No.899054

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#128

高郷葱さん

#128

ご無沙汰しておりました。
前回投稿から約二年、長らく放置状態となってしまっておりました。
今年度に入ってからは多少時間が取れたので書き進められましたが、

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2017-03-28 22:21:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:681   閲覧ユーザー数:674

「さて、どうしましょうかねぇ。」

 

真耶はIS用狙撃砲の弾装に徹甲弾を込めつつため息をこぼす。

 

--あの巨大ISが地上に出てきたところを狙撃する。

たったそれだけのことであるが、その『たったそれだけ』が難しいのだ。

 

 

 

敵は一機だけではない。

一発撃てば間違いなく、射撃地点へ無人機の群れが殺到してくるだろう。

 

一対一であれば無人機化された訓練機などに後れを取るつもりはさらさらない真耶であるが、数の暴力を相手にすると少々骨が折れる。

 

(センパイや織斑くんのような一撃必殺ができればいいんですけどね。)

思わず無いものねだりをしてしまうが、それが無益な思考であることぐらい、真耶は理解している。

やはり、一発ぶち込んでからは無人機相手に乱戦を繰り広げ、隙を見てもう一発叩き込むくらいで我慢してやるしか・・・

 

「あれ?」

 

不意に通信を告げるウィンドウが視界の片隅に現れたので回線をつなぐ。

 

『更識から各機、敵大型ISの出現予測地点と担当場所の座標を送ります。』

 

開いたウィンドウの向こう側にいたのは地下エントランスにいるはずの簪であった。

 

「更識さん!?」

 

『山田先生は現在位置が担当場所です。そのまま待ち伏せていてください。』

 

「それは了解ですけど…どうして地下で待機していなかったんです?」

そう問いかけると簪は答える前に好戦的な笑みを浮かべた。

 

『山田先生と同じ理由です。』

 

そう言われて、真耶は思わずああ、なるほど。とつぶやいていた。

 

「大事な友達/同僚(ひと)を傷つけられて、黙ってなんかいられない。」

 

真耶と簪の声がぴったりと重なった。

ただそれだけのことなのに、なんだろう。

無人機を捌きながら超大型ISと戦う。それが、何のこともないように思えてきた。

 

『そのとおりだ。母さまの仇は、必ず討つっ!』

『いや、ラウラ。空は死んでないって。』

『当たり前だ!母さまがこの程度で死ぬはずがないだろう。』

『いや、だから、それは仇討ちって言わないんじゃ?』

 

唐突に回線に加わってきたラウラにシャルロットの突っ込みが入る。

 

妙にずれた会話。

誰かの噴出す声をきっかけに通信回線に笑い声があふれ出した。

 

「ふふふ、・・・あら?」

笑い合っていると真耶の元に一通のテキストメッセージが送られてきた。

 

『山田先生?』

 

「ちょっとメールが来たみたいです。どれどれ・・・?」

 

コアネットワーク経由で送られてきたテキストメールを開封する。

 

『誰からですの?』

 

ざっと目を通したところを見計らったのかセシリアの問いかけが来た。

 

「そうですね。」

 

真耶は、ちょっと勿体をつけながらもう一度メールに目を通す。

うん、間違いない。

 

織斑千冬(世界最強)篠ノ之束(世界最高)死刑宣告(参戦宣言)、ですかね。」

 

ちらりと見れば、簡易地図上で三つの光点が赤い光点(敵性反応)を減らしながら近づいてくる様子が映っている。

 

「では皆さん、始めましょうか。」

 

ガシャン、と音をたてて弾装(マガジン)から初弾が送り込まれた。

 

 * * *

 

「この、ちょこまかとっ!」

 

マージは苛立ちを隠そうともせず、自身の周囲でちょこまかと動き回る『羽虫ども』を払い落とすべく乗機の豪腕を振り回していた。

 

超大型IS『グラン・フォート』。

 

亡国企業の傘下にある研究所にマージが作らせた『最強の機動兵器』である。

通常のISの数倍以上の巨体に、IS用火器ではびくともしない防御力と、都市ひとつを焼き払えるだけの火力を詰め込んだ大艦巨砲主義の権化、否『移動要塞』を体現した機体であった。

