No.846512

ハートオブクラウン・エキシビションマッチ その後

枝原伊作さん

*本文書は、拙作の“ハートオブクラウン・エキシビションマッチ 1/4~4/4”を全てお読みになられていることを前提とした内容となっております。
 また、サムネイルの画像はイメージであり、実際の内容とは特に関係はありません。
 以上二点、ご注意下さい。


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2016-05-07 19:33:00 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:685   閲覧ユーザー数:685

 

祭りの後、日も暮れて──。

 

「皆様こんばんは、ベルガモットです」

定位置の実況席ではなく、選手たちによる激闘が繰り広げられていた円卓の前に座したベルガモットは、いつもの調子で淡々と話を切り出した。

「大会終了後ではありますが、今回、元司会進行であるクラムクラムさんの一存により、急遽予定外の試合が行われることとなりました」

「いわゆる番外編ってやつね」

ベルガモットが状況説明を行っていると、彼女の隣に座すクラムクラムが横から口を挟む。

「しかし、どうして藪から棒に試合を始めようなどと言い出したのですか? 大会も終了している上に、とうに日も暮れていますのに」

「そりゃ簡単。この大会の最中に発売された“姫君たちの幕間劇”って新しい拡張セットを買ってきたから、さっそくそれを使って遊んでみようってだけの話よ」

クラムクラムは、ベルガモットに簡潔な回答を行うと、横においてあった袋からルルナサイカ付きの侍女の姿が描かれた長方形の紙箱を取り出した。

「そういや、それって今日出る予定だったっけ。すっかり忘れてたよ」

クラムクラムの掲げた四角い箱を見たレインは、それに目を凝らしつつ感想を漏らす。

「おや、レインさんはお帰りになられておられなかったのですか」

「さっきの大会で、私は試合をしてなかったでしょ? そこにクラムからあとで試合をするって話があったから、私も混ぜてもらったってわけ」

ベルガモットがレインの方へと顔を向けると、レインは軽く笑みを浮かべた。

「他の皆様方は、明日からの公務再開に備えてお帰りになられたのですが。もしかして、レインさんはお暇なのですか?」

「ほっといてよ。ていうか、そういうベルだってここに残ってるよね。暇なのはお互い様じゃないの?」

事情を知ったベルガモットからの嫌みが飛ぶと、レインは顔をしかめながらもすかさずベルガモットへ反撃を見舞う。

「私がここに残っているのは、大会の後片付けという当初からの予定によるものですので。あなたにとっては残念なことかもしれませんが、あなたとは事情が違うのですよ」

「ぐぬぬ……」

それをベルガモットが涼しい顔で受け流すと、レインは思わず歯噛みした。

「私はまた今度でもいいんじゃないかって言ったんだけどね。ふわぁ……」

そこへ、ふいに実況席の方からあくびが響く。

「シオンさんも、お付き合いお疲れ様です」

「レインを残したまま帰るってわけにもいかないしね。それに、この状況だと司会進行役をできるのが私くらいしか残ってないし」

ベルガモットが視線をレインから実況席の方へと移すと、彼女の目には頬杖をつくシオンの姿が映った。

「ところでクラムさ、これってどうしても今やらなきゃいけないことなの?」

「大会中にみんなも言ってたけど、みんなで集まれる機会ってあんまりないからね。それに、三人で一試合やるだけなら手際よくやればたいした時間もかからないでしょ」

シオンが気だるげにクラムクラムへ質問を行うと、彼女は紙箱からカードを取り出しながらそれに答える。

「それはそうなんだろうけどさ」

「なら、それでいいじゃない。細かいことは気にしない気にしない」

そして、彼女はシオンからの反論がないことを確認すると、質問への回答を打ち切った。

「じゃ、このへんでちゃちゃっとルール説明よろしく。大会の最中、前置きが長いってご意見をけっこう頂いたことだしね」

「まあ、この雰囲気ならぱっぱと試合を済ませたほうが早く帰れそうだしね。了解」

シオンは、続くクラムクラムの目配せを受けると、眠たげな目をこすりながら実況席の上に置かれた紙に目を落とし、試合の詳細について説明していく。

「この試合で使う拡張セットは、“姫君たちの幕間劇”を含んた現時点でのフルセット。で、ルールとしては、“姫君たちの幕間劇”で追加された新しいバリアントルールの“アドバンスドデッキ”が適応されるって書いてるね」

