第三話 少女と花束
11月某日。
サキは買い物の用があり商店街まで来ていた。
彼女は何の気なしにアーケードを歩いていたが、不意に視界の隅に信じられない程の違和感を感じ足を止めた。
(え?なに、この異様な違和感は。)
サキは違和感の正体を突き止めるべく辺りを見回す。すると、それはあっさりと見つかった。
花屋の店先で、学帽を被り、長ラン、ボンタン、下駄履きの男が花を選んでいたのだ。
そう、恐ろしいほど花屋に似合わないその男は轟だった。
(あ、あいつが花!?・・・ひょっとして彼女にとか・・・おもしろい。彼女ならどんな娘か見てやれ。)
野次馬根性と言うか、覗き趣味と言うか、どちらにせよ趣味のいいとは言えない気持ちが湧き上がってきたサキは、
しばらく様子を見てみる事にした。
やがて花束を持った轟が店から出て来た。サキはそっとその後をつける。
(花買ったって事は、渡す相手に会いに行くって事よね・・・後日、なんて事は花が枯れちゃうから無いはずだし。それにしてもどこまで行くのよ・・・)
歩く事数十分。やがて轟は目的地に着いた。そこは・・・
(病院?って事はお見舞いか・・・なーんだつまんない。時間の無駄だった・・・帰ろ帰ろ。)
しかしサキはそう思いつつも、何故か轟が見舞う相手の事が気になった。
(ちょっとだけ・・・ちょっと覗くだけ。)
サキは自分にそう言い訳すると、再び轟の後を追った。
病院ロビー。轟より少し遅れてロビーに入ったサキは、いきなり轟の姿を見失った。
「ありゃ、どっかいっちゃった・・・まあしょうがないか。帰ろ。」
彼女がそう言いながら振り返ると、
「うわぁ!」
後ろに轟がいた。
「下手な尾行だったな。バレバレだったぞ。」
「う・・・」
「なんで尾けたりした?」
「・・・あ、あんたが似合わない物持って歩いてるから気になっただけだよ。」
「あ・・・失礼な事を言う。まあ、似合わないってのは認めるが。」
轟はそう言って苦笑いを見せる。
「まあ、ばれちまったものはしょうがない。アタイは帰るよ。」
「まあ待て。」
「?」
帰ろうと振り向き掛けたサキを轟が呼び止めた。
「折角ここまで来たんだ。見舞いに付き合って行け。」
「は?」
予想外の台詞にサキは間抜けな声を上げた。
「相手は入院生活で退屈している。客の人数は多い方が喜ぶ。」
「え、おいちょっと・・・」
「こっちだ。」
サキが戸惑うのを無視して轟は歩き出す。
「なんかアタイバカみたい・・・」
そう呟きながらも、サキは轟の後を追った。
503号室 田村真紀
出入り口のプレートにはそう書いてあった。
(あ、結局女じゃないの。しかし個室か・・・金持ちなのかな?)
