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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五十六話 優人と緋鞠

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2016-06-18 20:35:09 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:13494   閲覧ユーザー数:12377

 ~~優人視点~~

 

 「やっと会えたな――緋鞠」

 

 「ヤッと……ヤッとキたカ」

 

 俺はようやく探していた存在――緋鞠に再会する事が出来た。

 

 「何でだろうな。お前が俺の前から消えて数日しか経ってないのに、やたら懐かしく感じるよ」

 

 俺が空き教室に足を踏み入れると緋鞠は机の上から飛び降り、臨戦態勢で構えだす。

 

 「去年、お前と数年ぶりに再会した時もここまで感じなかったのに…どうしてだと思う?」

 

 緋鞠は妖力で強化した腕を振るってくるが、俺は半歩下がってその攻撃を避ける。

 

 「肉裂キ、血ト華をサカせ、臓腑の汚泥デ閧の抱擁ヲフモウぞ」

 

 「……何言ってんだ。意味分かんねーぞ」

 

 明らかに正気を失っているのは言動だけじゃなく、目を見れば分かる。

 緋鞠から放たれている妖気も邪悪さを増していた。

 他の鬼斬り役からすればもう緋鞠は手遅れなのだと判断しても可笑しくは無い。

 でも俺はまだ手遅れだとは思わない。

 

 「俺は信じてる!まだ『緋鞠』は完全に呑み込まれてないって!」

 

 だから!だから!!

 

 「俺の声、聞こえてるんだろ!緋鞠ぃっ!!」

 

 「グ……うアぁ……!!」

 

 っ!!

 緋鞠に変化が?

 緋鞠は頭を押さえて呻き出す。

 

 「ワレ…ワタシ……ワカトノ……喰ッテ……ヒトツニ……」

 

 苦しみ出す緋鞠を見て、かつて緋鞠が俺に言った言葉がふと脳裏によぎる。

 

 

 

 ――――お主が最初に討つ妖は私やもしれぬな――――

 

 

 

 「…………お前を討つ訳になんて絶対にいくか」

 

 俺が一歩近付くと緋鞠は苦しみながらも一歩下がる。

 更に一歩近づくと一歩下がる。

 常に一定の距離を保とうとするがここは室内。

 下がっていけば必然的に緋鞠は背を壁にぶつける事になる。

 

 「ウゥ……クルナ……クルナァ!!」

 

 鋭い目付きと言葉で俺を威嚇してくるが、俺は歩みを止めない。

 手が届く距離にまで近付くと俺は緋鞠の両肩を掴み、力強い言葉で言う。

 

 「さっきの話の続きだけどな!たった数日会わないだけで何故こうも懐かしく感じると思う!?」

 

 「グ……ウアァ……」

 

 「それだけ緋鞠という存在が俺の中で大きくなってたんだよ!!」

 

 「ダ……マレ……ェ……」

 

 「傍にいて当たり前という存在になってたからだよ!!」

 

 「ダマ……レ……」

 

 「自分勝手だと思われようがな――――」

 

 俺は緋鞠を強く抱き締める。

 

 「俺はお前を絶対に離さないからな!!」

 

 絶対に!

 

 「ワカ……ト……ノ……?」

 

 「緋鞠!」

 

 「ぎ、ぎいああぁぁぁ!!!!」

 

 「緋鞠!?――うぐっ!!」

 

 緋鞠が僅かな間、大人しくなったと思うや否や、俺を突き飛ばして悲鳴を上げる。

 緋鞠は――戦っているんだ。アイツ自身の内側で。

 

 「緋鞠!しっかりしろ!闇なんかに負けるな!!」

 

 「あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!!」

 

 緋鞠から妖力が溢れ出し、室内に満ちていく。

 俺は再び緋鞠に近付くが

 

 「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!」

 

 「なっ!?」

 

 禍々しい妖気が――闇が室内を侵食し、室内ごと緋鞠の妖力に取り込まれた俺はどこかへと引きずり込まれる様な感覚に陥る。

 

 「これは……緋鞠の中へ入ろうとしているのか?」

 

 何故だか直感的にそう感じた。

 この闇は入り口――緋鞠の意識の内側へ繋がっている門のようなものだと。

 

 「……だとしたら」

 

 緋鞠を侵そうとしている闇をどうにか出来るチャンスかもしれない。

 緋鞠を苦しめる闇を――。

 

 「なら足掻くような事はせずに――」

 

 この引きずり込まれている様な感覚に逆らわず、身を任せよう。

 全ての大元――緋鞠の中の闇を祓うために………。

 

 

 

 ~~優人視点終了~~

 

 俺と九崎は如月先生――――大天狗である崇徳上皇が生み出した異空間のある一点――崇徳上皇が妖力で外の世界の現状を映し出している映像を眺めていた。

 映像の向こうでは優人が野井原を抱き締め、告白のような宣言をしてるじゃないか。

 

 「ぐぐぐ……我慢よ、我慢するのよ私。アレは緋鞠を助けるために仕方なくやってる行為なんだから」

 

 メチャクチャ羨ましそうに、そして嫉妬しつつ怒りを必死に堪えてる九崎。

 自分に言い聞かせているが元の世界に戻って優人に会った時、その怒りを抑えておけるのかちょっと心配だ。

 

 『ぎ、ぎいああぁぁぁ!!!!』

 

 む?

