところはよく分からない。

 

〈分かっているのは服が家でよく着ている部屋着だということだけか〉

 

まぁ実を言うとこの空間の大体の見当は付いているが、確証が得られないだけだ。

 

 

 

うん? そういえば、空間が明るくなってきて……いや、景色も変わっていく。

 

〈これは、街か……それに人まで…〉

 

空間の精密度、それに形成のされ方からしてここがどういう場所なのかはもう確証を得た。

だが、どういった理由でこんなことがされているのかは完全に把握できないな。

その時、俺が見ている正面の交差点、その横断歩道で信号の色が変わるのを待っている一組の家族に視線が止まった。

赤ん坊を抱いている母親とその隣に立つ父親、その赤ん坊の両親が俺の知る人達だ。

 

〈父さん、母さん…〉

 

その二人は俺の両親。今の両親である桐ヶ谷峰嵩と桐ヶ谷翠ではなく、俺の実の両親だ。

何度も写真で見たことがあるし、母さんは翠さん(母さん)の姉なので姉妹らしい似通った、というか面影があるのは感じていた。

つまり、あの赤ん坊が俺ということになる…。

 

そうなると、何故この光景が現れて、見たことがないはずの状況をこうして見ているのか疑問になる。

いや、待て、見たことがあるような気がする。

そうだ思い出した、親父と母さんと景一のご両親に協力してもらって、当時の事故(・・・)の様子が映った監視カメラ映像を見た時だ。

その時、現場に居合わせた目撃者の証言も聞いたんだ。

 

〈なら、この後は…〉

 

思わず呟くように出た言葉の後、信号の色が切り替わって周囲の動きが変わる。

歩き、走行していた人や車は動きを止め、逆に止まっていた人や車は動き出した。

それに気付いた両親も横断歩道を渡り始めたが、その奥から猛スピードで迫るトラックに俺は気が付いた。

実際には気付いたんじゃなく“知っていた”ということだが、

この後どうなるかを知っていても、両手を握りしめずにはいられなかった。

 

突き進んでいくトラックはそのスピードを緩めることなく、見ていた家族を吹き飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁっ!?」

「人が、轢かれたぞっ!?」

「警察と救急車を!」

 

響き渡る悲鳴と怒号、俺の足元で血塗れのまま横たわる両親、二人の腕の中で泣いている赤ん坊の俺(・・・・・)

これは過去のことで、既に終わったことで、どうしようもないことなのは分かっている。

それでも、ただ見ているだけしか出来ないことは辛い。

そう思っていたら、両親の眼が開いた。

 

「和人は…無事、かい…?」

「うん。かすり、傷……だけね…良、かった…」

「そうか……ごめん、キミを守れ……なく、て…」

「いい、の……それ、に…謝るの、は…かず君に、よ…」

「そう、だ…ね……わるい、おとうさん…で、ごめんな……かずと…」

「ごめん、ね……おかあさん、も……いっしょ…いられ、なく……て…」

 

限界だろうに、もう喋るのもきついはずなのに、それでも残った(・・・)に言葉を掛けてくれることに、景色が滲む。

手当をしようとする周囲の人を遮り、そのまま言葉を続けていく。

 

「げんきに、そだって……おかあさん、から…それ、だけ…」

「おとう、さん…は……たいせつ、な…ひと……まもれる、ように…つよく……だ…」

「あと……ひとつ、だけ……ね、あなた…」

「あぁ、そ……だな…」

「「愛してるよ、和人(かず君)…」」

 

その言葉、遺言を最後に二人は目を閉じて、動かなくなった。

救急車が到着し、二人の心臓マッサージと応急手当を行いながら病院へ向かっていき、

当時の俺も救急隊員に抱えられてから別の救急車で運ばれていった。

生まれてまだ数ヵ月の当時の俺、それでも……父さんと母さんは確かに俺にたくさんの愛情を注いでくれていた。

いまここには俺以外誰もいない、だから今だけは…、

 

〈くっ……う、ぁ……っっっっっ!!!〉

 

俺は泣くことにした。

 

 

 

