No.876733 真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第十話2016-10-30 14:08:57 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:4408 閲覧ユーザー数:3386 |
「汜水関を捨てます」
俺のその言葉を聞いた皆の顔は驚きに包まれていた。そして…。
「それはどういう意味だ、北郷!!何故我が汜水関を捨てる!?汜水関は物の役にも立たない
とでも言うつもりか!?」
真っ先にそれに噛みついてきたのは当然の事ながら、華雄さんであった。
「華雄さん、落ち着いてください。一刀さん、汜水関を捨てるというその言葉の意味を教えて
いただいてもよろしいですか?」
月様が華雄さんをなだめながらそう聞いてくる。
「本来であれば、二つの関をどちらも強化出来るのが理想なのですが…それをするには色々な
物が足りません」
「色々とは?」
「はっきり言えば、時間とお金です。まだお金の方は月様が用立てていただけるのであれば解
決するのかもしれませんが…」
「…確かに、連合が来るのはそう遠い話では無いですね」
「長くて後数ヶ月程度と見ています。その間に二つの関を同時進行で強化などという事はとて
も無理です。もしそれを行えばどちらも中途半端な状態で戦に突入する形になります。そん
な状態の関などそれこそ一瞬で落とされるでしょう。よって、此処は虎牢関のみ一点集中で
強化します。ですが、それは汜水関に何もしないという意味ではありません」
「北郷…すまん、お前の言っている事が理解出来ん。汜水関を捨てると言ったり何もしないと
いう意味ではないと言ったり…結局、どっちなんだ?」
俺の言葉に華雄さんは完全に頭の上に『?』マークを浮かべた状態でそう聞いてくる。
「強化はせえへんけど、みすみす奴らにくれてやるわけちゃうっちゅう事やろ?すると、何か
罠でも張るんか?」
「はい、、霞の言う通り、強化は虎牢関に集中させて、汜水関には仕掛けを施して連合に対す
る罠とします。つまり計画としましては…」
俺はそこで考えていた仕掛けを書いた紙を見せる(ちなみにこれは前々から考えていた物を
提案しようと持ってきた物である)。
「…何ちゅう計画やねん、これ」
それを見て真っ先に発言した霞は驚きと呆れが混ざったような顔をしていた。
「確かに成功すれば敵に与える損害はとんでもない物になりそうだけど…この罠を汜水関の何
処にどうつけるつもり?」
「正直、汜水関については遠くからちょっと眺めただけなので、おそらく此処ならばという所
になりますが…」
詠の質問に答える形で俺は汜水関の絵図面に印をつける。
「どう、王允?一刀の考え通りにいけそう?」
「ふむ…北郷殿が指し示した所は、全て前に陛下の指示で私が汜水関の補修をした時に重点的
に直した所ですね。確かにそこを崩せれば…ですが、私とてこの部分は徹底的に直しました。
如何に北郷殿の火薬の威力が強かろうとも、それだけで崩せる物では無いと自負しますが」
王允さんはそう言って俺を見つめる。成程…そういう事ならば。
「だからこそ此処を崩す重要性は分かりますよね?」
「ええ」
「ならば王允さんは汜水関に行ってこの位置にこういう細工を…」
「成程…そういう事ならば。しかし、こういう崩し方もあるのですね…」
俺が説明すると王允さんの顔はさらに驚きに包まれる。
「待て待て!つまりお前は、結局我が汜水関を破壊してしまうという事か!?」
「はい、だから『汜水関を捨てます』と言ったのですが?」
「華雄さん、私にもそれが一番良いのかは分かりませんが、ただ防御するよりは良いと思いま
す。一刀さんの提案に反対するのであれば、これ以上の物を提案していただく必要がありま
すが…何かありますか?」
不満を洩らす華雄さんに月様がそう問いかける。それに対する華雄さんの返答は…。
「我が武を以てすれば策を弄さずとも全ての敵を葬ってみせます!!」
まったくもって予想通りの答えであった。皆も同じに思っていたらしく、一様に呆れた表情
