第38-5話 崩れ去る音
ユージオSide
この季節、北の大地に珍しい大雨が降った。
幸い、川の氾濫や土砂崩れは起きなかったけど、大雨が降り続いて大きな雷も迸った。
氷華と雨縁は雨が降り始めた頃に自分達の巣から飛び立った、多分だけど洞窟か別に地域に避難したのかもしれない。
絶えず降り続き他の音を掻き消してしまう大雨、時折鳴り響く雷は近くまで下りてきたのか僕でも驚く音を出した。
食材と薪の備蓄があり、振った雨を綺麗にして熱素と凍素で風呂にも入れたのは幸いだった。
三日目になった日の夜。相変わらず振る大雨と迸る雷にアリスは眠れたようだけど、僕は何故だか眠れなかった。
確かに音は五月蝿いけれど、それでも眠れないほどじゃない。
ただ、嫌な感じがした。胸騒ぎにも似た何かがあって、警鐘が鳴り響いているような感じ。
もしかしたらキリトはこんなのをいつも感じていたのかもしれないな。
アリスを起こさないようにベッドから出て、カーテンの隙間から硝子窓の外を眺める。
セルカや村の人達は大丈夫だろうか、街や央都にも影響はあるのか、そんなことを考える。
その時、背筋を何かが駆け抜けるような感覚を受けて、冷や汗が流れる。
――ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
「きゃっ!?」
これまでの雷とは比べ物にならないほどの豪雷が空を駆け抜け、あまりにも強烈な音にアリスが跳び起きた。
ベッドの上の彼女に近づき、優しく抱き締める。
「さすがに驚いちゃったね。アリス、怖い?」
「こ、怖くないわ///! 驚いただけよ。怖さなら、小父様と戦っていたキリトの方が…」
「あぁ、うん、そうだね…」
少し顔が青くなるアリス、確かにベルクーリさんと戦っていた時のキリトは凄かったなぁ。
学院の時もそうだったし、最高司祭と戦った時はどんなだったんだろう?
まぁアリスの言ったことは聞かなかったことにしておこう、キリトの反応が恐ろしいし。
「さぁ、眠ろう。いまの雷の衝撃で雨も止んだみたいだから」
「あ、そういえばそうね。これで落ち着いて眠れそう。ユージオは?」
「う~ん、僕はもう少し起きておくよ。目が冴えちゃって」
「分かったわ。それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
すぐに眠気が戻ってきたのか、アリスは本当にすぐに眠ってしまった。
一方で僕は雨が止んだ外を眺め、少しだけ窓を開けてからまた閉め、ベッドに座りこみ考える。
空気中の神聖力が減っていたのはどう考えてもおかしい。
自然によって発生する現象に神聖力は消費されない、ということは神聖術が行使されたということ、しかもかなりの大規模神聖術だ。
そしてそれを行使できるのは現在人界においては唯一人、新最高司祭であるカーディナルさんをおいて他にはいない。
それならどうして大規模神聖術を行使したのかということになる。
僕達の目下の敵となる存在があるとすれば『ダークテリトリー』しかない。
あの凄まじい雷…いや、光が駆けていったのは南から南東の方に向かってだった。
光の先はダークテリトリー、その向かっていった先そのものに何があるのかは僕には解らない。
けれど間違いないことが一つだけある。
カーディナルさんは僕にアリスを守れと手紙で仰っていた、
キリトの世界から彼女を狙っている者が居ると、つまりはそういうことだ。
その何者かがダークテリトリーに来て、カーディナルさんが大規模神聖術で先制攻撃を仕掛けた。
それが示すのは敵が来たということ、これから戦いが起きるということだ。
いまさっきの出来事を思い返し、整理して予想し、心を落ち着かせる。
半年、随分穏やかに過ごしてきたけど、後僅かということだろう。
隣で眠るアリスの髪を梳き、頭を撫でると眠りながら微笑んだ。
僕も眠ろう、アリスが良い夢をみられているのならそれでいい、いまはそれで…。
故郷に帰ってきてアリスと二人暮らしを始めてから半年が経過し、十の月の後半だ。