どれくらい泣いたかは分からない。

数分だったのか数十分か、もしかしたらそれ以上か、とにかく俺はようやく落ち着くことが出来た。

そして思ったのは両親の言葉、母さんの「元気に育って」という願いには現状を除けば報いることが出来ているし、

父さんの「大切な人を守れるように強く」という願いも叶えることが出来ている。

だが現状は母さんの願いを叶えられていない。

間違いなく、明日奈とユイやみんなに心配されて、悲しませてしまっているはずだ。

 

だが、分かったこともある。

いまの状況についてはようやく仮説が出来た、こうなるに至った経緯である出来事も全て思い出したからな。

俺はPoHの、ヴァサゴ・カザルスの襲撃を受け、罠に嵌められて重傷を負い、意識を失った。

その意識の欠落は恐らくだが死に瀕しかねないものであり、この空間内で意識があるにも関わらず目を覚ましていないこと。

だが、夢であるならばともかく俺はハッキリとした意識の許この場所に居る、それはつまりここが人工的な場所であり、

これは夢ではなく俺の記憶や情報やデータを基に再現されたVR空間であるということだ。

あくまで俺自身の記憶・情報・データ・記録を基に再現されていることもあるはずだが、

それでも先程の事故や遣り取りに大きな差はない。

 

それらを踏まえて、これを行えるのは『RATH(ラース)』の『ソウル・トランスレーター(STL)』のみであり、

俺の負傷具合を考えると復旧した『オーシャン・タートル』にて行われている可能性が一番高いな。

なら、これは俺の意識を覚醒させるため、あるいはこの状態からさらに悪化させないための処置だと考えるのが妥当か。

特に自身の過去、または大切なものというのは意識を刺激するのに良いものだと思う。

 

今回のこれは監視カメラ映像や証言等の情報を取り込んだことによって出来たものだろう。

 

〈しかし、まるで走馬灯のようだ〉

 

そう言わずにはいられないな。

人が死に際に自身の人生の色々な情景を見るさまを“走馬灯のように”というし。

 

〈だが、走馬灯なんかにするつもりは毛頭無いけどな…〉

 

あぁ、死ぬつもりはない、死んでやるものか。

今回の負傷やみんなへ心配を掛けたことがこれまでの所業の報いだと言うのなら甘んじて受けてやるが、生憎と死だけは受け入れてやれない。

必ず起きると明日奈に言葉を残した、約束は守らないといけないからな。

周囲の景色も既に無くなり、思考の海に入りこんでいた俺は顔を上げる。

 

〈え…〉

 

そこで少し離れた前に二人の男女が立っていることに気付いた。

微笑んでいて、愛情に満ちた眼差しを向けている。

きっと俺がそう望んだからかもしれないけど、それでも俺は応え、答えるべきだと思った。

 

〈俺は、大丈夫だよ。愛する人も愛する娘も、家族も親友も、友達も仲間もいる。みんなに助けてもらって生きてる。

 独りだと思い込んでた時とは違う、ちゃんと自信を持って大切だって言える人達と生きてる。

 だから、俺はみんなと前に進むよ……俺を守ってくれて、ありがとう。さようなら、父さん、母さん〉

 

心の底からの言葉で答えると、二人は笑みをより深くしてその姿を薄くし、消えていった。

 

さぁ、次へ行こう…。

 

 

 

 

景色が変化していき、時代は赤ん坊の頃から一気に物心がついたと思われる4,5歳頃に変わった。

いまの両親、峰嵩さん(親父)翠さん(母さん)、それに従妹にして義妹である直葉、今は亡き祖父母との生活になっている。

 

どうやらこの情景には条件があり、

意識がある・正確に記憶か記録をしている・何かしらの情報やデータを持つ・記録媒体からSTLに移されている、などがあるようだ。

実際に人は3歳までの記憶はほとんど持たずに消してしまい、4歳頃からようやく記憶を持ち始めるというのを調べたことがある。

それでも年齢を重ねると共に忘れていくこともあるが、

未だに解明されていない脳の不思議というところか稀に思い出すことや懐かしさを感じることなどが上げられるな。

 

いや、今はその話しは閑話休題(置いといて)…。

 