しかしサキのその邪推は病室に入ると同時に打ち消された。
ベッドに横たわっていたのは、鼻に吸入チューブを付けた、年の頃は10歳かそこらだろう、小学校高学年ぐらいの少女だった。
しかもベッドの周りには透明なビニールのカーテン。知識が無くとも深刻な状態であろう事は容易に想像がつく。
少女は病室に入ってきた轟を見つけると、
「あ、轟君!いらっしゃい!」
と、思ったよりも元気な声を発した。
「あれ?今日はお友達といっしょ?」
轟の肩の向こうにサキの姿を見つけた真紀がその姿を見ようと起き上がりながら訊いた。
「ああ。そこで偶然会ってな。一緒に来てもらった。それより今日は起きても大丈夫なのか?」
「うん!今日は結構調子いいんだ!」
轟の問い掛けに真紀は満面の笑顔で答える。そして轟の図体にほとんど隠れてしまっているサキに声を掛けた。
「真紀です。よろしくお姉さん。お姉さんは?」
「え?・・・ああ、名前かい。サキってんだ。」
「サキさんか・・・なんか喋り方がかっこいい。」
今まで姉御言葉で喋る女性を見たことが無いのだろうか、こんな事を褒められたサキは妙な気分だった。
「それじゃ花を生けて来る。」
轟は花瓶を片手に給湯室へ向かった。取り残された格好のサキは何を話せばいいか解らずただ突っ立っていたが、
そこへ少女の方から話し掛けて来た。
「えーと、サキさんって轟君のコレ?」
と、真紀は小指を立ててませた事を言う。
「たく・・・近頃の子供ってのは・・・そんなんじゃないよ。むしろ敵・・・」
サキはそう言いかけたが、そんな事をこの子に言ってどうする、と思い言葉を飲む。
「いや、ただの知り合いさ。学校違うしね。ひょんな事で知り合って、それからたまに会うぐらいさ。」
「ふーん・・・私はね、轟君ちのお隣さんなんだ。」
「そうなのかい?」
「うん。轟君には入院するまではよく遊んでもらったんだよ。」
「あいつと?あんたが?第三者が見たら、下手すると犯罪者だよそれ・・・」
サキはその光景を想像し、どう見ても事案だろと心の中で突っ込んだ。
「あはは。でもね、優しいんだよ轟君。今でも紙相撲とかで遊んでくれるし。」
紙相撲と聞いてぴくっと反応するサキ。見ればサイドテーブルに土俵がある。
「真紀・・・ちゃん?アタイと勝負してみないかい?これで。」
それはサキなりにこの子を楽しませようと考えての言葉だった。
「え?ほんと?」
「ああ、こう見えてもアタイは強いよ。轟なんかろくに勝てやしないんだから。」
「すごい!やろうやろう!」
そこへ花を生けた花瓶を片手に轟が帰って来た。
「お、紙相撲か。どれ、俺も・・・」
「お前は弱いんだから引っ込んでな。」
「ぐ・・・」
改めて事実を指摘された轟は黙ってしまった。
真紀とサキの勝負はなかなか伯仲したものだったが、やはりサキは強く、ここ一番で真紀はどうしても負けてしまう。
「あーん、やっぱりまけちゃったー。サキさん強いねー・・・はぁ。」
小さなため息。しかし轟は聞き逃さなかった。
「真紀、横になってろ。また呼吸が苦しいんだろ。」
「あ、ううん、大丈夫だから。」
「大丈夫じゃない。いいから横になれ。今看護婦さん連れて来るから。」
「もう、病人扱いするなって言ってるのに・・・病人だけどさ。はあ・・・」
みるみる呼吸が荒くなる真紀。額に汗も浮かんできている。轟は看護婦を呼びに出て行った。
「お、おい。大丈夫か?」
真紀は気丈にVサインを作るが、それは逆に言えば喋るのも辛いという事だ。
「あいつ・・・早くしろよ!・・・てかナースコール使えばよかったんじゃないか!?冷静そうに見えて実は動転してたって事か。」
そう思った所へ看護婦と轟が入ってきた。
「それじゃお願いします。真紀、今日はこれで帰るからな。また今度だ。」
真紀はうんうんと頷きながら、
「サキさんも・・・また来てね。」
辛そうながらも、そうサキに言った。
「ああ・・・また来るよ。」
そして二人は病室を後にした。
ロビーへ向かう廊下でサキは轟に訊ねてみた。
「あの子・・・結構重病なんだろ?なんの病気なんだい?」
そう、深く考えずに。しかしその直後訊ねた事を後悔する事になった。