 映像の向こうでは野井原が突然声を上げて優人を突き飛ばした。

 

 「ほー。野井原の奴、まだ染まりきってはいなかったか」

 

 優人と野井原がいる教室の映像を映し出している崇徳上皇は意外だったと言わんばかりの表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻る。

 視線は映像の方に向いたままであり、コチラには一瞥もしないのに

 

 「(隙が無ぇ……)」

 

 迂闊に近付けない凄みを感じる。

 遠距離から攻めようとしても距離を取る間に何らかの妨害や攻撃が来るかもしれん。

 何よりも九崎を人質にでもされたら攻撃自体が出来んようになる。

 九崎を護りつつ、崇徳上皇をどうにかせにゃならんなぁ。

 

 「長谷川ぁ……後でちゃんと元の世界に帰してやるから今は大人しくしてろって」

 

 「……そういう訳にもいかねえんですわ大天狗さん」

 

 「おいおい、私の事は如月先生と呼んでくれて良いんだぞ。むしろ大天狗とか崇徳上皇って呼ばれるより今の名の方が気に入ってるしな」

 

 随分現世に染まってるなあオイ。

 

 「冴ちゃんお願いだから私達を優人の元へ連れて行ってよ!」

 

 「おいコラ九崎。その呼び方は止めろと前々から何度も言ってたよなぁ?」

 

 「うっ……」

 

 崇徳上皇にジロリと睨まれるだけで言葉を詰まらせた九崎。

 

 『あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!』

 

 画面の向こう側では野井原が絶叫を上げ、室内に光が満ちていく。

 何だ!?優人の奴、何かしやがったのか!?

 

 「ほぅ……天河の奴、入り込む気か(・・・・・・)

 

 入り込む?

 崇徳上皇から漏れた言葉が聞こえた。

 画面の向こうでは室内の光が徐々に収まっていく。

 

 「優人は!?緋鞠は!?2人はどうなったの!?」

 

 食い入るように画面を見つめ、九崎が心配してる2人だが、光が完全に収まった室内では優人も野井原も意識無くその場で倒れていた。

 

 「優人!?」

 

 九崎の悲鳴染みた叫びが届く。

 

 「心配するな九崎。天河は入り込んだんだよ。野井原の深層意識(・・・・・・・・)にな」

 

 深層意識――。

 何でそんなトコに……って考えるまでもないわな。

 

 「野井原の闇――それを祓うために、ですよね?」

 

 「あぁ」

 

 優人は野井原の内に潜む大元を叩き、救うつもりなんだろう。

 野井原を殺さずに救えるのは現状優人だけだろう。

 優人の声ならば野井原にも届く――筈なんだが……

 

 「(一体何だ?この言い様の無い不安感は……)」

 

 得体の知れない不安が妙に頭をよぎる。

 

 「(もしかして俺は心のどこかで優人が野井原の救出に失敗する(・・・・)と思い込んでいるのか?)」

 

 明確な答えが出ないのがまた不安を煽る要素になっている。

 

 「……………………」

 

 「だーかーらー。その敵意を抑えろ長谷川。全く最近の現代っ子は喧嘩っ早くて困る」

 

 「すんません。何せ現代っ子なものですか…………らっ!!!」

 

 即座に禁猟区域(インポッシブルゲート)で崇徳上皇との距離を詰め、拳を叩き込むが

 

 「おっと」

 

 簡単に避けられ、崇徳上皇は翼を羽ばたかせて更に上昇する。

 むぅ……ようやく隙っぽいのが出来たから不意を突いたつもりだったんだが。

 

 「いやはや……驚いたな。何の前触れも無く急に瞬間移動してくるとは」

 

 「驚いたと言う割にはあっさり避けてますよね?」

 

 「敵意を向けてくるから何らかの攻撃があるだろうとは簡単に予測出来るだろ?それにお前結構計算高そうだしなー。反撃や迎撃より防御か回避に徹した方が賢明だと判断した訳さ」

 

 「……こりゃ苦戦しそうだなぁ」

 

 溜め息を吐きながら俺は両手に炎を纏わせる。

 

 「はっはっは。コチトラ数百年は生きてる妖様だぞ。産まれて十数年の若造に負けたら流石に日本三大妖としての威厳がなぁ」

 

 「九尾と酒呑はその若造達に倒されてるんですが?」

 

 「そういやそうだな」

 

 「つー事でさっさと俺に倒されてこの空間から抜け出させて下さい」

 

 もしくは普通に通常の空間へ転移して下さい。

 