血の繋がりなど疑問に思わず、それなりに子供らしい子供として成長し、生活していく幼少期の俺。

両親は共働きで俺と直葉は最初こそ保育園に入園していたが、

それぞれが5歳になると保育園をやめて幼稚園に変わり、祖父母に面倒を見てもらうようになっていた。

当時こそ理由は解らなかったし、いまの年齢になってもしや待機児童問題だったのかと思ったりもしたが、

単純に学校に通うようになるなら幼稚園の方がいいだろうということを知った時は脱力した。

時折、僅かに覚えている当時の出来事に懐かしさを覚え、

幼少期特有の恥ずかしい失態に赤面してしまうこともあったが、こうして見ると笑みが零れる。

 

それに5歳の頃といえば幼稚園でアイツと、十六夜志郎と出会った。

ムードメーカーで人気者、人懐っこいし当時の年少組だった俺達とも遊んでくれて、

さらに家が割と近いこともあってよく遊ぶようになったな。

 

「おぉ、和人のいえ、池があるんだな!」

「さかなもいるんだよ、志郎兄ちゃん!」

「ホントだ!」

 

そうだった、当時は志郎のことをそう呼んでいたっけ。何時から俺はいまのように生意気になったのやら。

それに志郎が卒園して俺が6歳になる年、直葉が幼稚園の年少組に入園してきた。

 

彼女が同じ組になり、ご近所の男の子である月乃刻を連れてきたのも覚えている。

 

「お兄ちゃん、この子おなじ組の刻君!」

「月乃刻っす! よろしくおねがいしまっす!」

「おれ、和人! よろしくな、刻!」

「はいっす、和人兄ちゃん!」

 

あぁそうだ、刻も最初は俺のことを兄と呼んでいたな。こうして見ると大変微笑ましい。

だが、この頃はまだ仲が良い程度で親密というほどじゃなかった。

 

それに変化が起き始めたのはこの後だったな。

6歳の頃に入って、俺が母さんのジャンクパーツを使い自作のメカを作った。

当時は多分だが工作感覚だったと思うけど…。

 

「お母さん!」

「あら。どうしたの、和人」

「これ、お母さんがいらないって言ってたものでつくった!」

「これを、和人が? そういえば静かに何かしてると思ったら、そういうこと…それにしても、よく出来てるじゃない。

 ここがこうで、あれがああで、ふんふん…凄いじゃない、和人! さすがは私の息子!」

「へへぇ~ん!」

 

母さんは血が繋がっていなくても自分に似たことを喜んでくれて、そんな母さんの姿に幼少期の俺は喜んで胸を張っている。

 

「ねぇ見て、これ和人が作ったのよ!」

「これを和人が? よく出来てるなぁ、器用なものじゃないか」

「おにいちゃん、すご~い!」

「そうね、お兄ちゃんは凄いわね」

「ふむ、こういうことなら子供の内から興味を持ってくれるかもしれない…」

 

親父は感心していて、よく分かっていない当時の直葉は「凄い凄い」と言っていて、

祖母ちゃんは直葉のように凄いと言ってくれて、祖父さんは何かを考え付いたようだったのはきっと剣道のことだろう。

懐かしい、それにこういうことがあったなという思いになる。

 

だがこの後、いや……もうこの時から俺は異質になり始めていたのかもしれない…。

 

 

 

 

さらに時間が進み、当時の俺が幼稚園を卒園して、入学式を経て小学生を迎えた。

そして場所は自宅の剣道場に移り変わり、俺の服も部屋着から剣道着へと変化した。

 

「和人、今日からお前に剣道を教えることになった」

「“けんどう”って、お祖父ちゃんがやってる木の剣でしょうぶするやつだよね?」

「うむ、勝負だけが剣道ではないが大体その通りだ。どうする、やるか?」

「うん、やってみる!」

「よし。ではまずは剣道の基本である礼儀と作法、それに道具を教えよう」

 

祖父さんは表情を崩さず、けれどその声音には嬉しそうなものが含まれている。

 

そこから始まっていく当時の俺の小学1年生と剣道、趣味の機械弄りの生活。

新しい環境である学校で友達もでき、同じ地区に住んでいて幼稚園からの付き合いである志郎とも学校行事や偶に会うことはあって、

始めたばかりの剣道や母さんから機械やゲームのことを教えてもらったりと、楽しい生活を謳歌していく小学1年生の俺。

 

