No.84578

真・恋姫†無双~江東の花嫁達~(リクエスト弐)

minazukiさん

リクエストSS第二弾。
今回はタンデム様のリクエストです♪

一人の男をめぐって妻達の戦いとなっております!

2009-07-15 21:57:37 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:21019   閲覧ユーザー数:14730

(リクエスト弐)

 

 一刀が大都督として初めての大仕事である三国会議から戻ってしばらくたったある日。

 

 それは起こった。

 

 お腹が大きくなった冥琳と一刀が穏やかな一時を過ごしていたところへ、なぜか不機嫌な顔をしてやってきた祭。

 

「冥琳」

 

「なんですか?」

 

「ちと一刀を独り占めしすぎておらぬか?」

 

 このところ、一刀と一緒にいる冥琳をよく見かけていた祭は、彼を独占しているのではないかと聞きに来た。

 

 それはまったくの誤解なのだが、祭からすればそのように見えていた。

 

「別に独り占めをしているわけではありませんが?」

 

 冥琳も大都督としての政務で忙しい一刀に迷惑をかけないようにと、よほどのことがない限り部屋に呼ぶことはなかった。

 

 だが、祭のいうように一刀といることが多かった。

 

 それは一刀が冥琳を気遣って何かと様子を見に来ていたことが主な原因だが、そのことを冥琳は誰かに話そうとは思っていなかった。

 

 自分を心配してくれているという喜びを感じていたからだった。

 

「とにかくじゃ。一刀、今宵は儂と過ごすぞ」

 

「ごめん、冥琳とさっき約束したんだ」

 

「なっ!」

 

 今日は久しぶりの休日なので冥琳とゆっくり過ごそうという約束をしたばかりだった。

 

「冥琳!」

 

「はい?」

 

「儂に譲ってもらえんかの?」

 

「ダメです」

 

 即答する冥琳。

 

 普段であれば多少のことは文句を言いながらも譲っていたが、一刀のことに関してはまったく譲るつもりはなかった。

 

「一日ぐらい問題なかろうが」

 

「たとえ一日でも一夜でも旦那様と過ごすのであれば、何よりも価値があります」

 

 一刀と過ごす時間は、彼を想う者であれば誰でも貴重なものにかわりなかっただけに、両者共に引き下がらない。

 

「祭さん」

 

「なんじゃ!」

 

 見かねた一刀が今日は先に冥琳と約束してしまったので、その埋め合わせを明日すると妥協案を出した。

 

「儂としては今日が良いのじゃ」

 

 なぜか今日にこだわる祭。

 

 何か理由でもあるのかと、一刀はそれとなく聞いてみると、

「一刀と酒が呑みたいだけじゃ」

 

「「…………」」

 

 その答えに一刀も冥琳も言葉が出てこなかった。

 

「二人とも変な顔をしおって失礼じゃぞ」

 

「祭さん」

 

「なんじゃ?」

 

「酒はいつでも呑めると思うんだけど」

 

 一刀は苦笑いを浮かべながら言い、冥琳は呆れているのか額に手を当ててため息を漏らしていた。

 

 そんな二人を見て祭はますます不機嫌そうに表情を曇らせていく。

 

「やれやれ。せっかく美酒が手に入ったから一番にお主に飲ませてやろうと思うておったのに」

 

 腰にぶら下げていた酒瓶を見せ付ける祭。

 

「じ、じゃあ、ここで呑めばいいじゃないか」

 

「アホか、お主は」

 

 祭に一喝される一刀。

 

「身籠っている冥琳の前で呑んでも美味いわけがなかろう」

 

 聞き方次第ではとてつもなく失礼なことを言っていた。

 

 そして聞いていた方も変化が起こっていた。

 

「祭殿」

 

「なんじゃ?」

 

「それはどういう意味かお聞きしていいかしら?」

 

 表情は笑っているが目が完全に戦闘モードになっている冥琳。

 

「何が悲しくて身籠った者を見ながら酒を呑まねばならん。儂とてまだ宿っておらんというのに…………」

 

 祭の本音がこぼれていくのを聞いて、冥琳と一刀は顔を見合わせた。

 

 つまり、祭は酒を口実に一刀を閨に誘っているということだった。

 

 そこで冥琳はあることを思いついた。

 

「祭殿、残念ですが今日はお引取りを」

 