 「もう少し我慢ってもんを覚えろよ若造。何度も言うけど永遠にここに閉じ込めようって訳じゃない。ちゃんと天河が結果(こたえ)を見せてくれたら元の世界に帰してやるからさぁ」

 

 「まあ、確かにそうなんでしょうね。アンタの言葉からは『嘘』が見えない」

 

 会話を交わしている最中にこっそり日輪庭園(ヘリオスガーデン)で崇徳上皇の感情を盗み見たが、『嘘』の色は一切見えない。

 つまりは本当に時間が経てばこんな風に戦わずとも元の空間に帰してくれるんだろう。

 

 「――けどそれじゃあ遅いんすわ。どうも俺の直感的なものが『早く戻れ』と訴えてる様で」

 

 「何だ?お前は天河が野井原の救出に失敗する(・・・・)とでも思ってるのか?」

 

 「え!?そうなの!?」

 

 「……………………」

 

 九崎も驚いた様子でコチラを向くが、俺は崇徳上皇の言葉を否定せず沈黙したまま。

 

 「だけどソレはあくまで直感なんだろ?それ、アテになんのか?」

 

 「さあ?あくまで直感で感じただけなんで」

 

 所詮は直感。根拠なんてものは一切無い。

 

 「ま、どんな理由だろうと答えは『否』であり、話は平行線のままだわな」

 

 「そうッスね」

 

 手に纏わせた炎の勢いが増す。

 崇徳上皇はパッと見、何も展開していない様に見えるが、彼女の髪が僅かに靡いているところを見るに妖力で風を起こしているのだろう。

 

 「神火 不知火!!」

 

 俺は牽制の意味も込めて両手で作った炎の槍を崇徳上皇に向かって投擲する。

 

 「ふぅ…」

 

 崇徳上皇が手を薙ぐと緩やかな風は荒れ狂う暴風へと姿を変え、神火 不知火の軌道を変えて逸らされ、炎の槍が崇徳上皇に直撃する事は無かった。

 

 「炎を掻き消すつもりだったんだが、軌道を逸らすので精一杯とはな」

 

 むむむ…。

 そんじょそこらの風程度で神火 不知火の軌道を変えるなんて事は無理に等しいのだが。

 しかも向こうも全然本気じゃないのは理解出来ているが、神火 不知火を逸らすために使った力は如何程のものか。

 全力の内の8割ぐらい?5割?それとも3割以下?

 未だに向こうの実力の底が読めない。

 

 「(とりあえず相手の実力を見極めつつ、この空間から脱出する手筈も整えないと……)」

 

 俺は崇徳上皇の相手をしながら、優人達のいる現実空間へ戻るための準備を始めるのだった………。

 

 

 

 ~~優人視点~~

 

 「ここは……野井原の、じーちゃん家か?」

 

 何時の間にか畳の上に胡坐をかいて座っていた俺は室内を見渡し、どこかで見た事のある室内だと思い、すぐにそれが以前訪れた野井原の天河家であると理解した。

 

 「これが緋鞠の意識の奥底――なのか?」

 

 いや――確実にそうなんだろう。

 ならこの世界の何処かに緋鞠の意思がいる筈だ

 

 「問題は何処にいるか――――っ!!?」

 

 つい先程見た時には何もいなかった筈の背後から視線が刺さるのを感じた俺は振り返ってみた。

 

 「――――緋鞠?」

 

 そこにいたのは和服を見に纏い、俺に背を向けている緋鞠の後ろ姿だった。

 普段髪を束ね、ポニーテールにしているリボンは無く、ストレートに髪を下ろしている状態だ。

 けど……何故だろうか?

 

 「(緋鞠……だよな?)」

 

 コチラを見向きもしない後ろ姿の緋鞠が、緋鞠ではない(・・・・・・)と感じるのは。

 

 「…………あれ?」

 

 パチパチと瞬きをした次の瞬間、緋鞠の姿は消えていた。

 部屋に残されたのは俺1人だけ。

 

 「緋鞠の奴、一体何処に?」

 

 この部屋に緋鞠はいない。

 しかし何故か視線だけは相変わらず何処かから感じる。

 

 「(視線を向けているのは緋鞠に違いない)」

 

 ここは緋鞠の意識の中なんだから。

 いつまでもこの部屋で座っていても仕方がない。

 俺は立ち上がって部屋を出て、玄関に向かう。

 視線は感じても、緋鞠はこの家にはいない気がするから。

 玄関の鍵は閉まっておらず、外に出ると照りつく様な日差しが頭上から降り注ぎ、セミの鳴き声がそこら辺の木から聞こえてくる。

 緋鞠の意識の奥底では季節は夏を模しているらしい。

 

 「…半袖で良かった」

 

 現実世界はまだゴールデンウィーク突入前の春だというのに、例年よりも気温が高かったので俺は半袖の服を着ていたのだが正解だった。

 てか意識の奥底でも夏らしい暑さもしっかり再現されてるなオイ。

 玄関を出てまずは左右を確認しようと首を振ると

 