ここはノーランガルス北帝国の最も北にあるルーリッドの村の近く、四帝国の中で一番寒い地域であり、十月というのに既に寒い。
それでも僕とアリスの家は材質や構造などから暖かい方だ、セルカが羨ましがっていたなぁ。
三日間の大雨の直後に数日の冷え込みが訪れて、その影響でアリスと一緒に早く起きた。
少しの間だけお互いの体にしがみついて温かさを感じ、自分達のやっていることに思わず笑ってから身支度を整えた。
勿論、日課になった口付けも忘れていない、むしろ最近はアリスがせがむけどね。
「ユージオ。今日は天気もいいし、お弁当を持って東の丘に行かない?」
「うん、賛成。最近は曇った影響で冷え込んでいたからね」
朝食の後でアリスの提案に乗る。ここ数日は鍛錬や薪割り、馬達の世話はしたけれど寒さもあって家でゆっくりしていた。
晴れたことだし、外でのんびりしておきたい。
食器を洗うアリスを手伝ったあとで洗濯もして、弁当のサンドイッチと果物とスープを作った。
「風があるわ。少し厚着していきましょう」
「そうだね。風邪をひいたら大変だし」
硝子窓の先、外を見てみれば強いとはいえないけれど確かに風が吹いている。
これまでの寒さもあって余計に寒くなっているはず。
そう思ってアリスと一緒に普段着の上から予め購入しておいた派手過ぎず地味過ぎない外套を羽織って、戸締りをしてから出かける。
弁当を入れたバスケットを手に持ち、空いている手をアリスと繋いで木立の中を歩いていく。
半年前よりも先のことを考えると天と地の差ほどの穏やかさだ。
キリトを始めにカーディナルさんや色々な人達の助けがあって、大変なことも辛いこともあったけど、そのお陰でアリスを救いだせた。
故郷に帰ってきて、アリスと暮らし始めて、二人で色々なことを経験して、
お互いの知らなかったことを知れて嬉しくなって、もっと好きになった。
彼女も同じことを考えているのか、そう思っていたらアリスと握っていた手が強く握り返される。
アリスの顔を見てみれば、頬を僅かに紅く染めながら微笑んでいた。同じみたいだね。
「好きだよ、アリス」
「わたしも、ユージオのこと大好き///」
短くても確かにそう言葉で交わして、談笑もしながら歩いていく。
道を進んでいくと木立が途切れて前方に小高い丘が見え、少しずつ上り坂になるそこを上る。
丘の頂上に着けば視界が一気に開けて、景色が一面に広がっている。
すぐ東に青い水面を見せるルール湖、その奥には広大な湿地帯、南では森が何処までも続いて、
北を見れば真っ白な雪化粧をしている『果ての山脈』がそびえ立っている。
以前までは景色を見る余裕なんて無かったし、楽しむなんてこともなかった。
でもいまはこの光景を絵に描いてみたいとか、そんな風にさえも思える。
「半年前までは雨縁に乗って、あの峰々を軽々と越えていたわ…」
「雨縁ならいまでも乗せて飛んでくれると思うよ」
「いいえ、今のわたしはアリス・ツーベルクだからいいの。
そうするとすれば、それはわたしが“アリス・ツーベルク”であり、
“アリス・シンセシス・サーティ”であることを人前で晒せるようになる時だと思うの」
「そうか…うん、アリスが思うようにすればいいよ」
いまはまだ彼女も整合騎士の自分より私人としての自分を優先したいらしい。
胸を張ってどちらの自分も誇れるようになった時こそ、彼女は再び飛竜を駆って自由に飛び回るはず。
それまでは僕も飛ばす、アリスと共に在ればいい。
「綺麗だわ。カセドラルにあるどの絵よりもずっと綺麗」
そう言ってアリスは振り返り、僕に言った。
「ユージオ。貴方がキリトと一緒に守った世界よ」
景色の中に彼女の笑顔が映え渡った。
「姉さま! ユージオ!」
そろそろ昼食にしよう、二人でそう話し始めた時に弾むような声が丘の下から聞こえた。
見ればセルカがバスケットを持ち、空いている右手を振りながら丘を駆けあがってきた。
僕もアリスもそれに手を振って応えて、セルカは左手に持つバスケットを落とさないようにアリスの胸にゆっくり飛び込んだ。
「アリス姉さま、おはよう! ユージオもおはよう! って、お昼だからこんにちはよね」
「おはよう、セルカ。どちらでも構わないわよ」