「どういうことじゃ?」

 

「そのままの意味ですが?」

 

 どこか挑発している冥琳に苛立ちをぶつける祭。

 

 そしてその間に挟まれている二人にとっての獲物。

 

「だいたい、祭殿は何かと口実を作っては旦那様を無理やり誘おうとなさっている。それでは旦那様に失礼とは思いませぬか?」

 

「無理やりとは聞き捨てならんの」

 

 まさに赤壁の戦いの時を思い出させるかのように二人は睨みあっている。

 

「とにかく、旦那様は私と過ごすと言っておられるのです」

 

 先に約束をしている強みを全面に押し出してくる冥琳に反撃ができなくなっていく祭。

「仕方ないの。あの事を一刀に話すかの」

 

「あの事?」

 

 祭の言葉に反応したのは一刀だった。

 

「そうじゃ。冥琳は幼き頃はそれはそれは「祭殿!」なんじゃ?」

 

 形勢逆転したかのように祭は意地の悪い笑みを冥琳に向ける。

 

 何かを思い出したのか冥琳は顔を真っ赤にしていた。

 

「祭殿、それは少し卑怯ではないですか?」

 

「なんのことじゃ?儂はまだ何も話しておらぬぞ?」

 

 二人にしか通じない話に一刀は下手に参加しないほうが我が身の為だと思って黙っていた。

 

「と、とにかくです。今日はどんなことがあろうと旦那様を譲るつもりはありません!」

 

「頑固者め」

 

「ええ、旦那様に関してはそう呼ばれようとも構いません」

 

 隠居したとはいえ呉の大都督だった冥琳と呉の重鎮の祭。

 

 それが一人の男を取りあっている。

 

「あ、あの~冥琳」

 

「なんですか、旦那様?」

 

「余り怒るとお腹の子に障るから穏便にいこうよ、な?」

 

 怒りすぎると身体によくないと一刀は心配してくれたことに嬉しく思った冥琳は冷静さを取り戻していく。

 

「私としたことが熱くなりすぎましたね」

 

 お茶を飲み、一息ついた冥琳は自分のお腹を優しく撫でる。

 

 それを見て祭は余計に羨ましくなっていき、どうしても一刀を連れて行きたくなって、策を考え始めた。

 

「旦那様、今宵はゆっくりとこの子の名でも考えましょう」

 

 勝利宣言をするように冥琳が一刀にそう言うと、祭の忍耐の限界が超えた。

 

「ええ~い、一刀!」

 

「な、なに?」

 

「儂にも子を宿すように気合を入れぬか!」

 

「そ、そんなこと言われても…………」

 

 祭と閨を共にするときはこれでもかというぐらい絞られている一刀からすれば、それで懐妊しない祭のほうが不思議でならなかった。

 

「とにかくじゃ。今宵は何が何でも付き合ってもらうぞ!」

 

「だから何度言えばおわかりなのですか。旦那様は私と過ごしてもらうのです」

 

 再び二人は一刀の取り合いを始める。

 

(まいったな…………)

 

 どうしたものかと一刀が悩んでいるとそこへ恋が入ってきた。

 

「…………ご主人さま」

 

「どうした?」

 

「…………助けに来た」

 

 この修羅場から逃れる好機と思い、一刀は恋に感謝し二人はその場からこっそり出て行った。

 

「まったく、一刀も何か言ってくれぬか?」

 

 祭と冥琳は一刀がいた場所を見ると、どこには誰もいなかった。

 

「「あら?」」

 それから少しして一刀は冥琳と祭に呼ばれてこんなことを言われた。

 

「三番勝負?」

 

「そうじゃ」

 

 あの後、祭は冥琳に三番勝負を提案した。

 

 先に二勝すれば一刀とこの後、朝まで一緒に過ごせるというものだった。

 

「でも約束したんだし」

 

「旦那様、それを言ったところで祭殿が納得してくださらないのです」

 

 どうあっても引かなかった祭を納得させるには何らかの方法で決着をつけなければならないと思い、冥琳も三番勝負を受けた。

 

「それでいいのか?」

 

「ええ。そうしたほうが納得してもらえるので」

 

 祭はすでにやる気十分だった。

 

「それでどんな勝負するんだ?冥琳は祭さんも知っているように、運動なんてできないよ」

 

「わかっておる。その辺りは儂も考えておる」

 

