No.824768

真 恋姫無双 もう一人の大剣 3話

チェンジさん

チェンジです。
私は三国志に全くと言っていいほど、無関心です。
史実にのっとって書くことができないです。

2016-01-13 15:21:40 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2264   閲覧ユーザー数:2071

 

「建業か・・・」

 

炎が立つは建業の門前。

 

「お前も疲れたな」

 

秋蘭に用意してもらった馬を撫でる。

 

炎は建業の門兵に軽く会釈する。

 

門兵もそれを見て会釈で返す。

 

「・・・・・・」

 

炎は感覚的に門兵の実力を推し測る。

 

「華琳もそうだったが、ここの兵もかなりの練度だ」

 

練度の高い兵を見て、警戒を上げる。

 

同時にここの主たる将達に尊敬の念を抱く。

 

唐突に気の抜けた腹の音が鳴る。

 

近くで聞いた人間は皆、炎を見てクスクスと笑う。

 

「・・・・・とにかく宿だ。飯だ」

 

宿は確保し、馬も預けてもらった。

 

後はこの空腹だけ。

 

だがなかなか店が決まらない。

 

好みのものが見つからない。

 

首を左右に振りながら、歩いているとある一軒の店。

 

「・・・ここにするか」

 

ただの料理店だけど、炎にはどこか惹きつけられるものを感じた。

 

店に入ろうと扉に手をかけた。

 

その途端扉が勝手に開き、炎の手が扉から離される。

 

「あら、ごめんなさい」

 

「いや、こちらこそすまない」

 

桃色の髪に、高価な服装、腰に差す剣。

 

到底ただの一般人とは思えない女性だった。

 

そして何より、炎と出会ったときに周りの空気の温度が軽く下がった。

 

恐ろしい殺気。

 

「(ここの王族といったところか・・・しかも一人、どこかに潜んでる。かなりの実力だ)」

 

店主の迎えの言葉を耳にし、中に入り、料理をごちそうになった。

 

炎の予想は的中。

 

行列ができるというほどではないが、客足は上々。

 

店の雰囲気もあり、味もよし。

 

さっきの高貴な人物が足を運ぶだけの店はある。

 

「だが、味わったことのあるような・・」

 

そんな感覚が拭えなかった。

 

また炎にとって外食は久しいことだった。

 

華琳、秋蘭が常に腕を振るってくれていたからだ。

 

たまに春蘭の手料理が混ざるときがあったが。

 

久々の外食は炎の気分を盛り上げさせた。

 

満腹になった腹を撫でながら、城へと向かう。

 

「さて、どう入るか」

 

勿論、許しを得て城門から入ることが通常。

 

ここ建業には交友のある奴がいる。

 

そいつを通せば、この城に入ることも容易だろう。

 

「だが、つまらないな」

 

そう考えながら、城をぐるっと一周。

 

流石に大きく、栄えている街である。

 

警備が尋常じゃない。

 

「お、あそこだけ警備が薄そうだな。行きますか」

 

 

「蓮華様」

 

「どうしたの?思春」

 

「獲物が罠に」

 

「それは本当?姉さまや皆に知らせなくちゃ」

 

数日前から建業では、城の中に限り将達の私物が盗まれる事件が多発している。

 

私物といえど、装飾品などの高貴なものばかり盗まれる。

 

警備は厳重だ。

 

外部からの侵入者という可能性は低い。

 

となると当然城内の者の犯行となるのだが。

 

蓮華達、将は論外。

 

兵士は数が多く、一人一人尋問する時間もない。

 

侍女達に話を聞いても知っている者は誰一人いない。

 

さらに、身内を疑ってそれが濡れ衣だとしたら兵たちの評価や士気に影響を与える。

 

風評がたっても面倒だ。

 

目撃者もなし。

 

完全にお手上げ状態だ。

 

「蓮華様」

 

「冥琳。犯人のことを聞いてきたの?」

 

「もうこの城内にそのことを知らない者はいませんよ」

 

「ふふ、確かにそうね。冥琳、力を貸してね」

 

「御意」

 

「でも私達じゃかえって足を引っ張ってしまうんじゃ」

 

「おや隠、本はもういいのか?」

 

「うー、冥琳様の鬼。」

 

まだ隠頬がほんのり赤い。

 

「失礼な。弟子の身を案じているのがわかないか?」

 

苦肉の策として用意させたのが侵入者用に仕立てた罠。

 

警備の薄さを狙った侵入者を捕らえるためだ。

 

「こそこそ入ってくる人ですからね。武自体はそんなに大したものじゃないと思います。思春ちゃんで十分でしょう」

 

「そうね。念のために明命も呼んでおきましょう」

 

「わかりました」

 

「御意」

 

呉の主力を着実に集め始める。

 

泥棒一人を相手にいつまでも時間を割くわけにもいかない。

 

「私は姉様と母様を探してきます」

 

数分前、雪蓮が庭で炎蓮に稽古をつけてもらうと言っていたことを思い出した。

 

蓮華は速足で庭へと向かう。

 

だが庭には地面にうつ伏せに倒れている雪蓮と、それを踏みつけてる炎蓮がいた。

 

「おらおらもう終わりか?全く、こんなんが小覇王って呼ばれてるんだから、世も末だな。あ?」

 

雪蓮に興味をなくし、炎蓮は視線を蓮華に向ける。

 

「おお!蓮華!あ?ああ、これか。気にすんな。雪蓮の成れの果てだ」

 

「母様、加減も程ほどに。姉様の体が耐えられないですよ」

 

「加減?バカ野郎、そんなことして何になる?それにそうも言ってられねえよ。こいつ、確実に上げてきてやがる」

 

物心ついた頃から剣を握らされた雪蓮だが、幾度となる炎蓮との稽古、仕合、賊討伐。

 

