「天水からの客人?」
馬家に仕え始めてから、毎日の日課となってる書簡を片付けてたら、珍しく及川が手伝いに来てくれた。
やっぱり人手があると進みが違うな。来た理由が、馬超さんとシャオが構ってくれなくて暇だからって理由じゃなければ、もっと良かったけど
「やせで。なんでも、以前から親しく付き合うとる間柄なんやって。国賓として迎いいれるとかって言うとったかな」
友人を招くだけなら、ここまで大事にはしないし、馬騰さんの代から付き合ってる間柄の人が来るのかな?
「確か…君主と補佐の二人が来るとか」
「…まじで?超大事じゃん。俺、全く知らされてないんだけど!?」
こんなんでも、俺って文官筆頭だよね!?国政にかなり関わってる身なのに、なんでこんな重要な話を知らされてないの!?
「かずぴーに色々と負担かけっぱなしやから、準備は全部こっちでするって、翠ちゃんが」
馬超さん・・・
気遣いは嬉しいんだけど、流石にこれは知らせて欲しかったよ・・・
「ちょっと待てよ・・・さっき相手にされないって言ってた理由って、これの事だったのか!?」
「正解や!流石かずぴー!わいの事解ってるーb」
サムズアップしながら、笑顔の及川・・・殴りたい、この笑顔
「はぁ…それで、その人達はいつ来るんだ?」
「えっと・・・今日」
「そうか、今日か……今日!?」
「お、時間差ツッコミとか流石かずぴー!」
やかましいわ!
要人が来るってのに、書類仕事してる場合じゃない!
俺も準備に加わらないと!
「あ、かずぴータンマ!」
一刀が部屋から飛び出そうとするが、部屋の扉の前に及川が立ち塞がり、一刀を外に出そうとしない
「なんだよ及川、なんで邪魔する」
「ここでかずぴーが出て行ったら、翠ちゃん達の頑張りが台無しになってまう。せやから・・・ここを通りたくば、わいを倒してからや!」
及川の台詞が終わったと思ったら、花びら?が及川の周りに降り始めた。
窓を開けてないし、花が咲く季節じゃない…周りを見渡すと、及川の後ろに小さな影が....
「香風…居たのね」
「うん。お兄ちゃんと祐が仕事してる間、ずっと居たよ。こういうのを《すたんばいしてた》って言うんだよね」
また及川が面白がって現代語を教えていた。
しかも、普段使わない言葉ばかり…
滅多に使わないのに、こうして実用する機会を作ってくる及川の努力?にはある意味尊敬に値するかも…しれない?
「それで、香風はこれだけの為にスタンバイしてたのか?」
「ううん、シャンの役目はお兄ちゃんの監視」
監視?と一刀が尋ねる前に、香風は獲物を構えて及川同様に扉の前に立ちはだかる
「香風も通してくくれないんだ」
「翠がお兄ちゃんを出すなって。お兄ちゃんは働き過ぎ、最近元気が無い」
香風は普段のほほんとしているが、役割の仕事はしっかりとこなし、人の機微にも聡い子だ。
多忙な日々を送っている一刀の負担を減らしたいと、一刀がこなしている仕事を担おうとするも、かえって手間を増やす結果に....
一刀は笑って許してくれたけれど、助けるどころか迷惑をかけてしまった香風は、一時しょんぼりと元気を無くしてしまう事があった。
今回、及川に加担しているのも、一刀に休んで欲しいと願っての行動。香風の表情からそれを察した一刀は『ふぅ』と静かに息を吐いた
「解ったよ、香風がそこまで言うなら、この部屋でゆっくりしてるよ」
一刀の様子から、もう行く気が無いと判断した香風は、獲物をしまいとてとてと一刀の下へ歩み出し、一刀の膝にぽすっと座り込みんだ。
一刀は座り込んだ香風の髪を手櫛で優しく梳かし始める
香風はそれを気持ちよさそうに受けていると、更に頭を一刀に寄せた
「今日は随分甘えん坊だな」
そんな香風の行動を嫌がる事なく受け入れ、手櫛で梳かしつつ空いている手で香風の頭をぽんぽんと撫でる。
この光景だけ見ると、平和な休日を過ごす男女に見えてくるが…
そんな空気を一切気にせず、ぶち壊す男がここには居る。
その男はもちろん
「香風ちゃんーーー!わいの膝も空いてるでーーーー!」
及川である
「なんだ、あんだけ騒いでたのに寂しくなったのか」
空気を読むときは読むが、読まない時は本当に読まないのが及川。
”あえて”読んでいないのか、本当に読まないのかは定かでは無いが・・・
通っていた高校「聖フランチェスカ」では及川マイスターの称号(本人は不本意ながら)を持っている一刀は、あっさりと及川の心境を見抜いた。
香風に花吹雪をさせておきながら、一刀の相手を香風に取られて寂しがっているのだ
「そ、そんな訳ないでしょ!だ、だれがあんたと話せなくて寂しがるもんですか!」
「おい…キャラと口調が迷子だぞ。それと、なんでツンデレなんだよ。男のツンデレとか誰得だよ」
及川的に、これは受けた!と思ったらしいが、一刀はジト目で及川を見るだけ。
『なぜ受けなかったのか、手ごたえはあったのに…』とブツブツ小声で言うと、何かを思いついたのか、ガバッと勢いよく立ち上がる
「わいと話してくれる子はいないかー!!」
大声でそう叫ぶが、ここは及川を含めて3人しか居ない。香風は一刀にべったりで、一刀は何やってんだと呆れ顔。仕方ない....と一刀が相手をしようとした瞬間
「ここに居るぞぉぉぉぉぉぉお!」
背景でドカーーーーーン!!