「うん、おはよう。まぁ正確な時刻なんて解らないし大丈夫だよ」
挨拶を交わしていく。この光景もすっかり定着したと思う。
「それにしてもよくここに居るって分かったわね?」
「家に行ったら留守だったから、今日はとってもいい天気だからここに来てると思ったの。
搾りたてのミルクと今朝母さまと焼いた林檎とチーズのパイを持ってきたの」
「ありがとう、いただくわ。セルカも一緒に食べましょう、わたしが作ったサンドイッチとスープもあるのよ」
セルカは喜んで一緒に食事をすることになった。
「姉さまってば、本当に料理が上手になったわよね。今では趣味みたいに色々やってるし。
最初の剣で切るようなやり方と言えば……ねぇ、ユージオ?」
「そうだね。最初の熱素で消し炭とかを思い浮かべると本当に凄いと思うよ」
「二人とも、それは言わないで///」
僕達がからかえばその時のことを思い出して恥ずかしがるアリス、それでもすぐに笑顔を浮かべる。
談笑を交えた昼食を小高い丘で楽しんでいく。
昼食を終えてから家に帰ろうと小高い丘を下りた時セルカが短く、あっと声を上げた。
「あのね、バルボッサのおじさんが二人にまた開墾地の樹の始末を頼みたいって…」
言い難そうに、それでも伝えないといけないからと渋々といった様子で言ったセルカに僕達は顔を見合わせながら苦笑する。
ジンク達と違い、私欲のためにアリスの村での生活を拒否したバルボッサさんとリダックさんをセルカは快く思っていない。
僕とアリスもそうだけど、ライオスとかウンベールとかチェデルキンに比べたらと思うと。
「セルカは気にしないでいいわ、わたし達にとって仕事でしかないし」
「僕はアリスが気にならないのなら構わないし、僕の場合は自分で選んだことだからね」
「あの人達、勝手だわ。バルボッサさんもリダックさんも、村に住まわせようとしないのに困った時だけ助けてもらおうだなんて」
アリスの影響もあるだろうけど、セルカは思いやりのある娘になったみたいだ。
そっちの方が嬉しくて周囲のことなんて気にならないね。
「ありがとう、セルカ。貴女のその気持ちだけで十分よ。
心配しなくてもあと半年もすれば村の教会で住めるようになるし、そのあとはもう家で住めるもの」
「大丈夫、アリスのことは僕が守るから安心していいよ」
「うん、姉さまと暮らせるのを待ってるわ。ユージオもしっかりね」
頭を撫でてあげながらそう言い聞かせば彼女はしっかりと頷いて、笑顔で返事をした。
一度家に帰って騎士剣を持ってからセルカに伝えられた場所、南の開墾地に向かう。
細道と麦畑を抜けた先、僕とキリトが切り倒した『ギガスシダーの樹』の切り株の奥でみんなが開墾の為に仕事をしている。
僕達が着いたことに気付いた人達の反応はそれぞれ、作業が捗ると喜ぶ人、
待ち侘びたとホッとしている人、罰が悪そうな人など。
そこで周囲に指示を出していたナイグル・バルボッサさんが気付いて、駆け寄ってきた。
「おぉ、ユージオにアリス。よく来てくれたのう」
「いえ、仕事ですから構いません」
「それで、どの樹を倒せばいいのですか?」
そう聞くとバルボッサさんはそれらしい樹の方を向いた。
そこには
ただ、普段振り慣れていないからか腰がまだまだ甘い、筋肉もそれなりに付いているから大丈夫なはずなんだけどなぁ。
「あの調子ではあの樹一本にあと何日かかるか分かったものではない。
そこでじゃ、月に一度の取り決めでユージオの分は終わってしまったからのう、アリスの分の力を借りたい。
報酬はいつも通り銀貨一枚でよろしく頼むぞ」
「分かりました」
アリスは早く離れたいとでも言わんばかりにバルボッサさんから離れて樹に近づいた。
《ステイシアの窓》を開いているのが分かる、
斧を借りず剣で切ることに決めたのは斧の天命じゃ切ることが出来ないと判断したからだろう。
「ウチがここで手間取っている間にも、リダックのところは二十メル四方も土地を広げおったわい」
「大変ですね…」
その間にもバルボッサさんの愚痴が僕に向けられる、嫌味も含ませているんだろうなぁ。
――ダァァァンッ!