 祭ならば無茶をさせないことぐらいは一刀も十分承知していたので一安心した。

 

「一番目はこれじゃ」

 

 そう言って机の上に出されたのは碁石と碁盤だった。

 

 これなら冥琳の身体に負担をかけることはないと安心した一刀。

 

「ちなみに祭さん」

 

「なんじゃ?」

 

「碁の実力はどれぐらいなの?」

 

「三十戦全敗」

 

 それは勝負になるのかと思うほどの大差。

 

「なあに勝負は時の運と言うじゃろう」

 

 まったく過去の対戦成績を気にしない祭は笑ってみせる。

 

 そしてさっそく勝負が始まった。

 

 横で見ている一刀は碁を知らないため、ただ眺めていた。

 

「そういえば、身体は問題か?」

 

「ええ、今は穏やかに過ごしていますから」

 

 碁石を打ちながら相手を気遣う二人。

 

 そこには長年の絆を感じさせるものだった。

 

「儂もそろそろ子が宿ってほしいのに、この男は…………」

 

「嗜好を変えてみてはどうですか?」

 

「嗜好のぅ」

 

 盤上では白黒の石がいたるところに置かれていく。

 

「一刀」

 

「なに?」

 

「儂らはお主と出会えてよかったと思っておるぞ」

 

 それは祭だけではなかった。

 冥琳も同じ思いだった。

 

「だからもっとお主に愛されたいと思うのは当然のことじゃ」

 

「そうね」

 

 盤上を眺めながら祭は次の手を考える。

 

「私も祭殿も旦那様がいてくださったからこそ、こうして幸せだと思えるのですよ」

 

 呉そのものが一刀によってどれほど救われたことなのか、それは一刀本人ではなく彼の周りにいる者がそう感じていた。

 

 だからこそ、誰もが彼と添い遂げたいという想いを持っていた。

 

「俺も冥琳や祭さん、それに雪蓮達と出会えて嬉しいよ。こんなにも大切な人達がいるこの世界が大好きだ」

 

 もし、彼女達と出会わなければ、自分にとって大切なものを見つけることはできなかっただろう。

 

 一刀はこの世界に来たことを感謝していた。

 

「しかしこうしていると赤壁の時を思い出すの」

 

 冥琳が考案し、一刀がそれに従い、そして祭が実行して大勝利を収めた赤壁の戦い。

 

 今となっては遠い昔のように感じるそれも、三人にとって忘れられないものだった。

 

「祭殿、あの時言ったのは本心からでしたか?」

 

「全部演技というわけではなかったぞ。日頃の鬱憤もあったからの」

 

「俺なんか種馬としてなじられたしな」

 

「「本当のことでしょう「じゃろう」が?」」

 

 二人の息のあった返答に落ち込む一刀。

 

「まぁその種馬殿に身も心もすっかり奪われてしもうたがの」

 

「種付けされても逆に喜んでしまう自分が恥ずかしいほどです」

 

 褒められているのか、それともからかわれているのか、一刀としては後者だろうと思ってますます落ち込んでいく。

 

「しかし、お主に抱かれているとほんに心地よい」

 

「身体の中から愛されているというべきでしょうね」

 

 今度は顔を紅くさせるような言葉をそれとなく言う二人。

 

「だからこそ、儂らにとってはかけがえのない男なのじゃ」

 

 祭は石を打ち、笑みを浮かべる。

 

「じゃが、この勝負は負けるわけにはいかぬ」

 

「それは私も同じこと。そしてこの一手で私の勝ちです」

 

 最後の一手を打ち、笑みを浮かべる冥琳。

 

「なっ!」

 

 盤上では黒の冥琳が白の祭の陣地を圧倒していた。

 

「これで一勝ですね」

 

「かぁ~~~~~~」

 

 ひどく悔しがる祭に冥琳は優雅にお茶を飲んでいた。

 二番目の勝負はその日の昼餉。

 

 雪蓮と孫紹は出かけており、その護衛に恋と華雄、それに音々音がついていき、月と詠は半月に一度の休みを満喫するため出かけていた。

 

 屋敷の食堂で待つこと半刻。

 

 机の上には山盛りの青椒肉絲となぜか黒い物体が置かれていた。

 

「これって…………なに?」

 

「なんじゃろうな、なあ~冥琳♪」

 

