「でだ、ただ来いとだけ言われて来たんだが…」
夜の静寂に包まれた廃工場を前にして、矢崎はため息をついた。
「いるのか?こんな場所に、時間の指定もないのに」
「言ったろ?奴らの情報網は半端ない、あたしらが家を出たのもきっと確認済みだよ」
アリスはそういって歩を進める。
「その娘の手、離すんじゃないよ」
その言葉に反応するように秋穂の手に力が篭る。
30分ほど敷地内を歩いた辺りで異変に気がつく。
「なぁ」
「なんだい?」
「ここはもう使われてないんだよな?」
「向こうが言うにはね、しかし暑いな」
アリスは暑さにイライラしているのか、ぶっきらぼうに答える。
「いや、暑すぎるんだ。熱帯夜にしてもだ」
「まさか!?」
空を見上げれば、伸びた煙突からもくもくと煙があがっている。
「何かを燃やしてるのか?」
「これから燃やす準備だろうな…」
アリスは汗に滲んだ顔を歪ませる。
「一体何を?」
「あたし等だよ、バグの時と同じさ、無残な死を演出しようって腹じゃないか?」
「…いくぞ」
矢崎は秋穂を抱き煙突の元へと走った。
巨大な溶鉱炉が轟々と音を立てて稼動していた。
そこから少し離れた通路に2つの人影が腰掛けていた。
「やぁ、待ってたよ。矢崎君にキャロル…、いやルイスの方か」
「相変わらず嫌味な喋りだね御堂」
2人は表情を崩さないままお互いを牽制しあう。
「双波、説明してくれないか?」
「私から話す事はありません」
こちらの2人も冷たい雰囲気で膠着している。
「あ、あの!!」
膠着状態を破ったのは秋穂の一声だった。
「君の事を待ってたんだよ、秋穂ちゃん。さぁ、こっちに来るんだ君にはまだやるべき事があるんだよ」
「私はあなたの所へは行きたくありません、お父さんがいて、アリスさんもいて普通の生活を送ることは出来ないんでしょうか?」
秋穂がはっきりとした口調で御堂を拒絶する。
「ふぅ…、双波、君の失策だ。まさかオリジナルが私の手を払うとはな」
オリジナル、その言葉の意図を理解できずに矢崎は御堂を睨みつける。
「私だって絵空事で鬼の力などと言い出した訳ではないのでね」
御堂は煙にまみれて汚れる空を見上げて呟いた。
「その娘の母親は、我社の投薬臨床実験において偶発的に力を発症させた。力による体への負担でものの数日で命を落としたよ」
楽しそうに話す御堂をその場にいる全員が見つめる。
「私の…、お母さん…?」
秋穂が衝撃を受けた様に立ちすくんでいる。
「その女の遺伝子を解析して、似た遺伝子を持つ娘を人工的に造ったのだよ。他者への力の移植に使うオリジナルをね、人間の防衛本能なのか、仮の人格などと言うものが出来てしまって手を焼いていたのでね、君を利用させてもらった」
「親というよりもクローンだな」
「子など所詮は親のクローンに等しいのだよ」
矢崎の言葉に嬉々として反応を返す。
次の瞬間、銃声が響いた。
「なっ…!?ぐぅ…」
御堂の肩口から血が噴出していた。
「アリス!!」
「あたしじゃない!!」
見れば双波が銃口を下ろして肩で息をしている。
「貴様…!!!」
「姉さんの苦しみはこんなものじゃなかったわ」
更に銃口を向ける。
「姉?貴様はあいつの…」
銃声が言葉を遮った。
「いやぁぁぁああぁぁ!!!!」
秋穂の絶叫が響いた。
その場に残った者は呆然と立ち尽くしていた。
ただ一人を除いて。
「やったよ…、姉さん…」
双波が脱力して膝を付いている。
「秋穂!大丈夫か」
放心した様子で空を見上げる秋穂に矢崎が手を伸ばす。
秋穂はゆらりと立ち上がるとその手を払った。
「あ・きほ・・・?」
「やれやれ、やっと出られた」
その目の色は
赤かった。
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後一回で完結予定 悪魔で予定ww