「それを使わなきゃ、“姫君たちの幕間劇”で遊ぶ意味がないからね」

「たしかにね。あとは、後見人もサポートカードもありの、普通の個人戦ルールみたい」

クラムクラムの言葉に同意を一つ、シオンは説明を続けていく。

「普通だねー」

「ただ、サポートカードの効果については、改定前のものを使うか改定後のものを使うかを擁立のときに一回だけ選べるみたいだよ」

そこへレインが相槌を打つと、シオンは説明内容を補足した。

「“姫君たちの幕間劇”とは関係がない部分だけど、サポートカードの効果も改定前と改定後で結構違ってるからね。なら、それを状況に応じて自由に選べるような仕組みがあってもいいんじゃないかってことよ」

「とはいえ、シャオリンさんのような、改定前の効果が改定後の効果の純粋な下位互換になっているカードもあったりしますがね」

クラムクラムがシオンの補足に更なる補足を付け加えると、すかさずベルガモットからの指摘が飛ぶ。

「あんたはいちいち細かいわねー」

「私としては、あなたが大雑把すぎるだけだと思うのですが」

「まったく、本当にあんたはああ言えばこう言うんだから……」

クラムクラムは、自分の文句を聞いても相変わらずなベルガモットを前に、げんなりとした表情で軽くため息をついた。

「で、クラム、続けていいの?」

二人のやり取りを眺めていたシオンは、区切りがついたところを見計らってクラムクラムへ説明再開の確認を取る。

「あ、話の腰を折っちゃってごめん。続けていいわよ」

「分かった。なら続けるよ」

それを聞いたクラムクラムがシオンへ軽く頭を下げると、シオンは説明を再開した。

「それで、今回の試合サプライ構成は、港町、割り符、工業都市、錬金術師、交易船、免罪符、結盟、ケットシー、春風の妖精、灯台って構成になってるね。紙に書かれてる説明内容はこれで終わりみたい」

「ふむふむ、ドロー効果のあるカードだらけのサプライだね。これは、展開次第じゃ決勝戦のとき以上に早く決着がつくかもね」

シオンが説明を完了させると、レインは発表されたサプライ構成への考察を述べていく。

「時間も結構遅いしね。あたしの一存で、さくっと終われるような展開に持っていけるサプライ構成にさせてもらったわよ」

そうしたレインの考察内容を耳に、クラムクラムはそれに対してもサポートカードの時と同様に補足を入れた。

「そこまでするくらいなら、やっぱり日を改めてからのほうがよかったんじゃない?」

「私としては、その話はもう終わった話だと思ってるんだけど」

そこへ、シオンからの理にかなった疑問が挟まれると、クラムクラムはそれを強引にねじ伏せる。

「じゃ、説明も終わったところで試合始めるわよ。開始宣言よろしく」

「……うん、別にいいんだけどね。じゃ、試合開始」

そして、クラムクラムが何事もなかったかのようにシオンへ試合開始を促すと、シオンはクラムクラムの強引さに半ば呆れつつも、彼女に促されるまま試合開始を宣言した。

番外試合:1ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

工業都市*2 交易船*3 割り符*4 結盟*2 錬金術師*1 港町*2 春風の妖精*3 ケットシー*2

 

デッキ構成:

ベルガモット  農村*6 屋敷*1 従者*1 お付の侍女(ホノカ)*1 見習い侍女*1

クラムクラム  農村*6 屋敷*1 従者*1 お付の侍女(シャリファ)*1 見習い侍女*1

レイン     農村*6 屋敷*1 従者*1 お付の侍女(ミンニャン)*1 見習い侍女*1

 

擁立した姫(後見人):

ベルガモット  none

クラムクラム  none

レイン     none

 

直轄地構成:

ベルガモット  none

クラムクラム  none

レイン     none

 

サポートカード:

ベルガモット  none

クラムクラム  none

レイン     none

 

継承点:

ベルガモット  none

クラムクラム  none

レイン     none

 

 