 

その過剰なまでの火力と防御力を有する、絶対防御も含めたシールド系を機能喪失させる特殊粒子発生装置まで搭載した「最強」の機体。

それが、たった6機の競技用IS(・・・・・・・・・・・)に翻弄されていた。

 

翻弄されているといっても今のところ、敵機の攻撃はグラン・フォートに目立った損傷を与えることができていない。

せいぜい、かすり傷程度に装甲を傷つけ時折シールドエネルギーを消耗させる程度だろう。

 

「このカトンボどもが、いい加減墜ちろぉっ!」

 

周辺にいる無人機も巻き込んで全身の火器を乱射。

だが、その攻撃は無人機を吹き飛ばしても本来の狙いであった6機のISを捉えることができないでいる。

 

それも、ある意味では当然の話である。

 

方や機体性能に物を言わせて戦う素人。

方や愛機とともにいくつもの死線を潜り抜け、総搭乗時間が三ケタ後半に達する代表候補生と世界相手に競り合い最強目前までたどり着いたかつての代表にして現教師。

 

空戦の主役が航空機であったころ『操縦者の技量によって一世代分の性能差が覆る』という言葉があった。

それが、操られる機体が戦闘機からISに代わって再現されているだけのことなのだ。

 

 

 

―マージの心中には徐々に焦りが生まれつつあった。

 

ISのハイパーセンサーが捉えている四つの機体反応、すなわち『暮桜弐式』(世界最強の愛機)『朧月(IS生みの親の機体』)『白式』と『紅椿』(天才が生み出した次世代型最新鋭機)

 

校舎建屋から、途中に遭遇した無人機を見敵必殺で蹴散らしながら接近してくるその一団は、いろいろな意味で危険な存在である。

 

特に、現役引退した今も『世界最強』(ブリュンヒルデ)と名高い織斑千冬とISの生みの親である篠ノ之束の二人は『何をしでかしてくれるか』分からないのだ。

 

あの一団が来る前に、いまここにいる有象無象を片付けなければ・・・

 

「隙あり、だよッ!」

 

目の前に飛び込んでくるオレンジ色のラファールタイプ(ラファール・オキシス)

その腕には競技用IS兵装としては最高クラスに位置する攻撃力を持つ回転式杭打機(パイル・バンカー)灰色の鱗殻(グレー・スケール)

 

「っ!」

 

的確に非装甲部(がんめん)を狙ってくる杭をとっさに振り上げた右腕が受ける。

 

炸裂音と同時にダメージ、エネルギーシールドが展開されることを告げるアラートメッセージが視界の片隅に現れる。

 

そのメッセージ曰く、損傷はごく軽度。装甲にわずかながら傷がついた程度らしい。

 

「なんだ、切り札といってもそんなものか。がっかりだよ。」

 

そのまま腕を振り払って、旧式量産機(ラファール)を叩き落そうとして、不意に背筋に冷たいものが走る。

 

「―――誰が、切り札だって言いましたか?」

 

背後から声がした。

幼く聞こえるのに、その声には貫禄のようなものが含まれている。

 

「これじゃ、うちの生徒の方がずっと強いですね、あなたよりも。」

 

がちゃん、と何かが装填される音が妙に大きく響く。

 

あわてて振り返ろうとして、機体が動かない。

 

「ふふ、周囲が見えていないらしいな。それじゃあハイパーセンサーが宝の持ち腐れだぞ。」

 

その声の主をハイパーセンサーで探せば程近い場所で撃破した打鉄を踏みつけながらAICを発動させている、シュヴァルツェア・レーゲンの姿。

 

 

「さて、競技では対人使用が禁止された零距離破砕衝撃波動砲(これ)の破壊力を存分に楽しんでくださいね。もっとも・・・」

 

―激しすぎて逝っちゃうかもしれませんけど。

 

アラート。背後の機体の腕部に高エネルギー反応が発生。

危険!危険!危険!危険!

 

本能的に感じる恐怖を前に、マージは『奥の手』の発動コードを入力する。

 

―Code:the Lizard Tail

 

直後、真耶の放った非実体衝撃杭(エネルギー・パイル)が機体を直撃した。


 
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