 「――――加耶?」

 

 そこには座敷童子の妖である加耶が緋鞠の時と同様に、俺に背を向け箒で落ち葉を掃いていた。

 これも緋鞠の意識が再現してる一部なんだろう。

 

 「なあ加耶。緋鞠は何処にいるか知らないか?」

 

 俺は玄関から出て再現された加耶に近付き、話し掛ける。

 彼女は地面を掃いていた箒を持つ手を止め、ゆっくりと振り返る。

 振り返った加耶には――――本人とは思えない程の無表情だった。

 再現された存在とはいえ、ここまで表情が抜け落ちていると違和感バリバリだな。

 無表情の加耶はゆっくりと口を動かしただ一言――

 

 

 

 ――デテイケ――

 

 

 

 と言うだけだった。

 

 

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!!

 

 

 

 「な、何だこの音は!?」

 

 俺はたまらずに両耳を自分の両手で塞ぐ。

 しばらくはこの妙な音が鳴り響き、音が止んだ時には目の前にいた筈の加耶の姿は何処にも無かった。

 はぁ……まだ緋鞠がこの世界の何処にいるか聞いていないのに。

 

 「自分の足で探せって事なのか?」

 

 少なくともこの近くにはいると思うんだが……。

 

 

 

 ――人に害為す妖は討たねばならぬ。例えそれがどのような姿をしていても――

 

 

 

 「っ!!?」

 

 俺が今出てきた玄関の方から声がしたので振り返ると

 

 「じっちゃんと……ばっちゃん?」

 

 俺の祖父母である天河源之介、天河佐和子が静かに佇んでいた。

 この2人も緋鞠の記憶を元に再現されたんだろう。

 

 「――――――――」

 

 ばっちゃんがある方向を指差すので俺の顔もそちらへ向ける。

 あっちは確か……池のある方角。

 

 「ばっちゃん、もしかして緋鞠が――――って……」

 

 また玄関の方に振り向いた時には2人の姿はどこにも無かった。

 

 「……………………」

 

 俺は少しの間立ち竦んでいたが、すぐにばっちゃんが指差していた池のある方角に向かって走り出した。

 

 「(いる……緋鞠は池のある場所に間違い無くいる)」

 

 そう確信出来た俺は光渡しで自分自身を強化し、更に走る速度を上げる。

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!!

 

 木々の合間をすり抜け、光渡しで強化してから2分程で目的地に辿り着く。

 池のほとりに人影は無い。

 ――が、岩の上に一匹の白猫が座りながら空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここまで来たか、若殿」

 

 「ああ、ようやく会えたな――――緋鞠」

 

 緋鞠の意識の奥底という領域(せかい)において、俺はようやく緋鞠と再会を果たしたのだった………。

 

 

 

 「若殿も気付いておろうが、ここは私の心の奥底……所謂(いわゆる)深層心理と呼ばれる場所の一角じゃ」

 

 「そりゃあ気付くよ。この地を見ればな」

 

 「ふふっ。自分で言うのもなんじゃが私の根っこはやはり野井原(ここ)という事じゃな」

 

 緋鞠は喋りながら、猫の姿から人の姿へ変化した。

 

 「ともかく、深層の緋鞠が無事で良かったよ。やっぱり耐えてたんだな」

 

 俺は緋鞠の肩に触れようとしたがそれは叶わなかった。

 

 「触れるでない」

 

 他でもない緋鞠本人に拒絶されたからだ。

 緋鞠は和服を着てるのにも関わらず、池の中に迷わず入っていく。

 

 「私は既に過ちを重ねてしまった。『人と妖の共存』というお主の理想を汚してしまった」

 

 「な、何言ってんだよ。そりゃー学校にいる皆は意識を失ってたけど、お前はまだ誰も殺してない。それに勇紀だって、アイツの力で緋鞠の被害を抑えてくれてんだ。だから……」

 

 だからそんなに罪を感じないでくれ。

 勇紀が持つ『魔法』の力で最悪の状況にはなっていない。お前はまだ邪妖にまで堕ちてないんだよ。

 

 「……悔しいが以前公安の鏑木が言っておった事は正しい。若殿がいくら望もうが凶悪な妖はいるのじゃ。そしてその本質は変えられぬ」

 

 「……………………」

 

 「お主は赦せるか?例えばお主のご両親…」

 

 「え!?」

 

 俺の父さんと母さん?

