ここを絞めておけば失血が抑えられるのじゃ。
患部を綺麗に洗って清潔な布をあてて、よしっ、これで大丈夫なのじゃ。
「美羽、次の奴なのにゃ」
美以やミケ達が負傷者達を担ぎ上げて次々と運んで来る、妾と同じ位の体躯なのに凄い力なのじゃ。
「美羽ちゃん、ここは私達がやるから避難場所へ退避して」
「嫌じゃ!もう妾だけ安全な場所にいるのは絶対嫌じゃ!」
城内のまとめ役を任されておる紫苑には申し訳無いのじゃが、妾はここから離れんのじゃ。
戦が激しい状況になっとるのが誰でも分かるほどになってきておる。
まだ開戦して二日目なのに、既に総力戦じゃ。
妾は戦で何の役にも立たんのは分かっておる、逆に迷惑を掛けるだけなのも。
それでも、何でもいいから皆の力になりたいのじゃ。
ずっと、ずっと護られてばかりで、もう待っているだけなのは嫌なのじゃ。
「おかあさ~ん、美羽おねえちゃ~ん」
璃々!?
「璃々!!どうして来たの、早く戻りなさいっ!」
「だって、だって、・・・・・」
璃々だけではなくて、他の子供達も大勢来ているのじゃ。
紫苑が璃々達に戻るように諭しておるが、涙目になりながらも戻ろうとはしない。
本当は戻した方がいいのが当然じゃ、でも妾は自分と同じ気持ちである璃々達に戻れとは言えのうて、
「璃々、皆よ。倒れておる者達の手を握って声を掛けてやってたもれ。励ましてやってたもれ。そうすれば、そうすればきっと元気になってくれるのじゃ!」
「「「「「「 はい!! 」」」」」
皆が一斉に走り出して負傷者達に駆け寄る。
必死に手を握って懸命に声を掛ける皆に、苦痛の声を漏らしていた者達が逆に安心するように笑顔で返事をしていた。
それは普段から妾ら子供達を護ってくれている、大人達の強さと優しさなのじゃと強く思うた。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第54話
「無理に倒さなくていいの。槍と盾を隙間無く並べて押し返すの」
物凄い攻勢をかけてくる魏の軍勢に沙和は必死に指示を出すの。
特に春蘭さんの所は洒落にならないから、手段を選んでられなくて熱湯を使ってまで対応してるの。
雨さえ止めば火や油を使えるけど、今は無いものねだりなの。
「沙和。ここはウチが引き受けるからアンタは全体の指揮に戻り。アンタの命令が一番兵には気合が入るからな」
「分かったの、真桜ちゃん、此処は任せたの」
私や真桜ちゃんには凪ちゃん達みたいな凄い武は無いの。
でも一刀様や七乃ちゃん達は、沙和と真桜ちゃんなら兵士の皆の力を十二分に出せるって。
魏軍最強の夏候惇軍に対抗できるのは沙和達だけだって。
正直、何でなのかは分からないの。
移動の際に周りの兵士達の顔を見たら訓練してた時の事が蘇えるの。
汗を一杯流して、時には泣いて、それでも沙和について来てくれた皆を沙和は全部覚えてるの。
大事な、大事な事だから。
だから咽が潰れたって声を出し続けるの。
「クソ野郎どもー!槍でケツをほられたくなかったら相手のケツをほってやれーなの!」
「「「「「 サー、イエッサー!!! 」」」」」
此度の戦において華琳様だが、表面上は普段とお変わり無い。
だが私を含め皆が苦渋の決断を成されたのを分かっていた。
剣は悩む必要などなく、私は華琳様の決断に従うだけだ。
秋蘭も特に何も言わなかったしな。
それでも、先程までは何かしら自分自身に違和感があったのだ。
気合十分で戦に望んだ筈なのに、何か乗り切れないかんじだったからな。
それなのに敵兵達と剣を交えていたら、どうしようもなく戦意が湧き上がって来た。
戦闘が始まったからではない。
以前に霞と戦った時の高揚感ともまた違う。
何故なら、こんな敵と対峙した事が、戦を味わった事が無かったからだ。
強い。
単純な武なら我等の方が圧倒的に上だが、この敵兵達はまるで金剛のように硬い集団だ。
以前に虎牢関で戦った時よりも更に強い魂を感じる。
武ではなく、魂をぶつけあう戦。
私自身知らなかった、待ち望んでいた戦。
見事な敵への尊敬は、自然に私の意思を口にさせる。
「私は夏候元譲、貴殿等の奮闘に敬意を表し、全身全霊を持って戦おう」
何かおかしい。
攻撃してくる霞の剣が少しずつ重くなってきてる。
どうして?