 どうやらその黒い物体は冥琳が作ったものだった。

 

「ち…………」

 

「ち?」

 

「炒飯…………」

 

 顔を真っ赤にして俯く冥琳。

 

「炒飯ねぇ…………」

 

 知勇兼備、才色兼備といった言葉が似合っている元大都督の冥琳。

 

 その威厳はどこにもなかった。

 

 祭はこの勝負どうみても圧勝だと思い、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「とりあえず食べてみないと分からないから」

 

 そう言って一刀はまず祭の作った青椒肉絲を食べた。

 

「うん?」

 

「どうした?」

 

「これ凄く酸っぱいんだけど?」

 

「そんなはずはなかろう」

 

 祭は自分の作った青椒肉絲を指でつまんで口の中の放り込む。

 

「こんなもんじゃろう?」

 

 酸っぱさが強いが別に食べられないわけではなかったので一刀は気にしないことにした。

 

「さて、次は」

 

 黒い物体、もとい冥琳が作った炒飯を見る一刀。

 

(これは勇気いるなぁ)

 

 具材らしきものもあるが、それすら黒みがかかっていた。

 

(でも冥琳が作ってくれたんだし)

 

 勇気を振り絞って一口食べた。

 

 その瞬間、一刀は意識が飛んだ。

 

「「一刀(旦那様)?」」

 

 箸を銜えたまま硬直している一刀を見る二人。

 

 そして勢いよく机の上に顔をぶつけた。

 

「いてててっ」

 

 それで意識を戻したのか一刀は顔を上げる。

 

「旦那様?」

 

「ごめん、これは祭さんの勝ちでいいかな?」

 

 当然の結果だがそれを聞いて祭は喜んで、冥琳は落ち込んだ。

「まぁ仕方なかろう。今日初めて厨房に立ったのだからの」

 

「そうなの?」

 

「ええ」

 

 大敗北に落ち込む冥琳を見て一刀は意を決して炒飯を手に取った。

 

「な、なにを?」

 

「だってせっかく作ってくれたんだから、残すのは失礼だろう?」

 

 そう言って、恐ろしい勢いで炒飯をかきこんでいく。

 

 一気に食べきり、その後に祭の青椒肉絲を残さず食べた。

 

「ごちそう…………さ…………」

 

 食べ終わった一刀はそこで力尽き、再び机の上に倒れた。

 

 祭は呆れていたが、冥琳は本当なら食べなくていいはずの炒飯を全て食べてくれた一刀がとても嬉しかった。

 

「とりあえず、この勝負は儂の勝ちでよいな?」

 

「こればかりは」

 

「これで一勝一敗。最後の勝負じゃぞ」

 

 次の勝負で勝てば今夜、一刀を独占できる。

 

 二人にしては何よりも嬉しいことのはずなのだが、目の前でうつ伏せになっている一刀を見ていると、自分達が稚気な感じがしていた。

 

「ところで祭殿、一つよろしいか?」

 

「なんじゃ?」

 

「なぜそうまでして焦るのですか?」

 

 普段の祭からしては随分と余裕のなさを感じさせていた。

 

「権殿ばかりか思春までもが懐妊したことが原因かの」

 

 次世代を担う若者なのだから世継ぎを産むのは当然のことだった。

 

(自分にはもはや老いていくだけしか残っていない)

 

 それでも老獪な自分を一人の女として愛してくれている一刀がおり、その彼に抱かれているとき、何も気にすることのないただの女に戻れることが嬉しくて仕方なかった。

 

「儂はできれば我が子をこの腕で抱きたい。それまでは死んでも死にきれんからの」

 

 赤壁の時、死の直前に一刀を思い出し生きたいと思った。

 

 そして彼の子ならたとえどんな困難だろうが産みたい。

 

 何度も抱かれ一刀の愛を注いでもらったが、一向に子が宿る気配はなかった。

 

 気がつけば冥琳、蓮華、思春と立て続けに子を宿していた。

 

「正直、お主らが羨ましかった。だからどんなことをしてでも一刀といたいのじゃ」

 

 孫呉の重鎮、黄蓋ではなく、一人の女としての祭はただ純粋に愛する人の子を宿したいと思っていた。

 

 その気持ちは冥琳もいたいほどわかっていた。

 

 わかるからこそ、ここで譲るわけにはいかなかった。

 