多くの経験を経て、その武をして小覇王という名がちらほらと。

 

炎蓮は雪蓮の背中に腰かける。

 

「で、何の用だ?蓮華」

 

「はい、実は」

 

「ああ、そうか。コソ泥か。とうとう蓮華の下着を盗む奴を捕らえられる。やっと蓮華は安心して寝られるってわけだ」

 

「母様!下着なんて盗まれてません!装飾です!装飾!」

 

「ったくうるせーな。三姉妹いてそんなことで顔を染めるのはお前ぐらいだよ。毎日小蓮や雪蓮の相手をしてるんだからいい加減慣れろ」

 

「そんなものに慣れたくありません!」

 

「わかったわかった。コソ泥だろ?思春と明命がいりゃ足りるだろう。さっさと行け。あたしは酒を飲む」

 

早くいけと手で指示する。

 

「分かりました!失礼します!」

 

怒って去っていく蓮華。

 

蓮華が去ったのを見送ってから炎蓮は酒を口に運ぶ。

 

一升の酒を一気に飲み干す。

 

「っぷはー!美味い!ふん。蓮華の奴色気づきやがって・・・・しかし、このコソ泥・・・つえーな」

 

眼光を鋭くし、侵入した泥棒に対し、警戒する。

 

倒れている雪蓮に視線を移す。

 

「こいつも使い物にならねえ。祭の奴も朝から見ねえな・・・・・しかたがねえ。あたしが行くか」

 

残りの酒を飲み干し、空になった酒瓶を南海覇王で切り落とす。

 

「さあ、たのしませてもらうぜ。コソ泥さんよ」

 

 

当のコソ泥本人はというと。

 

「くそ!この!届け!」

 

まんまと罠にかかったコソ泥炎は足に縄をかけられ、逆さ吊り。

 

開いていた窓から部屋に入った途端罠が作動。

 

天井に設置されている金具に縄を縛り、炎の足まで伸びている。

 

背に負った大剣は逆さになった瞬間、重力によって引きつけられ床に落ちた。

 

吊られた状態から手を伸ばし、剣を掴もうと努力するが、あと少しのところで届かない。

 

「なんてこった。警備が薄かったのは罠だったのか。正面から堂々と入ればよかった」

 

最終的にはあいつがどうにかしてくれるとは思うが・・

 

他人任せは常に不安がぬぐえない。

 

酒に溺れている友人を容易に想像できてしまう。

 

自分の力で切り抜けるしかない。

 

縄を切るには下に落ちた大剣が必要だ。

 

もがきながら剣を手に取ろうと必死に手を伸ばす。

 

「あと・・・もうちょい・・わっ!」

 

剣との距離が突然近くなり、頭から床に落ちる。

 

「いったー!何だよ一体!・・・はは〜ん」

 

頭をさすりながら、天井を見上げる。

 

天井に一点の凹みがある。

 

天井から床へ視線を移すとさっきまで天井にあった金具が転がっている。

 

元々、尋問用として用意された一昔前の部屋だったのだろう。

 

「よくよく見りゃこの部屋ボロボロじゃねえか。罠を張る場所を間違えたな。それじゃ今度こそ、お邪魔しま~す」

 

 

数十秒後。

 

「あの部屋を出た途端これだ」

 

炎は何十人もの呉兵に追いかけ回されていた。

 

「しつこい・・・いつまで逃げ回らなきゃならん」

 

埒があかない。

 

そう考えた炎は、後ろを向き立ち止まる。

 

兵達と向き合い、中腰で構える。

 

「逃げるのはやめだ。相手してやるよ。坊ちゃん達」

 

炎がそう言うと兵達は立ち止まり、徐々に後ろに下がり始めた。

 

「?」

 

顔に浮かぶ表情は恐怖。

 

炎は自分に対しての恐怖かと思ったが、彼らから浮かぶ表情からはそう読み取れなかった。

 

「おいおい、遠慮はいらんぞ。かかってこいや!」

 

「ではそうさせてもらおう」

 

背後からの短い声。

 

周りの空気が凍りつき、気温が下がる。

 

刺すような悪寒が炎に襲い身体が身震いする。

 

「(この殺気知ってるぞ!さっき店の前で感じた!やばい!)」

 

反射的にしゃがみ込む。

 

頭の上部に感覚が走る。

 

髪の一部が切られたのだ。

 

前に飛び込み、一度前転。

 

後ろを向くとそこには曲刀を横に振り終わっていた甘寧。

 

炎の黒髪が甘寧の足元に舞い落ちる。

 

炎はしゃがみ込んだ状態で自分の首があることを右手で触れ確認する。

 

反応が遅れたら、首が飛んでいた。

 

死の恐怖を久方ぶりに思い出した。

 

長く戦場から遠ざかった所為か。

 

炎の野生としての勘が鈍っている。

 

その勘によって、首が飛ぶという最悪の事態は避けられたわけだが。

 

汗がどっとながれる。

 

気持ち悪い。

 

炎はこの時、甘寧を見てはいなかった。

 

甘寧を下に見ていたわけではない。

 

気配を消して炎に背後に忍び寄れる能力の高さは賞賛。

 

尊敬してこそすれナメるなんてとんでもない。

 

そんな甘寧よりも甘寧の下に落ちてる物質を炎は注視していた。

 

「(ま・・・まさか)」

 

炎は恐る恐る頭の頂点付近の髪を両手で探る。

 

「(ほっ・・・ある。・・・!!)」

 

髪の一部が他の髪よりも明らかに長さが短くなっていることに気づいた。

 

炎は怒っていた。

 

「てめえ、ふんどし女。よくも・・・覚悟できてんだろうな」

 


 
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