「ところでクラム。先程から思っていたことなのですが、口調がいつものあなたのものに戻っていますね」

試合の幕が上がると、一番手となったベルガモットは、クラムクラムへかねてからの疑問を発しながら農村を二枚並べてケットシーを購入する。

「そりゃ、司会のお仕事はとっくの昔に終わってるからね。今やってるのは、大会とはなんの関係もないただのお遊びだし」

次に、二番手のクラムクラムは、ベルガモットの疑問に回答すると農村三枚で交易船を購入する。

「私としては、今に限らずそもそもあの大会自体がただの壮大なお遊びだったんじゃないかって気もするんだけどね。みんなも余興だの祭りだのってさんざん言ってたし」

その後、クラムクラムの言葉に対する感想を挟みつつ、レインは農村三枚を並べてクラムクラムと同じく交易船を購入した。

「奇遇ですね。私もちょうど、レインさんと同じように考えていたところです」

ベルガモットは、レインの感想に同意を一つ、農村四枚と屋敷を使ってケットシーと都市を一枚づつ購入する。

「……あんたらさぁ。世の中には建前ってもんがあるんだから、大人としてそれを尊重しなさいよ」

そんな二人のあけすけな言動に頭を痛めながらも、クラムクラムは農村三枚と屋敷で港町を購入する。

「つまり、クラムもあの大会がただのお遊びだったってことは認めてるんだね」

それに続いて、レインはクラムクラムをからかいながら、またしてもクラムクラムの後を追うように農村三枚と屋敷を使って港町を購入した。

「まあ、あの大会がただのお遊びであるということを否定できるような要素は特に見当たりませんからね」

三ターン目に入ると、ベルガモットはまずケットシーで山札底の従者を捨て札にし、その後ケットシーの効果でドローした農村に加えて手札の農村二枚と都市を並べると、先のターンと同様にケットシーと都市を一枚ずつ購入する。

「ふたりして人の揚げ足ばっか取ってんじゃないっての。じゃ、あたしはここで農村と屋敷と港町と、最後に交易船のコイン2枚で擁立ね。使うプリンセスカードはアナスタシア、後見人はベルよ」

続けて、クラムクラムは二人に軽く悪態をつくと、擁立宣言と共にアナスタシアのカードをプリンセスカード置き場から自分の直轄地へと移動させた。

「あ、もう擁立なんだ。やっぱりというか、クラムは速攻重視なんだね」

「あったりまえでしょ。商売の世界もこのゲームも、要は先手必勝ってことよ」

シオンの視線が向けられる中、クラムクラムはアナスタシアのカードに続いて裏返しにしたベルガモットのカードを自分の直轄地へと移動させる。

「そういうところ、クラムらしいっちゃらしいよねー」

そして、クラムクラムの擁立を見届けたレインは、農村二枚と交易船で二枚目の港町を購入した。

番外試合:4ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

工業都市*3 交易船*1 割り符*5 結盟*2 錬金術師*3 灯台*1 春風の妖精*3 免罪符*3

 

デッキ構成:

ベルガモット  農村*6 都市*2 屋敷*1 従者*1 ケットシー*3 お付の侍女(ホノカ)*1 見習い侍女*1

クラムクラム  農村*5 交易船*1 従者*1 お付の侍女(シャリファ)*1 見習い侍女*1

レイン     農村*6 港町*2 交易船*1 屋敷*1 従者*1 お付の侍女(ミンニャン)*1 見習い侍女*1

 

擁立した姫(後見人):

ベルガモット  none

クラムクラム  アナスタシア(ベルガモット)

レイン     none

 

直轄地構成(キープカード):

ベルガモット  none

クラムクラム  港町(なし) 屋敷(なし) 農村(なし)

レイン     none

 

サポートカード:

ベルガモット  none

クラムクラム  なし

レイン     none

 

継承点:

ベルガモット  none

クラムクラム  -2

レイン     none

 

 

「しかし、お二人とも、今回初めて使用する拡張セットでのゲームのわりには随分と手慣れた様子に見えますね」

四ターン目、ケットシーで山札底の見習い侍女を捨て札にし、ドローした屋敷と手札の農村三枚を並べて春風の妖精を二枚購入したベルガモットは、ふとこれまでのクラムクラムとレインの様子を振り返る。

「そりゃ、拡張セットの内容が発売前にだいたい公開されてたおかげで予習はばっちりできてるからね」

クラムクラムは、ベルガモットに理由を説明しながらアナスタシアのカード効果で山札の一番上に呪いを置いてマーケットの割り符を手札に入れると、農村二枚を並べてから割り符でお付の侍女と農村を追放し、最後に春風の妖精を購入してターンを終えた。