けれど、時間の経過と共に表情に翳りができていく。

祖父さんから受ける剣道の厳しい練習、趣味や友達と遊ぶことの楽しさとの比較により、剣道への楽しさをすり減らしている。

そして当時の俺と祖父さんの間に溝が出来、ついには剣道に辛さを覚え始めた。

ただ、父さんと母さんが言っていた通り、厳格で不器用だった祖父さんはただ俺との繋がりを求めていただけだということは改めて伝わった。

でも、幼い頃の俺にそれが理解できることはなかった。

 

とある日曜日の夕方、幼い俺が剣道の練習から逃げて辿り着いたのは少し離れたところにある大きな公園で、

剣道着のままブランコに座っている。

そんな幼少の俺に近づいてくる人物。

覚えている、この時こそ全ての始まりだったんだ…。

 

「道着を着て公園に居るとは、キミは迷子ですか?」

 

落ち込んでいるような、または泣きそうな雰囲気と表情を浮かべる幼い俺に声を掛けるスーツ姿の一人の男性。

その問いかけに俯かせていた顔を上げて首を振って応えている。

 

「それでは、嫌なことでもありましたか?」

「うん…」

 

再び聞かれたことに小さな俺は一連の経緯などを話し、男性は納得したように頷く。

 

「キミくらいの年頃の子にはよくあることですね。

 遊びや趣味に熱中したい年齢、学校での勉強ならまだしも厳し過ぎる、

 あるいは厳しいだけの剣道の練習ともなると仕方のないことでしょう」

 

幾ら小学1年生とはいえ、普通なら警戒するものだがこの人には今でも(・・・)変わらない相手を安心させるような雰囲気がある。

だからこそ俺は話したのだろう。

 

「キミは剣道が嫌いですか?」

「……ううん、嫌いじゃないよ。きびしいのは嫌だしお祖父ちゃんは怖いけど、剣は好き」

「そうですか」

 

最後の「剣は好き」という言葉、幼い俺の瞳を真っ直ぐに見つめていたその人は驚きと共に喜びの表情を浮かべている。

 

「では、悔しくないですか? お祖父さんから逃げることは」

「…悔しい」

「強くなってお祖父さんを驚かせたくはないですか?」

「……驚かせたい…強く、強くなりたい…!」

「ええ。良い眼、それに良い“気”ですね。いやはや、私の直感もまだまだ捨てたものじゃないですね」

 

まるで奮い立たせるかのように問いかけ、それに応えていく幼少の俺。

最後には満足したかのように納得しているが、俺も今だからこそ苦笑して頷けるものだ。

 

「私、これでも人を守る仕事をしていて、今日は用事があって埼玉に来ていました。

 剣が好きで、強くなりたいというキミに提案です。

 私の指導を受けてみませんか? 私はキミが何処まで強くなるのか、興味があります」

「俺、強くなれるんですか…?」

「それは和人君の頑張りによります。ですが、私の個人的な判断になりますが、キミは強くなれます。

 それも私を超えるほどに……どうでしょう、強くなりませんか?」

「っ、なります! 俺を強くしてください!」

 

考える素振りもなく、即答して見せた。

この時の俺を動かしていたのはきっと意地だったのだと思う、それを刺激されたこともあったのだろう。

 

「名前…俺、桐ヶ谷和人です!」

「あぁ、そういえば名乗っていませんでしたね。遅くなって申し訳ない、私は時井八雲と言います。

 八雲と呼んでください。古流武術『神霆流』の師範を務めています」

 

今でも覚えている、これが俺と師匠である時井八雲さんとの出会いだった。

 

 

 

「早速ですが和人君に大事な教えを。“継続は力なり”という言葉があります、簡単に言うと物事を続けるとそれはキミの力になります。

 剣については教えますが、厳しい剣道の練習も頑張って続けてください。

 お祖父さんに勝ちたいという思いがあれば、きっとやれます」

「うっ、はい…」

 

うんうん、こんなこともあったな。思い出せてよかったこと。

 

「そしてもう一つ、大事なことがあります」

 