 

 「詳しくは聞いておらぬが事故で亡くなったそうじゃな」

 

 「あ、あぁ…」

 

 「――本当にそうか?」

 

 「……どういう……意味だ?」

 

 緋鞠が俺の目を見据えて聞いて来た問いに対し、俺は疑問しか浮かばなかった。

 

 「お主の両親は――妖に殺されたのではないか?」

 

 「なっ!!」

 

 緋鞠から告げられた言葉に衝撃を受けた。

 父さんと母さんが殺された。事故ではなく殺された(・・・・)

 

 「ほれ」

 

 「うぶっ!」

 

 バシャッと音が鳴り、俺の顔に緋鞠が池の水をかけてきた。

 

 「私の言葉を真に受けるな。殺されたのではないか(・・・・・・)と問うた筈じゃぞ?」

 

 「あ、あぁ……そうだな」

 

 確かに緋鞠はそう言ったな。

 けどそういう考えはした事無かった。

 父さんと母さんが殺されたかもしれない――か。

 

 「じゃが有り得ぬ話では無い。現に佐和婆の御守りの効力が消えた直後にお主は襲われた」

 

 ああ、泰三に憑りついて襲ってきたヤツの事か。

 

 「それにな若殿。私とて潔白では無い」

 

 「え?」

 

 「今まで…………今まで言えんかった。私はな――」

 

 そして緋鞠の口からは信じられない言葉が飛び出す。

 

 「人間(ヒト)を1人、手にかけておる(・・・・・・・)

 

 「……………………」

 

 その緋鞠の告白に俺は固まり、言葉が出なかった。

 緋鞠が………人を殺した事があるだって?

 

 「う…嘘だろ」

 

 俺はそれが緋鞠の冗談だと信じたかった。

 

 「嘘では無い。私の手は――――」

 

 止めろ緋鞠!

 そんなの…………聞きたくない!

 

 「……済まぬな若殿。ほんとに済まぬ」

 

 緋鞠の言葉に悲しみが混じっているのが感じられる。

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!!

 

 「私が三途の向こう……彼岸へと送ったのはお主の身内……源爺じゃ(・・・・)

 

 …………そんな……嘘だろ?

 

 「それでも私を赦す事が出来るか?若殿」

 

 今まで告げられた言葉の中で最も強い衝撃が俺を襲った。

 緋鞠が唯一殺した人物が……じっちゃんだったなんて………。

 

 「(じっちゃん……)」

 

 俺は…俺は何も知らなかったのか?

 

 「(いや……)」

 

 そんな筈は無い。

 かつて緋鞠はじっちゃんの事を『親だ』と言ってたじゃないか。そこには確かに『絆』があった筈……。

 

 「理由を…聞かせてくれ」

 

 親と慕っていたじっちゃんを何の理由も無しに緋鞠が殺すとか考えられない。

 俺が思い浮かぶとしたら緋鞠の中の闇がじっちゃんを殺したっていう内容ぐらいだが、それは無いだろう。

 もしそうなら緋鞠は俺と再会する前に邪妖として堕ちている筈だ。

 けど、俺と再会した時の緋鞠は確かに『緋鞠』だったんだ。

 だから俺のこの推測は問答無用で却下。

 別の理由がある筈なんだ。

 

 「じっちゃんは妖と戦って死んだんだろ?」

 

 俺はじっちゃんと戦った妖がお前だとは思いたくない。

 

 「ああそうじゃ。私が駆け付けた時にはもう――」

 

 私が駆け付けた……つまりじっちゃんと戦ってた妖は緋鞠じゃないって事だ。

 その事に俺は若干安堵する。

 

 「源爺は深手を負っていて自らの死を悟っておった。私にも致命傷に見えた傷じゃったしな。私は源爺に頼まれ源爺の最期を――」

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 おい待て!!それって――――

 俺と緋鞠の間には沈黙が訪れ、聞こえるのはセミの鳴き声だけである。

 まあ、黙っていてもアレなんで俺は言うが。

 

 「緋鞠、それは『介錯』って言うんだからお前は何も悪くないんだぞ」

 

 あーもー。

 俺の中のいろんな感情が一瞬で吹き飛んだ気分だわ。

 

 「ば、馬鹿にするな!介錯ぐらい知っておる!!」

 

 本当かー?

 

 「害意が有ろうが無かろうが、源爺の身に刃を通した事実は変わらぬ!若殿には分からんのじゃ!最後の一押しをした私の気持ちが!!」

 

 「もう良いって」

 

 俺も池の中に入り、先程触れるなと言われたにも関わらず、緋鞠に近付いて彼女の身を抱き締めた。

 

 「全くおどかしやがって。緋鞠が人殺しかと思ったじゃないか」

 

 「しかし!!」

 

 「じっちゃんを苦しみから解放してくれたんだろ?」

 

 寧ろお礼を言わなくちゃいけないじゃんか。

 

 「ありがとう緋鞠。じっちゃんに尽くしてくれて」

 

 本当にありがとう。

 

 「む……うぅ……////」

 

 緋鞠は頬を染めた後、顔を僅かに俯けた。

 

 「……………………」

 

 何か……抱き締めてるだけなのに妙に気持ち良いな。

 それにちょっとムラムラしてきて変な気分に――――

 

 「――若殿」

 

 「ふぁ!?」

 

 「……どうしたんじゃ?」

 

 「い、いや!何でもない!」

 

 「???」

 

 首を傾げる緋鞠。

 いきなり呼ばれてビクッとした事を妙に思われたりしたかな?