「それに、今のところ、予習と実際のプレイ感覚がそこまでかけ離れてるって感じもしないしね。ベルだって、そのへんは似たようなものじゃないの?」

クラムクラムの説明に言葉を付け加えつつ、レインは農村と屋敷でケットシーを購入する。

「レインさんの抱かれた実際のプレイ感覚というものが、これまでと比較すると序盤の手札が少しだけ使いやすいものになったくらいというような内容のものであるのならば、私も概ね同感ですね」

ベルガモットは、レインからの質問を耳にすると、一枚目のケットシーを使って山札底の都市を山札の上に移動させ、続いて二枚目のケットシーで移動させた都市を手札に加えながら山札底の農村を捨て札にするという動作と並行して、それに対する回答を行う。

「うん、私のプレイ感覚もだいたいそんな感じだよ」

「そうですか。ならば結構です」

そして、レインから頷きが返ってきたことを確認すると、彼女は都市二枚と農村を並べて免罪符を購入し、手札の見習い侍女と農村を追放してターンを終えた。

「まあ、わざわざ“小拡張セット”なんてつけてるあたりから考えると、“姫君たちの幕間劇”がプレイ感覚にそこまで大きな影響を与えるようなものじゃないってのはある意味当然のことだと思うけど」

「確かにね。そこについては、あたしも一理あるとは思うわ」

三人のやり取りを傍で聞いていたシオンが、“姫君たちの幕間劇”という拡張セットに対する自分の見解を口にすると、クラムクラムはそれに同意を示しつつアナスタシアの効果で再び割り符を手札に入れる。

「ただ、あたしとしてはこれから次第なところが大きいと思ってるけどね。この後に戦術研究が進んだり新しい拡張セットが出たりしたりすれば、“姫君たちの幕間劇”による初期手札の違いにも大きな意味が生まれたりするのかもしれないし」

それから、彼女はシオンの見解に自分なりの注釈を入れると、従者を並べた後に割り符の効果で手札の呪いと農村を追放し、最後に農村と交易船で都市を購入してターンを終えた。

「ところで、見た感じだと、クラムはアナスタシアのカード効果で手札に入れた割り符でカードを整理しながら、その割り符と結盟を組み合わせて継承点カウンターを稼いでいくっていうわりとおなじみの戦術なんだね」

続いて、割り符を集めていくクラムクラムの行動から彼女の戦術に目星をつけたレインは、農村三枚と屋敷で二枚目の交易船を購入する。

「清々しいまでに見え見えの戦術ですね」

ベルガモットは、クラムクラムの戦術に極めて彼女らしいコメントを挟みながら、ケットシーで山札底の従者を捨て札にし、ドローした農村と手札の農村二枚で都市を購入した。

「そういうあんただって、ケットシーと春風の妖精と結盟の組み合わせでの継承点カウンター稼ぎなんていう清々しいまでに見え見えの戦術なんでしょーが!」

自分のことを棚に上げたベルガモットの物言いに思わず憤慨しつつも、クラムクラムはアナスタシアの効果で獲得した結盟を使ってサブタイプに魔法を宣言し、その後に手札の春風の妖精で手札の呪いを捨てつつ山札から二枚ドローする。

「確かにその通りですが、そもそもの話として、私は見え見えの戦術が一概に悪いと言ったつもりはありませんよ」

「……ほんと、あんたのそういうとこだけはさすがのあたしもかなう気がしないわ」

だが、彼女は自分の反論にもいけしゃあしゃあとした態度を貫き続けるベルガモットの厚顔さに気勢を削がれると、気疲れを顔にありありと浮かべながら割り符の効果で手札の呪いと農村を追放し、最後に農村と都市を並べて都市を購入してターンを終えた。

「たしかに、見え見えの戦術はやることが単純なぶんだけつぼにはまると強いし、そういう意味じゃベルの言ってることも間違いじゃないね」

「なるほど。なら、ベルとクラムの動きには要警戒だね……」

そんな二人のやり取りにシオンがコメントを挟むと、それを聞いたレインは、ひとり気を引き締めながら農村三枚と屋敷、港町を並べて工業都市を購入した。

番外試合:7ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

工業都市*3 交易船*1 割り符*3 結盟*1 錬金術師*5 灯台*2 皇帝の冠 免罪符*2

 

デッキ構成:

ベルガモット  農村*7 都市*3 屋敷*1 従者*1 免罪符*1 ケットシー*3 春風の妖精*2 お付の侍女(ホノカ)*1

クラムクラム  農村*3 都市*2 交易船*1 従者*1 結盟*1 割り符*2 春風の妖精*1 見習い侍女*1 呪い*1

レイン     農村*6 港町*2 交易船*2 屋敷*1 従者*1 工業都市*1 ケットシー*1 お付の侍女(ミンニャン)*1 見習い侍女*1

 

擁立した姫(後見人):

ベルガモット  none

クラムクラム  アナスタシア(ベルガモット)

レイン     none

 

直轄地構成(キープカード):

ベルガモット  none

クラムクラム  港町(なし) 屋敷(なし) 農村(なし)

レイン     none

 

サポートカード:

ベルガモット  none

クラムクラム  なし

レイン     none

 

継承点:

ベルガモット  none

クラムクラム   1

レイン     none

 

 

「……さて、頃合いですし、ここで私も仕掛けると致しましょうか」

レインのターンが終わると、ベルガモットは仕掛けの宣言と共に、春風の妖精を二枚並べ、お付の侍女と従者を捨てて山札からカードを四枚ドローする。

「では、私は手札の屋敷と都市、農村三枚で擁立を行います。使用するプリンセスカードはレインさんとシオンさん、後見人はフラマリアさんです」

それから、残りの手札を並べ終えると、手に取った双子のカードと裏返しにしたフラマリアのカードを手早く自分の直轄地へと移動させた。

「ふーん、ベルはここで擁立か……」

この試合において最も警戒すべき相手の仕掛けを目にしたクラムクラムは、顔を強張らせると、アナスタシアのカード効果で獲得した錬金術師で山札からカードを二枚ドローする。

「とはいえ、あたしの手札の回りも今のところは悪くないし、この状況が続いてくれるならどうにかできる見込みもあるわね」

続いて、彼女は交易船を直轄地の港町にキープしてから都市と農村を並べ、割り符で手札の呪いと見習い侍女を追放すると、最後に都市を購入してターンを終えた。

「むむ……。この流れだと、コインパワーに頼る戦術を取ったのはちょっとまずかったかな……」

にわかに状況が動きを見せ始めると、レインは自分の不利を肌で感じながらも港町を並べ、次に交易船の効果で山札からカードを二枚ドローすると、最後に農村二枚と交易船を使って二枚目の工業都市を購入した。

「的確な状況分析ですね。先程行われたクラムの戦術の看破といい、大会中に私がレインさんへ行いました数々の講義の内容を生かして頂けているようで、何よりです」

ベルガモットは、ほんの少し表情をほころばせながら冴えない表情のレインへ一声かけると、双子カウンターを一つ使用し追加ターンを宣言する。

「へー、ベルが私を褒めてくれるなんてね。少しは見なおしてくれたってことかな?」

「調子に乗らないで下さい。そもそも、本来はこの程度の判断についてはできて当然のことなのですから」

レインがベルガモットからの賞賛という珍事に思わず鼻を高くすると、ベルガモットはそれをたしなめつつ手札の免罪符の手札起動能力で免罪符を追放して結盟を獲得し、次に手札のケットシー二枚を直轄地の屋敷と都市にキープして最初のターンを終える。

「あんたって、ほんとに素直じゃないわよねー」

「放っておいて下さい」

その後、彼女は僅かに頬を染めながらにやけ顔のクラムクラムのからかいをあしらうと、農村二枚と都市二枚を並べ、工業都市を購入して追加ターンを終えた。

「ま、それは置いとくとして。ベルも着々と手を進めてきてるわね……」

クラムクラムは、視線をベルガモットから自分の手札へと移すと、キープしていた交易船をリコールし、従者とアナスタシアのカード効果で手札に入れた二枚目の錬金術師を使った後、リコールした交易船を従者の下に並べて山札からカードを二枚ドローする。