はて、何かあっただろうか……いや、大事だが思い出したくないことが…。

 

「家に帰りましょう。ご家族も心配していると思いますよ」

「……はい…」

 

そのことに落ち込む幼き俺。このあと、師匠に連れられて家に帰り、祖父さんや母さんにかなり怒られたのだ。

あぁ、思い出した、幼き日の失態、こっちは思い出したくなかった、というか第三者視点とはいえ自分のこんな過去など見たくなかった。

 

また忘れよう。

 

 

 

 

紆余曲折あったが当時の俺はそのまま剣道を続けつつ、偶に師匠が来た時には直接稽古を付けてもらっていた。

時には祖父さんの厳しさに逃げたくなる時もあったが、それでも我慢して練習を続けた。

師匠の教えもあって次第にその厳しさにも慣れ、練習が辛いと思うことはなくなり、剣道が純粋に好きだという思いも取り戻していた。

 

しかし、師匠でさえも予想外の事態が起こり始めた、それは俺の成長速度だ。

当然ながら肉体的な成長のことではなく、剣道や剣の実力のこと。

肉体的な成長過程、特に幼い頃の過剰な筋力トレーニングなどは成長の阻害になりかねないため、年齢に合ったトレーニングを組んでくれた。

けれど、師匠が剣道と剣の指南を行ったことで俺の潜在能力が覚醒したとでも言えばいいのか、とにかく俺の実力が格段に上がった。

それはもう同学年や1,2歳年上なら負けないくらいに。

 

結果、幼い俺は今の剣道の限界点に到達した。

もう剣道ではこれ以上強くなれないんじゃないかと、幼いながらに考えてしまうほどに。

師匠に鍛えてもらったという結果が限界への到達だった。

 

剣道を始めて1年、その内で師匠に鍛えられること約8ヶ月が経過した。

小学1年生の俺は進級して小学2年生となり、直葉が小学1年生として刻と共に入学してきた。

直葉も剣道を始め、しばらくは一緒に剣道の練習をし、直葉はすっかり剣道にはまっている。

一方、小学生の俺は偶に祖父さんに勝つこともあり、達成感を覚えたことでやはり限界も感じたようだ。

 

5月になり、一人で考えること姿を見受け、そういえばこの頃だったなと思い出す。

直葉と祖父さんとの距離感が開く、決定的な出来事が起こる。

5月末頃、スポーツとしての剣道を辞める決意を下したからだ。

 

「ならん! 剣道を辞めるなど、儂は許さん!」

「別に剣道しないわけじゃない! 大会とか、スポーツの剣道をしないってことだよ!」

「だからと言って、剣術に古流武術など以ての外だ!

 百歩譲って競技としての剣道を辞めることを許しても、それらを学ぶことは許さん!

 いや、少なくともまだ早過ぎる!」

 

〈ま、そうだよな。むしろ当時は俺もガキだったから勢いで押し通したけど、

 いまなら祖父さんの方がまともな意見だって言うのが良く分かる〉

 

思わず言葉にしてしまうほど、道場にて幼い俺と祖父さんが言い争っている。

直葉は怯え、というよりもオロオロとしながら言い合いを見ている。

すまない直葉、正直この頃のことは今更ながら悪かったと思ってる。

 

「成長して身体も大きくなれば今よりも強くなれる。剣道に限らず、他のスポーツでも同じことだ。

 心身共に成長し、技術を磨いていけば強くなる」

「駄目だ、もう限界なんだ! 剣道なんかじゃこれ以上強くなれない!」

「限界だの剣道では強くなれないなど、儂に勝てるようになって自惚れてきおったか。

 ならばこうしよう、これより全力で試合をし、儂が勝てば剣術は諦めて剣道に徹しろ。

 逆に和人が勝てば、好きにするといい」

「っ、分かった!」

 

方針決定、俺と祖父さんの対決か。

あの時は低い自分の視点でしか見られなかったが、今回は記憶と記録と情報によって再現されているから第三者視点で観戦できる。

あの時の俺はなんだったのか、客観的に知ることができるのか。

俺は正座して事の成り行きを見ていた幼い直葉の隣に同じく正座し、準備を終えたのか当時の俺と祖父さんの試合が始まる。

 

