No.88320

おにむす!⑲

オリジナルの続き物
後一回で完結予定 悪魔で予定ww

2009-08-05 23:09:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:818   閲覧ユーザー数:784

「でだ、ただ来いとだけ言われて来たんだが…」

夜の静寂に包まれた廃工場を前にして、矢崎はため息をついた。

「いるのか?こんな場所に、時間の指定もないのに」

「言ったろ?奴らの情報網は半端ない、あたしらが家を出たのもきっと確認済みだよ」

アリスはそういって歩を進める。

「その娘の手、離すんじゃないよ」

その言葉に反応するように秋穂の手に力が篭る。

30分ほど敷地内を歩いた辺りで異変に気がつく。

「なぁ」

「なんだい?」

「ここはもう使われてないんだよな?」

「向こうが言うにはね、しかし暑いな」

アリスは暑さにイライラしているのか、ぶっきらぼうに答える。

「いや、暑すぎるんだ。熱帯夜にしてもだ」

「まさか!?」

空を見上げれば、伸びた煙突からもくもくと煙があがっている。

「何かを燃やしてるのか?」

「これから燃やす準備だろうな…」

アリスは汗に滲んだ顔を歪ませる。

「一体何を?」

「あたし等だよ、バグの時と同じさ、無残な死を演出しようって腹じゃないか?」

「…いくぞ」

矢崎は秋穂を抱き煙突の元へと走った。

 

 

巨大な溶鉱炉が轟々と音を立てて稼動していた。

そこから少し離れた通路に2つの人影が腰掛けていた。

「やぁ、待ってたよ。矢崎君にキャロル…、いやルイスの方か」

「相変わらず嫌味な喋りだね御堂」

2人は表情を崩さないままお互いを牽制しあう。

「双波、説明してくれないか?」

「私から話す事はありません」

こちらの2人も冷たい雰囲気で膠着している。

「あ、あの!!」

膠着状態を破ったのは秋穂の一声だった。

「君の事を待ってたんだよ、秋穂ちゃん。さぁ、こっちに来るんだ君にはまだやるべき事があるんだよ」

「私はあなたの所へは行きたくありません、お父さんがいて、アリスさんもいて普通の生活を送ることは出来ないんでしょうか?」

秋穂がはっきりとした口調で御堂を拒絶する。

「ふぅ…、双波、君の失策だ。まさかオリジナルが私の手を払うとはな」

オリジナル、その言葉の意図を理解できずに矢崎は御堂を睨みつける。

「私だって絵空事で鬼の力などと言い出した訳ではないのでね」

御堂は煙にまみれて汚れる空を見上げて呟いた。

「その娘の母親は、我社の投薬臨床実験において偶発的に力を発症させた。力による体への負担でものの数日で命を落としたよ」

楽しそうに話す御堂をその場にいる全員が見つめる。

「私の…、お母さん…?」

秋穂が衝撃を受けた様に立ちすくんでいる。

「その女の遺伝子を解析して、似た遺伝子を持つ娘を人工的に造ったのだよ。他者への力の移植に使うオリジナルをね、人間の防衛本能なのか、仮の人格などと言うものが出来てしまって手を焼いていたのでね、君を利用させてもらった」

「親というよりもクローンだな」

「子など所詮は親のクローンに等しいのだよ」

矢崎の言葉に嬉々として反応を返す。

次の瞬間、銃声が響いた。

「なっ…!?ぐぅ…」

御堂の肩口から血が噴出していた。

「アリス!!」

「あたしじゃない!!」

見れば双波が銃口を下ろして肩で息をしている。

「貴様…!!!」

「姉さんの苦しみはこんなものじゃなかったわ」

更に銃口を向ける。

「姉?貴様はあいつの…」

銃声が言葉を遮った。

「いやぁぁぁああぁぁ!!!!」

秋穂の絶叫が響いた。

 

その場に残った者は呆然と立ち尽くしていた。

ただ一人を除いて。

「やったよ…、姉さん…」

双波が脱力して膝を付いている。

「秋穂!大丈夫か」

放心した様子で空を見上げる秋穂に矢崎が手を伸ばす。

秋穂はゆらりと立ち上がるとその手を払った。

「あ・きほ・・・?」

「やれやれ、やっと出られた」

その目の色は

赤かった。


 
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