を見せている。
「なぁ、華雄…敵は予想通りなら十万は軽く超える言うてたやろ?どうやってそれを一人で駆
逐すんねん?」
「如何に大軍といえども、総大将の首を取ってしまえばこちらの勝ちだ!!我が手勢で一気に
袁紹の下へ突撃して首を取る!!」
「…だから、どうやって大軍の中を袁紹の所まで突撃出来るのかが聞きたいんだけど?」
「袁紹の如き惰弱な者どもに我が配下は負けはせん!!」
霞や詠が何を言っても華雄さんは同じような言葉を繰り返すだけであった。
「一刀さん、あなたはどう思いますか?」
さすがに月様も困った顔で俺にそう聞いてくる。それに対して…。
「華雄の言う通りにはならないと思いますが」
「何だと!?お前は私の武が信じられないとでも言うのか!!それとも、どうしても自分の策
で汜水関を破壊したいのか!!」
俺がそう返答すると、華雄はそう噛みついてくる。
「華雄、世の中というのは個人個人が思っているより遥かに広い。如何に華雄が自分の武に誇
りを持っていようとも、それを上回る武の持ち主は必ずいる。もし、敵の中にそれがいたら
どうする?君が死んだら月様をただ悲しませるだけ…いや、軍全体にとっても大きな損害に
なるだけだ。突撃結構、但しそれはただいたずらに行う物ではなく、機を見て行うからこそ
効果があるはずだろう?それが分からない程、君は愚かな人間でないはずだ」
俺のその言葉に華雄だけでなく、他の皆も一様に沈黙する。実際の話、俺が知っている話の
通りになるのであれば、連合には劉備が参戦するだろうし、そうなれば間違いなくあの関羽
が現れる事になるだろう。必ずしも俺が知っている通りにいかないにしても、回避出来る物
は回避出来るのに越した事は無い。
「…確かにお前の言う事にも一理ある。しかし、それと汜水関を破壊する事とどう繋がるとい
うのだ?」
しばらくして、華雄の口から絞り出すように出て来たのはその言葉であった。しかし、俺の
意図を理解していないという感じはしない。念の為に確認したいという所か。
「無論、汜水関をそのまま放棄すれば向こうにただ使われてしまうだけ。ならば破壊してしま
おうと…さらにいえば、破壊するタイミンg…もとい、時機についても…」
……一刀、説明中……
「何と…ならば、汜水関は無駄死にするわけでは無いのだな?」
「当然。これが成功すれば敵に大打撃を与えるのは間違いない話だ」
「分かった。お前のその言葉を信じよう。我が汜水関、好きに使って…いや、破壊してくれ!
むしろ、やるなら思いっきり派手に頼むぞ!」
ふぅ、ようやく納得してくれたようで何よりだ。
「では、華雄さんも納得された所で、今度は虎牢関の強化について、一刀さんのお考えをお聞
きしたのですが…」
華雄が落ち着いた所で、今度は月様が俺にそう聞いてくる。
「では、まずこの図面を見てください」
「これは…武器?連弩のように見えるけど…?」
俺が広げた図面を見た詠がそう洩らす。
「そう、連弩だよ。但し、少々改良を加えた物だけどね」
「改良?」
「これは大型化した物で、これを城壁の上に並べて発射する事によって防衛力を高める意味合
いがある。さらにこれは最大で矢を十本装填して連続で発射する事が出来るので、一気に多
くの敵を討つ事も可能になるわけだ。そしてこれに先程見せた焙烙玉と投石器を加える事で
迎撃については問題は無いはずだ」
「まさかこんな兵器まで…あんたの絡繰って何処まで凄いわけ?」
「まあ、そこは色々とね」
詠は驚きを隠せないままそう聞いてくるので、俺は少々誤魔化し気味に返答するが…実際の
所、大型の連弩って確かバリスタとかいう名前でローマの方とかであったはずだし、十本連
続で撃てるのって諸葛孔明が考えた物だったりするのだが…この世界にいる孔明がこういう
物を造り出しているのかは知らないけどね。
「さて、それでは続いて今度は関の防御の強化についてだけど…そもそも虎牢関の堅牢さは大
陸の中でも一番と言って良い程だから、基本構造から変えるつもりは無い。まずは関の前に
こういう物を造ろうと思う」