「でも、ベルには悪いけど、今回の勝負はあたしがもらうわよ!」

そして、彼女は手札の結盟を使ってサブタイプに商人を宣言すると、最後に割り符二枚を並べ、手札の農村と呪いを二枚ずつ追放してターンを終えた。

「創作の世界とかだと、勝ちをがっついたら最後には負けるってのが相場だけどね」

「だまらっしゃい、現実はいつだって虚構を上回んのよ。あれだけ勝つ勝つ言ってた予選二戦目のルウェリーがちゃんと勝ったみたいにね!」

シオンは鼻息を荒くするクラムクラムに横から冷や水を浴びせるが、クラムクラムの瞳に灯る炎は衰えを見せない。

「まあ、シオンが言ったこともクラムが言ったことも間違いじゃないし、そのへんに結論を出せるのは結果だけってことなんだろうね」

そんな二人のやり取りの横で、レインはケットシーを使って山札底の見習い侍女を捨て札にすると、ドローした屋敷と手札の農村を並べて二枚目のケットシーを購入した。

「む、ケットシーが売り切れましたか……」

ベルガモットは、自分の戦術のキーカードであるケットシーが売り切れたことに少々表情を渋くしながら、最後の双子カウンターを使用して追加ターンを宣言する。

「最初のターン。私はまず、手札の結盟を使用しサブタイプに魔法を宣言。次に、キープしていたケットシーを二枚全てリコールし、手札の一枚と合わせたケットシー三枚を全て使用します」

続けて、彼女は一枚目のケットシーで従者を、二枚目のケットシーでお付の侍女をそれぞれ山札底から山札の一番上に移動させ、三枚目のケットシーで山札底の農村を捨て札にしつつ山札のお付の侍女を手札に入れると、工業都市を使って従者も手札に入れる。

「ベルの動きも、ここに来て派手になってきたね……」

「このゲームに限った話ではありませんが、攻めるべき時には一息に攻めきるのが攻める際の基本ですからね」

その後、シオンの視線が注がれる中、ベルガモットは手札の都市と農村を一枚ずつ並べ、次に手札の春風の妖精二枚を直轄地の屋敷と都市へキープすると、最後に免罪符を購入し、手札の農村と従者、そしてお付の侍女を追放して最初のターンを終えた。

「では、追加ターン。私は手札の免罪符の手札起動能力により、免罪符を追放して錬金術師を獲得。次に、都市二枚と農村二枚を使用。最後に、二枚目の工業都市を購入してターンを終了します」

そして、長い最初のターンを終えたベルガモットは、息を抜くこともなく矢継ぎ早にやるべきことを行って追加ターンを終了させた。

「ん? なーんか、ベルの戦術の軸がコインパワーに寄って行ってるような気がするんだけど……」

ベルガモットのターンが終わると、アナスタシアの効果で獲得した三枚目の錬金術師を使うクラムクラムの口から、ベルガモットの戦術に対する疑念が漏れる。

「私にもそう見えるね。工業都市を二枚も買ってるし」

「でしょ? 戦術の軸が結盟のままなら、工業都市を買うよりも免罪符で農村を整理するのを優先するはずだしね」

それにシオンが同調すると、どこか安心した表情を浮かべながら彼女に言葉を返したクラムクラムは、都市二枚を並べた後に割り符で手札の呪いと農村を追放し、手札の春風の妖精を直轄地の屋敷にキープした後に港町を購入してターンを終えた。

「さっき、私にコインパワーに頼った戦術はまずいって内容のことを言ったばっかなのにね。ベルって、自分のことを棚に上げるのが好きだよねー」

そうした二人の会話に横から口を挟みつつ、レインは工業都市を二枚使って山札から二枚ドローすると、続けて港町を二枚並べる。

「何事も、時と場合によりますからね。ある状況では下策とされるような策も、状況が違えば上策になり得るということです」

「クラムも言ってたけど、ベルは本当にああ言えばこう言うよね……」

レインの嫌みを傍で聞いたベルガモットがしれっとレインへ答えを返すと、レインはベルガモットのずぶとさに呆れ顔を見せつつ、交易船二枚と農村を並べて皇帝の冠を購入した。

「まあ、切り返しのうまさと言葉の引き出しの豊富さは素直にほめてもいいんじゃないかな。さっきみたいな我田引水だって、できない人にとっては本当にできないことだと思うし」

「賞賛して頂けるのは結構なのですが、どこか釈然としない気持ちが湧き上がってくるのはどうしてなのでしょうかね……」

その後、シオンがレインに向けてベルガモットへの含みを微妙に感じさせる言葉をかけると、ベルガモットはその内容に頭を抱えた。

番外試合:10ターン目開始時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

工業都市*1 交易船*2 割り符*3 結盟*3 錬金術師*1 灯台*3 妖精女王エルルーン 免罪符*1

 

デッキ構成:

ベルガモット  農村*5 都市*3 結盟*1 錬金術師*1 工業都市*2 ケットシー*3 春風の妖精*2

クラムクラム  都市*3 港町*1 交易船*1 錬金術師*3 従者*1 結盟*1 割り符*2 春風の妖精*1

レイン     農村*6 港町*2 交易船*2 屋敷*1 従者*1 工業都市*2 ケットシー*2 お付の侍女(ミンニャン)*1 

        見習い侍女*1 皇帝の冠*1

 

擁立した姫(後見人):

ベルガモット  レイン&シオン(フラマリア)

クラムクラム  アナスタシア(ベルガモット)

レイン     none

 

サポートカード:

ベルガモット  なし

クラムクラム  なし

レイン     none

 

直轄地構成(キープカード):

ベルガモット  都市(春風の妖精) 屋敷(春風の妖精) 農村(なし)

クラムクラム  港町(なし) 屋敷(春風の妖精) 農村(なし)

レイン     none

 

継承点:

ベルガモット   3

クラムクラム   3

レイン     none

 

 

「……ともかく、私が目指していたデッキの構築は先のターンで概ね完了致しましたので、この辺りで大勢を決めさせて頂きます」

程なくして調子を戻したベルガモットは、まず工業都市を二枚並べて山札から二枚ドローし、次にキープしていた春風の妖精二枚をリコールしてから結盟を使用して、サブタイプに魔法を宣言する。

「そして、私は手札のケットシー三枚とリコールした春風の妖精二枚を使用した後、山札からドローした錬金術師も使用。最後に、それらにより手札に入れた農村四枚と都市三枚を使用して妖精女王エルルーンと宮廷侍女を一枚ずつ購入し、ターンを終了します」

「うわっ、ここに来てえげつないことしてくるわねー……」

ベルガモットの見せた一気呵成の追い込みに少々気圧されながらも、クラムクラムはアナスタシアの効果で獲得した免罪符の手札起動能力で議員を獲得すると、手札の錬金術師二枚を使用し山札から四枚ドローする。

「……そういうふうに免罪符を使えば、継承権カードを獲得できないアナスタシアのカード効果でも間接的に継承点カードが獲得できるってことか。面白い発想だね」

「ふっふっふ、驚いたでしょ。こういう応用が効くのが、アナスタシアのカード効果のいいところよねー」

シオンがクラムクラムの見せた免罪符の使用方法に感心していると、得意げに従者と結盟を並べたクラムクラムはサブタイプに商人を宣言し、リコールした春風の妖精と二枚の割り符で手札の呪いを捨て札にしつつ山札から六枚ドローする。

「ですが、これは本来免罪符に期待されている追放効果を主眼とした使用方法ではありません。ということで、私としてはこれは単なる窮余の策、有り体に言えば苦し紛れと考えますが」

「……あんたの頭の中の辞書には、言わぬが花って言葉はないの?」

そこへベルガモットがすかさず水を差すと、クラムクラムは顔をしかめながら港町と都市三枚、交易船を並べて公爵と春風の妖精を一枚ずつ購入し、ターンを終えた。

「にしても、この状況って、もしかしなくても擁立すらしてない私にとってはかなりまずいかな……」

ベルガモットとクラムクラムが見慣れたやり取りを交わす中、レインは顔に焦りを浮かべると、手札の農村三枚を使って宮廷侍女を購入する。

「ええ、かなりまずいと思いますよ。私は早ければこのターン、遅くとも次のターンには戴冠式を行う予定ですので」

そんなレインを横目に、ベルガモットは結盟を使ってサブタイプに魔法を宣言すると、続いて春風の妖精を二枚並べて手札の農村二枚を捨て、山札から四枚ドローした後に妖精女王エルルーンと宮廷侍女を直轄地にセットして戴冠式を宣言した。

「ぐっ……」

すまし顔のベルガモットを目に歯噛みをしつつ、クラムクラムはアナスタシアの効果で獲得した錬金術師を使用し、山札から二枚ドローする。

「……この手札じゃ、どうやっても二十点には届かないわね」

そして、手札の呪い二枚と公爵、都市二枚と結盟を全て捨て札置き場に送り、ターンを終了した。

「展開が早くなるとは思ってたけど、まさかここまで早く決着がつくことになるなんてね……」

それに続いて、レインがクラムクラムの後を追うように自分の手札を全て捨て札置き場へ送ると、試合はベルガモットの勝利という形で幕を閉じた。

番外試合:試合終了時

 

場に出ているコモンマーケットカード:

工業都市*1 交易船*2 割り符*3 結盟*3 春風の妖精*1 灯台*5 港町*1 免罪符*1

 