視線の先でアリスが抜剣し、一閃の元で樹を切り倒した。
バルボッサさんは喜んでその場に向かい、すぐさま指示を出していく。
アリスは剣を鞘に納めてから戻ってきた、いつも通り報酬はガスフトさんを通して払われる。
「帰りに村で食材を買っておきましょ。ここ数日は買い物もあまり出来なかったし」
「そうだね、行こうか」
予めお金を持ってきていたから、僕達はそのまま村に行って食材を買い足しに行く。
村で食材を買い込んでから家に帰る頃には空は夕焼け色に染まっていた。
丁度その時、開けている場所に空から飛竜が二頭降り立った、出かけていた氷華と雨縁だ。
彼女達を撫でてあげると気持ち良さそうに鳴いてから家の東側にある自分達の巣に体を丸めた。
おやすみと声をかけて、小さな声でルルゥと鳴いたのを聞きとってから僕達も家に入る。
「さぁ、お夕飯の準備をしましょう。
今夜はシチューにするから、ユージオは食材を倉庫に入れてからお風呂の準備をしてくれる?」
「任されたよ。アリスこそ美味しいシチューをよろしく」
「ふふ、任せなさい」
言われたように食材を備蓄庫に入れて、湯船を洗ってから水を張ってから熱素と凍素を発動して湯を沸かす。
アリスは慣れた手付きでシチューを作っていて、僕は完成するまでの間は読書をして待った。
シチューが完成して余っていたパンとサラダと食べ、食後に二人で食器類を洗った。
そして眠る準備をしている時だった、いつもなら静かに眠っているはずの氷華と雨縁が小さな声でだけど唸っていることに気付く。
自然の風とは違う風切り音と不定期の風の流れ、空を舞う黒い影、飛竜だ。
「銀鱗、整合騎士の乗る飛竜だわ。誰かしら?」
「出てみれば分かるさ。氷華がすぐに動かないのなら、敵ではないはずだよ」
念の為に警戒しながら家から出てみると、何度か旋回したあとでゆっくりと開けた場所に降り立った。
――バサァッ!