「・・・・・・・・末期の・・・小児ガンだ。」
彼は少しの逡巡の後、残酷な事実を伝えた。
「!」
「さっきの発作は、抗がん剤の副作用らしい。あんな小さな子が毎日あんな苦しみと戦ってるんだ。」
「そんな・・・助からないのかい?」
「・・・・・」
黙って首を振る轟。
「もうじきホスピスに移るらしい。」
「ホスピスって・・・」
「俺も詳しい事は知らないが、末期のガン患者が出来るだけ苦しまないように処置するための病室らしい・・・終末医療と言うそうだ。つまりは助からない患者が行く所だ。」
「・・・そんな・・・そんな・・・」
「だから、よければ会えるうちは、気が向いたらでいい、お前も見舞ってやってくれないか。幸い真紀も気に入ってくれたようだし。」
「や、やだよ。死ぬと分ってる人相手に冷静でいる自信なんか無いよ・・・」
そう、彼女にとってそれは重過ぎる事実だった。
「そうか・・・分った。無理強いはしない。」
頼みを断られた轟ではあったが、微笑んでそう言った。」
「すまない・・・」
「いいさ。」
そして二人はそのまま無言で病院を出て、門の所で左右に別れた。
一週間後
「あーん、やっぱり強いなー。いつも最終的には私の負け越しじゃない。」
「ふっふっふっ、まだまだだね。」
なんだかんだ言いつつも、あれからサキは毎日見舞いに来ていた。また来るという口約束の手前もあるが、
それよりも自分が来る事で喜んでくれるなら、と。
見舞いをするにあたっては、轟と二つ約束をしていた。一つは自分から病気についての話題を振らない事。
そしてもう一つは絶対に彼女の前で泣かない事・・・
病室に入って既に数時間。轟は時計に目をやって言う。
「お、もうこんな時間じゃないか。おい、そろそろ帰るぞ。」
「えー、もうー?つまんないな。」
真紀はそう言って頬を膨らませる。
「また来るよ。続きはその時にな。」
「でも・・・最近毎日来てくれてるけど、大丈夫?迷惑じゃない?」
「何言ってるんだい。迷惑だったら今日だって来ちゃいないよ。」
「そっか・・・よかった。」
「真紀、次に来る時、何か欲しい物とかあるか?差し入れてやるぞ。」
「ううん、別に無いよ。だってお見舞いに来てくれる事が最高のお土産だもん。」
「そうか・・・わかった。それじゃまたな。」
「うん。バイバイ!」
そう言って手を振る真紀に二人は手を振り返し、病室を後にした。
ロビーへの廊下を歩きながら轟がぽつりと言う。
「頭の下がる思いだ。」
「え?」
「真紀の事だ。自分は重病で命も危うい事はうすうす感付いているはずだ。なのにそんな事はおくびにも出さないどころかああやって人を気遣う事が出来る・・・俺だったらどうかな、と考えてしまう。」
「そうだね・・・偉いよね・・・」
「ああ、強い子だ。」
そう言った所で轟は急に立ち止まった。
「ん?どうしたんだい?」
「すまん、忘れ物だ。ちょっと取って来る。」
病室へ取って返す轟。サキもその後を追った。
そして轟は真紀の病室の前で扉を・・・ノックせずにただ立ち尽くしていた
不審に思ったサキは近付いてみる。すると、
「・・・たくないよお・・・」
真紀の声が聞こえて来た。
「・・・くないよお・・・死にたくないよお・・・・!」
「!」
声からして、どうやら真紀は泣いている。
「轟君に会えなくなるのはやだよ・・・せっかくサキさんとも仲良くなれたのに・・・死ぬのはやだよ・・・・!」
轟はノックし損ねた拳を硬く握り締め、震わせていた。直後、大股でロビーの方へ引き返す。
(真紀ちゃん・・・)
サキもその場を後にして轟の後を追った。
轟はロビーを通り、出入り口を抜け、中庭までやって来た。中庭の中央には大きな木が植わっていた。そして轟はその木の前に立つと、
「俺は!」
そう叫び、右拳で思い切り木の幹を殴った。
「何も解っちゃいなかった!」
もう一発。殴る度に葉がざわざわと音を立てる。
「ちょっと!何やってるんだい!」
その様子を見たサキが駆け寄る。しかし轟は止めなかった。
「何が強い子だ!」
殴る。樹皮がめくれた。
「真紀だって怖いんだ!」
殴る。白木に赤い物が付着する。
「ちょっと・・・止めなよ!」