と派手な効果音がなりそうな感じで、どこからともなく現れたのは蒲公英だった
「んーと、私を呼んだのは誰かな?一刀さん?」
蒲公英は部屋を見渡し、”認識”したのが一刀と香風のみ。呼んだ張本人は見えていなかった・・・
「蒲公英ちゃん!わいや、わいが呼んだんや!」
声をかけられ、ようやく及川の存在に気が付いた蒲公英は、うへーと嫌そうな表情を見せた
「えー、一刀さんじゃなくて、呼んだの佑なの?じゃあ蒲公英帰ろーと」
「待ってー!わいを見捨てないでえええ!」
扉に手をかけていた蒲公英に泣きつき、なんとか帰らないように説得を始める
蒲公英は及川がしがみついてきた及川に見えないように、《ニシシ》と悪戯を思いついた悪い笑顔に変化していた
「だって、佑は蒲公英じゃなくて、翠お姉さまが良いんでしょ?なら蒲公英は帰ってもいいよね」
「そないなことない!」
蒲公英は自身の言葉で、及川が返答に困ると予想していたが、この返答は予想外でおぉ?と驚きを隠せない
「だって・・・だって・・・わいは蒲公英ちゃんの事もめっちゃ好きなんやーーーーーーーーー!!!」
執務室どころか、周囲にも聞こえるように声を張った及川の告白
これには流石の蒲公英も、照れたり戸惑ったりすると一刀は思ったが・・・蒲公英という少女は一刀の予想の斜め上を行く反応をみせた
「ふ~ん。佑は蒲公英の事好きなんだ。じゃあさ、蒲公英のどんなところが好きなの?」
これが翠や鶸ならば、顔を真っ赤にさせながら慌てふためいて姿が見れただろうが、蒲公英は逆にニヤニヤしながら及川に問い返す。
「そうやな、毎日元気一杯に過ごしてる姿は可愛いと思うし、そないな蒲公英ちゃんを見て元気が出てくるんや」
蒲公英の反撃を受けた及川だが、流石に恋愛マスター(自称)しているだけあり、ものともせずに言ってのけた。
「それに、蒲公英ちゃんは馬超さんや鶸ちゃんをからかっとるけど、いつも気にかけてる優しい子だしな。そんな蒲公英ちゃんが大好きなんや」
及川の嘘偽りが一切ない本心をぶつけられ、蒲公英は言葉を失う。
従姉の翠に求婚したと思ったら、傑物と言われた孫堅の末娘《小蓮》にも慕われて満更でもない態度をしてきた。
それだけの男ならば、従姉や小蓮が及川を好いたりはしない。一緒に過ごしていく中で、及川のいい面も見てきた蒲公英だが、どうしても《良い人だけど、女が好きでお調子者》という評価しか下していなかった。
(一刀さんは知ってたんだね。佑にはこんなしっかりした面もあること)
香風を膝に乗っけたままの一刀は、珍しく真面目な親友に対して口を開く素振りは一切ない。
それどころか、毎日そうしてればいいのに....といった感情が込められてる
「佑が蒲公英の事どう思ってるのか知れたし、佑の気持ちは女の子としては嬉しいよ。でも…聞かれちゃってたみたい」
そう言うと、蒲公英はそっと指をさす
及川は蒲公英の言ってる意味が解らず、蒲公英の指した方を向くと……拳を強く握りしめながら、わなわなと身を震わせている・・・・翠の姿があった
「及川……お前、私や小蓮に飽き足らず・・・・蒲公英にも手を出すつもりか」
何かの用事で訪れていた翠は前後の話を知らない。
それゆえに、及川が蒲公英に本音をぶつけている場面をタイミング悪く目撃してしまった
『これは不味い』
長年の経験でそれを悟った及川は、その場に居る一刀や蒲公英に助けを求めるが....