「どないしたんや、恋。剣先が鈍っとるで」
「霞が変だから、凄く痛い筈」
「やっぱりバレとったかいな。そらそうや、なんとか防いだけどアンタの一撃をまともに受けてもうたからな。むしろ死なんかった自分を褒めたいわ」
「恋は本気でやった。霞や詠のしてる事、一刀を苦しめてる」
一刀だけでなくて月もそうだと思う、恋も悲しい。
月はまた一緒に居られるって言ってた。
それなのに、
やっぱ優しいなあ恋は。
ホンマ、何で武の神さんはこの娘を選んだんやろな。
動物と昼寝でもしとるのが一番似合うとるのに。
左脇辺りが痛いなあ、ひび位ですんどったらええけど。
・・一刀を苦しめとる、か。
言い訳にしか聞こえんやろうけど、ウチも詠も、月や一刀の為やったら幾らでも命張ったるよ。
惚れた相手の為なら本望や。
正直言うて、ウチは一刀が大陸の王になるて確信しとるしな。
そやのに何で戦うんか。
戦わんでええ理由なんて幾らでもあるやろうけど、後で後悔しとうないんや。
ウチは自分の心に正直にいく。
小難しい理屈はいらん、戦おうと思うから戦う。
「ウチがウチやからや!いくで、恋!」
「ちょっと、冥琳、また未然で防がれちゃったわよ」
詭計に強行、様々な戦術を行使するが城壁上に拠点を作れずにいる。
予想はしていたが、予想以上に鉄壁と化した西門を攻略する道筋が見出せない。
「冥琳ってば、聞いてる?おまけに私が向かおうとしたら必ず矢が集中して降ってくるんだけど」
「ああ、聞いてるよ。見事な指揮だよ、亞莎」
師として誇りに思う。
お前に出会った時の衝撃と喜びを思い出す。
「雪蓮、私達が相対してるのは大陸において最高級の指揮官だ。無茶な攻めをして少しずつ削っていく、兵法の禁忌を犯しながら成果の少ない戦いを続けるのが現状の最善だ」
「何よそれ、全然冥琳らしくないじゃない。亞莎が有能なのは分かるけど貴方には敵わないでしょ」
「違う、この戦いでは私の方が格上に挑む側だ」
それは亞莎が、現場での兵士としての戦歴を持つ軍師だからだ。
私や穏とて武器を持ち戦う事は出来る、だが基本は後方において指揮を行なっていた。
現場での兵士の心情や戦の流れ、形の見えない何かを、亞莎は私達より逸早く察知する。
その速さに知識を積み上げ己のものとした亞莎は、言ってみれば私の軍略と雪蓮の勘を兼ね備えた指揮官だ。
戦略等においてはまだまだだが、今回のような限定された戦場においてなら亞莎は正に天下無双だ。
「ふ~ん。私達が一番貧乏くじを引いちゃった訳ね」
「そういう事だ。だが私とて師の意地がある、雪蓮、手伝って貰うぞ」
「了解、そうこなくっちゃね」
凄いです、亞莎。
あの雪蓮様と冥琳様を相手に一歩も引かないどころか完全に押し勝ってます。
兵士の士気も上がり続けて留まる事を知りません。
「明命、中央の守備隊の援護に向かって下さい。おそらく雪蓮様が来ます」
えっ、でも両端の城壁に攻撃が集中してきてますよ?