「俺は・・・俺は!」
「やめなってば!」
再び轟が拳を出した所に、サキが割って入った。
「!」
拳はサキの頬に触れた所で止まった。
「疾風の・・・」
「ふふ、これでアンタに殴られるのは2回目だね。」
彼女はそう言いながら両手で轟の拳を包む。
「アンタは悪くない!アンタが気付いたからってあの子は喜ぶどころか悲しむよ!そういう子だろ?だからアンタはなにも悪くない!こんな風に自分を傷つけたりするもんじゃないよ!」
轟の目を見据え、サキはそう告げた。
「だが俺は・・・自分が許せんのだ・・・」
そう言うと両腕を下ろし、拳を固く握り締め、やや右下に視線を落とす轟。
そんな彼を見たサキは右手を胸元にやり、タイを抜き取った。そして轟の右手を取り、タイを包帯代わりに轟の右手に巻き始めた。
「バカだね・・・でも、そういう所、嫌いじゃないよ。」
「・・・・・・」
「はい、出来た。幸いここは病院だからね。診てもらった方がいいよ。」
「いや、このぐらい大丈夫だ。・・・すまない。洗って返す。」
タイが巻かれた右拳を見ながら轟は詫びた。
「いいよ、そんなもん。」
「そういう訳にはいかんだろう・・・ともあれ、ありがとう。少し気が楽になった。」
「そうかい・・・まあ、診てもらわないにしても、それ、返してきた方がいいんじゃないか?」
サキはそう言って轟の足元を示す。
「え?」
轟は病院のスリッパを履いていた。この病院は土足でもいいのだが、轟は下駄履き。病院内でカラコロと下駄を鳴らす訳にも
いかないので毎回借りているのだ。
「い、いかん!返して来る!」
そう言って病棟へ走って行く轟。サキは目を細めてそんな轟を見送った。
数日後
今日も真紀を見舞うサキ。しかし今日は轟が所用で来られず、サキ一人での見舞いだった。
そしていつもの紙相撲がひと段落した所で真紀が唐突に切り出した。
「ね?サキさん、サキさん轟君の事好きでしょ?」
「だからそんな事は無いって・・・」
「でも、嫌いじゃないよね?」
「まあ・・・そりゃ・・・」
「じゃあ、私がいなくなったら轟君の事よろしくね。」
「・・・・・ちょっと!縁起でもない事言うんじゃないよ!」
サキは真紀の言葉に思わずその手を掴んだ。
「いいんだ。知ってるから、私。もう助からないって。」
「真紀ちゃん・・・」
「だから、ね。その時が来たら轟君に伝えて欲しいんだ・・・」
「・・・なんだい?言ってみな。」
涙が滲んだ目でサキが訊ねる。
「あのね・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・わかったよ。必ず伝えるから。」
「うん。サキさんがいてくれて良かった。こんな事親にも頼めないし、今直接言ったりしたら轟君も困ると思うし。」
「アンタって子は・・・」
思わず泣きそうになるが、今この子の前で泣く訳にはいかない。轟との約束がある。サキはそう思ってなんとか踏みとどまった。
「それじゃ、今日はこれで帰るから。またな。」
「うん、またね!」
サキはドアを開け廊下へ出る。そして、口を右手で覆うとそのまま小走りで廊下の突き当りまで行き、壁に背中を預け呟いた。
「酷いよ神様・・・!あの子助けてやってよ・・・!」
その頬は既に涙でぐしょ濡れになっていた。
12月某日。サキの部屋、夕刻。
真紀がホスピスに移ってから既に十数日を数えていた。
今までの病院にはホスピスの施設が無いので、真紀は別の、施設がある病院に転院という形になっていた。
しかしその病院は少々遠く、気軽に見舞いに行ける距離ではなかった。それでもサキは数回、轟と共に見舞いに行っていた。
日を空けて会う真紀は、その度に病状が進行しているのが目に見えて分かり辛かったが、
会う度に自分達に向けてくれる笑顔に報いる為に見舞いは続けていた。
そして、次はいつ会いに行こうか。そんな事を考えながら過ごす日々が続いていた。
そんなある日。
階下で家電(いえでん)が鳴っている。母親が出たらしく、すぐに呼び出し音が止まる。と思う間も無くサキを呼ぶ声が聞こえた。
「サキー、電話よー!轟さんって方から!」
(今、あいつがアタイに電話?)