「一刀さん、蒲公英の頭も撫でて欲しいな~♪」
我関せずの態度を貫く一刀の隣に座り込み、香風と同じように撫でてと甘える蒲公英の姿・・・
更に、鬼のような形相で自分に向かってくる翠の姿・・・
覚悟を決めた及川は、メガネを外して机に置き、手を思いっきり広げて叫ぶ
「わいは馬超さんの事も大好きやーーーー!」
今そんなこと言っても意味ないんだよー!と、大陸にその名を轟かす豪傑の手加減無しの拳が及川の頬に直撃する。
ミシっと本来聞こえてはいけないような音と共に、殴られた及川は宙を舞いそのまま落下する。
「いい・・・拳だった・・・・ガク」
あれだけの衝撃を食らっても、サムズアップと翠の拳を称えるだけの余裕が残ってる頑丈さ。
「お兄ちゃん、佑大丈夫なの?」
「問題ないよ、気を失ったフリしてるだけだから。あいつの頑丈さは異常だからね。それで馬超さん、ここにはなんの用事だったの?」
肩でハァハァと荒い息だった翠に要件を尋ねる。一刀の声でッハ!と正気に戻った翠は本来の要件を口にする
「そうだった、及川のアホで言うの忘れてたよ。もてなしの準備が出来たから一緒に来てくれ」
一刀抜きで進めていた準備が終わり、これから面会を行うから来てほしいから呼びに来たようだ。
承諾した一刀は、膝に座っていた香風を立たせ、蒲公英と香風を連れて準備された部屋へと歩み出す
「皆さん、初めまして。私の名は董卓、字を仲穎とお申します。翠さん、本日はお招き頂きありがとうございます」
「ボクの名前は賈詡、字は文和よ。董卓の幼馴染で軍師を務めてるわ。よろしく頼むわね」
国賓として翠が招いたのは、天水太守の董卓とその懐刀の賈詡だった。
涼州連合と天水は長年友好関係を結び、助け合いながら共生してきた間柄。
それゆえに、こうして忙しくてもお互い時間を作って、定期的に宴会を実施している。今回は一刀達が加入してから初めての宴会の為、自己紹介から入っていた
「私の名は曹仁、字は子孝っす」
「徐晃…公明」
「周泰幼平です、よろしくお願いします!」
「孫家の姫の一人、孫尚香だよ!よろしくねー!」
「お初にお目にかかります。わたくしの名は黄忠、字を漢升と申しますわ」
初対面の華侖、香風、明命が簡潔ながら自己紹介を終え、一刀達の番になったのだが、一刀と及川はポカーンと口を開いたまま固まってしまっている。董卓と賈詡の名を聞いた時から・・・・
この世界は、現代で学んだ人物とは性別や性格など違うが、翠・曹操・星・伏竜に鳳雛など、歴史にその名を残した人物が身にまとう雰囲気は、紛れもなく”英傑”と呼べる。
しかし、目の前の少女・・・・董卓と名乗った女の子の印象は『儚い』
今にも壊れてしまいそうな…これから訪れるであろう乱世を生き抜いていけるのか....そんなことが脳裏によぎってしまってた
「ご丁寧挨拶痛み入ります。私の名は北郷一刀と申します。字がない地域の生まれゆえ、北郷が姓で一刀が名になります」
「及川佑といいます。私も字が無い地域で生まれ育ったので、及川が姓・佑が名です」
男二人が自己紹介を終えると、涼州勢力の子にざわつきが生まれた。
翠と初対面の時でもぶっこんできたあのお調子者の及川が…口調を改めている衝撃が大きかった
「翠さんのところに、また人が集まりましたね」
「あぁ。特に北郷は内政を任せっきりな状態なんだけどな。さて、せっかくの宴席なんだし、堅苦しいのはこれぐらいにしようぜ」
「そうですね。せっかくの機会なんですから、無礼講で楽しみましょう」
中途半端になってしまいましたが、今回はここまでとなります。
次回はこの宴席の続きと、世の中が乱れるところまで行ければなと思います
さて、前回のコメでありましたが、及川に対して色々ご意見がありましたが、自分がそう見せてましたところもありましたは事実です。
及川の見せ場は少し先なので、いまはこんなおちゃらけたキャラ仕様です
一刀を相対的に良く見せるとかそういう意図はありません!(負担はかけてますがw)
ですので、コメで及川働けやー!などは構いませんが、そのコメを書いた人に対してのヘイトなどはお控えください。
あとは前にも言ったような気もしますが、TINAMIだから一刀マンセーとか及川下げのSSだろ。とか肩はすぐにブロックいたします
長くなりましたが、次回お会いしましょう(*- -)(*_ _)ペコリ
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