口には出してなかったのですが私の疑問に答えをくれます。
「あれは囮です。例え拠点を作られたとしても直ぐに潰せます。敵兵の意識は中央です、お願いします」
「分かりました。直ぐに向かいます」
亞莎の言うとおり本命は中央でした。
雪蓮様の姿を確認し、心苦しくはありますが矢を集中させ退いて頂きます。
一騎当千の雪蓮様を城壁上に登らせる訳にはいかないのです。
亞莎は五日耐えれば蓮華様の援軍が到着されると言ってました。
それまで絶対に守り抜きます。
「こんのっ!」
「させないっ!」
互いの武器がぶつかって手がすっごく痺れる、縄で縛ってなかったら手から落としちゃってたよ。
「流琉の馬鹿ー、なんで出て来るんだよ」
兄ちゃんの所に行って帰ってこないのもズルイのに、よりによって戦にまで参加しなくてもいいじゃんか。
「私は兄様を護るの。季衣こそさっさと帰りなさい」
そんな訳にはいかないんだよ、兄ちゃんを死なせない為にも僕が捕まえなきゃいけないんだから。
兄ちゃんが前線に出てる今が好機なんだよ。
「流琉、僕は本気だから。邪魔をするなら容赦しないよ!」
「それは私の言う言葉だよ、絶対に通さない!」
季衣の馬鹿、そして華琳様の馬鹿。
どうしてそんなに素直になれないんですか。
兄様がどれだけ華琳様を大事に思ってるか、分かってないわけじゃないですよね。
華琳様が兄様と一緒にいる時にどんな顔をしているのか、皆知っているんですよ。
王様じゃなくて、只の女の子の顔をしてるんです。
取り繕ってますけど丸分かりです。
不器用にも程があります。
今の華琳様に兄様は渡しません。
あと季衣。
命令なのは分かるけど、もうちょっと考えなさい。
反省するまで御飯作ってあげないからね。
「ねねさん、予想通りではありますが、どうしましょうかねえ」
七乃殿の言うとおり、よくない状況なのです。
やはり一刀殿の守る正門が押されています。
士気は最も高いのですが、前線指揮を執る一刀殿は軍事の専門家ではないので敵に遅れをとっています。
ですが生半可な指揮官ではそれこそ対抗できないのです。
私や七乃殿は本営を離れるわけにもいかず、どうすれば。
有効策が出ぬまま徒に時が流れ、遂に一刀殿に敵が肉薄しているのです。
「七乃殿、ねねが至急向かいますので本営をお任せするのです」
「駄目です、一人で全体を支援なんて無理ですよ」
「ですがこのままでは、一刀殿を失えば全て終わりなのです」
「ええ、その通りです。でもまだ大丈夫ですよ、ほら、正門の望楼に大陸屈指の弓の名手が向かってますから」
拙いな。
流石に華琳の兵達だ、連合軍より数は劣るけど強さが比較にならない。
個の強さも連携の巧みさも全然違う、俺程度の指揮じゃ対応出来ない。
下がる様に周りから言われてるけど、それだけは絶対に駄目だ。
俺が背を見せたら頼みの士気が保てなくなる。
敵はもう間近だ。
剣を構え直した時、突如敵兵が矢を受けて倒れていく。
一刀様、御言葉に背く事をお許し下さい。
貴方様が私達親子のみならず、民の未来の為に剣を持ち戦われている事は承知しております。
その為に私達を戦から離そうとしている事も。
・・ですがお気付きでしょうか。
そのお姿を見ている私達が何を思うか。
大事にされている事を嬉しく思うからこそ、貴方様の為に何かをしたいと思う気持ちを。
真っ先に見せてくれた璃々や子供達の勇気を。
次は私の番です。
「曹魏の兵達よ、黄漢升の弓を受けなさい!」
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あとがき
お久しぶりです、小次郎です。
半年以上間を空けてしまい、大変申し訳無いです。
実は以前から愚痴をもらしていましたが、転職してようやく落ち着いたので投稿出来ました。
書く時間が全く無かった訳ではないのですが、気持ちが安定していないと納得出来ない文章しか書けない有様でした。
何とか以前の感触が返って来た感じでホッとしています。
このまま次話にとりかかろうと思いますので、またよろしくお願いします。
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開戦二日目
戦乱の世を戦い抜いてきた者達は、更なる成長を遂げていた。