「それでは最後の勝負と参りましょう」

 目を覚ました一刀が一番に感じたのは柔らかな感触だった。

 

「起きたか、一刀」

 

「さい…………さん?」

 

 一刀は祭の膝に頭を乗せて眠っていた。

 

「俺、たしか」

 

「よいよい。それよりもどうじゃ、気持ちよいか?」

 

「うん」

 

 一刀の髪を優しく撫でていく祭。

 

「そういえば冥琳はどうしたの?」

 

「どうかなさいましたか、旦那様」

 

 冥琳は二人の前に座って一刀を愛しく眺めていた。

 

 そして場所も食堂ではなく庭に移っていることに気づくまで時間がかかった一刀は勝負のことも思い出した。

 

「今は休戦中じゃ」

 

「そうなんだ」

 

 心地よさが一刀を包み込んでいく。

 

「よし、冥琳。そろそろ交代じゃ」

 

「え?」

 

 せっかくの心地よさがなくなり、祭と冥琳は交代している間、頭を上げたままの状態で放置された一刀。

 

「どうぞ、旦那様」

 

 冥琳の膝の上に頭を乗せると、お腹の大きさを感じた。

 

「もう少しなんだよな」

 

「ええ。あなたの子ですよ」

 

「触ってもいいかな?」

 

「どうぞ」

 

 一刀は冥琳のお腹に手を当てると瞼を閉じた。

 

 その様子を祭は羨ましそうに見ながら、自然と自分のお腹に手を当てていく。

 

「なんだかこうしていると落ち着く」

 

「はい」

 

 雪蓮とはまた違ったものが冥琳から伝わってくる一刀は手を動かしていく。

 

 優しく撫でるように彼女のお腹に触れるその手の上に手が重ねられた。

 

「もはや勝負はついたの」

 

 寂しそうに祭は二人に言った。

 

「祭さん「祭殿」?」

 

「儂の負けということじゃ」

 

 初めから勝負は付いていた。

 

 どんなに頑張っても自分にないものを冥琳が持っている。

 

 それでも一刀を独り占めしたいという気持ちに嘘をつけなかった祭。

「今宵は一人で酒を呑むかの」

 

「あら、それなら私も呑みたいわね」

 

 三人は振り向くとそこにはいつの間にか雪蓮が孫紹を抱いて戻ってきていた。

 

「おかえり、雪蓮」

 

「ただいま、一刀♪」

 

 一刀は起き上がると雪蓮がその隣に座った。

 

「それで三人で何をしていたの?」

 

「一刀をかけて勝負していたところじゃ」

 

「一刀を?あら楽しそうね♪」

 

 雪蓮ならばこういう楽しそうなことを放っておくわけがなかったが、冥琳と祭の表情を見て何かに気づいた。

 

「その様子だと祭は負けたのかしら?」

 

「そのとおりじゃ」

 

 祭はそう言って立ち上がろうとしたが、雪蓮に止められた。

 

「どうかなされたのか?」

 

「あら、祭ったらもう忘れたの?」

 

 一刀に孫紹を預けると、傍に立っていた華雄からある物を受け取った。

 

「最近、酸っぱい物が欲しいって言わなかったかしら」

 

「おお、そうじゃった」

「だからそれを今日、買ってきたのよ」

 

 雪蓮から差し出されたのは檸檬だった。

 

「まったく貴女も母親になるのだからそういうことは早めに言いなさいよね」

 

「「母親?」」

 

 一刀と冥琳は祭のほうを見た。

 

 見られた本人も何のことなのかわかっていなかったようで、雪蓮を見ていた。

 

「どういうことじゃ、雪蓮様?」

 

「何言ってるのよ。貴女、一刀の子を宿したのでしょう?」

 

「「「は?」」」

 

 何がどうなっているのかその場にいたもので理解できたのは雪蓮を除いて誰もいなかった。

 

「儂は…………一刀の子を?」

 

「もしかして知らなかったの?」

 

 祭には全く自覚がなかった。

 

 だが、最近になって妙に体調不良になることがあったが、それは夏の暑さにあてられたと思っていた。

 

「そうか…………、儂にも宿っておったのか」

 

 さっきまでの寂しさが消えていき、穏やかな笑みが浮かんでいく。

 

 そして、

 

「冥琳!」

 

「はい?」

 

「やはり今日は一刀を譲ってもらうぞ!」

 