 けどおかげでムラムラしてた気分も吹っ飛んで、これはこれで良かったのかも。

 もしあのままだったらもう……我慢できなかったかもしれない。

 

 「(うぅ……何でこんな事で欲情しかけてたんだか。………溜まってんのかなぁ?)」

 

 ムラムラが吹き飛んで嬉しい様な残念な様な…。

 そんな事を思っている間に緋鞠は俺の腕を優しく解き、抱擁から脱出する、

 

 「――若殿、頼みがある」

 

 「頼み?」

 

 俺が首を傾げると緋鞠は自分の得物、安綱を具現化し、俺に渡そうと差し出してきた。

 

 「これで………私を斬れ(・・・・)

 

 「……………………え?」

 

 緋鞠は『自分を斬れ』とハッキリ言った。

 俺に…緋鞠を斬れ、と。

 

 「な……いきなり何言ってんだよ!!」

 

 俺は憤慨する。

 緋鞠を斬るなんて事……出来る訳無いだろ!!!

 

 「先の話と同じ事じゃ。私の介錯を頼む」

 

 「かい…しゃくだって?」

 

 「私は若殿の従者、しもべ、(まつろ)う者…。『野井原の緋剣』である私が若殿の前に立ちはだかる事は決してあってはならぬ。如何にこの身が邪気に満たされようともじゃ」

 

 立ちはだかるって……何言ってんだよ…。

 

 「私がお主の理想を砕く事など、断じてしたくない!!」

 

 「だからって…どうしてそれがお前を斬る事に繋がる!?冗談は止せよ!!」

 

 「……若殿よ。私は今こうしてお主と普通に話しておるが、実は残された時間はあまり長くないのじゃ」

 

 「え?」

 

 「聞こえるじゃろう?あの音が」

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!!

 

 その音は俺がここに来るまでに何度か聞いた音だ。

 疑問には思っていたが、緋鞠はあの音の正体を知っているのか?

 

 「あれは私の内に潜む闇と九尾から奪った邪悪な妖気が融け合った存在(・・)が、この深層意識まで食い破ろうとしておる音じゃ。もしここまで浸食(おか)されてしまっては……私はもう元へは戻れぬ」

 

 「っ!!」

 

 「今更ながら九尾のろり狐(・・・)の恐ろしさを知るわ。心をこのような邪妖(モノ)に浸して、なお制御し、自我を保つとは」

 

 上を見上げる緋鞠に一筋の冷や汗が流れる。

 

 「正直私には抑えきれぬ。ならば私が正気の内に奈落の底、黄泉の淵まで降り、怨念を鎮めてこねば。このようなもの現世に放出する訳にはいかぬからな」

 

 「お前はどうなるんだよ!?」

 

 俺は淡々と言う緋鞠の言葉を聞いて、怒鳴る様な大声で聞き返した。

 

 ビキッ!!

 

 その時だ。空に大きな亀裂が入ったのは。

 

 「な、何だ!?」

 

 「いかん!!若殿早く!!早く私を討ってくれ!!」

 

 「ば、馬鹿言うな!!」

 

 「先程も申したであろう!アレを世に解き放っては害しか生まぬ!!お主は現実世界で生きる者達を危険に晒すのが本望か!?」

 

 「そんな訳無いだろ!!けどお前を討つのも嫌なんだよ!!!」

 

 「ええい!!我が儘を言うでない!!早く私を――――」

 

 「ウタセハセヌヨ」

 

 「「っ!!?」」

 

 誰だ!?

 ここは緋鞠の世界。緋鞠本人と外から入って来た俺以外には誰もいない筈。

 パシャッと水が跳ねた音が聞こえ、声の主が湖に足を入れた。

 

 「馬鹿な……」

 

 「嘘……だろ?」

 

 湖に入って来た声の主は…………緋鞠(・・)だった。

 ただ俺の側にいる緋鞠と違い、髪は肩の長さぐらいまでしかなく、とてつもない禍々しさが感じられる。

 てか何故緋鞠がもう1人?

 

 「若殿!アレは私の内なる本能と邪妖が混ざり合った存在(モノ)じゃ!!」

 

 「はあ!!?」

 

 んな馬鹿な!?

 ソイツは今、深層意識に侵入しようとしてる筈じゃないのか!?

 

 ビキッ!!ビキビキッ!!

 

 現に上空に亀裂がどんどん入ってはいつつも、まだソイツが入り込める様な入り口とか穴とかは無いぞ。

 

 「オ前ノオカゲダ鬼斬リ役」

 

 「何っ!?」

 

 俺のおかげだと!?