翼の音を響かせたその飛竜の姿は雨縁に似ている。
「彼は
「お久しぶりです。我が師アリス様、騎士ユージオ」
「エルドリエさん…」
飛竜『滝刳』から降り立ったのは三十一番目の整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワンさんだった。
外で話すには寒いのでとりあえずエルドリエさんを家に招き入れた。
「まさか貴方がこの家に気付くとは思いませんでしたよ、エルドリエ」
「いえ、今回は偶然です。任務の帰りに滝刳がやけに騒ぎまして、導かれるままに降りてみれば、ということです」
妹竜である雨縁の存在を感じ取ったのだろう、ただ一つの言葉が気になった。
「任務、ですか? それは僕達が聞いても大丈夫なものですか?」
「ああ。むしろ二人にも聞いてもらいたい、いや意見を聞きたい」
そしてエルドリエさんは今回の任務について話し出した。
「二人が帰省に出た直後、最高司祭様と騎士長のご指示によって北、西、南の全ての洞窟を崩落させました。
これによってダークテリトリー側からの侵入を防ぐことにしましたが、これが掘り返されていないかの確認をしに来たのです。
果ての山脈を周回している騎士から最近ゴブリンやオークが動きを見せているという報告を受けたからですが」
「ゴブリンやオークが…」
「ですがここに寄ったということは特に問題は無かったということですよね?」
「はい。一日駆けて周囲を見回り、ダークテリトリー側からも洞窟を覗きこみましたが、どちら側も崩落したままでした。
天井まで埋まっていましたから、あれを掘り返すには大部隊が必要でしょう。
獣の群れを軍勢と見間違えたと、いまの段階では判断しました」
確かに、ゴブリンやオークは知能が高いわけじゃない。
粗暴で野蛮というのが一般的な見解、アイツらなら姿を隠すなんてしないで直進してくると思う。
ただ、どうにも拭いきれない、嫌な感覚がする。
「ですが、念の為に二人にも注意していただこうと。
力が必要な時は存分に揮うようにと、カーディナル様から仰せつかっております」
「分かりました。ありがとうございます、エルドリエさん」
「ご苦労様です、騎士エルドリエ。お礼というほどではないですが、シチューがあります。温まっていきなさい」
「それはまた、ありがとうございます。実を言うと食事をしていなくて…」
アリスは席を立って余っていたシチューを温め始めた。すると、エルドリエさんが声を抑えながら言ってきた。
「実は本来なら携行食を持つべきなのだがパサパサというかモソモソというか、そんな食感なのだ。
アレは食べないと三神に誓うほどには」
「そんなにですか?」
「考えてみたまえ。元々私は良い家の者だった、おそらくはその名残だろう。
キミとて、いまの食事からアレを食べてみると分かる」
エルドリエさんが言うのだから相当かもしれない。
いや、僕やアリスの場合は元が村人だから大丈夫かもしれないけど、一応気をつけておこう。
「二人ともなにを話しているのかしら?」
「い、いや、なんでもありません! そういえば、体を温めるために酒を持ってきているのでした!
良ければ二人もどうぞ、すぐに取ってきます」
逃げた、あまり聞かれたくないことなのかもしれない。
あぁ、アリスは規律に厳しそうだったから、携行食の愚痴を聞かれたくなかったんだ。
うん、ここは黙っておこう、僕も食べさせられかねないからね…。
エルドリエさんがお酒を取って戻ってきたので少しだけもらう。
祝いごとの場で少ししか飲んだことがないけど、整合騎士の飲む物ということだけあって凄く美味しい。
「非常に美味いですね。私も休暇をいただきまして、母上に料理を作っていただいたのですが、やはり手料理というのは格別だ。
こういう味を忘れていたと思うとぞっとする」
「まったくですね。わたしも母の手料理を食べましたが、思わず涙が出ましたよ」
僕には解らない整合騎士の思い、きっと酒が入ったから口から出たんだね。
そのあとも僕とアリスが村から離れたこの家に住んでいることを聞いていたけど、
騎士であることを明かしていないと言えば、察してくれたのかそれ以上は聞いてこなかった。
食事を終えたエルドリエさんはしばしの休憩の後、家を出た。
「近い内に召集があるかもしれませんが、それまでお二人とも元気で」
「エルドリエも気をつけて」
「お酒、ありがとうございました」
頷いた彼は一声かけて飛竜を駆り、羽ばたく音と共に夜闇に消えて行った。
家の中に入って、風呂に入ることになったけどアリスは離れなくて、結局一緒に入った。
でもその間、彼女は一言も喋らなくて、上がって着替えて髪が乾くのを待つ間も僕から離れずにくっついている。
髪が乾いてベッドに入っても抱きついて離れない。
「アリス、まだお酒に酔ってる?」
「……そうかもしれないわ」
ようやく声を出したアリスは甘え気味。
「少し、不安なの…。エルドリエが来て、ダークテリトリーと最近のことを聞いて、何かが起きるんじゃないかって…」
「アリス…」
「おかしいわね。整合騎士の役目と力があって、最初は怖くなかった。
でも、この生活が無くなってしまうんじゃないかって、また失ってしまうんじゃないかって…!」
最後は嗚咽も混じって言ったアリス。そうか、そうだよね。平和を取り戻したと思えば、また戦いが起こるかもしれない。
それも今度はこの前の比じゃないほどだ。彼女を強く抱き締める。
「僕が一緒に居るよ。ずっと、僕が一緒に居るから…」
「ユージオ……うっ、うぅ…」
泣き出したアリスを抱き締めて宥める。しばらくしたら、彼女は眠っていった。
変に不安定になっちゃったのかな。僕も少し酔ったかもね、以外にも僕もすぐに眠りにつけた。
翌日、アリスは起きぬけにすぐさま口付けてきた。僕の体にしがみついたまま離れない、これって夜の同じじゃないのかな?