「直葉、いつでもよいから開始の声掛けだけ頼む」

「う、うん……………始め!」

 

深呼吸を終えた直葉の声掛けにより、試合が始まった。

 

試合内容は年齢差と体格差があっても互いに譲らない真剣なものだったが、それは終盤と最後を除いたらの話だった。

祖父さんの苛烈な攻めに対し幼い俺は必死に防いでは捌き、時にはカウンターを行いつつも攻めに転じていく時もあった。

それでも年齢差と体格差、それに体力や技術に経験値などの差が出てくる。

決着をつける、祖父さんがそう思うかのように動き出したが俺の動きも変わった。

 

全ての攻撃に対し、的確に対処して防いでは捌き、僅かな隙を見つけてはそこへ剣道としての技で攻撃を仕掛ける。

最早これは剣道に見えず、竹刀を使った死合にも見えるほどだな。

祖父さんは徐々に体勢を崩していき、やがて完全な隙が生まれた。

それを見逃さず、一気に接近する幼い俺、一瞥した幼い直葉の表情は恐怖でその視線の先は幼い俺、

その表情は獰猛な笑み……なるほど、この時か…。

 

そして、幼い俺は体重を掛けた強烈な突きを放ち、祖父さんは体勢もあってその威力に耐え切れず、背中から倒れた。

 

〈自分でも驚くしかないな。まさか、あの段階で『覇気』の片鱗か…〉

 

幼い俺が息切れを起こし、ゆっくりと息を整えていきその音だけが響き渡る。

祖父さんが呆然とする中、剣道の防具である面を外す幼い俺の表情には深い笑みがある。

 

「ひっ、うぅっ、鬼…」

「っ!?……ありがとう、ございました…」

 

怯えるように泣きだした直葉を見て、勝負を終えた幼少の俺もまた泣きそうな表情になるが、祖父さんに対して礼を行った。

 

「俺の勝ちだから、スポーツの剣道は今日まで。練習は続けるから……剣道、教えてくれて、ありがとう…」

「か、和人…」

 

防具を全て外して竹刀と共に綺麗に置いて去っていき、祖父さんの呼びかけに応えることもなく家の中に戻っていった。

道場にはすすり泣く直葉と呆然とする祖父さんが残された。

 

 

 

再び景色が消滅し、暗闇の景色に戻った。

 

結局のところ、あの剣道対決で祖父さんが失敗したのは俺の能力に剣術の動きがあったこと。

そして、既に『覇気』に目覚めかけていたことだろう。

そうでなくとも、剣道で決めることなく両親と祖母ちゃんを交えて全員で話し合っていれば、何かしらは変わっていたのかもしれない。

まぁ、いまはもう何をやっても意味のないことか。

 

だが、長い溝を作ってしまい、それが俺の後悔になったのも事実だ。

 

〈自業自得、なんだよな…〉

 

それでも、俺は進み続けるんだよな。

 

 

 

そういえば、時期的なものを考えてこれまでの出来事は今の俺という人格を形成するに至ったものということなのか?

 

和人Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、第一話ということで今回から本格的な物語という過去編に入りました。

 

怒涛の展開にも関わらず、自身の置かれている現状をすぐに看破する和人さんマジ和人さんw

 

和人の両親の事故死は原作でも言われていますが詳しい説明は無かったはずなので捏造です。

 

幼少の頃から見せた『覇王』の片鱗、それ故に孤独というか孤高感満載になっちゃってます。

 

あと物語の展開方法なのですが、一話ごとにキャラの視点が変化していきます。

 

今回は和人でしたが、次回予告として次は明日奈視点となっています。

 

あと、VR世界の過去を見たり思い出す際の視点のキャラはあくまでも現実世界での呼称です。

 

例えば、和人がVR世界の過去を見ていても、文章の方ではちゃんとVR世界のキャラ名で誰かの名を思います。

 

そして、基本的に物語は時系列順になりますが、

次回に限り物語序盤ということで和人がこの話しの状態になる前の、明日奈の視点になります。

 

色々と長くなりましたが、理解でも納得でもない……感じてくださいw

 

 

 


 
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