 さっきの敗北宣言を覆す祭に冥琳は唖然とした。

「一刀」

 

「は、はい」

 

「今宵はとことん、儂に付き合ってもらうからの」

 

 そう言って一刀の後ろに回りこんで、彼の背中に自慢の胸を押し付けながら抱きしめた。

 

「あ~~~~~~ずるい!」

 

 雪蓮は頬を膨らませて一刀の左腕に自分の胸を押し付けていく。

 

「し、雪蓮!?祭さん!?」

 

 我が子を抱いているために身動きができない一刀。

 

 そこへ華雄がやってきて、完全に笑った状態で孫紹を預かった。

 

「雪蓮様、黄蓋殿、孫紹様は私が見ておりますのでご存分に」

 

「ありがとう、華雄♪」

 

 最後の頼みだった孫紹を引き離され、後ろと左からボリューム感がある攻撃を受ける一刀。

 

 そこへ右腕にも同じような感触が伝わり始めた。

 

「め、冥琳?」

 

「旦那様、はっきり言ってくだされ。今日は冥琳と過ごすのだと」

 

「何を言うか!今宵は儂と過ごすに決まっておろう!」

 

「ここは正妻の私と過ごすのよね♪」

 

「「雪蓮「雪蓮様」は関係ないわ!」」

 

 冥琳と祭は同時に言い放ち、一刀へさらに密着していく。

 

「さ、三人とも落ち着け!」

 

「「「一刀「旦那様」は黙ってなさい!」」」

 

 ようやく決着するかのように思えた冥琳と祭の一刀争奪戦は予期せぬ雪蓮の言葉により、さらに白熱していき、途中からその雪蓮も参加したため、もはや収拾がつかなくなっていた。

 

「やれやれ。貴女様のお父上も大変ですな」

 

 華雄は自分の腕の中で喜びの声をあげている孫紹に微笑みながら言った。

 

「冥琳、こうなったらもう一度勝負じゃ!」

 

「望む所です」

 

「あ、今度は私も混ぜて♪」

 

「「ダメ!」」

 

「お、俺、明日は仕事なんだけど…………」

 

「「「休みなさい!」」」

 

 三人の妻による攻撃にもはや一刀は無条件降伏するしかなかった。

 

 そんな様子を思う存分、休日を満喫して戻ってきた月と詠が見かけた。

 

「アレは何をやっているの?」

 

「えっと…………」

 

 詠は呆れたように、月は困った笑顔を浮かべその光景を眺めていた。

 

「今度は呑み比べじゃ♪」

 

「私が呑めません!」

 

「私は呑めるわよ♪」

 

「勘弁してくれ~!」

 後に思春から一連の事を聞いた蓮華はこうつぶやいた。

 

「当分の間は私の傍で政務をさせるべきね」

 

 黒い笑みを浮かべる主君に思春は心の中で思った。

 

(一刀、蓮華様をあまり怒らすなよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、早速、儂の部屋で呑むぞ!」

 

「旦那様、今日は二人でゆっくりと語り合いましょう」

 

 祭と冥琳は一刀を取り合いつつもお互いの顔を見ては幸せに満ちた笑顔を浮かべていた。

(座談)

 

水無月:リクエスト第二弾!

 

雪蓮 :一刀をとりあえず冥琳vs祭。そして美味しいところは私がもっていくの♪

 

冥琳 :雪蓮。貴女はしばらく休んでいなさい。

 

雪蓮 :え~~~~~。だって、暇なんだもん。(ぶーぶー)

 

祭  :雪蓮様、時には待つことも肝心ですぞ。(儂らなんかそれほど我慢したことか)

 

雪蓮 :でもあれよね。気づいている人もいると思うけど、冥琳の一刀に対する態度が随分と変わっているわよね?

 

冥琳 :あら、自分の旦那様なのだからあれでいいのよ。

 

祭  :儂らの時と大違いじゃの。

 

冥琳 :旦那様ですからね。

 

水無月:と、言っていますよ、旦那様♪

 

一刀 :お前が言うと気持ち悪いな。

 

水無月:なら言わせないでくださいよ。(ぷんぷん)

 

雪蓮 :さておバカな二人が置いておいて、次回もリクエストSSよ♪

 

祭  :はよう、産まれてこぬかの。

 

全員 :まだだって。


 
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