 

 「オ前ガコノ世界ニ入ルサイ、我モ自身ノ一部ヲ切リ離シテオ前ノ後ヲ追イ、コノ世界ニ侵入シタ。モットモコウヤッテ姿ヲ具現化スルノニ多少ノ時間ガ必要ダッタガナ」

 

 そんな……コイツがここにいるのは俺のせいだってのか……。

 

 「深層意識(ココ)ヲ完全ニ取リ込メバコノ肉体モ完全ニ我ノ物トナル。ソレマデソイツヲ討タセル訳ニハイカヌノダ」

 

 「私がここで討たれれば貴様諸共滅するからであろう?」

 

 緋鞠が緋鞠の姿を模した邪妖に言うと、邪妖は『ソノ通リダ』と肯定した。

 が、続けて邪妖は言う。

 

 「貴様ガ鬼斬リ役ニ討タレレバ我モ共ニ消滅スルガ、我ガ貴様ヲ殺ス分ニハ問題ナイ」

 

 これ以上ない邪悪な笑みを浮かべ、狙いを緋鞠に定める邪妖。

 

 「直ニ我ノ本体ガココヲ食イ破リ、侵入スレバドノ道貴様ハ終ワルノダ。大人シク我ガ糧トナレ」

 

 「っ!!湖の水が!!」

 

 邪妖が放出する妖気の一部が足元を伝い、湖の水を侵食していく。

 浸食された部分は透き通った透明から、何も見えない漆黒へと染まる。

 

 「……邪悪なる本能が既に侵入していたとは完全に私の想定外じゃ。かくなる上は……」

 

 ドンッ!

 

 「わっ!」

 

 突然緋鞠に押され、バランスを崩した俺は尻餅をつく羽目になる……と思っていたが

 

 ドボンッ

 

 「ごぼっ!?」

 

 俺は尻餅をつくどころか、そのまま湖の中に沈んだ。

 何で!?さっきは普通に歩けた場所なのに!!

 しかも俺の身体は水面に向かって浮き上がるどころか、何かに引っ張られてどんどんと湖の底に沈んでいく。

 

 ――済まぬな若殿。

 

 ゴボゴボともがく俺の頭の中に緋鞠の声が直接響いてくる。

 

 ――これ以上、ここにいれば若殿の精神も取り込まれたままになり、現実世界(おもて)で寝ておる若殿の肉体に精神が戻れぬ事になるかもしれぬ。だから勝手ではあるがお主の精神を強制的に外に出し、肉体の方へ戻る様にしておいた。

 

 「(な、何でそんな事するんだよ緋鞠。俺とお前の力を合わせれば……)」

 

 ――お主が目を覚まし、次に視界にとらえた私は最早、邪妖に完全に取り込まれ堕ちた存在へと成り果てているだろう。――――だから頼む若殿。

 

 「(俺とお前の力を合わせれば、どうにか出来たかもしれないのに何でお前はそんな悲しい選択を選ぶんだよ……)」

 

 ――どうかお主の……お主の手で――――

 

 「(緋鞠……緋鞠ぃ……)」

 

 ――――私を…………滅してくれ――――。

 

 緋鞠いいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 俺は必死に心の中で緋鞠の名を叫ぶが、何も出来ずそのまま沈みゆく中で意識を失った………。

 

 

 

 「……はっ!?」

 

 意識を取り戻した俺はガバッと勢いよく上半身を起こす。

 視界に入ったのは教室の一角。

 どうやら俺の意識が自分の肉体に戻ってるみたいだ。

 

 「緋鞠!?緋鞠は!?」

 

 部屋中を見渡すが緋鞠の姿は確認出来なかった。

 くそっ!アイツ何処に行ったんだよ!!

 俺は立ち上がって教室を出た。

 

 「緋鞠の結界は健在か」

 

 なら結界内……つまり風芽丘学園内の何処かにいる筈。

 緋鞠自身から発せられる妖気は全く感じられない。妖気を抑えて隠れているのか?

 

 「…………ん?」

 

 何だろう?

 一瞬だったけど、結界に歪みが生じたような……。

 運動場の方角からだったけど。

 

 「行ってみるか」

 

 探す当てが無い今、何か僅かな違和感でも見逃す訳にはいかない。

 俺は教室から出て運動場まで駆け出す。

 校舎を出て違和感を感じた場所にいたのは銀髪を靡かせた少女――神宮寺くえすと、虚弱体質を自称する少女――夜光院柩の2名だった。

 

 「くえす!柩!お前達も来たのか!」

 

 「天河優人!現状はどうなっていますの!?」

 

 「猫神君の結界は未だ健在だけど、どうにか出来たのかな?」

 

 向こうも俺の姿を捉えると真っ先に寄って来た。

 

 「…緋鞠の方は…その……」

 

 柩の問いに俺は言い淀む。

 

 「……ふむ。その反応から察するに失敗したと見るべきかな」

 

 「んな訳無い!!失敗なんてしていない!!」

 

 「だがここには猫神君がいない。コチラ側としてはそう結論付けるのも無理は無いんじゃないかな?」

 

 「ぐっ……」

 

 何も言い返せない。

 

 「それよりもゆうちゃんはどうしましたの?ココは貴方だけじゃなくゆうちゃんも通っている学校の筈ですのに」

 