「ユージオ、ありがとう。まだ不安は拭いきれないけど、貴方が一緒ならと思えるわ…」
「アリス……キミだけじゃない、僕だってキミが一緒だからって思えるんだ…」
今日はゆっくりと過ごすことにした。一緒に料理を作って、食器洗いも洗濯もして、
居間のソファに二人で座りアリスが僕に凭れかかりながらそれぞれ本を読んだ。
ふと視線が絡めば口付けて、また本を読む。
昼食も一緒に作って食べ、またソファに座って今度はアリスがセルカに教わっている編み物を始めた。
僕は毛糸が絡まらないように少しだけ手伝い、彼女が休憩するまで頑張った。
休憩に入ればデザートのケーキを食べ、紅茶を飲んだ。
穏やかな日差しのせいか、途中で二人揃って眠ってしまって、目が覚めたのは日が傾き始めた頃だ。
今度は湯船の掃除を一緒にして、夕食の準備も一緒にして、風呂に一緒に入って、夕食をそのまま完成させて食べた。
またアリスが編み物の続きをしたけど、今度は長くせずに途中でやめた。
少し早めにベッドに入り、横にはならずに座って談笑した。
次第に眠気が来て、口付けを交わしてから眠りについた。
真夜中、目が覚めた。
眠ってから二、三時間しか経っていないくらい。数日前の大雨と雷の時と同じような、いやそれ以上の胸騒ぎがしたからだ。
そっと体を起こした次の瞬間、
「「クルルッ、クルルルゥッ!」」
氷華と雨縁が同時に鳴き出した、まるでなにかを警戒しているかのように。
その鳴き声に気付いたのかアリスも目を覚まして体を起こした。
僕はアリスよりも先に駆けだし入口の扉を勢いよく開けて外に出た。
「なっ!?」
「ユージオ、何が…あれはっ!?」
追いついてきたアリスも僕と同じく驚く。
風に乗って流れてくる焦げ臭さ、その臭いの先は村の方向、その場所から幾つも上がる黒煙、
そして微かに聞こえてくる大勢の悲鳴、僕達は最悪の可能性に考え付く。
「行こう、アリス!」
「ええ、ユージオ!」
僕達はすぐさま準備を整え始めた。
ユージオSide Out
To be continued……
あとがき
原作で意識の戻らないキリトとアリスが過ごすところをユーアリでイチャつかせてみましたw
エルドリエもアリスと同じで騎士以前の記憶が戻ったのでかなり友好的です。
さて、次回はお察しいただけていると思いますがルーリッド村撃退戦になります。
まぁそれは前半くらいで終わっちゃいますけどね、後半は整合騎士達との合流の予定。
なおサブタイの崩れ去る音は本編中に今回様々な音があったところからつけてみました。
では次回で・・・。
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第5話目になりました。
日常編はもう今回までとなり、次回から戦闘とかになります。
どうぞ・・・。