否応も無く悪い予感がする。サキは飛び降りるように階段を駆け下り受話器を取った。
「もしもし!」
「すまん、疾風の。番号は調べさせてもらった。」
「そんな事はどうでもいいよ!真紀ちゃんの事だろ!」
「ああ・・・」
「・・・おい!」
「今朝方・・・亡くなったそうだ・・・」
轟のものとは思えない、細くかすれた声はそう告げた。
数日後、田村邸。轟とサキは通夜に参列した。
仕事が忙しく、満足に見舞出来なかった真紀の両親は二人に何度も頭を下げ礼の言葉を口にした。
心細かっただろう入院生活が二人のお陰でどれだけ安らぐものになっただろう、と。
そしてその帰り道。
「疾風の、そこまで送っていくぞ。」
「ああ・・・悪いね。」
轟の申し出に今夜ばかりはサキも素直に返した。
途中、通り道になる公園でサキは話がある、と切り出した。そして二人は手近なベンチに腰掛けた。
サキは少しの沈黙の後、口を開いた。
「・・・アンタ、泣かなかったね。アタイとしちゃ、アンタが泣く所見たかったような気もするんだけど。」
「馬鹿言うな!ご両親があんなに気丈に振る舞ってたのに赤の他人が泣いてどうする!」
「あ、ああそう・・・そんなもんかねえ」
サキはその轟の剣幕に不自然さを感じ、更にその不自然の正体もすぐに見抜いた。これは痩せ我慢だ、と。
「それより疾風の、済まなかったな。見舞いに誘ったりしなきゃこんな辛い思いしないでも・・・」
「今更ふざけた事言ってんじゃないよ。むしろ感謝してるぐらいさ。あんないい子に会わせてくれてさ。」
「そうか・・・済まない。」
「だから謝るんじゃないよ・・・てか話ってのはね、真紀ちゃんからあんたに言伝(ことづて)預かってるんだ。」
「言伝?」
「ああ・・・言ったまま伝えるからね。よく聞きな。」
サキは一呼吸置いてから話し始めた。
「轟君、私は轟君が大好きです。大人になったら轟君のお嫁さんになりたいです。
でもそれはもう無理みたいです。だから代わりにこの子をもらって下さい。」
そう言ってサキは胸ポケットから二つ折りにした紙を取り出した。
・・・それは真紀の紙力士だった。轟はそれを受け取って見詰めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くっ。」
こみ上げてくる感情を必死で堪える轟。それはサキにも見て取れた。
「・・・泣いてあげなよ。」
「・・・・・」
「泣いてあげなよ。あの子のためにさ。」
「うっ・・・」
「恥ずかしい事じゃないさ。他人(ひと)のために泣く事は。」
「うっ・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
轟は自分の膝に突っ伏して、大声を上げて泣き出した。
サキはそんな轟の背中に手を当ててやる。
(真紀ちゃん・・・あんた男見る目あったよ。本当に。)
滲む視界に轟を収めながら、サキはそう心の中で呟いた。
翌日。河川敷。
いつものように昼寝している轟。そこへサキがやって来た。そしていつも通りの台詞を口にする。
「轟!勝負しな!」
「し、疾風の・・・お前、昨日の今日で・・・」
「やかましい。アタイは真紀ちゃんにアンタの事をよろしく頼むって言われたんだ。」
「よろしくって、それ意味が違わないか・・・?」
「黙りな!受けるのかい?受けないのかい?」
「・・・紙相撲、だよな。」
「・・・・・・・もちろんさ!」
(ありがとう、疾風の。)
轟は小声でそうつぶやくと、懐の紙力士に手を当て、立ち上がった。
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