 「勇紀は…途中までは一緒だったけど」

 

 あの階段を上るまでは確かに俺は勇紀と凜子と共に居た。

 けど今はいない。

 

 「もしかしたら校舎内の罠に引っ掛かっているのかも」

 

 「罠?あのブラドをも倒せる程の実力を持つゆうちゃんが猫如きの罠に引っ掛かるとでも?私なりの見解ですと緋鞠よりもブラドの方が格上ですわよ」

 

 そのブラドってのが誰なのかは知らねーけど、現に勇紀が一緒にいないのが事実だし。

 

 「……緋剣の妖力に紛らせている別の妖力を感じる。緋剣とは別の妖の罠に掛かったと見るべきだろう」

 

 「っ!!アンタは!!」

 

 くえすと柩の背後から更に現れたのは、鬼斬り役十二家を纏めている土御門家の鬼斬り役――土御門愛路だった。

 

 「天河君。君が緋剣を御せない以上、コチラの取る手段は1つしかないぞ」

 

 「だから!!俺はまだ失敗してなんか――」

 

 「だが向こうは既にここにいる全員を敵として認識しているぞ(・・・・・・・・・・・)

 

 「え?」

 

 厳しい視線を校舎の屋上に向けている愛路さんに釣られて、俺も屋上を見る。

 そこには――――

 

 「……………………」

 

 安全柵(フェンス)の上に立ちながら、運動場にいる俺達を見下ろしている緋鞠の姿があった。

 無表情な緋鞠が僅かに口元を吊り上げると、彼女から禍々しく膨大な妖気が発せられ

 

 「我ガ(エサ)トナレ。人間ドモ」

 

 低い声色で俺達に告げた。

 屋上に佇み、大きな声を上げた訳でもないのに関わらず、声が届いたって事は以前静水久が言ってた『風声』っていう術を使ったのか。

 

 「…どうやら向こうは本気でくるみたいですわね」

 

 くえすは魔導書を手にし

 

 「被害がこの学園の外にいつ及ぶとも限らない」

 

 愛路さんは護符を展開する。

 2人は臨戦態勢を取る中

 

 「くひひ、ボクは正面から戦える実力なんて無いからココから離れさせてもらうよ」

 

 柩だけが俺達と距離を取り始める。

 

 「待ってくれ!!緋鞠を、緋鞠を助ける方法はある筈なんだ!!だから――」

 

 「天河優人。猫を大事に想う気持ちは分からなくもないですが、アレはもう堕ちてしまった邪妖です。いい加減に覚悟を決めなさい」

 

 「アレ程の巨大な妖気を放つ妖になっているんだ。君のために尽力してやりたいが手加減など出来る相手ではない以上、君にとって最悪の結末を迎える事も止む無しなんだよ」

 

 つまりは――――滅するって事かよ。

 

 「それでもその結末を『是』としないのなら――――君が何としても彼女を救い出して見せろ」

 

 「え?」

 

 愛路さんから出た言葉は意外なものだった。

 てっきりもう俺の意思を無視して、緋鞠を討伐するものだと思っていたのに。

 くえすも表情を驚愕のものに変えていた。彼女にとってもその言葉が予想外だったのだろう。

 

 「我々の体力と霊力がもつギリギリまではどうにか殺さずに応戦しよう。だが君が彼女を救えず我々でも無理だと判断したらその時は――」

 

 「……いえ、絶対に今度こそ緋鞠を助けてみせますよ」

 

 「――なら良い」

 

 そう答えて愛路さんは更に霊力を解放した。

 

 「だが先程も言ったが今の彼女に手加減は出来ない。最悪猶予前に滅してしまう可能性もあるから急いで何とかしてくれよ」

 

 「はい!」

 

 俺は愛路さんの言葉に力強く返事した。

 

 「っ!来ますわよ!!」

 

 くえすのその言葉と共に、緋鞠は屋上から俺達目掛けて飛び下りてきた………。

 

 

 

 ~~優人視点終了~~

 

 ~~あとがき~~

 

 再び原作ブレイク。

 深層意識の世界で緋鞠の説得に失敗し、闇緋鞠降臨。

 メインヒロインが敵になる事ってよくありますよね~。

 ま、結末はどうであれ、この調子なら後2話ぐらいでおまひま原作も終了です。

 

 それと全く本編とは関係無い話ですがスパロボの新作発表で自分のテンションがUPUP状態……しかもクロスアンジュ参戦という事で感極まりないです。

 痛姫様(アンジュ)はエースとして育て上げるとして、後はゴキブリ(ヒルダ)サラ子(サラマンディーネ)ぐらいですかね、使うとすれば。

 OGシリーズの最新版も今月末に発売されるし、個人的に今月は良いトコ尽くしです。

 後はチマチマと構想を練っている『勇紀が介入するスパロボの二次小説』がいつ本格的に文章に出来て投稿出来るか(←…………え?)。


 
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