「何やこれ…門の前にあるこの半円のようなけったいなもんは?」
「これは馬出といって、門の前に配置する事によって正面から敵が大軍で押し寄せてこれない
ようにする為の物だよ。しかもこの中に部隊を配置する事も出来るから迎撃も可能になる」
「でも、こないに突出しとったら、逆に此処に集中攻撃とかされるんやないの?」
「それも狙いの一つだ。敵が一点に集中してくれるのなら、迎撃もしやすくなる。広範囲に展
開されるよりも遥かにね」
霞の質問に俺はそう答える。本当だったら枡形虎口とか造ってみたい所ではあるが、大がか
りな工事にも限界がある為、今回は馬出だけである。
「それじゃ、この壁面の所に書いてある『三和土』って何なん?」
「これは『三和土(たたき)』といって…実物を見てもらった方が早いかな?胡車児!!」
「こ、こ、これなんだな!!」
「何これ…土?でも、土にしては随分と堅いようだけど…」
胡車児の持ってきた三和土の塊を触った詠がそう呟く。
「これはこの『真土』と『石灰』を混ぜた物で、これを壁面に用いる事で強度を何倍にも増す
事が出来る。本来はこっちに用意したように通常の石組みの結合に使用するんだけど、そん
な事をしようと思ったら関の建造構造自体から始める必要が出て来るので、今回は表面の補
強のみに使用する」
俺の説明に皆、一応役に立ちそうな物だと理解はしてくれたようだ。実物を見せたのが良か
ったようだ…本当はコンクリートでも用意出来れば良かったのだが。
「しかし、関の強化が完了する前に連合が攻め寄せてくれば全てはただの徒労に終わる。全て
は時間との戦いになる」
「そうですね…では、虎牢関の強化及び汜水関の仕掛けについては一刀さんに一任します。必
要な物は出来得る限り迅速に用意いたしますので」
月様のその言葉でその場は解散となり、俺は連合への迎撃態勢を整える事に全力を注ぐ事に
なったのであった。
数日後、虎牢関にて。
「北郷様、壁面への三和土の補強、八割方完成しております」
「前方に建造中の馬出も後は最終の仕上げを残すのみです」
「ありがとう、皆のおかげで予定より大幅に早く進んでいます。董卓様の御為にも、此処が踏
ん張り所です。最後までよろしくお願いします」
まずは此処まで上々の出来だな。連弩の方も既に七割方配備済だし…しかし、こっちの人達
も凄いな。元の世界で機械を使って何とかとかいうのも人海戦術であっという間に仕上げて
しまう。かといって、手抜きをしているわけでもないし…便利な物に溢れているというのも
良し悪しといった所なのかもしれないな。(あくまでも一刀の個人的見解です)
「…北郷様、王允様より汜水関の仕掛けは全て完了したと連絡がありました」
そこにやって来たのは、月様が俺の補佐にと付けてくれた文官の李儒さんだった。段取りが
ここまで順調に進んだのも彼女の尽力があっての部分もある。
「それは何より…李儒さんもありがとう。こっちも大丈夫だし、少し休んでも良いよ」
「…いえ、董卓様より仰せつかった仕事は『北郷様を補佐する事』ですので、北郷様のお仕事
が終わらない内は私の仕事に終わりはありません。とりあえず董卓様への報告書の作成をし
ておきます」
李儒さんはそう言うと月様への報告書を黙々と書き始める…しかし、補佐についてくれてか
らほんの数日だが、彼女が休んでいる姿を見た事が無い。大丈夫なのかな?
「…大丈夫ですよ。ちゃんと夜はしっかり寝てますし、食事もきっちり摂ってますから」
…俺が思っている事が顔にでも出ていたのかな?これは余計な心配をかけちゃった事になる
のだろうか?
「…ふふ、本当に気にしなくてください。でも…ありがとうございます」
李儒さんはふっと微笑むとそう言ってくれる…おおっ、彼女の笑顔は初めて見たぞ。しかも、
改めて見ると結構可愛いし。
「随分と楽しそうですね、一刀さん」
そう言いながらやってきたのは人和であった。ほんの数日だったとはいえ、随分と久しぶり
に顔を見たような気がするのは気のせいだろうか?ちなみに彼女は一人ではなくポニーテー
ルの娘と一緒であった…もしかして?