デッキ構成:

ベルガモット  農村*5 都市*3 結盟*1 錬金術師*1 工業都市*2 ケットシー*3 春風の妖精*2

クラムクラム  農村*1 都市*3 港町*1 交易船*1 錬金術師*3 従者*1 結盟*1 割り符*2 春風の妖精*2 公爵*1 議員*1 呪い*2

レイン     農村*6 港町*2 交易船*2 屋敷*1 従者*1 工業都市*2 ケットシー*2 お付の侍女(ミンニャン)*1 見習い侍女*1 

        宮廷侍女*1 皇帝の冠*1

 

擁立した姫(後見人):

ベルガモット  レイン&シオン(フラマリア)

クラムクラム  アナスタシア(ベルガモット)

レイン     none

 

サポートカード:

ベルガモット  なし

クラムクラム  なし

レイン     none

 

直轄地構成(キープカード):

ベルガモット  都市(なし) 屋敷(なし) 農村(なし)

クラムクラム  港町(なし) 屋敷(なし) 農村(なし)

レイン     none

 

継承点:

ベルガモット   20

クラムクラム   6

レイン     none

「ということで、私の常日頃の提言は確かな見識に裏打ちされたものであり、決して小うるさいなどという不当な評価を受けるようなものではないということは、この試合の結果を通じて皆様方にもご理解頂けたことかと思いますが」

「あ、やっぱりそのへんは気にしてたんだ……」

試合が終わって、ベルガモットが開口一番に勝者の弁を述べると、レインの口から感想が漏れる。

「そこは別に気にしなくてもいいと思うよ。憎まれっ子世にはばかる、って言葉も世の中にはあることだし」

「あなたの言葉を肯定すると、私が憎まれっ子であることを私自身で肯定してしまうことになるのですがね……」

それを聞いたシオンがどこかずれたフォローをベルガモットへ行うと、彼女は思わず眉間にしわを寄せた。

「それはそうとして、クラムさ」

「ん?」

シオンは、そうしたベルガモットを気にすることなくクラムクラムの方へと顔を向ける。

「試合のほうは特に盛り上がるところもなく終わったわけだけど、このあとなにか盛り上がるような落ちとか用意してるの?」

「え? このただのお遊びにそんなのあるわけないじゃない」

そして、小首をかしげるクラムクラムに質問を行うと、彼女は当たり前のようにそれに即答した。

「いや、そんなことをそんなに堂々と言われても……」

あまりにも身も蓋もないクラムクラムの回答内容に、シオンは思わず面食らう。

「そんなもこんなもないわよ。だから、あれやこれやは一切合切抜きにして、今回の試合に関する話はこれで終わりってことで!」

「えー……」

そんなシオンの戸惑いをよそにクラムクラムが有無を言わせず試合の終了宣言を行うと、シオンのみならず、レインやベルガモットも顔に困惑の色を浮かべた。

「それより、せっかくだから、この後暇ならあんたらも後片付け手伝ってよ。終わったら食事でもおごらせてもらうからさ」

クラムクラムの終了宣言に三人が呆然とする中、クラムクラムは続けて双子へ後片付けの手伝いを依頼する。

「いや、私は眠いから早く帰りた──」

「えっ、なんかおごってくれるの? なら手伝ってもいいよ」

出し抜けなクラムクラムからの依頼をにべなく断ろうとするシオンであったが、その言葉はおごりという単語に目を輝かせるレインによってかき消された。

「……」

「……本当に、お付き合いお疲れ様です」

そうしたレインの背後でシオンがひとり仏頂面をすると、ベルガモットはその心中をおもんばかり、静かに彼女をねぎらった。

「……まあ、ここでごねてもたぶん無駄骨になるんだろうし、それならそれで手早く片付けるかな」

「じゃ、あんたらの手伝いも決まったことだし、シオンはとりあえず掃除の準備でもしといてよ。レインは机と椅子の片付けね」

そして程なく、シオンが軽くため息をつきながらも覚悟を決めると、クラムクラムは早速双子へ指示を飛ばす。

「了解」

「はーい」

それを聞いたシオンはゆっくりと、レインは試合の疲れを感じさせない軽やかな足取りで、指示された各々の持ち場へとそれぞれ足を進めていった。

 

 

こうして、姫たちの夜は更けていく──。

 

 

                                ─完─

 

 
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