「人和、そちらの方はもしかして…?」
「はい、姉の張宝です」
ほぅ…この娘がそうなのか。
「初めまして、北郷と申します」
「張宝よ。妹がお世話になったようね、姉として礼を言っておくわ」
「いえいえ、俺は単に行き倒れていた彼女をたまたま山中で見つけただけですよ」
「でも、そうでなかったら妹は多分そのまま死んでいたから…命の恩人である事に変わりは無
いわ」
「そう、それじゃそのお礼は有難く受け取っておきましょう…ところで人和、此処には何か用
で来たのか?わざわざ俺に会いに来てくれたとかいうのでは無いよね?」
「董卓様から聞いておられるとは思いますが、私は姉と一緒に新たに兵を集める為の活動をし
ています。今日はそれで近くに来たので、一刀さんにご挨拶をと…そういう意味では『わざ
わざ会いに来た』のかもしれませんね」
人和はそう言って茶目っ気に笑う。半分以上は冗談であろうが、可愛い娘にそう言ってもら
えるのはなかなかに嬉しいものだ。
「ところで活動の方はうまくいってるのか?」
「はい、以前のようにはいきませんが五万近くは」
五万って数字だけだととんでもなく凄く聞こえるが、二人にとっては不満の残る物であるら
しい。
「以前は…って、そんなに凄かったのか?」
「一声で十万は確実に」
十万って…さすがは大陸、人間の数字が半端ないな。
「そうすると、まだ見つかっていないもう一人のお姉さんがって事?」
「はい、三人の中で歌の力が一番強かったのが張角姉さんで、張宝姉さんはそれを妖術でさら
に広げて、私は集まったその大人数がうまく動くように管理して会員の数を増やしていった
んです」
なるほど…つまり張角がいない以上、どうしても力に限界が生じるという事か。
「でも、人和が戻ってきてくれたおかげでこれでも随分と楽になったのよ。ちぃ一人じゃ三万
が限界だったし…」
「まあ、それでも今回の分と合わせて八万は集まったって事だし、それは大きな力だよ。張角
さんについては月様も捜索に協力するって言ってたし、今はまず此処を…ひいては月様を守
る事が優先だ。本当は他に味方になってくれる諸侯とかがいてくれれば楽なのだろうけどね」
「そういえば、公達さんが今その活動で色々動いているとか聞きましたけど?」
公達が?…確かに自分が出来る事をするとか言っていたけど、大丈夫なのかな?あいつの弁
舌はなかなかな物だけど、自分自身で『隠者じみた生活を送っている』とか言っていたのに
…諸侯に会うコネとかあるのだろうか?
同じ頃、涼州・武威にて。
「私が馬騰だ。荀曇殿の孫というのはお前か?」
「はっ、荀攸と申します」
「なるほど…確かに祖父殿の面影があるね。荀曇殿とは昔少しだけ一緒に仕事をしていた事が
あってね。色々と教えてもらったものさ」
「私も祖父より馬騰様の事は何度か聞いた事がございます」
「さて、この色々とある時期にわざわざ祖父殿の僅かな縁だけでこんな所にまで来るのだから、
何か用があって来たのだろう?」
「はい、今回参りましたのは、馬騰様には是非董卓様のお味方になっていただきたく…」
「ほぅ、荀攸は今は董卓に仕官しているのか」
「はい。ですが、決してそれだけで馬騰様にお味方になっていただきたいと思ったわけではご
ざいません…実を申せば」
……公達、説明中……
「ほぅ、なるほどね。確かにそれは面白い話だね…少しだけ待ってもらって良いかな?さすが
に私の一存だけでは決められないんでね。どちらにせよ、あんたの命までは取らないと約束
はする。ゆるりと過ごしてくれ」
そう言って馬騰は侍女に公達を別室へ案内するよう命じると、足早に出て行く。
(さてさて、これで少なくとも涼州連盟が連合に集結するのを遅らせる事が出来るな。袁紹の
事だ、檄を飛ばした諸侯が全て集結しないまま軍を動かすのには躊躇するだろうしな…北郷、
その間にしっかり防備を固めておけよ)
別室に案内されながら、公達はほくそ笑んでいたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
毎度毎度投稿が遅れて申し訳ございません。
今回は、虎牢関強化計画を…と言いながら、何だか中途半端な
内容になってしまいました。しかも、絡繰というより完全に土
木工事みたいな様相になってきましたし…無論、これだけで終
わりではありませんので。その辺は連合との戦いの中で出す…
予定です(オイ。
とりあえず次回からそろそろ連合側のお話をお送りしようと思
っておりますので。
それでは次回、第十一話にてお会いいたしましょう。
追伸 馬騰陣営の結果は次回以降にて。
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お待たせしました!
今回は一刀による虎牢関強化計画
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